【課題を解決するための手段】
【0020】
したがって、本発明は、i)ジルコニウム系内層の上に配置される少なくとも1つの介在層によってコーティングされているかまたはコーティングされていない当該内層を含む、基材と、ii)基材の上に配置された、クロムまたはクロム系合金から選択される保護材料からなる少なくとも1つの外層とを含む核燃料被覆管を製造するプロセスであって、下記の一連のステップ:
a)基材の表面のイオンエッチングを行うステップ;
b)マグネトロンカソードが保護材料からなる、高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HiPIMS)プロセスを用いて、基材の上に少なくとも1つの外層を堆積させるステップ
を含む、プロセスに関する。
【0021】
現状技術のプロセスとは対照的に、本発明の製造プロセスはとりわけ、ステップb)に従って少なくとも1つのクロム系外層をジルコニウム系内層の上に堆積するために高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(「High Power Impulse Magnetron Sputtering」を表すHiPIMS)を用いるという独特な特徴を有する。そのようなプロセスは当業者に既知であり、例えば文献「Techniques de l’ingenieur、La pulverisation cathodique magnetron en regime d’impulsions de haute puissance(HiPIMS) pulverisation cathodique magnetron、Reference IN207」[Techniques of the Engineer、Magnetron cathode sputtering under high power impulse conditions(HiPIMS) magnetron sputtering、Reference IN207]に記載されている。
【0022】
HiPIMSスパッタリングプロセスは、数々の面で従来のマグネトロンカソードスパッタリングプロセスとは異なる。
【0023】
「WO2013/160587」において使用されているような従来のマグネトロンカソードスパッタリングプロセス(これ以降、従来型マグネトロンPVDプロセスと呼ぶ)によれば、負に分極させたクロムターゲット(マグネトロンカソード)と、接地されたカソードスパッタリング反応器の壁との間に電位差を印加する。
【0024】
この種のプロセスに関して、ターゲットに印加される連続的な分極電圧は通常、−600〜−200Vである。放電電流は数アンペアである。
【0025】
その後、これらの条件下で、概してアルゴンからなる希薄な雰囲気を部分的にイオン化して、低温のプラズマを形成させる。このときそれは、アルゴン原子Arと小さな割合を占めるアルゴンイオンAr
+とを本質的に含むが、金属イオンを全く含まないか、または10
−6をはるかに下回る極微量の金属イオンを含む。続いてAr
+イオンはターゲットの電場によって加速されてターゲットに衝突し、それにより、ターゲットに概ね面しているコーティングすべき基材上に堆積されるクロム原子が放出される。
【0026】
HiPIMSスパッタリングプロセスは特に、いくつかの特徴、とりわけ下記の特徴において、「WO2013/160587」で用いられている従来型マグネトロンPVDとは異なっている:
― マグネトロンカソードを構成するクロムターゲットに高周波数の分極インパルスを印加する。インパルスは例えば、分極の全持続時間の1/1000〜1/100だけ継続される;
― 各インパルスによって送達される瞬間出力が数十キロワット〜数メガワットである。これは、分極の持続時間全体に亘って平均した出力がせいぜい数キロワット、例えば1.2kW未満ではあるものの、大量のCr
+金属イオンの放出をもたらす;
― 実質的にCr
+金属イオンからなる雰囲気を作り出す。
【0027】
予想外なことに、本発明者らは、本発明の製造プロセスにより得られる核燃料被覆管によって、その酸化および/または水素化に対する耐性(詳しくは非常に高い温度での耐性、とりわけ蒸気の存在下での耐性)を向上させることが可能になる、ということを発見した。
【0028】
そのような特性は、原子力用途に使用されるジルコニウムおよびジルコニウム合金の固有の化学的および冶金学的属性、とりわけそれらの化学組成、表面状態、結晶組織、(鍛錬されたかまたはいくぶん再結晶した)冶金学的最終状態に鑑みれば、予期できないものであり、当該特性はコーティングの属性および作用に影響を与えやすいものである。
【0029】
詳しくは、低温におけるジルコニウム合金のα相(稠密六方格子結晶構造の「Zr−α」で表される)は、通常700〜1000℃の温度範囲においてβ相(体心立方格子結晶構造の「β−Zr」で表される)に変換される。Zr−α構造からβ−Zr立方構造に変化する際、合金は局所的な寸法変動を受ける。これらの変動は先験的に、ジルコニウム系内層を覆うであろう外層の機械的強度にとって好ましくない、というのも、とりわけそれらの膨張係数が一致しないからである。これらの接着の困難さは、Zr−α相よりもβ−Zr相においてより速く拡散し、基材とそのコーティングとの間の境界面を改変させ得る化学的存在物の拡散機構によって、強められる。
【0030】
また、本発明は、本発明の製造プロセスによって得られるかまたは得ることのできる核燃料被覆管に関する。
【0031】
また、本発明は、境界層を有する核燃料被覆管であって:
i)重量表示で100〜3000ppmの鉄を含むジルコニウム合金からなる内層を含む基材;
ii)基材の上に配置された、クロムまたはクロム
系合金から選択される保護材料からなる少なくとも1つの外層;および
iii)内層と外層との間に配置された、立方晶構造のZrCr
2、六方晶構造のZr(Fe,Cr)
2、または立方晶構造のZrFe
2から選択される少なくとも1つの金属間化合物を含む境界材料からなる境界層
を含む、核燃料被覆管に関する。
【0032】
境界層は、内層の構成物質であるジルコニウム合金が重量表示で100〜3000ppmの鉄を含む場合であって内層の上に配置される少なくとも1つの介在層が存在していない場合に、ステップb)に従って基材上への外層のHiPIMS堆積を行う間に形成される。
境界層は通常、特に内層と外層の間に配置される。
【0033】
予想外なことにそれは、脆い種類の機械的特性が金属間化合物について知られているにも拘らず、基材に関する外層の接着性を低下させない。
【0034】
さらに、蒸気存在下での酸化のもとでは、高温、実際には非常に高い温度(例えば1200℃)においてさえ、少なくとも1つの金属間化合物を主として含むかまたは全面的に含む境界層が分厚くなることを本発明者らは見出した。またここで、予想外なことに、金属間化合物に想定される固有の脆性と、理論的には製造ステップの間、実際にはその後の使用中および/または諸条件下
もしくは所定の事故状況下においてさえ発生し得る境界面応力とがあるにも拘らず、全体的な剥離は見受けられない。
【0035】
好ましくは、境界層は10nm〜1μmの平均厚みを有する。
【0036】
また、本発明は、i)ジルコニウム系内層と、内層の上に配置された、タンタル、モリブデン、タングステン、ニオブ、バナジウム、ハフニウムまたはそれらの合金から選択される少なくとも1つの介在材料からなる少なくとも1つの介在層とを含む基材、およびii)基材の上に配置された、クロムまたはクロム合金から選択される保護材料からなる少なくとも1つの外層を含む、複合型核燃料被覆管に関する。
【0037】
この場合、介在材料または保護材料を、任意の種類のプロセス、例えばHiPIMSスパッタリングプロセスとは異なるマグネトロンカソードスパッタリングによる物理蒸着のプロセスによってそれぞれ内層上または基材上に堆積させてもよい。
【0038】
本発明による、つまり本発明の製造プロセスによって得られるかまたは得られやすい、複合型であるかもしくは非複合型であるかまたは境界層を有するこれらの類の核燃料被覆管は、本明細書中に記載される本発明の上記製造プロセスの1つ以上の代替的形態、とりわけ核燃料被覆管の構造および/または組成に関する代替的形態に応じて提供され得る。
【0039】
これらの代替的形態は、とりわけ、限定はしないが:内層、内部コーティング、ジルコニウム合金またはクロム合金の組成、外層の構造、例えば本明細書中、とりわけ本発明の製造プロセスの説明の中で詳しく記載されているような外層の構造に関するものである。
【0040】
これらの被覆管の形状は、それらが管の形態または、より詳しくは2つのサブユニットの集合によって生じる板の形態で提供され得るような形状である。
【0041】
また、本発明は、下記の一連のステップ:
A)タンタル、モリブデン、タングステン、ニオブ、バナジウム、ハフニウムまたはそれらの合金から選択される少なくとも1つの介在材料からなる少なくとも1つの介在層をジルコニウム系内層上に堆積させることによって基材を作製するステップ;
B)クロムまたはクロム合金から選択される保護材料からなる少なくとも1つの外層を基材上に堆積させるステップ
を含む、複合型核燃料被覆管を製造するプロセスに関する。
【0042】
ステップA)および/またはB)による堆積は、物理蒸着またはパルス電解によって行うことができる。
【0043】
物理蒸着は、カソードスパッタリング、より詳しくはマグネトロン型のカソードスパッタリング、さらに詳しくは(好ましくは本明細書中に示す1つ以上の特徴による)HiPIMSスパッタリングプロセスであってもよい。
【0044】
介在層がハフニウムからなる場合、その厚みは1nm〜1μmである。
【0045】
また、本発明は、水を特に蒸気の形態で含む多湿雰囲気下での酸化および/または水素化に対抗するための、これらの種類の被覆管の使用に関する。
【0046】
また、本発明は、水素を含む水素化雰囲気下、特に、50モル%超の水素および/または付加的な水(特に蒸気の形態の水)を含む水素化雰囲気下における水素化に対抗するための、これらの種類の被覆管の使用に関する。
【0047】
多湿雰囲気または水素化雰囲気はさらに、空気、窒素、二酸化炭素またはそれらの混合物から選択される付加的な気体を含んでいてもよい。
【0048】
好ましくは、これらの使用の目的は:
― 多湿雰囲気または水素化雰囲気が、25〜1400℃(実際には25〜1600℃でさえある)の温度、より詳しくは200〜1300℃の温度、さらに詳しくは1200〜1300℃(実際には1300〜1600℃でさえある)の温度であり;かつ/または
― (特に温度が1200〜1300℃である場合に)少なくとも5000秒以内、より詳しくは1000〜5000秒の間であり;かつ/または
― 0.1〜300℃/秒の温度上昇速度の存在下であり;かつ/または
― 水による核燃料被覆管の急冷(特に25〜400℃の温度で起こる急冷)を行った後での
酸化および/または水素化に対抗することである。
【0049】
発明の詳細な説明
本発明の記載において、「含む」、「組み込む」、「包含する」、「含有する」、「からなる」などの動詞およびその活用変化形は、非限定的用語であり、したがってこれらの用語の前に挙げられた最初の(1つ以上の)要素および/または(1つ以上の)ステップに加えられる付加的な(1つ以上の)要素および/または(1つ以上の)ステップの存在を排除するものではない。しかしながら、これらの非限定的用語はさらに、他のいずれをも排除して最初の(1つ以上の)要素および/または(1つ以上の)ステップのみを対象とする具体的な実施形態を対象とするものであり、その場合、非限定的用語はさらに、限定的用語「から構成される」、「構成する」およびその活用変化形を対象とするものである。
【0050】
「および/または」という表現は、これらのうちのたった1つ、両方とも、実際にはそれらの混合または組み合わせさえも同時に表すことを目的として要素を連結させることを対象とするものである。
【0051】
要素またはステップについての不定冠詞「1つ」の使用は、特に明記しない限り、複数の要素またはステップの存在を排除するものではない。
【0052】
請求項における括弧内のいかなる引用符号も、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきでない。
【0053】
さらに、特に明記しない限り、示されたパラメータの範囲には端点の値が含まれ、示された温度は、大気圧での実施のために考慮されるものである。
【0054】
本発明の製造プロセスは:
i)核燃料に接触するかまたは面していることを意図されたジルコニウム系内層を含む基材;および
ii)基材の上に配置され、外部環境、特に冷却材に関して被覆管を保護することを意図された、少なくとも1つのクロム系外層
を含む核燃料被覆管を製造することを目的とする。
【0055】
好ましくは、内層と外層との間に、それらの層に関して拡散障壁としての役目を果たす少なくとも1つの介在層が配置される。この実施形態において、基材は、内層と少なくとも1つの介在層との組合せによって形成される。
【0056】
また、被覆管は、内層の下に配置された内部コーティングを含んでいてもよく、その厚みは例えば50〜150μmである。内部コーティングは、1つ以上の層を含んでいてもよい。それは、燃料との物理化学的および機械的な相互作用に関して被覆管の強度を向上させる内部の「内張り」(liner)を構成する。それは通常、熱間共押出によって内層の製造中に得られる。
【0057】
内層はジルコニウム系であり、つまり内層は、重量表示で50%超、詳しくは90%超、さらに実際には95%超のジルコニウムからなる。
【0058】
より具体的には、内層および/または内部コーティングはジルコニウムまたはジルコニウム合金からなる。ジルコニウム合金は、重量表示で:
― 0〜3%、好ましくは0〜1.2%のニオブ;
― 0〜2%、好ましくは0〜1.3%のスズ;
― 0〜0.5%、好ましくは100ppm〜2000pmの鉄;
― 0〜0.2%のクロム;
― 0〜0.2%のニッケル;
― 0〜0.2%の銅;
― 0〜1%のバナジウム;
― 0〜1%のモリブデン;
― 0.05〜0.2%の酸素
を含み得る。
ジルコニウム合金は、例えばジルカロイ−2またはジルカロイ−4である。
【0059】
ジルコニウム合金は、特に、原子力分野の制約を満たす合金、例えばジルカロイ−2、ジルカロイ−4、Zirlo(商標)、最適化Zirlo(商標)またはM5(商標)から選択され得る。これらの合金の組成は、重量表示で、例えば下記を含むような組成である:
― ジルカロイ−2合金:1.20〜1.70%のSn;0.07〜0.20%のFe;0.05〜1.15%のCr;0.03〜0.08%のNi;900〜1500ppmのO;残余はジルコニウムである。
― ジルカロイ−4合金:1.20〜1.70%のSn;0.18〜0.24%のFe;0.07〜1.13%のCr;900〜1500ppmのO;0.007%未満のNi;残余はジルコニウムである。
― Zirlo(商標)合金:0.5〜2.0%のNb;0.7〜1.5%のSn;0.07〜0.28%の、Fe、Ni、Crから選択される少なくとも1つの元素;200ppm以下のC;残余はジルコニウムである。
― 最適化Zirlo(商標)合金:0.8〜1.2%のNb;0.6〜0.9%のSn;0.090〜0.13%のFe;0.105〜0.145%のO;残余はジルコニウムである。
― M5(商標)合金:0.8〜1.2%のNb;0.090〜0.149%のO;200〜1000ppmのFe;残余はジルコニウムである。
【0060】
基材の上に配置される少なくとも
1つの外層は、クロムまたはクロム合金(特に、原子力分野での使用および/または放射線照射下での使用が可能な任意のクロム合金)から選択される保護材料からなる。
【0061】
より詳しくは、保護材料を成り立たせているクロム合金は、ケイ素、イットリウムまたはアルミニウムから選択される少なくとも1つの合金元素を例えば0.1〜20原子%の含有量で含み得る。
【0062】
少なくとも1つの外層は、場合によって柱状構造体を有する。
【0063】
好ましくは、柱状構造体の構成要素である柱状粒は100nm〜10μmの平均径を有する。
【0064】
少なくとも
1つのクロム
系外層は、下記の一連のステップ:
a)基材の表面のイオンエッチングを行うステップ;
b)高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HiPIMS)プロセスを用いて基材の上に少なくとも1つの外層を堆積させるステップ
による本発明の製造プロセスを用いて基材の上に堆積される。
【0065】
さらにまた、ターゲットを構成しているマグネトロンカソードは保護材料からなる。
【0066】
ステップa)およびb)は、基材の最終層の上で、つまり少なくとも1つの介在層によってコーティングされているかまたはコーティングされていないかのいずれである内層を基材が含むのかに応じてそれぞれジルコニウム系内層の上または最終介在層の上で、行われる。
【0067】
少なくとも1つの介在層を内層の上に配置するためには、エッチングステップa)の前に行われる下記の一連のステップ:
a’)内層の表面のイオンエッチングを行うステップ;
b’)マグネトロンカソードが少なくとも1つの介在材料からなる、高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HiPIMS)プロセスを用いて、少なくとも1つの介在層を内層の上に堆積させることによって基材を作製するステップ
を行うことが可能である。
【0068】
この実施形態は、HiPIMSスパッタリングプロセスを用いて少なくとも1つの介在層を堆積させるという点で、本発明による複合型核燃料被覆管を製造するプロセスの具体的な事例を構成する。
【0069】
基材と、エッチングステップa)もしくはa’)および/または堆積ステップb)もしくはb’)により使用されるマグネトロンカソードとを隔てる距離は、40〜150mmであり得る。
【0070】
ステップa)および/またはa’)によるイオンエッチングは、HiPIMSエッチングプロセスまたはカソーディックアークエッチングプロセスを用いて行われ得る。
【0071】
ステップb)またはb’)によるHiPIMSスパッタリングプロセスを用いるには、カソードスパッタリング反応器内に存在するターゲットに印加される分極インパルスを使用した分極電圧の確立が必要である。
【0072】
マグネトロンカソードは、平坦なカソードまたは中空のカソード、例えば円筒形のカソードであり得る。
【0073】
分極電圧および分極インパルスに関して結果として生じる値の範囲は、300cm
2の表面積を有するマグネトロンカソードについての示度として与えられる。印加される分極電圧はターゲットの表面積に反比例して変動することが知られているため、特に当業者であれば、推奨される出力密度範囲を保つためにマグネトロンカソードに印加される分極インパルスについて示される値を調整し得る。
【0074】
ステップa)および/またはa’)において用いるHiPIMSエッチングプロセスは、マグネトロンカソードを−1000〜−500Vの電圧で分極させることを含み得る。
【0075】
ステップa)および/またはa’)によるカソーディックアークエッチングプロセスは、アークカソードを−20〜−50Vの電圧で、または50〜250Aの強度によって分極させることを含み得る。
【0076】
ステップa)および/またはa’)によるHiPIMSエッチングプロセスまたはカソーディックアークエッチングプロセスは、基材を−800〜−600Vの電圧で分極させることを含み得る。
【0077】
ステップa)および/またはa’)の間に生成したCr
+イオンは、堆積させる外層の接着性を向上させるために基材表面を食刻する。
【0078】
ステップb)および/またはb’)によるHiPIMSスパッタリングプロセスは通常、マグネトロンカソードの分極を−1000〜−500Vの電圧が残存するように維持することを含む。
【0079】
基材の分極に関しては、ステップa)および/またはa’)によるエッチングのステップに対して減らされ、その結果として、例えば、ステップb)および/またはb’)によるHiPIMSスパッタリングプロセスは基材を−200〜0Vの電圧で分極させることを含む。
【0080】
ステップb)および/またはb’)によるHiPIMSスパッタリングプロセスは、マグネトロンカソードに分極インパルスを印加することを含み得、当該分極インパルスの各々は、下記特徴のうちの少なくとも1つを呈し得る:
― 10〜200μ秒の持続時間;
― 50〜1000A、例えば50〜200Aの平均瞬間ピーク強度;
― 50kW〜2MW、より詳しくは100kW〜2MWの瞬間出力;
― 0.2〜5kW/cm2、より詳しくは1〜5kW/cm
2の出力密度。
【0081】
分極インパルスは、50〜600Hz、より詳しくは100〜600Hzの周波数によりマグネトロンカソードに印加され得る。
【0082】
ステップa)および/もしくはa’)によるHiPIMSエッチングプロセスまたはステップb)および/もしくはb’)によるHiPIMSスパッタリングプロセスは、少なくとも1つの希ガスを含むキャリアガスを使用して行われる。
【0083】
希ガスは、アルゴン、キセノンまたはクリプトンから選択され得る。
【0084】
キャリアガスの圧力は、例えば0.2〜2Paである。
【0085】
本発明の製造プロセスの具体的な実施形態によれば、ステップb)および/またはb’)によるHiPIMSスパッタリングプロセスを用いて基材の上に最初の外層を堆積させた後、ステップb)および/またはb’)の間に、ステップb)および/またはb’)によるHiPIMSスパッタリングプロセスと同時に行われるHiPIMSとは異なる種類のマグネトロンカソードスパッタリングプロセスを用いて付加的な(1つ以上の)外層の少なくとも一部を堆積させる。
【0086】
HiPIMSとは異なる種類のマグネトロンカソードスパッタリングプロセスは、例えば、ターゲットの分極が連続的(Direct Current 「直流」を表す「DC」)であるかまたは中程度の周波数のパルス状(「パルスDC」)であり数キロワットの瞬間出力を送達する分極電圧をもたらすような、プロセスである。
【0087】
ステップb)および/またはb’)によるHiPIMSスパッタリングプロセスと組み合わせて従来型マグネトロンPVDプロセスを用いる付加的な外層の堆積は、付加的な外層の堆積速度を上昇させることによって本発明の製造プロセスの工業操作の改善を可能にする。
【0088】
本発明の製造プロセスの最後には、1〜50μm、好ましくは3〜25μm、よりいっそう好ましくは3〜10μmの厚みを有する少なくとも1つの外層が得られる。外層の累積厚みは、通常は1〜50μm、さらに実際には2〜50μmである。
【0089】
基材上にいくつかの外層を堆積させてもよい。例えば、核燃料被覆管は、多層外部コーティングを構成すべく1〜50個の外層を含む。適切な場合には、例えば外層に熱処理を適用した後または、エッチングおよび堆積の条件を変えることによって、単層外部コーティングを構成すべく外層を融合させて単一の外層を得てもよい。
【0090】
本発明の製造プロセスの好ましい実施形態によれば、少なくとも1つの介在層は、タンタル、モリブデン、タングステン、ニオブ、バナジウム、ハフニウムまたはそれらの合金から選択される少なくとも1つの介在材料からなる。
【0091】
そのような介在層は、下記事象を制限する(実際には防止さえする)拡散障壁を構成する:
― 酸化クロムを生じる(1つ以上の)外層の酸化に加えてその消耗加速をもたらす、外層からジルコニウム系内層へのクロムの拡散;
― 燃料被覆管の機械的強度およびその冷却される能力を潜在的に低下させ得る、おおよそ1330℃超での共晶の形成。
【0092】
好ましくは、介在材料はタンタルである。
【0093】
タンタルまたはその合金は、少なくとも1つの耐熱性金属元素またはその合金と置換または併用されることができ、その物理化学的特性は1300℃までジルコニウム系内層と相性がよい。特に、1300℃以下では、耐火性金属元素またはその合金は共晶を形成せず、ジルコニウムおよび/またはクロムの中への拡散が制限される。
【0094】
タンタルは別として、そのような耐火性金属元素は例えば、モリブデン、タングステンまたはニオブである。
【0095】
これより、本発明のその他の主題、特徴および利点を、添付図を参照して非限定的な例示として与えられる本発明のプロセスの具体的な実施形態についての以下の記載の中で明記する。