特許第6348092号(P6348092)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6348092
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】外接歯車式の燃料ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04C 2/18 20060101AFI20180618BHJP
   F02M 37/08 20060101ALI20180618BHJP
   F02M 59/12 20060101ALI20180618BHJP
   F04C 15/00 20060101ALI20180618BHJP
【FI】
   F04C2/18 311E
   F02M37/08 E
   F02M59/12
   F04C2/18 321A
   F04C15/00 H
   F04C15/00 B
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-213416(P2015-213416)
(22)【出願日】2015年10月29日
(65)【公開番号】特開2017-82715(P2017-82715A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2017年7月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100080045
【弁理士】
【氏名又は名称】石黒 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100124752
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷 真司
(72)【発明者】
【氏名】有川 文明
(72)【発明者】
【氏名】桂 涼
【審査官】 冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−278381(JP,A)
【文献】 特開平11−82323(JP,A)
【文献】 実開平5−30482(JP,U)
【文献】 実開平4−42278(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/18
F02M 37/08
F02M 59/12
F04C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽油よりも低粘度の燃料を吸入して昇圧し、エンジン側へ吐出する外接歯車式の燃料ポンプ(1)において、
互いに噛み合って回転する一対のギヤ(4、5)と、
前記一対のギヤの回転軸(RL1、RL2)方向の両側に配置される一対のサイドプレート(11、12)とを備え、
前記一対のギヤは、その回転軸方向の両側に形成されるギヤ側面(31、32)をそれぞれ有し、
前記一対のサイドプレートは、前記一対のギヤの各ギヤ側面が回転摺動可能に接触する接触面(51、52)をそれぞれ有し、
前記一対のギヤの各ギヤ側面または前記一対のサイドプレートの各接触面のうちのいずれか一方には、前記燃料ポンプにおける吐出側空間(45)と前記燃料ポンプにおける吸入側空間(44)とを連通して前記低粘度の燃料の一部を前記一対のギヤと前記一対のサイドプレートとの接触部に供給する複数の油溝(61〜66、71〜74、81〜88、91〜94)が形成されており、
前記複数の油溝における各溝深さをhとした場合、
5μm≦h≦10μmの関係を満たすことを特徴とする外接歯車式の燃料ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の外接歯車式の燃料ポンプにおいて、
前記軽油よりも低粘度の燃料は、ジメチルエーテルを主成分としたDME燃料であることを特徴とする外接歯車式の燃料ポンプ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の外接歯車式の燃料ポンプにおいて、
前記軽油よりも低粘度の燃料は、25℃における動粘度が1cst以下の液体燃料であることを特徴とする外接歯車式の燃料ポンプ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1つに記載の外接歯車式の燃料ポンプにおいて、
前記複数の油溝は、径方向に延びる複数の径方向油溝(61、62、81、82、85、86、91、92)を有していることを特徴とする外接歯車式の燃料ポンプ。
【請求項5】
請求項4に記載の外接歯車式の燃料ポンプにおいて、
前記複数の径方向油溝は、径方向外側から径方向内側へ向かって溝幅が次第に狭くなっていることを特徴とする外接歯車式の燃料ポンプ。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の外接歯車式の燃料ポンプにおいて、
前記複数の油溝は、周方向に延びる周方向油溝(63、64、83、84、87、88、93、94)を有し、
前記周方向油溝は、前記複数の径方向油溝と交差して前記複数の径方向油溝を連結していることを特徴とする外接歯車式の燃料ポンプ。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のうちのいずれか1つに記載の外接歯車式の燃料ポンプにおいて、
前記一対のサイドプレートの長軸(CL)方向を上下方向とし、前記上下方向に垂直な短軸方向を左右方向とした場合、
前記複数の油溝は、前記上下方向に延びる複数の縦溝(71、72)、および前記左右方向に延びる複数の横溝(73、74)を有し、
前記複数の縦溝は、前記複数の横溝と垂直に交差して前記複数の横溝を連結していることを特徴とする外接歯車式の燃料ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽油よりも低粘度の燃料を吸入して昇圧し、エンジン側へ送油する外接歯車式の燃料ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、燃料タンクから吸入した燃料を昇圧し、エンジン側へ送油する外接歯車式の燃料ポンプが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
この燃料ポンプは、互いに噛み合って回転する一対のギヤと、一対のギヤの回転軸方向の両側に設置された一対のサイドプレートと、一対のサイドプレート間に形成されるギヤ室とを備えている。
ギヤ室には、燃料ポンプにおける吐出側の空間と、燃料ポンプにおける吸入側の空間とが形成されている。また、ギヤ室内には、一対のギヤが回転可能に収容されている。
そして、少なくとも一方のサイドプレートは、弾性部材によって軸方向両側から一対のギヤの各側面に押し付けられている。これにより、一対のサイドプレートの各接触面に一対のギヤの各側面が回転摺動する。
【0003】
ここで、特許文献1には、サイドプレートの接触面に、吐出側の空間と吸入側の空間とを連通する油溝を設けた燃料ポンプが開示されている。この燃料ポンプは、吐出側の空間から吸入側の空間へ向けて燃料を流し、一対のギヤと一対のサイドプレートとの接触部における潤滑性を高めるように構成されている。
ところが、軽油よりも粘度が低いDME燃料を潤滑油として使用した場合には、吐出側の空間から吸入側の空間へリークするDME燃料が軽油よりも増加する。このため、燃料ポンプでDME燃料を昇圧する昇圧効率が低下するので、ポンプ効率が低下するという問題がある。
したがって、DME燃料を潤滑油として使用する場合には、接触部における潤滑性を高めるとともに、ポンプ効率の低下を抑えることが可能な外接歯車式の燃料ポンプが要望される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−082323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みて成されたものであり、その目的は、軽油よりも粘度が低い燃料を潤滑油として使用する場合であっても、接触部における潤滑性を高めるとともに、ポンプ効率の低下を抑えることのできる外接歯車式の燃料ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明によれば、燃料ポンプにおける吐出側空間と燃料ポンプにおける吸入側空間とを連通して低粘度の燃料の一部を一対のギヤと一対のサイドプレートとの接触部に供給する複数の油溝における各溝深さをhとした場合、
5μm≦h≦10μmの関係を満たしている。
ここで、複数の油溝における各溝深さが5μmよりも小さいと、吐出側空間から吸入側空間へリークする低粘度の燃料量が少なく、接触部における潤滑性を維持することができない。
複数の油溝における各溝深さが10μmよりも大きいと、油溝を流れる低粘度の燃料量が多くポンプ効率を低下させる。
したがって、軽油よりも粘度が低い燃料を潤滑油として使用する場合であっても、接触部における潤滑性を高めるとともに、ポンプ効率の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】外接歯車式の燃料ポンプを示した断面図である(実施形態1)。
図2図1のII−II断面図である(実施形態1)。
図3】サイドプレートの接触面を示した正面図である(実施形態1)。
図4】燃料リーク量と溝面積/接触部全面積を示したグラフである(実施形態1)。
図5】(a)は条件1のサイドプレートの接触面を示した説明図で、(b)は(a)の断面図で、(c)は条件2のサイドプレートの接触面を示した説明図で、(d)は(c)の断面図である(実施形態1)。
図6】サイドプレートの接触面を示した正面図である(実施形態2)。
図7】サイドプレートの接触面を示した正面図である(実施形態3)。
図8】サイドプレートの接触面を示した正面図である(実施形態4)。
図9】サイドプレートの接触面を示した正面図である(実施形態5)。
図10】燃料の流れを示した説明図である(実施形態5)。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、発明を実施するための形態を説明する。
【0009】
[実施形態1の構成]
図1ないし図5は、本発明を適用した実施形態1を示したものである。
【0010】
本実施形態の燃料供給装置は、自動車に搭載された走行用エンジン(以下エンジン)の燃料として、軽油よりも低粘度で、しかも大気圧下で気化する成分が含まれたジメチルエーテルを主成分としたDME燃料を使用している。
DME燃料は、25℃における動粘度が0.27cstの液体燃料である。
燃料供給装置は、燃料タンク(図示せず)からDME燃料を吸入して昇圧する外接歯車式の低圧燃料ポンプ1と、この低圧燃料ポンプ1から送油されたDME燃料を加圧する高圧燃料ポンプ(図示せず)とを備えている。さらに、燃料供給装置は、高圧燃料ポンプからDME燃料が導入されるコモンレール(図示せず)と、このコモンレールからDME燃料が分配供給される複数の燃料噴射弁(図示せず)とを備えている。
【0011】
高圧燃料ポンプは、公知の構成を備え、シリンダ内をプランジャが往復移動することによって加圧室に吸入したDME燃料を加圧して高圧化し、エンジン側へ吐出する。
コモンレールは、公知の構成を備え、内部にDME燃料を蓄圧する蓄圧室を有している。
複数の燃料噴射弁は、公知の構成を備え、蓄圧室に蓄圧されたDME燃料をエンジンの気筒内に噴射する。
【0012】
[実施形態1の特徴]
低圧燃料ポンプ1は、燃料タンク内に設置されている。なお、低圧燃料ポンプ1を燃料タンク外に設置しても良い。
低圧燃料ポンプ1は、吸入したDME燃料を昇圧して高圧燃料ポンプに向かって送油する。この低圧燃料ポンプ1は、電子制御装置(以下ECU)によって通電制御される電動モータ2と、この電動モータ2の駆動軸3によって回転駆動される一対のギヤ(以下駆動ギヤ4、従動ギヤ5)とを備えている。
【0013】
低圧燃料ポンプ1は、電動モータ2のブラケット6に取り付けられるポンプケース7と、駆動ギヤ4の回転軸RL1方向の両側および従動ギヤ5の回転軸RL2方向の両側に配置される一対のサイドプレート11、12と、駆動ギヤ4および従動ギヤ5とサイドプレート11、12との間の隙間をなくすための隙間調整用スクリュー13、14とを備えている。
電動モータ2は、電力の供給を受けると、駆動ギヤ4を回転駆動する回転動力を発生する。この電動モータ2は、ECUによって電子制御されるモータ駆動回路を介して、バッテリ(図示せず)に電気接続されている。
【0014】
駆動ギヤ4は、金属によって形成されている。この駆動ギヤ4は、図1に示す回転軸RL1を軸に所定の回転方向に回転する。
また、駆動ギヤ4は、駆動軸3の先端側の外周にキー15を介して固定されている。また、駆動ギヤ4は、駆動軸3と一体回転可能に連結している。
駆動ギヤ4の回転軸RL1方向の両側には、サイドプレート11、12に対してそれぞれ回転摺動可能なギヤ側面21、22が形成されている。この駆動ギヤ4は、内部に軸方向に延びる貫通孔23が形成された円筒状のスリーブ24、およびこのスリーブ24の外周面から径方向外側へ突出する円環状の歯形成部25を有している。
スリーブ24の内部には、駆動軸3の先端側が挿し込まれている。このスリーブ24は、歯形成部25のモータ側が、ベアリング26を介して回転可能に支持されている。また、スリーブ24は、歯形成部25のモータ側に対して反対側が、ベアリング27を介して回転可能に支持されている。
歯形成部25の外周には、周方向全体に従動ギヤ5と噛み合う複数のギヤ歯部28が設けられている。
【0015】
従動ギヤ5は、金属によって形成されている。この従動ギヤ5は、図1に示す回転軸RL2を軸に所定の回転方向に回転する。
従動ギヤ5の回転軸RL2方向の両側には、サイドプレート11、12に対してそれぞれ回転摺動可能なギヤ側面31、32が形成されている。この従動ギヤ5は、内部に軸方向に延びる貫通孔33が形成された円筒状のスリーブ34、およびこのスリーブ34の外周面から径方向外側へ突出する円環状の歯形成部35を有している。
スリーブ34は、内部が空洞である。このスリーブ34は、歯形成部35のモータ側が、ベアリング36を介して回転可能に支持されている。また、スリーブ34は、歯形成部35のモータ側に対して反対側が、ベアリング37を介して回転可能に支持されている。 歯形成部35の外周には、周方向全体に複数のギヤ歯部28と噛み合う複数のギヤ歯部38が設けられている。
【0016】
ブラケット6は、電動モータ2のフロント側に一体的に取り付けられている。このブラケット6は、複数のスクリュー(図示せず)を用いてポンプケース7のフランジ(図示せず)を締結固定している。また、ブラケット6のポンプ側端面には、ポンプケース7を結合する結合端面が形成されている。また、ブラケット6には、駆動軸3が回転可能に摺動する軸受孔41が形成されている。
ポンプケース7は、ブラケット6のポンプ側端面との間にポンプ室42を形成している。
このポンプ室42内には、駆動ギヤ4および従動ギヤ5を回転可能に収容している。また、ポンプ室42内には、サイドプレート11、12が収容されている。
【0017】
サイドプレート11、12は、金属によって形成されている。
サイドプレート11、12間には、駆動ギヤ4および従動ギヤ5を収容するギヤ室43を形成する。サイドプレート11、12は、ギヤ室43を隔てて対向して配置されている。
また、ポンプ室42は、低圧燃料ポンプ1における吸入側空間44、および低圧燃料ポンプ1における吐出側空間45を有している。
吸入側空間44には、ポンプケース7に形成される吸入通路(図示せず)を介して、燃料タンクからDME燃料が吸入される。この吸入側空間44は、燃料吸入通路44aを介してギヤ室43と連通している。
吐出側空間45には、ポンプケース7に形成される吐出通路(図示せず)を介して、高圧燃料ポンプへDME燃料が送油される。この吐出側空間45は、燃料吐出通路45aを介してギヤ室43と連通している。
【0018】
ここで、吸入側空間44から燃料吸入通路44aを通ってポンプ室42の吸入側に到達したDME燃料は、駆動ギヤ4が回転軸RL1を軸に回転すると、複数のギヤ歯部28の各歯面とギヤ室43の内周面との間に吸入される。そして、駆動ギヤ4の外周側をギヤ回転方向に送られてポンプ室42の吐出側に到達する。
また、ポンプ室42の吸入側に到達したDME燃料は、従動ギヤ5が回転軸RL2を軸に回転すると、複数のギヤ歯部38の各歯面とギヤ室43の内周面との間に吸入される。そして、従動ギヤ5の外周側をギヤ回転方向に送られてポンプ室42の吐出側に到達する。
ポンプ室42の吐出側に到達したDME燃料は、駆動ギヤ4の外周側を通ってきたDME燃料と合流した後に、燃料吐出通路45aを通って吐出側空間45に到達する。そして、吐出側空間45に到達したDME燃料は、低圧燃料ポンプ1から高圧燃料ポンプへ送油される。
【0019】
サイドプレート11、12には、ベアリング26、27を介してスリーブ24の外周面を軸受する軸受孔46、およびベアリング36、37を介してスリーブ34の外周面を軸受する軸受孔47が形成されている。
サイドプレート11、12は、駆動ギヤ4および従動ギヤ5と摺動接触するプレート接触面51〜53をそれぞれ有している。
各プレート接触面51は、駆動ギヤ4の各ギヤ側面31、32が摺接する。この各プレート接触面51は、各軸受孔46の周囲を周方向に取り囲むように環状に形成されている。
また、各プレート接触面52は、従動ギヤ5の各ギヤ側面31、32が摺接する。この各プレート接触面52は、各軸受孔47の周囲を周方向に取り囲むように環状に形成されている。
【0020】
また、各プレート接触面53は、複数のギヤ歯部28と複数のギヤ歯部38との噛合部分の各両側面が摺接する。各プレート接触面53は、各プレート接触面51と各プレート接触面52とを連結している。
ここで、図3に示したように、サイドプレート11、12の長軸CL方向を上下方向とし、この上下方向に垂直な方向を左右方向とした場合には、各プレート接触面51が各プレート接触面53よりも上側に配置され、また、各プレート接触面52が各プレート接触面53よりも下側に配置される。
また、サイドプレート11、12の長軸CLよりも右側が、ポンプ室42およびギヤ室43の吸入側となり、また、長軸CLよりも左側が、ポンプ室42およびギヤ室43の吐出側となる。
【0021】
各プレート接触面51、52には、ポンプ室42の吐出側空間45とポンプ室42の吸入側空間44とを連通する複数の油溝61〜64が形成されている。これらの油溝61〜64は、各ギヤ側面21、22および各ギヤ側面31、32と各プレート接触面51、52との接触部にDME燃料の一部を供給する。
複数の油溝61は、各プレート接触面51において径方向に延びる径方向油溝である。これらの油溝61は、各軸受孔46を中心にして、各プレート接触面51において放射状に延びるように設けられている。
複数の油溝62は、各プレート接触面52において径方向に延びる径方向油溝である。これらの油溝62は、各軸受孔47を中心にして、各プレート接触面52において放射状に延びるように設けられている。
【0022】
油溝63は、各プレート接触面51の径方向外側において、周方向に延びるように設けられている。この油溝63は、各油溝61を連結するように各油溝61と交差している。 油溝64は、各プレート接触面52の径方向外側において、周方向に延びるように設けられている。この油溝64は、各油溝62を連結するように各油溝62と交差している。 なお、複数の油溝61、62の溝幅および溝深さは、各プレート接触面51、52の径方向において一定である。また、油溝63、64の溝幅および溝深さは、各プレート接触面51、52の周方向において一定である。
【0023】
ここで、複数の油溝61〜64における各溝深さをhとした場合、
5μm≦h≦10μmの関係を満たすように設けられる。
なお、複数の油溝61〜64における各溝深さ(h)を5μmよりも浅くした場合には、各ギヤ側面21、22および各ギヤ側面31、32と各プレート接触面51、52との接触部にDME燃料が流れ難く、ポンプ効率の低下を抑制できるが、接触部における潤滑性が低下する傾向にある。
また、複数の油溝61〜64における各溝深さ(h)を10μmよりも深くした場合には、複数の油溝61〜64を介して、吐出側空間45から吸入側空間44へ大量にDME燃料が漏れるため、接触部における潤滑性を確保できるが、ポンプ効率が低下する傾向にある。
【0024】
また、吐出側空間45から吸入側空間44へ漏れる燃料リーク量(Q)と各溝深さ(h)との関係を示す演算式を下記の数1の式に示す。
[数1]
Q={(b・h3 )÷(12・μ・L)}×ΔP
但し、μは液体燃料の動粘度で、Lは吐出側空間45と吸入側空間44との直線距離で、bは複数の油溝61〜64における各溝幅で、hは複数の油溝61〜64における各溝深さである。また、ΔPは吸入側空間44内の燃料圧と吐出側空間45内の燃料圧との圧力差である。
【0025】
[実施形態1の効果]
以上のように、本実施形態の低圧燃料ポンプ1においては、各ギヤ側面21、22および各ギヤ側面31、32と各プレート接触面51、52とが一周に渡り、接触することがないように、複数の油溝61、62が径方向に延びるように設けられている。さらに、DME燃料が全面に行き渡るように複数の油溝61、62と交差して複数の油溝61、62を周方向に連結する油溝63、64が周方向に延びるように設けられている。
【0026】
これによって、軸受孔46、47を介して、複数の油溝61〜64によって吐出側空間45と吸入側空間44とが連通しているので、複数の油溝61〜64内にDME燃料の流れが常時に形成される。これにより、各ギヤ側面21、22および各ギヤ側面31、32と各プレート接触面51、52との局所的な摺動抵抗によって発熱が生じ、複数の油溝61〜64内のDME燃料が局所的に気化した場合であっても、速やかに気化燃料を吸入側空間44へ排出することができる。したがって、各ギヤ側面21、22および各ギヤ側面31、32と各プレート接触面51、52との接触部における焼き付きを防止することができる。
【0027】
ここで、特許文献1には、一対のギヤの各ギヤ側面と一対のサイドプレートの各接触面との摺動性を確保するための油溝が、燃料ポンプにおける吐出側空間と吸入側空間とを連通しない構成も開示されている。
しかしながら、沸点の低いDME燃料を潤滑油として使用した場合には、各ギヤ側面と各接触面との摺動抵抗による発熱が生じる恐れがある。この場合には、DME燃料の温度上昇に伴って飽和蒸気圧が上昇するため、油溝内に液体状態で供給されたDME燃料の一部が気化する恐れがある。
したがって、特許文献1の燃料ポンプでは、油溝が連通していない構成を採用しているので、油溝中のDME燃料が置換されず、気相状態のDME燃料がそのまま滞ってしまう恐れがある。このため、DME燃料が気相状態の領域の潤滑が非常に低下し、摺動抵抗の増加、さらには各ギヤ側面と各接触面との接触部が焼き付く恐れがある。
【0028】
そこで、本実施形態の低圧燃料ポンプ1においては、接触部を潤滑するという目的で、吐出側空間45と吸入側空間44とを連通する油溝61〜64を設け、これらの油溝61〜64中を液体状態のDME燃料が常時に流れるようにしている。これにより、接触部における潤滑性を高めることができる。
また、油溝61〜64における各溝深さhを、10μm以下と極浅くする。望ましくは各溝深さhを、5〜10μmと極浅くすることで、吐出側空間45から油溝61〜64を通って吸入側空間44へ流出するDME燃料量を最少としている。これにより、ポンプ効率の低下を抑制することができる。
【0029】
[実施形態1の実験結果]
次に、溝面積/接触部全面積を種々変化させて、低圧燃料ポンプ1における吐出側空間45から吸入側空間44へ漏れる燃料リーク量がどのように変化するかについて調査した実験について説明する。
実験は、溝面積/接触部全面積を変化させ、燃料リーク量について調査したもので、その実験結果を図4のグラフに示した。
【0030】
比較例1の条件j1は、図4および図5(a)、(b)に示したように、複数の油溝65、66における油溝幅bが0.8mmで、油溝深さ(=クリアランス)hが15μmである。
比較例1の条件j2は、図4および図5(c)、(d)に示したように、複数の油溝65、66における油溝幅bが1.7mmで、油溝深さ(=クリアランス)hが15μmである。
実施例1の条件J1は、図4に示したように、複数の油溝65、66における油溝幅bが0.8mmで、油溝深さ(=クリアランス)hが8μmである。
実施例1の条件J2は、図4に示したように、複数の油溝65、66における油溝幅bが1.7mmで、油溝深さ(=クリアランス)hが8μmである。
【0031】
この図4のグラフからも確認できるように、溝深さhが15μmの比較例1は、条件j2から条件j1へ向かって徐々に溝面積/接触部全面積を変化させた場合、溝面積を小さくなるにつれて燃料リーク量は低減する。しかし、比較例1は、条件j1まで溝面積/接触部全面積を変化させた場合でも、ポンプ効率の低下抑制可能な目標値よりも燃料リーク量が多いことが分かる。
一方、溝深さhが8μmの実施例1は、条件J2から条件J1へ向かって徐々に溝面積/接触部全面積を変化させた場合、溝面積を小さくなるにつれて燃料リーク量は低減する。その上、実施例1は、条件J2の場合でも、ポンプ効率の低下抑制可能な目標値よりも燃料リーク量が少ないことが分かる。
【0032】
また、燃料リーク量(Q)は、上記の数1に示したように、複数の油溝61〜64における各溝深さhの3乗に反比例して少なくなる。すなわち、各溝深さhを小さくすればする程、燃料リーク量(Q)が少なくなる。
したがって、軸受孔46、47を介して、複数の油溝61〜64によって吐出側空間45と吸入側空間44とが連通させ、且つ複数の油溝61〜64における各溝深さhを、5μm以上で、且つ10μm以下とすることにより、DME燃料を潤滑油として使用する場合であっても、接触部における潤滑性の確保と、ポンプ効率の低下抑制との両立を図ることができる。
【0033】
[実施形態2の構成]
図6は、本発明を適用した実施形態2を示したものである。
ここで、実施形態1と同じ符号は、同一の構成または機能を示すものであって、説明を省略する。
【0034】
本実施形態の各プレート接触面51、52には、各ギヤ側面21、22および各ギヤ側面31、32と各プレート接触面51、52との接触部にDME燃料の一部を供給する複数の油溝71〜74が形成されている。
ここで、サイドプレート11、12の長軸CL方向を上下方向とし、その上下方向に垂直な短軸方向を左右方向とする。
この場合、複数の油溝71〜74は、各プレート接触面51、52において上下方向に延びる縦溝である複数の油溝71、72と、各プレート接触面51、52において左右方向に延びる縦溝である複数の油溝73、74とを備えている。
【0035】
複数の油溝71は、各プレート接触面51において各油溝73を連結するように各油溝73と垂直に交差している。
複数の油溝72は、各プレート接触面52において各油溝74を連結するように各油溝74と垂直に交差している。
以上のように、本実施形態の低圧燃料ポンプ1においては、実施形態1と同様な効果を奏する。
【0036】
[実施形態3の構成]
図7は、本発明を適用した実施形態3を示したものである。
ここで、実施形態1及び2と同じ符号は、同一の構成または機能を示すものであって、説明を省略する。
【0037】
本実施形態の各プレート接触面51、52には、各ギヤ側面21、22および各ギヤ側面31、32と各プレート接触面51、52との接触部にDME燃料の一部を供給する複数の油溝81〜84が形成されている。
複数の油溝81は、各プレート接触面51において径方向に延びる径方向油溝である。これらの油溝81は、各プレート接触面51において径方向に対して図7の矢印RD1が示すギヤ回転方向に向かって所定の角度分だけ傾斜している。
【0038】
複数の油溝82は、各プレート接触面52において径方向に延びる径方向油溝である。これらの油溝82は、各プレート接触面52において径方向に対して図7の矢印RD2が示すギヤ回転方向に向かって所定の角度分だけ傾斜している。
油溝83は、各プレート接触面51の径方向外側において、周方向に延びるように設けられている。この油溝83は、各油溝81を連結するように各油溝81と交差している。 油溝84は、各プレート接触面52の径方向外側において、周方向に延びるように設けられている。この油溝84は、各油溝82を連結するように各油溝82と交差している。 以上のように、本実施形態の低圧燃料ポンプ1においては、実施形態1及び2と同様な効果を奏する。
【0039】
[実施形態4の構成]
図8は、本発明を適用した実施形態4を示したものである。
ここで、実施形態1〜3と同じ符号は、同一の構成または機能を示すものであって、説明を省略する。
【0040】
本実施形態の各プレート接触面51、52には、各ギヤ側面21、22および各ギヤ側面31、32と各プレート接触面51、52との接触部にDME燃料の一部を供給する複数の油溝85〜88が形成されている。
複数の油溝85は、各プレート接触面51において径方向に延びる径方向油溝である。これらの油溝85は、各プレート接触面51において径方向に対して図8の矢印RD1が示すギヤ回転方向に向かって傾斜している。また、複数の油溝85は、径方向外側から軸受孔46側へ向かって溝幅が次第に狭くなっている。
【0041】
複数の油溝86は、各プレート接触面52において径方向に延びる径方向油溝である。これらの油溝86は、各プレート接触面52において径方向に対して図8の矢印RD2が示すギヤ回転方向に向かって傾斜している。また、複数の油溝86は、径方向外側から軸受孔47側へ向かって溝幅が次第に狭くなっている。
油溝87は、各プレート接触面51の径方向外側において、周方向に延びるように設けられている。この油溝87は、各油溝85を連結するように各油溝85と交差している。 油溝88は、各プレート接触面52の径方向外側において、周方向に延びるように設けられている。この油溝88は、各油溝85を連結するように各油溝85と交差している。
【0042】
ここで、駆動ギヤ4および従動ギヤ5の径方向内側よりも径方向外側の方が速度が速いため、図7の油溝81、82のように複数の油溝85、86の溝幅を径方向で一定とすると、複数の油溝85、86の径方向外周側に滞留し易くなる。このため、複数の油溝85、86の溝幅を径方向内周側よりも径方向外周側の方が広くすることにより、速度の違いによるDME燃料の滞留を防ぐことができる。これにより、吐出側空間45から各油溝85〜88を通って吸入側空間44へ向かってDME燃料が流れ易くなる。
以上のように、本実施形態の低圧燃料ポンプ1においては、実施形態1〜3と同様な効果を奏する。
【0043】
[実施形態5の構成]
図9および図10は、本発明を適用した実施形態5を示したものである。
ここで、実施形態1〜4と同じ符号は、同一の構成または機能を示すものであって、説明を省略する。
【0044】
本実施形態の各プレート接触面51、52には、各ギヤ側面21、22および各ギヤ側面31、32と各プレート接触面51、52との接触部にDME燃料の一部を供給する複数の油溝91〜94が形成されている。
複数の油溝91は、各プレート接触面51において径方向に延びる径方向油溝である。また、複数の油溝91は、径方向外側から軸受孔46側へ向かって溝幅が次第に狭くなっている。
【0045】
複数の油溝92は、各プレート接触面52において径方向に延びる径方向油溝である。また、複数の油溝92は、径方向外側から軸受孔47側へ向かって溝幅が次第に狭くなっている。
油溝93は、各プレート接触面51の径方向外側において、周方向に延びるように設けられている。この油溝93は、各油溝91を連結するように各油溝91と交差している。 油溝94は、各プレート接触面52の径方向外側において、周方向に延びるように設けられている。この油溝94は、各油溝92を連結するように各油溝92と交差している。
【0046】
ここで、吐出側空間45に最も近い吐出側から吸入側空間44に最も近い吸入側までの油溝91を順番に油溝91a〜91gと呼ぶ場合がある。また、吐出側空間45に最も近い吐出側から吸入側空間44に最も近い吸入側までの油溝92を順番に油溝92a〜92gと呼ぶ場合がある。
本実施形態の低圧燃料ポンプ1においては、比較的に高圧になる吐出側空間45から比較的に低圧になる吸入側空間44にDME燃料がリークする。
【0047】
しかし、図3の油溝61、62のように油溝91、92の溝幅および溝深さを一定とすると、吐出側空間45に最も近い吐出側の油溝91a、92aからDME燃料Fが流入する。この油溝91a、92aから流入したDME燃料Fは、油溝93、94、油溝91b、92bおよび油溝91c、92cを通って、吸入側空間44に最も近い吸入側の油溝91g、92gから流出する(図10参照)。
この場合、油溝91a、92aから流入したDME燃料Fが、軸受孔46、47を介して油溝91g、92gより流出する場合には、比較的に短い潤滑流路となる。この潤滑流路を通るDME燃料量が多い場合には、それ以外の油溝91d〜91f、92d〜92fへの燃料供給が不十分となる恐れがある。
【0048】
そこで、DME燃料を各プレート接触面51、52における油溝91〜94全体に行き渡らせるために、複数の油溝91の溝幅を各プレート接触面51の径方向外側から径方向内側へ向かって次第に細くなる溝形状とした。同様に、複数の油溝92の溝幅を各プレート接触面52の径方向外側から径方向内側へ向かって次第に細くなる溝形状とした。
このような溝形状の複数の油溝91、92によって、油溝91a、92aの入口には、十分なDME燃料が流れる潤滑流路が形成される。これにより、油溝91a、92aから軸受孔46、47に向かって溝幅が次第に狭くなるので、油溝91a、92aを流れるDME燃料量を溝幅および溝深さを一定とした場合と比べて少なくすることが可能となる。また、他の油溝91b〜91f、92b〜92fに対しても、DME燃料を潤滑油として満足する程度に供給できるので、油溝91〜94全体へのDME燃料の供給が可能となる。
【0049】
以上のように、本実施形態の低圧燃料ポンプ1においては、実施形態1〜4と同様な効果を奏する。
なお、本実施形態の油溝91、92のように各プレート接触面51、52の径方向外側から径方向内側へ向かって次第に細くなる溝幅としたものと同様な機能として、油溝91、92の溝深さを各プレート接触面51、52の径方向内側、つまり軸受孔46、47側に近い程、油溝91、92の溝深さを浅くするようにした場合でも、本実施形態と同様な効果が得られる。
【0050】
[変形例]
本実施形態では、軽油よりも低粘度の液体燃料として、25℃における動粘度が0.27cstのDME燃料を使用しているが、軽油よりも低粘度の液体燃料として、25℃における動粘度が0.27cstよりも高粘度の液体燃料を使用しても良い。望ましくは、25℃における動粘度が1cst以下の液体燃料を使用する。
エンジンの燃料および潤滑油(以下使用燃料とも言う)として、プロパン、イソブタン、ブタン、ブテン、プロピレンのいずれかの液体燃料を使用しても良い。あるいは使用燃料として、DME、プロパン、イソブタン、ブタン、ブテン、プロピレンのうちのいずれか2つを混合した混合燃料を使用しても良い。
また、使用燃料として、プロパン、イソブタン、ブタン、ブテン、プロピレンのうちのいずれか1つ以上と軽油とを任意の割合で混合した混合燃料を使用しても良い。
また、使用燃料として、DMEと軽油とを任意の割合で混合した高濃度DME混合燃料、あるいはDME100%燃料を使用しても良い。
また、使用燃料として、LPGを使用しても良い。また、使用燃料として、ガソリン油を使用しても良い。
【0051】
本実施形態では、本発明の燃料ポンプとして、燃料タンクから吸入した液体燃料を昇圧して高圧燃料ポンプに向かって送油する低圧燃料ポンプ1を採用しているが、本発明の燃料ポンプとして、燃料タンクから吸入した液体燃料を昇圧してエンジン側に向かって送油する燃料ポンプを採用しても良い。例えば燃料噴射弁に向かって液体燃料を送油する燃料ポンプを採用しても良い。
本実施形態では、一対のサイドプレート11、12の各プレート接触面51、52に複数の油溝61〜64、71〜74、81〜88、91〜94を設けているが、駆動ギヤ4および従動ギヤ5の各ギヤ側面21、22に複数の油溝61〜64、71〜74、81〜88、91〜94を設けても良い。
また、隙間調整用スクリュー13、14の代わりに、サイドプレート11、12を駆動ギヤ4および従動ギヤ5の各ギヤ側面に押し当てる方向に付勢力を発生するスプリング等の弾性部材を設置しても良い。これにより、駆動ギヤ4および従動ギヤ5とサイドプレート11、12との間の隙間をなくすことが可能となる。あるいは隙間を必要最少限とすることが可能となる。
本発明は、上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 低圧燃料ポンプ
4 駆動ギヤ
5 従動ギヤ
11 サイドプレート
12 サイドプレート
61 油溝(径方向油溝)
62 油溝(径方向油溝)
63 油溝(周方向油溝)
64 油溝(周方向油溝)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10