(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
橋桁の長手方向に沿って当該橋桁の側縁に設けられた側壁と、前記橋桁の長手方向に間隔を隔てて前記側壁に立設される複数のピラーと、前記複数のピラーの間に取り付けられる防音パネルと、前記ピラーに固定される複数の取付金具と、前記複数の取付金具を介して前記複数のピラーを連結する少なくとも一本のワイヤと、を備えた高架用防音壁を施工するための高架用防音壁の施工方法であって、
前記複数のピラーのそれぞれの下部を前記側壁の外側面に接合して当該ピラーの上部が当該側壁よりも上方に突出するように固定することにより、前記橋桁の側部にその長手方向に間隔をおいて複数のピラーを立設する工程と、
前記複数のピラーのうち互いに隣接するピラー同士の間に防音パネルを挿入する工程と、
前記複数の取付金具を用いることにより、前記各ピラーに、当該ピラー同士を連結して当該ピラー同士の相対変位を抑制するためのワイヤを取付ける工程と、を含み、
前記ワイヤを取付ける工程は、
前記各ピラーの下部に挿通孔を形成する工程と、
前記複数の取付金具のそれぞれとして、前記ピラーに係合可能な係合部を有し、前記ピラーの下部の表面上に配置される金具本体と、前記金具本体に連結されるとともに、前記挿通孔に対して前記側壁の外側から内側に挿入されることが可能な筒状であってかつ内側から押圧を受けることにより径方向の外向きに拡開することが可能な形状を有する拡開体と、前記拡開体の軸方向に沿って挿通されるとともに、前記金具本体に回転可能に保持されるボルトと、前記ボルトに螺合されるナットと、を備え、前記ボルトは、回転操作を受ける頭部と、前記ナットと螺合可能なねじ部と、を有し、前記頭部が前記金具本体の表面に露出し、前記ねじ部の少なくとも一部が前記拡開体の内側に位置するように前記金具本体に保持され、前記ナットは、前記拡開体に対する相対回転が規制された状態で当該拡開体の内側に配置され、前記ボルトの特定方向の回転に伴って前記金具本体に近づく向きに変位することにより前記拡開体を内側から押圧して当該拡開体を拡開させるように前記ボルトと螺合する取付金具を用意し、前記挿通孔に前記取付金具の拡開体を前記側壁の外側から挿入する工程と、
前記取付金具の金具本体の表面から前記ボルトの頭部を回転操作することにより前記取付金具のナットを前記金具本体に近づく向きに進行させて前記拡開体を拡開し、これにより前記金具本体を前記ピラーの下部の表面上に固定する工程と、
前記各取付金具の金具本体に前記ワイヤを挿通する工程と、を含む、高架用防音壁の施工方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、建造物に直接物品(例えば、ワイヤ)を挿通する孔を形成する作業は、容易ではなく、作業性が悪かった。特に、物品が比較的大きなものである場合には、穿孔される挿通孔の径を比較的大きくとる必要があった。そのため、建造物の強度的に影響を与える問題があり、好ましくない。
【0007】
一方、特許文献3に開示されている技術では、有底の穴に円筒を挿入し、アイボルトを回動することにより、アイボルトを壁部等に止定することが可能である。しかしながら、特許文献3に技術では、アイボルトの係合部とボルトとが一体に形成されているので、係合部を直接駆動する必要がある。また、ボルトを螺合するにつれて、フックの本体の取付位置がナット側に移動する。そのため、係合部の取付姿勢を一定に設定することが困難になる。よって、物品の取付が困難になり、利便性が低下する恐れがあった。
【0008】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、係合部の取付姿勢を常に一定に設定することができ、作業性が高く、しかも、取付部位の制約が小さい取付金具
を用いた高架用防音壁の施工方法を提供す
る。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明において用いられるのは、被取付体を、建造物の取付要部であって表面及び裏面を有する板状の部位に取付けるための取付金具であって、前記被取付体に係合可能な係合部を有し、前記取付要部の表面上に配置される金具本体と、前記金具本体に連結されるとともに、前記取付要部に形成された挿通孔に対してその表面側から裏面側に挿入されることが可能な筒状であってかつ内側から押圧を受けることにより径方向の外向きに拡開することが可能な形状を有する拡開体と、前記拡開体の軸方向に沿って挿通されるとともに、前記金具本体に回転可能に保持されるボルトと、前記ボルトに螺合されるナットと、を備え、前記ボルトは、回転操作を受ける頭部と、前記ナットと螺合可能なねじ部と、を有し、前記頭部が前記金具本体の表面に露出し、前記ねじ部の少なくとも一部が前記拡開体の内側に位置するように前記金具本体に保持され、前記ナットは、前記拡開体に対する相対回転が規制された状態で当該拡開体の内側に配置され、前記ボルトの特定方向の回転に伴って前記金具本体に近づく向きに変位することにより前記拡開体を内側から押圧して当該拡開体を拡開させるように前記ボルトと螺合する、取付金具である。
【0010】
この態様では、建造物の一方の面から係合部を挿通し、ボルトを操作してナットを係合部側に締め付けることにより、拡開体を拡開し、取付金具を固定することができる。従って、建造物に直接物品を挿通する孔を形成する必要がなく、作業性は格段に向上する。しかも、係合部とボルトとが相対的に回転可能に連結されているので、ボルトを操作する際に、係合部を直接駆動する必要がない。そのため、ボルトの締め付け後に係合部の取付位置がずれることはなく、係合部の姿勢を一律に設定することが容易になる。よって、物品の取付が容易になる。また、金具本体と拡開体とが連結されているので、拡開体を取付要部に装着する作業が容易になる。また、金具本体、ボルト、拡開体、ナットをユニット化しやすくなり、一層、取扱いが容易になる。
【0011】
好ましい態様の取付金具において、前記拡開体には、互いに周方向に並ぶ複数のスリットが形成され、これらのスリットは、それぞれ軸方向に延びて前記拡開体を周方向に並ぶ複数の分割片に分割し、これらの分割片が互いに独立して径方向外向きに変形することにより前記拡開体の拡開を可能にし、前記ナットの外周面は、前記複数のスリットのうちの少なくとも一部のスリットと嵌合することにより前記拡開体に対する前記ナットの相対回転を阻止する回転阻止部を有する。この態様では、特別な部品を付加することなく、製造の容易な構造で締め付け時におけるナットの回り止めを図りつつ、拡開体の係止片を拡開することができる。
【0012】
好ましい態様の取付金具において、前記ナットの外周面は、前記スリットと同数の頂点をもつ多角形状の断面を有し、前記スリットのそれぞれと嵌合可能な稜線を有する。この態様では、ナットから均等に各係止片を拡げ、拡開体を安定した形状に拡開して、堅固な止定力を得ることができる。
【0013】
好ましい態様の取付金具において、前記ナットの外周面は、前記金具本体から離れるに従って拡がる向きのテーパを有する。この態様では、製造の容易な形状で係止片を拡開することができる。
【0014】
好ましい態様の取付金具において、前記ナットは、前記金具本体から離れるに従って当該ナットの断面が大きくなる向きの多角錐台形状をなす。この態様では、ナットの外周面がスリットと同数の頂点をもつ多角形状の断面を有することと相俟って、一層、製造の容易な形状で確実にナットの回り止めを図りつつ、拡開体の係止片を拡開することができる。
【0015】
好ましい態様の取付金具において、前記複数の係止片は、拡開時に塑性変形する材料で形成されている。この態様では、一度固定された取付金具は、施工後に取り外すことができなくなり、盗難防止機能を奏することができる。
【0016】
本発明
において施工されるのは、橋桁の長手方向に沿って当該橋桁の側縁に設けられた側壁と、前記橋桁の長手方向に間隔を隔てて前記側壁の上に立設される複数のピラーと、前記複数のピラーの間に取り付けられる防音パネルと、前記ピラーの適所に固定された複数の取付金具と、前記取付金具を介して前記複数のピラーを連結する、少なくとも一本のワイヤとを備えた高架用防音壁であって、各取付金具は、上記取付金具で構成されていることを特徴とする高架用防音壁である。
【0017】
この
高架用防音壁では、ワイヤによって複数のピラーが連結されているので、ピラー自身やピラー間に配置された防音パネルがばらけて落下するおそれが小さくなる。しかも、ピラーに設けられた複数の取付金具は、金具本体側からボルトを操作してナットを金具本体側に締め付けることにより、ナットで係止片を拡開し、取付金具を固定することができる。従って、取付金具の取り付け場所が既設の建造物の取付要部であっても、建造物の裏面側からの操作が不要になり、取り付け作業が格段に容易になる。
【0018】
好ましい態様の高架用防音壁において、前記少なくとも一本のワイヤは、前記ピラーの側壁近傍に固定された取付金具に支持されている第1のワイヤと、前記第1のワイヤを支持する取付金具よりも上側において前記ピラーに固定された取付金具に支持されている第2のワイヤとを備えている。この態様では、ピラーの上下2箇所が第1のワイヤと第2のワイヤとによって連結されるので、一層堅固に補強される。
【0019】
本発明は、前記高架用防音壁を施工するための方法を提供する。この方法は、前記複数のピラーのそれぞれの下部を前記側壁の外側面に接合して当該ピラーの上部が当該側壁よりも上方に突出するように固定することにより、前記橋桁の側部にその長手方向に間隔をおいて複数のピラーを立設する工程と、前記複数のピラーのうち互いに隣接するピラー同士の間に防音パネルを挿入する工程と、前記複数の取付金具を用いることにより、前記各ピラーに、当該ピラー同士を連結して当該ピラー同士の相対変位を抑制するためのワイヤを取付ける工程と、を含み、前記ワイヤを取付ける工程は、前記各ピラーの下部に挿通孔を形成する工程と、前記複数の取付金具のそれぞれとして、前記ピラーに係合可能な係合部を有し、前記
ピラーの下部の表面上に配置される金具本体と、前記金具本体に連結されるとともに、前記挿通孔に対して前記側壁の外側から内側に挿入されることが可能な筒状であってかつ内側から押圧を受けることにより径方向の外向きに拡開することが可能な形状を有する拡開体と、前記拡開体の軸方向に沿って挿通されるとともに、前記金具本体に回転可能に保持されるボルトと、前記ボルトに螺合されるナットと、を備え、前記ボルトは、回転操作を受ける頭部と、前記ナットと螺合可能なねじ部と、を有し、前記頭部が前記金具本体の表面に露出し、前記ねじ部の少なくとも一部が前記拡開体の内側に位置するように前記金具本体に保持され、前記ナットは、前記拡開体に対する相対回転が規制された状態で当該拡開体の内側に配置され、前記ボルトの特定方向の回転に伴って前記金具本体に近づく向きに変位することにより前記拡開体を内側から押圧して当該拡開体を拡開させるように前記ボルトと螺合する取付金具を用意し、前記挿通孔に前記取付金具の拡開体を前記側壁の外側から挿入する工程と、前記取付金具の金具本体の表面から前記ボルトの頭部を回転操作することにより前記取付金具のナットを前記金具本体に近づく向きに進行させて前記拡開体を拡開し、これにより前記金具本体を前記ピラーの下部の表面上に固定する工程と、前記各取付金具の金具本体に前記ワイヤを挿通する工程と、を含む。
【0020】
この態様では、高架用防音壁の一方の面(例えば、橋桁の外側)から取付金具を装着し、ワイヤを挿通することにより、施工を完了することができる。換言すれば、高架用防音壁の一方の面にワイヤを張設するに当たり、他方の面から加工を施す必要がない。そのため、作業性が格段に向上する。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、係合部の取付姿勢を常に一定に設定することができ、作業性が高く、しかも、取付金具を取り付ける際の取付部位の制約を小さくすることができるという顕著な効果を奏する。
【0022】
本発明のさらなる特徴、目的、構成、並びに作用効果は、添付図面と併せて読むべき以下の詳細な説明から容易に理解できるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0025】
まず、取付金具10について説明する。
【0026】
図1〜
図4を参照して、本実施形態に係る取付金具10は、アイボルト1と、ナット3とを備えている。
【0027】
図示の例において、アイボルト1は、金具本体11と、ボルト12と、連結体13とを有している。通常、金具本体11とボルト12とは、一体的に形成されているが、本実施形態のアイボルト1では、金具本体11とボルト12とが相対回転可能に連結されている。金具本体11は、環状の係合部14と、係合部14と一体的に設けられるボス部15とを有する金属製品である。なお、以下の説明では、アイボルト1のボルト12の金具本体11側を一端側とし、ボルト12の自由端側を他端側とする。
【0028】
金具本体11は、例えばステンレススチール等の鋼材で形成される。
【0029】
係合部14は、棒材を円形に丸めた形状をしている。係合部14は、用途に応じて種々の大きさに形成される。係合部14の棒状部分の横断面は、円形であるが、それに限定する必要はない。また、係合部14は、フック形状に一部が開いた形であってもよい。
【0030】
ボス部15は、係合部14が区画する円形部分の半径方向に軸芯が延びる円筒形部位である。
【0031】
ボス部15の一端側は、他端側よりも細くなるテーパ形状に形成されている。ボス部15の内周には、雌ねじ16が螺設されている。雌ねじ16は、ボス部15の全長にわたって貫通している。また、ボス部15には、一直径方向に沿って、ねじ孔17が形成されている。ねじ孔17には、両側から回り止めの六角穴付止ねじ5が螺合する。図示の例において、ねじ孔17は、係合部14の円弧中心と平行に形成されている。
【0032】
連結体13は、概ね円筒形の金属製部材である。連結体13の一端部は、ボス部15の雌ねじ16に螺合する雄ねじ20で構成されている。連結体13の雄ねじ20をボス部15の雌ねじ16に螺合すると、雄ねじ20の一端側の面が概ねボス部15の一端側の面と面一になり、雄ねじ20の他端部分がボス部15に埋没するように、連結体13の雄ねじ20とボス部15との諸元が設定されている。図示の例において、雄ねじ20には、挿通孔22が形成されている。挿通孔22は、雄ねじ20がボス部15へ螺合したときに、ス部15の側部に形成されたねじ孔17と対向する。挿通孔22は、一直径方向に沿って、雄ねじ20を貫通している。
図4に示すように、雄ねじ20は、連通孔23を有する。連通孔23は、雄ねじ20の全長にわたって貫通している。雄ねじ20の一端側には、連通孔23よりも大径の環状溝24が同心に形成されている。環状溝24は、後述するボルト12の頭部を着座させる受け座を構成する。
【0033】
連結体13の他端部は、拡開体21を構成している。拡開体21は、建造物の取付要部(例えば壁)Wに形成された挿通孔W1に挿通される筒状の部材である。拡開体21は、複数の係止片21aに分割されている。各係止片21aは、軸方向に延びる複数のスリットSを区画している。複数の係止片21aは、例えば、8個である。なお、係止片21aの個数は、任意であり、例えば、2個でもよく、あるいは6個でもよい。
【0034】
各係止片21aの外周面には、円周方向に沿う溝が形成されている。溝は、一端側が垂直に窪み、他端側が連結体13の径方向外方に傾斜する鋸波形に形成されている。このため、各係止片21aの外周は、周方向に稜線を区画するエッジを形成している。
【0035】
ナット3は、連結体13の他端側に配置されている。ナット3の横断面は、スリットSの個数ごとに頂点を有する正多角形(図示の例では、八角形)に形成されている。ナット3の一端側は、他端側よりも小径に設定され、金属本体11から離れるに従って拡がる向きのテーパを有する多角錐台形状に形成されている。よって、ナット3は、各稜線31を各スリットSに対向させた状態で各係止片21aによって囲まれた空間内に入り込み、各係止片21aに係合することができるようになっている。また、各稜線31は、少なくとも一部のスリットSと係合することにより、拡開体21に対するナット3の相対的な回転を阻止する回転阻止部を構成する。よって、ナット3が次に説明するボルト12によって一端側に締め付けられることにより、ナット3は、アイボルト1の金具本体11との間で、取付要部と拡開体21とを挟圧する。このときの締め付け力により、ナット3は、くさび状に各係止片21aを拡開する。
【0036】
図示の例のボルト12は、六角穴付ボルトである。ボルト12は、ねじ部40を有する。ねじ部40は、連結体13の一端側から連通孔23内に挿通される。ねじ部40の一端部には、頭部41が形成される。頭部41は、環状溝24に着座する。また、ねじ部40の他端側には、ナット3が螺合する。ねじ部40の他端部近傍には、当該ねじ部40の一直径方向に沿ってピン孔42が形成されている。組付時において、ピン孔42は、ねじ部40に螺合するナット3よりも他端側で開口している。このピン孔42には、割ピン6が嵌入する。
【0037】
取付金具10の各部品を組み付ける際は、まず、ねじ部40を連結体13に挿通し、ナット3をねじ部40に螺合させる。次いで割ピン6をピン孔42に挿通した後、割ピン6の先端部分を屈曲する。これにより、割ピン6の抜け止めが図られるとともに、割ピン6によって、ナット3がねじ部40から螺脱しなくなる。その後、連結体13の雄ねじ20をアイボルト1のボス部15に螺合させ、組付を完了する。これにより、取付金具10を
図1に示したように、組み付けることができる。なお、この段階では、六角穴付止ねじ5は、まだ、締め付けられていない。
【0038】
次に、取付金具10の施工例について説明する。
【0039】
図4を参照して、例えば、建造物の壁Wに取付金具10を取り付ける場合、まず、壁Wに連結体13等を挿通する挿通孔W1を形成する。次いで、
図1の状態に組み付けた取付金具10の他端側を挿通孔W1内に挿通し、
図4に示すように、アイボルト1の係合部14を壁Wに接合させる。その後、図略のレンチ等で、ボルト12の頭部41を操作し、ナット3が一端側に移動する特定方向(例えば、壁Wの表側からみて右回り)に締め付ける。ナット3は、ボルト12から所定方向に回転する力を受けるが、各稜線31が各係止片21a間に形成されたスリットS内に入り込んでいるので、回動が阻止されている。よって、ナット3は、ボルト12の捩り力を受けて一端側に移動する。
【0040】
一方、ナット3の他端側は、一端側よりも大径に形成されているので、ナット3は、各係止片21aを拡開するくさびとして機能する。この結果、ナット3が一端側に移動するにつれて、各係止片21aは、連結体13の径方向外方に拡開し、
図5に示すように、孔W1内に表面の稜線をくい込ませた状態で塑性変形する。これにより、取付金具10は、壁Wに堅固に固定される。
【0041】
その後、
図6に示すように、六角穴付止ねじ5を各ねじ孔17に螺合する。これにより、六角穴付止ねじ5は、連結体13の雄ねじ20に形成された挿通孔22を通ってボルト12を締め付け、回り止めが図られる。この結果、取付金具10を長期間にわたり、強固に壁Wに固定することができる。
【0042】
次に、取付金具10の施工例について説明する。
【0043】
図7〜
図9を参照して、図示の例では、高架橋70の防音壁80に取付金具10を取り付ける例を示している。高架橋70は、高速道路のように、車両用のものであってもよく、あるいは、電車やモノレールの高架橋であってもよい。
【0044】
高架橋70は、側縁に側壁71を有している。側壁71は、高架橋70の長手方向に沿って、橋桁72と一体に形成されているコンクリート建造物である。
【0045】
側壁71には、長手方向に間隔を隔てて多数のピラー73が立設されている。
図9に示すように、ピラー73は、H形鋼である。ピラー73は、その下部が側壁71の外側面に接合し、上部が側壁71よりも上方に突出するように配置されている。
【0046】
各ピラー73は、全体として端面がH字形になるように、一対の平板部73a、73bと、両平板部73a、73bを接続する接続部73cとを一体化したものである。各平板部73a、73bは、互いに平行である。また、接続部73cは、両平板部73a、73bの間に配置されて、両平板部73a、73bの中央部を連結している。各ピラー73は、一方の平板部73aを側壁71の外側に向け、他方の平板部73bを側壁71の外側面に接合させた姿勢で配置される。さらに、他方の平板部73bの下部には、上下に配設された一対のステー74が固定されている。そして、各ピラー73は、ステー74を介し、アンカーボルト74aで側壁71の外壁部分に固定することにより、ピラー73は、上記の通り、その下部が側壁71の外側面に接合し、上部が側壁71よりも上方に突出するように固定される。
【0047】
各ピラー73の上部の間には、防音用の防音パネル75が介装されている。防音パネル75は、各ピラー73の間毎に、例えば4段ずつ上下に連設されている。各ピラー73の下部、すなわち、側壁71に対して横方向に対向する部位は、図略のカバーで覆われている。
【0048】
各ピラー73の外側面には、取付金具10を介してワイヤ76が張設されている。図示の例では、複数のピラー73の下部を連結する第1のワイヤ76と、上部を連結する第2のワイヤ76とを例示している。
【0049】
図8に示すように、各ワイヤ76は、何れも端部にターミナル金具77が取り付けられている。ターミナル金具77は、側壁71に固定されたステー78に取り付けられる。図示の例において、ターミナル金具77は、周知のボルトナット機構により、ステー78に取り付けられた後、ワイヤ76に張力を付与することができるようになっている。
【0050】
防音壁80の施工に当たっては、まず、橋桁72の側壁71に間隔を隔てて複数のピラー73を立設する。この工程では、橋桁72に足場を設置し、側壁71の外側から各ピラー73を位置決めして、アンカーボルト用の穿孔を側壁71に行い、次いでアンカーボルト74aでピラー73を固定する。
【0051】
次に、各ピラー73の間に防音パネル75を介装する。この工程では、隣接するピラー73、73間の上部に、下から順に複数の防音パネル75を介装する。防音パネル75は、一方のピラー73と他方のピラー73との間に囲まれた空間内に収まる(
図9参照)。
【0052】
次に、ピラー73の一方の平板部73aに挿通孔W1を形成する。この工程では、側壁71の外側に設けた足場から、一方の平板部73aにドリル等で穿孔する。この工程は、事前に工場で実施していてもよい。
【0053】
次に、挿通孔W1に取付金具10を挿入する。この工程では、
図1の状態に組み付けた取付金具10のねじ部40を挿通孔W1に挿入し、取付金具10のアイボルト1を平板部73aの外側面に接合させる。次いで、上述した手順で、取付金具10のボルト12を操作し、ナットで締め付けて取付金具10をピラー73に固定する。
【0054】
最後に、ワイヤ76を布設する。この工程では、ワイヤ76の一端側のターミナル金具77を予め設定されたステー78に取り付けた後、当該ワイヤ76の配索方向上流側から順に他方のターミナル金具77を取付金具10に挿通し、予め設定されたステー78に連結する。連結後、各ターミナル金具77を操作して、ワイヤ76に張力を所要の張力を付与することにより、配索作業を終了する。
【0055】
以上説明したように、本実施形態は、建造物の取付要部(例えば、平板部73a)に固定される取付金具10に関する。
【0056】
取付金具10は、拡開体21を備えている。拡開体21は、取付要部に形成された挿通孔W1に挿通可能な筒状に形成されている。また、拡開体21は、周方向において複数の係止片21aに分割されている。
【0057】
取付金具10は、ボルト12を備えている。ボルト12は、ねじ部40と、頭部41を備える。頭部41は、取付要部の外側に配置される。また、ボルト12は、拡開体21に挿通されている。
【0058】
また、取付金具10は、ピラー73等の取付要部の表面に配置される金具本体11を備えている。金具本体11は、係合部14を含む。係合部14は、取付要部の外側からボルト12を操作することができるようにボルト12の一端部に対し相対回転可能に連結される。図示の実施形態では、金具本体11と、ボルト12とにより、アイボルト1が構成される。アイボルト1のボルト12は、金具本体11に対して相対的に回転する。
【0059】
また、取付金具10は、ナット3を備えている。ナット3は、ボルト12の他端部側からねじ部40に螺合している。ナット3は、ねじ部40の他端部側からねじ部40の一端部側へ移動するにつれて、金具本体11との間で取付要部としての壁W(あるいはピラー73の平板部73a)と拡開体21とを挟圧することにより、複数の係止片21aを押し広げ、拡開体21を拡開する。
【0060】
上述した取付金具10では、建造物の一方の面(例えば、ピラー73の平板部73aの外側面)からアイボルト1のボルト12を挿通孔W1に挿通し、ボルト12を特定方向に回すように操作してナット3を係合部14側に締め付けることにより、係止片21aを拡開し、取付金具10を固定することができる。従って、建造物に直接ワイヤ76の挿通孔W1を穿孔する必要がなく、作業性は格段に向上する。また、建造物に直接ワイヤ76の挿通孔W1を穿孔する必要がなくなるので、取付金具10を装着する部位の制約が小さくなる。そのため、所望の場所にワイヤ76を張設することが可能になり、補強効果を高めることができる。さらに、建造物に金具本体11が外付けされるので、ワイヤ76の端部にターミナル金具が固定されている場合がであっても、金具本体11のワイヤ76の保持仕様を任意に選択するだけで対処することができる。よって、ピラー73に大きな穿孔をする必要がなくなり、建造物の強度を落とすことがない。加えて、ピラー73の一方の面から取付作業するだけで、施工を完了することができるので、既設のピラー73に取付金具10を取り付ける場合であっても、ピラー73の他方の側(橋桁72側)からの操作が不要になり、取り付け作業が格段に容易になる。
【0061】
また、本実施形態では、拡開体21は、金具本体11に延設されている。具体的には、金具本体11から拡開体21が片持ち状に突設される。このため本実施形態では、金具本体11から拡開体21が一体化され、拡開体21を取付要部に装着する作業が容易になる。また、金具本体11、ボルト12、拡開体21、ナット3をユニット化しやすくなり、一層、取扱いが容易になる。
【0062】
加えて、金具本体11に対し、ボルト12が相対的に回転可能に連結されているので、ボルト12を操作する際に、金具本体11を直接駆動する必要がない。そのため、ボルト12の締め付け後に金具本体11の取付位置がずれることはなく、金具本体11の姿勢を一律に設定することが容易になる。よって、第1、第2のワイヤ76等、物品の取付が容易になる。
【0063】
また、本実施形態では、拡開体21は、スリットSにより、複数の係止片21aに区画される。複数の係止片21aは、周方向に並んでいる。複数の係止片21aは、スリットSにより、互いに独立して径方向外向きに変形し、拡開体21は、拡開する。一方、ナット3の外周面は、複数のスリットSのうちの少なくとも一部のスリットSと嵌合する回転阻止部としての稜線31を有する。稜線31は、拡開体21に対するナット3の相対回転を阻止する。このため本実施形態では、製造の容易な構造で締め付け時におけるナット3の回り止めを図りつつ、拡開体21の係止片21aを拡開することができる。
【0064】
また、ナット3の外周面は、金具本体11から離れるに従って拡がる向きのテーパを有する。これにより、ナット3は、拡開体21を拡開するくさび部材としても機能する。
【0065】
特に、ナット3の横断面形状は、スリットSの個数と同数の頂点を有する多角形に形成されている。このため本実施形態では、ナット3から均等に各係止片21aを拡げ、拡開体21を安定した形状に拡開して、堅固な止定力を得ることができる。よって、製造の容易な形状で係止片21aを拡開することができる。
【0066】
好ましい態様の取付金具において、ナット3は、金具本体11から離れるに従って当該ナット3の断面が大きくなる向きの多角錐台形状(あるいはくさび形状)をなす。このため本実施形態では、ナット3の外周面がスリットSと同数の頂点をもつ多角形状の断面を有することと相俟って、一層、製造の容易な形状で確実にナット3の回り止めを図りつつ、拡開体21の係止片21aを拡開することができる。
【0067】
また本実施形態では複数の係止片21aは、拡開時に塑性変形する材料(例えば、鋼材)で形成されている。このため本実施形態では、一度固定された取付金具10は、施工後に取り外すことができなくなり、盗難防止機能を奏することができる。
【0068】
本実施形態の別の態様は、高架用の防音壁80である。防音壁80は、側壁71を備えている。側壁71は、橋桁72の長手方向に沿って当該橋桁72の側縁に設けられている。
【0069】
また、防音壁80は、複数のピラー73を備えている。各ピラー73は、橋桁72の長手方向に間隔を隔てて側壁71の上に立設される。
【0070】
また、防音壁80は、複数の防音パネル75を備えている。各防音パネル75は、複数のピラー73の間に取り付けられる。
【0071】
また防音壁80は、ピラー73の適所に固定された複数の取付金具10を備えている。各取付金具10は、上記実施形態に係るものが好適に採用される。
【0072】
また、防音壁80は、少なくとも一本のワイヤ76を備える。ワイヤ76は、取付金具10を介して複数のピラー73を連結する。
【0073】
本実施形態では、ワイヤ76によって複数のピラー73が連結されているので、ピラー73自身やピラー73間に配置された防音パネル75がばらけて落下するおそれが小さくなる。しかも、ピラー73に設けられた複数の取付金具10は、金具本体11側からボルト12を操作してナット3を金具本体11側に締め付けることにより、ナット3で係止片21aを拡開し、取付金具10を固定することができる。従って、取付金具10の取り付け場所が既設の建造物の取付要部であっても、建造物の裏面側からの操作が不要になり、取り付け作業が格段に容易になる。
【0074】
また、本実施形態では、少なくとも一本のワイヤ76は、ピラー73の側壁71近傍に固定された取付金具10に支持されているもの(第1のワイヤ)を含んでいる。また、少なくとも一本のワイヤ76は、上記ワイヤ76(第1のワイヤ)を支持する取付金具10よりも上側においてピラー73に固定された取付金具10に支持されているもの(第2のワイヤ)を含む。このため本実施形態では、ピラー73の上下2箇所が第1、第2のワイヤ76によって連結されるので、一層堅固に補強される。
【0075】
本実施形態のさらに別の態様は、上記防音壁80の施工方法である。
【0076】
同施工方法は、橋桁72の保持部に間隔を隔てて複数のピラー73を立設する工程を備える。
【0077】
また、同施工方法は、各ピラー73の間に防音パネル75を介装する工程を備える。
【0078】
また、同施工方法は、連通孔23W1に取付金具10を挿入する工程を備える。この工程では、各ピラー73の平板部73aに連通孔23を形成する工程を備えていてもよい。また、連通孔23に取付金具10の拡開体21を平板部73aの表面側から挿入する工程を備えていてもよい。さらに、金具本体11を平板部73aの表面上に固定する固定工程を備えていてもよい。この固定工程では、取付金具10の金具本体11の表面からボルト12の頭部41を回転操作することにより取付金具10のナットを金具本体11に近づく向きに進行させて拡開体21を拡開する。
【0079】
また、同施工方法は、取付金具10のボルト12でナット3を締結して、当該取付金具10をピラー73に固定する工程を備える。
【0080】
また、同施工方法は、取付金具10の金具本体11にワイヤ76を挿通する工程を備える。
【0081】
このため本実施形態では、高架用防音壁の一方の面(例えば、橋桁72の外側)から取付金具10を装着し、ワイヤ76を挿通することにより、施工を完了することができる。換言すれば、高架用防音壁の一方の面にワイヤ76を張設するに当たり、他方の面から加工を施す必要がない。そのため、作業性が格段に向上する。
【0082】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることはいうまでもない。
【0083】
例えば、上述したように、ナット3の形状は、一端側が細くなるくさび形状に形成されていることが好ましい。しかしながら、この例に限らず、ナットと拡開体との間にくさび状の部材を介在させて、拡開体を拡げるようにしてもよい。
【0084】
また、ナット3をテーパ形状にする必要は必ずしもない。
【0085】
さらにまた、スリットSよりもナット3の個数が少なくてもよい。すなわち、干渉が回避される限りにおいて、スリットSとナット3の稜線31の個数とが同数でなくてもよい。
【0086】
さらにまた、金具本体11と拡開体21とが一体形成された構造を採用してもよい。
【0087】
さらに、施工時において、ワイヤ76を事前に取付金具10に挿通した後、取付金具10を取付要部に施工してもよい。