(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0018】
[1]ハニカム触媒体:
本発明のハニカム触媒体の一実施形態は、
図1、
図2に示すハニカム触媒体100である。ハニカム触媒体100は、多孔質の隔壁15を有するハニカム基材10と、隔壁15に担持された触媒(隔壁15上に形成された触媒を含む触媒層16)と、を備えている。ハニカム基材10は、流体の流路となり流体が流入する一方の端面である流入端面11から流体が流出する他方の端面である流出端面12まで延びる複数のセル2を区画形成する多孔質の隔壁15を有している。ハニカム触媒体100は、ハニカム基材10に、ハニカム基材10の側面に開口するスリット20が少なくとも1本形成され、ハニカム基材10におけるスリット20内に露出する隔壁15の端面であるスリット内端面21に触媒が担持されている。ハニカム触媒体100は、スリット内端面21の全部を覆うように触媒が担持されている(
図2,3参照)が、スリット内端面21の一部を覆うように触媒が担持されていてもよい。なお、
図1、
図2中、流体の流れの一部を矢印(太線)で示す。
【0019】
このようなハニカム触媒体100は、ハニカム基材10に、このハニカム基材10の側面に開口するスリット20が少なくとも1本形成されている。そのため、ハニカム触媒体100に流入した排ガスはこのスリット20内で乱流を生じさせる。そして、ハニカム触媒体100は、排ガスの乱流が発生している部分、即ち、スリット20内に露出する隔壁15の端面であるスリット内端面21に、触媒が担持されているため、排ガスと触媒との接触効率が向上し、優れた排ガスの浄化性能を発揮する。
【0020】
また、スリット20に近い部分(スリット20内を含む)は、排ガスと触媒との接触効率が高く、この部分に担持された触媒は、排ガスによって被毒され易い。そして、この部分の触媒の全てが被毒されると、排ガスの浄化性能が低下してしまうが、ハニカム触媒体100は、隔壁15の表面だけでなくスリット内端面21にも触媒を担持しているため、スリット20に近い部分における触媒の担持量が従来よりも多い。そのため、ハニカム触媒体100は、従来のハニカム触媒体よりも長い期間使用できることになる。即ち、ハニカム触媒体100は、長期の使用によっても排ガスの浄化性能が低下し難くなっている。つまり、ハニカム触媒体100は、従来のハニカム触媒体に比べて、スリット20に近い部分に触媒が多く担持されているため、触媒が被毒することによる浄化性能の低下を抑制することができる。
【0021】
また、ハニカム触媒体100は、スリット20が形成されている従来のハニカム触媒体に比べて浄化性能が向上しているため、従来のハニカム触媒体に比べて形成するスリット20の数を少なくすることができる。そのため、ハニカム触媒体100は、従来のハニカム触媒体に比べて圧力損失の増大を抑制することができ、アイソスタティック(ISO)強度を向上させることができる。更には、ハニカム触媒体100は、従来のハニカム触媒体に比べて浄化性能が向上しているため、従来のハニカム触媒体に比べて大きさを小さくすることができる。そのため、ハニカム触媒体100は、自動車などのように搭載スペースが限られている場合にも良好に用いることができる。
【0022】
図1は、本発明のハニカム触媒体の一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
図2は、本発明のハニカム触媒体の一の実施形態におけるハニカム基材のセルの延びる方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。
【0023】
[1−1]ハニカム基材:
ハニカム触媒体100は、上述したように、ハニカム基材10に、ハニカム基材10の側面に開口する少なくとも1本のスリット20が形成されている。本発明のハニカム触媒体においては、形成されたスリットによって排ガスが乱流を生じる限り、スリットの形成位置や形成方向は、特に制限はなく適宜設定することができる。スリットは、スリットの延びる方向がハニカム基材のセルの延びる方向に直交するように形成されることが好ましい。また、スリットは、上記の通り、少なくとも1本形成されていればよく、スリットの本数は、適宜設定することができる。
【0024】
本発明のハニカム触媒体は、
図1、
図2に示すハニカム触媒体100のように、ハニカム基材10に、ハニカム基材10の側面に開口するスリット20が少なくとも2本形成されていることが好ましい。この場合、スリット20は、少なくとも一のセル2が少なくとも2本のスリット20を通過するように形成されていることが好ましい。ここで、ハニカム基材10のセル2の延びる方向において隣り合う2本のスリット20間に位置する隔壁15を中間隔壁30とする(
図3参照)。また、中間隔壁30の、隣り合う2本のスリット20のうちのハニカム基材10の流入端面11側に位置するスリットである流入側スリット20a内に露出する端面を流入側スリット内端面21aとする(
図3参照)。また、中間隔壁30の、隣り合うスリット20のうちのハニカム基材10の流出端面12側に位置するスリットである流出側スリット20b内に露出する端面を流出側スリット内端面21bとする(
図3参照)。この場合において、流入側スリット内端面21a及び流出側スリット内端面21bには触媒が担持されていることが好ましい。更に、流入側スリット内端面21aに担持された触媒の量は、流出側スリット内端面21bに担持された触媒の量より多いことが好ましい。
図3は、
図2に示す領域Pを拡大して模式的に示す断面図である。「流入側スリット内端面に担持された触媒」とは、流入側スリット内端面を含む平面を第一基準面とした場合、この第一基準面を境界として中間隔壁の外側(中間隔壁の存在する領域とは反対側の領域)に存在する触媒のことである。「流出側スリット内端面に担持された触媒」とは、流出側スリット内端面を含む平面を第二基準面とした場合、この第二基準面を境界として中間隔壁の外側(中間隔壁の存在する領域とは反対側の領域)に存在する触媒のことである。なお、これらの触媒の量は、以下に説明する画像解析により測定されるものである。
【0025】
ハニカム触媒体100は、スリット20の延びる方向がハニカム基材10のセル2の延びる方向に直交するように全てのスリット20が形成されていることが好ましい。即ち、ハニカム触媒体100は、ハニカム基材10の端面11,12に平行に(つまり、スリット20の幅方向が、ハニカム基材10のセル2の延びる方向と同じ方向となるように)全てのスリット20を形成することが好ましい。また、ハニカム触媒体100は、ハニカム基材10の中心軸方向から見たときに、それぞれが90°で交叉するようにスリット20が形成されていることが好ましい。
【0026】
なお、隔壁に担持された触媒の量は、以下のように画像解析により測定した値である。まず、触媒担持ハニカム構造体をセルの延びる方向に平行に切断する。次にその断面を走査電子顕微鏡(SEM)により撮像し、得られた画像を解析する。この画像解析において「触媒の面積」を求め、この面積を「隔壁に担持された触媒の量」とする。具体的には、走査電子顕微鏡(例えば、日立製作所社製の走査電子顕微鏡「S−3200N(商品名)」)の反射電子(アニュラー検出器)によって、倍率100倍、縦1200μm×横1000μmの範囲で撮影を行う。次に、1つの中間隔壁を網羅した(全体を表した)SEM画像を作成する。具体的には、1つの中間隔壁について撮影領域をずらしながら、倍率100倍で複数枚SEM画像を撮影し、その後、撮影した複数枚のSEM画像を合成して1つの中間隔壁の全体を表した1枚のSEM画像を得る。次に、得られた画像(合成画像)を、触媒と隔壁とに分けるように2値化して画像解析することにより、隔壁に担持された触媒面積を測定する。このようにして、隔壁に担持された触媒の量を決定する。
【0027】
「セルの延びる方向において隣り合う2本のスリット」とは、上記「一のセル」を分断する少なくとも2本のスリットのうち、セルの延びる方向において隣り合うスリットのことである。即ち、一のセルに流入した排ガスが、ハニカム基材の流入端面から流出端面まで流れると仮定すると、一のセルに流入した排ガスは、少なくとも2本のスリットを通過することになる。
【0028】
このようなハニカム触媒体100は、流入側スリット内端面21aに担持された触媒の量が、流出側スリット内端面21bに担持された触媒の量より多いため、排ガスの浄化性能が更に向上し、また、排ガスの浄化性能の低下を更に良好に抑制することができる。即ち、触媒による排ガスの浄化反応は、流出側スリット20b内よりも流入端面に近い流入側スリット20a内の方が効果的に行われるため、流入側スリット20a内の流入側スリット内端面21aに触媒を多く担持させることで浄化性能を向上させることができる。また、流出側スリット20b内の触媒よりも流入側スリット20a内の触媒の方が排ガスによる被毒の程度は大きいため、流入側スリット20a内の流入側スリット内端面21aに触媒を多く担持させることで、長期使用による浄化性能の低下を良好に抑制することができる。
【0029】
流入側スリット内端面21aに担持された触媒の量は、具体的には、流出側スリット内端面21bに担持された触媒の量の100%以上であることが好ましい。
【0030】
図3に示すように、中間隔壁30を、流入側スリット内端面21aから5mmの範囲である流入領域31と、流出側スリット内端面21bから5mmの範囲である流出領域33と、流入領域31及び流出領域33の間に位置する中央領域32との3つの領域に分ける。更に、中間隔壁30において中間隔壁30の長手方向の中間位置Xから流入側スリット内端面21a側に5mmの位置である流入側端Yと、中間位置Xから流出側スリット内端面21b側に5mmの位置である流出側端Zとの間の領域である中心領域32aを想定する。このとき、流入領域31に担持された触媒の量は、中心領域32a及び流出領域33に担持された触媒のそれぞれの量より多いことが好ましい。このように触媒を担持させると、排ガスの浄化性能を更に向上させることができる。即ち、上述したように、触媒による排ガスの浄化反応は、流出側スリット内よりも流入側スリット内の方が効果的に行われる。そのため、流入側スリットに近い領域(流入領域)に他の領域よりも多くの触媒を担持させることにより、排ガスの浄化性能を更に向上させることができる。また、排ガスにより一部の触媒が被毒してしまったとしても他により多くの触媒が残存するため、長期使用による浄化性能の低下を良好に抑制することができる。「スリット内端面から5mmの範囲」とは、ハニカム基材10のセル2の延びる方向に平行な断面(
図2参照)において、スリット内端面21から、スリット内端面21を基点としてセル2の延びる方向に5mm離れた位置までの範囲のことである。
【0031】
本発明のハニカム触媒体は、更に、流出領域に担持された触媒の量が、中心領域に担持された触媒の量より多いことが好ましい。即ち、流入領域、流出領域、及び中心領域のそれぞれに担持される触媒の量は、流入領域、流出領域、中心領域の順に多いことが好ましい。このように触媒を担持させることにより、排ガスと触媒の接触確率が高い領域に多くの触媒が担持されるため、浄化性能が向上するという利点がある。
【0032】
また、本発明のハニカム触媒体は、流出領域に担持された触媒の量が、上述の中心領域及び流入領域に担持された触媒のそれぞれの量より多いことも好ましい態様である。このように触媒を担持させることにより、排ガスと触媒の接触確率が高い領域に多くの触媒が担持されるため、浄化性能が向上するという利点がある。
【0033】
スリットは、例えば、1〜10本形成することが好ましく、3〜5本形成することが更に好ましい。上記下限値未満であると、触媒による排ガスの浄化性能が十分に発揮されないおそれがある。上記上限値未満であると、ハニカム触媒体の強度が低下してしまうおそれがある。
【0034】
スリットの幅は、1.0〜10.0mmであることが好ましく、2.5〜10.0mmであることが更に好ましい。上記範囲とすることにより、排ガスと触媒の接触効率が高くなるため、浄化性能が向上する。上記下限値未満であると、触媒と排ガスとの接触効率が低下して浄化性能が十分に発揮されないおそれがある。上記上限値超であると、圧力損失が増大してしまうおそれがある。また、ハニカム触媒体の強度が低下してしまうおそれがある。なお、「スリットの幅」は、スリットを構成する互いに向かい合う2つの端面(2つのスリット内端面)の間の距離のことである。
【0035】
ハニカム基材10のセル密度は、350〜900セル/cm
2であることが好ましく、上記セル密度が350セル/cm
2未満であると、強度が低下するおそれがある。一方、900セル/cm
2超であると、圧力損失が増加するおそれがある。
【0036】
隔壁15の材料としては、セラミック材料が好ましい。強度及び耐熱性に優れるという観点からは、コージェライト、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、ムライト、アルミナ、チタン酸アルミニウム、窒化珪素、及び炭化珪素−コージェライト系複合材料からなる群から選択される少なくとも1種が更に好ましい。これらの中でも、コージェライトが好ましい。
【0037】
ハニカム基材10のセル2の延びる方向に直交する断面におけるセル2の形状は、四角形状、六角形状などをとすることができる。
【0038】
ハニカム基材10(ハニカム触媒体100)のセルの延びる方向の長さは、25mm以上で400mm以下とすることができる。また、ハニカム触媒体100の端面が円形である場合、端面の直径は、20〜410mmとすることができる。
【0039】
ハニカム基材10の形状は、円柱状、楕円柱状、四角柱状、六角柱状などとすることができる。これらの中でも、円柱状、四角柱状が好ましい。
【0040】
ハニカム基材は、複数のハニカムセグメントからなる接合体であってもよい。即ち、ハニカム基材は、複数のハニカムセグメントの集合体と、これらのハニカムセグメントを互いに接合する接合材からなる接合部とを備えるものであってもよい。
【0041】
ハニカム構造体23は、流入端面11から流出端面12まで延びる流体の流路となる複数のセル2を区画形成する多孔質の隔壁15を有するものである。
【0042】
ハニカム構造体には、複数のセルにおいて流入端面側及び流出端面側のいずれかの端部に配設されてセルを目封止する目封止部が形成されていてもよい。
【0043】
また、
図1に示すハニカム基材10は、外周壁3を有しているが、外周壁3を有さなくてもよい。外周壁3は、ハニカム基材10を作製する過程において、ハニカム成形体を押出成形する際に、隔壁とともに形成されることが好ましい。また、外周壁3は、セラミック材料をハニカム構造体の外周に塗工して形成したものであってもよい。
【0044】
[1−2]触媒:
触媒としては、例えば、三元触媒、NO
X吸蔵還元触媒、酸化触媒、NO
X選択還元触媒などを挙げることができる。また、上述した触媒以外にも、排ガス中の有害成分や煤等の酸化、NO
Xの浄化に適切な触媒種を適宜選択することができる。
【0045】
なお、向かい合う2つのスリット内端面(スリットを構成する2つの端面)のいずれにも触媒が担持される場合、上記2つのスリット内端面に担持された触媒は、互いに接触していない。即ち、一方のスリット内端面に担持された触媒と他方のスリット内端面に担持された触媒との間には、隙間が形成されていることになる。このように隙間が形成されていることにより、スリット内で排ガスに乱流が発生した際に排ガスと触媒との接触効率が高くなる。
【0046】
ハニカム触媒体全体における触媒の担持量は、5〜300g/Lであること好ましい。ハニカム触媒体全体における触媒の担持量が5g/L未満であると、浄化性能が低下するおそれがある。一方、300g/L超であると、圧力損失が増加するおそれがある。「ハニカム触媒体全体における触媒の担持量」とは、中間隔壁やこの中間隔壁の各領域(流入領域、中央領域、流出領域)における、いわゆる微視的な触媒の担持量を言うのではなく、ハニカム触媒体全体における触媒量の平均値のことである。具体的には、ハニカム触媒体を、セルの延びる方向に直交する方向に4等分して各領域における触媒の担持量を測定し、その後、これらの平均を算出して得られる値である。
【0047】
[2]ハニカム触媒体の製造方法:
本発明のハニカム触媒体は、例えば以下のように製造することができる。まず、ハニカム基材を作製するための坏土を調整し、この坏土を成形して、ハニカム成形体を作製する(成形工程)。
【0048】
次に、得られたハニカム成形体(または、必要に応じて行われた乾燥後のハニカム乾燥体)を焼成してハニカム構造体を作製する(ハニカム構造体作製工程)。
【0049】
次に、得られたスリット形成前のハニカム基材の側面に、少なくとも1本のスリットを形成する(スリット形成工程)。なお、スリットは、上記ハニカム構造体に予め形成してもよい。
【0050】
次に、作製したハニカム基材に、触媒を含む触媒液を塗工して触媒液の塗膜を形成し、この塗膜を乾燥させる(触媒担持工程)。このようにして、ハニカム触媒体を得る。
【0051】
以下、各製造工程について更に詳細に説明する。
【0052】
[2−1]成形工程:
まず、成形工程においては、セラミック原料を含有するセラミック成形原料を成形して、流体の流路となる複数のセルを区画形成するハニカム成形体を形成する。
【0053】
セラミック成形原料に含有されるセラミック原料としては、コージェライト化原料、コージェライト、ムライト、アルミナ、チタニア、炭化珪素、及びチタン酸アルミニウムからなる群から選択された少なくとも1種を含むものであることが好ましい。なお、コージェライト化原料とは、シリカが42〜56質量%、アルミナが30〜45質量%、マグネシアが12〜16質量%の範囲に入る化学組成となるように配合されたセラミック原料のことである。コージェライト化原料は、焼成されてコージェライトになる。
【0054】
また、セラミック成形原料は、上記セラミック原料に、分散媒、有機バインダ、無機バインダ、造孔材、界面活性剤等を混合して調製することが好ましい。各原料の組成比は、特に限定されず、作製しようとするハニカム基材の構造、材質等に合わせた組成比とすることが好ましい。
【0055】
セラミック成形原料を成形する際には、まず成形原料を混練して坏土とし、得られた坏土をハニカム形状に成形することが好ましい。成形原料を混練して坏土を形成する方法としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。坏土を成形してハニカム成形体を形成する方法としては特に制限はなく、押出成形、射出成形等の従来公知の成形方法を用いることができる。例えば、所望のセル形状、隔壁厚さ、セル密度を有する口金を用いて押出成形してハニカム成形体を形成する方法等を好適例として挙げることができる。口金の材質としては、摩耗し難い超硬合金が好ましい。
【0056】
ハニカム成形体の形状は、特に限定されず、円柱状、楕円柱状、四角柱状、六角柱状などとすることができる。
【0057】
なお、成形後に、得られたハニカム成形体を乾燥してもよい。乾燥方法は、特に限定されないが、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等を挙げることができる。これらの中でも、誘電乾燥、マイクロ波乾燥又は熱風乾燥を単独で又は組合せて行うことが好ましい。
【0058】
[2−2]ハニカム構造体作製工程:
次に、得られたハニカム成形体を焼成してハニカム構造体を得る。
【0059】
また、ハニカム成形体を焼成(本焼成)する前には、そのハニカム成形体を仮焼することが好ましい。仮焼は、脱脂のために行うものである。仮焼の方法は、特に制限はなく、成形体中の有機物(有機バインダ、分散剤、造孔材等)を除去することができればよい。一般に、有機バインダの燃焼温度は100〜300℃程度、造孔材の燃焼温度は200〜800℃程度であるので、仮焼の条件としては、酸化雰囲気において、200〜1000℃程度で、3〜100時間程度加熱することが好ましい。
【0060】
ハニカム成形体の焼成(本焼成)は、仮焼した成形体を構成する成形原料を焼結させて緻密化し、所定の強度を確保するために行われる。焼成条件(温度、時間、雰囲気)は、成形原料の種類により異なるため、その種類に応じて適当な条件を選択すればよい。例えば、コージェライト化原料を使用している場合には、焼成温度は、1410〜1440℃が好ましい。また、焼成時間は、最高温度でのキープ時間として、4〜6時間が好ましい。
【0061】
[2−3]スリット形成工程:
次に、作製したハニカム基材の側面に、超音波カッターなどを用いて少なくとも1本のスリットを形成する。
【0062】
[2−4]触媒担持工程:
次に、ハニカム基材に、触媒を含有する触媒液を塗工して塗膜を形成し、この塗膜を乾燥させる。このようにして、ハニカム触媒体を作製することができる。
【0063】
触媒液の塗工方法としては、例えば流入側スリット内端面及び流出側スリット内端面のうち流入側スリット内端面のみに触媒を担持させる場合、以下の方法を採用することができる。例えば三元触媒(TWC)を含有する触媒液を、ハニカム基材にウォッシュコートした後、熱処理前にスリット内端面の触媒を空気で吹き飛ばす。その後、流出側スリット内端面が上方を向くようにして乾燥炉に設置し450〜700℃で熱処理して焼き付ける方法とした。この方法によれば、熱処理中に、セルの表面に塗布された触媒液の一部が下方に移動して流入側スリット内端面を覆うように溜まり、触媒液の膜を形成する。そのため、流入側スリット内端面のみに触媒を担持させることができる。
【0064】
また、流入側スリット内端面及び流出側スリット内端面の両方に触媒を担持させる場合、以下の方法を採用することができる。即ち、上記の方法により、流入側スリット内端面のみに触媒を担持させた後、この「流入側スリット内端面のみに触媒を担持させたハニカム基材」に上記触媒液をウォッシュコートし、その後、熱処理前に、スリット内端面の触媒液を空気で吹き飛ばす。その後、流入側スリット内端面が上方を向くようにして乾燥炉に設置し、450〜700℃で熱処理して焼き付ける。なお、触媒の担持量は、上記塗布作業を複数回繰り返すことにより調節することができる。
【0065】
触媒液は、触媒以外に、貴金属、触媒助剤、貴金属保持材料などを含有していてもよい。貴金属としては、例えば、白金、ロジウム、パラジウムなどを挙げることができる。触媒助剤としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、セリアなどを挙げることができる。
【0066】
触媒液の粘度は、0.5〜50Pa・sとすることが好ましく、1.0〜30Pa・sとすることが更に好ましく、1.0〜10Pa・sとすることが更に好ましい。触媒液の粘度を上記範囲とすることにより、スリット内端面に触媒を担持させ易くなる。
【0067】
触媒液からなる塗膜は、120〜180℃、0.5〜3時間の条件で乾燥させることが好ましい。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
(
参考例1)
コージェライト化原料に、造孔材、有機バインダ及び水を添加して成形原料とした。成形原料を、混合、混練して円柱状の坏土を調製した。有機バインダとしては、メチルセルロースを用い、コージェライト化原料100質量部に対して8質量部添加した。水は分散媒として添加し、成形原料全体に対して85質量%となるように添加した。コージェライト原料は、焼成によりコージェライトとなる原料である。具体的には、シリカ(SiO
2)が42〜56質量%、アルミナ(Al
2O
3)が30〜45質量%、マグネシア(MgO)が12〜16質量%の範囲に入る化学組成となるように「所定の原料」が混合されたセラミック原料である。「所定の原料」は、タルク、カオリン、仮焼カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム、及びシリカのうちから選択された原料である。
【0070】
次に、所定の口金を用いて坏土を押出成形し、複数のセルを区画形成する隔壁と、外周壁とを備えるハニカム成形体を得た。ハニカム成形体は、セル形状(セルの延びる方向に直交する断面におけるセルの形状)が正方形(表1中、「四角」と記す)で、全体形状が円筒形であった。
【0071】
次に、得られたハニカム成形体を、マイクロ波乾燥機で乾燥させ、その後、1410〜1440℃で、5時間焼成してスリット形成前のハニカム基材を作製した。
【0072】
次に、得られた「スリット形成前のハニカム基材」にスリットを5本形成して、ハニカム基材を得た。スリットは、超音波カッターを用いて形成した。また、スリットは、セルの延びる方向において等間隔で配置し、ハニカム基材の中心軸方向から見たときに、それぞれが90°で交叉するように形成した。そして、セルの延びる方向において隣合うスリット(一方のスリット、他方のスリット)は、ハニカム基材の中心軸方向から見たときに、90°で交叉していた。また、全てのスリットのスリット幅は、3mmとした。また、スリットは、ハニカム基材の端面に平行に(スリットの幅方向が、ハニカム基材のセルの延びる方向と同じ方向となるように)形成した。また、5本のスリットは、ハニカム基材を貫通するように形成した。
図4〜
図6は、本
参考例で作成した、5本のスリット20が形成されたハニカム触媒体101を模式的に示している。
図4は、本
参考例のハニカム触媒体101を側面から見た平面図である(本発明のハニカム触媒体の他の実施形態を模式的に示す平面図である。)。
図5は、
図4に示すA−A断面を模式的に示す断面図である。
図6は、
図4に示すB−B断面を模式的に示す断面図である。なお、
図5、
図6においては、セルを省略して記載している。
【0073】
次に、得られたハニカム基材に、触媒を担持して、ハニカム触媒体を作製した。触媒としては、TWC(三元触媒)を用いた。触媒をハニカム基材に担持する方法は、TWCを含有する触媒液を、ハニカム基材にウォッシュコートした後、熱処理前にスリット内端面の触媒を空気で吹き飛ばした。その後、流出側スリット内端面が上方を向くようにして乾燥炉に設置し、550℃で熱処理して焼き付ける方法とした。このハニカム触媒体は、流入側スリット内端面に触媒が担持され、流出側スリット内端面には触媒が担持されていなかった。
【0074】
得られたハニカム触媒体の気孔率は35%であった。また、ハニカム触媒体の平均細孔径は5μmであった。気孔率及び平均細孔径は水銀ポロシメータで測定した値である。また、スリットの幅は3mmであった。また、触媒の担持量は、200g/リットルであった。また、隔壁厚さは88.9μmであり、セル密度は93セル/cm
2であった。また、得られたハニカム触媒体は、底面の直径が118.4mm、セルの延びる方向における長さが143.8mmの円筒形であった。測定結果を表1に示す。
【0075】
得られたハニカム触媒体について、以下の方法で、「浄化性能」を測定し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0076】
[浄化性能]
作製したハニカム触媒体について、走行モード「US−06」(米国の米環境保護局(EPA)が規定する高速道路用の走行パターン「US−06」)での窒素酸化物の浄化率を測定して浄化性能を求めた。具体的には、「ハニカム触媒体に流入する前の窒素酸化物濃度」及び「ハニカム触媒体から流出した窒素酸化物濃度」を測定した。そして、窒素酸化物の浄化率を求めた。得られた浄化率により以下の評価基準で[浄化性能]の評価を行った。上記濃度の測定には、2007年モデルTOYOTA CAMRY(2.4Lエンジン、PZEV仕様)を用いた。
【0077】
浄化率が、基準値の20%より大きく向上した場合を「S」と評価とした。浄化率が、基準値の15%超で20%以下の範囲で向上した場合を「A」と評価とした。浄化率が、基準値の10%超で15%以下の範囲で向上した場合を「B」と評価とした。浄化率が、基準値の5%超で10%以下の範囲で向上した場合を「C」と評価とした。浄化率が、基準値の1%超で5%以下の範囲で向上した場合を「D」と評価とした。「S」評価が最も良い評価であり、「A」評価が次に良い評価であり、「B」評価が「A」評価の次に良い評価であり、「C」評価が「B」評価の次に良い評価であり、「D」評価が「C」評価の次に良い評価である。評価結果を表2に示す。
【0078】
なお、
参考例1〜
4,6〜11、
実施例5における上記「基準値」としては、比較例1のハニカム触媒体の浄化率を採用した。
参考例12における上記「基準値」は、比較例2のハニカム触媒体の浄化率を採用した。
参考例13における上記「基準値」は、比較例3のハニカム触媒体の浄化率を採用した。
参考例14における上記「基準値」は、比較例4のハニカム触媒体の浄化率を採用した。比較例1〜4の浄化性能は、「基準値」として採用したため、表2中の「評価」の欄では「−」と記す。
【0079】
浄化性能を上記基準で評価し、判定を行った。判定の基準は、「D」評価以上である場合、即ち、浄化率が上記「基準値」よりも大きい値であった場合を「OK」とした。それ以外を「NG」とした。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
表1中、「触媒の種類」の「TWC」は三元触媒を示し、「SCR」はNO
X選択還元触媒を示す。表2中、「触媒量比」は、中心領域における触媒量を基準としたときの触媒量の比の値(各領域における触媒量/中心領域における触媒量)を示す。なお、「中心領域」の欄の「触媒量基準」は、中心領域における触媒量が基準であることを示す。なお、比較例1〜4のハニカム触媒体において、中間隔壁に担持されている触媒の量は、均一であった。即ち、比較例1〜4のハニカム触媒体において、中間隔壁の「流入領域」、「中央領域(中心領域を含む)」、及び「流出領域」の各「触媒量」は同じであった。
【0083】
(
参考例2)
まず、
参考例1と同様にして表1に示す条件を満たすハニカム基材を作製した。次に、作製したハニカム基材に、熱処理温度を550℃としたこと以外は、
参考例1と同様にして、ハニカム触媒体を作製した。このハニカム触媒体は、流入側スリット内端面に触媒が担持され、流出側スリット内端面には触媒が担持されていなかった。作製したハニカム触媒体について、
参考例1と同様にして、「浄化性能」を測定して評価を行った。結果を表2に示す。
【0084】
(
参考例3)
まず、
参考例1と同様にして表1に示す条件を満たすハニカム基材を作製した。作製したハニカム基材に、
参考例1と同様にして触媒液をウォッシュコートした後、熱処理前にスリット内端面の触媒を空気で吹き飛ばした。その後、流入側スリット内端面が上方を向くようにして乾燥炉に設置し、550℃で熱処理して焼き付けた。このようにして、ハニカム触媒体を作製した。このハニカム触媒体は、流出側スリット内端面に触媒が担持され、流入側スリット内端面には触媒が担持されていなかった。作製したハニカム触媒体について、
参考例1と同様にして、「浄化性能」を測定して評価を行った。結果を表2に示す。
【0085】
(
参考例4)
まず、
参考例1と同様にして表1に示す条件を満たすハニカム基材を作製した。次に、作製したハニカム基材に、
参考例1と同様にして、触媒液をウォッシュコートし、熱処理して、流入側スリット内端面に触媒が担持され、流出側スリット内端面には触媒が担持されていないハニカム基材(以下、「流入側担持ハニカム基材」と記す)を得た。その後、得られた流入側担持ハニカム基材に、
参考例1と同様の方法で、再度、触媒液をウォッシュコートした。その後、スリット内の触媒液を空気で吹き飛ばした。その後、流入側スリット内端面が上方を向くようにして乾燥炉に設置し、550℃で熱処理して焼き付けた。このようにして、流入側スリット内端面及び流出側スリット内端面に触媒が担持されたハニカム触媒体を作製した。即ち、このハニカム触媒体は、流入側スリット内端面及び流出側スリット内端面の両方に触媒が担持されていた。作製したハニカム触媒体について、
参考例1と同様にして、「浄化性能」を測定して評価を行った。結果を表2に示す。
【0086】
(実施例5
、参考例〜14、比較例1〜4)
各条件を表1,2に示すように変更した以外は、
参考例4と同様にして、ハニカム触媒体を作製した。作製したハニカム触媒体について、
参考例1と同様にして、「浄化性能」を測定して評価を行った。結果を表2に示す。
【0087】
参考例1〜
4,6〜14
、実施例5のハニカム触媒体は、基準となる比較例1〜4のハニカム触媒体のそれぞれと比べて、排ガスの浄化性能に優れることが確認できた。そして、
参考例1〜
4,6〜14
、実施例5のハニカム触媒体は、比較例1〜4のハニカム触媒体に比べて、隔壁の表面だけでなくスリット内端面にも触媒を担持しているため、長期の使用によっても排ガスの浄化性能が低下し難いことが分かる。