(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
【0028】
<1.第1の実施の形態>
<1−1.構成>
図1は、本実施形態に係る車両制御システム10の構成を示す図である。車両制御システム10は、例えば、自動車などの車両に搭載されている。以下、車両制御システム10が搭載される車両を「自車両」という。また、自車両の進行方向を「前方」、進行方向の逆方向を「後方」という。図に示すように、車両制御システム10は、レーダ装置1と、車両制御装置2とを備えている。
【0029】
レーダ装置1は、自車両の周辺の物標に係る物標データを取得する。本実施の形態のレーダ装置1は、周波数変調した連続波であるFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)を用いて、自車両の前方の他車両や静止物などの物標に係る物標データを取得する。レーダ装置1は、自車両の進行方向における物標の距離(以下、「縦距離」という。)(m)、自車両に対する物標の相対速度(km/h)、自車両の左右方向における物標の距離(以下、「横位置」という。)(m)などのパラメータを有する物標データを導出し、導出した物標データを車両制御装置2に出力する。横位置は、自車両の中心位置を0とし、自車両の右側では正の値、自車両の左側では負の値で表現される。
【0030】
車両制御装置2は、自車両のブレーキ等と接続され、レーダ装置1から出力された物標データに基づいて自車両の挙動を制御する。車両制御装置2は、自車両の前方に停止した他車両や静止物などの障害物が存在する場合に、その障害物との衝突を軽減するよう自車両のブレーキ等を制御する。これにより、本実施の形態の車両制御システム10は、衝突軽減ブレーキシステムとして機能する。
【0031】
図2は、レーダ装置1の構成を示す図である。レーダ装置1は、送信部4、受信部5及び信号処理装置6を主に備えている。
【0032】
送信部4は、発信器41と信号生成部42とを備えている。信号生成部42は、三角波状に電圧が変化する変調信号を生成し、発信器41に供給する。発信器41は、信号生成部42で生成された変調信号に基づいて連続波の信号を周波数変調し、時間の経過に従って周波数が変化する送信信号を生成し、送信アンテナ40に出力する。
【0033】
送信アンテナ40は、発信器41からの送信信号に基づいて、送信波TWを自車両の外部に出力する。送信アンテナ40が出力する送信波TWは、所定の周期で周波数が上下するFMCWとなる。送信アンテナ40から自車両の前方に送信された送信波TWは、他車両などの物標で反射されて反射波RWとなる。
【0034】
受信部5は、アレーアンテナを形成する複数の受信アンテナ51と、その複数の受信アンテナ51に接続された複数の個別受信部52とを備えている。本実施の形態では、受信部5は、例えば、4つの受信アンテナ51と4つの個別受信部52とを備えている。4つの個別受信部52は、4つの受信アンテナ51にそれぞれ対応している。各受信アンテナ51は物標からの反射波RWを受信して受信信号を取得し、各個別受信部52は対応する受信アンテナ51で得られた受信信号を処理する。
【0035】
各個別受信部52は、ミキサ53とA/D変換器54とを備えている。受信アンテナ51で得られた受信信号は、ローノイズアンプ(図示省略)で増幅された後にミキサ53に送られる。ミキサ53には送信部4の発信器41からの送信信号が入力され、ミキサ53において送信信号と受信信号とがそれぞれミキシングされる。これにより、送信信号の周波数と受信信号の周波数との差となるビート周波数を示すビート信号が生成される。ミキサ53で生成されたビート信号は、A/D変換器54でデジタルの信号に変換された後に、信号処理装置6に出力される。
【0036】
信号処理装置6は、CPU及びメモリ65などを含むマイクロコンピュータを備えている。信号処理装置6は、演算の対象とする各種のデータを、記憶装置であるメモリ65に記憶する。メモリ65は、例えばRAMなどである。信号処理装置6は、マイクロコンピュータでソフトウェア的に実現される機能として、送信制御部61、フーリエ変換部62、及び、データ処理部7を備えている。送信制御部61は、送信部4の信号生成部42を制御する。
【0037】
フーリエ変換部62は、複数の個別受信部52のそれぞれから出力されるビート信号を対象に、高速フーリエ変換(FFT)を実行する。これにより、フーリエ変換部62は、複数の受信アンテナ51それぞれの受信信号に係るビート信号を、周波数領域のデータである周波数スペクトラムに変換する。フーリエ変換部62で得られた周波数スペクトラムは、データ処理部7に入力される。
【0038】
データ処理部7は、物標データ取得処理を実行し、複数の受信アンテナ51それぞれの周波数スペクトラムに基づいて、自車両の前方の物標に係る物標データを取得する。データ処理部7は、取得した物標データを車両制御装置2に出力する。データ処理部7には、車速センサ81などの自車両に設けられるセンサからの情報が入力される。これにより、データ処理部7は、車速センサ81から入力される自車両の速度など、センサからの情報を処理に用いることができる。
【0039】
図2に示すように、データ処理部7は、主な機能として、物標データ導出部71、物標データ処理部72、及び、物標データ出力部73を備えている。
【0040】
物標データ導出部71は、フーリエ変換部62で得られた周波数スペクトラムに基づいて物標に係る物標データを導出する。物標データ処理部72は、導出された物標データを対象にして連続性判定処理などの各種の処理を行う。物標データ出力部73は、処理された物標データを車両制御装置2に出力する。また、物標データ処理部72は、サブ機能として、壁検出部72a、連続性判定部72b及び上方物判定部72cを備えている。これらの機能の処理については後述する。
【0041】
<1−2.物標データのパラメータの導出手法>
次に、レーダ装置1が、物標データのパラメータ(縦距離、相対速度及び横位置)を導出する手法(原理)を説明する。
図3は、送信波TWと反射波RWとの関係を示す図である。説明を簡単にするため、
図3に示す反射波RWは理想的な一つの物標のみからの反射波としている。
図3においては、送信波TWを実線で示し、反射波RWを破線で示している。また、
図3の上部において、横軸は時間、縦軸は周波数を示している。
【0042】
図に示すように、送信波TWは、所定の周波数を中心として所定の周期で周波数が上下する連続波となっている。送信波TWの周波数は、時間に対して線形的に変化する。以下では、送信波TWの周波数が上昇する区間を「アップ区間」といい、下降する区間を「ダウン区間」という。また、送信波TWの中心周波数をfo、送信波TWの周波数の変位幅をΔF、送信波TWの周波数が上下する一周期の逆数をfmとする。
【0043】
反射波RWは、送信波TWが物標で反射されたものであるため、送信波TWと同様に、所定の周波数を中心として所定の周期で周波数が上下する連続波となる。ただし、反射波RWには、送信波TWに対して時間Tの時間遅延が生じる。この遅延する時間Tは、自車両に対する物標の距離(縦距離)Rに応じたものとなり、光速(電波の速度)をcとして次の数1で表される。
【0044】
【数1】
また、反射波RWには、自車両に対する物標の相対速度Vに応じたドップラー効果により、送信波TWに対して周波数fdの周波数偏移が生じる。
【0045】
このように、反射波RWには、送信波TWに対して、縦距離に応じた時間遅延とともに相対速度に応じた周波数偏移が生じる。このため、
図3の下部に示すように、ミキサ53で生成されるビート信号のビート周波数(送信波TWの周波数と反射波RWの周波数との差の周波数)は、アップ区間とダウン区間とで異なる値となる。以下、アップ区間のビート周波数をfup、ダウン区間のビート周波数をfdnとする。
【0046】
ここで物標の相対速度が「0」の場合(ドップラー効果による周波数偏移がない場合)のビート周波数をfrとすると、この周波数frは次の数2で表される。
【0047】
【数2】
この周波数frは、数1で表される遅延する時間Tに応じた値となる。このため、物標の縦距離Rは、周波数frを用いて次の数3で求めることができる。
【0048】
【数3】
また、ドップラー効果により偏移する周波数fdは、次の数4で表される。
【0049】
【数4】
物標の相対速度Vは、この周波数fdを用いて次の数5で求めることができる。
【0050】
【数5】
以上の説明では、理想的な一つの物標の縦距離及び相対速度を求めたが、実際には、レーダ装置1は、自車両の前方に存在する複数の物標からの反射波RWを同時に受信する。このため、一つの受信アンテナ51の受信信号に係るビート信号をフーリエ変換部62が変換した周波数スペクトラムにおいては、それら複数の物標それぞれに対応する情報が含まれている。
【0051】
図4は、このような周波数スペクトラムの例を示す図である。
図4の上部はアップ区間における周波数スペクトラムを示し、
図4の下部はダウン区間における周波数スペクトラムを示している。図中において、横軸は周波数、縦軸は信号のパワーを示している。
【0052】
図4の上部に示すアップ区間の周波数スペクトラムにおいては、3つの周波数fup1,fup2,fup3の位置にそれぞれピークPuが表れている。また、
図4の下部に示すダウン区間の周波数スペクトラムにおいては、3つの周波数fdn1,fdn2,fdn3の位置にそれぞれピークPdが表れている。
【0053】
相対速度を考慮しなければ、このように周波数スペクトラムにおいてピークが表れる位置の周波数は、物標の縦距離に対応する。例えば、アップ区間の周波数スペクトラムに注目すると、ピークPuが表れる3つの周波数fup1,fup2,fup3に対応する縦距離の位置それぞれに、物標が存在していることになる。
【0054】
このため、物標データ導出部71(
図2参照。)は、アップ区間及びダウン区間の双方の周波数スペクトラムに関して、所定の閾値を超えるパワーを有するピークPu,Pdが表れる周波数を抽出する。以下、このように抽出される周波数を「ピーク周波数」という。
【0055】
図4に示すようなアップ区間及びダウン区間の双方の周波数スペクトラムは、一つの受信アンテナ51の受信信号から得られる。したがって、フーリエ変換部62は、4つの受信アンテナ51の受信信号のそれぞれから、
図4と同様のアップ区間及びダウン区間の双方の周波数スペクトラムを導出する。
【0056】
4つの受信アンテナ51は同一の物標からの反射波RWを受信しているため、4つの受信アンテナ51の周波数スペクトラムの相互間において、抽出されるピーク周波数は同一となる。ただし、4つの受信アンテナ51の位置は互いに異なるため、受信アンテナ51ごとに反射波RWの位相は異なる。このため、同一のピーク周波数となる受信信号の位相情報は、受信アンテナ51ごとに異なっている。
【0057】
また、同一の縦距離に複数の物標が存在する場合においては、周波数スペクトラムにおける一つのピーク周波数の信号に、それら複数の物標についての情報が含まれる。このため、物標データ導出部71は、方位演算処理により、一つのピーク周波数の信号(同一の縦距離に対応する信号)から、同一の縦距離に存在する複数の物標の情報を分離し、それら複数の物標それぞれの角度を推定する。物標データ導出部71は、4つの受信アンテナ51の全ての周波数スペクトラムにおいて同一のピーク周波数となる受信信号に注目し、それら受信信号の位相情報に基づいて物標の角度を推定する。
【0058】
このような物標の角度を推定する手法としては、ESPRIT、MUSIC及びPRISMなどの周知の角度推定方式を用いることができる。これにより、物標データ導出部71は、一つのピーク周波数の信号から、複数の角度、及び、それら複数の角度それぞれの信号のパワーを導出する。
【0059】
図5は、方位演算処理により推定された角度を、角度スペクトラムとして概念的に示す図である。図中において、横軸は角度(deg)、縦軸は信号のパワーを示している。角度スペクトラムにおいて、方位演算処理により推定された角度はピークPaとして表れる。以下、方位演算処理により推定された角度を「ピーク角度」という。このように一つのピーク周波数の信号から同時に導出された複数のピーク角度は、同一の縦距離(当該ピーク周波数に対応する縦距離)に存在する複数の物標の角度を示す。
【0060】
物標データ導出部71は、このようなピーク角度の導出を、アップ区間及びダウン区間の双方の周波数スペクトラムにおける全てのピーク周波数に関して実行する。
【0061】
このような処理により、物標データ導出部71は、自車両の前方に存在する複数の物標それぞれに対応する区間データを導出する。区間データは、上述したピーク周波数、ピーク角度、及び、信号のパワーのパラメータを有している。データ処理部7は、アップ区間及びダウン区間の双方で、この区間データを導出する。
【0062】
物標データ導出部71は、さらに、このように導出したアップ区間の区間データとダウン区間の区間データとをペアリング処理により対応付ける。物標データ導出部71は、パラメータ(ピーク周波数、ピーク角度、及び、信号のパワー)に基づいて、アップ区間及びダウン区間の2つの区間データを対応付ける。物標データ導出部71は、類似のパラメータを有する2つの区間データを対応付けることで、同一の物標に関する区間データ同士を対応付ける。これにより、物標データ導出部71は、自車両の前方に存在する複数の物標それぞれに係る物標データを導出する。この物標データは、2つの区間データを対応付けて得られるため「ペアデータ」とも呼ばれる。
【0063】
物標データ導出部71は、物標データ(ペアデータ)の元となったアップ区間及びダウン区間の2つの区間データのパラメータを用いることで、当該物標データのパラメータ(縦距離、相対速度及び横位置)を導出できる。
【0064】
物標データ導出部71は、アップ区間のピーク周波数を上述した周波数fupとして用い、ダウン区間のピーク周波数を上述した周波数fdnとして用いる。そして、物標データ導出部71は、上述した数2及び数3を用いて物標の縦距離Rを求めることができ、上述した数4及び数5を用いて物標の相対速度Vを求めることができる。
【0065】
さらに、物標データ導出部71は、アップ区間のピーク角度をθup、ダウン区間のピーク角度をθdnとして、次の数6により物標の角度θを求める。そして、物標データ導出部71は、この物標の角度θと縦距離Rとに基づいて、三角関数を用いた演算により物標の横位置を求めることができる。
【0066】
【数6】
<1−3.物標データ取得処理>
次に、データ処理部7が物標データを導出して車両制御装置2に出力する物標データ取得処理の全体的な流れについて説明する。
図6は、物標データ取得処理の全体的な流れを示す図である。データ処理部7は、
図6に示す物標データ取得処理を一定時間(例えば、1/20秒)ごとに周期的に繰り返す。
【0067】
この物標データ取得処理の開始時点では、4つの受信アンテナ51の全てに関してアップ区間及びダウン区間の双方の周波数スペクトラムが、フーリエ変換部62からデータ処理部7に入力されている。
【0068】
まず、物標データ導出部71が、周波数スペクトラムを対象にピーク周波数を抽出する(ステップS11)。物標データ導出部71は、周波数スペクトラムのうち、所定の閾値を超えるパワーを有するピークが表れる周波数を、ピーク周波数として抽出する。
【0069】
次に、物標データ導出部71は、方位演算処理により、抽出したピーク周波数の信号に係る物標の角度を推定する。物標データ導出部71は、同一の縦距離に存在する複数の物標それぞれのピーク角度と、信号のパワーとを導出する(ステップS12)。
【0070】
これにより、物標データ導出部71は、自車両の前方に存在する複数の物標それぞれに対応する区間データを導出する。物標データ導出部71は、アップ区間及びダウン区間の双方で、ピーク周波数、ピーク角度、及び、信号のパワーのパラメータを有する区間データを導出する。
【0071】
次に、物標データ導出部71は、ペアリング処理により、アップ区間の区間データとダウン区間の区間データとを対応付ける(ステップS13)。物標データ導出部71は、例えば、マハラノビス距離を用いた演算を用いて、類似のパラメータ(ピーク周波数、ピーク角度、及び、信号のパワー)を有する2つの区間データを対応付ける。
【0072】
物標データ導出部71は、さらに、アップ区間及びダウン区間の2つの区間データの対応付けができた場合は、それら2つの区間データに基づくペアデータを導出する。物標データ導出部71は、導出したペアデータのそれぞれに関して、上述した演算によりパラメータ(縦距離、相対速度及び横位置)を導出する。
【0073】
次に、物標データ導出部71は、導出したペアデータのうちから物標に係る物標データを確定する(ステップS14)。物標データ導出部71が導出したペアデータには、ノイズなどの不要なデータが含まれる。このため、物標データ導出部71は、導出したペアデータのうち物標に係るペアデータのみを物標データとして確定する。
【0074】
物標データ導出部71は、パラメータに基づいて、導出したペアデータのそれぞれを過去に確定した物標データと対応付ける。物標データ導出部71は、類似のパラメータ(縦距離、相対速度及び横位置)を有するペアデータと過去の物標データとを対応付ける。そして、物標データ導出部71は、過去の物標データと対応付けができたペアデータを、物標に係る物標データとして確定する。
【0075】
また、過去の物標データとの対応付けができなかったペアデータには、新規に表れた物標に係る物標データも含まれている。このため、物標データ導出部71は、過去の物標データとの対応付けができなかったペアデータについては、次回以降の物標データ取得処理において所定回数(例えば、3回)以上連続して過去のペアデータと対応付けができた場合に、新規に表れた物標に係る物標データとして確定する。
【0076】
このような処理により、物標データ導出部71は、自車両の周辺の物標に係る物標データを導出する。物標データ取得処理は一定時間(例えば、1/20秒)ごとに周期的に繰り返されることから、物標データ導出部71は、物標に係る物標データを一定時間ごとに導出することになる。
【0077】
各物標データは、縦距離、相対速度及び横位置などのパラメータを有している。これとともに、各物標データには、処理に用いる各種の処理変数が設定される。この処理変数には、「新規フラグ」、「移動物フラグ」、「先行車フラグ」、「上方物フラグ」及び「生存カウンタ」などがある。新規フラグは、当該物標データに係る物標が新規に表れた物標であるか否かを示している。物標データ導出部71は、新規に表れた物標に係る物標データについては新規フラグをオンに設定する。その他の処理変数については後述する。
【0078】
次に、物標データ処理部72の連続性判定部72b(
図2参照。)が、連続性判定処理を行う(ステップS15)。連続性判定部72bは、過去に得られた物標データと直近に得られた物標データとの時間的な連続性を判定する。換言すれば、連続性判定部72bは、過去の物標データと直近の物標データとが同一の物標を示しているか否かを判定する。連続性判定部72bは、ある過去の物標データに関して直近の物標データと連続性があると判定できない場合は、その過去の物標データに基づく予測データを導入する処理である「外挿」を行う。
【0079】
また、連続性判定部72bは、連続性のある2つの物標データのパラメータを用いて、物標データのパラメータ(縦距離、相対速度及び横位置)を時間軸方向に平滑化するフィルタ処理を行なう。このようなフィルタ処理の後の物標データは、瞬時値を表すペアデータに対して「フィルタデータ」とも呼ばれる。この連続性判定処理の詳細については後述する。
【0080】
次に、物標データ処理部72が、移動物判定処理を行い、各物標データの移動物フラグ及び先行車フラグを設定する(ステップS16)。移動物フラグは、当該物標データが示す物標が移動中であるか否かを示している。一方、先行車フラグは、当該物標データが示す物標が自車両と同一方向に過去に一度でも移動したか否かを示す。移動物フラグは、物標データ取得処理ごとに設定され、現時点の物標の状態をリアルタイムに表す。これに対し、先行車フラグは、連続性のある物標データ同士(同一の物標に係る物標データ同士)で値が順次に引き継がれる。
【0081】
物標データ処理部72は、物標データの相対速度と、車速センサ81から得られる自車両の速度とに基づいて、物標データに係る物標の対地速度(絶対速度)と走行方向とを導出する。そして、物標データ処理部72は、導出した対地速度と走行方向とに基づいて、移動物フラグ及び先行車フラグを設定する。
【0082】
次に、物標データ処理部72の上方物判定部72c(
図2参照。)が、上方物判定処理を行い、各物標データに係る物標が上方物であるか否かを判定する(ステップS17)。例えば、照明装置や跨道橋など、自車両が走行する自車線の上方に存在する静止物である上方物(上方構造物)は自車両と接触しない。したがって、車両制御システム10は、このような上方物を対象として自車両のブレーキ等を制御する必要はない。
【0083】
このため、上方物判定部72cは、各物標データに係る物標が上方物であるか否かを判定し、物標が上方物の場合は当該物標データの上方物フラグをオンに設定する。上方物判定部72cは、過去の連続性判定処理(ステップS15)における「外挿」の頻度(予測データを導入した頻度)に基づいて物標データに係る物標が上方物であるか否かを判定する。この上方物判定処理の詳細については後述する。
【0084】
次に、物標データ出力部73が、このように導出された物標データを車両制御装置2に出力する(ステップS18)。物標データ出力部73は、導出された物標データから所定数(例えば、10個)の物標データを出力対象として選択し、選択した物標データのみを出力する。物標データ出力部73は、物標データの縦距離と横位置とを考慮して、自車線内に存在し、かつ、自車両に近い物標に係る物標データを優先的に選択する。
【0085】
また、物標データ出力部73は、上方物フラグがオンとなっている物標データについては出力対象として選択しない。すなわち、物標データ出力部73は、物標データに係る物標が上方物と判定された場合は、当該物標データを処理の対象から除外し、車両制御装置2に出力しない。これにより、車両制御装置2が上方物に係る物標データに基づいて自車両のブレーキ等を制御することが防止される。
【0086】
以上のような物標データ取得処理で導出された物標データはメモリ65に記憶され、次回以降の物標データ取得処理において過去の物標データとして用いられることになる。
【0087】
<1−4.従来のレーダ装置の問題>
上記のように物標データ取得処理においては、物標データに係る物標が上方物か否かが判定され、上方物に係る物標データは車両制御装置2に出力されないようになっている。従来のレーダ装置においては、自車両が走行している環境等によっては、物標データに係る物標が上方物であることを正しく判定できない場合があった。以下、このような従来のレーダ装置における問題について説明する。
【0088】
図7は、従来のレーダ装置1aが、物標データに係る物標が上方物であることを正しく判定できない環境の例を示している。
図7においては、自車両9が走行している自車線100の上方に、照明装置や跨道橋などの上方物101が存在している。また、自車線100の右側に隣接して自車線100に沿って側壁102が設けられている。例えば、自車両9がトンネル内や高速道路を走行している場合において、このような環境が生じることがある。
【0089】
自車両9が上方物101に近づくにつれ、レーダ装置1aが出力する送信波が届く範囲から上方物101が外れるため、レーダ装置1aは上方物101からの反射波を受信しにくくなる。このため、通常は、自車両9が上方物101に近づくにつれ、上方物101に係る物標データT1は直近の物標データと連続性があると判定されなくなり、「外挿」の頻度が高くなる。その結果、当該物標データT1の物標は上方物と判定され、当該物標データT1は車両制御装置2に出力されなくなる。
【0090】
しかしながら、
図7に示すように側壁102が存在している場合においては、この側壁102に係るいくつかの物標データT2が導出される。このため、上方物101に係る物標データT1が、側壁102に係る物標データT2の一つと連続性があると誤って判定される場合がある。その結果、当該物標データT1の物標が上方物と判定されなくなり、当該物標データT1が車両制御装置2に出力される可能性がある。
【0091】
また、物標データのパラメータはフィルタ処理によって時間軸方向に平滑化されることから、物標データの横位置は徐々に移動する。したがって、連続性があると誤って判定された物標データの横位置は、側壁102の位置へ直ちには移動せずに、自車線100内にしばらく留まる。このため、車両制御装置2が当該物標データに基づいて自車両9のブレーキ等を制御する可能性がある。
【0092】
<1−5.連続性判定処理>
このような問題に対応するため、本実施の形態のレーダ装置1では、連続性判定処理(
図6のステップS15)において、物標データ処理部72の壁検出部72aが自車線に沿って設けられる側壁を検出する。そして、連続性判定部72bは、自車線内の静止物に係る過去の物標データと連続性があると判定した直近の物標データに係る物標が側壁の範囲に含まれる場合は、強制的に「外挿」を行うようになっている。これにより、上方物に係る物標データが側壁に係る物標データと連続性があるとして処理されることが防止される。
【0093】
図8は、このような連続性判定処理の詳細な流れを示す図である。以下、連続性判定処理の詳細な流れを説明する。まず、壁検出部72aが、壁検出処理を行い、物標データに基づいて自車両が走行する自車線に沿った側壁を検出する(ステップS21)。
【0094】
壁検出部72aは、まず、右側の側壁を検出する。具体的には、壁検出部72aは、以下の(a1)〜(a4)の条件を満足する過去の物標データを選択する。そして、選択した過去の物標データそれぞれの横位置のうちの最小値を、側壁の位置を示す側壁代表値として導出する。
【0095】
(a1)移動物フラグ=オフ
(a2)先行車フラグ=オフ
(a3)縦距離≦70(m)
(a4)1.3(m)≦横位置≦3.6(m)
(a1)及び(a2)の条件により、過去の物標データに係る物標が静止物であることが判定される。(a3)の条件により、精度の低い過去の物標データが排除される。また、(a4)の条件により、過去の物標データに係る物標が自車両の右側の近傍に存在していることが判定される。
【0096】
図9は、この側壁代表値を導出する手法を説明する図である。自車線100の右側に側壁102が存在している場合においては、自車両9の右側の近傍に側壁102に係る複数の物標データT3が導出される。壁検出部72aは、これらの物標データT3のうち、自車線100に最も近い物標データT3aの横位置を、側壁代表値とする。
【0097】
また、壁検出部72aは、上記の(a1)〜(a4)の条件を満足する過去の物標データが存在せず側壁代表値を導出できない場合は、以下の(b1)〜(b3)の条件を満足する直近の物標データ(ペアデータ)を選択する。そして、選択した直近の物標データそれぞれの横位置のうちの最小値を、側壁代表値として導出する。
【0098】
(b1)対地速度の絶対値≦5.0(km/h)
(b2)縦距離≦70(m)
(b3)1.3(m)≦横位置≦3.6(m)
(b1)の条件により、直近の物標データに係る物標が静止物であることが判定される。(b1)の条件の対地速度は、直近の物標データの相対速度と自車両の速度とに基づいて導出される。また、(b2)及び(b3)の条件の趣旨は、上記(a3)及び(a4)の条件と同様である。
【0099】
次に、壁検出部72aは、以下の(c1)〜(c4)の条件を満足する過去の物標データが3つ以上ある場合は、自車線に沿った右側の側壁が存在すると判断する。(c1)〜(c4)の条件を満足する過去の物標データが3つ以上ある場合は、側壁代表値の近傍に静止物に係る物標データが3つ以上連なっていることになる。
【0100】
(c1)移動物フラグ=オフ
(c2)先行車フラグ=オフ
(c3)縦距離≦70(m)
(c4)(側壁代表値−0.5)(m)≦横位置≦(側壁代表値+0.5)(m)
また、壁検出部72aは、上記(c1)〜(c4)の条件で側壁の存在が判断できない場合であっても、以下の(d1)〜(d3)の条件を満足する直近の物標データ(ペアデータ)が3つ以上ある場合は、自車線に沿った右側の側壁が存在すると判断する。
【0101】
(d1)対地速度の絶対値≦5.0(km/h)
(d2)縦距離≦70(m)
(d3)(側壁代表値−0.5)(m)≦横位置≦(側壁代表値+0.5)(m)
以上のようにして、壁検出部72aは、右側の側壁が存在すると判断した場合は導出した側壁代表値を、「右側側壁代表値」として採用する。これにより、壁検出部72aは、右側の側壁を検出する。壁検出部72aは、自車線に沿った左側の側壁についても右側の側壁と同様に検出する。壁検出部72aは、左側の側壁が存在すると判断した場合は、導出した側壁代表値を「左側側壁代表値」として採用する。
【0102】
次に、連続性判定部72bが、過去の物標データの一つを、処理の対象とする「対象物標データ」として選択する(ステップS22)。
【0103】
次に、連続性判定部72bは、対象物標データと時間的な連続性のある直近の物標データ(ペアデータ)があるか否かを判定する(ステップS21)。すなわち、連続性判定部72bは、対象物標データと同一の物標に係る直近の物標データがあるか否かを判定する。
【0104】
連続性判定部72bは、まず、対象物標データのパラメータに基づいて、対象物標データの現時点におけるパラメータ(縦距離、相対速度及び横位置)を予測する。これにより、連続性判定部72bは、予測したパラメータを有する実データではない物標データである予測データを導出する。そして、連続性判定部72bは、直近の物標データのうちから、導出した予測データとパラメータが近似する直近の物標データがあるか否かを判定する。
【0105】
予測データとパラメータが近似する直近の物標データがない場合は(ステップS23にてNo)、連続性判定部72bは、対象物標データは直近の物標データと連続性があると判定できないとして「外挿」を行う。すなわち、連続性判定部72bは、直近の物標データとして、対象物標データに基づく予測データを導入する(ステップS27)。「外挿」を行った後、処理はステップS28に進む。
【0106】
一方、予測データとパラメータが近似する直近の物標データがある場合は(ステップS23にてYes)、連続性判定部72bは、対象物標データは当該直近の物標データと連続性があると判定する。すなわち、連続性判定部72bは、当該直近の物標データは対象物標データと同一の物標を示していると判断する。
【0107】
次に、連続性判定部72bは、壁検出部72aがステップS21の壁検出処理において右側あるいは左側の側壁を検出したか否かを判定する。壁検出部72aが右側及び左側のいずれの側壁も検出していない場合は(ステップS24にてNo)、処理はステップS28に進む。
【0108】
一方、壁検出部72aが右側及び左側のいずれかの側壁を検出していた場合は(ステップS24にてYes)、次に、連続性判定部72bは、対象物標データに係る物標が、上方物の可能性がある自車線内の静止物であるか否かを判定する(ステップS25)。具体的には、連続性判定部72bは、対象物標データが以下の(e1)〜(e5)の条件を満足するか否かを判断する。
【0109】
(e1)移動物フラグ=オフ
(e2)先行車フラグ=オフ
(e3)縦距離≦50(m)
(e4)横位置の絶対値≦1.5(m)
(e5)衝突余裕時間≦4.0(s)
(e1)及び(e2)の条件により、対象物標データに係る物標が静止物であることが判定される。(e3)の条件により、精度の低い対象物標データが排除される。(e4)の条件により、対象物標データに係る物標が自車線内に存在することが判定される。さらに(e5)の条件により、衝突の可能性の低い対象物標データが排除される。(e5)の条件の「衝突余裕時間」(TTC:Time To Collision)は、対象物標データに係る物標に対して自車両が衝突するまでの時間であり、対象物標データの縦距離を相対速度で除算することで導出される。
【0110】
対象物標データが(e1)〜(e5)のいずれかの条件を満足しない場合は(ステップS25にてNo)、処理はステップS28に進む。
【0111】
一方、対象物標データが(e1)〜(e5)の条件を満足する場合は(ステップS25にてYes)、次に、連続性判定部72bは、対象物標データと連続性があると判定した直近の物標データ(以下、「対象直近データ」という。)に係る物標が側壁の範囲に含まれるか否かを判定する(ステップS26)。具体的には、連続性判定部72bは、対象直近データが以下の(f1)及び(f2)の条件を満足するか否かを判断する。
【0112】
(f1)予測データと対象直近データとの横位置の差≧0.5(m)
(f2)(右側側壁代表値−0.5)(m)≦横位置≦(右側側壁代表値+1.5)(m) または (左側側壁代表値−1.5)(m)≦横位置≦(左側側壁代表値+0.5)(m)
(f1)の条件により、横位置が比較的離れた物標データ同士で連続性があると判定されたことが確認される。そして、(f2)の条件により、対象直近データに係る物標が右側及び左側のいずれかの側壁の範囲に含まれることが判定される。
【0113】
対象直近データが上記(f1)及び(f2)のいずれか条件を満足しない場合は、処理はステップS28に進む。
【0114】
一方、対象直近データが上記(f1)及び(f2)の条件を満足する場合は、対象直近データに係る物標が側壁の範囲に含まれている。すなわち、自車線内の静止物に係る過去の物標データと連続性があると判定した直近の物標データに係る物標が壁の範囲に含まれていることになる。この場合は、上方物に係る物標データが側壁に係る物標データと連続性があると誤って判定されている蓋然性が高い。したがって、この場合は(ステップS27にてYes)、連続性判定部72bは、強制的に「外挿」を行う。すなわち、連続性判定部72bは、対象直近データに代えて、対象物標データに基づく予測データを導入する(ステップS27)。「外挿」を行った後、処理はステップS28に進む。
【0115】
次に、ステップS28においては、連続性判定部72bが、対象物標データの「生存カウンタ」の値を操作する(ステップS28)。生存カウンタは、当該物標データに係る物標の存在の確実性を表しており、物標の存在の確実性が高いほど生存カウンタの値が高くなる。生存カウンタの初期値は、例えば「8」となっている。
【0116】
連続性判定部72bは、対象物標データの生存カウンタの値を、連続性の判定結果に応じて操作する。連続性判定部72bは、連続性があると判定できた対象物標データについては、所定の最大値(例えば「35」)を超えない範囲で生存カウンタの値を「+4」と操作する。一方、連続性判定部72bは、「外挿」がなされた対象物標データについては、生存カウンタの値を「−2」と操作する。
【0117】
そして、連続性判定部72bは、この生存カウンタの操作によって生存カウンタの値が最低値(例えば「0」)以下となった対象物標データをメモリ65から消去する。生存カウンタの値が「0」以下となる対象物標データに関しては「外挿」が頻繁に行われているため、この対象物標データに係る物標は自車両の前方から外れた可能性が高い。このため、連続性判定部72bは、このような対象物標データをメモリ65から消去して処理の対象から除外する。
【0118】
次に、連続性判定部72bは、フィルタ処理を行い、対象物標データのパラメータ(縦距離、相対速度及び横位置)を時間軸方向に平滑化する(ステップS29)。具体的には、連続性判定部72bは、対象物標データに基づく予測データのパラメータと対象直近データのパラメータとを加重平均した結果を、対象物標データの新たなパラメータとして導出する。予測データのパラメータの重みは例えば「0.75」とされ、瞬時値である対象直近データ(ペアデータ)のパラメータの重みは例えば「0.25」とされる。瞬時値のパラメータはノイズの影響などで異常値となる可能性があるが、フィルタ処理を行うことで異常値となることを防止できる。このフィルタ処理により、対象物標データのパラメータが更新され、対象物標データはフィルタデータとなる。
【0119】
このようにして一つの過去の物標データに関する処理が完了すると、連続性判定部72bが、対象物標データとされていない未処理の過去の物標データが存在するかを判定する(ステップS30)。そして、存在していた場合は(ステップS30にてYes)、連続性判定部72bは、次の一つの過去の物標データを新たな対象物標データに選択し(ステップS22)、上記と同様の処理を行う。このような処理が繰り返され、全ての過去の物標データについて直近の物標データとの連続性が判定される。
【0120】
<1−6.上方物判定処理>
上記のように、連続性判定処理では、自車線内の静止物に係る過去の物標データと連続性があると判定した直近の物標データに係る物標が壁の範囲に含まれる場合は、強制的に「外挿」が行われる。これにより、上方物に係る物標データについては「外挿」の頻度を高くすることができる。上方物判定部72cは、上方物判定処理(
図6のステップS17)において、この「外挿」の頻度に基づいて、物標データに係る物標が上方物であるか否かを判定する。
【0121】
図10は、この上方物判定処理の詳細な流れを示す図である。以下、上方物判定処理の詳細な流れを説明する。
【0122】
まず、上方物判定部72cが、物標データの一つを、処理の対象とする「対象物標データ」として選択する(ステップS31)。
【0123】
次に、上方物判定部72cは、対象物標データの上方物フラグがオフであるか否かを判定する(ステップS32)。上方物フラグの初期値はオフである。
【0124】
対象物標データの上方物フラグがオフの場合は(ステップS32にてYes)、上方物判定部72cは、上方物フラグをオンとするためのオン条件を対象物標データが満足するか否かを判定する(ステップS33)。具体的には、上方物判定部72cは、対象物標データが以下の(g1)及び(g2)の条件を満足するか否かを判断する。
【0125】
(g1)パワー変数が閾値未満
(g2)過去7回の物標データ取得処理における「外挿」の回数が5回以上
(g1)のパワー変数は、対象物標データの元となった区間データの信号のパワーに基づいて導出される。また、(g2)の条件により、「外挿」の頻度(予測データの導入頻度)が比較的高いことが判定される。
【0126】
上方物判定部72cは、対象物標データが(g1)及び(g2)の条件を満足する場合は(ステップS33にてYes)、対象物標データの上方物フラグをオンとする(ステップS34)。すなわち、上方物判定部72cは、対象物標データに係る物標が上方物であると判定することになる。上方物に係る物標データについては「外挿」の頻度が高くなるため、上方物判定部72cは、物標データに係る物標が上方物であることを高精度に判定できる。
【0127】
一方、対象物標データの上方物フラグがオンの場合は(ステップS32にてNo)、上方物判定部72cは、上方物フラグをオフとするためのオフ条件を対象物標データが満足するか否かを判定する(ステップS35)。具体的には、上方物判定部72cは、対象物標データが以下の(h1)の条件を満足するか否かを判断する。
【0128】
(h1)パワー変数が閾値以上
上方物判定部72cは、対象物標データが(h1)のオフ条件を満足する場合は(ステップS35にてYes)、対象物標データの上方物フラグをオフとする(ステップS36)。これにより、上方物判定部72cは、対象物標データに係る物標が上方物であると誤って判定した場合であっても判定を修正できる。
【0129】
このようにして一つの物標データに関する処理が完了すると、上方物判定部72cが、対象物標データとされていない未処理の物標データが存在するかを判定する(ステップS37)。そして、存在していた場合は(ステップS37にてYes)、上方物判定部72cは、次の一つの物標データを新たな対象物標データに選択し(ステップS31)、上記と同様の処理を行う。このような処理が繰り返され、全ての物標データについて物標が上方物であるか否かが判定される。
【0130】
<1−7.まとめ>
以上のように、本実施の形態のレーダ装置1では、物標データ導出部71が、物標からの反射波RWを受信して得られる受信信号に基づいて物標に係る物標データを一定時間ごとに導出する。壁検出部72aは、物標データに基づいて自車両が走行する自車線に沿った側壁を検出する。連続性判定部72bは、過去の物標データと直近の物標データとの連続性を判定し、連続性があると判定できない場合に「外挿」を行う。上方物判定部72cは「外挿」の頻度に基づいて物標データに係る物標が上方物か否かを判定する。そして、連続性判定部72bは、自車線内の静止物に係る過去の物標データと連続性があると判定した直近の物標データに係る物標が側壁の範囲に含まれる場合は「外挿」を行う。
【0131】
したがって、自車線に沿った側壁が存在する場合であっても、上方物に係る物標データの「外挿」の頻度を高くすることができ、物標データに係る物標が上方物であると高精度に判定できる。このため、上方物に係る物標データを車両制御装置2に出力しないようにでき、車両制御装置2が上方物に係る物標データに基づいて自車両のブレーキ等を制御することを防止できる。
【0132】
図11及び
図12は、自車線に沿った右側の側壁が存在し、かつ、上方物が存在する場合に、レーダ装置が車両制御装置2に出力する物標データの例を示す図である。
図11は従来のレーダ装置1a(
図7参照)が出力する物標データを示し、
図12は本実施の形態のレーダ装置1が出力する物標データを示している。これらの図中の横軸は時間、左側の縦軸は縦距離、右側の縦軸は横位置を示している。図中の一点鎖線は物標データの縦距離、実線は物標データの横位置を示している。
【0133】
車両制御装置2は、例えば、物標データの横位置が−1.5(m)以上+1.5(m)以下の車線範囲Wsにある場合に、当該物標データに係る物標が自車線内に存在すると認識する。そして、車両制御装置2は、例えば、物標データの縦距離が30(m)以下となり、かつ、物標データの横位置が車線範囲Wsに含まれる場合に、物標データに係る物標との衝突を軽減するよう自車両のブレーキ等を制御する。
【0134】
図11に示すように、従来のレーダ装置1aは、物標データに係る物標が上方物であると正しく判定できず、当該物標データを車両制御装置2に継続して出力する。物標データの縦距離が小さくなるにつれ、物標データの横位置は大きくなっている(自車両の右側に移動している)。しかしながら、物標データの縦距離が30(m)以下となる時点T12においても、物標データの横位置は車線範囲Wsに含まれている。このため、車両制御装置2は、この物標データに基づいて自車両のブレーキ等を制御してしまうおそれがある。
【0135】
これに対して、
図12に示すように、本実施の形態のレーダ装置1は、時点T12より前の時点T11において、物標データに係る物標が上方物であると正しく判定する。このため、レーダ装置1は、時点T11以降、当該物標データを車両制御装置2に出力しなくなる。その結果、車両制御装置2が当該物標データに基づいて自車両のブレーキ等を制御することが防止される。
【0136】
<2.第2の実施の形態>
次に、第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態の車両制御システム10の構成及び動作は、第1の実施の形態とほぼ同様であるため、以下、第1の実施の形態との相違点を中心に説明する。
【0137】
第2の実施の形態では、新規に表れた物標に係る物標データが特定の条件を満たす場合に、当該物標データに係る物標は上方物であると判定する。これにより、物標データに係る物標が上方物であることを、より高精度に判定できるようになっている。
【0138】
図13は、第2の実施の形態のレーダ装置1の構成を示す図である。第2の実施の形態のレーダ装置1は、
図2に示す第1の実施の形態の上方物判定部72cに代えて、第1上方物判定部72d及び第2上方物判定部72eを、物標データ処理部72のサブ機能として備えている。その他の構成は、第1の実施の形態と同様である。
【0139】
第1上方物判定部72dは、第1の実施の形態の上方物判定部72cと同一の処理を行う。すなわち、第1上方物判定部72dは、「外挿」の頻度に基づいて物標データに係る物標が上方物であるか否かを判定する。一方、第2上方物判定部72eは、新規に表れた物標に係る物標データ(以下、「新規物標データ」という。)が特定の条件を満たす場合に、当該新規物標データに係る物標が上方物であると判定する。
【0140】
図14は、第2上方物判定部72eが、新規物標データに係る物標が上方物であると判定する原理を説明する図である。レーダ装置1が、新規に表れた静止物に係る新規物標データT4を導出した場合を想定する。この場合において、新規物標データT4に係る物標の前方近傍に自車両9の前方を走行する他車両である先行車91が存在し、レーダ装置1がこの先行車91に係る物標データT5を導出したとする。
【0141】
仮に、新規物標データT4に係る物標が路面上にある静止物であるとすると、この物標は先行車91と衝突したはずである。しかしながら、この物標は先行車91と衝突していないことから、新規物標データT4に係る物標は上方物101であると判断できる。第2上方物判定部72eは、この原理により、新規物標データT4に係る物標が上方物であると判定する。
【0142】
図15は、第2の実施の形態における上方物判定処理(
図6のステップS17)の詳細な流れを示す図である。以下、この第2の実施の形態の上方物判定処理の詳細な流れを説明する。
【0143】
まず、第1上方物判定部72dが、
図10に示す第1の実施の形態の上方物判定処理(ステップS31〜S37)と同一の処理を行う。これにより、第1上方物判定部72dは、新規物標データ以外の物標データを対象にして、「外挿」の頻度に基づいて物標データに係る物標が上方物であるか否かを判定する。
【0144】
続いて、第2上方物判定部72eが、新規物標データを対象にして、新規物標データに係る物標が上方物であるか否かを判定する。第2上方物判定部72eは、新規フラグがオンである物標データを新規物標データとして扱うことができる。
【0145】
第2上方物判定部72eは、まず、新規物標データの一つを、処理の対象とする「対象新規物標データ」として選択する(ステップS41)。
【0146】
次に、第2上方物判定部72eは、対象新規物標データに係る物標が静止物であるか否かを判定する(ステップS42)。具体的には、第2上方物判定部72eは、対象新規物標データが以下の(i1)及び(i2)の条件を満足するか否かを判断する。
【0147】
(i1)移動物フラグ=オフ
(i2)先行車フラグ=オフ
第2上方物判定部72eは、対象新規物標データが(i1)及び(i2)の条件を満足する場合は(ステップS42にてYes)、次に、対象新規物標データの前方の所定距離以内に先行車が存在するか否かを判定する。具体的には、第2上方物判定部72eは、以下の(j1)〜(j3)の条件を満足する物標データである「探索物標データ」が存在するか否かを判定する。
【0148】
(j1)先行車フラグ=オン
(j2)−10(m)≦(対象新規物標データの縦距離−探索物標データの縦距離)≦0
(j3)対象新規物標データと探索物標データとの横位置の差≦1.0(m)
(j1)の条件により、探索物標データに係る物標が先行車であることが判定される。(j2)の条件により、探索物標データに係る物標が、対象新規物標データに係る物標よりも前方の所定距離以内(10m以内)に存在することが判定される。また、(j3)の条件により、対象新規物標データと探索物標データとの横位置が比較的近いこと(すなわち、上下差が無ければ、物標同士が衝突する可能性があること)が判定される。
【0149】
第2上方物判定部72eは、(j1)〜(j3)の条件を満足する探索物標データ(先行車に係る物標データ)が存在する場合は(ステップS43にてYes)、対象新規物標データの上方物フラグをオンとする(ステップS44)。すなわち、第2上方物判定部72eは、対象新規物標データに係る物標が上方物であると判定することになる。
【0150】
このようにして一つの新規物標データに関する処理が完了すると、第2上方物判定部72eが、対象新規物標データとされていない未処理の新規物標データが存在するかを判定する(ステップS45)。そして、存在していた場合は(ステップS45にてYes)、第2上方物判定部72eは、次の一つの新規物標データを新たな対象新規物標データに選択し(ステップS41)、上記と同様の処理を行う。このような処理が繰り返され、全ての新規物標データについて物標が上方物であるか否かが判定される。
【0151】
以上のように、第2の実施の形態のレーダ装置1では、物標データに係る物標が新規に表れた静止物であり、該物標の前方の所定距離以内に先行車が存在する場合は、第2上方物判定部72eが該物標は上方物であると判定する。このため、物標データに係る物標が上方物であることをさらに高精度に判定できる。
【0152】
<3.第3の実施の形態>
次に、第3の実施の形態について説明する。第3の実施の形態の車両制御システム10の構成及び動作は、第1の実施の形態とほぼ同様であるため、以下、第1の実施の形態との相違点を中心に説明する。
【0153】
第3の実施の形態では、物標データが特定の条件を満たす場合に、上方物判定処理において用いる条件を変更して、当該物標データに係る物標が上方物であると判定しやすくする。これにより、物標データに係る物標が上方物であることを、より高精度に判定できるようになっている。
【0154】
図16は、第3の実施の形態のレーダ装置1の構成を示す図である。第3の実施の形態のレーダ装置1は、
図2に示す第1の実施の形態の構成に加えて、条件変更部72fを物標データ処理部72のサブ機能としてさらに備えている。その他の構成は、第1の実施の形態と同様である。
【0155】
条件変更部72fは、静止物に係る物標データが特定の条件を満たす場合には、当該物標データに係る物標が上方物である蓋然性が高いと判断し、上方物判定処理において用いる「外挿」の頻度に関する条件を緩和する。これにより、当該物標データに係る物標が上方物であると判定しやすくする。
【0156】
図17は、条件変更部72fが、物標データに係る物標が上方物である蓋然性が高いと判定する原理を説明する図である。レーダ装置1が、静止物に係る物標データT6を導出し、この物標データT6に係る物標に対する自車両9の衝突余裕時間(TTC)が比較的小さい場合を想定する。この場合において、物標データT6に係る物標の後方に自車両9の前方を走行する他車両である先行車91が存在し、レーダ装置1がこの先行車91に係る物標データT7を導出したとする。換言すれば、物標データT6に係る物標と自車両9との間に先行車91が存在したとする。
【0157】
物標データT6に係る物標に対する先行車91の衝突余裕時間は、自車両9の衝突余裕時間よりも小さくなる。仮に、物標データT6に係る物標が路面上にある静止物であるとすると、先行車91はこの物標と衝突する可能性が非常に高い危険な状態となっているはずである。先行車91が通常に走行している場合はこのような危険な状態とはならないことから、物標データT6に係る物標は上方物101である蓋然性が高いと判断できる。条件変更部72fは、この原理により、物標データT6に係る物標が上方物である蓋然性が高いと判定する。
【0158】
図18は、第3の実施の形態における上方物判定処理の詳細な流れを示す図である。この上方物判定処理は、
図10に示す第1の実施の形態の上方物判定処理のステップS32とステップS33との間に、条件変更部72fの処理であるステップS51〜S54を挿入したものとなる。以下、この第3の実施の形態の上方物判定処理の詳細な流れを説明する。
【0159】
まず、上方物判定部72cが、物標データの一つを、処理の対象とする「対象物標データ」として選択する(ステップS31)。次に、上方物判定部72cは、対象物標データの上方物フラグがオフであるか否かを判定する(ステップS32)。
【0160】
対象物標データの上方物フラグがオフの場合は(ステップS32にてYes)、条件変更部72fが、対象物標データに係る物標が自車線内にある静止物であるか否かを判定する(ステップS51)。具体的には、条件変更部72fは、対象物標データが以下の(k1)〜(k3)の条件を満足するか否かを判断する。
【0161】
(k1)移動物フラグ=オフ
(k2)先行車フラグ=オフ
(k3)横位置の絶対値≦1.5(m)
(k1)及び(k2)の条件により、対象物標データに係る物標が静止物であることが判定される。(k3)の条件により、対象物標データに係る物標が自車線内に存在することが判定される。
【0162】
条件変更部72fは、対象物標データが(k1)〜(k3)の条件を満足した場合は(ステップS51にてYes)、次に、対象物標データに係る物標に対する自車両の衝突余裕時間が閾値以下であるか否かを判定する(ステップS52)。具体的には、条件変更部72fは、対象物標データが以下の(l1)の条件を満足するか否かを判断する。
【0163】
(l1)衝突余裕時間≦2.5(s)
(l1)の条件により、対象物標データに係る物標に対し自車両の衝突の可能性が比較的高いことが判定される。
【0164】
条件変更部72fは、対象物標データが(l1)の条件を満足した場合は(ステップS53にてYes)、次に、対象物標データに係る物標と自車両との間に先行車が存在するか否かを判定する(ステップS53)。具体的には、条件変更部72fは、以下の(m1)〜(m3)の条件を満足する物標データである「探索物標データ」が存在するか否かを判定する。
【0165】
(m1)先行車フラグ=オン
(m2)横位置の絶対値≦1.5(m)
(m3)対象物標データの縦距離≧探索物標データの縦距離
(m4)対象物標データと探索物標データとの横位置の差≦1.0(m)
(m1)の条件により、探索物標データに係る物標が先行車であることが判定される。(m2)の条件により、探索物標データに係る物標が自車線内に存在することが判定される。(m3)の条件により、探索物標データに係る物標が、対象物標データに係る物標よりも後方に存在することが判定される。また、(m4)の条件により、対象物標データと探索物標データとの横位置が比較的近いこと(すなわち、上下差が無ければ、物標同士が衝突する可能性があること)が判定される。
【0166】
条件変更部72fは、(j1)〜(j3)の条件を満足する探索物標データ(先行車に係る物標データ)が存在する場合は(ステップS53にてYes)、上方物判定部72cが用いる上方物フラグをオンとするためのオン条件を緩和する(ステップS54)。このオン条件として通常は上記(g1)及び(g2)の条件が用いられるが、条件変更部72fは(g2)の条件を次の(g3)に変更する。
【0167】
(g3)過去7回の物標データ取得処理における「外挿」の回数が3回以上
すなわち、条件変更部72fは、「外挿」の頻度(予測データの導入頻度)に関する条件を緩和する(7回中5回から7回中3回に変更する)ことになる。これにより、次のステップS33において、対象物標データに係る物標が上方物であると判定しやすくすることができる。
【0168】
以上のように、第3の実施の形態のレーダ装置1では、物標データに係る物標が静止物であり、該物標に対する自車両の衝突余裕時間が閾値以下であり、かつ、該物標と自車両との間に他車両が存在する場合は、条件変更部72fが上方物判定部72cが用いるオン条件を変更する。これにより、物標データに係る物標が上方物であると判定しやすくする。このため、物標データに係る物標が上方物であることをさらに高精度に判定できる。
【0169】
<4.変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、この発明は上記実施の形態に限定されるものではなく様々な変形が可能である。以下では、このような変形例について説明する。上記実施の形態及び以下で説明する形態を含む全ての形態は、適宜に組み合わせ可能である。
【0170】
上記実施の形態では、物標が上方物であると判定した物標データの上方物フラグをオンに設定し、上方物フラグがオンとなっている物標データを車両制御装置2に出力しないようにしていた。これに対し、物標が上方物であると判定した物標データをメモリ65から消去することで、当該物標データを車両制御装置2に出力しないようにしてもよい。
【0171】
また、上記実施の形態では、車両制御装置2は、障害物との衝突を軽減するために自車両の制御を行なっていたが、他車両に追随するなど、他の目的のために自車両の制御を行うものであってもよい。
【0172】
また、上記実施の形態においてソフトウェア的に実現されると説明した機能の全部又は一部は電気的なハードウェア回路により実現されてもよい。また、上記実施の形態において一つのブロックとして説明した機能が、ソフトウェアとハードウェアとの協働によって実現されてもよい。