特許第6348393号(P6348393)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6348393
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】改質木材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B27K 5/00 20060101AFI20180618BHJP
【FI】
   B27K5/00 F
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-200435(P2014-200435)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-68406(P2016-68406A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000204985
【氏名又は名称】大建工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 裕次郎
(72)【発明者】
【氏名】岩竹 淳裕
【審査官】 竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−071608(JP,A)
【文献】 特開2007−022023(JP,A)
【文献】 特開2010−173112(JP,A)
【文献】 特開2009−107296(JP,A)
【文献】 特開2006−213031(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/042609(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K 1/00 − 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材の表面に微細凹部を形成する第1工程と、
前記第1工程で微細凹部を形成した木材の表面に水打ちする第2工程と、
前記第2工程で水打ちした木材を、圧縮量が前記木材の表面の微細凹部の深さよりも大きくなるように、ロールプレス機で圧縮する第3工程と、
前記第3工程で圧縮した木材を乾燥させる第4工程と、
を備えた改質木材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された改質木材の製造方法において、
前記第2工程で用いるロールプレス機における前記水打ちした木材の表面に接触するロールが硬質樹脂ロール又は金属ロールである改質木材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床材、外装材、内装材等に用いられる改質木材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材に薬剤や樹脂を浸透させて化学的特性や物理的特性を改質した改質木材が床材等に広く用いられている。そして、かかる改質木材の製造の際には、薬剤等の浸透性を向上させるための加工が施される。
【0003】
そのような加工方法として、例えば、木材を気中或いは液中で圧縮することにより薬剤等の浸透性を向上させる圧縮法が知られている(例えば、特許文献1及び2、非特許文献1及び2参照)。特許文献3には、木材を防液被覆し、それを液状加圧媒体に浸漬して加圧することにより木材組織に微細な割れを多数生じさせ、その後、改質処理液を浸透させる技術が開示されている。特許文献4には、特許文献3に開示された技術において、木材の防液被覆の前に、木材に硬化性樹脂を浸透・硬化させて脆性を付与することが開示されている。
【0004】
また、木材の表面を刺傷するインサイジング法も公知である。更に、インサイジング法の代用として、木材に局部的な圧縮処理を施すことも検討されている(非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−307798号公報
【特許文献2】特開2010−221645号公報
【特許文献3】特許第3332277号公報
【特許文献4】特開平9−29710号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】奈良県森林技術センター研究報告NO.34(2005)「圧縮法を導入した薬剤注入法による木材の改質(第2報)」
【非特許文献2】奈良県森林技術センター研究報告NO.26(1996)「難浸透性木材への液体注入(第5報)」
【非特許文献3】J.Hokkaido For. Prod. Res. Inst. Vol.20, No.3, 2006「注入性改善処理による道産針葉樹材への薬液含浸(第1報)−材表層部の部分的な圧縮による注入性改善効果−」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
圧縮法の場合、浸透性の向上効果は認められるものの、その効果を高めようとすると、高い圧縮率での処理が必要となり、そうすると、木材の巨視的な破壊が生じたり、また、圧縮された木材が永久固定されないため、使用環境下での圧縮歪みの解放が懸念されるといった問題が生じるため、圧縮率を下げる必要があり、結果として、浸透性の大幅な向上は得られない。
【0008】
インサイジング法の場合、刺傷を行った部位及びその周辺にまでしか薬剤等の浸透が期待できず、また、木材の表面に多数の規則的な穴が配列されるため、木材本来が有する材料表面の外観を著しく損なうという問題がある。
【0009】
本発明の課題は、改質木材の製造において、意匠感を損なわずに木材への薬剤等の浸透性を大きく向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、木材の表面に微細凹部を形成する第1工程と、前記第1工程で微細凹部を形成した木材の表面に水打ちする第2工程と、前記第2工程で水打ちした木材を、圧縮量が前記木材の表面の微細凹部の深さよりも大きくなるように、ロールプレス機で圧縮する第3工程と、前記第3工程で圧縮した木材を乾燥させる第4工程とを備えた改質木材の製造方法である。
【0011】
請求項1に係る発明によれば、改質木材の製造において、微細凹部を形成した木材の表面に水打ちし、それをロールプレス機で圧縮して微細凹部を押し広げた後に乾燥させることにより、意匠感を損なわずに木材への薬剤等の浸透性を大きく向上させることができる。これは、木材の表面の微細凹部が圧縮されることにより、微細凹部が横に押し広げられ、また押し広げられた微細凹部の最深部に応力が集中し、より深部にまで微細な亀裂を生じさせることができるのに加え、圧縮前に水打ちすることにより、表面の巨視的な破壊及び圧密化を抑制すると共に呼び水効果をもたらし、結果として、薬剤等の浸透性の向上が図られるものであると考えられる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載された改質木材の製造方法において、前記第2工程で用いるロールプレス機における前記水打ちした木材の表面に接触するロールが硬質樹脂ロール又は金属ロールである。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、硬質樹脂ロール又は金属ロールにより木材の表面の微細凹凸の圧縮を行うので、より効果的に木材の表面の微細凹部を横に押し広げる作用を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、改質木材の製造において、表面に微細凹部を形成した木材の表面に水打ちし、それをロールプレス機で圧縮した後に乾燥させることにより、意匠感を損なわずに木材への薬剤等の浸透性を大きく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(a)〜(c)は、実施形態に係る改質木材の製造方法の説明図である。
図2】木材への薬剤等の浸透性向上効果の説明図である。
図3】実施例1及び比較例1-1〜1-4の樹脂の浸透距離を示すグラフである。
図4】実施例2及び比較例2の樹脂の浸透距離を示すグラフである。
図5】実施例3-1〜3-3及び比較例3の(a)は樹脂の浸透距離を示すグラフであり、(b)は吸水量を示すグラフである。
図6】実施例4及び比較例4-1〜4-3の樹脂の浸透距離を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0017】
実施形態に係る改質木材の製造方法は、図1(a)に示すように、木材10の表面に微細な微細凹部を形成する第1工程と、図1(b)に示すように、第1工程で微細凹部を形成した木材10の表面に液体Lを水打ちする第2工程と、図1(c)に示すように、第2工程で水打ちした木材10を、圧縮量が木材10の表面の微細凹部の深さよりも大きくなるようにロールプレス機20に通して圧縮する第3工程と、第3工程で圧縮した木材10を乾燥させる第4工程と、第4工程で乾燥させた木材10に薬剤や樹脂を浸透させて改質する第5工程とを備える。
【0018】
実施形態に係る改質木材の製造方法によれば、微細な微細凹部を形成した木材10の表面に液体Lを水打ちし、それを、圧縮量が木材10の表面の微細凹部の深さよりも大きくなるようにロールプレス機20で圧縮した後に乾燥させることにより、意匠感を損なわずに木材10への薬剤等の浸透性を大きく向上させることができる。これは、図2に示すように、木材10の表面の微細凹部が圧縮されることにより、微細凹部が横に押し広げられ、また押し広げられた微細凹部の最深部に応力が集中し、より深部にまで微細な亀裂Cを生じさせることができるのに加え、圧縮前に液体Lを水打ちすることにより、表面の巨視的な破壊及び圧密化を抑制すると共に呼び水効果をもたらし、結果として、薬剤等の浸透性の向上が図られるものであると考えられる。
【0019】
(第1工程)
第1工程では、図1(a)に示すように、木材10の表面に微細な微細凹部を形成する。
【0020】
加工対象の木材10は、特に限定されるものではなく、例えば、スギ、ヒノキ、アカマツ、カラマツ、ネズコ、ケヤキ、セン、マツ、モミ、ナラ、カツラ、クリ、シナ、トチ、エンジュ、ブナ、カバ、ウルシ、タモ、サワラ、クス、ツバキ、キリ、トウヒ、タケ、イチイ、コウゾ、クワ、カシ、ツゲ、サクラ、ホオ、ポプラ、ユーカリ、アスナロ、イチョウ、イヌマキ、カエデ、ツガ等が挙げられる。木材10は、板材であってもよく、軸材であってもよい。木材10は、無垢材であっても、合板等の複合材であっても、どちらでもよい。
【0021】
加工対象の木材10は、微細凹部の形成加工の前に養生することが好ましく、例えば、その温度条件は20〜30℃で、湿度条件は40〜70%である。
【0022】
木材10の表面への微細凹部加工方法としては、例えば、道管を模したエンボスを付与した型材を用いた圧締、粒度の粗いサンドペーパーによる表面サンディング、微細なビーズを衝突させるショットブラスト、ブラシ研磨等が挙げられる。これらのうち汎用性の観点からは、粒度の粗いサンドペーパーによる表面サンディングや微細なビーズを衝突させるショットブラストやブラシ研磨が好ましい。
【0023】
微細凹部加工方法は、優れた意匠性を得ることができるという観点からは、道管を模したエンボスを付与した型材を用いた圧締が好ましい。この場合、道管状のエンボスパターンは、その先端が断面曲面であってもよいが、改質しようとする木材10の表面に座屈破壊が生じるような断面鋭角とすることで、木材10への薬剤等の浸透性の向上効果が得られやすくなる。
【0024】
微細凹部加工方法は、インサイジング処理であってもよい。実施形態に係る改質木材の製造方法では、インサイジング処理によって木材10の表面に多数の規則的な微細凹部が配列されても、第3工程においてロールプレス機20により圧縮するので、インサイジング処理によって形成された微細凹部が目立たなくなり、それによって表面の外観が損なわれるのを減殺することができる。
【0025】
ショットブラストの場合、使用する研磨粒子は、木材10の表面の意匠性の観点からは細かいことが望ましい一方、木材10への薬剤等の浸透効果を向上させる観点からは大きいことが好ましい。これらのバランスの観点から、研磨粒子の粒子径は、好ましくは20〜1000μm、より好ましくは100〜500μmである。なお、研磨粒子には、水打ち、ロールプレス、及び乾燥後の木材10の表面の意匠に違和感を生じさせないものを選択すればよい。
【0026】
ブラシ研磨やインサイジングの場合、木材10の表面への微細凹部の形成は、木材10への薬剤等の浸透効果を向上させる観点からは細かい傷を多く付けることが好ましい。また、木材10の表面の意匠性の観点からは、ブラシの回転方向やインサイジングの刃物の切断方向を木材10の繊維方向に一致させることにより、細かい多くの傷を木材10の繊維方向に沿うように形成することが好ましい。ブラシ研磨の場合、ブラシのワイヤの径は、好ましくは0.1〜1mm、より好ましくは0.25〜0.35mmである。
【0027】
(第2工程)
第2工程では、図1(b)に示すように、第1工程で微細凹部を形成した木材10の表面に液体Lを水打ちする。
【0028】
第3工程においてロールプレス機20により圧縮する前に、微細凹部を形成した木材10の表面に液体Lを水打ちすることにより、圧縮時の表面の巨視的な破壊が抑制され、その外観を保つことができる。また、木材10を圧縮して表面が圧密化すると薬剤等の浸透性が低下するが、水打ちすることにより圧縮時の表面の圧密化を抑制することもできる。従って、木材10の薬剤等の浸透性を向上させる上で、この水打ちは非常に重要である。
【0029】
ここで、本出願における「水打ち」とは、微細凹部を形成した木材10の表面の実質的に全面に液体Lを付着させることを意味し、その液体Lは、典型的には水であるが、その他、弱アルカリ性水溶液、界面活性剤水溶液、有機溶媒等であってもよい。なお、水打ちに用いられる液体Lは、木材10への薬剤等の浸透性を向上させるものが適宜選択され、どのような液体Lを用いるかについては、第5工程で使用する薬剤、薬液、又は樹脂等が親水性なのか、疎水性なのか等により、その浸透性が向上するよう適宜選択すればよい。
【0030】
水打ち手段は、特に限定されるものではなく、例えば、噴霧、刷毛塗り、スポンジロール塗布等が挙げられるが、液体Lを均一に付着させる観点からは噴霧やスポンジロール塗布が好ましい。
【0031】
水打ちによる液体Lの塗布量は、圧縮時の巨視的な表面の破壊及び圧密化を抑制する観点から、好ましくは10g/尺以上、より好ましくは15g/尺以上であり、また、好ましくは30g/尺以下、より好ましくは20g/尺以下である。なお、液体Lの塗布量は、木材10の種類や水打ち手段によって異なり、この範囲に制限されるものではなく、木材10の表面に均一に液体Lが付着する量であればよい。
【0032】
(第3工程)
第3工程では、図1(c)に示すように、第2工程で水打ちした木材10を、圧縮量が木材10の表面の微細凹部の深さよりも大きくなるようにロールプレス機20に通して圧縮する。なお、この圧縮加工は、第2工程で水打ちした液体Lが自然乾燥する前に行う。
【0033】
ロールプレス機20は、図1(c)に示すように、一対のロール21を有し、それらの一対のロール21によって木材10を圧縮しながら挟持搬送するものであってもよく、また、単一のロールとステージとを有し、ステージ上に載置された木材10の表面をロールで圧縮しながら搬送するものであってもよい。ロール21の材質は特に限定されるものではないが、少なくとも水打ちした木材10の表面に接触するロール21は、より効果的に木材10の表面の微細凹部を横に押し広げる作用を得る観点から、金属ロール又は硬質ウレタン等の硬質樹脂ロールが好ましい。なお、硬質樹脂ロールは、ロール表面の硬さが木材10の表面の硬さよりも高いものが選択される。
【0034】
ロールプレス機20を通す木材10の搬送速度は、例えば0.4〜40m/minである。
【0035】
ロールプレス機20に木材10を通す回数は、1回であっても、2回以上であっても、どちらでもよい。
【0036】
ロールプレス機20を通した木材10の圧縮率は、薬剤等の浸透性の向上及び木材10の割れの抑制のバランスの観点から、圧縮量が木材10の表面の微細凹部の深さよりも大きくなるように、好ましくは圧縮対象となる表面木質材料の5%以上、より好ましくは15%以上であり、また、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下である。
【0037】
この第3工程で圧縮する木材10の圧縮量は、第1工程で形成した木材10の表面の微細凹部の深さよりも大きいが、その差が大きいほど、木材10の表面の微細凹部が圧縮により修復され、その意匠性を回復させることができる。
【0038】
(第4工程)
第4工程では、第3工程で圧縮した木材10を乾燥させる。
【0039】
第3工程においてロールプレス機20により圧縮した後、この第4工程で木材10を乾燥させるが、この乾燥により、木材10の細胞中に水分が残留し、後の第5工程において、薬剤、薬液又は樹脂等の浸透が阻害されるのを阻止する。
【0040】
この乾燥は、自然乾燥であっても、また、乾燥機に保管して行っても、どちらでもよい。好ましくは、通風ドライヤーが使用される。乾燥条件は、例えば、60〜80℃のドライヤー中で10〜30分程度の乾燥である。
【0041】
(第5工程)
第5工程では、第4工程で乾燥させた木材10に液状の薬剤や樹脂を浸透させて改質する。
【0042】
薬剤としては、例えば、防腐剤、防虫剤、難燃剤等が挙げられる。防腐剤としては、例えば、フッ化物、砒素化合物、クロム化合物、クロルフェノール類、ニトロフェノール等が挙げられる。防虫剤としては、例えば、フェノール類、無機フッ化物、アルキルアンモニウム化合物、銅・アゾール化合物、ポリデン塩、グリン塩、硼砂、トリアゾール、ピレスロイド等が挙げられる。難燃剤としては、例えば、ホウ酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩、炭酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、ケイ酸塩、硝酸塩、水酸塩等が挙げられる。木材10に浸透させるこれらの薬剤は、水や有機溶媒に溶解した溶液、或いは、水等に分散した分散液として用いられる。これらの薬剤により木材10の化学的改質が図られる。
【0043】
樹脂としては、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、ユリア系樹脂、アミノ樹脂、グリオキザール樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリルウレタン系樹脂、及びレゾルシノール系樹脂などの液状の熱硬化性樹脂や紫外線硬化型の液状のアクリル樹脂等が挙げられる。これらの樹脂により木材10の物理的改質が図られる。
【0044】
以上のようにして製造された改質木材は、床材、外装材、内装材等に用いられる。
【実施例】
【0045】
[試験評価1]
(改質前処理)
以下の改質前のスギ無垢材(心材部)の試験片を作製した。それぞれの構成を表1にも示す。
【0046】
<実施例1>
厚さ12mmのスギ無垢材(心材部)を温度23℃及び湿度50%の条件下において恒量に達するまで養生した。
【0047】
まず、養生したスギ無垢材の木表側の表面を粒度#30のサンドペーパーで研削して微小な微細凹部を形成した(第1工程)。
【0048】
次いで、微細凹部を形成したスギ無垢材の表面に水を噴霧して塗布量が16g/尺となるように水打ちした(第2工程)。
【0049】
続いて、水打ちしたスギ無垢材を、圧縮率が16%となるように10mmの厚みにクリアランスを設定したロールプレス機の一対の金属ロール間に0.5m/minの搬送速度で1回通して圧縮した(第3工程)。この圧縮量は、第1工程で形成したスギ無垢材の表面の微細凹部の深さよりも十分に大きいものであった。
【0050】
そして、圧縮したスギ無垢材を80℃に設定した乾燥機に投入し、水打ち前の質量になるまで乾燥させた(第4工程)。
【0051】
得られた改質前のスギ無垢材の試験片を実施例1とした。
【0052】
<比較例1-1>
第1〜第4工程を行わなかった厚さ12mmの改質前のスギ無垢材(心材部)の試験片を比較例1-1とした。
【0053】
<比較例1-2>
第1工程、第2工程、及び第4工程を行わず、第3工程の圧縮のみを行った改質前のスギ無垢材(心材部)の試験片を比較例1-2とした。
【0054】
<比較例1-3>
第2〜第4工程を行わず、第1工程の研削による表面の微細凹部形成のみを行った改質前のスギ無垢材(心材部)の試験片を比較例1-3とした。
【0055】
<比較例1-4>
第1工程を行わず、第2〜第4工程の水打ち、圧縮、及び乾燥を行った改質前のスギ無垢材(心材部)の試験片を比較例1-4とした。
【0056】
【表1】
【0057】
(試験評価方法)
試験片の樹脂浸透性を試験評価した。
【0058】
具体的には、試験片を温度23℃及び湿度50%の条件下において1日養生した後、試験片の厚さよりも0.6mm小さいクリアランスに設定したロール状塗工機により、木表側の表面に液状の紫外線硬化型のアクリル樹脂を塗工した。アクリル樹脂の塗工は、試験片の質量が変化しなくなるまで繰り返し行った。
【0059】
次いで、アクリル樹脂を塗工した試験片をUV照射機に通してアクリル樹脂を完全に硬化させた。
【0060】
そして、アクリル樹脂が硬化した後の試験片を切断し、その断面をトルイジンブルー溶液で染色して木質部分と樹脂部分とを塗り分け、顕微鏡観察により樹脂浸透性能としてアクリル樹脂の浸透距離を測定した。
【0061】
(試験評価結果)
図3は、アクリル樹脂の浸透距離の試験結果を示す。
【0062】
図3によれば、研削による表面の微細凹部形成によっても樹脂浸透性は向上するものの、それに水打ち及び圧縮を組み合わせることにより、更に飛躍的に樹脂浸透性が向上することが分かる。
【0063】
[試験評価2]
(改質前処理)
以下の改質前のスギ無垢材(辺材部)の試験片を作製した。それぞれの構成を表2にも示す。
【0064】
<実施例2>
厚さ9mmのスギ無垢材(辺材部)を温度23℃及び湿度50%の条件下において恒量に達するまで養生した。
【0065】
まず、養生したスギ無垢材の木表側の表面をショットブラストにより研削して微小な微細凹部を形成した(第1工程)。
【0066】
次いで、微細凹部を形成したスギ無垢材の表面に水を噴霧して塗布量が26g/尺となるように水打ちした(第2工程)。
【0067】
続いて、水打ちしたスギ無垢材を、圧縮率が16%となるように7.6mmのクリアランスを設定したロールプレス機の一対の金属ロール間に0.5m/minの搬送速度で1回通して圧縮した(第3工程)。この圧縮量は、第1工程で形成したスギ無垢材の表面の微細凹部の深さよりも十分に大きいものであった。
【0068】
そして、圧縮したスギ無垢材を80℃に設定した乾燥機に投入し、水打ち前の質量になるまで乾燥させた(第4工程)。
【0069】
得られた改質前のスギ無垢材の試験片を実施例2とした。
【0070】
<比較例2>
第3工程を行わず、第1、第2、及び第4工程の研削による表面の微細凹部形成、水打ち、及び乾燥を行った改質前のスギ無垢材(辺材部)の試験片を比較例2とした。
【0071】
【表2】
【0072】
(試験評価方法)
試験評価1と同様の方法で試験片の樹脂浸透性を試験評価した。
【0073】
(試験評価結果)
図4は、アクリル樹脂の浸透距離の試験結果を示す。
【0074】
図4によれば、ショットブラストによる表面の微細凹部形成によっても、サンドペーパーによる研削の場合と同様、樹脂浸透性の向上効果が得られることが分かる。
【0075】
[試験評価3]
以下の改質前のスギ無垢材(心材部)の試験片を作製した。それぞれの構成を表3にも示す。
【0076】
<実施例3-1>
厚さ9mmのスギ無垢材(心材部)を温度23℃及び湿度50%の条件下において恒量に達するまで養生した。
【0077】
まず、養生したスギ無垢材の木表側の表面を粒度#30のサンドペーパーで研削して微小な微細凹部を形成した(第1工程)。
【0078】
次いで、微細凹部を形成したスギ無垢材の表面に水を噴霧して塗布量が16g/尺となるように水打ちした(第2工程)。
【0079】
続いて、水打ちしたスギ無垢材を、圧縮率が16%となるように7.6mmのクリアランスを設定したロールプレス機の一対の金属ロール間に0.5m/minの搬送速度で1回通して圧縮した(第3工程)。この圧縮量は、第1工程で形成したスギ無垢材の表面の微細凹部の深さよりも十分に大きいものであった。
【0080】
そして、圧縮したスギ無垢材を80℃に設定した乾燥機に投入し、水打ち前の質量になるまで乾燥させた(第4工程)。
【0081】
得られた改質前のスギ無垢材の試験片を実施例3-1とした。
【0082】
<実施例3-2>
第2工程における水打ちに濃度1質量%の炭酸ナトリウム水溶液(アルカリ水溶液)を用いた以外は実施例3と同様にして得られた改質前のスギ無垢材(心材部)の試験片を実施例3-2とした。
【0083】
<実施例3-3>
第2工程における水打ちに濃度1質量%の界面活性剤水溶液を用いた以外は実施例3と同様にして得られた改質前のスギ無垢材(心材部)の試験片を実施例3-3とした。
【0084】
<比較例3>
第1〜第4工程を行わなかった厚さ9mmの改質前のスギ無垢材(心材部)の試験片を比較例3とした。
【0085】
【表3】
【0086】
(試験評価方法)
試験評価1と同様の方法で試験片の樹脂浸透性を試験評価した。
【0087】
また、試験片の水浸透性を試験評価した。
【0088】
具体的には、試験片を50mm×70mmに切り出し、木裏側の面をアルミニウムテープで被覆した後、四周の木口面をエポキシ樹脂で被覆封止した。
【0089】
次いで、試験片を20℃に調温した恒温水槽中に3分間浸漬した。
【0090】
そして、水浸透性能として、浸漬前後の質量変化を試験片の表面の面積で除することにより単位面積当たりの吸水量を算出した。
【0091】
(試験評価結果)
図5(a)は、アクリル樹脂の浸透距離の試験結果を示す。また、図5(b)は、水の吸水量の試験結果を示す。
【0092】
図5(a)によれば、水打ちに炭酸ナトリウム水溶液のようなアルカリ水溶液や界面活性剤水溶液を用いても樹脂浸透性の向上効果が得られることが分かる。
【0093】
また、図5(a)及び(b)によれば、水打ちに用いる液の種類によって樹脂浸透性及び水浸透性の相違が認められる。従って、浸透させる薬剤等の性状によって水打ちに用いる液体の種類を変えることが好ましいと考えられる。
【0094】
[試験評価4]
以下の改質前の複合材の試験片を作製した。それぞれの構成を表4にも示す。
【0095】
<実施例4>
厚さ2mmのスギのロータリー単板(心材部)と厚さ2.7mmのMDFとを水性ビニルウレタン樹脂接着剤で接合した複合材を温度23℃及び湿度50%の条件下において恒量に達するまで養生した。
【0096】
まず、養生した複合材のロータリー単板側の表面を粒度#30のサンドペーパーで研削して微小な微細凹部を形成した(第1工程)。
【0097】
次いで、微細凹部を形成した複合材の表面に水を噴霧して塗布量が16g/尺となるように水打ちした(第2工程)。
【0098】
続いて、水打ちした複合材を、ロータリー単板の圧縮率が16%となるように4.4mmのクリアランスを設定したロールプレス機の一対の金属ロール間に0.5m/minの搬送速度で1回通して圧縮した(第3工程)。この圧縮量は、第1工程で形成した複合材の表面の微細凹部の深さよりも十分に大きいものであった。
【0099】
そして、圧縮した複合材を80℃に設定した乾燥機に投入し、水打ち前の質量になるまで乾燥させた(第4工程)。
【0100】
得られた改質前の複合材の試験片を実施例4とした。
【0101】
<比較例4-1>
第1〜第4工程を行わなかった厚さ2mmのスギのロータリー単板(心材部)と厚さ2.7mmのMDFとを水性ビニルウレタン樹脂接着剤で接合した改質前の複合材の試験片を比較例4-1とした。
【0102】
<比較例4-2>
第3工程を行わず、第1、第2、及び第4工程の研削による表面の微細凹部形成、水打ち、及び乾燥を行った厚さ2mmのスギのロータリー単板(心材部)と厚さ2.7mmのMDFとを水性ビニルウレタン樹脂接着剤で接合した改質前の複合材の試験片を比較例4-2とした。
【0103】
<比較例4-3>
第2及び第4工程を行わず、第1及び第3工程の研削による表面の微細凹部形成及び圧縮を行った厚さ2mmのスギのロータリー単板(心材部)と厚さ2.7mmのMDFとを水性ビニルウレタン樹脂接着剤で接合した改質前の複合材の試験片を比較例4-3とした。
【0104】
【表4】
【0105】
(試験評価方法)
試験片の樹脂浸透性を試験評価した。
【0106】
具体的には、試験片の木裏側の面をアルミニウムテープで被覆した後、四周の木口面をエポキシ樹脂で被覆封止し、この試験片を温度23℃及び湿度50%の条件下において1日養生した後、試験片の厚さよりも0.6mm小さいクリアランスに設定したロール状塗工機により、ロータリー単板側の表面に液状の紫外線硬化型のアクリル樹脂を塗工した。アクリル樹脂の塗工は、試験片の質量が変化しなくなるまで繰り返し行った。
【0107】
次いで、アクリル樹脂を塗工した試験片をUV照射機に通してアクリル樹脂を完全に硬化させた。
【0108】
そして、アクリル樹脂が硬化した後の試験片を切断し、その断面をトルイジンブルー溶液で染色して木質部分と樹脂部分とを塗り分け、顕微鏡観察により樹脂浸透性能としてアクリル樹脂の浸透距離を測定した。
【0109】
(試験評価結果)
図6は、アクリル樹脂の浸透距離の試験結果を示す。
【0110】
図6によれば、複合材においても樹脂浸透性の向上効果が得られることが分かる。従って、改質木材の厚さを任意に設定することができる。
【0111】
また、図6によれば、表面の微細凹部形成及び圧縮に加え、水打ち及び乾燥が必須であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は改質木材の製造方法について有用である。
【符号の説明】
【0113】
C 亀裂
L 液体
10 木材
20 ロールプレス機
21 ロール
図1
図2
図3
図4
図5
図6