特許第6348518号(P6348518)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6348518
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】導電性繊維
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/18 20060101AFI20180618BHJP
   C23C 18/44 20060101ALI20180618BHJP
   D06M 13/467 20060101ALI20180618BHJP
   D06M 15/285 20060101ALI20180618BHJP
   D06M 15/21 20060101ALI20180618BHJP
   D06M 11/83 20060101ALI20180618BHJP
【FI】
   C23C18/18
   C23C18/44
   D06M13/467
   D06M15/285
   D06M15/21
   D06M11/83
【請求項の数】19
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-558554(P2015-558554)
(86)(22)【出願日】2014年2月24日
(65)【公表番号】特表2016-513182(P2016-513182A)
(43)【公表日】2016年5月12日
(86)【国際出願番号】GB2014050550
(87)【国際公開番号】WO2014128505
(87)【国際公開日】20140828
【審査請求日】2017年2月15日
(31)【優先権主張番号】1303284.2
(32)【優先日】2013年2月25日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】509251143
【氏名又は名称】エヌピーエル マネージメント リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】特許業務法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アシャイヤ−ソルタニ,ロヤ
(72)【発明者】
【氏名】ハント,クリストファー・ポール
【審査官】 辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−214074(JP,A)
【文献】 特開2005−082879(JP,A)
【文献】 特開2010−059532(JP,A)
【文献】 特開2004−091877(JP,A)
【文献】 特開2012−233227(JP,A)
【文献】 特開2011−001576(JP,A)
【文献】 米国特許第05411795(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C18/00−20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)繊維の表面に負電荷を有する繊維を提供するステップと、
(b)前記繊維に、キトサンではない物質(以下で「リンカー」と呼ぶ。)を施して、前記物質の層を繊維上に提供し、繊維の表面の前記電荷を負から正に変えるステップと、
(c)前記繊維の前記表面を金属を用いて導電性にするステップであって、ステップ(c)の前記金属が、金属イオンの形態で提供され、前記金属イオンが元素の金属に還元される、ステップと
を含
前記リンカーが、カチオン性高分子電解質である、
導電性の繊維を製造するための方法。
【請求項2】
還元剤を用いて前記金属イオンを前記元素の金属に還元し、前記還元剤が、前記繊維の前記表面にまず施され、前記金属イオンが、二番目に前記繊維の前記表面に施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
金属イオンの溶液、還元剤および前記物質が合わせられ、次いで、前記合わせたものが前記繊維に施される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
金属イオンの前記溶液および前記還元剤がまず合わせられ、次いで、前記物質が加えられる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(a)の後に、
(a1)繊維の表面の前記負電荷を増加させるために、前記繊維をアルカリまたは酸性溶液で処理するステップをさらに含む、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ステップ(a1)が、前記繊維を3.0moldm-3未満の濃度の水酸化ナトリウム水溶液で処理するステップを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記水酸化ナトリウム水溶液が、1重量%の濃度を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(b)の前記物質が、プロタミン硫酸塩、ポリブレン、ポリ(L−リシン)、ポリ(アリルアミン塩酸塩)、ポリ(エチレングリコール−コ−ジメチルアミノエチルメタクリレート)、ポリ(エチレンイミン)、ポリアクリルアミド、ポリ(アクリルアミド−コ−ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、四級化ポリ[ビス(2−クロロエチル)エーテル−alt−1,3−ビス[3−(ジメチルアミノ)プロピル]尿素]、ポリクアテルニウム−7、または、これらの任意の組み合わせである、請求項1からのいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ステップ(b)の前記物質が、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、ポリ(アクリルアミド−コ−ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、ポリ(アリルアミン塩酸塩)、または、これらの任意の組み合わせである、請求項1からのいずれかに記載の方法。
【請求項10】
ステップ(b)の前記物質が、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)の0.2重量%水溶液である、請求項に記載の方法。
【請求項11】
還元後の前記金属が、50nm未満の平均径を有する金属粒子の形態である、請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
水素化ホウ素ナトリウムを用いて前記金属イオンを前記元素の金属に還元する、請求項1から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記金属イオンが、金属硝酸塩の形態で提供される、請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記金属が銀である、請求項1から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
(d)前記金属を焼結する追加のステップを含む、請求項1から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記焼結ステップ(d)を50〜70℃の温度で行う、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
金属の別の層を前記繊維上の前記金属に施す追加のステップを含む、請求項1から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
金属の前記別の層が、無電解めっきにより施される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記別の層内の前記金属が、ステップ(c)の前記金属とは異なる、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布用の導電性の繊維を製造するための方法、複数のこのような繊維から形成された布、および、前記布を取り入れた品物に関する。特に、本発明は、銀ナノ粒子を用いた、綿などの天然繊維のコーティングに関する。得られる綿布は、繊維に良く付着した銀粒子で完全に覆われているのが見られる。導電性があり、かつ極めて柔軟なだけでなく、布は、ナノ銀が存在しているため抗菌性もある。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン、GPS装置およびパーソナルコンピュータなどの電子機器を内部に取り込んだ導電性の衣類または旅行かばんなどを製造できるように、導電性布を作る試みがいくつかなされてきた。このような機器は、消費者、ビジネスおよび軍事の分野にさまざまな用途がある。
【0003】
導電性布を製造するための従来の方法は、布が織られるときに、布の本体内に導電性フィラメントを含有することが必要である。
【0004】
最初の導電性布は、導電性繊維が、薄い銅箔に包まれた絹糸でできた絹のオーガンザでできていた(E.R.Post and M.Orth,IEEE International Symposium on Wearable Computers,October 13−14,1997)。
【0005】
布のなかで、金属線または導電性ポリマーフィラメントの混織も利用されてきた(H.−C.Chen,K.−C.Lee and J.−H.Lin,Composites,Part A,35,1249−1256,2004)。しかし、これらの工程から、最も単純な設計以外のものを形成するのは困難である。
【0006】
導電性布を製造する別の方法は、導電性ポリマーを用いるものである。導電性ポリマーは、ポリアニリンおよびポリピロールを含め、テキスタイルのコーティングに広く用いられる(J.Molina,A.I.del Rio,J.Bonastre and F.Cases,Eur.Polym.J.,45,1302,2009およびB.Yue,C.Wang,X.Ding and G.G.Wallace,Electrochim.Acta,68,18−24,2012)。しかし、これらのポリマーは、金属ほど導電性でない傾向がある。
【0007】
銀でコーティングされたナイロン布が、Shieldexの商標でShieldex Trading,Inc.により販売されている。この製品は、厚い銀を使用し、高価で、回路を製造する形態で提供されていない。
【0008】
国際公開第2008/133672号パンフレット(ドレクセル大学)には、高分子電解質をリンカー基として用いることによって、ポリアクリロニトリルナノファイバーの外面にマルチウォールナノチューブをグラフト化する方法が開示されている。どのような他のグラフト化法の例も記載されていない。
【0009】
米国特許出願公開第2007/0054577号明細書(Avloni)には、(i)プラズマ前処理と、それに続く、(ii)高分子電解質をリンカー基として用いて導電性コーティングを層毎に付着することによる電気伝導性繊維の形成が開示されている。
【0010】
中国特許第102120043号明細書(Basic Medical)には、ガーゼに殺生物性をもたせるために、キトサンをリンカーとして用いることによるナノ銀層のガーゼへの付着が開示されている。
【0011】
また、国際公開第00/49219号パンフレット(Foxwood Research Limited)には、キトサンをリンカー基として用いて銀粒子を基材に結合させることにより、殺生物性のナノ銀を用いて基材をコーティングする方法が開示されている。キトサンは、酸性のpHで不溶性にするために、架橋される必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様において:
(a)繊維の表面に負電荷を有する繊維を提供するステップと、
(b)繊維に、キトサンではない物質(以下で「リンカー」と呼ぶ。)を施して、前記物質の層を繊維上に提供し、繊維の表面の電荷を負から正に変えるステップと、
(c)繊維の表面を金属を用いて導電性にするステップであって、ステップ(c)の金属は、金属イオンの形態で提供され、金属イオンは、元素の金属に還元される、ステップとを含む、導電性の繊維を製造するための方法が提供される。
【0013】
キトサンの使用は、繊維の物理特性に不利に影響を与えることが見つかっており、したがって、キトサンは、本方法の範囲から除外される。
【0014】
金属イオンの形態の金属を提供し、次いで、還元を行う利点は、改善された結果が得られることである(比較例5参照)。
【0015】
還元剤は、好ましくは、繊維の表面にまず施され、金属イオンが二番目に繊維の表面に施される。この方法の利点は、使用する必要のある還元剤および金属イオン溶液の量を最小限に抑えられることと、第2に、繊維をより速くナノ粒子で覆うことができることである。
【0016】
代替の実施形態では、金属イオンの溶液、還元剤およびリンカーがまず(例えば、水溶液中で)合わせられ、次いで、この合わせたものが繊維に施される。この方法では、金属イオンは、繊維に施される前に還元されているが、金属イオンは、繊維と接触する前に、リンカーと接触してもいる。この方法は、リンカーが既に施されている繊維に元素の金属が施される方法とは異なる(以下の実施例4と比較例5を比較されたい)。理論によって制約されることは本意ではないが、リンカーの存在によって、普通なら不十分な結果につながるはずのナノ粒子の凝集が起こらないようになると考えられる。
【0017】
好ましくは、使用される還元剤の量は、98mlの水中で7mg(最も好ましくは6.1mg)未満である。このことの利点は、生じる金属粒子が異常に小さいこと−好ましくは50nm未満、最も好ましくは約20nmの平均径であるように見受けられる。これは、金属粒子が、次に穏やかに熱を加えることによって自己焼結されることを意味する−例えば、平均径が約20nmの銀ナノ粒子が、約60℃で自己焼結されて、繊維の周りに均一な導電性の銀の鞘が得られる。
【0018】
次に、別の金属層を、例えば、従来の無電解めっきの技術によって、導電性繊維に施してもよい。
【0019】
好ましくは、方法は、さらに、ステップ(a)の後に、
(a1)繊維の表面の負電荷を増加させるために、繊維を(酸性溶液を使用してもよいが、好ましくはアルカリ溶液を用いて)処理するステップ(いわゆる、「マーセル加工」ステップ)を含む。
【0020】
当該繊維は、天然、合成、織または不織のものでもよい。好ましくは、当該繊維は天然繊維であり、既に布に織られていてもよい。あるいは、当該繊維は、織られていない形態で提供されて、本方法にしたがって処理された後に織られてもよい。
【0021】
天然繊維(および、特に、綿などのセルロース系繊維)は、本来、繊維表面に負電荷を有し、これは、(正の実効電荷に対して静電結合を形成する)金属粒子が繊維表面に結合しないことを意味する。
【0022】
ステップ(b)の物質は、好ましくはカチオン性高分子電解質、より好ましくはプロタミン硫酸塩、ポリブレン、ポリ(L−リシン)、ポリ(アリルアミン塩酸塩)、ポリ(エチレングリコール−コ−ジメチルアミノエチルメタクリレート)、ポリ(エチレンイミン)、ポリアクリルアミド、ポリ(アクリルアミド−コ−ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、四級化ポリ[ビス(2−クロロエチル)エーテル−alt−1,3−ビス[3−(ジメチルアミノ)プロピル]尿素]、ポリクアテルニウム−7、または、これらの任意の組み合わせである。
【0023】
ポリ(アリルアミン塩酸塩)は、2種類の異なる分子量、すなわち、1)平均Mw約15,000、および、2)平均Mw約58,000で市販されている。いずれかを使用できる。
【0024】
ステップ(b)の物質の量は、好ましくは2重量%を超えず、好ましくは1重量%を超えず、最も好ましくは約0.2重量%(具体的には、100mlの水と混合した1gのPDADMACの20重量%溶液、すなわち0.198重量%)である。
【0025】
特に好ましい実施形態において、この物質は、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)であり、PDADMACとしても知られる(Sigma−Aldrich提供の画像):
【0026】
【化1】
【0027】
PDADMACは、金属とテキスタイルの間のバインダーとして重要な役割を果たし、より均一で密なコーティングを生じる。ポリマー鎖中の2個のメチル基および1個のアミン基の存在によって、核形成が起こる電気的に正の部位がもたらされると考えられる。PDADMACの繊維への付着は、カチオン性PDADMACと繊維のアニオン性の表面との間のイオン性の相互作用によって主に決まると考えられる。そのカチオン性の性質の結果、PDADMACの綿繊維への付着がイオン結合によって起こると考えられる。また、長いポリマー鎖も、より多くのカチオン性の部位をもたらして、おそらく布の表面とさらに強く結合することができる。
【0028】
PDADMACは4種類が市販されており、分子量が異なる:
(i)超低分子量(平均Mw<100,000)
(ii)低分子量(平均Mw100,000〜200,000)
(iii)中分子量(平均Mw200,000〜350,000)
(iv)高分子量(平均Mw400,000〜500,000)
これら(または組み合わせ)のいずれも本発明において用いることができるが、(ii)低分子量PDADMACが好ましい。商業的に、このPDADMACは20重量%水溶液で提供されている。
【0029】
ステップ(a1)は、マーセル加工として知られる周知の技術である。従来のマーセル加工において、アルカリ溶液の濃度は10重量%以上である。しかし、本発明において、約1重量%のアルカリ溶液を使用するのが好ましい。
【0030】
繊維がアルカリ溶液(水酸化ナトリウム溶液など)で処理されるとき、繊維表面のアニオン性の部位の数が増え、PDADMACの吸着がさらに容易になる。
【0031】
水酸化ナトリウムは、布中のセルロース鎖をいくらか離脱させる原因となり、したがって結合する負の部位の数が増える。したがって、溶液中のNaOHの重量パーセントを上昇させることによって、負の部位の数も増えることが予想される。しかし、3.0moldm-3を超えるアルカリ処理では、繊維の特性が変化するようである。したがって、好ましい実施形態において、アルカリ溶液の濃度は、この値未満である。
【0032】
他のタイプのアルカリ溶液も同様に振る舞うと予想されることに留意されたい。セルロースベースの材料のアルカリ処理は、マーセル加工と呼ばれる。しかし、他のタイプの布の表面電荷は、異なる処理を用いて増加させることができる。
【0033】
次に、繊維を布(または、他の非導電性布内の導電性パターン)に織ることができる。同様に、本発明による方法を用いて、布中の繊維を導電性コーティングでコーティングすることができる。
【0034】
ナノ銀コートファブリックは、創傷被覆材、衛生衣料、および、細菌の存在が危険な医療用途など、幅広い用途で使用することができる。例えば、このファブリックは、傷の感染が深刻な影響を与えうるフェイスマスク、手術用手袋および軍服の製作に使用することができる。高い柔軟性によって、布地類を健康産業、レジャー産業およびスポーツ産業で使用することが可能になる。
【0035】
また、導電性布は、快適で、窮屈さを感じないウェアラブルセンサとして使用することもできる。
【0036】
本発明の工程において、ナノ粒子の作製は、好ましくは、同時に(1)布を還元溶液で濡らし、(2)金属塩溶液を加えることによって行われ、この結果、ナノ粒子が形成されて、繊維上に析出する。これは、ナノ粒子の析出に、ナノ粒子を含む溶液に布全体を浸漬させる必要がないという点で重要な概念上の利点である。このナノ金属析出の方法は、従来の方法よりも費用効果が高い。さらに、この方法は、銀を選択的に析出させるように適合させることができる。これは、複雑なパターンを含む、あらゆるタイプの回路設計のための布にスクリーン印刷またはスプレー印刷することによっても可能である。
【0037】
ナノ粒子を析出させる前に、布をコーティングするための他のタイプのポリマーも使用することができる。ポリマーは、電荷を有することもできて、単独または組み合わせで使用することができる。さらに、工程は、銅、二酸化チタンおよび亜鉛など、異なる特性を与える他のタイプのナノ粒子で綿のテキスタイルを覆うために利用することができる。
【0038】
無電解めっきの前に、異なるタイプのナノ粒子/ナノワイヤを使用することもできる。無電解めっきは、Al、NiおよびSnなど、用途に応じて他のタイプの材料により実現することができる。
【0039】
この工程の別の展開には、スプレーコーティングを含むことができる。
【0040】
本発明の第2の態様において:
(i)繊維の表面に負電荷を有する繊維を提供するステップと、
(ii)繊維の表面の負電荷を増加させるために、繊維をアルカリ溶液で処理するステップと、
(iii)ステップ(ii)の繊維に、物質を施して、前記物質の層を繊維の周りに提供し、繊維の表面の電荷を負から正に変えるステップと、
(iv)表面を導電性にするために、金属をステップ(iii)の繊維の表面に析出させるステップとを含む、導電性の繊維を製造するための方法が提供される。
【0041】
本発明の第3の態様において、還元剤(水性の水素化ホウ素ナトリウムなど)を繊維の表面にまず施すステップと、金属イオン(硝酸銀など)を二番目に繊維の表面に施すステップとを含み、これにより、金属イオンが金属粒子(好ましくは50nm未満の平均サイズを備え、最も好ましくは約20nmの平均サイズを備える。)に還元される、繊維の表面に正の電荷を有する繊維の表面に金属を析出させるための方法が提供される。
【0042】
好ましくは、使用される還元剤の量は、98mlの水中で7mg(最も好ましくは6.1mg)未満である。
【0043】
ここで本発明のいくつかの好ましい実施形態を以下の添付図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明による方法により処理された綿布の一連の走査電子顕微鏡(SEM)像(3回還元)である。
図2】本発明による方法(マーセル加工ステップが省略された点を除く。)により処理された綿布の一連のSEM像(3回還元)である。
図3】本発明による方法(カチオン性高分子電解質を施すステップが省略された点を除く。)により処理された綿布の一連のSEM像(3回還元)である。
図4】本発明による好ましい方法のステップを示す概略図である。
図5】本発明による方法により処理された別の綿布のSEM像(および拡大図)である。
図6】本発明による方法により処理された別の綿布のSEM像(および拡大図)である。
図7】本発明による方法により作製された(使用中の)導電路の写真である。
図8A】(本発明によらない)ナノ銀溶液に浸漬した綿繊維のSEM像である。
図8B】銅無電解めっき後の図8Aの綿布の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
実施例1
綿布を以下の4段階の工程により処理した。
1.マーセル加工
2.表面改質
3.銀ナノ粒子の作製および析出および焼結
4.第2の導電層の積層
この実施例を示す概略図を図4に示す。
【0046】
1.マーセル加工
綿布を、1重量%NaOH水溶液を用いて室温で30分間処理し、続いて蒸留水ですすいだ。
【0047】
2.表面改質
サンプルを乾燥させ、次に、その繊維を0.198重量%のポリ−ジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PDADMAC)水溶液でコーティングした。この水溶液は、PDADMACの20重量%溶液を1g取り、100mlの水と混合して作り、したがって、生じた溶液は、101mlの水中の0.2gのPDADMAC、すなわち0.198重量%であった。
【0048】
布を溶液で完全に濡らした後、残留する水分子をすべて蒸発させるために、布をオーブン内で59℃で5分間乾燥させた。布は、ナノ粒子を析出させる前に室温で自然に乾燥させることができることに留意されたい。
【0049】
3.作製および析出
0.025M(0.43g/水100ml)の硝酸銀水溶液を調製した。次に、綿布(1.5g、表面積は64mm2)を0.1mlの1.61×10-4M(6.1mg/水98ml)のNaBH4水溶液で濡らした。次に、10μlの硝酸銀溶液を布に加えた。
【0050】
布の色は、白色から茶色がかった色にすぐに変化したが、これは、ナノ銀粒子の形成を示すものである。ナノ粒子のサイズが約20nmであることを動的光散乱法(DLS)により確認した。テキスタイルを59℃で乾燥させ、次いで、ナノ粒子の別の層を布に追加するために、別の還元ステップを実施した。綿繊維は、連続して3回還元した後に、銀ナノ粒子で完全に覆われた。
【0051】
4.第2の導電層の積層
厚さ100nm未満の導電性の銀の鞘が繊維上に作り、次いで、無電解金属めっきを利用して導電層を厚くした。具体的には、銅無電解めっきを46℃の温度で25分間実施した。銅厚さ約1.25ミクロンで、比抵抗は0.1Ω/sqであった。
【0052】
得られた処理済みの綿繊維の一連のSEM像を図1に示す。
【0053】
対照として、同一の綿布に本方法を施すが、マーセル加工ステップは省略される。その後の工程ステップの間、繊維はナノ銀粒子で完全には覆われなかった(図2参照)。マーセル加工工程は、さらに数多くの負の部位を繊維上に作り出し、このステップがなければ、その後のステップで結合の機会が少なくなる。
【0054】
別の対照は、PDADMACを全く使用せずに同一の綿布に本方法を施すことにより実施される。
【0055】
PDADMACは、銀粒子とテキスタイルの間のバインダーとして重要な役割を果たし、より均一で密なコーティングを生じる(図1)。対照的に、マーセル加工ステップを用いたが、PDADMACなしで調製したテキスタイルは、不規則な形態を有していた(図3)。
【0056】
実施例2
導電性布の第2のサンプルを作るために、上述の実施例1のステップを繰り返したが、PDADMACの代わりに、ポリ(アクリルアミド−コ−ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(PAADADMAC)の水溶液で布をコーティングした点を除く。
【0057】
ポリマー溶液は、PAADADMACの10重量%溶液を1g取り、100mlの水と混合して作った。
【0058】
SEM像(図5)は、布中の繊維が完全に覆われていることを示した。銅無電解めっきを46℃の温度で25分間実施した。これにより、銅厚さ約1.25ミクロン、比抵抗0.2Ω/sqが得られた。
【0059】
実施例3
実施例1を繰り返したが、異なるカチオン性高分子電解質、すなわちポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAAHC)(分子量58000、Sigma Aldrichから購入。)を用いた。
【0060】
ポリマー溶液は、1重量%のPAAHC水溶液を調製して作った。
【0061】
SEM像(図6)は、布中の繊維が覆われていることを示した。銅無電解めっきを46℃の温度で25分間実施した。これにより、銅厚さ約1.25ミクロンが得られ、比抵抗は0.2Ω/sqであった。
【0062】
実施例4
布上にナノ粒子を析出させる前の高分子電解質のナノ粒子溶液への添加を調査するために実験を行った。以下のステップを実施した。
【0063】
(a)0.025Mの硝酸銀溶液1mlを1.61×10-4MのNaBH4溶液100mlに加えた。銀ナノ粒子の形成により、色が黄色の色調にすぐに変化した。
(b)ポリ−ジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PDADMAC)の水溶液を、PDADMACの20重量%溶液を1g取り、これを100mlの水と混合して作り、したがって、生じた溶液は、101ml水中の0.2gのPDADMAC、すなわち0.198重量%であった。
(c)ステップ(b)で調製したPDADMAC溶液0.1mlを銀ナノ粒子溶液に加えた。色が黄色から赤色の色調に変化した。次に、溶液を3500rpmで100分間遠心分離した。流出物を排出して、布をコーティングするために沈殿物を使用し、その後、テキスタイルを銅無電解めっきの前に60℃で乾燥させた。この方法により、非常に細い導電路を作ることができた。このような導電路の1つを図7に示した。
【0064】
高分子電解質をナノ粒子溶液に加えたときに、溶液のゼータ電位が負から正(+36)に変化したことに留意されたい。また、遠心処理後、粒子は凝集しておらず、大きな銀金属粒子を形成しなかった。理論によって制約されることは本意ではないが、これは、ナノ銀粒子と、ポリマー鎖上の電荷基との間の結合によるものと考えられる。したがって、布の上に配置されたときに、ナノ銀粒子は、布によって均一に吸着された。
【0065】
比較例5
導電性布を製造するためのナノ銀粒子溶液の有効性を調査するために実験を行った。布中の繊維をPDADMACリンカーでコーティングした。ナノ銀溶液は、付与する約2時間前に調製した。連続して8回、ナノ銀粒子溶液を析出させた後でも、布はナノ銀粒子でコーティングされないことが観察された。ナノ銀溶液に浸漬した綿繊維のSEM像を図8Aに示す。
【0066】
さらに、銅無電解めっきを46℃の温度で3時間を超えて実施したとき、布は銅で覆われなかった(図8B参照)。ナノ銀の被覆は不十分であったため、これは驚くべきことではない。
【0067】
比較例6
導電性布のサンプルを作るため、前述と同じステップ(実施例1参照)を用いた。ただし、工程に実施した唯一の変更は、布を1重量%(%w)のキトサン(Sigma Aldrichから購入。)水溶液でコーティングした点である。
【0068】
キトサンは水に溶解しないことに留意されたい。したがって、(98mlの脱イオン水中のキトサン1グラムおよび2mlの酢酸)の水溶液を作った。
【0069】
得られた導電性布は、その伸縮性を失っており、表面は、かなり粒状で粗かった。抵抗値は、実施例1の布の抵抗値と同等であった。
【0070】
テキスタイルの質感が非常に変化したため、希釈したキトサン溶液を用いて調査することに決めた。しかし、キトサン溶液を0.1重量%(%w)に希釈したとき、同様の結果が観察された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B