特許第6348487号(P6348487)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6348487ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6348487
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/40 20060101AFI20180618BHJP
   C08L 81/02 20060101ALI20180618BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20180618BHJP
   C08K 3/012 20180101ALI20180618BHJP
   C08K 3/014 20180101ALI20180618BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20180618BHJP
   C08G 75/02 20160101ALI20180618BHJP
【FI】
   C08G59/40
   C08L81/02
   C08L63/00 A
   C08K3/012
   C08K3/014
   C08K5/00
   C08G75/02
【請求項の数】21
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-515947(P2015-515947)
(86)(22)【出願日】2013年6月5日
(65)【公表番号】特表2015-524014(P2015-524014A)
(43)【公表日】2015年8月20日
(86)【国際出願番号】KR2013004976
(87)【国際公開番号】WO2013187631
(87)【国際公開日】20131219
【審査請求日】2016年5月16日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0062213
(32)【優先日】2012年6月11日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】513193923
【氏名又は名称】エスケー ケミカルズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100087767
【弁理士】
【氏名又は名称】西川 惠清
(74)【代理人】
【識別番号】100155745
【弁理士】
【氏名又は名称】水尻 勝久
(74)【代理人】
【識別番号】100143465
【弁理士】
【氏名又は名称】竹尾 由重
(74)【代理人】
【識別番号】100155756
【弁理士】
【氏名又は名称】坂口 武
(74)【代理人】
【識別番号】100161883
【弁理士】
【氏名又は名称】北出 英敏
(74)【代理人】
【識別番号】100167830
【弁理士】
【氏名又は名称】仲石 晴樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162248
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 豊
(72)【発明者】
【氏名】カン ビョンゴク
(72)【発明者】
【氏名】チャ イルホン
(72)【発明者】
【氏名】キム スンギ
(72)【発明者】
【氏名】イ セホ
【審査官】 大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/070968(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/148929(WO,A1)
【文献】 特開2011−173946(JP,A)
【文献】 特開昭62−153343(JP,A)
【文献】 特開平04−292625(JP,A)
【文献】 特表2010−515781(JP,A)
【文献】 特表平03−502586(JP,A)
【文献】 特開2012−177015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G59
C08G75
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジヨード芳香族化合物と硫黄を含む反応物の重合体からなり、ポリアリーレンスルフィド主鎖の末端基中の少なくとも一部がカルボキシ基で置換されており、他の主鎖末端基がアリール基またはヨードからなるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)60乃至95重量%;および
エポキシ基含有オレフィン系エラストマー(B)5乃至40重量%;
を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】
ジヨード芳香族化合物と硫黄を含む反応物の重合体からなり、ポリアリーレンスルフィド主鎖の末端基中の少なくとも一部がカルボキシ基で置換されており、他の主鎖末端基がアリール基またはヨードからなるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)60乃至95重量%およびエポキシ基含有オレフィン系エラストマー(B)5乃至40重量%からなる樹脂混合物、または前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)70乃至85重量%およびエポキシ基含有オレフィン系エラストマー(B)15乃至30重量%からなる樹脂混合物100重量部;および
有機または無機充填材(C)1乃至50重量部;
を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の含量は、70乃至85重量%であり、前記エポキシ基含有オレフィン系エラストマー(B)の含量は、15乃至30重量%である、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】
前記カルボキシ基で置換されたポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、下記一般式(1)で表される構造単位を70モル%以上含有する、請求項1または2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
[一般式(1)]
−(SAr)n−COOH
(式中、Ar基はアリーレン基である)
【請求項5】
前記アリーレン基は、p−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基、および置換フェニレン基からなる群より選ばれた1種以上である、請求項4に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項6】
前記エポキシ基含有オレフィン系エラストマー(B)は、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルからなる群より選ばれたエポキシ基を含有する単量体を含む、請求項1または2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項7】
前記エポキシ基を含有する単量体の導入量は、エポキシ基含有オレフィン系エラストマー全体に対して0.001乃至40モル%である、請求項6に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項8】
酸化防止剤をさらに含む、請求項1または2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項9】
前記酸化防止剤の含量は、0.01〜5重量%である、請求項8に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項10】
前記有機または無機充填材は、ガラス繊維、炭素繊維、ホウ素繊維、ガラスビード、ガラスフレーク、タルクまたは炭酸カルシウムからなる群より選ばれた一つ以上である、請求項2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項11】
前記組成物は、ASTM D 256により測定した衝撃強度値が3.0〜20.0KJ/mである、請求項1または2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項12】
ジヨード芳香族化合物と硫黄を含む反応物を重合反応させる段階;
前記重合反応段階を進行しながら、カルボキシ基を有する化合物を添加してポリアリーレンスルフィド主鎖の末端基中の少なくとも一部がカルボキシ基で置換され、他の主鎖末端基がアリール基またはヨードからなるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)を製造する段階;および
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)とエポキシ基含有オレフィン系エラストマー(B)を混合したり、または前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)とエポキシ基含有オレフィン系エラストマー(B)および有機または無機充填材(C)を混合する段階;
を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
前記カルボキシ基を有する化合物は、2−ヨード安息香酸、3−ヨード安息香酸、4−ヨード安息香酸、および2,2’−ジチオ安息香酸からなる群より選ばれた1種以上である、請求項12に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
前記カルボキシ基を有する化合物は、ジヨード芳香族化合物100重量部を基準に約0.0001乃至5重量部添加される、請求項12に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項15】
前記ジヨード芳香族化合物は、ジヨード化ベンゼン、ジヨード化ナフタレン、ジヨード化ビフェニル、ジヨード化ビスフェノール、ジヨード化ベンゾフェノン、パラ−ジヨードベンゼン(pDIB)、2,6−ジヨードナフタレン、およびp,p’−ジヨードビフェニルからなる群より選ばれた1種以上である、請求項12に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項16】
前記混合は、二軸押出機で行われる、請求項12に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項17】
前記カルボキシ基で置換されたポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、下記一般式(1)で表される構造単位を70モル%以上含有する、請求項12に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
[一般式(1)]
−(SAr)n−COOH
(式中、Ar基はアリーレン基である)
【請求項18】
前記エポキシ基含有オレフィン系エラストマー(B)は、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルからなる群より選ばれたエポキシ基を含有する単量体を含む、請求項12に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項19】
前記有機または無機充填材は、ガラス繊維、炭素繊維、ホウ素繊維、ガラスビード、ガラスフレーク、タルクまたは炭酸カルシウムからなる群より選ばれた一つ以上である、請求項12に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項20】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を含む成形品。
【請求項21】
前記成形品は、フィルム、シート、または繊維形態である、請求項20に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物およびその製造方法に関する。より具体的には、本発明は、耐衝撃性に優れたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィドは、代表的なエンジニアリングプラスチック(Engineering Plastic)であって、高い耐薬品性、難燃性(flame resistance)、電気絶縁性、機械的特性などにより高温と腐食性環境で使用される各種製品や電子製品に対する用途として需要が増加している。
【0003】
このようなポリアリーレンスルフィドの中で現在商業的に販売されるものは、ポリフェニレンスルフィド(polyphenylene sulfide;以下、「PPS」という)がある。現在まで主に適用されるPPSの商業的生産工程は、パラ−ジクロロベンゼン(p−dichlorobenzene;以下、「pDCB」という)と硫化ナトリウム(sodium sulfide)を原料にしてN−メチルピロリドン(N−methyl pyrrolidone)などの極性有機溶媒で溶液重合反応させる方法があり、マッカラム工程(Macallum process)として知られている。
【0004】
典型的な工程は、米国特許第2,513,188号および第2,583,941号に記載されている。使用する極性溶媒は、いくつかの種類が提案されているが、現在最も多く使用されるものはN−メチルピロリドンである。この工程は、原料として全てジクロロ芳香族化合物(dichloro aromatic compound)を使用し、副産物として塩化ナトリウム(NaCl)塩が生成される。
【0005】
しかし、このような溶液重合方式のマッカラム工程の場合、副産物として生成される塩および使用された有機溶媒を除去するための洗浄および乾燥工程が要求され、生産される製品がパウダー形態であることから、相対的に見かけ密度を低めて運送に不利なだけでなく、製品を作る加工工程でも原料投入が円滑でないなど、後加工の作業性を低下させる恐れがある。
【0006】
一方、米国特許第4,746,758号、第4,786,713号などでは、ジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物を溶融重合する方法としてPPSなどのポリアリーレンスルフィドを製造する方法を提案した。これらの特許は、既存工程のジクロロ化合物と硫化塩(metal sulfide)の代わりに、ジヨード化合物(diiodo compounds)と固体硫黄(solid sulfur)を使用し、極性溶媒なしに直接加熱してPASを得ることができることを開示した。この方法は、ヨード化工程および重合工程の2段階から構成されるが、ヨード化工程ではアリール化合物(aryl compounds)をヨードと反応させてジヨード化合物を得、重合工程ではこれを固体状態の硫黄と反応させて高分子量のPASを製造する。反応の途中に蒸気状態のヨードが発生するが、これを回収して再びアリール化合物と反応させることができる。
【0007】
このような新たな方法は、既存のマッカラム工程の問題点を解決することができる。まず、副産物がヨードであるため、金属塩のように電気伝導度を増加させる問題がなく、反応物から容易に回収できて最終製品に含まれる含量を既存工程の金属塩含量よりも容易に低めることができ、回収したヨードは、ヨード化工程で再使用が可能であるため、廃棄物量を大幅に減少させることができる。また、これらの重合工程では溶媒を使用しないため、既存のポリエステル(polyester)製品のように粒子状態(pellet)に製品を作ることができるため、微細な粉末状態の製品を使用することから発生する問題点を解消することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第2,513,188号明細書
【特許文献2】米国特許第2,583,941号明細書
【特許文献3】米国特許第4,746,758号明細書
【特許文献4】米国特許第4,786,713号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、溶融重合方式で製造されたポリアリーレンスルフィドの場合、その主鎖末端がヨードと大部分のアリール基(代表的にベンゼン)からなっているため、主鎖末端に反応性基が実質的に存在せず、その結果、他の高分子素材および/またはガラス繊維などの各種強化材や充填材との相溶性が劣る恐れがある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ポリアリーレンスルフィドの固有の物性は維持しながら高分子素材および/または各種強化材や充填材との相溶性および耐衝撃性が改善されたポリアリーレンスルフィド樹脂およびこれを含む樹脂組成物を提供するために研究を重ねた。その結果、ジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物を溶融重合してポリアリーレンスルフィドを製造する場合、主鎖末端の少なくとも一部にカルボキシ基(−COOH)を導入することによって、ポリアリーレンスルフィド樹脂の結晶化度が高まり、耐衝撃性および強度に優れ、またカルボキシ基により他の高分子素材(例:オレフィン系エラストマー)および/または強化材や充填材との相溶性にも優れるという点を発見した。
【0011】
本発明の態様は、耐衝撃性に優れて射出成形に特に適したポリアリーレンスルフィド(polyarylene sulfide)樹脂組成物およびその製造方法を提供するためのものである。
【0012】
本発明の他の態様は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を含む成形品を提供するためのものである。
【0013】
本発明の態様は、ポリアリーレンスルフィド主鎖の末端基(End Group)中の少なくとも一部がカルボキシ基(COOH)で置換されたポリアリーレンスルフィド樹脂(A)60乃至95重量%、およびエポキシ基含有オレフィン系エラストマー(B)5乃至40重量%を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を提供するものである。
【0014】
本発明の一実施形態では、ポリアリーレンスルフィド主鎖の末端基中の少なくとも一部がカルボキシ基で置換されたポリアリーレンスルフィド樹脂(A)70乃至85重量%、およびエポキシ基含有オレフィン系エラストマー(B)15乃至30重量%を含む樹脂組成物を提供する。
【0015】
本発明の他の態様は、ポリアリーレンスルフィド主鎖の末端基中の少なくとも一部がカルボキシ基で置換されたポリアリーレンスルフィド樹脂(A)60乃至95重量%およびエポキシ基含有オレフィン系エラストマー(B)5乃至40重量%からなる樹脂混合物、またはポリアリーレンスルフィド樹脂(A)70乃至85重量%およびエポキシ基含有オレフィン系エラストマー(B)15乃至30重量%からなる樹脂混合物100重量部、および有機または無機充填材(C)1乃至50重量部を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を提供するものである。
【0016】
本発明の一具体例において、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の含量は、70乃至85重量%であり、前記エポキシ基含有オレフィン系エラストマー(B)の含量は、15乃至30重量%であり得る。
【0017】
本発明の一具体例において、前記カルボキシ基で置換されたポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、下記一般式(1)で表される構造単位を70モル%以上含有することができる。
【0018】
[一般式(1)]
−(SAr)n−COOH
(式中、Ar基はアリーレン基である)。
【0019】
ここで、前記アリーレン基は、p−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基、および置換フェニレン基からなる群より選ばれた1種以上であり得る。
【0020】
本発明の一具体例において、前記エポキシ基含有オレフィン系エラストマー(B)は、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルからなる群より選ばれたエポキシ基を含有する単量体を含むことができる。前記エポキシ基を含有する単量体の導入量は、エポキシ基含有オレフィン系エラストマー全体に対して0.001乃至40モル%であり得る。
【0021】
本発明の一具体例において、前記組成物に酸化防止剤をさらに添加することができる。前記酸化防止剤の添加量は、0.01〜5重量%であり得る。
【0022】
本発明の一具体例において、前記有機または無機充填材は、ガラス繊維、炭素繊維、ホウ素繊維、ガラスビード、ガラスフレーク、タルクまたは炭酸カルシウムからなる群より選ばれた一つ以上であり得る。
【0023】
本発明の一具体例において、本発明の一具体例によるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ASTM D 256により測定した衝撃強度値が3.0〜20.0KJ/mであり、具体的には5.0〜15.0KJ/mであり得る。
【0024】
本発明の他の態様は、ジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物を重合反応させる段階、前記重合反応段階を進行しながら、カルボキシ基を有する化合物を添加してポリアリーレンスルフィド主鎖の末端基中の少なくとも一部がカルボキシ基で置換されたポリアリーレンスルフィド樹脂(A)を製造する段階、および前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)とエポキシ基含有オレフィン系エラストマー(B)を混合したり、または前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)とエポキシ基含有オレフィン系エラストマー(B)および有機または無機充填材(C)を混合する段階を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法を提供する。
【0025】
本発明の一具体例において、前記カルボキシ基を有する化合物は、2−ヨード安息香酸、3−ヨード安息香酸、4−ヨード安息香酸、および2,2’−ジチオ安息香酸からなる群より選ばれた1種以上であり得る。前記カルボキシ基を有する化合物は、ジヨード芳香族化合物100重量部を基準に約0.0001乃至5重量部添加され得る。
【0026】
本発明の一具体例において、前記ジヨード芳香族化合物は、ジヨード化ベンゼン、ジヨード化ナフタレン、ジヨード化ビフェニル、ジヨード化ビスフェノール、ジヨード化ベンゾフェノン、パラ−ジヨードベンゼン(pDIB)、2,6−ジヨードナフタレン、およびp,p’−ジヨードビフェニルからなる群より選ばれた1種以上であり得る。
【0027】
本発明の一具体例において、前記混合は、二軸押出機で行われ得る。
【0028】
本発明の一具体例において、前記カルボキシ基で置換されたポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、下記一般式(1)で表される構造単位を70モル%以上または85モル%以上含有することができる:
[一般式(1)]
−(SAr)n−COOH
(式中、Ar基はアリーレン基である)。
【0029】
本発明の一具体例において、前記エポキシ基含有オレフィン系エラストマー(B)は、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルからなる群より選ばれたエポキシ基を含有する単量体を含むことができる。前記エポキシ基を含有する単量体の導入量は、エポキシ基含有オレフィン系エラストマー全体に対して0.001乃至40モル%であり得る。
【0030】
本発明の一具体例において、前記有機または無機充填材は、ガラス繊維、炭素繊維、ホウ素繊維、ガラスビード、ガラスフレーク、タルクまたは炭酸カルシウムからなる群より選ばれた一つ以上であり得る。
【0031】
本発明の他の態様において、本発明の一具体例によるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を含む成形品を提供する。前記成形品は、フィルム、シート、または繊維形態であり得る。
【発明の効果】
【0032】
本発明によるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィドの固有の物性は維持しながら、高分子素材であるオレフィン系エラストマーおよび/または充填材との優れた相溶性を示す。
【0033】
また、本発明によるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、射出成形に特に適した程度に耐衝撃性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】実施例1の樹脂組成物で製造された試片のエッチング前の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
図2】実施例1の樹脂組成物で製造された試片のエッチング後のSEM写真である。
図3】比較例1の樹脂組成物で製造された試片のエッチング後のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
[樹脂組成物]
本発明の一実施形態において、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド主鎖の末端基中の少なくとも一部がカルボキシ基で置換されたポリアリーレンスルフィド樹脂(A)60乃至95重量%、およびエポキシ基含有オレフィン系エラストマー(B)5乃至40重量%を含むことができる。
【0036】
本発明の他の実施形態において、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド主鎖の末端基中の少なくとも一部がカルボキシ基で置換されたポリアリーレンスルフィド樹脂(A)70乃至85重量%、およびエポキシ基含有オレフィン系エラストマー(B)15乃至30重量%を含むことができる。
【0037】
本発明の他の実施形態においては、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド主鎖の末端基中の少なくとも一部がカルボキシ基で置換されたポリアリーレンスルフィド樹脂(A)60乃至95重量%およびエポキシ基含有オレフィン系エラストマー(B)5乃至40重量%からなる樹脂混合物、またはポリアリーレンスルフィド樹脂(A)70乃至85重量%およびエポキシ基含有オレフィン系エラストマー(B)15乃至30重量%からなる樹脂混合物100重量部、および有機または無機充填材(C)1乃至50重量部を含むことができる。
【0038】
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中のオレフィン系エラストマーの含量が過度に低い場合、耐衝撃性の改良効果が得られにくく、過度に高い場合、ポリアリーレンスルフィド樹脂の熱安定性だけでなく、溶融混練時の粘度上昇により加工安定性が低下する恐れがある。
【0039】
本発明による樹脂組成物は、必要に応じて酸化防止剤をさらに含むことができる。ここで、酸化安定剤としては1次、2次酸化防止剤を使用することができる。
【0040】
本発明による樹脂組成物は、成形性を向上させるために多様な滑剤をさらに含むことができ、炭化水素系の滑剤を使用して樹脂と金型の金属との摩擦防止、金型での脱着など離型性を付与することができる。
【0041】
また、当業界に公知となった多様な通常の添加剤をさらに含むことができる。
【0042】
以下、本発明による樹脂組成物の構成成分をより具体的に説明する。
【0043】
(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂
本発明によるポリアリーレンスルフィド樹脂は、ポリアリーレンスルフィド主鎖の末端基中の少なくとも一部がカルボキシ基で置換されたポリアリーレンスルフィドであって、下記一般式(1)で表される構造単位を70モル%以上含有するポリアリーレンスルフィド樹脂であり得る。具体的には、前記構造単位を85モル%以上含有するポリアリーレンスルフィド樹脂であり得る。例えば、ポリアリーレンスルフィド樹脂がポリフェニレンスルフィド樹脂であり得る。
【0044】
[一般式(1)]
−(SAr)n−COOH
(式中、Ar基はアリーレン基である)。
【0045】
ここで、アリーレン基としては、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基、置換されたフェニレン基などを使用することができる。具体的に、置換されたフェニレン基は、一つ以上のF、Cl、Br、C1〜C3のアルキル、トリフルオロメチル、C1〜C3のアルコキシ、トリフルオロメトキシ、トリフルオロメチルチオ、ジメチルアミノ、シアノ、(C1〜C3アルキル)SO2−、(C1〜C3アルキル)NHSO2−、(C1〜C3アルキル)2NSO2−、NH2SO2−により任意に置換されたフェニレン基であり得る。
【0046】
一実施形態において、本発明によるポリアリーレンスルフィドは、FT−IR分光法で分析した時、FT−IRスペクトルで前記主鎖末端のカルボキシ基に由来する1600乃至1800cm−1のピークを示すことができる。この時、前記1600乃至1800cm−1ピークの強度は、主鎖末端基に結合されたカルボキシ基の含量に対応することができる。
【0047】
他の一実施形態において、ポリアリーレンスルフィドは、FT−IRスペクトル上で、1500乃至1600cm−1で示される環伸縮(Ring stretch)ピークの高さ強度(高さで相対的に比較する)を100%にした時、前記1600乃至1800cm−1のピークの相対的高さ強度が0.001乃至10%になり得る。この時、前記1500乃至1600cm−1で示される環伸縮ピークは、ポリアリーレンスルフィドの主鎖中に含まれているフェニレン(Phenylene)基に由来するものになり得る。前記カルボキシ基に由来する1600乃至1800cm−1のピークがフェニル(Phenyl)基に由来するピークの高さ強度に対して0.001乃至10%、あるいは0.01乃至7%、あるいは0.1乃至4%の高さ強度を示すことによって、本発明の実施形態ではポリアリーレンスルフィド樹脂組成物がオレフィン系エラストマーおよび/または充填材とのより優れた相溶性を示しながらも、ポリアリーレンスルフィドの特有の優れた物性を維持することができる。
【0048】
本発明の一実施形態によるポリアリーレンスルフィドの融点は、例えば、約265乃至290℃または約275〜283℃であり、数平均分子量は約5,000乃至50,000であり、数平均分子量に対する重量平均分子量で定義される分散度は約2.0乃至4.5であり、回転円板粘度計により300℃で測定した溶融粘度が約10乃至50,000ポアズ(poise)範囲内であり得る。
【0049】
(B)エポキシ基含有オレフィン系エラストマー
エポキシ基含有オレフィン系エラストマーの官能基含有成分の例としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルなどのエポキシ基を含有する単量体であり得る。エポキシ基を含有する単量体成分の導入量は、エポキシ基含有オレフィン系エラストマー全体に対して0.001乃至40モル(mole)%、具体的に0.01乃至35モル%の範囲であり得るが、これに制限されない。
【0050】
(C)充填材
前記充填材は、有機または無機充填材であって、ガラス繊維、炭素繊維、ホウ素繊維、ガラスビード、ガラスフレーク、タルクまたは炭酸カルシウムから選ばれる一つ以上であり、パウダーやフレーク形態であり得るが、特に制限されない。前記充填材は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の優れた物性を維持しながらもオレフィン系エラストマーとの相溶性を維持するために(A)と(B)樹脂の混合物100重量部を基準に1乃至50重量部または1乃至30重量部含むことができる。
【0051】
(D)その他添加剤
本発明による樹脂組成物は、高い耐熱性および熱安定性を支持するためにフェノール系、アミン系、硫黄系、リン系化合物の酸化防止剤を含有することができる。このような酸化防止剤の配合量は、0.01〜5重量%であり得る。耐熱改良効果の観点で0.01重量%以上、具体的には0.02重量%以上であり、成形時に発生するガス成分の観点で5.0重量%以下、より具体的には1重量%以下であり得る。
【0052】
フェノール系酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物が好ましく使用され、具体的な例としては、Tetrakis[methylene−3−(3,5−di−tert−butyl−4−hydroxyphenyl)propionate]methane、thiodiethylene bis[3−(3,5−di−tert−butyl−4−hydroxyphenyl)propionate]N,N’−hexane−1,6−diylbis[3−(3,5−di−tert−butyl−4−hydroxyphenylpropionamide]などが挙げられる。
【0053】
リン系酸化防止剤としては、Tris(2,4−di−tert−butylphenyl)phosphate、O,O’−dioctadecylpentaerythritol bis(phosphite)、Bis(2,4−di−tert−butylphenyl) pentaerythritol diphosphite、3,9−bis(2,4−di−tert−butylphenoxy)−2,4,8,10−tetraoxa−3,9−diphosphaspiro[5.5]undecaneなどが挙げられる。
【0054】
また、本発明による樹脂組成物は、成形性を向上させるために多様な滑剤をさらに含むことができ、炭化水素系の滑剤を使用して樹脂と金型の金属との摩擦防止、金型での脱着など離型性を付与することができる。
【0055】
また、光安定剤、UV安定剤、可塑剤、核剤など当業界に公知となった多様な通常の添加剤をさらに含むことができる。
【0056】
[ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の製造]
本発明の一実施形態によれば、ポリアリーレンスルフィド主鎖の末端基中の少なくとも一部がカルボキシ基で置換されたポリアリーレンスルフィドの製造方法が提供されるが、前記製造方法は、ジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物を重合反応させる段階、および前記重合反応段階を進行しながら、カルボキシ基を有する化合物を添加する段階を含むことができる。
【0057】
一実施形態において、前記カルボキシ基を有する化合物は、前記ジヨード芳香族化合物と硫黄元素間の重合反応が約70%以上、または約90%以上進行された時(例えば、重合反応後期に)添加され得る。この時、前記ジヨード芳香族化合物と硫黄元素間の重合反応の進行比率は、当業界に公知となった粘度測定方法により当業者が容易に確認することができる。
【0058】
一実施形態において、前記カルボキシ基を有する化合物としては、ポリアリーレンスルフィド末端にカルボキシ基を導入可能な化合物を特別な制限なく使用することができ、カルボキシ基を有する任意のモノマー形態の化合物を使用することができる。例えば、2−ヨード安息香酸(2−Iodobenzoic acid)、3−ヨード安息香酸(3−Iodobenzoic acid)、4−ヨード安息香酸(4−Iodobenzoic acid)、2,2’−ジチオ安息香酸(2,2’−Dithiobenzoic acid)などが挙げられるが、これに制限されない。
【0059】
前記カルボキシ基を有する化合物の含量は、例えば、ジヨード芳香族化合物100重量部を基準に約0.0001乃至5重量部添加され得る。
【0060】
前記一実施形態のポリアリーレンスルフィドは、FT−IR分光法で分析した時、FT−IRスペクトルで前記主鎖末端のカルボキシ基に由来する1600乃至1800cm−1のピークを示すことができる。この時、前記1600乃至1800cm−1のピークの強度は、主鎖末端基に結合されたカルボキシ基の含量に対応することができる。
【0061】
一例によれば、前記一実施形態のポリアリーレンスルフィドは、FT−IRスペクトル上で、1500乃至1600cm−1で示される環伸縮(Ring stretch)ピークの高さ強度を100%にした時、前記1600乃至1800cm−1のピークの相対的高さ強度が0.001乃至10%になり得る。この時、前記1500乃至1600cm−1で示される環伸縮ピークは、ポリアリーレンスルフィドの主鎖中に含まれているフェニレン基に由来するものになり得る。前記カルボキシ基に由来する1600乃至1800cm−1のピークがフェニル基に由来するピークの高さ強度に対して0.001乃至10%、あるいは0.01乃至7%、あるいは0.1乃至4%の高さ強度を示すことによって、一実施形態のポリアリーレンスルフィドは、他の高分子素材とのより優れた相溶性を示しながらも、ポリアリーレンスルフィドの特有の優れた物性を維持することができる。
【0062】
一実施形態において、重合反応に使用可能なジヨード芳香族化合物としては、ジヨード化ベンゼン(diiodobenzene;DIB)、ジヨード化ナフタレン(diiodonaphthalene)、ジヨード化ビフェニル(diiodobiphenyl)、ジヨード化ビスフェノール(diiodobisphenol)、およびジヨード化ベンゾフェノン(diiodobenzophenone)からなる群より選ばれる1種以上が挙げられるが、これに限定されず、このような化合物にアルキル原子団(alkyl group)やスルホン原子団(sulfone group)などが置換基で結合されていたり、芳香族基に酸素や窒素などの原子が含まれている形態のジヨード芳香族化合物としても使用され得る。また、前記ジヨード芳香族化合物には、ヨード原子が付着した位置によって多様なジヨード化合物の異性体(isomer)があるが、この中でもパラ−ジヨードベンゼン(pDIB)、2,6−ジヨードナフタレン、またはp,p’−ジヨードビフェニルのようにパラ位置にヨードが結合された化合物がより好適に使用され得る。
【0063】
一実施形態において、ジヨード芳香族化合物と反応する硫黄元素の形態には特別な制限がない。普通、硫黄元素は、常温で原子8個が連結された環形態(cyclooctasulfur;S8)で存在するが、このような形態でなくても、商業的に使用可能な固体または液体状態の硫黄であれば特別な制限なしに全て使用することができる。
【0064】
本発明によれば、反応物に重合開始剤、安定剤、またはこれらの混合物をさらに含めることができるが、重合開始剤の例としてはメルカプトベンゾチアゾール、2,2’−ジチオベンゾチアゾール、シクロヘキシルベンゾチアゾールスルフェンアミド、ブチルベンゾチアゾールスルフェンアミド、またはこれらの混合物が挙げられるが、これらに制限されない。
【0065】
安定剤としては、通常の樹脂重合反応用安定剤を使用することができる。
【0066】
本発明による重合反応を終結させる時には、適切な時点に重合停止剤を添加することができる。この時、使用可能な重合停止剤は、重合される高分子に含まれるヨードグループを除去して重合を停止させるものであれば特別な制限がない。具体的には、ジフェニルスルフィド(diphenyl suldife)、ジフェニルエーテル(diphenyl ether)、ジフェニル(diphenyl)、ベンゾフェノン(benzophenone)、ジベンゾチアゾールジスルフィド(dibenzothiazole disulfide)、モノヨードアリール化合物(monoiodoaryl compound)、ベンゾチアゾール(benzothiazole)類、ベンゾチアゾールスルフェンアミド(benzothiazolesulfenamide)類、チウラム(thiuram)類、ジチオカルバメート(dithiocarbamate)類およびジフェニルジスルフィドからなる群より選ばれる1種以上であり得る。
【0067】
一方、重合停止剤の投与時点は、最終重合させるポリアリーレンスルフィドの分子量を考慮してその時期を決定することができる。例えば、初期反応物内に含まれているジヨード芳香族化合物が約70乃至100重量%が反応して消耗した時点で投与することができる。
【0068】
そして、このような重合反応は、ジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物の重合が開始可能な条件であればいかなる条件でも行われ得る。例えば、前記重合反応は、昇温減圧反応条件で行われ得るが、この場合、温度約180乃至250℃および圧力約50乃至450torrの初期反応条件で温度上昇および圧力降下を行って最終反応条件である温度約270乃至350℃および圧力約0.001乃至20torrに変化させ、約1乃至30時間行うことができる。より具体的な例として、最終反応条件を温度約280乃至300℃および圧力約0.1乃至0.5torrにして重合反応を行うことができる。
【0069】
一方、上述した他の実施形態によるポリアリーレンスルフィドの製造方法は、前記重合反応前に、ジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物を溶融混合する段階をさらに含むことができる。このような溶融混合は、上述した反応物が全て溶融混合可能な条件であればその構成に制限はないが、例えば、約130℃乃至200℃、あるいは約160℃乃至190℃の温度で行うことができる。
【0070】
このように重合反応前に溶融混合段階を行って、その以降に行われる重合反応をより容易に行うことができる。
【0071】
そして、上述した他の実施形態によるポリアリーレンスルフィドの製造方法において、重合反応はニトロベンゼン系触媒の存在下で行われる。また、前述のように重合反応前に溶融混合段階を経る場合、前記触媒は溶融混合段階で追加され得る。ニトロベンゼン系触媒の種類としては、1,3−ジヨード−4−ニトロベンゼン、または1−ヨード−4−ニトロベンゼンなどが挙げられるが、上述した例に限定されない。
【0072】
[ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法]
前述した製造方法で製造されたポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記エポキシ基含有オレフィン系エラストマー(B)を混合(コンパウンディング)したり、またはポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記エポキシ基含有オレフィン系エラストマー(B)および有機または無機充填材(C)を混合(コンパウンディング)して、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を製造することができる。
【0073】
例えば、二軸押出機を用いて前記で製造されたポリアリーレンスルフィド樹脂(A)に前記エポキシ基含有オレフィン系エラストマー(B)および/または有機または無機充填材(C)を添加しながら混合押出して製造することができる。
【0074】
本発明のさらに他の実施形態によれば、本発明によるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物から製造された成形品が提供される。本発明による樹脂組成物を二軸押出など当業界に公知となった方法で成形して多様な用途に適用可能な優れた耐衝撃性を有する成形品として製造することができる。
【0075】
成形品は、フィルム、シート、または繊維などの多様な形態になり得る。また、前記成形品は、射出成形品、押出成形品、またはブロー成形品であり得る。射出成形する場合の金型温度は、結晶化の観点で約50℃以上、約60℃以上、あるいは約80℃以上になり、試験片の変形の観点で約190℃以下、あるいは約170℃以下、あるいは約160℃以下になり得る。
【0076】
そして、前記成形品がフィルムまたはシート形態になる場合、未延伸、1軸延伸、2軸延伸などの各種フィルムまたはシートに製造することができる。繊維としては、未延伸糸、延伸糸、または超延伸糸など各種繊維にし、織物、編物、不織布(スパンボンド、メルトブロー、ステープル)、ロープ、またはネットとして用いることができる。
【0077】
このような成形品は、コンピュータ付属品などの電気・電子部品、建築部材、自動車部品、機械部品、日用品または化学物質が接触する部分のコーティング、産業用耐薬品性繊維などとして用いることができる。
【0078】
本発明において上記記載内容以外の事項は必要に応じて加減が可能であるため、本発明では特に限定しない。
【実施例】
【0079】
以下、本発明の理解のために好ましい実施例を提示するが、下記実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範囲は下記実施例に限定されない。
【0080】
[製造例:カルボキシ基を主鎖末端に含むポリフェニレンスルフィド(PPS)の合成]
反応器の内温測定が可能なサーモカップル、そして窒素充填および真空をかけられる真空ライン付きの5L反応器にパラジヨードベンゼン(p−DIB)5130g、硫黄450g、反応開始剤としてメルカプトベンゾチアゾール4gを含む反応物を180℃に加熱して完全に溶融および混合した後、220℃および350Torrの初期反応条件から始まって、最終反応温度は300℃、圧力は1Torr以下まで段階的に温度上昇および圧力降下を行いながら重合反応を進行した。前記重合反応が80%進行された時(このような重合反応の進行程度は粘度による相対比率((現在粘度/目標粘度)×100%)の方法で確認した。)、重合停止剤としてメルカプトベンゾチアゾールを25g添加して1時間反応を行った後、4−ヨード安息香酸を51g添加して窒素雰囲気下で10分間反応を行った後、0.5Torr以下に徐々に真空を加えて1時間反応を行った後に終了して、カルボキシ基を主鎖末端に含むポリアリーレンスルフィド樹脂を合成した。反応が完了した樹脂を小型ストランドカッター機を用いてペレット形態に製造した。
【0081】
このような実施例1のポリアリーレンスルフィド樹脂をFT−IRで分析してスペクトル上で、1600乃至1800cm−1のカルボキシ基ピークの存在を確認した。また、前記FT−IRスペクトル上で、1500乃至1600cm−1で示される環伸縮ピークの高さ強度を100%にした時、前記1600乃至1800cm−1のピークの相対的高さ強度は約3.4%であることが確認された。
【0082】
[実施例1:PPS/エラストマー(E−nBA−GMA)の混合]
小型二軸押出機を用いて押出ダイ(Die)温度300℃、軸回転速度200rpmの条件下で下記表1に記載された含量によりPPS樹脂にエラストマー、E−nBA−GMA(ethylene/n−buthyl acrylate−glycidyl methacrylate) Lotader (Grade AX−8900、Arkema社製)を添加しながら混合押出を施して試片を製造した。
【0083】
[実施例2および3]
実施例2および3は、下記表1に記載されたようにPPS樹脂とエラストマーの含量を変化させた点を除いては実施例1と同様に製造した。
【0084】
[実施例4および5]
実施例4および5は、下記表1に記載されたようにPPS樹脂とエラストマーの含量を変化させ、ガラス繊維を添加させた点を除いては実施例1と同様に製造した。
【0085】
[比較例1]
PPSの製造(カルボキシ基を主鎖末端に含まないポリフェニレンスルフィド)
反応器の耐温測定が可能なサーモカップル、そして窒素充填および真空をかけられる真空ライン付きの5L反応器にパラジヨードベンゼン(p−DIB)5130g、硫黄450g、反応開始剤としてメルカプトベンゾチアゾール4gを含む反応物を180℃に加熱して完全に溶融および混合した後、220℃および350Torrの初期反応条件で始まって、最終反応温度は300℃、圧力は1Torr以下まで段階的に温度上昇および圧力降下を行いながら重合反応を進行した。前記重合反応が80%進行された時(このような重合反応の進行程度は粘度による相対比率((現在粘度/目標粘度)×100%)の方法で確認した。)、重合停止剤としてメルカプトベンゾチアゾールを25g添加して1時間反応を行った後に終了して、ポリアリーレンスルフィド樹脂を合成した。反応が完了した樹脂を小型ストランドカッター機を用いてペレット形態に製造した。
【0086】
比較例1は、実施例1で用いたPPSの代わりに前記製造方法により製造されたPPSを用いながら、下記表1に記載されたようにPPS樹脂とエラストマーの含量を変化させた点を除いては実施例1と同様に実験した。
【0087】
[比較例2]
比較例2は、比較例1でガラス繊維を添加し、下記表1に記載されたようにPPS樹脂とエラストマーの含量を変化させた点を除いては比較例1と同様に製造した。
【0088】
[引張強度および伸び率]
ASTM D6 38法により、実施例および比較例で製造された樹脂試片の引張強度および伸び率を測定した。
【0089】
[屈曲強度および屈曲弾性率]
ASTM D 790法により、実施例および比較例で製造された樹脂試片の屈曲強度および屈曲弾性率を測定した。
【0090】
[アイゾッド(Izod)衝撃強度]
ASTM D 256法により、実施例および比較例で製造された樹脂試片の衝撃強度を測定した。
【0091】
【表1】
【0092】
前記表1から分かるように、本発明による実施例1乃至5では、エポキシ基含有オレフィン系エラストマーまたはエポキシ基含有オレフィン系エラストマーおよび充填材と混合した場合にも、優れた引張強度、伸び率、屈曲強度、屈曲弾性率、および衝撃強度を示すことを確認できる。また、本発明による実施例1乃至5を比較例と比較した結果、主鎖末端の少なくとも一部にカルボキシ基(−COOH)を導入することによってポリアリーレンスルフィド組成物の耐衝撃性および強度に優れ、またカルボキシ基によりオレフィン系エラストマーおよび/またはガラス繊維との相溶性にも優れていることを確認できる。
【0093】
[エッチング処理]
実施例1で製造された樹脂試片を窒素破砕した後、エラストマー(E−nBA−GMA)を溶解するために溶媒クロロホルム(CHCl)中で50℃、且つ1時間にかけて超音波処理(sonication)した後、SEM写真を撮影した。試片のエッチング前とエッチング後のSEM写真をそれぞれ図1図2に示した。
【0094】
図1(エッチング前):ポリフェニレンスルフィド+エラストマー
図2(エッチング後):ポリフェニレンスルフィド
【0095】
本発明で末端基中の一部がカルボキシ基で置換されたポリフェニレンスルフィド樹脂とエラストマー樹脂の相溶性改善は、電子顕微鏡を通じて観察することができる。ポリフェニレンスルフィド樹脂中でエラストマー樹脂の分散状の大きさは0.8μm以下が好ましく、また0.5μm以下で分散することがより好ましい。電子顕微鏡測定前の試片の前処理方法は、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の射出試片を冷凍破砕し、選択的にエラストマーだけを溶解可能な有機溶媒に破砕した試片を浸漬した後にエラストマーを除去する。分散したエラストマーの最大直径と最小直径を電子顕微鏡で測定し、平均値を求める。
【0096】
図1は、エッチング前のポリフェニレンスルフィドとエラストマーからなるポリフェニレンスルフィド樹脂のSEM写真撮影であり、図2は、エッチング後を示したものであり、図2からエラストマーが均一に分散していることを確認できるため、本発明の一実施形態による樹脂がエラストマーとの相溶性に優れていることが分かる。
【0097】
図3は、前記実施例1と同様な方法でエッチング処理したエッチング後の比較例1による樹脂のSEM写真を示したものであって、図2と比較して、エラストマーが均一に分散せず、本発明の実施例に比べて相溶性が劣ることが分かる。
図1
図2
図3