【実施例】
【0054】
実施例1:2−ヒドロキシ−トリグリセリドTGM1の形成によって例証される、2−ヒドロキシ−トリグリセリドの合成方法
A.MOM保護基を有するアルファ炭素の水酸基において保護される、2−ヒドロキシ−オクタデカン酸の形成(2−メトキシメチルオキソーオクタデカン酸、
図1のAにおける式III、式中、R=−(CH
2)
6−CH=CH−(CH
2)
7−CH
3のcis異性体、およびOPG=−OCH
2OCH
3)。
i)酸の形成
2ーヒドロキシ−オクタデカン酸のナトリウム塩、メチルtert−ブチルエーテル(MTBE)および3Mの塩酸(HCl)を、機械的撹拌機能を有する反応器に投入する。それを透明な液体が得られるまで撹拌する。透明な溶解液が得られたなら撹拌を止め、その相を分離する。有機層を減圧濃縮して、粗製の2−ヒドロキシ−オクタデカン酸を得る(99%の収率)。
ii)エステル化
粗製の2−ヒドロキシ−オクタデカン酸[
図1のAにおける2−OHFA、式中、R=−(CH
2)
6−CH=CH−(CH
2)
7−CH
3のcis異性体]を、メタノール溶液(H2SO4硫酸中のMeOH)中に投入し、60℃に加熱する。炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)を用いて中和することにより、その反応を止める。得られた粗製の生成物を、MTBEを用いて抽出し、減圧濃縮し、そして2−ヒドロキシ−オクタデカン酸のメチルエステルを得る(96%の収率)。
iii)OH保護
2−ヒドロキシ−オクタデカン酸のメチルエステルを反応器に投入し、トルエン中に溶解する。クロロメチルメチルエーテル(CMME)およびp−トルエンスルホン酸(pTSA)を溶解液に加える。反応液を60分間撹拌し、飽和炭酸水素ナトリウム(NaHCO
3)を用いて中和する。2−メトキシメチルオキシ−オクタデカン酸のメチルエステルを得る。
iv)加水分解
2−メトキシメチルオキシ−オクタデカン酸のメチルエステルを反応器に投入し、テトラヒドロフラン(THF)中に溶解する。ヒドロキシ−カリウム(KOH)水溶液を、この溶液に加える。溶液を1時間かけて40°Cまで加熱する。反応を、HCl(3M)を用いて止め、抽出し、その後その有機層を減圧濃縮する。2−メトキシメチルオキシ−オクタデカン酸を得る[
図1のAにおける式III、式中、R=−(CH
2)
6−CH=CH−(CH
2)
7−CH
3のcis異性体、およびOPG=−OCH
2OCH
3](99%の収率)。
【0055】
B.トリ(2−メトキシメチルオキシ−オクタデセノイル)グリセロールの形成[
図1のBにおける式IV、式中、R=−(CH
2)
6−CH=CH−(CH
2)
7−CH
3のcis異性体、およびOPG=−OCH
2OCH
3]。
滴下漏斗および温度計を有する反応器、および不活性雰囲気下(N
2を用いて)において、2−メトキシメチルオキシ−オクタデカン酸[
図1のAにおける式III、式中、R=−(CH
2)
6−CH=CH−(CH
2)
7−CH
3のcis異性体、そしてOPG=−OCH
2OCH
3]をグリセロールおよび4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)に加える。それをジクロロメタン(CH
2Cl
2)中ですべて溶解し、そして5℃まで冷やす。溶液が冷え切った時に、滴下漏斗を使用して、CH
2Cl
2にN,N′−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)の溶液を加える。反応溶液を2−3日間、還流(40℃)で加熱した。反応溶液をセライトベッド上で濾過し、固形物を、CH
2Cl
2を用いて2回洗浄する。濾過液を飽和NaHCO
3、飽和NH
4Cl、飽和NaClを用いて洗浄する。有機層を硫酸マグネシウムMgSO
4で乾燥させ、濾過し、減圧濃縮する。約69%のトリグリセリドートリ(2−メトキシメチルオキシ−オクタデセノイル)グリセロールを含有する粗製の生成物を得る[
図1のBにおける式IV、式中、R=−(CH
2)
6−CH=CH−(CH
2)
7−CH
3のcis異性体、およびOPG=−OCH
2OCH
3]。粗製の生成物をフラッシュクロマトグラフィーによって精製して、90%の純度の化合物を得る。
【0056】
C.トリ(2−ヒドロキシ−オクタデセノイル)グリセロールを得るための脱保護[
図1のCにおける式I、式中、R=−(CH
2)
6−CH=CH−(CH
2)
7−CH
3のcis異性体]。
トリグリセリド−トリ(2−メトキシメチルオキシーオクタデセノイル)グリセロール[
図1のBにおける式IV、式中、R=−(CH
2)
6−CH=CH−(CH
2)
7−CH
3のcis異性体、およびOPG=−OCH
2OCH
3]を、アセトン中および水中に溶解し、そしてピリジニウム−パラ−トルエンスルホナート(ppt)を加える。それを、12時間還流で加熱する。反応を止め、アセトンを蒸発させ、MTBEとH
2Oを用いて抽出する。有機層を水で3回洗浄する。有機層をMgSO
4上で乾燥させ、濾過し、減圧濃縮する。ヒドロキシ−トリグリセリド、トリ(2−ヒドロキシ−オクタデセノイル)グリセロールを得る[
図1のCにおける式I、式中、R=−(CH
2)
6−CH=CH−(CH
2)
7−CH
3のcis異性体、=TGM1、表1参照](90%の純度)。プロセスの全収率は70%である。同様の手順を、上記される他のアシルラジカルを含む他の2−ヒドロキシ脂肪酸のナトリウム塩を用いて使用し、表1に記載される異なるTGMを得た。
【0057】
実施例2:癌の予防および/または処置における、本発明のヒドロキシ−トリグリセリドの使用
本発明のヒドロキシ−トリグリセリドが、腫瘍プロセスの予防および処置において応用できるかどうかを調査するために、次の2つのモデルを使用した:インビトロおよびインビボ。
【0058】
A)インビトロモデル
一方で、異なる種類の癌のヒト細胞を使用した。空気中において、ウシ胎児血清(10%)および他のサプリメントを有する培養培地RPMI1640またはDMEMにおいて、および本発明のトリグリセリドの存在下または欠如下において、72時間の間に異なる濃度で、5%CO
2および37℃で、その細胞をインキュベートした。本発明のヒドロキシ−トリグリセリドは、ヒト腫瘍細胞の増殖に対する高い効果を有すが、非腫瘍細胞(ヒト線維芽細胞、MRC5)の増殖に対しては高い効果を有さないことが観察することができた。このように、本発明の分子は、肺癌、脳神経膠腫、神経芽細胞腫(中枢神経系)、乳癌、前立腺癌、膵臓癌、白血病(リンパ腫と骨髄腫)、子宮頸癌、結腸癌および肝臓癌の増殖を止める効果を示したが、非腫瘍細胞(MRC5)に対する著しい活性を示さなかった(
図2および表2)。
【0059】
【表2】
特に
図2は、濃度およびインキュベーション時間に依存して、分子(A)TGM1、(B)TGM2、(C)TGM4および(D)TGM6によって生成された、ヒト肺癌細胞(A549)の増殖の阻害を示す。類似の実験を、異なる種類の腫瘍細胞のために本発明のTGMの残り部分を用いて実施した(表2参照)。前記表2は、様々な種類の癌の細胞増殖に対する、ヒドロキシ−トリグリセリドのおのおの1つのIC
50値を示す。IC
50値は、腫瘍細胞の数を半分に減少させる濃度である。表から理解できるように、ヒドロキシ−トリグリセリド(TGM)は強い力で腫瘍細胞の増殖を阻害することが可能である。対照的に、トリオレイン(オリーブオイルの主要なトリグリセリド)のような天然のトリグリセリドは、腫瘍細胞の増殖を阻害するには低い力を有するか、または阻害するには無力である。
【0060】
これらの結果は、オリーブオイルおよび他の天然オイルが、特定の種類の腫瘍の進行に対する予防効果を有するが、一旦癌が発症したならば治療効果を欠くという事実を明らかにする。対照的に、ヒドロキシ−トリグリセリドは、これらおよび以下にさらに示される他の結果によって実証されるように、高い抗腫瘍効果を有する。天然のトリグリセリド(トリオレイン)、およびヒドロキシ−トリグリセリドの両方の場合において、正常な非腫瘍細胞(MRC−5細胞)の増殖に対して関係する阻害効果は観察されない。これらのデータは、薬剤投与においてこれらの分子のすべてが毒性を持たないことを正当化する。
【0061】
B)インビボモデル
別に留意することとして、インビボでのヒドロキシ−トリグリセリドの抗腫瘍効果を確認するために、ヒト非小球性肺癌細胞を注射により注入(動物当たり5×10
6cellsのA549)した免疫阻害性のヌードラット{[Crl:Nu(Ico)−Fox1]Nu/Nu}を用いた。一旦腫瘍が見えるようになった、ヒト腫瘍細胞注入の10日後に、初めてその腫瘍の大きさを測定した。その時点でビヒクル(水:対照)を用いて、または400mg/kgのトリオレイン(TO)(経口、1日に1度)および上に示した異なるヒドロキシ−トリグリセリド(表1)を用いてその動物を処置し、そして28日間の間、腫瘍体積をモニタリングした。
図3は、デジタルバーニヤキャリパーゲージを用いて測定した、腫瘍の最終的な体積(mm
3)を示す。腫瘍の体積を以下の方程式を用いて計算した。
【0062】
【数1】
式中、vはその腫瘍の体積、wはその幅、およびlはその長さである。全ての群における動物の数は8であった。
図3から理解されるように、天然のトリグリセリド、トリオレインにより生じた腫瘍増殖阻害はそれほど大きくなかったが、本発明のヒドロキシ−トリグリセリドの抗腫瘍効果は非常に顕著で優位なものであった(P<0.01)。全ての場合において、本発明の分子がその動物を殺すことなく腫瘍の体積を縮小することが観察でき、このことは、それらが癌の処置に有効であることを実証している。腫瘍の著しい縮小を引き起こすことに加えて、それらの分子は非腫瘍細胞または試験動物で中毒作用を生じさせないため、経口投与され、薬剤投与において毒性を持たない。
図2と
図3、および表2に掲示された結果は、ヒドロキシ−トリグリセリドが栄養補助的および医薬的アプローチによって、異なる種類の癌の処置および予防に有効であることを明確に示す。
【0063】
実施例3:代謝および心血管の病状の予防および/または処置における、本発明のヒドロキシ−トリグリセリドの使用
代謝および心血管の病状は密接に関係している。我々の社会を特徴づける栄養過剰は、肥満および過剰体重の問題を引き起こすだけではない。それは、糖尿病、脂質異常症、高血圧症、脳卒中、動脈硬化症、発作などの発症にも関係する。これらの病状はすべて早死にの危険性を増大させ、またさらには死の原因ともなり得る。この意味で、特定の天然オイルはこの種の病状に対する特定の効果を示すが、それらの能力には限界がある。対照的に、本発明の分子はこの種の病状の進行に対する重要な効果がある。代謝および心血管の病状の予防および処置のための本発明の化合物の効果の研究を可能にするために、高血圧ラットを使用した(SHR種、自然発症性高血圧ラット)。これらのラットは肥満症、高血圧症、脂質異常症(高コレステロール血症と高トリグリセリド血症)、糖尿病、メタボリック症候群および他の関連する健康問題を示す。
【0064】
A)血圧に対する本発明の化合物の効果
約300グラムのSHR種(自然発症性高血圧ラット)の高血圧ラットを、TGM1を用いて9日間(400mg/kg、12時間ごと、経口)処置した。処置を始める前(基底)および9日後に収縮期血圧を測定した。代謝の病状/心血管の病状を有するこれらの動物において、このTGM1用いた処置は、約25mmHgの血圧降下を引き起こしたが、600mg/kgのTGM1を用いた14日間の処置は、TGM1に関しては37mmHg、およびTGM6に関しては52mmHgまで収縮期血圧のより大きな降下さえ引き起こした(
図4および表3)。この血圧降下作用は、本発明の分子が心血管の病状の予防および処置の高い可能性を有していること、および栄養補助的および医薬的レベルにおいて、高血圧症の予防および処置に使用され得ることを明確に示している。
【0065】
【表3】
【0066】
B)グルコースレベルに対する本発明の化合物の効果
同時に、SHRラットにおける高レベルの血糖症を制御する、したがって、糖尿病を予防または治癒するための、ヒドロキシ−トリグリセリドの効果の研究を行った。約300グラムの高血圧ラット(SHR)を、TGM1を用いて9日間の間(400mg/kg、12時間ごと、経口)処置した。処置を始める前(基底)および9日後に、血漿グルコースを測定した。全ての場合において、12時間の断食させた続けたラットで血漿測定を実行した。このように、9日の処置後の血液中のグルコースレベルは、本発明の分子に対して25%まで減少した(
図5および表4)。
【0067】
【表4】
【0068】
したがって、SHRラットは正常なラットによって示された値よりも高い血糖レベルを有し、またこの糖尿状態は本発明において記載されるTGMにより、調整することができる。これらの結果は、本発明のTGMが血糖指数を調整できること、および血液中のグルコースの高い値を標準化することができることを明確に実証している。これによりこれらの結果は、ヒドロキシ−トリグリセリドが栄養補助的および医薬的アプローチによって、糖尿病の予防および処置に有効であることを実証する。
【0069】
C)コレステロールおよび脂質のレベルに対する、本発明の化合物の効果
また、脂質異常症の予防および処置のためのヒドロキシ−トリグリセリドの効果を研究するために、SHRラットを使用した。一方で、異なる経口投与および異なる期間で実施された処置は、試験動物において総コレステロールおよびその分画の血漿レベルの減少を引き起こした(表5および表6)。これらの減少は顕著で著しく、血漿値におけるコレステロールは代謝/心血管疾患を有さない動物において見られる値まで回復した。これらの結果は、本発明の分子が高コレステロール血症の予防および処置に有用であることを示している。
【0070】
【表5】
【0071】
【表6】
【0072】
同様に、本発明のヒドロキシ−トリグリセリドを用いた経口処置は、SHRラットの血漿におけるトリグリセリドのレベルを減少させた(表7)。これらの結果は、本発明の分子が高トリグリセリド血症の予防および処置に対して有用であることを実証している。また、上に示したコレステロールのレベル対するヒドロキシ−トリグリセリドの効果に加えて、これらの結果は、本発明の分子が一般的に脂質異常症の予防および処置に対して有用になり得ることを示している。
【0073】
【表7】
【0074】
D)体重に対する本発明の化合物の効果
最後に、本発明のヒドロキシ−トリグリセリドは2週間の経口処置後に、SHRラットの体重の減少を引き起こした(表8)。これらの結果は、本発明の分子が肥満および過剰体重の予防および処置に有用であることを実証している。
【0075】
【表8】
【0076】
メタボリック症候群は、肥満症、高血圧症、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、糖尿病などを含む、様々な代謝の病態および心血管の病態の併発により特徴付けられる疾患である(Kaur、2014)。現在、薬剤は、通常、患者が示すおのおの1つの症状に対して適用されるため、メタボリック症候群の処置の可能性は限定されている。体重、高血圧、グルコースレベル、コレステロールおよびトリグリセリドを減少させる本発明のヒドロキシ−トリグリセリドによって示された効果は、本発明の分子がメタボリック症候群の予防および処置に非常に価値のある手段になり得ることを実証する。
【0077】
SHRラットおよび他の種類のラットにおいて発症する一連の健康問題は、代謝および心血管の病状が関係していることを実証している。現在は各症状が、別々に治療されるため、代謝および心血管の病状を有する患者は、肝臓の健康を危険にさらし得る数多くの薬剤を受け取る。ヒドロキシ−トリグリセリドは、研究されたすべての心血管および代謝の異常に対する効果を示した。この理由で、例えば、高血圧症、アテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、脳卒中、発作、不整脈、高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、他の脂質異常症、肥満症、糖尿病、メタボリック症候群などのような、代謝性および心血管性の病気を医薬的および栄養補助的アプローチにより予防し処置するために、本発明の分子が有効であると結論を下すことが可能である。
【0078】
実施例4:神経変性疾患の予防および/または処置における、本発明のヒドロキシ−トリグリセリドの使用
神経変性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、異なる種類の痴呆、異なる種類の硬化症、成人ポリグルコサン身体疾患(APBD)、神経障害性疼痛、脊髄損傷、老化などの様々な種類の障害を含む。多数の神経系疾患は炎症を引き起こす傾向があり、また、反対に、炎症は様々な種類の神経学的問題、主として疼痛を引き起こす。アルツハイマー病のような特定の神経変性疾患が炎症プロセスを引き起こすという事実は周知であり、この疾患は、炎症プロセスにより部分的に引き起こされることを実証している(Krstic and Knuesel、2013;Liu and Chan、2014)。神経変性のプロセスのほとんどの場合では、膜脂質のレベルの変更が発見された(Mielke and Lyketsos、2010)。本発明のヒドロキシ−トリグリセリドは、ニューロンの膜における脂質バランスを取り戻し、および、これによりこれらの病状の予防および処置に寄与する。
【0079】
A)グリコーゲン分岐酵素1(GBE1)の活性に対する本発明の化合物の効果
本発明の分子が、グリコーゲン分岐酵素1(GBE1)の活性、および膜へのその結合を調整することができるということが観察可能であった(表9)。この酵素に対する変更は、APBDとして知られる神経変性のプロセスを引き起こす(Kakhlon et al.、2013)。この酵素(Y329S)の位置329におけるチロシンの改質が、GBE1の活性の低下を引き起こすことが説明されている。これは、細胞活性を妨げるグルコース集合体を形成して沈殿する、グリコーゲンのより少ない分岐を生じさせる(Kakhlon et al.、2013)。これは、特定の臓器の機能における障害、運動障害、および場合によっては、認知低下を引き起こす。我々は、本発明のヒドロキシ−トリグリセリドがネイティブGBE1(野性型、wt)とY329S変異体の膜への結合を調整可能であること、および、通常の状態では非常に低いY329S形体の活性を増大させることが可能であると確証することができた(表9)。この理由で、本発明の分子はポリグルコサン身体疾患(APBD)の予防および処置に有効である。
【0080】
【表9】
【0081】
B)ラットのアルツハイマー病における本発明の化合物の効果。
アルツハイマー病は患者の認知力低下を引き起こし、生活の質が徐々に失われる神経変性疾患である。この疾患には高い社会的および病床的コストがかかり、また同様な疾患に間接的に影響を与える。その発生率は60歳の時点から4−5年ごとに2倍になり、80歳を超える人々の約3分の1に影響を与えている。アルツハイマー病を有する患者の脳には、ホスファチジルエタノールアミンおよび不飽和脂肪酸のレベルに影響を与えるであろう脂質の変更あることが観察されている(Guan et al.、1999)。また、神経変性のプロセスは、ニューロンの死を加速するであろう、脳における炎症プロセスに関連する(Hoozemans et al.、2011)。
【0082】
アルツハイマー病を研究するために、ヒトにおいてよく生じるアルツハイマー病に現れる5つの突然変異体を用いて、遺伝子組換えラットモデルを使用した(Tagとして記号化し、Tgと略した)。このアルツハイマー病のモデルは非常に深刻であり、動物は生後2か月で既に認知障害を示す。この実験を実施するために、若いラット(生後3か月の)および老いたラット(生後10か月の)の両方を、本発明のヒドロキシ−トリグリセリド(50mg/kg day、経口)を用いて3か月間、使用および処置した。そのラットには、空腹になるように低カロリー食を与え、機器の8つのアーム(非対称的な)のうち4つに餌が置かれた放射状迷路における試験を行い、その試験を完了するまでに犯されたエラーの数を定量した。試験の第1週のラットによって犯されたエラーの数を、100%であると見なした。
【0083】
この意味で、ヒドロキシ−トリグリセリドを用いた処置は、ニューロンの膜の脂質の標準化を可能にし、神経炎症(老人斑の発現に関連する)を減少させ、ヒトにおいてよく生じるアルツハイマー病の5つの特有な突然変異体の存在によって引き起こされた、ヒトアルツハイマー病を有する遺伝子組換えラットの認知パラメータの回復を引き起こす。これらの動物において、本発明のヒドロキシ−トリグリセリドは、初期のアルツハイマー病を有する若い動物、および進行した病態を有する老いたラットの両方の認知パラメータの改善をもたらした(
図7および表10)。例えば、若いラットおよび老いたラットにおいて、TGM6が試験の認知結果をどのように著しく改善したのかだけでなく、時間にわたる試験の遂行の改善(100%未満のエラーの数の減少)さえもどのようにもたらしたのか、
図7のAから理解することができる。同様に、TGMの残りが認知試験の達成における著しい改善をもたらし、このことが、これらの分子のうちのいくつかを用いる認知回復が全体的であったことを意味し、健康な動物の認知値と同様な値(100%)が記されている。
【0084】
【表10】
対照動物を、ビヒクル(生理食塩水)を用いて、および他の動物を50mg/kgの示された化合物(経口)を用いて、毎日処置した。
【0085】
C)アルツハイマー病遺伝子を有するDrosophila melanogasterの認知パラメータおよび生存日数に対する本発明の化合物の効果。
認知パラメータおよび老化に対するTGMの効果を調査するために、ヒトアルツハイマー病に対応する遺伝子変更を有するDrosophila melanogasterのハエにおける、アルツハイマー病の他のモデルを使用した。使用したハエは、UAS−Aβ human−Tau 2N4R (stock 33771) のハエと、elav−GAL4
c155(stock 8760)のハエとの異種交配から生まれた第一世代であった。アルツハイマー病の典型的な2つのタンパク質を過剰発現させるこのモデルは、これらの動物の命は約1か月であり、また彼らの生涯にわたって化合物の予防効果を確認するために前記化合物を幼虫の餌に加えることができるため非常に重宝し、上記されたモデルに相補的なものである。また、これによって老化に対する効果を確認することができ、およびこれらの動物の寿命の予測値もまた確認することができる(時間に対する生存日数)。
【0086】
この意味で、ヒトアルツハイマー病(F1)を有するハエは、健常対照である「Oregon」ハエ種と比較してより大きい認知低下を示す。本発明のヒドロキシ−トリグリセリドの効果を評価するために、TGMのそれぞれ1つ(100μM)をこれらの動物により消費される餌に加えた。クライミングの走地性試験において同じ有益な効果を観察し得た(
図7のBおよび表11)。この試験では、ビヒクルまたはTGMの1つを用いて処置した25匹のハエにおいて、行動性運動活性を調査した。この研究において、空気が入り得るようにスポンジを用いて閉じられた開口部を有する、ガラスシリンダー内にそのハエを導入した。テーブル上で強力な風を与えることにより筒の地面(底)にハエを吹き付け、20秒間それらの行動の時間を記録(Timed)した。この時間が経過すると、底から15cmの印を通過した(超えた)ハエの数を数えた(走地性試験)。通常、90%を超える健康な若いハエは、20秒以内にラインを通過した。しかしながら、老化の症状またはアルツハイマー病を有すると、正常なハエと比較して行動性運動活性(線を超えたハエの割合)は低下した。この文脈において、本発明のヒドロキシ−トリグリセリドを用いる処置は、アルツハイマー病に関するこの認知低下を回避し、これによって、疾患のハエの認知能力は健康なハエの認知能力と同様になった。特に、TGM6を用いた処置は認知パラメータの回復を引き起こし、これによってクライミング試験の結果は正常なハエにおける観察された結果とは、実際には判別不可能となった(
図7のB)。ハエにおける認知パラメータに対する有効な効果も、他のTGMによって示された(表11)。実際、アルツハイマー病を有する対照群では、生後23日の時点でラインを超えたハエはいなかった。この意味で、異なるヒドロキシ−トリグリセリドは、アルツハイマー病を有するハエの50パーセントを超える命が、36日まで達する認知の値の増加とともに、走地性試験値における顕著な増加を引き起こした(表11)。
【0087】
【表11】
【0088】
これらの結果は、本発明の化合物が、一般的に老化、および特にアルツハイマー病の負の効果の予防および処置に効果的であることを実証している。別に留意することとして、アルツハイマー病を有するDrosophila melanogasterのハエの生存日数は、平均で28日であった。本発明のヒドロキシ−トリグリセリドによる処置は、平均寿命において45日までの増加、言い換えれば、対照動物の50%より大きい増加を生じさせた。これらの結果は、本発明の分子が生理的および病理学的老化の処置に有効であると考えられることから、神経変性のプロセスの減少が動物の平均寿命における顕著な増加を生じさせることを実証している。したがって、これらの結果は、本発明の化合物が、一般的に神経学的問題および特にアルツハイマー病の予防および処置に有効であることを実証している。
【0089】
実施例5:膜構造に対する本発明のヒドロキシ−トリグリセリドの効果
この実験は、TGMを持たない、または5mol%のTGM1、TGM2、TGM4またはTGM6の欠如下または存在下で、パルミトイル−オレオイルホスファチジルエタノールアミンのX線回折学的TGM(小角、SAXS)を有する、膜の生物物理学的特性を示す(
図6)。理解され得るように、TGMの存在が、ノンラメラ傾向の増加を順に示すラメラから六方晶(L−a−H
II)への遷移温度の値の減少から明らかになる、横方向の表面張力の非常に重要な減少を引き起こす(表12)。この構造が細胞シグナル伝達に必要な特定の膜タンパク質の固定を可能にするので、この効果は膜の機能性に対する重要な影響を有している。この理由で、TGMは、種々様々な疾患に関係して失われる細胞シグナルの増殖を可能にするため、細胞シグナル伝達に対する有益な影響を有することが言える。膜の構造に対して示されるこの効果は、オリーブオイルまたは魚油などの特定の油が、癌、心血管/代謝疾患、および神経性/神経変性疾患などの様々な疾患の予防にとって重要で有益な特性を有する理由を部分的に説明する。
図6および表12は、各場合において小さな差異を有するが、全てのTGMが似た効果をどのように有するのかを明確に示している。固体−液体の遷移(Tm)およびラメラから六方晶への遷移(T
H)における効果を、1mol%の示されたTGMのそれぞれ1つの欠如下(POPE対照)または存在下でX線回折法によって、パルミトイル−オレオイルホスファチジルエタノールアミン(POPE)の膜において測定した。
【0090】
【表12】
【0091】
したがって、本発明において、一般的な病因が細胞膜に位置する脂質の構造および/または機能の変更はもちろんのこと、血漿脂質プロフィールの変更にも基づく疾患の予防および/または処置において成功裡に使用された、ヒドロキシ−トリグリセリドの効果が実証された。その結果として、生体膜の構造および機能に対する干渉は、本発明において包含された分子の全てによって判定された病理学的プロセスを予防および/または回復させる最終結果を用いて、特定の細胞機能を効果的に修正することができる。
<引用文献>
【0092】
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