特許第6348091号(P6348091)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6348091
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】ゴキブリ侵入防止用薬剤揮散装置
(51)【国際特許分類】
   A01M 29/12 20110101AFI20180618BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20180618BHJP
   A01N 25/18 20060101ALI20180618BHJP
   A01N 53/02 20060101ALI20180618BHJP
   A01N 53/06 20060101ALI20180618BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20180618BHJP
【FI】
   A01M29/12
   A01N25/00 102
   A01N25/18 102D
   A01N53/00 502A
   A01N53/00 506Z
   A01P17/00
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-182980(P2015-182980)
(22)【出願日】2015年9月16日
(62)【分割の表示】特願2010-231691(P2010-231691)の分割
【原出願日】2010年10月14日
(65)【公開番号】特開2016-26495(P2016-26495A)
(43)【公開日】2016年2月18日
【審査請求日】2015年9月16日
【審判番号】不服2017-2179(P2017-2179/J1)
【審判請求日】2017年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】南手 良裕
(72)【発明者】
【氏名】高橋 敏夫
【合議体】
【審判長】 小野 忠悦
【審判官】 井上 博之
【審判官】 住田 秀弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−65261(JP,A)
【文献】 特開平11−308955(JP,A)
【文献】 特開2001−292681(JP,A)
【文献】 特開2010−132628(JP,A)
【文献】 特開2009−143868(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/89076(WO,A1)
【文献】 特開2005−143429(JP,A)
【文献】 特開2009−268371(JP,A)
【文献】 特開2006−257105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮散性薬剤が担持された薬剤担持体と、
前記薬剤担持体を回転させて、遠心力によって前記揮散性薬剤を空間に揮散させる駆動装置と、を備え、
前記薬剤担持体は、円盤状の立体構造体であり、
前記駆動装置を駆動時間と停止時間の比が1:5〜1:25でかつ1回あたりの駆動時間が1〜5分の条件で間欠的に駆動させ、20m以下の空間中における前記揮散性薬剤の有効薬剤濃度を使用開始から使用終了時点まで安定に保持して、クロゴキブリ、又はチャバネゴキブリのこの空間への侵入を防止し、20日経過後の忌避率が70%以上となるようになしたことを特徴とするゴキブリ侵入防止用薬剤揮散装置。
【請求項2】
前記駆動装置の駆動時間と停止時間の比が1:10〜1:20であることを特徴とする請求項1に記載のゴキブリ侵入防止用薬剤揮散装置。
【請求項3】
前記揮散性薬剤が、ピレスロイド系忌避成分であって、その30℃における蒸気圧が2×10−4〜1×10−2mmHgであることを特徴とする請求項1又は2に記載のゴキブリ侵入防止用薬剤揮散装置。
【請求項4】
前記ピレスロイド系忌避成分がエムペントリンであることを特徴とする請求項3に記載のゴキブリ侵入防止用薬剤揮散装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮散性薬剤が担持された薬剤担持体から遠心力又はファンによる風力によって揮散性薬剤を空間に揮散させる駆動装置を備えたゴキブリ侵入防止用薬剤揮散装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
害虫、例えば蚊やブユなどを駆除するために、薬剤を閉鎖空間(室内や自動車の車内、アウトドアスポーツにおけるテント内など)全体に揮散、放出させる薬剤揮散方法として、熱エネルギーを利用した蚊取線香や電気蚊取マット、液体式電気蚊取(リキッド)が一般的であるが、常温でファン等の風力を利用して薬剤を揮散、放出させる方法も実用化されている。後者の方法は必ずしも交流電源を必要とせず、持ち運びが可能であることから有用であり、本発明者らも特開2001−247406号公報(特許文献1)において、ビーズ状の薬剤含浸体を収納するカートリッジをモーターで回転させ、遠心力によって薬剤を効率的に揮散、放出させる薬剤揮散方法を開示した。
また、特開2006−25655号公報(特許文献2)では、前記ビーズ状の薬剤含浸体の替わりに、三次元方向にメッシュ状を形成している通気層の下側面又は上下両側面に、毛管現象によって薬剤液を保持できる程度の隙間を有する薬剤保持層を設けてなるシート状の薬剤担持体を用いた薬剤揮散装置を提案した。そして、特許文献1及び特許文献2のいずれのタイプにおいても、薬剤の実用的な揮散性能や殺虫効果に優れたものであった。
【0003】
ところで、薬剤担持体にファンによる風を当てて薬剤を揮散させる薬剤揮散装置において、駆動時間と休止時間を交互に設定し、間欠的に薬剤を揮散させて、駆動電源の節約と揮散する薬剤の効率使用を図る試みも提案されている。例えば、特開平11−308955号公報(特許文献3)には、洋服タンスやクローゼットのような収納空間で、送風期間よりも10倍以上長い送風休止期間を設定した薬剤揮散装置を用いる衣料害虫防除方法が記載されている。
一方、特開2001−292681号公報(特許文献4)は、居住空間の蚊等の防除に適用され、停止時間を駆動時間の9倍以下に設定したファン式害虫防除装置を開示する。また、特開2006−257105号公報(特許文献5)においては、エムペントリンを含有するハニカム状の薬剤担持体を取り付けたファン型薬剤揮散装置につき、24mの室内で12時間断続運転を繰り返したところ、運転12時間中のエムペントリン揮散量が10〜20mg/hで、エムペントリン気中濃度が100〜200μg/mであったことが記載されている(この場合、運転休止12時間中にエムペントリン気中濃度は殆どゼロ近くまで低下するものと推測される)。そして、2時間送風、10分間休止の条件であれば、連続運転に匹敵するエムペントリン気中濃度(100〜200μg/m)が得られるとしている。
【0004】
しかしながら、特許文献4又は特許文献5の薬剤揮散装置は、主として蚊等の飛翔害虫の駆除(ノックダウン、致死)を目的としたもので、人が居る空間で高い有効薬剤濃度を8〜12時間単位で保持する必要がある。この場合、有効薬剤濃度を高濃度に設定すれば、効力的には問題ないが安全性の面で支障を生じる恐れが避けられない。
かかる状況下で、ゴキブリのような匍匐害虫を駆除できなくても、部屋に侵入するのを長期間にわたり継続して防止できれば良いといったタイプの製剤を求めるニーズも高まっている。
後者のタイプの製剤、即ち、遠心力やファン等の風力を利用して薬剤を空間に揮散させるゴキブリ侵入防止用薬剤揮散装置を開発するにあたっては、以下の条件、(1)駆除用途と較べると低濃度であっても、適用される空間においてゴキブリ等を寄せ付けない有効薬剤濃度を長期間、例えば数週間にわたり安定して保持できること、(2)薬剤気中濃度は人やペット等に対して安全性の問題を生じないこと、(3)駆動電源の節約のため、駆動時間に較べて休止時間の長い間欠駆動を実現できること、が要請される。
このように、ゴキブリ侵入防止用薬剤揮散装置は、特許文献3ないし特許文献5に記載された薬剤揮散装置とは製品設計や仕様が全く異なるためその技術内容は参考とならず、未だ製品化に至っていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−247406号公報
【特許文献2】特開2006−25655号公報
【特許文献3】特開平11−308955号公報
【特許文献4】特開2001−292681号公報
【特許文献5】特開2006−257105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ゴキブリに代表される匍匐害虫の部屋等への侵入防止を目指した薬剤揮散装置であり、長期間にわたり揮散性薬剤を間欠的に揮散させるにも拘わらず、その周囲の空間において比較的低濃度な有効薬剤濃度を使用期間中安定して保持しゴキブリ等のこの空間への侵入を防止できると共に、人やペットに対する安全性に優れ、しかも駆動電源の節約の点でも有利なゴキブリ侵入防止用薬剤揮散装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成が上記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出したものである。
(1)揮散性薬剤が担持された薬剤担持体と、前記薬剤担持体を回転させて、遠心力によって前記揮散性薬剤を空間に揮散させる駆動装置と、を備え、前記駆動装置を駆動時間と停止時間の比が1:5〜1:25でかつ1回あたりの駆動時間が1〜5分の条件で間欠的に駆動させ、20m以下の空間中における前記揮散性薬剤の有効薬剤濃度を使用開始から使用終了時点まで安定に保持して、ゴキブリのこの空間への侵入を防止し、20日経過後の忌避率が70%以上となるようになしたゴキブリ侵入防止用薬剤揮散装置。
(2)前記駆動装置の駆動時間と停止時間の比が1:10〜1:20である(1)に記載のゴキブリ侵入防止用薬剤揮散装置。
(3)前記揮散性薬剤が、ピレスロイド系忌避成分であって、その30℃における蒸気圧が2×10−4〜1×10−2mmHgである(1)又は(2)に記載のゴキブリ侵入防止用薬剤揮散装置。
(4)前記ピレスロイド系忌避成分がエムペントリンである(3)に記載のゴキブリ侵入防止用薬剤揮散装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明のゴキブリ侵入防止用薬剤揮散装置は、長期間にわたり揮散性薬剤を間欠的に揮散させるにも拘わらず、その周囲の空間において比較的低濃度な有効薬剤濃度を使用期間中安定して保持しゴキブリ等のこの空間への侵入を防止できると共に、人やペットに対する安全性に優れ、しかも駆動電源の節約の点でも有利なので、その実用性は極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明で用いられる揮散性薬剤としては、揮散性に優れた忌避成分、抗菌成分、防虫香料等があげられる。忌避成分としては、エムペントリンや一般式(I)
【化1】
(式中、Xは水素原子又はメチル基を表す。Xが水素原子の時、Yはビニル基、1−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、2,2−ジクロロビニル基、2,2−ジフルオロビニル基又は2−クロロ−2−トリフルオロメチルビニル基を表し、Xがメチル基の時、Yはメチル基を表す。また、Zは水素原子、フッ素原子、メチル基、メトキシメチル基又はプロパルギル基を表す)で表されるフッ素置換ベンジルアルコールエステル化合物から選ばれた常温揮散性のピレスロイド系忌避成分が好適である。これらの化合物は、その30℃における蒸気圧が2×10−4〜1×10−2mmHgであって、従来のアレスリン及びプラレトリンに比べて蒸気圧が高い。蚊、ハエ、ブユ、ユスリカなどの害虫に対する殺虫効力に優れているため、通常、ピレスロイド系殺虫剤と称されているが、ゴキブリ等の匍匐害虫に対する忌避効力にも優れている。なお、化合物の酸成分において、不斉炭素に基づく光学異性体や幾何異性体が存在する場合、それらの各々や任意の混合物も本発明に包含されることはもちろんである。
【0010】
一般式(I)で表される化合物の具体例としては、2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−2,2−ジメチル−3−(2,2−ジクロロビニル)シクロプロパンカルボキシレート(以後、トランスフルトリンと称す)、4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−2,2−ジメチル−3−(1−プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート(以後、プロフルトリンと称す)、4−メトキシメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−2,2−ジメチル−3−(1−プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート(以後、メトフルトリンと称す)、2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−クリサンテマート(以後、化合物Aと称す)、2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−2,2−ジメチル−3−(1−プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート(以後、化合物Bと称す)、4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−クリサンテマート(以後、化合物Cと称す)、4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−2,2−ジメチル−3−(2,2−ジフルオロビニル)シクロプロパンカルボキシレート(以後、化合物Dと称す)、4−メトキシメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−クリサンテマート(以後、化合物Eと称す)、2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンジル−2,2−ジメチル−3−(2−クロロ−2−トリフルオロメチルビニル)シクロプロパンカルボキシレート(以後、化合物Fと称す)、4−プロパルギル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−2,2−ジメチル−3−(1−プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート(以後、化合物Gと称す)、4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−2,2−ジメチル−3−ビニルシクロプロパンカルボキシレート(以後、化合物Hと称す)、2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−2,2,3,3−テトラメチルシクロプロパンカルボキシレート(以後、化合物Iと称す)、又は4−メトキシメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−2,2,3,3−テトラメチルシクロプロパンカルボキシレート(以後、化合物Jと称す)をあげることができる。
上記化合物のなかでは、エムペントリンが性能的に好ましい。
【0011】
他の揮散性薬剤としては、例えば、ディート、p−メンタン−3,8−ジオール、ジメチルフタレート、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール等の忌避成分、ヒノキチオール、テトラヒドロリナロール、オイゲノール、アリルイソチオシアネート等の抗菌成分、シトロネラ油、オレンジ油、レモン油、ライム油、ユズ油、ラベンダー油、ペパーミント油、ユーカリ油、ジャスミン油、檜油、緑茶精油、リモネン、α−ピネン、シトロネラール、テルピネオール、リナロール、ゲラニオール、フェニルエチルアルコール、アミルシンナミックアルデヒド、クミンアルデヒド、ベンジルアセテート等の防虫香料等があげられる。
また、前記成分に加え、殺虫成分、消臭成分、芳香成分、例えば、「緑の香り」と呼ばれる青葉アルコールや青葉アルデヒド配合の香料成分などを適宜配合しても構わない。
【0012】
本発明のゴキブリ侵入防止用薬剤揮散装置は、長期間にわたり揮散性薬剤を間欠的に揮散させるにも拘わらず、その周囲の空間において比較的低濃度な有効薬剤濃度を使用期間中安定して保持し、ゴキブリ等のこの空間への侵入を防止できるようになしたことに特徴を有する。
ところで、従来の間欠式薬剤揮散装置としては、特開平11−308955号公報(特許文献3)に開示されている如く、洋服タンスやクローゼットのような収納空間で、送風期間よりも10倍以上長い送風休止期間を設定した薬剤揮散装置がある。特許文献3は、12時間おきに5分間運転する具体例(駆動時間と停止時間の比が1:144)を示しているが、これは洋服タンスやクローゼットのような密閉性の高い小空間では、一旦小空間の薬剤濃度を高めておけば停止時間を長くしても薬剤濃度の低下が小さいためである。
【0013】
一方、特開2001−292681号公報(特許文献4)に記載されているように、居住空間の蚊等の防除に適用され、停止時間を駆動時間の9倍以下に設定したファン式害虫防除装置等も知られている。特許文献4の場合、25m程度の居住空間で蚊駆除用に使用するため、停止時間を駆動時間の9倍以下に設定して有効薬剤濃度の低下を補うことを発明の趣旨とする。そして、明細書の段落[0017]において、「・・・1時間駆動し2時間停止したり、または10分駆動し30分停止したり、30秒駆動し20秒停止したりしても良い。」と記載しているように、駆動時間が10分以内の場合は、有効薬剤濃度を確保するうえで、駆動時間と停止時間の比を更に小さく(1:3以下)設定する必要性を示している。
【0014】
更に、特開2006−257105号公報(特許文献5)においては、エムペントリンを含有するハニカム状の薬剤担持体を取り付けたファン型薬剤揮散装置につき、24mの室内で12時間断続運転を繰り返したところ、運転12時間中のエムペントリン揮散量が10〜20mg/hで、エムペントリン気中濃度が100〜200μg/mであったことが記載されている。そして、2時間送風、10分間休止の条件であれば、連続運転に匹敵するエムペントリン気中濃度(100〜200μg/m)が得られるとしている。即ち、蚊等の駆除効果を目的としたエムペントリン薬剤揮散装置の場合、有効薬剤濃度が100〜200μg/mレベルであって、間欠駆動を採用するとしても、休止時間を送風時間に較べて短くしなければ実現できないとの認識がこれまで一般的であった。
【0015】
しかるに、本発明者らは、蚊駆除用とは別に、ゴキブリ等の部屋への侵入を防止する方法を鋭意検討した結果、特定の駆動時間/停止時間の比と、1回あたりの特定の駆動時間を設定したうえで間欠的に駆動させれば、該空間中における揮散性薬剤の有効薬剤濃度を使用開始から使用終了時点まで安定に保持し、ゴキブリのこの空間への侵入を防止できうることを見出した。即ち、駆動時間と停止時間の比が1:5〜1:30、好ましくは1:10〜1:20で、かつ1回あたりの駆動時間が0.5〜5分の条件を採用することによって、ゴキブリ侵入防止のための有効薬剤濃度を長期間にわたり確保できることを認め、本発明を完成したものである。
なお、揮散性薬剤の有効薬剤濃度は使用する揮散性薬剤の種類によって異なるので、必要ならば設置するゴキブリ侵入防止用薬剤揮散装置の個数を増減させて適宜調整すればよい。かかるゴキブリ侵入防止用薬剤揮散装置の性能や仕様は、実際に試験を実施してみなければ知得しえず、特許文献3ないし特許文献5のような従来技術の単なる設計変更に当たらないことは明らかである。
【0016】
本発明のゴキブリ侵入防止用薬剤揮散装置に適用される薬剤担持体の素材としては、プラスチック製繊維、天然繊維、無機質製繊維の織布又は不織布や、パルプ、レーヨン、ビスコース等のセルロース基材、無機質粉などがあげられる。なかでも、プラスチック製繊維、例えば、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなど)、ポリアミド、アクリル繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン等を用いて多孔質シート、ネット、立体構造体などに形成したり、セルロース基材をシート状、ハニカム状、あるいはビーズ状となして、揮散性薬剤が担持される担体を構成するのが好ましい。
【0017】
本発明では、かかる担体全体に揮散性薬剤を100mg〜2g程度担持させるが、必要ならば、揮散性薬剤と共に、溶剤、安定剤、揮散調整剤、界面活性剤、着色剤などを適宜配合することができる。溶剤としては、n−パラフィン、イソパラフィンなどの炭化水素系溶剤、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのグリコール系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤などがあげられ、安定剤としては、BHT、BHAなどを例示できるがこれらに限定されない。ステアリン酸ブチルやミリスチン酸イソプロピルは、本発明で揮散調整剤としての作用を示すことがあり、また、色彩の付加は商品価値を高めるだけでなく、揮散性薬剤の揮散終点を明瞭に視認させるインジケーターとしても使用可能である。
薬剤担持体を調製するに際しても、その担持方法は何ら限定されず、分注方式、含浸方式、スプレー方式等、公知の従来技術を適宜採用すればよい。
【0018】
本発明のゴキブリ侵入防止用薬剤揮散装置は、薬剤担持体を回転させる方式、又は載置した薬剤担持体にファンによる風を当てる方式のいずれも採用可能である。より高い薬剤揮散性能が得られる点で前者の方式が好ましく、具体的な形態として、例えば、薬剤担持体を薬剤カートリッジに収納し、これを薬剤揮散装置に設置して回転せしめるタイプがあげられる。この場合、環状の薬剤カートリッジはその中心に軸受部を有し、これが回転駆動装置(モーター)の回転軸と嵌合しうるようになっている。
モーターの仕様としては、DC1.5V〜6.0V駆動で、500〜3000rpmの回転数を与えるものが適当である。回転数を上げれば揮散性薬剤の揮散量を増大させることができるが、揮散性薬剤の飛び散りを生じる恐れもあるので、最適な回転数は種々検討のうえ決定する必要がある。
【0019】
一方、載置した薬剤担持体にファンによる風を当てる方式の場合、ファンの形態としては、薬剤担持体に送風する軸流ファンであっても、又は吸気タイプのロータリーファンであっても構わない。いずれにおいても、ファンによって生ずる空気流に乗って、薬剤担持体から揮散性薬剤が拡散する。
【0020】
本発明の薬剤揮散装置には、吸気口、排気口が備えられ、更にスイッチオンを示すパイロットランプ、駆動条件を制御するようにプログラミングしたマイコン等を別途装填するのが好ましい。但し、シンプルな構造が実用的であり、薬剤担持体の装着は使用の都度取替え可能とするのが便利である。
【0021】
こうして得られた本発明のゴキブリ侵入防止用薬剤揮散装置は、特定の駆動時間/停止時間の比と、1回あたりの特定の駆動時間を設定したうえで間欠的に駆動させることによって、該空間中における揮散性薬剤の有効薬剤濃度を使用開始から使用終了時点まで長期間にわたり安定して保持し、ゴキブリ等のこの空間への侵入を防止できると共に、人やペットに対する安全性に優れ、しかも駆動電源の節約の点でも有利なので、その実用性は極めて高い。
本発明のゴキブリ侵入防止用薬剤揮散装置が対象とする害虫としては、屋内でのゴキブリ類が主体であり、他の効果的な匍匐害虫としては、トコジラミ、アリ類、コクゾウ、シバンムシ等があげられる。なお、蚊や蚋、ハエ類、コバエ類、ユスリカ類等の飛翔害虫に対し、前記匍匐害虫類に対するのと同様、駆除効果は期待できないものの周辺の虫よけ効果は十分奏し得るものである。
【0022】
次に、具体的実施例ならびに試験例に基づいて、本発明のゴキブリ侵入防止用薬剤揮散装置を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
直径60mmで厚みが8mmの円盤状のポリエステル製立体構造体に、エムペントリン0.4gと安定剤としてのジブチルヒドロキシトルエン0.02gを含むケロシン溶液1.0gを担持させ、これを薬剤カートリッジに収納した。この薬剤カートリッジの軸受部を回転駆動装置(モーター回転数:1000rpm)の回転軸と嵌合させ、駆動時間と停止時間の比が1:14でかつ1回あたりの駆動時間が1分である、間欠駆動式の本発明のゴキブリ侵入防止用薬剤揮散装置を調製した。
この薬剤揮散装置を台所(約20m)の隅に置いて30日間にわたり継続使用した。この間、エムペントリンの1時間あたりの平均揮散量は約0.3mgで、また薬剤気中濃度はほぼ0.02μg/mで安定して推移し、ゴキブリやアリ等の匍匐害虫が台所に侵入することはなかった。
【実施例2】
【0024】
実施例1に準じ、表1に示す各種ゴキブリ侵入防止用薬剤揮散装置を調製し、忌避効力試験を行った。なお、モーターの回転数はいずれも1200rpmとした。結果を併せて表1に示す。
[忌避効力試験]
2.5×2mのフィールドにクロゴキブリ成虫(♂、♀)又はチャバネゴキブリ成虫(♂、♀)を30匹放ち、フィールド内に水、固形飼料、及び500L容器(容器片方の側面に幅1cmのスリット開口部を5個所設置)を置き馴化させた。容器内に潜伏しているゴキブリ数を計数した後、容器内を水拭きして清潔にし、フィールド内に戻した。各ゴキブリ侵入防止用薬剤揮散装置を所定の位置に置き、経時的に容器内に潜伏したゴキブリ数を計え、下記の式に従って忌避率を算出した。
忌避率(%)=[処理前の潜伏虫数−処理後の潜伏虫数]/処理前の潜伏虫数×100
【0025】
【表1】
【0026】
試験の結果、本発明のゴキブリ侵入防止用薬剤揮散装置は、長期間にわたり実用的なゴキブリ忌避効果を示し、薬剤揮散装置設置空間へのゴキブリの侵入を防止し得ることが認められた。従って、薬剤揮散装置の駆動時間と停止時間の比が1:5〜1:30、好ましくは1:10〜1:20で、かつ1回あたりの駆動時間が0.5〜5分の条件で間欠的に駆動させることの有用性が実証された。
これに対し、比較例1のように、駆動時間に較べて停止時間を所定比率以上に長くすると、忌避効果を示すのに必要な薬剤有効濃度が安定して得られず、一方、停止時間を所定比率より短くすると、忌避効果は十分ながら、人やペットに対する安全性や駆動電源の節約の観点に照らし好ましくなかった。
【実施例3】
【0027】
縦40mm、横60mmで厚みが2mmのポリエステル製不織布に、メトフルトリン0.2g、安定剤としてのジブチルヒドロキシトルエン0.01gと「緑の香り」と称する香料成分0.01gを含むケロシン溶液0.4gを担持させて薬剤担持体とした。これを回転駆動装置(モーター回転数:1300rpm)の吸気口とファンの間に設置し、ファンによる風を当てて薬剤を揮散させるタイプであって、駆動時間と停止時間の比が1:12でかつ1回あたりの駆動時間が2分である、間欠駆動式の本発明のゴキブリ侵入防止用薬剤揮散装置を調製した。
この薬剤揮散装置を物置(約24m)の入口に置いて30日間にわたり継続使用したところ、実施例1[薬剤担持体を回転させるタイプ]と同様に、ゴキブリ等の匍匐害虫の物置への侵入を防止することができた。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のゴキブリ侵入防止用薬剤揮散装置は、害虫防除分野だけでなく、例えば、芳香、消臭分野などの、薬剤を揮散させる分野においても実用化が可能である。