特許第6348084号(P6348084)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6348084
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】垂直キャビティ表面発光レーザ
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/343 20060101AFI20180618BHJP
   H01S 5/183 20060101ALI20180618BHJP
【FI】
   H01S5/343
   H01S5/183
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-92896(P2015-92896)
(22)【出願日】2015年4月30日
(65)【公開番号】特開2016-178271(P2016-178271A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2016年5月2日
(31)【優先権主張番号】201510124564.0
(32)【優先日】2015年3月20日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】500393893
【氏名又は名称】新科實業有限公司
【氏名又は名称原語表記】SAE Magnetics(H.K.)Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100117558
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 和之
(72)【発明者】
【氏名】パドゥラァパルティ バブ ダヤル
【審査官】 高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−194561(JP,A)
【文献】 特開2007−049144(JP,A)
【文献】 特開2003−101149(JP,A)
【文献】 特開2014−027160(JP,A)
【文献】 特開2005−019804(JP,A)
【文献】 特開平02−130988(JP,A)
【文献】 特開2007−273817(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0017835(US,A1)
【文献】 特開2014−060384(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0198817(US,A1)
【文献】 特開2015−079903(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00−5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長がおよそ850nmのレーザ光を出射する垂直キャビティ表面発光レーザであって、
該垂直キャビティ表面発光レーザは、GaAs基板と、該GaAs基板の下部に形成されている底部電極層と、該GaAs基板の該底部電極層と対向する上側に形成され、かつ該底部電極層と接続されている上側電極層と、該基板上に積層されている活性領域と、該活性領域を挟み込む底部反射鏡および頂部反射鏡と、該頂部反射鏡上に形成されている頂部電極層とを有し、
前記活性領域は、InGa1−xAsからなる2以上の量子井戸と、GaAs1−yからなり、該量子井戸に接続されている3以上のバリア層とを有し、
該量子井戸およびバリア層における前記x、yについて、該xが0.05から0.1の範囲内にあり、該yが0.2から0.29の範囲内にあり、
前記活性領域と前記頂部反射鏡との間に2つの位相整合層が形成され、
該2つの位相整合層の間に、電流閉じ込め構造をもたらす環状酸化層が中央に配置されている電流制限・閉じ込め層が形成され、該2つの位相整合層が接することなく離れて配置されている垂直キャビティ表面発光レーザ。
【請求項2】
前記活性領域が、前記バリア層に隣接して形成された分離閉じ込めヘテロ構造層を有し、該分離閉じ込めヘテロ構造層がAlGaAsから形成されている請求項1記載の垂直キャビティ表面発光レーザ。
【請求項3】
前記分離閉じ込めヘテロ構造層が連続した傾斜路として形成されている請求項2記載の垂直キャビティ表面発光レーザ。
【請求項4】
前記量子井戸およびバリア層が3nmから5nmの範囲の厚さを有する請求項1〜3のいずれか一項記載の垂直キャビティ表面発光レーザ。
【請求項5】
GaAs、AlGaAsまたはInGaAsによって前記頂部電極層と前記頂部反射鏡との間に形成されているp形コンタクト層と、前記基板と前記底部反射鏡との間に形成されている底部コンタクト層とを更に有する請求項1〜4のいずれか一項記載の垂直キャビティ表面発光レーザ。
【請求項6】
メサ構造と、パッシベーション層とを更に有し、該パッシベーション層がシリコン窒素酸化物若しくはポリマーからなるか、または該シリコン窒素酸化物およびポリマーからなり、前記メサ構造の外側表面を覆うように形成されている請求項1〜5のいずれか一項記載の垂直キャビティ表面発光レーザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直キャビティ表面発光レーザ、特に、波長がおよそ850nmのレーザ光を出射し、量子井戸およびバリア層を備えた信頼性の高い垂直キャビティ表面発光レーザに関する。
【背景技術】
【0002】
垂直キャビティ表面発光レーザ(Vertical Cavity Surface Emitting Laser、VCSELともいう)は、基板に関して垂直の方向にレーザ光を出射する半導体レーザである。一般に、VCSELは、大きな利得を備えた活性領域、低い閾値電流、高い光出力と信頼性、適切に制御された分極とを備えている。VCSELは、へき開のプロセスを必要としないため、ウェハ上で試験が行えるよう、同じ基板上に多数の素子を2次元状に配列する集積化が可能である。VCSELは、画像形成装置のレーザ光源や、光ピックアップデバイスのレーザ光源、コンピュータ同士を光で結ぶ光インターコネクトおける光データ通信の送信器および光学モジュールといった様々な消費材への応用で利用されている。
【0003】
VCSELの活性領域は、2つの半導体多層反射鏡(各反射鏡は、例えば、分布ブラッグ反射鏡(Distributed Bragg Reflector)、DBRともいう)の間に配置されている。この活性領域は、電子と正孔とが結合してレーザ光を発生する領域である。活性領域は、低い閾値電流と、選択された出射波長に応じた高い効率および優れた柔軟性を備えた光量子デバイスをもたらす量子井戸構造を有している。
【0004】
量子井戸構造には少なくとも一つの量子井戸が含まれている。量子井戸は、2つのバリア層に挟まれている。量子井戸は、およそ1ナノメータから10ナノメータの範囲の厚さを有している。バリア層は、概して量子井戸よりも大きい厚さを有している。量子井戸構造を構成している層の半導体材料は、光量子デバイスの所望の出射波長に依存している。バリア層の半導体材料は、量子井戸の半導体材料とは異なり、量子井戸よりも、大きなバンドギャップエネルギーおよび低い屈折率を有している。
【0005】
そして、従来、n個(n>1)の量子井戸を有する多重量子井戸構造を備えたVCSELが知られている。多重量子井戸構造の場合、各量子井戸は、その個数に対応した個数(n+1)のバリア層に挟まれている。
【0006】
特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4には、このような多重量子井戸構造を備えたVCSELが開示されている。特許文献1には、活性領域に痕跡量のアルミニウムが含まれているVCSELが開示されている。また、特許文献2、特許文献3に開示されているVCSELでは、複数の量子井戸およびバリア層を有し、界面トラップの形成を回避するため、両者の間には遷移層が形成されている。特許文献4には、反射鏡を覆う保護膜について、その中央領域よりも周辺領域の反射率を高くしてレーザ光を集光しやすくしているVCSELが開示されている。また、特許文献4には、そのようなVCSELの一例として、ガリウムヒ素(GaAs)からなる量子井戸と、アルミニウム・ガリウムヒ素(AlGaAs)からなる第1、第2のバリア層とを有し、波長が850nmのレーザ光を出射するVCSELが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許公開2014/0198817A1
【特許文献2】特表2014−508425号公報
【特許文献3】特表2014−512092号公報
【特許文献4】特開2014−199897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そして、従来、波長がおよそ850nmのレーザ光を出射するVCSELの活性領域として、図7に示される量子井戸構造が提案されている。この量子井戸構造は、ガリウム・ヒ素(GaAs)からなる量子井戸16と、アルミニウム・ガリウム・ヒ素(AlGaAs)からなる第1、第2のバリア層141,142とによって構成されている。図7は、そのような量子井戸構造が組み込まれている典型的な活性領域10のエネルギーバンド図を示している。縦軸にバンドエネルギー(Band energy)が示され、横軸には基板からの距離(Distance from substrate)が示されている。図示のとおり、活性領域10は、第1のクラッド層121と、AlGaAsからなる第1のバリア層141と、GaAsからなる量子井戸16と、AlGaAsからなる第2のバリア層142と、第2のクラッド層122とを有している。図7のエネルギーバンド図は、各層それぞれにおける半導体材料の導電帯(Conduction band)101および価電子帯(Valence band)102のエネルギーを示している。
【0009】
活性領域10は、AlGaAsからなる第1、第2のバリア層141,142と、GaAsからなる量子井戸16とで構成されるタイプI(Type I)のヘテロ構造を有している。このヘテロ構造では、GaAsからなる量子井戸16の価電子帯のエネルギーが、AlGaAsからなる第1、第2のバリア層141,142の価電子帯のエネルギーよりも大きい。しかし、GaAsからなる量子井戸16における導電帯のエネルギーは、AlGaAsからなる第1、第2のバリア層141,142における導電帯のエネルギーよりも小さい。
【0010】
タイプIのヘテロ構造を有する量子井戸構造では、各バンドエネルギーによって、電子156が量子井戸16の導電帯101に閉じ込められ、正孔158が量子井戸16の価電子帯102に閉じ込められている。その結果として、同じ層の中に閉じ込められているキャリア同士の間で電子・正孔の再結合プロセスが起こる。
【0011】
しかしながら、GaAsの量子井戸16と、AlGaAsの第1、第2のバリア層141,142とのバンドギャップの値が固定されており、導電帯101と価電子帯102のそれぞれにおいて、量子井戸16と第1、第2のバリア層141,142との不連続性の大きさ(エネルギー準位の差の大きさ)が小さい。そのため、図8に示されているように、量子井戸16において、量子井戸16から第1、第2のバリア層141,142にキャリアが渡るキャリア漏洩が発生する。このことで、活性領域10における光の閉じ込めの低下といった性能の低下をもたらし、高温での動作性能も低下する。また、VCSELの信頼できる特性が低下し、これが内部の自己発熱効果による製品寿命の低下を引き起こす。
【0012】
しかも、上記特許文献1〜特許文献4に開示されているVCSELのように、活性領域にアルミニウムが含まれているときは、そのアルミニウムを取り巻く水分/湿気によってバリア層や量子井戸などが酸化されやすいという課題があった。この場合、そのような水分/湿気によって、VCSELの製品寿命を更に低下させる欠損や転移が形成されてしまう。
【0013】
このように、従来、前述した課題を克服するため、光の閉じ込めと伝送速度が向上し、高温での動作性能、信頼できる特性および長期の製品寿命を備えるように改良されたVCSELが求められていた。
【0014】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、光の閉じ込めと伝送速度が向上し、高温での動作性能、信頼できる特性および長期の製品寿命を備えるように改良されたVCSELを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するため、本発明は、波長がおよそ850nmのレーザ光を出射する垂直キャビティ表面発光レーザであって、その垂直キャビティ表面発光レーザは、GaAs基板と、そのGaAs基板の下部に形成されている底部電極層と、そのGaAs基板のその底部電極層と対向する上側に形成され、かつその底部電極層と接続されている上側電極層と、その基板上に積層されている活性領域と、その活性領域を挟み込む底部反射鏡および頂部反射鏡と、その頂部反射鏡上に形成されている頂部電極層とを有し、活性領域は、InGa1−xAsからなる2以上の量子井戸と、GaAs1−yからなり、その量子井戸に接続されている3以上のバリア層とを有し、その量子井戸およびバリア層におけるx、yについて、そのxが0.05から0.1の範囲内にあり、そのyが0.2から0.29の範囲内にあり、活性領域と頂部反射鏡との間に2つの位相整合層が形成され、その2つの位相整合層の間に、電流閉じ込め構造をもたらす環状酸化層が中央に配置されている電流制限・閉じ込め層が形成され、その2つの位相整合層が接することなく離れて配置されている垂直キャビティ表面発光レーザを特徴とする。
【0016】
上記垂直キャビティ表面発光レーザにおいて、活性領域が、バリア層に隣接して形成された分離閉じ込めヘテロ構造層を有し、その分離閉じ込めヘテロ構造層がAlGaAsから形成されていることが好ましい。
【0017】
好ましくは、分離閉じ込めヘテロ構造層が連続した傾斜路として形成されている。
【0018】
また、好ましくは、量子井戸およびバリア層が3nmから5nmの範囲の厚さを有している。
【0019】
別の実施形態として、およそ850nm波長の開示されているVCSELにおける導電帯と価電子帯と不連続性(ΔEcおよびΔEv)が、850nm波長のGaAsからなる量子井戸とAlGaAsからなるバリア層とを有する従来のVCSELよりも少なくとも数meV大きいことが好ましい。
【0020】
好ましくは、2つのエネルギーバンドの間のバンドギャップ不連続性ΔEcおよびΔEvが、GaAsの量子井戸とAlGaAsのバリア層よりも、それぞれ5〜50meVの範囲内と5〜20meVの範囲内で大きい。
【0021】
上記垂直キャビティ表面発光レーザにおいて、GaAs、AlGaAsまたはInGaAsによって頂部電極層と頂部反射鏡との間に形成されているp形コンタクト層と、基板と底部反射鏡との間に形成されている底部コンタクト層とを更に有することが好ましい。
【0022】
好ましくは、上記垂直キャビティ表面発光レーザがメサ構造と、パッシベーション層とを更に有し、そのパッシベーション層がシリコン窒素酸化物若しくはポリマーからなるか、またはそのシリコン窒素酸化物およびポリマーからなり、メサ構造の外側表面を覆うように形成されている。
【0025】
従来技術と比較して、本発明における活性領域が、GaAsからなる従来の非歪バリア層の代わりに、InGa1−xAsの歪量子井戸とGaAs1−yからなる歪バリア層を適用するように、GaAs1−yからなる本発明にかかるバリア層270によって、キャリア漏洩やオーバフローを防止し、光の閉じ込めの改善および伝送速度の改善をもたらすための高いバンドギャップがもたらされる。また、GaAs1−yのバリア層は耐高温が良好で、半導体レーザ装置の製品寿命の長期化をもたらす。
【発明の効果】
【0028】
以上詳述したように、本発明によれば、光の閉じ込めと伝送速度が向上し、高温での動作性能、信頼できる特性および長期の製品寿命を備えるように改良されたVCSELを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
添付の図面は、本発明における様々な実施の形態の理解を容易にするものである。各図は以下のとおりである。
図1】本発明の実施の形態に係るVCSELの図6における1−1線断面図である。
図2】VCSELの活性領域を構成している各層のエネルギーバンドを簡略化して示した図である。
図3】従来のVCSELと、本発明の実施の形態に係るVCSELとにおけるエネルギーバンドを比較して示した図である。
図4】本発明に係るVCSELの計算されたF−P dip波長を示す図である。
図5】VCSELのF−P dip波長の実験に基づくエピタキシャル/MOCVD成長を示す図である。
図6】本発明の実施の形態に係るVCSELの平面図である。
図7】従来のVCSELにおける活性領域のエネルギーバンド図である。
図8図7の活性領域におけるキャリアの漏洩を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の種々の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、各図を通して、同様の参照符号は同じ要素を指している。上記のように、本発明は、光の閉じ込めと、高い伝送速度、良好な信頼性できる特性、高温での動作性能、長期の製品寿命を備えた改良されたVCSELに関するものである。
【0031】
なお、本発明に係るVCSELは、波長がおよそ850nmのレーザ光を出射し、840nmの波長で光ルミネッセンス出射、846nmにファブリ・ぺロー(FP)dipを有している。
【0032】
図1は、本発明の実施の形態に係るVCSEL200の断面図、図6は同じく平面図である。VCSEL200は、基板201と、基板201上に形成されている底部分布ブラッグ反射鏡(DBR)202および頂部分布ブラッグ反射鏡(DBR)204と、底部DBR202および頂部DBR204に挟まれ、レーザ光を発生する活性領域203とを有している。頂部電極層206が頂部DBR204に電気的に接続されるように形成され、底部電極層207が基板201の下に形成されている。頂部電極層206と、底部電極層207は、活性領域203に電流が流れ、活性領域203がレーザ光を発生するように改良されている。また、頂部DBR204の一部が露出するように、頂部電極層206の内側中央の一部分が開口されている。その開口されている部分が第1の窓部29である。
【0033】
基板201は、ドープされているn形GaAs、ドープされているp形GaAs、またはアンドープのGaAsとしてもよい。本実施の形態では、基板201は、アンドープ(半絶縁性)のGaAsである。底部電極層207は、図1に示すように、基板201の底部に現れるように形成されている。底部電極層207は、電気的に導電性を有する金属によって形成され、基板201とでオーミック接触を形成している。
【0034】
また、底部電極層207は、基板201の上側に出現するように形成された2つの電極層(上側電極層)207a,207bを有している。図1には示されていないが、上側電極層207a,207bは、底部電極層207に接続されている。
【0035】
具体的には、底部DBR202は、n形反射鏡またはp形反射鏡とすることができる。頂部DBR204は、それとは反対の極性を有している。本実施の形態では、底部DBR202は、n形反射鏡であり、頂部DBR204は、p形反射鏡である。一般に、底部DBR202および頂部DBR204は、それぞれ、反射率の異なる層が交互に配置されたIII-Vグループ半導体層の積層体である。底部DBR202および頂部DBR204は、アルミニウムとガリウムのモル比率が異なったAlAs、GaAsまたはAlGaAsのような材料で形成されている。実際には、底部DBR202、頂部DBR204はそれぞれ20組または30組といった層の組を多数有していてもよい。好ましくは、波長が850nmのレーザ光を出射するため、底部DBR202は、Al0.12GA0.88ASと、AL0.9GA0.1AS、AL0.12GA0.88ASと、AlAS層を含むように最適化されている。
【0036】
図2に示すように、活性領域203は、2以上の量子井戸280およびバリア層270を含む多重量子井戸構造を有している。活性領域203は、所定の出射波長を有するレーザ光を発生するように構成されている。後述する所定の材料を用いた本発明の実施の形態に係るVCSEL200において、その850nmの出射波長が高速データ通信に利用される。その他の出射波長は、本発明では適用され得ない。
【0037】
そして、駆動電流が頂部および底部電極層206、207に流されると、その駆動電流は活性領域203を流れ、レーザ光が活性領域203で生成される。そのレーザ光は、頂部DBR204と底部DBR202の間でそれらによって反射されているときに増幅され、VCSEL200の第1の窓部29から垂直に出射される。
【0038】
再び図1を参照すると、VCSEL200は、更に、p形高ドープコンタクト層208と、底部高ドープコンタクト層209とを有している。p形高ドープコンタクト層208は、頂部電極層206と頂部DBR204との間に形成されている。p形高ドープコンタクト層208は、GaAs、AlGaAsまたはInGaAsによって形成されている。底部高ドープコンタクト層209は、底部DBR202と基板201との間に形成されている。
【0039】
より好ましい実施の形態として、VCSEL200には、活性領域203上に酸化部310が形成されている。酸化部310は、少なくとも2つの位相整合層(Phase Matching Layer、PMLともいう)311,312(図面では、位相整合層が2つだけ示されている)と、2つのPML311,312に挟まれた電流制限・閉じ込め層313とを有している。電流制限・閉じ込め層313は、アルミニウムのモル比率が大きい(>98%)、例えば、アルミニウムを含む酸化物を形成するよう湿式熱酸化処理を施された、Al0.98Ga0.02AsまたはAlAs半導体層からなっている。
【0040】
電流制限・閉じ込め層313は、電流が酸化アパーチャ領域314を通って活性領域203の中央に向かうようにすることに用いられる。すなわち、電流制限・閉じ込め層313が使用される場合、電流制限・閉じ込め層313のうちの酸化アパーチャ領域314を除くすべての部分が絶縁されている。酸化アパーチャ領域314は、第1の窓部29の直径程度の直径を有する平面視円形または多角形に形成されている部分であり、電流制限・閉じ込め層313の中央に配置されている。このような電流制限・閉じ込め層313が形成されていることによって、活性領域203を通る電流の大部分が活性領域203の中央に向かって流れる。そのため、レーザ光の大部分は活性領域203の中央部分の範囲内で生成される。よって、VCSEL200における光の閉じ込めが向上する。
【0041】
そして、位相整合層311,312は、それぞれのアルミニウムとガリウムのモル比率が異なるAlGaAs半導体によって形成されている。高速動作を効率的にするため、VCSEL構造は、少なくとも一つの電流制限・閉じ込め層を備えた酸化部を少なくとも一つ含むことができる。付加的な電流制限・閉じ込め層が付加されることによって、メサ容量が減少し、それ故、VCSEL200のバンド幅および伝送速度が増加する。
【0042】
VCSEL200におけるメサ構造では(図面には示されていない)、パッシベーション層として作用する絶縁層がメサ構造の外側側面を覆うように、すなわち、上述した素子の露出している側面層を覆うように形成されている。その絶縁層は、例えば膜厚が1.0μmのシリコン窒素酸化物(SiON)からなっている。上記パッシベーション層(SiON)に加え、5〜10μmの厚さを有するポリイミドまたはBCBコーティングが同時に塗布され、それによってp形およびn形電極パッドの容量がさらに軽減される。その絶縁層は、VCSEL200の層全体を保護するために用いられる。
【0043】
本発明について詳しく述べると次のとおりである。図2に示すように、VCSEL200の活性領域203は、2以上の量子井戸280と、3以上のバリア層270とを有している。量子井戸280と、バリア層270とは、物理的に隣接し、互いに接続されている。また、各量子井戸280とバリア層270とが交互に配置されている。電気的な閉じ込め領域が活性領域203を挟み、活性領域203にキャリアを閉じ込めることによって、光学的な利得効率が得られる。好ましくは、量子井戸280は、InGa1−xAsによって形成され、バリア層270は、GaAs1−yによって形成されている。ここで、InGa1−xAsにおけるxの値は0.05から0.1の範囲にあり、GaAs1−yにおけるyの値は0.2から0.29の範囲にある。図示されている活性領域203では、InGa1−xAsからなる量子井戸280が合計で5つあり、xの値が0.06である。また、GaAs1−yからなるバリア層270が合計で6つあり、yの値が0.25である。バリア層270は、4つの内バリア層と2つの外バリア層とを有している。その2つの外バリア層が4つの内バリア層の外側に配置されている。各外バリア層は、後述するSCH層261,262に接続されている。InGa1−xAsからなる全部で5つの量子井戸280と、GaAs1−yからなる全部で4つのバリア層270は、4nmの厚さを有している。GaAs1−yからなる外側の2つのバリア層270は840nm波長を目標とした出射のため、10.0nmの厚さを有している。
【0044】
本発明の目的の一つは、前述したとおりの高い装置性能を備えた高速データ通信用VCSELのため、歪み補償がなされ、アルミニウムを含まない活性領域を有する光学キャビティを形成することである。なお、1060nm波長で歪み補償がなされたデータ通信用のVCSELであって、In0.29Ga0.71Asからなる5つの圧縮歪量子井戸と、GaAs0.750.25からなる6つの張力歪バリア層とを有し、本発明とは異なる厚さを有するVCSELが報告されている。圧縮歪量子井戸と、張力歪バリア層とに起因する正味の歪みが、歪みの値がほぼ0になるように最適化される。しかし、今まで、InGa1−xAsからなる圧縮歪量子井戸と、GaAs1−yからなる張力歪バリア層とを有し、正味の歪みが0であり、850nm波長での出射を目標としたデータ通信用のVCSELはなかった。本発明にかかる精巧かつ最適化された850nm波長のデータ通信用VCSELにおいて、量子井戸とバリア層は、3nmから5nmの厚さを有することが好ましい。
【0045】
また、同じInGa1−xAsからなる圧縮歪量子井戸と、GaAs1−yからなる張力歪バリア層とを有し、1060nm波長と850nm波長でのダブルヘテロ構造システムを有することも、本発明の目的の一つである。1060nm波長では、標準OM2(optical multi-mode fiber standards)および標準OM3、OM4の光ファイバは、直接用いることができない。また、これらには分散補償ファイバが必要であり、分散補償ファイバは、標準OM2、OM3、OM4ファイバよりも高額である。しかしながら、850nm波長帯では、標準OM2、OM3、OM4ファイバは、分散補償ファイバを用いることなくデータ通信に容易に利用することが可能である。このことには、850nm波長の高性能かつ高伝送速度のVCSELを用いることで得られる多大なる商業的な恩恵がある。
【0046】
図3には、本発明に係る活性領域203と、GaAs量子井戸とAlGaAsバリア層とを備えた従来の850nm波長のVCSELとのエネルギーバンドを比較した図が示されている。図3に示すように、導電帯において、従来の850nm波長のVCSELにおけるAlGaAsからなるバリア層では、エネルギー順位Ec1が与えられ、GaAs1−yからなる本発明に係るバリア層270では、エネルギー順位Ec2が与えられる。エネルギー順位Ec2は、エネルギー順位Ec1よりも大きいが、両者の差の値ΔEcは、5〜50meVかそれよりも大きい範囲にある。価電子帯では、従来の850nm波長VCSELのAlGaAsからなるバリア層は、エネルギー順位Ev1を与え、本発明のGaAs1−yからなるバリア層270は、エネルギー順位Ev1よりも大きいエネルギー順位Ev2を与える。両者の差の値ΔEvは5〜20meVかそれよりも大きい範囲にある。
【0047】
再び図2を参照して、活性領域203は、更に、2以上の分離閉じ込めヘテロ構造(SCH)層261,262と、2つのクラッド層251,252とを有している。SCH層261,262は、それぞれバリア層270に接続されている。また、クラッド層251,252は、量子井戸280、バリア層270およびSCH層261,262を挟み込むように形成されている。詳しくは、SCH層261,262はAlGaAsからなり、クラッド層251,252はp−DBRおよびn−DBRに関してアンドープである。本実施の形態では、SCH層261,262は、連続した傾斜路として形成されている。なお、特許文献2にも開示されているように、SCH層261,262の傾斜路にそって他の物質や移行層は存在していない。
【0048】
図4は、本発明の実施の形態に係るVCSEL200において、レーザ光の出射波長における理論上の計算結果を示した図である。図示のとおり、VCSEL200のF−Pdipにおけるレーザ光の波長は、846.2nmである。この結果は、エピタキシャル成長させたVCSELのF−Pdipの値、すなわち、図5に示されているように、845.5nmの値にかなり近い。このことで、本発明の実施の形態に係る活性領域203を備えたVCSEL200がおよそ850nm波長のレーザ光の出射に適用可能であることが確認される。
【0049】
すなわち、本発明の実施の形態にかかる活性領域203が、GaAsからなる従来の非歪バリア層の代わりに、InGa1−xAsからなる圧縮歪量子井戸280、GaAs1−yからなる張力歪バリア層を適用するように、GaAs1−yからなる本発明にかかるバリア層270によって、キャリア漏洩やオーバフローを防止し、光の閉じ込めの改善および伝送速度の改善をもたらすための高いバンドギャップがもたらされる。また、GaAs1−yからなるバリア層270は高温性能が良好で、半導体レーザ装置の製品寿命の長期化に寄与する。
【0050】
また、VCSEL200における活性領域203がInGa1−xAsの量子井戸と、GaAs1−yのバリア層とからなり、アルミニウムを含まない。従来のVCSELのように、活性領域にアルミニウムが含まれているときは、そのアルミニウムを取り巻く水分/湿気によってバリア層や量子井戸などが酸化され、VCSELの製品寿命が低下しやすいという課題があった。しかし、本発明の実施の形態にかかるVCSEL200は、活性領域にアルミニウムが含まれていないので、従来のVCSELのように、バリア層や量子井戸などが酸化されることがない。したがって、本発明によれば、従来よりも、VCSELの製品寿命を長期化することができる。
【0051】
本発明につき、現時点で最も実用的で好ましい好適な実施の形態に関連して説明したが、本発明は、開示されている実施の形態に限定されることはなく、発明の精神と範囲を逸脱しない範囲において含まれる様々な変形例や均等な改良を包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明を適用することにより、光閉じ込め作用と伝送速度が向上し、高温での動作性能、信頼できる特性および長期の製品寿命を備えるように改良されたVCSELを得ることができる。本発明は、垂直キャビティ表面発光レーザの分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
29…第1の窓部、200…VCSEL、201…基板、202…底部DBR、203…活性領域、204…頂部DBR、206…頂部電極層、207…底部電極層、208…p形高ドープ頂部接触層、209…p形高ドープ底部接触層、251,252…クラッド層、261,262…SCH層、270…バリア層、280…量子井戸、310…酸化部、311,312…位相整合層、313…電流制限・閉じ込め層、314…酸化アパーチャ領域。
図1
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図8