(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
プロトンを含む第1の物質とプロトンを含む第2の物質との間においてCEST(化学交換飽和移動)により生じる磁化の移動を反映した情報を取得するための磁気共鳴装置であって、
RFパルスを有する複数のシーケンスを実行するスキャン手段であって、前記RFパルスの周波数が前記シーケンスごとに異なるように設定された複数のシーケンスを実行するスキャン手段と、
前記複数のシーケンスにより得られたデータに基づいて、CESTの影響を受けた信号成分を表すCEST成分と、CESTの影響を受けていない信号成分を表すベースライン成分とを含むZスペクトルを作成するスペクトル作成手段と、
Zスペクトルを第1のスペクトルに変換するスペクトル変換手段であって、CESTの影響が現れる周波数において、前記第1のスペクトルのCEST成分の信号値とベースライン成分の信号値との比が、前記ZスペクトルのCEST成分の信号値とベースライン成分の信号値との比よりも大きい前記第1のスペクトルが得られるように、前記Zスペクトルを前記第1のスペクトルに変換するスペクトル変換手段と、
前記第1のスペクトルに含まれるCEST成分の情報を求める手段と、
を有する磁気共鳴装置。
プロトンを含む第1の物質とプロトンを含む第2の物質との間においてCEST(化学交換飽和移動)により生じる磁化の移動を反映した情報を取得するための磁気共鳴装置であって、
複数のRFパルスを含むパルスセットを有する複数のシーケンスを実行するスキャン手段であって、前記複数のRFパルスのうちのp番目のRFパルスの位相とp+1番目のRFパルスの位相との位相差が前記シーケンスごとに異なるように、前記複数のRFパルスの位相をサイクルさせ、前記複数のシーケンスを実行するスキャン手段と、
前記複数のシーケンスにより得られたデータに基づいて、CESTの影響を受けた信号成分を表すCEST成分と、CESTの影響を受けていない信号成分を表すベースライン成分とを含むZスペクトルを作成するスペクトル作成手段と、
Zスペクトルを第1のスペクトルに変換するスペクトル変換手段であって、CESTの影響が現れる位相差において、前記第1のスペクトルのCEST成分の信号値とベースライン成分の信号値との比が、前記ZスペクトルのCEST成分の信号値とベースライン成分の信号値との比よりも大きい前記第1のスペクトルが得られるように、前記Zスペクトルを前記第1のスペクトルに変換するスペクトル変換手段と、
前記第1のスペクトルに含まれるCEST成分の情報を求める手段と、
を有する磁気共鳴装置。
前記ZスペクトルからCEST成分が除去された第2のスペクトルを求め、前記第2のスペクトルに基づいて、前記第1のスペクトルに含まれるベースライン成分の情報を求める手段を有する、請求項8に記載の磁気共鳴装置。
前記判断手段が、前記第1のスペクトルに他のCEST成分が含まれていると判断した場合、前記第1のフィッティング手段は、前記第1の関数に他のCEST成分に対応するCEST項を追加し、CEST項が追加された第1の関数を用いて前記第1のスペクトルをフィッティングすることにより、追加されたCEST項に含まれる複数の係数の各々の値を計算する、請求項15に記載の磁気共鳴装置。
前記第1のフィッティング手段が、CEST項に含まれる係数の値を再計算した後、前記カウント手段は、前記第1のスペクトルに含まれるCEST成分の総数をカウントする、請求項22に記載の磁気共鳴装置。
CEST項に含まれる係数の値を再計算した後にカウントされたCEST成分の総数が、CEST項に含まれる係数の値を再計算する前にカウントされたCEST成分の総数と異なる場合、CEST項に含まれる係数の値の計算と、ベースライン項に含まれる係数の値の計算をやり直す、請求項23に記載の磁気共鳴装置。
前記スペクトル比較手段が、前記理想的なZスペクトルによって前記Zスペクトルが再現されていると判断した場合、前記カウント手段は、前記第1のスペクトルに含まれるCEST成分の総数をカウントする、請求項25に記載の磁気共鳴装置。
前記第1の関数のベースライン項に含まれる係数の個数は、前記第2の関数に含まれる係数の個数よりも少ない、請求項11〜請求項26のうちのいずれか一項に記載の磁気共鳴装置。
プロトンを含む第1の物質とプロトンを含む第2の物質との間においてCEST(化学交換飽和移動)により生じる磁化の移動を反映した情報を取得するための磁気共鳴装置であって、RFパルスを有する複数のシーケンスを実行するスキャン手段を有し、前記RFパルスの周波数が前記シーケンスごとに異なるように設定された複数のシーケンスを実行する磁気共鳴装置に適用されるプログラムであって、
前記複数のシーケンスにより得られたデータに基づいて、CESTの影響を受けた信号成分を表すCEST成分と、CESTの影響を受けていない信号成分を表すベースライン成分とを含むZスペクトルを作成するスペクトル作成処理と、
Zスペクトルを第1のスペクトルに変換するスペクトル変換処理であって、CESTの影響が現れる周波数において、前記第1のスペクトルのCEST成分の信号値とベースライン成分の信号値との比が、前記ZスペクトルのCEST成分の信号値とベースライン成分の信号値との比よりも大きい前記第1のスペクトルが得られるように、前記Zスペクトルを前記第1のスペクトルに変換するスペクトル変換処理と、
前記第1のスペクトルに含まれるCEST成分の情報を求める処理と、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
プロトンを含む第1の物質とプロトンを含む第2の物質との間においてCEST(化学交換飽和移動)により生じる磁化の移動を反映した情報を取得するための磁気共鳴装置であって、複数のRFパルスを含むパルスセットを有する複数のシーケンスを実行するスキャン手段を有し、前記複数のRFパルスのうちのp番目のRFパルスの位相とp+1番目のRFパルスの位相との位相差が前記シーケンスごとに異なるように、前記複数のRFパルスの位相をサイクルさせ、前記複数のシーケンスを実行する磁気共鳴装置に適用されるプログラムであって、
前記複数のシーケンスにより得られたデータに基づいて、CESTの影響を受けた信号成分を表すCEST成分と、CESTの影響を受けていない信号成分を表すベースライン成分とを含むZスペクトルを作成するスペクトル作成処理と、
Zスペクトルを第1のスペクトルに変換するスペクトル変換処理であって、CESTの影響が現れる位相差において、前記第1のスペクトルのCEST成分の信号値とベースライン成分の信号値との比が、前記ZスペクトルのCEST成分の信号値とベースライン成分の信号値との比よりも大きい前記第1のスペクトルが得られるように、前記Zスペクトルを前記第1のスペクトルに変換するスペクトル変換処理と、
前記第1のスペクトルに含まれるCEST成分の情報を求める処理と、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、以下の形態に限定されることはない。
(1)第1の形態
図1は、本発明の第1の形態の磁気共鳴装置の概略図である。
磁気共鳴装置(以下、「MR装置」と呼ぶ。MR:Magnetic Resonance)1は、マグネット2、テーブル3、受信RFコイル(以下、「受信コイル」と呼ぶ)4などを有している。
【0014】
マグネット2は、被検体13が収容される収容空間21を有している。また、マグネット2は、静磁場を発生させるための超伝導コイル22、勾配パルスを印加するための勾配コイル23、およびRFパルスを印加するためのRFコイル24などを有している。超伝導コイルの代わりに、永久磁石を用いてもよい。
【0015】
テーブル3は、クレードル3aを有している。クレードル3aは、収容空間21内に移動できるように構成されている。クレードル3aによって、被検体13は収容空間21に搬送される。
【0016】
受信コイル4は、被検体13の腹部および胸部を含む部位に取り付けられている。受信コイル4は、被検体13からの磁気共鳴信号を受信する。
【0017】
MR装置1は、更に、送信器5、勾配磁場電源6、受信器7、コンピュータ8、操作部11、および表示部12などを有している。
【0018】
送信器5はRFコイル24に電流を供給し、勾配磁場電源6は勾配コイル23に電流を供給する。受信器7は、受信コイル4から受け取った信号に対して、検波などの信号処理を実行する。尚、マグネット2、受信コイル4、送信器5、勾配磁場電源6、および受信器7を合わせたものがスキャン手段に相当する。
【0019】
コンピュータ8は、表示部12に必要な情報を伝送したり、画像を再構成するなど、MR装置1の各種の動作を実現するように、MR装置1の各部の動作を制御する。コンピュータ8は、プロセッサ9および記憶部10などを有している。
【0020】
記憶部10には、プロセッサ9により実行されるプログラムなどが記憶されている。尚、記憶部10は、コンピュータで読取り可能な非一過性の記録媒体であってもよい。非一過性の記録媒体としては、例えば、CD−ROMを用いることができる。プロセッサ9は、記憶部10に記憶されているプログラムを読み出し、プログラムに記述されている処理を実行するための手段を実現する。
図2は、プロセッサ9が実現する手段の説明図である。プロセッサ9は、記憶部10に記憶されているプログラムを読み出すことにより、画像作成手段90〜カウント手段103などを実現する。
【0021】
画像作成手段90は、後述するシーケンスSE
1〜SE
16(
図11参照)により得られたデータに基づいて画像を作成する。
【0022】
Zスペクトル作成手段91は、画像作成手段90により得られた画像に基づいて、Zスペクトルを作成する。
【0023】
スペクトル変換手段92は、Zスペクトルを、後述するCPEスペクトルF
CPE(Δω
a)(例えば、
図9参照)に変換する。CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)は第1のスペクトルに相当する。
【0024】
検出手段93は、CPEスペクトルに基づいて、CESTの影響を受けた信号成分が現れるオフセット周波数を検出する。
【0025】
設定手段94は、CEST項の数を表すnの値を設定する。
第1のフィッティング手段95は、後述する式(16)を用いてフィッティングを行い、CEST項に含まれる係数の値を計算する。CEST項については後述する。
【0026】
CRZスペクトル作成手段96は、ZスペクトルからCEST成分が除去されたスペクトル(後述するCRZスペクトル)を作成する。CRZスペクトルは第2のスペクトルに相当する。
【0027】
第2のフィッティング手段97は、後述する式(20)を用いてフィッティングを行い、式(20)に含まれる係数(b
0,b
1,b
2,Δω
0)の値を計算する。
【0028】
係数値計算手段98は、第2のフィッティング手段97により計算された係数の値に基づいて、ベースライン項に含まれる係数の値を計算する。ベースライン項については後述する。
【0029】
スペクトル計算手段99は、後述するスペクトルF
CPE_n(Δω
a)(式21参照)を計算する。スペクトルF
CPE_n(Δω
a)は第3のスペクトルに相当する。
【0030】
CEST判断手段100は、スペクトル変換手段92により得られたCPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に、CESTの影響を受けた他の信号成分が含まれているか否かを判断する。
【0031】
スペクトル推定手段101は、ベースライン項とCEST項との和で表されるZスペクトル(理想的なZスペクトル)を推定する。
【0032】
スペクトル比較手段102は、スペクトル推定手段101により推定された理想的なZスペクトルと、Zスペクトル作成手段91により作成されたZスペクトルとを比較し、理想的なZスペクトルによってZスペクトルが再現されているか否かを判断する。
【0033】
カウント手段103は、検出手段93により検出されたオフセット周波数の総数をカウントする。
【0034】
プロセッサ9は、画像作成手段90〜カウント手段103を構成する一例であり、記憶部10に記憶されたプログラムを実行することによりこれらの手段として機能する。尚、第1のフィッティング手段95がCEST成分の情報を求める手段に相当し、CRZスペクトル作成手段96、第2のフィッティング手段97、および係数値計算手段98を合わせたものがベースライン成分の情報を求める手段に相当する。
【0035】
操作部11は、オペレータにより操作され、種々の情報をコンピュータ8に入力する。表示部12は種々の情報を表示する。
MR装置1は、上記のように構成されている。
【0036】
図3は第1の形態で実行されるスキャンの説明図である。
スキャンSCは、CESTイメージング法を用いてスライスSLの画像を取得するためのスキャンである。スキャンSCでは、スライスSLの画像D
kを取得するためのシーケンスSE
k(k=1〜r)が実行される。第1の形態では、シーケンスSE
kはr回実行されるので、スキャンSCを実行することにより、r個の画像D
1〜D
rを取得することができる。
【0037】
図4は、第1の形態におけるシーケンスSE
kを具体的に示す図である。
k回目のシーケンスSE
kは、連続波のRFパルスCWと、横磁化を消失させるためのキラー勾配パルスGcと、シングルショット法によりデータを収集するためのデータ収集セグメントDAQとを含んでいる。RFパルスCWの周波数f[Hz]は、f=fkに設定されている。連続波のRFパルスCWを印加した後、キラー勾配パルスGcが印加され、キラー勾配パルスGcを印加した後にデータ収集セグメントDAQが実行される。
【0038】
k回目のシーケンスSE
kは、上記のように構成されている。シーケンスSE
1、SE
2、・・・SE
rのRFパルスCWの周波数を、それぞれf1、f2、・・・frで表すと、これらの周波数f1、f2、・・・frは、互いに異なる値に設定されている。
【0039】
第1の形態では、シーケンスSE
1〜SE
rを実行することにより、画像D
1〜D
rを取得し、これらの画像D
1〜D
rに基づいて、Zスペクトルを作成する。
【0040】
図5は、Zスペクトルの説明図である。
図5(a1)は、Zスペクトルの波形を概略的に示す図である。Zスペクトルの横軸は、水の共鳴周波数からのずれを表すオフセット周波数Δω
aである。Δω
aは、Δω
a=2π(f−f
w)[rad/sec]で計算される。ここで、f
wは、水の共鳴周波数である。
【0041】
図5(a1)に示すように、Zスペクトルでは、或るオフセット周波数Δω
cにおいて、CESTによる信号減衰が現れる。したがって、Zスペクトルから、CESTの影響を受けた信号成分を分離することによって、CESTを定量的に評価することが可能となる。
【0042】
図5(a2)は、Zスペクトルを、CESTの影響を受けた信号成分(以下、「CEST成分」と呼ぶ)P1と、CESTの影響を受けていない信号成分(以下、「ベースライン成分」と呼ぶ)P2とに分けて示した図である。尚、CEST成分P1は、実際には周波数Δωcにおいて下向きのピークを有しているが、
図5(a2)では、説明の便宜上、CEST成分P1のピークを上向きに反転させて示してある。
【0043】
Zスペクトルから、CEST成分P1を分離することにより、CESTを定量的に評価することが可能となる。しかし、Zスペクトルは、CESTの影響を受けた信号成分(CEST成分)P1の他に、CESTの影響を受けていない信号成分(ベースライン成分)P2を含んでいる。一般的に、CEST成分P1およびベースライン成分P2は、ローレンツ関数で近似できる。しかし、ベースライン成分P2は、CEST成分P1よりも大きなピークを持つので、オフセット周波数Δω
cの近傍において、CEST成分P1とベースライン成分P2との比R(=P1/P2)は小さい値になる。したがって、CEST成分P1のピークがベースライン成分P2に埋もれてしまい、ZスペクトルからCEST成分P1を分離することが難しい場合がある。そこで、第1の形態では、Zスペクトルを、CEST成分の抽出に適したスペクトルに変換する。以下に、Zスペクトルを、CEST成分の抽出に適したスペクトルに変換する方法について説明する。
【0044】
Zスペクトルは以下の式(1)で表すことができる。
【数1】
【0045】
ここで、Δω
a:水の共鳴周波数からのずれを表すオフセット周波数
Mz
a:シーケンスSE
kのデータ収集セグメントDAQ(
図4参照)の直前における縦磁化の大きさ
M
0:RFパルスWCおよびキラー勾配パルスGcを印加せずにデータ収集セグメントDAQを実行する場合において、データ収集セグメントDAQの直前における磁化の大きさ、である。
尚、文字の添え字「a」は、自由水(free water)に起因することを表している。
【0046】
また、Zスペクトルは、Zaiss等により以下の式(2)で近似できることが示されている(Zaiss M, et al. NMR Biomed 2013;26:507-18.)。
【数2】
【0047】
式(2)のR
1ρは、RFパルス印加中のT1回復の時定数であり、Trott等により以下の式(3)で近似できることが示されている(Trott O, et al. J Magn Reson 2002;154:157-60)。
【数3】
【0048】
式(3)のcos
2θ、sin
2θ、およびR
exは以下の式で表される。
【数4】
【0049】
ω
1:RFパルスWCの送信磁場強度(B1強度)から求められる周波数[radian/sec]
Δω
c:CESTの影響を受けた信号成分が現れるオフセット周波数[radian/sec]
k
a:自由水プールからCESTプールへの磁化移動(Magnetization Transfer)の時定数[Hz]
k:CESTプールから自由水プールへの磁化移動の時定数[Hz]
【0050】
ここで、Δω
a2を表す以下の関数F(Δω
a)について考える。
【数5】
【0051】
式(4)のF(Δω
a)は偶関数であり、Δω
a=0の場合、F(Δω
a)=0となる。式(4)を、式(3a)、(3b)、および(3c)に代入すると、以下の式が得られる。
【数6】
【0052】
次に、式(1)で表されるスペクトルZの逆数のスペクトル1/Zについて考える。式(1)、(2)、(3)、および(5c)から、1/Zは、以下の式で表すことができる。
【数7】
【0053】
式(6)を整理すると、以下の式(7)が得られる。
【数8】
【0054】
ここで、Δω
aがω
1に比べて十分に小さい場合、即ち、以下の関係が成り立つ場合について考える。
【数9】
【0055】
式(8)が成り立つ場合、式(5a)は、以下の式に近似できる。
【数10】
【0056】
したがって、式(9a)から、cosθは、以下の式に近似できる。
【数11】
【0057】
また、式(8)が成り立つ場合、式(5b)は、以下の式に近似できる。
【数12】
【0058】
式(9a−1)および(9b)を用いて式(7)を整理すると以下の近似式が得られる。
【数13】
【0059】
Δω
a≫ω
1が成り立つ場合(式8参照)、式(10)の近似式を得ることができる。右辺第1項R
2aω
12/R
1aは、自由水プールにおける緩和時間を表す項である。また、右辺第2項は、CEST成分(CESTの影響を受けた信号成分)を表す項であり、以下では、この項を、「CEST項」と呼ぶことにする。CEST項は、強度がa
1、幅がa
2、位置がΔω
cのローレンツ関数で表されている。したがって、CEST成分を、ローレンツ関数で表されるピークとして抽出できることがわかる。そこで、第1の形態では、式(10)で表されるスペクトルをCPE(CEST Peak Extraction)スペクトルと呼ぶことにする。
【0060】
CPEスペクトルを、F
CPE(Δω
a)とすると、F
CPE(Δω
a)は以下の式で表すことができる。
【数14】
【0061】
また、式(10)および(11)から、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)の近似式は、以下の式で表すことができる。
【数15】
【0062】
尚、上記の説明で使用された式(3)は、Trott等のモデルを仮定している。Trott等のモデルは、2つのプール(例えば、自由水およびNH)の間で生じるCESTを考慮したTwo Poolモデルである。しかし、実際の生体組織では、結合水と自由水との間で生じる磁化移動(MT:Magnetization Transfer)も考慮する必要がある。ここで、結合水と自由水との間で生じるMT(磁化移動)の影響を表すスペクトルをZ
MTとし、スペクトルZ
MTは、定数からローレンツ関数を引いた式で表現できると仮定する。この場合、スペクトルZ
MTは以下の式で表すことができる。
【数16】
【0063】
式(13)において、Δω
0は、周波数の誤差を表している。式(13)の右辺第1項(b
0)は定数項であり、右辺第2項はローレンツ関数の項である。ここで、式(11)の右辺のZをZ
MTで置き換え、更に、式(13)のΔω
0が十分に小さくΔω
0=0で表せると仮定する。この場合、ZをZ
MTで置き換えた後の式(11)と、Δω
0=0と仮定された後の式(13)とを用いて、以下の式が得られる。
【数17】
【0064】
式(14)の右辺第3項は十分に小さいので無視できる。したがって、式(14)は、以下の式で近似できる。
【数18】
【0065】
式(15)の右辺第2項は、自由水と結合水との間で生じるMTの影響を受けた信号成分を表す項(以下、「MT項」と呼ぶ)である。
【0066】
また、Two poolモデルでは、CESTピークは1つしか考えていないが、CESTピークが複数現れる場合もある。そこで、n個のCEST項を考え、各CEST項とMT項との間に一次結合が成り立つと仮定すると、式(12)および式(15)に基づいて、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)は、以下の式に近似することができる。
【数19】
【0067】
ただし、Δω
a≫ω
1である。式(16)の右辺第1項および右辺第2項の和は、ベースライン成分(CESTの影響を受けていない信号成分)を表す項である。以下では、この項を、ベースライン項と呼ぶことにする。また、式(16)の右辺第3項のF
L,n(Δω
a)は、第nのCEST項を表している。したがって、式(16)から、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)は、ベースライン項とn個のCEST項とを含む関数で近似できることが分かる。ベースライン項とn個のCEST項とを含む関数は、第1の関数に相当する。
【0068】
式(16)のベースライン項は、定数項c
0と、MT項c
MTF(Δω
a)の和で表されている。MT項のF(Δω
a)は、ローレンツ関数ではなく、式(4)で定義される偶関数である。したがって、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に含まれるベースライン成分(CESTの影響を受けていない信号成分)は、偶関数で近似できることが分かる。
【0069】
図6は、ZスペクトルとCPEスペクトルとの違いを説明するための図である。
図6(a1)はZスペクトルの波形の概略図、
図6(a2)はZスペクトルをCEST成分P1とベースライン成分P2とに分けて示した図である。
【0070】
図5を参照しながら説明したように、Zスペクトルのベースライン成分P2は、大きなピークを持つローレンツ関数で近似される。したがって、周波数Δω
cの近傍において、CEST成分P1とベースライン成分P2との比R(=P1/P2)は小さい値になるので、CEST成分P1のピークがベースライン成分P2に埋もれてしまい、ZスペクトルからCESTの影響を受けた信号成分P1を分離することが難しい場合がある。
【0071】
一方、
図6(b1)はCPEスペクトルの波形の概略図、
図6(b2)はCPEスペクトルをCEST成分Q1とベースライン成分Q2とに分けて示した図である。
式(16)の説明で言及したように、CPEスペクトルのベースライン成分は、偶関数で近似することができる。したがって、CPEスペクトルのベースライン成分Q2はローレンツ関数による大きなピークを持たないので、周波数Δω
cの近傍において、CEST成分Q1とべースライン成分Q2との比R(=Q1/Q2)を大きくすることができる。このため、CPEスペクトルは、Zスペクトルよりも、大きな比Rが得られるので、CPEスペクトルから、CEST成分Q1を分離し易くすることができる。
【0072】
尚、
図6では、説明を簡単にするため、Zスペクトルには、CEST成分が一つしか含まれていない例が示されているが、Zスペクトルに複数のCEST成分が含まれている場合もある。しかし、Zスペクトルに複数のCEST成分が含まれている場合であっても、ZスペクトルをCPEスペクトルに変換することによりベースライン成分の影響を軽減することができる。したがって、Zスペクトルに複数のCEST成分が含まれている場合であっても、ZスペクトルをCPEスペクトルに変換することにより、CPEスペクトルから複数のCEST成分の各々を分離し易くすることができる。
【0073】
第1の形態では、ZスペクトルをCPEスペクトルに変換し、CPEスペクトルを用いてCEST画像を作成している。以下に、CPEスペクトルを用いてCEST画像を作成する方法について具体的に説明する。
【0074】
図7は、CEST画像を作成するためのフローを示す図である。
ステップST1では、スキャンSC(
図4参照)が実行される。スキャンSCでは、シーケンスSE
1〜SE
rが実行される。画像作成手段90(
図2参照)は、シーケンスSE
1〜SE
rにより得られたデータに基づいて、スライスSLの画像D
1〜D
r(
図3参照)を作成する。シーケンスSE
1〜SE
rのRFパルスCWの周波数は互いに異なる値に設定されているので、シーケンスSE
1〜SE
rを実行することにより、RFパルスの周波数をr通りに変化させたときの画像D
1〜D
rを得ることができる。シーケンスSE
1〜SE
rを実行した後、ステップST2に進む。
【0075】
ステップST2では、Zスペクトル作成手段91(
図2参照)がZスペクトルを作成する。
図8に、Zスペクトルを概略的に示す。Zスペクトル作成手段91は、画像D
1〜D
rの同じ位置のピクセルを抽出し、水の共鳴周波数からの周波数のずれを表すオフセット周波数Δω
aと信号値との関係を表すZスペクトルを作成する。
図8では、画像D
1〜D
rの同じ位置のピクセルg1におけるZスペクトルが示されているが、他のピクセルにおけるZスペクトルも作成する。
Zスペクトルを作成した後、ステップST3に進む。
【0076】
ステップST3では、スペクトル変換手段92(
図2参照)が、式(11)を用いて、ZスペクトルをCPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に変換する。
図9に、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)を概略的に示す。ここでは、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)は、オフセット周波数Δω
c,1およびΔω
c,2においてCESTの影響を受けた信号成分(CEST成分)を含んでいるとする。尚、オフセット周波数の単位は[rad/sec]であるが、オフセット周波数の単位は、[rad/sec]から[ppm]に変換することができる。ここでは、オフセット周波数の単位は[ppm]に変換されているとする。ただし、説明の便宜上、オフセット周波数の単位を[rad/sec]から[ppm]に変換した後も、オフセット周波数は符号「Δω
a」で表してある。ZスペクトルをCPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に変換した後、ステップST4に進む。
【0077】
ステップST4では、検出手段93(
図2参照)が、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)の中から、CESTの影響を受けた信号成分(CEST成分)が現れるオフセット周波数を検出する。以下に、CEST成分が現れるオフセット周波数の検出方法について説明する。
【0078】
式(16)のベースライン項に含まれるF(Δω
a)は、Δω
aの二次関数で表されるので(式(4)参照)、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)のベースライン成分は二次関数で近似できることが分かる。したがって、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)と二次関数とを比較し、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)と二次関数とのずれが大きくなるときのオフセット周波数を求めることにより、CEST成分が現れるオフセット周波数を検出することができる。ここでは、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)は、オフセット周波数Δω
c,1において、二次関数から最もずれているとする。したがって、検出手段93は、CEST成分が現れるオフセット周波数として、オフセット周波数Δω
c,1を検出する。ここでは、Δω
c,1の検出値はΔω
a1であるとする。したがって、Δω
c,1の検出値は、以下の式で表される。
【数20】
【0079】
オフセット周波数Δω
c,1=Δω
a1を検出した後、ステップST5に進む。
ステップST5では、設定手段94(
図2参照)が、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)の近似式(16)に含まれるCEST項の数を表すnを初期値1に設定する。n=1に設定された場合、式(16)は、以下の式で表される。
【数21】
【0080】
式(17)のベースライン項の係数(c
0,c
MT)、および式(17c)のCEST項F
L,1(Δω
a)の係数(a
1,1,a
2,1,Δω
c,1)は、未知の係数である。n=1に設定した後、ステップST6に進む。
【0081】
ステップST6では、第1のフィッティング手段95(
図2参照)が、式(11)により求められたCPEスペクトルF
CPE(Δω
a)と式(17)との誤差が最小になるようにフィッティングを行い、誤差が最小になるときの式(17)のCEST項F
L,1(Δω
a)の係数(a
1,1,a
2,1,Δω
c,1)の値と、ベースライン項の係数(c
0,c
MT)の値を計算する。フィッティングを行う場合、第1のフィッティング手段95は、先ず、係数(a
1,1,a
2,1,Δω
c,1)の初期値と、係数(c
0,c
MT)の初期値を設定する。例えば、係数Δω
c,1の初期値は、ステップST4で検出したオフセット周波数Δω
c,1の値、即ち、Δω
c,1=Δω
a1(式16d参照)に設定される。また、他の係数a
1,1、a
2,1、c
0、c
MTの初期値は、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)の特徴量(CPEスペクトルの最大値、最小値など)を用いて計算することができる。係数の初期値を設定した後、第1のフィッティング手段95は、初期値を基準にして各係数の値を変更し、式(11)により求められたCPEスペクトルF
CPE(Δω
a)と式(17)との誤差が最小になるときの係数(a
1,1,a
2,1,Δω
c,1)の値、および係数(c
0,c
MT)の値を計算する。
図10に、フィッティングにより計算された各係数の値を示す。
図10では、(c
0,c
MT)=(c
0(1),c
MT(1))、(a
1,1,a
2,1,Δω
c,1)=(a
1,1(1),a
2,1(1),Δω
c,1(1))で示されている。
【0082】
尚、フィッティングにより、CEST項F
L,1(Δω
a)の係数の値の他に、ベースライン項の係数(c
0,c
MT)の値も計算することができる。ただし、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)は、Zスペクトルよりも、ベースライン成分が抑制されている(
図6参照)。したがって、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)を近似式(17)でフィッティングすることによりベースライン項の係数(c
0,c
MT)を求めた場合、係数(c
0,c
MT)の推定誤差が大きくなる可能性がある。そこで、第1の形態では、係数(c
0,c
MT)の推定誤差が小さくなるように、係数(c
0,c
MT)を計算し直す。係数(c
0,c
MT)を計算し直すために、ステップST7に進む。
【0083】
ステップST7は、2つのステップST71およびST72を有している。以下、各ステップST71およびST72について説明する。
【0084】
ステップST71では、CRZスペクトル作成手段96(
図2参照)が、ZスペクトルからCEST成分が除去されたスペクトルを作成する。以下では、ZスペクトルからCEST成分が除去されたスペクトルをCRZスペクトル(CEST Removed Z-spectrum)と呼ぶことにする。CRZスペクトルを、「Z
CRZ」で表すと、CRZスペクトルZ
CRZは、Zスペクトルを用いて、以下の式で表すことができる。
【数22】
【0085】
尚、δ(Δω
a)は、Δω
a=0において式(18)の右辺第2項の分母がゼロにならないようにするために導入された関数である。ここでは、n=1であるので、式(18)は、以下の式で表される。
【数23】
【0086】
式(19)のZは、ステップST2で求められている。また、式(19a)のF
L,1(Δω
a)の係数(a
1,1,a
2,1,Δω
c,1)は、
図10に示すように、ステップST6で(a
1,1,a
2,1,Δω
c,1)=(a
1,1(1),a
2,1(1),Δω
c,1(1))と計算されている。したがって、式(19)から、CESTの影響を受けた信号成分(CEST成分)が除去されたCRZスペクトルZ
CRZを作成することができる。CRZスペクトルZ
CRZを作成した後、ステップST72に進む。
【0087】
ステップST72では、ステップST71で作成したCRZスペクトルZ
CRZに基づいて、式(17)のベースライン項の係数(c
0,c
MT)の値を計算する。以下に、係数(c
0,c
MT)の値の求め方について説明する。
【0088】
CRZスペクトルZ
CRZは、ZスペクトルからCEST成分が除去されたスペクトルを表している。したがって、CRZスペクトルZ
CRZは、CESTの影響を受けた信号成分ではなく、自由水と結合水との間で生じるMTの影響を受けた信号成分を主に表していると考えることができる。自由水と結合水との間で生じるMTの影響を受けた信号成分を表すスペクトルは、式(13)のスペクトルZ
MTで表されている。したがって、CRZスペクトルZ
CRZは、スペクトルZ
MTを用いて、以下の式で近似することができる。
【数24】
【0089】
式(20)から、CRZスペクトルZ
CRZは、定数項(b
0)とローレンツ関数の項との和で表される関数で近似できることが分かる。定数項(b
0)とローレンツ関数の項との和で表される関数は、第2の関数に相当する。
【0090】
第2のフィッティング手段97(
図2参照)は、CRZスペクトルZ
CRZと式(20)との誤差が最小になるようにフィッティングを行い、誤差が最小になるときの式(20)の係数(b
0,b
1,b
2,Δω
0)の値を計算する。フィッティングを行う場合、第2のフィッティング手段97は、先ず、係数(b
0,b
1,b
2,Δω
0)の初期値を計算する。係数(b
0,b
1,b
2,Δω
0)の初期値は、例えば、ステップST6で計算したベースライン項の値(c
0,c
MT)=(c
0(1),c
MT(1))に基づいて計算することができる。係数(b
0,b
1,b
2,Δω
0)の初期値を計算した後、第2のフィッティング手段97は、初期値を基準にして係数(b
0,b
1,b
2,Δω
0)の値を変更し、CRZスペクトルZ
CRZと式(20)との誤差が最小になるときの係数(b
0,b
1,b
2,Δω
0)の値を計算する。
図11に、フィッティングにより計算された係数(b
0,b
1,b
2,Δω
0)の値を示す。
図11では、計算された係数(b
0,b
1,b
2,Δω
0)の値は、(b
0,b
1,b
2,Δω
0)=(b
0(1),b
1(1),b
2(1),Δω
0(1))で示されている。
【0091】
これらの係数の値を求めた後、係数値計算手段98(
図2参照)は、(b
0,b
1)=(b
0(1),b
1(1))を式(17a)に代入し、c
0を計算する。また、係数値計算手段98は、b
0=b
0(1)を式(17b)に代入し、c
MTを計算する。したがって、式(17)のベースライン項の係数(c
0,c
MT)の値を計算することができる。
図12に、計算された係数(c
0,c
MT)の値を示す。
図12では、(c
0,c
MT)=(c
0(1)’,c
MT(1)’)で示されている。これらの値を求めた後、ステップST8に進む。
【0092】
ステップST8では、スペクトル計算手段99(
図2参照)が、ベースライン項c
0+c
MTF(Δω
a)とCEST項Σ
nF
L,n(Δω
a)との和で表されるスペクトルF
CPE_n(Δω
a)を計算する。このスペクトルF
CPE_nは、以下の式で定義することができる。
【数25】
【0093】
尚、ステップST5において、n=1に設定されているので、式(21)は、以下の式で表される。
【数26】
【0094】
式(22)のベースライン項の係数(c
0,c
MT)は、ステップST72において(c
0,c
MT)=(c
0(1)’,c
MT(1)’)と計算されている(
図12参照)。また、式(22c)のCEST項F
L,1(Δωa)の係数(a
1,1,a
2,1,Δω
c,1)は、ステップST6において(a
1,1,a
2,1,Δω
c,1)=(a
1,1(1),a
2,1(1),Δω
c,1(1))と求められている(
図12参照)。したがって、式(22)および(22c)に、これらの係数の値を代入することにより、スペクトルF
CPE_1(Δω
a)を計算することができる。
図13に、スペクトルF
CPE_1(Δω
a)を概略的に示す。尚、
図13では、比較のため、スペクトルF
CPE_1(Δω
a)の他に、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)も示してある。スペクトルF
CPE_1(Δω
a)は、オフセット周波数Δω
c,1の付近において、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に十分に近い波形を有していることが分かる。スペクトルF
CPE_1(Δω
a)を計算した後、ステップST9に進む。
【0095】
ステップST9では、CEST判断手段100(
図2参照)が、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に、CEST項F
L,1(Δω
a)で表されるCEST成分(式22c参照)とは異なる他のCEST成分が含まれているか否かを判断する。
【0096】
図14は、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に他のCEST成分が含まれているか否かを判断する方法の説明図である。
図14の上側には、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)およびスペクトルF
CPE_1(Δω
a)が示されており、
図14の下側には、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)とスペクトルF
CPE_1(Δω
a)との差分スペクトルD(Δω
a)が示されている。
【0097】
先ず、CEST判断手段100は、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)から、スペクトルF
CPE_1(Δω
a)を差分し、差分スペクトルD(Δω
a)を求める。
【0098】
次に、CEST判断手段100は、差分スペクトルD(Δω
a)に基づいて、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に他のCEST成分が含まれているか否かを判断する。以下に、この判断方法について説明する。
【0099】
スペクトルF
CPE_1(Δω
a)を求めるための式(22)は、オフセット周波数Δω
c,1に対応したCEST項F
L,1(Δω
a)を含んでいる。したがって、オフセット周波数Δω
c,1の付近では、スペクトルF
CPE_1(Δω
a)は、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に十分に近い値を有している。このため、差分スペクトルD(Δω
a)の信号値は、オフセット周波数Δω
c,1の付近ではゼロに近い値になる。
【0100】
しかし、F
CPE_1(Δω
a)の式(22)は、オフセット周波数Δω
c,2に対応したCEST項を含んでいない。したがって、オフセット周波数Δω
c,2の付近では、スペクトルF
CPE_1(Δω
a)と、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)との間に、ある程度の信号値の差が生じる。このため、差分スペクトルD(Δω
a)には、オフセット周波数Δω
c,2の付近に、CESTの影響を受けた信号成分を表すピークP2が現れる。
【0101】
したがって、差分スペクトルD(Δω
a)にピークP2が現れているかを判断することにより、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に他のCEST成分が含まれているか否かを判断することができる。第1の形態では、差分スペクトルD(Δω
a)にピークP2が現れているかを判断するために、2つの閾値TH1およびTH2が用いられる。CEST判断手段100は、2つの閾値TH1およびTH2と、差分スペクトルD(Δω
a)とを比較し、差分スペクトルD(Δω
a)が、閾値TH1又は閾値TH2を横切っているか否かを判断する。差分スペクトルD(Δω
a)が、閾値TH1又は閾値TH2を横切っている場合、CEST判断手段100は、差分スペクトルD(Δω
a)にピークP2が現れていると判断する。一方、差分スペクトルD(Δω
a)が、閾値TH1又は閾値TH2を横切っていない場合、CEST判断手段100は、差分スペクトルにピークP2が現れていないと判断する。
【0102】
図14を参照すると、差分スペクトルD(Δω
a)は、オフセット周波数Δω
c,2の付近において、閾値TH1を超えるピークP2を含んでいる。したがって、CEST判断手段100は、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に他のCEST成分が含まれていると判断する。CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に他のCEST成分が含まれていると判断された場合、ステップST10に進む。
【0103】
ステップST10では、検出手段93が、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)の他のCEST成分が現れるオフセット周波数Δω
c,2を検出する。ここでは、Δω
c,2の検出値はΔω
a2であるとする。したがって、Δω
c,2の検出値は、以下の式で表される。
【数27】
【0104】
オフセット周波数Δω
c,2=Δω
a2を検出した後、ステップST11に進む。
ステップST11では、設定手段94が、CEST項の数を表すnをインクリメントする。したがって、nは、n=1からn=2に設定される。n=2に設定された場合、CPEスペクトルの近似式(16)は、以下の式で表される。
【数28】
【0105】
n=2に設定した後、ステップST6に戻る。
ステップST6では、第1のフィッティング手段95が、フィッティングにより、式(23c_2)のCEST項F
L,2(Δω
a)の係数(a
1,2,a
2,2,Δω
c,2)の値を計算する。以下に、係数(a
1,2,a
2,2,Δω
c,2)の求め方について説明する。
【0106】
第1の形態では、既に、CEST項F
L,1(Δω
a)の係数(a
1,1,a
2,1,Δω
c,1)は、(a
1,1(1),a
2,1(1),Δω
c,1(1))と計算されており、ベースライン項の係数(c
0,c
MT)は、(c
0(1)’,c
MT(1)’)と計算されている(
図12参照)。したがって、これらの値を式(23)および式(23c_1)に代入すると、式(23c_2)で表されるCEST項F
L,2(Δω
a)の3つの係数(a
1,2,a
2,2,Δω
c,2)のみが、未知の係数となる。この場合、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)と、3つの未知の係数(a
1,2,a
2,2,Δω
c,2)を含む近似式(23)との誤差が最小になるように、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)をフィッティングすることにより、3つの係数(a
1,2,a
2,2,Δω
c,2)の値を求めることができる。
【0107】
しかし、ベースライン項の係数(c
0,c
MT)=(c
0(1)’,c
MT(1)’)は、CEST項が1項(F
L,1(Δω
a))しか含まれていない近似式(17)に基づいて求められた値である。一方、近似式(23)は、CEST項F
L,1(Δω
a)の他に、新たなCEST項F
L,2(Δω
a)が追加されている。したがって、ベースライン項の係数(c
0,c
MT)を(c
0(1)’,c
MT(1)’)に固定してフィッティングを行うと、CEST項F
L,2(Δω
a)の係数(a
1,2,a
2,2,Δω
c,2)の推定誤差が大きくなる恐れがある。そこで、第1の形態では、CEST項F
L,2(Δω
a)の係数(a
1,2,a
2,2,Δω
c,2)の推定誤差を小さくするために、CEST項F
L,2(Δω
a)の係数(a
1,2,a
2,2,Δω
c,2)だけでなく、ベースライン項の係数(c
0、c
MT)も未知の係数として、フィッティングを行う。したがって、5つの係数が未知の係数となる。第1のフィッティング手段95は、5つの未知の係数を含む近似式(23)を用いて、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)のフィッティングを行う。フィッティングを行う場合、第1のフィッティング手段95は、先ず、CEST項F
L,2(Δω
a)の係数(a
1,2,a
2,2,Δω
c,2)の初期値と、ベースライン項の係数(c
0,c
MT)の初期値とを設定する。係数Δω
c,2の初期値は、ステップST10で検出したオフセット周波数Δω
c,2の値、即ち、Δω
c,2=Δω
a2(式22d参照)に設定される。また、係数a
1,2、a
2,2の初期値は、差分スペクトルD(Δω
a)のピークP2(
図14参照)の特徴量(ピークの高さ、半値幅など)に基づいて計算することができる。一方、ベースライン項の係数(c
0,c
MT)の初期値は、n=1のときに求めた値(c
0,c
MT)=(c
0(1)’,c
MT(1)’)(
図12参照)に設定することができる。初期値を設定した後、第1のフィッティング手段95は、初期値を基準にして係数の値を変更し、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)と式(23)との誤差が最小になるときの係数(a
1,2,a
2,2,Δω
c,2)および係数(c
0,c
MT)の値を計算する。
図15に、フィッティングにより計算された各係数の値を示す。
図15では、(c
0,c
MT)=(c
0(2),c
MT(2))、(a
1,2,a
2,2,Δω
c,2)=(a
1,2(2),a
2,2(2),Δω
c,2(2))で示されている。
【0108】
尚、フィッティングにより、CEST項F
L,2(Δω
a)の係数(a
1,2,a
2,2,Δω
c,2)の他に、ベースライン項の係数(c
0,c
MT)も計算される。ただし、先に説明したように、ステップST6で計算されたベースライン項の係数(c
0,c
MT)の値は、推定誤差が大きい可能性がある。そこで、ベースライン項の係数(c
0,c
MT)を計算し直すために、ステップST7に進む。
【0109】
ステップST7では、2つのステップST71およびST72が順に実行される。
ステップST71では、CRZスペクトル作成手段96が、式(18)を用いて、ZスペクトルからCEST成分が除去されたCRZスペクトルZ
CRZを作成する。ただし、n=2に設定されているので、式(18)は、以下の式で表される。
【数29】
【0110】
CRZスペクトル作成手段96は、式(24)を用いて、ZスペクトルからCEST成分が除去されたCRZスペクトルZ
CRZを作成する。CRZスペクトルZ
CRZを作成した後、ステップST72に進む。
【0111】
ステップST72では、第2のフィッティング手段97が、式(24)を用いて作成されたCRZスペクトルZ
CRZと式(20)との誤差が最小になるようにフィッティングを行い、誤差が最小になるときの式(20)の係数(b
0,b
1,b
2,Δω
0)の値を計算する。フィッティングを行う場合、第2のフィッティング手段97は、先ず、係数(b
0,b
1,b
2,Δω
0)の初期値を設定する。ここでは、第2のフィッティング手段97は、n=1のときに計算された係数(b
0,b
1,b
2,Δω
0)=(b
0(1),b
1(1),b
2(1),Δω
0(1))(
図12参照)を、n=2における係数(b
0,b
1,b
2,Δω
0)の初期値として設定する。n=2における係数(b
0,b
1,b
2,Δω
0)の初期値を設定した後、第2のフィッティング手段97は、初期値を基準にして係数(b
0,b
1,b
2,Δω
0)の値を変更し、式(24)を用いて作成されたCRZスペクトルZ
CRZと式(20)との誤差が最小になるときの係数(b
0,b
1,b
2,Δω
0)の値を計算する。
図16に、n=2において、フィッティングにより計算された係数(b
0,b
1,b
2,Δω
0)の値を示す。
図16では、計算された係数(b
0,b
1,b
2,Δω
0)の値は、(b
0,b
1,b
2,Δω
0)=(b
0(2),b
1(2),b
2(2),Δω
0(2))で示されている。
【0112】
これらの係数の値を求めた後、係数値計算手段98は、(b
0,b
1)=(b
0(2),b
1(2))を式(23a)に代入し、c
0を計算する。また、係数値計算手段98は、b
0=b
0(2)を式(23b)に代入し、c
MTを計算する。したがって、式(23)のベースライン項の係数(c
0,c
MT)の値を計算することができる。
図17に、計算された係数(c
0,c
MT)の値を示す。
図17は、(c
0,c
MT)=(c
0(2)’,c
MT(2)’)で示されている。これらの値を求めた後、ステップST8に進む。
【0113】
ステップST8では、スペクトル計算手段99が、式(21)を用いてスペクトルF
CPE_n(Δω
a)を計算する。ただし、n=2に設定されているので、式(21)は、以下の式で表される。
【数30】
【0114】
図17に示すように、係数(c
0,c
MT)は、(c
0,c
MT)=(c
0(2)’,c
MT(2)’)と計算されており、係数(a
1,2,a
2,2,Δω
c,2)は、(a
1,2,a
2,2,Δω
c,2)=(a
1,2(2),a
2,2(2),Δω
c,2(2))と計算されている。また、
図12に示すように、係数(a
1,1,a
2,1,Δω
c,1)は、(a
1,1,a
2,1,Δω
c,1)=(a
1,1(1),a
2,1(1),Δω
c,1(1))と計算されている。したがって、式(25)、(25c_1)、および(25c_2)に、これらの係数の値を代入することにより、スペクトルF
CPE_2(Δω
a)を計算することができる。
図18に、スペクトルF
CPE_2(Δω
a)を概略的に示す。尚、
図18では、比較のため、スペクトルF
CPE_2(Δω
a)の他に、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)も示してある。スペクトルF
CPE_2(Δω
a)は、オフセット周波数Δω
c,1およびΔω
c,2の付近において、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に十分に近い波形を有していることが分かる。スペクトルF
CPE_2(Δω
a)を計算した後、ステップST9に進む。
【0115】
ステップST9では、CEST判断手段100が、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に、CEST項F
L,1(Δω
a)およびF
L,2(Δω
a)で表されるCEST成分(式23c_1および23c_2参照)とは異なる他のCEST成分が含まれているか否かを判断する。
【0116】
図19は、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に他のCEST成分が含まれているか否かを判断する方法の説明図である。
CEST判断手段100は、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)から、スペクトルF
CPE_2(Δω
a)を差分し、差分スペクトルD(Δω
a)を求め、差分スペクトルD(Δω
a)と閾値TH1およびTH2とを比較する。
【0117】
差分スペクトルD(Δω
a)は、閾値TH1およびTH2を超えていないので、スペクトルF
CPE_2(Δω
a)は、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に十分に近い波形を有していると考えることができる。この場合、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に含まれるCEST成分は、スペクトルF
CPE_2(Δω
a)の式(25)に含まれている2つのCEST項F
L,1(Δω
a)およびF
L,2(Δω
a)で十分に表すことができたと考えられる。したがって、差分スペクトルD(Δω
a)が閾値TH1およびTH2を超えていない場合、CEST判断手段100は、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に他のCEST成分は含まれていないと判断する。他のCEST成分が存在していないと判断された場合、ステップST12に進む。
【0118】
尚、
図19では、差分スペクトルD(Δω
a)が閾値TH1およびTH2を超えていない例が示されている。しかし、差分スペクトルD(Δω
a)が閾値TH1又はTH2を超える場合もある。以下に、差分スペクトルD(Δω
a)が閾値TH1又はTH2を超える場合について説明する。
【0119】
図20は、差分スペクトルD(Δω
a)が閾値TH1を超えた例を示す図である。
図20では、差分スペクトルD(Δω
a)には、オフセット周波数Δω
c,3の付近に、閾値TH1を超えたピークP3が現れている。したがって、CEST判断手段100は、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に他のCEST成分が含まれていると判断する。CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に他のCEST成分が含まれていると判断された場合、ステップST10に進み、他のCEST成分が現れるオフセット周波数Δω
c,3を検出する。オフセット周波数Δω
c,3を検出した後、ステップST11に進み、nがインクリメントされ、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)の近似式(23)に新たなCEST項F
L,3(Δω
a)が追加される。そして、ステップST6〜ST9が実行される。したがって、ステップST9において、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に他のCEST成分が含まれていると判断されるたびに、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)の近似式に新たなCEST項が追加され、ステップST6〜ST9が実行される。例えば、ステップST9において、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)にi個目のCEST成分が含まれていると判断された場合について考えてみる。この場合、ステップST11においてn=iに設定されるので、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)の近似式は、以下の式で表される。
【数31】
【0120】
上記の近似式(26)では、F
L,i(Δω
a)が、新たに追加されたCEST項を表している。CPEスペクトルが近似式(26)で表される場合、式(26c_1)〜式(26c_i−1)のCEST項の係数は、既に計算されている。したがって、係数(c
0,c
MT)および係数(a
1,i,a
2,i,Δω
c,i)の5つの係数が未知の係数となる。ステップST11においてn=iに設定されたら、ステップST6に戻る。ステップST6では、第1のフィッティング手段95が、近似式(26)を用いて5つの係数(c
0,c
MT)および(a
1,i,a
2,i,Δω
c,i)の値を計算する。
図21に、n=iにおいて計算された係数の値を示す。
【0121】
CEST項の係数の値を計算した後、ステップST71に進む。ステップST71では、CRZスペクトル作成手段96が、式(18)を用いて、ZスペクトルからCEST成分が除去されたCRZスペクトルZ
CRZを作成する。尚、n=iであるので、式(18)は、以下の式で表される。
【数32】
【0122】
CRZスペクトルZ
CRZを求めた後、ステップST72に進む。
ステップST72では、第2のフィッティング手段97が、式(27)により作成されたCRZスペクトルZ
CRZと式(20)との誤差が最小になるようにフィッティングを行い、誤差が最小になるときの式(20)の係数(b
0,b
1,b
2,Δω
0)の値を計算する。フィッティングを行う場合、第2のフィッティング手段97は、先ず、係数(b
0,b
1,b
2,Δω
0)の初期値を設定する。ここでは、第2のフィッティング手段97は、n=i−1のときに計算された係数(b
0,b
1,b
2,Δω
0)の値(図示せず)を、n=iにおける係数(b
0,b
1,b
2,Δω
0)の初期値として設定する。n=iにおける係数(b
0,b
1,b
2,Δω
0)の初期値を設定した後、第2のフィッティング手段97は、初期値を基準にして係数(b
0,b
1,b
2,Δω
0)の値を変更し、式(27)を用いて作成されたCRZスペクトルZ
CRZと式(20)との誤差が最小になるときの係数(b
0,b
1,b
2,Δω
0)の値を計算する。
図22に、n=iにおいて、フィッティングにより計算された係数(b
0,b
1,b
2,Δω
0)の値を示す。
図22では、(b
0,b
1,b
2,Δω
0)=(b
0(i),b
1(i),b
2(i),Δω
0(i))で示されている。
【0123】
これらの係数の値を求めた後、係数値計算手段98は、(b
0,b
1)=(b
0(i),b
1(i))を式(26a)に代入し、c
0を計算する。また、係数値計算手段98は、b
0=b
0(i)を式(26b)に代入し、c
MTを計算する。したがって、式(26)のベースライン項の係数(c
0,c
MT)の値を計算することができる。
図23に、計算された係数(c
0,c
MT)の値を示す。
図23では、(c
0,c
MT)=(c
0(i)’,c
MT(i)’)で示されている。これらの値を計算した後、ステップST8に進む。
【0124】
ステップST8では、スペクトル計算手段99が、式(21)を用いてスペクトルF
CPE_n(Δω
a)を計算する。ただし、n=iであるので、式(21)は、以下の式で表される。
【数33】
【0125】
式(28)の各係数は既に求められているので、これらの係数の値を代入することにより、スペクトルF
CPE_i(Δω
a)を計算することができる。
図24に、スペクトルF
CPE_i(Δω
a)を概略的に示す。尚、
図24では、比較のため、スペクトルF
CPE_i(Δω
a)の他に、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)も示してある。スペクトルF
CPE_i(Δω
a)を計算した後、ステップST9に進む。
【0126】
ステップST9では、CEST判断手段100が、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に他のCEST成分が含まれているか否かを判断する。したがって、ステップST9において、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に他のCEST成分が含まれていないと判断されるまでは、ステップST10、ステップST11、ステップST6、ステップST7、ステップST8、およびステップST9のループが繰り返し実行される。そして、ステップST9において、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に他のCEST成分が含まれていないと判断されると、ステップST12に進む。
【0127】
ステップST12では、スペクトル推定手段101(
図2参照)が、ベースライン項とCEST項との和で表されるZスペクトル(以下、「理想的なZスペクトル」と呼ぶ)Zidealを推定する。理想的なZスペクトルZidealは、式(11)および式(16)を用いて、以下の式で表すことができる。
【数34】
【0128】
スペクトル推定手段101は、式(29)を用いて、理想的なZスペクトルZidealを推定する。理想的なZスペクトルZidealを求めた後、ステップST13に進む。
【0129】
ステップST13では、スペクトル比較手段102(
図2参照)が、理想的なZスペクトルZidealとステップST2で作成されたZスペクトルとを比較し、理想的なZスペクトルZidealによってZスペクトルが再現されているか否かを判断する。この判断は、以下のように行う。
【0130】
先ず、スペクトル比較手段102は、理想的なZスペクトルZidealと、ステップST2で作成されたZスペクトルとを比較し、オフセット周波数ごとに、理想的なZスペクトルZidealの信号値と、Zスペクトルの信号値との差を求める。次に、スペクトル比較手段102は、差の平方和が十分に小さいか否かを判断する。差の平方和が大きいか否かの判断は、例えば、差の平方和が大きいか小さいかを判断するための閾値を予め決定しておき、差の平方和と閾値とを比較することにより、行うことができる。スペクトル比較手段102は、差の平方和が閾値以下の場合、差の平方和が小さく、閾値よりも大きい場合、差の平方和は大きいと判断することができる。
【0131】
差の平方和が小さい場合、スペクトル比較手段102は、理想的なZスペクトルZidealによってZスペクトルが再現されていると判断する。この場合、ステップST13からステップST14に進む。
【0132】
一方、差の平方和が大きい場合、スペクトル比較手段102は、理想的なZスペクトルZidealによってZスペクトルが再現されていないと判断する。この場合、ステップST7に戻り、ベースライン項が再計算される。したがって、ステップST13において、理想的なZスペクトルZidealによりZスペクトルが再現されていると判断されるまで、ベースライン項の係数が再計算される。ステップST13において、理想的なZスペクトルZidealによりZスペクトルが再現されていると判断されたら、ステップST14に進む。
【0133】
ステップST14では、カウント手段103(
図2参照)が、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に含まれているCEST成分の総数TNをカウントする。第1の形態では、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に他のCEST成分が含まれていると判断されるたびにnがインクリメントされるので(ステップST11参照)、nの値が、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に含まれるCEST成分の総数TNを表している。つまり、CEST成分の総数TNは、TN=nとなる。したがって、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に含まれているCEST成分の総数TNをカウントすることができる。ここでは、説明の便宜上、n=2であるとする。したがって、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に含まれているCEST成分の総数TNは、TN=2とカウントされる。TN=2とカウントした後、ステップST15に進む。
【0134】
ステップST15では、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)の近似式(16)で用いられるベースライン項の係数(c
0,c
MT)を、最終的に得られたベースライン項の係数の値に固定し、CEST項の係数を再計算する。ここでは、n=2であるとしているので、最終的に得られたベースライン項の係数の値は、近似式(23)を用いて求められた値(c
0(2)’,c
MT(2)’)である(
図17参照)。したがって、ベースライン項の係数の値は、(c
0,c
MT)=(c
0(2)’,c
MT(2)’)に固定され、CEST項の係数が再計算される。以下に、ステップST15について、説明する。
【0135】
図25は、ステップST15のフローを示す図である。
ステップST151では、設定手段94が、CEST項の数を表すnを、初期値(n=1)に設定する。n=1に設定した後、ステップST152に進む。
【0136】
ステップST152では、第1のフィッティング手段95が、CPEスペクトルの近似式(17)のCEST項F
L,1(Δω
a)に含まれる3つの係数(a
1,1,a
2,1,Δω
c,1)の値を計算する。係数の値を計算する場合、第1のフィッティング手段95は、先ず、式(17)のベースライン項の係数(c
0,c
MT)を、(c
0,c
MT)=(c
0(2)’,c
MT(2)’)に固定する。したがって、近似式(17)では、CEST項F
L,1(Δω
a)の3つの係数(a
1,1,a
2,1,Δω
c,1)のみが未知の係数となる。第1のフィッティング手段95は、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)と3つの未知の係数を含む近似式(17)との誤差が最小になるように、フィッティングする。フィッティングを行う場合、第1のフィッティング手段95は、先ず、CEST項F
L,1(Δω
a)の係数(a
1,1,a
2,1,Δω
c,1)の初期値を設定する。CEST項F
L,1(Δω
a)の係数(a
1,1,a
2,1,Δω
c,1)の初期値は、ステップST6で計算されたCEST項の係数の値を使用することができる。初期値を設定した後、第1のフィッティング手段は、初期値を基準にして係数の値を変更し、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)と式(17)との誤差が最小になるときのCEST項F
L,1(Δω
a)の3つの係数(a
1,1,a
2,1,Δω
c,1)の値を計算する。これらの係数の値を計算した後、ステップST153に進む。
【0137】
ステップST153では、スペクトル計算手段99が、式(22)および式(22c)を用いて、スペクトルF
CPE_1(Δω
a)を計算する。
【0138】
式(22)のベースライン項の係数(c
0,c
MT)の値は、(c
0,c
MT)=(c
0(2)’,c
MT(2)’)に固定されている(
図17参照)。また、式(22c)のCEST項の係数(a
1,1,a
2,1,Δω
c,1)は、ステップST152において計算されている。したがって、式(22)および(22c)に、これらの係数の値を代入することにより、スペクトルF
CPE_1(Δω
a)を計算することができる。スペクトルF
CPE_1(Δω
a)を計算した後、ステップST154に進む。
【0139】
ステップST154では、CEST判断手段100が、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に、CEST項F
L,1(Δω
a)で表されるCEST成分(式17c参照)とは異なる他のCEST成分が含まれているか否かを判断する。他のCEST成分が含まれていないと判断された場合は、ステップST157に進む。一方、他のCEST成分が含まれていると判断された場合はステップST155に進む。
【0140】
ステップST155では、検出手段93が、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)の他のCEST成分が現れるオフセット周波数を検出する。オフセット周波数を検出した後、ステップST156に進む。
【0141】
ステップST156では、設定手段94が、nを、n=1からn=2にインクリメントする。n=2に設定された場合、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)の近似式は、式(23)で表される。nをインクリメントした後、ステップST152に戻る。
【0142】
したがって、ステップST154において、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に他のCEST成分が含まれていると判断されるたびに、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)の近似式にCEST項が追加され、追加されたCEST項に含まれる係数の値が計算される。したがって、ベースライン項の係数(c
0,c
MT)を、(c
0,c
MT)=(c
0(2)’,c
MT(2)’)に固定した場合のCEST項の係数の値を計算することができる。そして、ステップST154において、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に他のCEST成分が含まれていないと判断されたら、ステップST157に進む。
【0143】
ステップST157では、カウント手段103が、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に含まれているCEST成分の総数TNをカウントする。CEST成分の総数TNをカウントした後、ステップST158に進む。
【0144】
ステップST158では、カウント手段103が、ステップST157でカウントされたCEST成分の総数TNが、ステップST14でカウントされたCEST成分の総数TN(=2)に等しいか否かを判断する。CEST成分の総数TNが異なっていると判断された場合、CEST項の係数又はベースラインの係数の推定誤差が大きいと考えられる。そこで、CEST成分の総数TNが異なっていると判断された場合、ステップST5(
図7参照)に戻る。そして、テップST158においてCEST成分の総数が等しいと判断されるまで、ステップST5〜ST15が繰り返し実行される。ステップST158において、CEST成分の総数TNは等しいと判断されたら、ステップST15を抜け出し、ステップST16に進む。
【0145】
ステップST16では、画像作成手段90が、ステップST1〜ST15の処理により得られたCEST項の係数の値に基づいてCEST画像を作成する。このようにして、フローが終了する。
【0146】
第1の形態では、ZスペクトルをCPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に変換する。CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)のベースライン成分(CESTの影響を受けていない信号成分)は、偶関数で近似することができるので、ローレンツ関数による大きなピークを持たない。したがって、ZスペクトルをCPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に変換することにより、CEST成分を分離し易くすることができるので、CEST項に含まれる係数の値の推定誤差を小さくすることができる。
【0147】
また、第1の形態では、ステップST13において、理想的なZスペクトルZidealとZスペクトルとの差を求め、差の平方和が閾値を超えている場合は、ステップST7に戻ってベースライン項の係数を再計算する。したがって、ベースライン項の係数の推定誤差を更に小さくすることができる。
【0148】
また、第1の形態では、ステップST15において、ベースライン項の係数の値を固定して、CEST項の係数の再計算している。したがって、CEST項の係数の推定誤差を更に小さくすることができる。
【0149】
また、ステップST158では、CEST成分の総数TNが異なっていると判断した場合、ステップST5に戻り、CEST項の係数およびベースライン項の係数の値を再計算する。したがって、ベースライン項およびCEST項の係数の推定誤差を更に小さくすることができる。
【0150】
また、第1の形態では、CRZスペクトルZ
CRZの近似式(20)は、定数項(b
0)とローレンツ関数の項との和で表されている。ローレンツ関数の項は3つの係数(b
1,b
2,Δω
0)を含んでいるので、CRZスペクトルZ
CRZの近似式(20)は、合計4つの係数(b
0,b
1,b
2,Δω
0)を含んでいる。一方、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)の近似式(16)で使用されるベースライン項は、定数項c
0と、MT項c
MTF(Δω
a)の和で表されている。MT項のF(Δω
a)は、ローレンツ関数ではなくΔω
aの二次関数(式(4)参照)であるので、MT項に含まれる係数は1個(c
MT)で済む。したがって、CPEスペクトルF
CPE(Δω
a)の近似式(16)では、ベースライン項に含まれる係数の合計は2個(c
0,c
MT)で済む。このため、ZスペクトルをCPEスペクトルF
CPE(Δω
a)に変換した場合、2つの係数(c
0,c
MT)の値を求めるだけで、CESTの影響を受けていない信号成分(ベースライン成分)を特定することができるので、フィッティングの精度を高めることができる。
【0151】
(2)第2の形態
第1の形態では、連続波のRFパルスを有するシーケンスを用いた例について説明したが、第2の形態では、複数のプリパレーションパルスを有するシーケンスを用いた例について説明する。
尚、第2の形態のMR装置は、第1の形態のMR装置1と同じである。
【0152】
図26は、第2の形態におけるシーケンスSE
kを具体的に示す図である。
k回目のシーケンスSE
kは、m個のプリパレーションパルスと、データ収集セグメントDAQとを有している。各プリパレーションパルスは、RFパルスXと、縦磁化を定常状態にするためのキラー勾配パルスKとを含んでいる。RFパルスXの周波数fは、f=fkに設定されている。プリパレーションパルスを繰り返し実行し、第mのプリパレーションパルスが実行された後に、シングルショット法によりデータを収集するためのデータ収集セグメントDAQが実行される。
【0153】
図26に示すシーケンスを用いた場合でも、連続波のRFを用いたシーケンス(
図4参照)と同様に、式11を用いてCPEスペクトルF
CPE(Δω
a)を得ることができる。したがって、第2の形態でも、第1の形態と同様の効果を得ることができる。
【0154】
(3)第3の形態
第3の形態では、RFパルスの位相をサイクルさせるフェーズサイクリング法によりデータを収集するシーケンスを用いた例について説明する。
【0155】
尚、第3の形態のMR装置は、第1の形態のMR装置1と比較すると、プロセッサ9が実現する手段に違いがあるが、ハードウェアの構成は、第1の形態のMR装置1と同じである。したがって、第3の形態のMR装置の説明に当たっては、ハードウェア構成の説明は省略し、プロセッサについて主に説明する。
【0156】
図27は、第3の形態においてプロセッサ9が実現する手段の説明図である。
第3の形態におけるプロセッサは、第1の形態におけるプロセッサと比較すると、以下の点(1)および(2)が異なっている。
【0157】
(1)Zスペクトル作成手段91はZスペクトルを作成する。ただし、第1の形態では、Zスペクトルの横軸はオフセット周波数であるが、第3の形態では、Zスペクトルの横軸は後述する位相差である。
(2)第3の形態では、プロセッサは周波数変換手段104を有している。周波数変換手段104は、位相差を周波数に変換する。
【0158】
尚、その他の点については、第3の形態におけるプロセッサは、第1の形態におけるプロセッサと同じであるので、説明は省略する。プロセッサ9は、記憶部10に記憶されているプログラムを読み出し、プログラムに記述されている処理を実行するための手段90〜104を実現する。
次に、第3の形態で使用されるシーケンスについて説明する。
【0159】
図28は、第3の形態で使用されるシーケンスSE
kを具体的に示す図である。
k回目のシーケンスSE
kは、第1〜第mのパルスセットSet1〜Setm、キラー勾配パルス、およびデータ収集セグメントDAQを有している。以下では、先ず、第1〜第mのパルスセットSet1〜Setmについて説明する。尚、第1〜第mのパルスセットSet1〜Setmは同じ構成であるので、第1〜第mのパルスセットSet1〜Setmの説明に当たっては、代表して第1のパルスセットSet1を取り上げて説明する。
【0160】
図28には、第1のパルスセットSet1が拡大して示されている。
第1のパルスセットSet1は、r個のRFパルスX1〜Xrを有している。RFパルスX1〜Xrは、正のRFパルスと負のRFパルスが交互に現れるように構成されている。RFパルスX1〜Xrは、繰り返し時間T_iterで印加される。符号「X1」〜「Xr」の下に記載されている「φ1」〜「φr」は、RFパルスの位相を表している。
【0161】
次に、r個のRFパルスX1〜Xrの位相φ1〜φrについて説明する。先ず、r個のRFパルスX1〜Xrの中で、p番目のRFパルスXpと、p+1番目のRFパルスXp+1について考える(尚、pは、1≦p≦r−1である)。p番目のRFパルスXpの位相を「φp」で表し、p+1番目のRFパルスXp+1の位相を「φp+1」で表すと、k回目のシーケンスSE
kにおけるRFパルスの位相差Δφ(k)=φp+1−φpは、以下の式を満たすように設定されている。
【数35】
【0162】
式(30)から、位相差Δφ(k)は、kの値に応じて変化するように設定されていることが分かる。
【0163】
図28では、第1のパルスセットSet1について示されているが、第2〜第mのパルスセットSet2〜Setmも、第1のパルスセットSet1と同じ構成である。したがって、どのパルスセットも、r個のRFパルスX1〜Xrを有しており、RFパルスの位相差Δφ(k)は式(30)を満たすように設定されている。
【0164】
第1〜第mのパルスセットSet1〜Setmを印加した後、横磁化を消失させるためのキラー勾配パルスを印加する。そして、キラー勾配パルスを印加した後、データを収集するためのデータ収集セグメントDAQが実行される。ここでは、データ収集セグメントDAQは、シングルショット法でデータを収集するとする。
【0165】
k回目のシーケンスSE
kは、上記のように構成されている。第3の形態では、シーケンスSE
kがr回実行される。尚、実行されるシーケンスの回数rが多いほど、周波数分解能の高いZスペクトルが得られるので、rはある程度大きい値であることが望ましい。一般的には、r=16〜32に設定することが考えられる。
【0166】
ここで、フェーズサイクリング法のシーケンスを使用する場合のF(Δω
a)(式(4)参照)について考察する。
Δω
aは、Miyoshi等により、以下の周期関数で置き換えられることが示されている(Miyoshi M, et al., Proceedings of ISMRM2014, #3299)。
【数36】
【0167】
そこで、式(4)において、Δω
a2を2(1−cosΔφ
a)/T
iter2に置き換えると、以下の式が得られる。
【数37】
【0168】
式(32)で定義されたF(Δφ
a)は、式(4)で定義されたF(Δω
a)と同様に偶関数である。したがって、式(4)の代わりに式(32)を用いても、
図6に示すように、周波数Δω
Cの近傍において、CPEスペクトルのCEST成分Q1とベースライン成分Q2との比R(=Q1/Q2)を大きくすることができる。このため、CPEスペクトルから、CEST成分Q1を分離し易くすることができる。
【0169】
尚、第1の形態では、周波数Δω
aおよびΔω
c,nを変数として含む式を用いて、各種スペクトルが算出されている。しかし、第3の形態では、周波数の代わりに位相差を用いているので(式32参照)、周波数を位相差に置き換えた式を用いて各スペクトル(CPEスペクトルなど)を求める必要がある。具体的には、周波数Δω
aおよびΔω
c,nは、それぞれ、以下の位相差Δφ
aおよびΔφ
c,nに置き換えればよい。
【数38】
【0170】
位相差Δφ
aおよびΔφ
c,nは、以下の式で表される。
【数39】
【0171】
第3の形態のMR装置では、プロセッサは、位相差を周波数に変換する周波数変換手段104(
図27参照)を備えている。周波数変換手段104は、式(33)および(34)に基づいて、位相差を周波数に変換することができる。したがって、フェーズサイクル法を用いる場合であっても、各スペクトルの位相差を周波数に変換できることが分かる。