特許第6348239号(P6348239)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6348239アナライト濃度測定法、凝集蛍光材料含有粒子及び検査デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6348239
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】アナライト濃度測定法、凝集蛍光材料含有粒子及び検査デバイス
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20180618BHJP
【FI】
   G01N33/543 575
   G01N33/543 521
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-561011(P2017-561011)
(86)(22)【出願日】2017年8月31日
(86)【国際出願番号】JP2017031500
【審査請求日】2017年11月22日
(31)【優先権主張番号】特願2016-169030(P2016-169030)
(32)【優先日】2016年8月31日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩本 匡志
(72)【発明者】
【氏名】杉本 理
(72)【発明者】
【氏名】脇屋 武司
(72)【発明者】
【氏名】北原 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】池上 真亜紗
【審査官】 磯田 真美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−156494(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/124802(WO,A1)
【文献】 特開2012−051816(JP,A)
【文献】 特開2014−012654(JP,A)
【文献】 特開2010−117244(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0348753(US,A1)
【文献】 ENGELS, J.F. et al.,Aggregation-induced emissive nanoparticles for fluorescence signaling in a low cost paper-based imm,Colloids and Surfaces B: Biointerfaces,2016年 3月18日,Vol. 143,pp. 440-446,URL,http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0927776516302077
【文献】 HU, R. et al.,AIE macromolecules: syntheses, structures and functionalities,Chem. Soc. Rev.,2014年,Vol. 43,pp. 4494-4562
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N3 33/48 − 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナライトを含む試料溶液と、前記アナライトとの結合パートナーを有し前記結合パートナーに前記アナライトが結合すると凝集蛍光する凝集蛍光材料含有粒子を含む溶液と、を混合して混合液を調製する工程と、
前記混合液中の前記凝集蛍光材料含有粒子から発生する蛍光強度を測定する工程と、
アナライト濃度に対する蛍光強度の検量線と前記蛍光強度を対比して、前記蛍光強度と前記混合液中のアナライト濃度を関連付ける工程と、を備えることを特徴とするアナライト濃度測定法。
【請求項2】
前記蛍光強度を測定する工程において、
第一、第二時点間の吸光度差から前記混合液の吸光度の変化量を測定する工程、及び
第三、第四時点間の散乱光強度差から前記混合液の散乱光強度の差を測定する工程、の少なくともいずれか一方の工程を行うことを特徴とする請求項1に記載のアナライト濃度測定法。
【請求項3】
前記アナライト濃度を関連付ける工程において、
前記吸光度の変化量及び/又は前記散乱光強度の変化量と、
散乱光強度変化量に基づく検量線及び/又は吸光度変化量に基づく検量線を用いて、
前記蛍光強度と前記アナライト濃度を関連付けることを特徴とする請求項2に記載のアナライト濃度測定法。
【請求項4】
コア粒子と、
前記コア粒子上に設けられた、アナライトと結合する結合パートナーを有し、前記結合パートナーに前記アナライトが結合すると凝集蛍光する凝集蛍光材料と、を備えることを特徴とする凝集蛍光材料含有粒子。
【請求項5】
前記凝集蛍光材料は、不溶性担体に凝集蛍光性部位が局在化していることを特徴とする請求項4に記載の凝集蛍光材料含有粒子。
【請求項6】
前記凝集蛍光材料は、前記不溶性担体の表面にグラフト鎖として設けられていることを特徴とする請求項5に記載の凝集蛍光材料含有粒子。
【請求項7】
前記凝集蛍光材料は、さらに親水性基を有することを特徴とする請求項4から6のいずれか一項に記載の凝集蛍光材料含有粒子。
【請求項8】
不溶性担体と、
アナライトと結合する結合パートナーを有し前記結合パートナーに前記アナライトが結合すると凝集蛍光する凝集蛍光材料を含む、前記不溶性担体上に設けられた検出部と、
を備えることを特徴とする検査デバイス。
【請求項9】
前記不溶性担体は、不溶性メンブラン担体であることを特徴とする請求項8に記載の検査デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アナライト濃度測定法、凝集蛍光材料含有粒子及び検査デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光を検知して試料中の測定対象物質を測定する方法(蛍光法)は、簡便かつ高感度な測定が可能であり、イムノプレートリーダなどの分析装置を使用して自動化が可能なことから、臨床検査をはじめ多くの分野で利用されている。蛍光法は高効率、簡便さ等の点で極めて優れている。
しかしながら、蛍光を検知して試料中の測定対象物質を測定する方法では、測定対象物質に起因しない、いわゆるバックグラウンド蛍光を生じることがある。バックグラウンド蛍光は、試料中の測定対象物質以外の内在性物質が自家蛍光を有するために生じる場合、試料中のタンパク質等に非特異的に付着した蛍光色素から生じる場合、あるいは測定対象物質が注入されている容器(プレートなど)から生じる場合などがある。いずれの場合も、感度、特異性に影響を与えるため、蛍光を検知して試料中の測定対象物質を測定する方法に共通した問題点であり、バックグラウンド蛍光の影響を受けずに測定する方法が要求されていた。
特許文献1および2には被検体に実質的に蛍光性でない色素を有する被検体色素複合体を抗原とする抗体が示されている。しかしながら、このような抗体は特定の抗原にのみ対応したものであり、検体中に含まれる複数のタンパクの影響を受けて、バックグラウンド蛍光が小さくならない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-5324号公報
【特許文献2】特開2007-171213号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】有機合成化学協会誌:Vol.71、No.9、p961(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、凝集発光性材料含有粒子を用いることによりバックグラウンド蛍光を抑制しながらも、良好な検出感度で測定できる免疫学的測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に記載されるものを含む。
(1)アナライトを含む試料溶液と、アナライトとの結合パートナーを有し結合パートナーにアナライトが結合すると凝集蛍光する凝集蛍光材料含有粒子を含む溶液と、を混合して混合液を調製する工程と;混合液中の凝集蛍光材料含有粒子から発生する蛍光強度を測定する工程と;アナライト濃度に対する蛍光強度の検量線と蛍光強度を対比して、蛍光強度と混合液中のアナライト濃度を関連付ける工程と;を備えるアナライト濃度測定法。
(2)蛍光強度を測定する工程において、第一、第二時点間の吸光度差から混合液の吸光度の変化量を測定する工程、及び第三、第四時点間の散乱光強度差から混合液の散乱光強度の差を測定する工程、の少なくともいずれか一方の工程を行う(1)に記載のアナライト濃度測定法。
(3)アナライト濃度を関連付ける工程において、吸光度の変化量及び/又は散乱光強度の変化量と、散乱光強度変化量に基づく検量線及び/又は吸光度変化量に基づく検量線を用いて、蛍光強度とアナライト濃度を関連付ける(1)または(2)に記載のアナライト濃度測定法。
(4)コア粒子と、コア粒子上に設けられた、アナライトと結合する結合パートナーを有し、結合パートナーにアナライトが結合すると凝集蛍光する凝集蛍光材料とを備える凝集蛍光材料含有粒子。
(5)凝集蛍光材料は、不溶性担体に凝集蛍光性部位が局在化している(4)に記載の凝集蛍光材料含有粒子。
(6)凝集蛍光材料は、不溶性担体の表面にグラフト鎖として設けられている(5)に記載の凝集蛍光材料含有粒子。
(7)凝集蛍光材料は、さらに親水性基を有する(4)から(6)のいずれか一つに記載の凝集蛍光材料含有粒子。
(8)不溶性担体と、アナライトと結合する結合パートナーを有し結合パートナーにアナライトが結合すると凝集蛍光する凝集蛍光材料を含む、不溶性担体上に設けられた検出部とを備える検査デバイス。
(9)不溶性担体は、不溶性メンブラン担体である(8)に記載の検査デバイス。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、凝集発光性材料含有粒子を用いることによりバックグラウンド蛍光を抑制しながらも、良好な検出感度で測定できる免疫学的測定方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1(A)、図1(B)は凝集蛍光材料含有粒子を用いたアナライト濃度測定法の概念図である。
図2図2(A)はテストストリップの斜視図、図2(B)、図2(C)は使用状態を示す図である。
図3図3(A)は、凝集蛍光材料含有検査デバイスの斜視図、図3(B)はその断面図、図3(C)は使用の状態を示す概念図である。
図4図4(A)は従来のイムノクロマトグラフィー用のテストストリップの斜視図、図4(B)、図4(C)は使用状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、実施形態を挙げて本発明の説明を行うが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
従来の有機系蛍光色素は、溶液中や固体状態で使用する場合、色素分子同士が凝集して発光効率、発色性、光感受性や光増感性などの機能が著しく低下し、色素本来の特性を制限してしまうことが大きな問題となっていた。ところが、近年、凝集により著しく蛍光量子収率が向上する分子についての研究成果が幾つか報告されている(例えば、非特許文献1参照)。この現象は凝集誘起発光(aggregation induced emission: AIE)と呼ばれ、その原理は分子内構造変化が凝集により妨げられることに起因していると考えられている。このAIEの出現により、これまでの問題点を克服し、医療分野、工業分野などでの有機系蛍光性色素の新たな応用が期待されている。
現在、臨床検査薬においては、アナライトに対する結合パートナーを担持した担体粒子を利用する粒子増強免疫凝集測定法(microparticle enhanced light scattering agglutination assay)用の測定試薬が多数実用化されている。ところが、アナライトに対する結合パートナーの結合のON-OFF制御に課題があったため、ON−OFF制御がより容易なシステムが求められていた。本発明者らは、AIEを用いて、アナライトに対する結合パートナーの結合のON-OFF制御を行なうことを着想した。
【0010】
[アナライト濃度測定法]
実施形態にかかる測定法は、(イ)アナライトを含む試料溶液と、アナライトとの結合パートナーを有し結合パートナーにアナライトが結合すると凝集蛍光する凝集蛍光材料含有粒子を含む溶液と、を混合して混合液を調製する工程と;(ロ)混合液中の凝集蛍光材料含有粒子から発生する蛍光強度を測定する工程と;(ハ)アナライト濃度に対する蛍光強度の検量線と蛍光強度を対比して、蛍光強度と混合液中のアナライト濃度を関連付ける工程と、を備える。本実施形態によれば、凝集蛍光材料含有粒子の凝集蛍光特性に基づき、アナライトと結合パートナーの結合のON-OFF制御が容易な、アナライト濃度測定を行なうことができる。この測定法によれば、後述の感度の高い凝集蛍光材料含有粒子を用いることより、アナライト濃度が低い場合であっても、アナライトの存否やアナライト濃度を精度よく測定できる。また後述の第一試液(R1)と第二試液(R2)からなる測定試薬を、適宜、組み合わせて用いることで、既存の測定装置を用いて、広いレンジ幅でアナライト濃度測定を行なうことができる。
【0011】
図1(A)、図1(B)に示すような、コア粒子6の表面に凝集蛍光材料からなるグラフト鎖2を設けた凝集蛍光材料含有粒子1を用いた場合を例に挙げて、免疫凝集蛍光測定法のメカニズムについて以下に概要を説明する。図1(A)に示すように、凝集蛍光材料含有粒子1を含む溶液において、凝集蛍光材料含有粒子1の表面に設けられたグラフト鎖2は、グラフト鎖2中の親水性基、例えば水酸基の影響で溶媒中に揺らいでいる。この溶液にアナライト5を含む試料溶液(検体)を混合すると、図1(B)の一部拡大図に示すように、隣接する第一、第二のグラフト鎖21,22のそれぞれの第一、第二の結合パートナー31,32にアナライト5が結合することで、グラフト鎖同士21,22の凝集が生じる。このグラフト鎖21,22の凝集により、グラフト鎖(もしくはグラフト鎖中の所定の基)の回転の自由度が低下することに起因して蛍光が生じるものと考えられる。本発明は上記知見に基づいて完成したものである。以下、各工程等について詳細に説明する。
【0012】
(ロ)蛍光強度を測定する工程においては、第一、第二時点間の吸光度差から前記混合液の吸光度の変化量を測定する工程、及び第三、第四時点間の散乱光強度差から前記混合液の散乱光強度の差を測定する工程、の少なくともいずれか一方の工程を行うことが好ましい。
【0013】
(ハ)アナライト濃度を関連付ける工程においては、吸光度の変化量及び/又は散乱光強度の変化量と、散乱光強度変化量に基づく検量線及び/又は吸光度変化量に基づく検量線と、を用いて蛍光強度とアナライト濃度を関連付けることが好ましい。
【0014】
本実施形態によれば、このような工程を有することから、実質的に低濃度から高濃度までを包含する検量線を得ることができ、高感度かつダイナミックレンジの広い測定を行うことができる。
ここで、第1、第2、第3、第4の時点は混合液の調製開始から1000秒後までの間からそれぞれ選ばれることが好ましい。混合液の調製開始から1000秒以内とすることにより、測定試薬設計の自由度を確保しながら所望の感度と所望のダイナミックレンジの両方を満たすことが可能となるからである。
散乱光強度の変化量および吸光度の変化量の測定は、共通の波長を用いて行うことが好ましい。また散乱光強度の変化量および吸光度の変化量の測定は、550から900nmの波長の範囲内でおこなうことが好ましい。
【0015】
以下に、本実施形態に用いられるアナライト等の説明を交えながら、実施形態にかかる測定法について詳しく説明していく。
なお本明細書において「一つの測定」とは、一つの反応槽において行われる一連の反応と測定を意味する。自動分析装置における測定を例にとれば、第一試液と試料との混合と、それに引き続く第二試液(アナライトとの結合パートナーを担持した不溶性担体粒子を含む溶液)の添加混合、散乱光強度の変化量の測定および吸光度の変化量の測定を一つの反応槽で行うことを意味する。
また、本発明における「アナライトを含む試料溶液」には、上記のように第一試液(緩衝液)と混合され希釈された試料溶液も含まれるものとする。
また、本明細書において「散乱光強度」の語は、「散乱光度」と記載することもあるが、同義である。
(凝集蛍光材料含有粒子)
凝集蛍光材料含有粒子については後述する。
【0016】
(不溶性担体)
本発明の測定法において、不溶性担体として用いられる素材は、測定試薬の成分として利用可能な物質であれば特に制限はないが、具体的にはラテックス、金属コロイド、シリカ、カーボンなどが挙げられる。不溶性担体粒子の平均粒子径は0.05〜1μmまで適宜選択できるが、本発明の測定試薬においては散乱光強度測定の照射光波長よりも250〜450nm小さい粒子径が好適であり、具体的には300〜450nm小さい粒子径が好適である。例えば、照射波長が700nmである場合の平均粒子径は250nm〜400nmとなる。不溶性担体粒子の平均粒子径は粒度分布計や透過型電子顕微鏡像などで一般に使用される方法により確認することができる。
不溶性担体としては、上述の他にも、後述図2図3を挙げて説明するように、不溶性メンブレン担体やプラスチック材料を用いてもよい。プラスチック材料としては特に制限はないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0017】
(試料)
本発明の測定法は種々の生体試料を測定対象とし、特に限定されないが、例えば血液、血清、血漿、尿などの体液である。
【0018】
(アナライト)
本発明の測定法のアナライトはタンパク質、ペプチド、アミノ酸、脂質、糖、核酸、ハプテンなど、理論的に測定法により測定可能な分子であれば特に制限はない。例としてCRP(C反応性タンパク質)、Lp(a)(リポプロテイン(a))、MMP3(マトリクスメタロプロテイナーゼ3)、抗CCP(環状シトルリン化ペプチド)抗体、抗リン脂質抗体、抗梅毒抗原抗体、RPR、IV型コラーゲン、PSA、AFP、CEA、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)、NT−proBNP、インスリン、マイクロアルブミン、シスタチンC、RF(リウマチ因子)、CA―RF、KL−6、PIVKA―II、FDP、Dダイマー、SF(可溶性フィブリン)、TAT(トロンビン-アンチトロンビンIII複合体)、PIC、PAI、XIII因子、ペプシノーゲンI・IIや、フェニトイン、フェノバルビタール、カルバマゼピン、バルプロ酸、テオフィリンなどが挙げられる。
【0019】
(結合パートナー)
本発明の測定法に供される結合パートナーとしては、アナライトに結合する物質としてタンパク質、ペプチド、アミノ酸、脂質、糖、核酸、ハプテンなどが挙げられるが、特異性および親和性から抗体や抗原の利用が一般的である。また分子量の大小、天然や合成といった由来に特に制限はない。
【0020】
(測定試薬)
本発明の測定法に供される測定試薬の構成に関して特に制限はないが、臨床検査の分野で汎用される自動分析装置での使用を考慮した場合、緩衝液からなる第一試液(R1)とアナライトに対する結合パートナーを担持した担体粒子を含む第二試液(R2)の2液で構成された測定試薬が一般的である。
【0021】
(測定試薬の成分)
本発明の不溶性担体粒子を用いる測定試薬の成分は、反応の主成分である結合パートナーを担持した不溶性担体の他に、試料のイオン強度や浸透圧などを緩衝する成分として、例えば、酢酸、クエン酸、リン酸、トリス、グリシン、ホウ酸、炭酸、及びグッドの緩衝液や、それらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩などを含んでも良い。また凝集形成を増強する成分としてポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、リン脂質ポリマーなどの高分子を含んでも良い。また、凝集の形成をコントロールする成分として高分子物質、タンパク質、アミノ酸、糖類、金属塩類、界面活性剤類、還元性物質やカオトロピック物質など汎用される成分を1種類、または複数の成分を組み合わせて含んでも良い。また消泡成分を含んでも良い。
【0022】
(分析装置)
本発明の測定法には、測定に要する総反応時間が10分以内と迅速かつ簡便な自動分析装置の利用が適しており、特に特開2013−64705号公報に開示されるような、散乱光強度と吸光度をほぼ同時に測定できる自動分析装置が好ましい。
【0023】
(散乱角度)
本発明に用いられる散乱光強度測定の散乱角度に特に制限はないが、15度〜35度にするのが望ましく、より好ましくは20度〜30度である。散乱角度を前記の範囲にすることによって、散乱光を検知するための受光部において透過光の影響を強く受けず、また散乱光を受光する能力に関しても有利となる。
【0024】
(散乱光強度測定)
本発明に用いられる散乱光強度測定の光源や照射光波長には特に制限はないが、測定法には可視光領域が適しており、特に650〜750nmが好適である。散乱光強度の変化量を測定する2時点の測光間隔に特に制限はなく、一般的には間隔が長い方がより高感度となる。
前述の自動分析装置においては、アナライトを含む試料溶液と、アナライトとの結合パートナーを担持した不溶性担体粒子を含む溶液との混合直後から、最大1000秒までの任意の2時点における散乱光強度測定と吸光度測定の変化量を、それぞれ測定できるが、混合直後から300秒以内の2時点の散乱光強度の変化量と吸光度の変化量の両方をそれぞれ測定することにより、第一試液、第二試液を通じた一つの測定(一試料)あたりの総測定時間を10分以内とすることができ、市販されている各種自動分析装置の最大検体処理速度の利益を享受することができる。
【0025】
(吸光度測定)
本発明に用いられる吸光度測定の波長に特に制限はないが、散乱光強度の変化量を測定する波長に対して±25%の範囲内にある同一または別の波長が適しており、550nmから900nmが好適である。より好適な範囲としては570nmから800nmである。また、本発明に用いられる吸光度測定の波長としては、前記の範囲内において1波長測定あるいは、散乱光強度測定に用いる波長と比較して短波長側の主波長と、長波長側の副波長とを組合せた2波長測定を利用することができる。例えば、散乱光強度測定の波長を700nmに設定した場合、吸光度測定の主波長を550から699nm、副波長を701から900nmの範囲で設定することができる。
吸光度の変化量を測定する2時点の測光間隔に特に制限はないが、散乱光強度測定よりも短い方が適しており、散乱光強度測定の1/2以下の測光間隔が望ましい。また、散乱光強度測定の1/3以下の測光間隔が望ましい場合もある。例えば、散乱光強度測定の測光間隔を300秒に設定した場合、吸光度測定の測光間隔は150秒以下である事が望ましく、100秒以下であることがより望ましい場合もある。また、測光開始時点はアナライトを含む試料溶液と、アナライトとの結合パートナーを担持した不溶性担体粒子を含む溶液との混合直後が望ましい。
【0026】
(変化量)
本発明に用いられる光量(散乱光強度および吸光度)の変化量は、2時点間の差や比、単位時間あたりの換算値など、粒子増強免疫凝集測定法に適用可能な算出法であれば特に制限はない。
【0027】
(アナライトの存在量と関連付ける工程)
実施形態に係る測定法においては、既知濃度のアナライト含有試料を用いて、散乱光強度測定、吸光度測定それぞれの検量線を個別に作成し、アナライト低濃度域は高感度な散乱光強度測定の検量線、アナライト高濃度域はダイナミックレンジの広い吸光度測定の検量線に基づき濃度を算出する。ダイナミックレンジが広い吸光度測定では、より広い濃度範囲で検量線を作成することができる。
【0028】
(感度ならびにダイナミックレンジ)
感度とは測定可能な最小のアナライト量を意味し、一般的に当該アナライト量における光量変化が大きいほど高感度である。実施形態に係る測定法においては、低濃度のアナライト測定値の正確性や再現性が良好であることが高感度の指標となる。
またダイナミックレンジとは測定可能な最大のアナライト量までの範囲を意味する。実施形態に係る測定法のダイナミックレンジは、アナライト濃度に比例した光量変化が検出できる範囲となる。
粒子増強免疫凝集測定法の感度ならびにダイナミックレンジは、測定試薬に含まれる結合パートナーを担持した不溶性担体粒子に依存し、前述のように両性能は二律背反の関係にある。
【0029】
[凝集蛍光材料含有粒子]
上述の実施形態に係る測定方法に使用し得る凝集蛍光材料含有粒子は、コア粒子と、コア粒子上に設けられた、アナライトと結合する結合パートナーを有し、結合パートナーにアナライトが結合すると凝集蛍光する凝集蛍光材料と、を備える。凝集蛍光材料は、粒子表面に凝集蛍光性部位が局在化していることが好ましい。凝集蛍光材料は、コア粒子の表面にグラフト鎖として設けられていることが好ましい。凝集蛍光材料は、さらに親水性基を有することが好ましい。
【0030】
(コア粒子)
コア粒子としては、有機高分子微粒子を用いることができる。有機高分子微粒子としては、(1)フェニル基を有する重合性単量体、メタクリロイル基を有する重合性単量体、アクリロイル基を有する重合性単量体からなる群から選ばれる一種類以上の重合性単量体と、(2)グラフト重合開始基を含む重合性単量体と、を共重合させた重合体からなる粒子を用いることができる。有機高分子微粒子は特に限定されず、従来より免疫測定分野で用いられてきた粒子を用いることができる。
【0031】
フェニル基を有する重合性単量体としては、例えば、スチレン、クロルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の重合性不飽和芳香族類が挙げられる。また、ジビニルベンゼン等の架橋性単量体も含まれ、適量を存在させても構わない。メタクリロイル基またはアクリロイル基を有する重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸エチルn-プロピル、(メタ)アクリル酸−2ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル等の重合性不飽和カルボン酸エステル類、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等の重合性不飽和カルボン酸類、またこれらの塩類、例えば、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリレート等の重合性不飽和カルボン酸アミド類が挙げられる。また、エチレングリコール(メタ)アクリレートやプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド等の架橋性単量体も含まれ、適量を存在させても構わない。これらの単量体は、1種または2種以上を混合して使用することができる。
これらのうち、特にスチレンと2−クロロプロピオニルオキシエチルメタクリレート(以下、CPEMと記載することもある)からなる共重合体、及びスチレンとメタクリル酸メチル及びCPEMからなる共重合体が好ましい。
また、(2)の単量体の量としては、後述するグラフト鎖の開始点となることから、その密度を決定する重要な因子である。少なすぎると開始点が少なく、グラフト鎖の密度が低下し、色調の低下につながること、多すぎると粒径の単分散性および分散安定性の低下等の問題が考えられるため、(1)の合計量に対して、0.1〜20モル%が好ましいが、イムノクロマト試薬の特徴に合わせて任意に選択できる。
【0032】
上記共重合体の重合方法としては、従来より公知の重合方法を用いることができ、分散重合法、懸濁重合法、乳化重合法、ソープフリー乳化重合法が挙げられるが、ソープフリー乳化重合法が好ましい。
ソープフリー重合の際には、本発明の1つである有機高分子微粒子を構成する単量体の他に、重合開始剤が必須となる。また、水溶性単量体、その他添加剤等を適宜添加することも可能である。
重合開始剤としては、従来より公知の重合開始剤を用いることができ、例えば、水溶性アニオン開始剤であれば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶液が使用可能である。水溶性カチオン開始剤であれば、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩(以下「V−50」と表記)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)二塩酸塩等の水溶液が使用可能である。中でも水溶性カチオン開始剤が好ましく、V−50が更に好ましい。
微量の水溶性単量体としては、カチオン性、アニオン性、ノニオン性単量体いずれも用いることができる。カチオン性としてはN−n−ブチル−N−(2−メタクリロイルオキシ)エチル−N,N−ジメチルアンモニウムブロミド(以下「C4−DMAEMA」と表記)、N−(2−メタクリロイルオキシ)エチル−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド等、アニオン性としては、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンスルホン酸等,ノニオン性としては、アクリルアミド,ポリエチレングリコールモノメトキシメタクリレート等が挙げられるが、カチオン性が好ましく、C4−DMAEMAが更に好ましい。
その他添加剤としては、メタノール、エタノール等のアルコール類等が挙げられ、
適宜、適量を用いればよい。
上記高分子粒子の好ましい粒径の範囲は50〜300nmであり、さらに好ましい粒径の範囲は200〜300nmである。
【0033】
(凝集発光性材料)
診断薬用蛍光粒子を構成する凝集発光性材料(AIE)としては特に限定はないが、例えば、ケトイミンホウ素錯体誘導体、ジイミンホウ素錯体誘導体、テトラフェニルエチレン誘導体、アミノマレイミド誘導体、アミノベンゾピロキサンテン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、ヘキサフェニルベンゼン誘導体、ヘキサフェニルシロール誘導体等が挙げられる。上述の誘導体の中でも、合成が簡便であり、市販もされていることからテトラフェニルエチレン誘導体が好ましい。
【0034】
テトラフェニルエチレン誘導体としては、例えば、4つ以上のフェニル基もしくはフェニル基誘導体により置換されたエチレン誘導体が挙げられる。具体的には、次式(1)で示されるようなエチレン誘導体が挙げられる。
【化1】


(式中、Rは水素原子、臭素原子、水酸基のいずれかを表し、R、R、Rのそれぞれは水素原子又は水酸基を表す。)
より具体的には、テトラフェニルエチレン、1−(4−ブロモフェニル)−1,2,2−トリフェニルエチレン、テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エチレンが挙げられる。なお、式(1)のテトラフェニルエチレン誘導体はRが脱離して、合成高分子からなるコア粒子の表面にグラフト重合されることが好ましい。
【0035】
ヘキサフェニルベンゼン誘導体としては、例えば4つ以上のフェニル基もしくはフェニル基誘導体により置換されたベンゼン誘導体が挙げられる。具体的には、ヘキサフェニルシロール又はヘキサフェニルベンゼンが挙げられる。
トリフェニルアミン誘導体のとしては、例えば4−(ジ−p−トリアミノ)ベンズアルデヒドが挙げられる。
【0036】
凝集性発光材料の数平均分子量は、10000以下であることが好ましい。上記上限を超えると凝集発光性材料が溶解しづらくなり粒子形態に加工できなくなったり、含有量が低下する傾向があるからである。
【0037】
上述の各誘導体は、一部の基が脱離して、合成高分子からなるコア粒子の表面にグラフト重合することが好ましい。また上述の誘導体がコア粒子の表面に直接グラフト重合することの他に、上述の誘導体がポリマーの主鎖や側鎖に組み込まれた形態としてコア粒子にグラフト重合されてもよい。
【0038】
凝集蛍光材料にアナライトと結合する結合パートナーを導入する方法としては、特に制限はないが、例えば、凝集蛍光材料の表面に、バインダーを介して、結合パートナーを設ける方法等が挙げられる。具体的には、凝集蛍光材料の表面に1級アミノ基を有する材料を被覆した後に、結合パートナーを導入する方法が挙げられる。かかる方法により、凝集蛍光材料粒子の表面に、硫黄原子を介して1級アミノ基を結合させることで、結合パートナーが形成される。1級アミノ基を有する材料としては、例えば2-アミノエタンチオール、3−アミノプロパンチオール、4−アミノブタンチオール等の1級アミノ基を備えるチオールが挙げられる。これらのうち2-アミノエタンチオールが好ましい。
【0039】
凝集蛍光材料含有粒子は、平均粒径が100〜2000nm、好ましくは、200〜1000nm、更に好ましくは、300〜800nmの粒子が用いられる。CV値(粒径の変動係数)は10%以下であることが好ましい。尚、CV値は、「粒径分布の標準偏差÷平均粒径×100」により算出される。複合粒子の平均粒径が100nm未満であると、視認性が劣り、2000nmを超えると、メンブレン中で目詰まりを起こす可能性が高まる。尚、本明細書における平均粒径とは、走査型電子顕微鏡により得られた任意の1視野における100個以上の粒子画像を解析して求めた値の平均値を示す。
【0040】
凝集蛍光材料含有粒子の平均粒径は、例えば、有機高分子微粒子を形成させる際における制御、グラフト鎖を形成させる際における制御等のいずれでも可能である。測定法の性能と製造の容易さを考慮すると有機高分子微粒子を形成させる際及びグラフト鎖を形成させる際の組み合わせで最適な粒径に制御することが好ましい。例えば、200nmの有機高分子微粒子にグラフト鎖長を250nmとして、トータル粒径を700nmにしたり、500nmの有機高分子微粒子にグラフト鎖長を100nmとしてトータル粒径を700nm等にしたりすることが可能である。
【0041】
有機高分子粒子にグラフト鎖を付与する方法としては、制御リビングラジカル重合として知られている従来より公知の重合方法を用いることができ、例えば、原子移動ラジカル重合法(ATRP)、ニトロキシドを媒介とする重合法(NMP)、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合法等が挙げられるが、ATRPが好ましい。これは、例えば、K. Matyjaszweski, J. Xia, Chem. Rev., 101 (2001), pp. 2921-2990,M. Kamigaito, T. Ando, M. Sawamoto, Chem. Rev., 101 (2001), pp. 3689-3745に記載の方法を用いて行うことができる。
ATRPで使用する遷移金属錯体は,一電子酸化還元反応により可逆的に炭素ラジカルを生成することができる。中心金属は,ルテニウム,銅,鉄,ニッケル,パラジウム,ロジウム,コバルト,レニウム,マンガン,モリブデン等が挙げられる。配位子は,多座アミン,ピリジン系,ホスフィン,シクロペンタジエン等が挙げられ,中心金属との組み合わせにより,遷移金属触媒の活性が適切に制御される。また,高原子価の遷移金属を用いる場合には,アスコルビン酸,糖,2価のスズ等を用いて,低原子価の遷移金属を生成することもできる。
【0042】
グラフト鎖の鎖長としては、全体の粒径が100〜700nmであれば、特に限定されない。検査試薬として利用する場合には、検査試薬の特徴に合わせて、最適な鎖長を選択することができるが、粒径が小さすぎると、感度が低下し、大きすぎると目詰まりしやすい等の問題が生じてくるため、好ましくは、200〜600nm、更に好ましくは、300〜500nmである。
また、グラフト鎖の鎖長は、粒子の色調を決定する重要な因子の1つである。鎖長が長ければ、凝集発光が強くなりやすく、鎖長が短くなれば、凝集発光が弱くなりやすい。
以上より、グラフト鎖の鎖長としては、好ましくは10〜240nmの範囲である。
また、前記高分子粒子におけるグラフト鎖の表面密度は、0.05〜0.20chaims/nmである事が好ましい。0.20chains/nmより表面密度が大きいと、イムノクロマト試薬として利用する場合にメンブレン上を良好に流れなくなる恐れがある。0.05chains/nmより表面密度が小さいと、十分な感度が得られなくなる恐れがある。
【0043】
本発明の粒子を検出用担体として用いた診断用イムノクロマト試薬も本発明の1つである。診断用イムノクロマト試薬として用いられる項目は、例えば、インフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、ロタウイルス、ノロウイルス等が挙げられる。これらの項目に対応する抗体を本発明のイムノクロマト用複合粒子に結合させることで抗体感作粒子を作製し、イムノクロマト試薬とすることができる。
【0044】
また、本発明の診断用イムノクロマト試薬を用いれば、例えばイムノクロマトグラフ法の原理を用いた診断用テストストリップにおいて、従来のようなコンジュゲートパッドに含有させる工程が必要なくなる。つまり、被検物質をメンブレン上に滴下した後、メンブレン上に免疫反応部位として固定化した被検物質である抗原(または抗体)に対する抗体(または抗原)と結合、凝集させることによって、検体中の被検物質の存在を判定することができる。このようなイムノクロマト測定方法もまた、本発明の1つである。なお、本発明の粒子は、フロースルー型免疫アッセイにも当然に使用できる。
【0045】
[粒子の用途]
本発明の診断薬用蛍光粒子は、表面に抗原(または抗体)を結合することにより、抗原-抗体反応を利用した酵素免疫測定法、蛍光免疫測定法、ラテックス凝集法、イムノクロマトグラフ法等の生物学的反応を利用した種々の方法に好適に用いることができる。
本発明によれば上述の診断薬用蛍光粒子を用いる免疫測定試薬が提供される。
【0046】
アナライト結合部を予め付与した凝集蛍光材料を使う方法の他にも、凝集蛍光材料含有粒子を作った後にアナライト結合部を付与してもよい。粒子の表面にアナライト結合部を付与させる方法としては特に限定はされず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、抗原(または抗体)を含む緩衝液中に診断薬用蛍光粒子を浸漬させ、一定温度で一定時間インキュベートするなどの物理吸着による結合方法や、化学吸着による結合方法がある。なかでも、着色ラテックス粒子のカルボキシ基と抗体の含有するアミノ基を架橋させ、結合させる化学吸着がより好ましい。
【0047】
本発明によれば、充分に強い発光を示す診断薬用蛍光粒子を作製できることにより、診断薬用蛍光粒子を免疫測定用試薬として使用した際に、目視判定性が格段に向上し、検出感度を向上させることができる。また粒子分散度が低いことから、試薬調製時のロット再現性が向上する。
【0048】
以下に診断薬用蛍光粒子の具体的用途と用語について説明する。
【0049】
(テストストリップ)
図2(A)のテストストリップは、プラスチック製粘着シートaと;プラスチック製粘着シート上に配置された、アナライトとの結合パートナーが固定化された検出部cを少なくとも1つ有する不溶性メンブレン担体bと;不溶性メンブレン担体bの一端に配置された吸収パッドgと;を備える。ここでは、検出部を複数設けることにより、他項目の検査を可能にしている。
図2(A)のテストストリップによれば、図2(B)に示すように、被検物質をいきなり不溶性メンブレン担体bに検体を展開させることができる。また検出部に上述の感度の高い凝集蛍光材料含有粒子を用いることより、図2(C)に示す検査工程における目視確認が極めて容易になる。
一方、図4(A)に示す従来のイムノクロマトグラフィー用のテストストリップは、コンジュゲートfを有するコンジュゲート塗布パッドdを必要としていた。また図4(B)に示すように、被検物質をコンジュゲートに感作させる工程が必要であった。また図4(C)に示す、検査工程にける目視観察に課題が残っていた。
以上より、図2(A)の実施形態に係るテストストリップによれば、コンジュゲートに感作させる工程が不要なため、検査時間を短縮することができる。またコンジュゲート塗布パッドdが不要になる点において、テストストリップの簡略化とコスト削減を図ることができる。さらに、上述の感度の高い凝集蛍光材料含有粒子を用いることより、従来のテストストリップよりも、目視確認が極めて容易になる。
【0050】
(凝集蛍光材料含有検査デバイス)
図3(A)は、凝集蛍光材料含有検査デバイス8の斜視図、図3(B)はその断面図、図3(C)は使用の状態を示す概念図である。図3(B)に示すように、凝集蛍光材料含有検査デバイス8は、不溶性担体としての試料容器10と;試料容器10の底部にライン状に設けられた凝集蛍光材料を備える検出部11、12と;を備える。試料容器10の内部には希釈液が納められている。なお、使用時に剥離可能に、試料容器10の主面表面を覆うポリエチレンもしくはポリプロピレン等のフィルム状のカバーを備えてもよい。検出部を複数設けることにより、複数項目の検査が可能になる。図3(C)の一部拡大図に示すように、アナライトが入っている(可能性がある)試料を試料容器内に導入することにより、検出部11、12の凝集蛍光材料の第一、第二のグラフト鎖21、22に設けられた、結合パートナー31,32にアナライト5が結合することで、凝集蛍光が生じ、アナライトの存在を検出することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例をもって本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の構成に何ら限定されるものではない。
【0052】
[凝集発光性材料含有粒子の作製]
撹拌翼、還流用冷却管、窒素導入管を取り付けた200mL容の3つ口フラスコに、脱イオン水100g、スチレン(関東化学社製)3.6g(34mmol)、重合開始剤V−50(和光純薬工業社製)0.136g(0.5mmol)を添加し、100rpmで攪拌しながら、容器内を窒素置換した後、60℃で重合を開始した。重合開始4時間後に2−クロロプロピオニルオキシエチルメタクリレート0.375g(1.7mmol)を添加し、合計で10時間重合を行った。
得られた白色溶液をメッシュフィルターでろ過、遠心分離により精製(14500rpm、15分、精製回数4回以上)し、目的の有機高分子微粒子を得た(コア粒子1aとする)。
【0053】
[グラフト鎖の付与(作製)]
100mL容の2つ口フラスコに、水中に分散したコア粒子1a(1.0wt%,30mL)、MAA0.517g(6.0mmol)、金属錯体として塩化銅(I)/トリス[2−(ジメチルアミノ)エチル]アミン(150μmol)、還元剤としてアスコルビン酸21.1mg(120 μmol)を添加し、スターラーで撹拌しながら、容器内を窒素置換した後、30℃で2時間重合を行った。
得られた白色溶液を遠心分離により精製(14,500rpm、15min、精製回数3回以上)し、微粒子表面に有機グラフト鎖を付与した(第一微粒子とする)。
【0054】
[凝集発光材料の付与]
第一微粒子1.0gをエチレングリコール中に分散し、テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エチレン0.578g(1.46mmoL)、 塩酸1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド0.28g(1.46mmoL)を加え、室温で6時間反応を行った。得られた分散液を水を用いて繰り返し遠心分離により精製した(第二微粒子とする)。
【0055】
[結合パートナーの付与]
20mL容のサンプル瓶に、第二微粒子の水分散体(0.5wt%、10mL)と、2-アミノエタンチオール(1μmol)を加え、室温で24h撹拌し、反応させた。
得られた溶液を、遠心分離により精製(14,500rpm,20min,精製回数4回以上)し、凝集発光性材料含有粒子を得た。
【0056】
[適用例]
<インフルエンザウィルス測定用試薬の作製>
1.複合粒子標識抗A型インフルエンザウィルスモノクローナル抗体の調製
前述の凝集蛍光材料含有粒子を含む溶液2mLを12,000rpmで5分間遠心し沈降させた後、上清を除去し、重量%濃度が2%となるよう20mM MES緩衝液(pH6.5)で懸濁した。この粒子懸濁液500μLへ、5mg/mL A型インフルエンザモノクローナル抗体(Clone#622212)200μL、15mg/mL 1‐エチル‐3‐[3‐(ジメチルアミノ)プロピル]カルボジイミド(EDC)160μL、20mM MES緩衝液(pH6.5)140μLを添加し、室温で2時間転倒混和した。その後、12,000rpmで5分間遠心し粒子を沈降させた後、上清を除去し、ブロッキング緩衝液1mLで再懸濁し、室温で2時間転倒混和した。再び12,000rpmで5分間遠心し粒子を沈降させ、上清を除去した後、ブロッキング緩衝液1mLで再懸濁し、インフルエンザウィルス測定用試薬を得た。
なお、前述のブロッキング緩衝液は、2% ウシ血清アルブミン(BSA)、10%スクロース含有50mMトリス緩衝液(pH8.5)の組成よりなる。
【0057】
2.不溶性メンブラン担体の作製
上記で調製したインフルエンザウィルス測定用試薬を1.0mg/mLとなるよう、2.5%スクロース含有10mMリン酸緩衝液(pH7.2)にて希釈しテストライン用試薬とした。25mm幅のニトロセルロース膜(Sartorius社製、CN140)に、ディスペンサー(Bio Dot社製、XYZ3050)を用い、約1cmの間隔をあけてテストライン用試薬を1μL/cmずつ塗布した後、ドライオーブン内で70℃にて45分間乾燥させ、抗インフルエンザウイルス抗体固定化膜とした。
【0058】
3.テストストリップの作製
プラスチック製粘着シート(a)中央部に上述の抗インフルエンザウイルス抗体固定化膜(不溶性メンンブレン担体)(b)を貼り、展開上流部にテストライン(c1、c2)下流側にコントロールライン(図示せず)となるように配置した。抗インフルエンザウイルス抗体固定膜の両端に重ねながら、下流側には吸収パッド(g)を配置装着した。このように各構成要素を重ね合わせた構造物を4mm幅に切断し、図2(A)に示すテストストリップを作製した。
【0059】
4.検体抽出液及び感度確認用サンプルの調製
200mM 塩化カリウム、150mM L−アルギニン、0.25% BSA、5% Starting Block(Thermo Fisher Scientific社製、No.37542)、0.5% Brij35(登録商標:シグマ社製、No.P1254−500G)を含む20mM トリス緩衝液(pH8.5)を検体抽出液とした。また、不活化A型インフルエンザウイルス液を1.7×10TCID50/mLとなるよう上記検体抽出液で希釈し、感度確認用サンプルとした。
【0060】
6.試験結果
上記感度確認用サンプル135μLに上記4.で作製したテストストリップを浸漬し、10分後にA型テストライン、コントロールラインの発色の有無を測定した。尚、発色測定には、波長365nmの紫外線(UV)を照射した際の発光を目視評価した。
【0061】
実施例1.実施形態に係る測定法における効果確認
(調製例:PSA測定試薬の調製)
1.第2試液(R2):抗体結合ラテックス溶液の調製
(1)抗PSAモノクローナル抗体#79および#91と、定法に従って合成した平均粒子径320nmのラテックス粒子とをそれぞれ20mM グリシン緩衝液(pH9)で希釈し、0.7mg/mLの各抗体溶液と1%(w/w)ラテックス溶液を調製した。それぞれの抗体溶液に等量のラテックス溶液を混合し、約1時間攪拌した。
(2)前記(1)の各混合液に、それぞれブロッキング液(10%BSA)を同量添加し、約1時間攪拌した。
(3)前記(2)の各混合溶液を遠心分離して上清を除去後、5mM MOPS緩衝液(pH7.0)溶液で再懸濁し、波長600nmの吸光度が1.5Abs/mLとなるように含量調整した後、両溶液を等量混合して第二試液:抗体結合ラテックス溶液(R2)を得た。
2.第一試液(R1)の調製
1Mの塩化カリウム、0.1%のBSAを含む30mM Tris−HCl緩衝液(pH8.5)を調製し、第一試液とした。
【0062】
(分析装置と測定条件)
特開2013−64705号公報記載の自動分析装置を用いて一つの測定について散乱光強度と吸光度両方の測定をおこなった。散乱光強度測定の各条件は、照射波長700nm、散乱角度30°とし、吸光度測定の各条件は、主波長570nm、副波長800nmの2波長として測定した。PSAを含む試料8μLにR1 100μLを添加撹拌して37℃で約300秒間インキュベーション後、R2 100μLを添加撹拌し、37℃で約300秒間インキュベーションしている間の任意の2時点間の光量の差から散乱光強度ならびに吸光度の変化量を算出した。
【0063】
(検量線と試料測定)
PSAキャリブレーター(積水メディカル社製)を用いてスプライン演算した散乱光強度、吸光度それぞれに基づく検量線を用いて試料中のPSA濃度をそれぞれ算出した。なお検量線の濃度範囲は各測定条件下におけるダイナミックレンジに応じて都度選択した。
【0064】
(結果1 感度)
散乱光強度ならびに吸光度の光量変化を、本発明の測定方法を用いて本実施例のPSAを測定する際に最大感度が得られると考えられる測光間隔である、R2添加後約30秒後から270秒間で測定した。異なる2濃度(0.4ng/mLおよび1ng/mL)のPSAを含有する試料を10回連続測定し、散乱光測定の場合と吸光度測定の場合の同時再現性を確認した。
【0065】
(結果2 ダイナミックレンジ)
測光間隔を変動させた次の測定条件、散乱光強度(測光間隔 R2添加約30秒後(第1の時点)から270秒間(第2の時点))、吸光度1(本発明の条件1:測光間隔 R2添加約30秒後(第3の時点a)から約90秒間(第4の時点a))、吸光度2(本発明の条件2:測光間隔 R2添加約15秒後(第3の時点b)から約90秒間(第4の時点b))、吸光度3(従来条件(比較例):測光間隔 R2添加約30秒後(比較例第3の時点)から270秒間(比較例第4の時点))、でダイナミックレンジを比較した。
【0066】
(結果3 プロゾーン現象の影響の確認)
本発明の測定条件、吸光度1ならびに2においてPSA濃度100ng/mLから3000ng/mLを超える試料(総称してPSA超高濃度試料という)を測定しプロゾーン現象を確認した。プロゾーン現象とは粒子増強免疫凝集測定法において抗原量過剰によって発生する見かけの測定値が低下する現象で、陽性が陰性と判定され誤診を招く可能性があるため臨床検査の現場では大きな問題となっている。
条件2の方がプロゾーン現象による測定値の低下が緩やかでダイナミックレンジが広いことが期待される。本結果を踏まえると、吸光度1、2の実用的な測定上限はそれぞれ50ng/mL程度、100ng/mL程度と考えられ、吸光度2の測定条件は測定範囲をより高濃度側に設定できることが期待される。
【0067】
(結果4 相関性)
実施形態に係る測定法でPSA濃度既知のPSA陽性検体を測定し低濃度域(〜10ng/mL以下)は散乱光強度による測定値(●)を、高濃度域(10.1ng/mL以上)は吸光度2による測定値(△)を参照して相関性を確認した。
相関性は良好であり、本発明によって高感度かつダイナミックレンジの広い粒子増強免疫凝集測定法が達成された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、抗原抗体反応を利用する検査方法でありながら、コンジュゲートに感作させる工程が不要になるため、従来のイムノクロマトグラフィーよりも検査時間を短縮することができる。またコンジュゲート塗布パッドが不要になる点において、テストストリップの簡略化とコスト削減を図ることができる。さらに、感度の高い凝集蛍光材料含有粒子を用いることより、従来のテストストリップよりも、目視確認が極めて容易になる。
【符号の説明】
【0069】
1 凝集蛍光材料含有粒子
2 グラフト鎖
5 アナライト
21 第一のグラフト鎖
22 第二のグラフト鎖
31 第一の結合パートナー
32 第二の結合パートナー
8 凝集蛍光材料含有検査デバイス
10 試料容器
11、12 検出部
【受託番号】
【0070】
〔寄託生物材料への言及〕
(1)(#79抗体産生ハイブリドーマ#63279)
イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所
独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566)
ロ イの寄託機関に生物材料を寄託した日付
平成22年2月19日(2010年2月19日)(原寄託日)
(その後、原寄託(FERM P−21923)よりブタペスト条約に基づき移管された)
ハ イの寄託機関が寄託について付した受託番号
FERM BP−11454
(2)(#91抗体産生ハイブリドーマ#63291)
イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所
独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566)
ロ イの寄託機関に生物材料を寄託した日付
平成22年2月19日(2010年2月19日)(原寄託日)
(その後、原寄託(FERM P−21924)よりブタペスト条約に基づき移管された)
ハ イの寄託機関が寄託について付した受託番号
FERM BP-11455
【要約】
アナライトを含む試料溶液と、アナライトとの結合パートナーを有し結合パートナーにアナライトが結合すると凝集蛍光する凝集蛍光材料含有粒子を含む溶液と、を混合して混合液を調製する工程と;混合液中の凝集蛍光材料含有粒子から発生する蛍光強度を測定する工程と;アナライト濃度に対する蛍光強度の検量線と蛍光強度を対比して、蛍光強度と混合液中のアナライト濃度を関連付ける工程と;を備えるアナライト濃度測定法。凝集発光性材料含有粒子を用いることによりバックグラウンド蛍光を抑制しながらも、良好な検出感度で測定できる。
図1
図2
図3
図4