【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様において:
(a)繊維の表面に負電荷を有する繊維を提供するステップと、
(b)繊維に、キトサンではない物質(以下で「リンカー」と呼ぶ。)を施して、前記物質の層を繊維上に提供し、繊維の表面の電荷を負から正に変えるステップと、
(c)繊維の表面を金属を用いて導電性にするステップであって、ステップ(c)の金属は、金属イオンの形態で提供され、金属イオンは、元素の金属に還元される、ステップとを含む、導電性の繊維を製造するための方法が提供される。
【0013】
キトサンの使用は、繊維の物理特性に不利に影響を与えることが見つかっており、したがって、キトサンは、本方法の範囲から除外される。
【0014】
金属イオンの形態の金属を提供し、次いで、還元を行う利点は、改善された結果が得られることである(比較例5参照)。
【0015】
還元剤は、好ましくは、繊維の表面にまず施され、金属イオンが二番目に繊維の表面に施される。この方法の利点は、使用する必要のある還元剤および金属イオン溶液の量を最小限に抑えられることと、第2に、繊維をより速くナノ粒子で覆うことができることである。
【0016】
代替の実施形態では、金属イオンの溶液、還元剤およびリンカーがまず(例えば、水溶液中で)合わせられ、次いで、この合わせたものが繊維に施される。この方法では、金属イオンは、繊維に施される前に還元されているが、金属イオンは、繊維と接触する前に、リンカーと接触してもいる。この方法は、リンカーが既に施されている繊維に元素の金属が施される方法とは異なる(以下の実施例4と比較例5を比較されたい)。理論によって制約されることは本意ではないが、リンカーの存在によって、普通なら不十分な結果につながるはずのナノ粒子の凝集が起こらないようになると考えられる。
【0017】
好ましくは、使用される還元剤の量は、98mlの水中で7mg(最も好ましくは6.1mg)未満である。このことの利点は、生じる金属粒子が異常に小さいこと−好ましくは50nm未満、最も好ましくは約20nmの平均径であるように見受けられる。これは、金属粒子が、次に穏やかに熱を加えることによって自己焼結されることを意味する−例えば、平均径が約20nmの銀ナノ粒子が、約60℃で自己焼結されて、繊維の周りに均一な導電性の銀の鞘が得られる。
【0018】
次に、別の金属層を、例えば、従来の無電解めっきの技術によって、導電性繊維に施してもよい。
【0019】
好ましくは、方法は、さらに、ステップ(a)の後に、
(a1)繊維の表面の負電荷を増加させるために、繊維を(酸性溶液を使用してもよいが、好ましくはアルカリ溶液を用いて)処理するステップ(いわゆる、「マーセル加工」ステップ)を含む。
【0020】
当該繊維は、天然、合成、織または不織のものでもよい。好ましくは、当該繊維は天然繊維であり、既に布に織られていてもよい。あるいは、当該繊維は、織られていない形態で提供されて、本方法にしたがって処理された後に織られてもよい。
【0021】
天然繊維(および、特に、綿などのセルロース系繊維)は、本来、繊維表面に負電荷を有し、これは、(正の実効電荷に対して静電結合を形成する)金属粒子が繊維表面に結合しないことを意味する。
【0022】
ステップ(b)の物質は、好ましくはカチオン性高分子電解質、より好ましくはプロタミン硫酸塩、ポリブレン、ポリ(L−リシン)、ポリ(アリルアミン塩酸塩)、ポリ(エチレングリコール−コ−ジメチルアミノエチルメタクリレート)、ポリ(エチレンイミン)、ポリアクリルアミド、ポリ(アクリルアミド−コ−ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、四級化ポリ[ビス(2−クロロエチル)エーテル−alt−1,3−ビス[3−(ジメチルアミノ)プロピル]尿素]、ポリクアテルニウム−7、または、これらの任意の組み合わせである。
【0023】
ポリ(アリルアミン塩酸塩)は、2種類の異なる分子量、すなわち、1)平均Mw約15,000、および、2)平均Mw約58,000で市販されている。いずれかを使用できる。
【0024】
ステップ(b)の物質の量は、好ましくは2重量%を超えず、好ましくは1重量%を超えず、最も好ましくは約0.2重量%(具体的には、100mlの水と混合した1gのPDADMACの20重量%溶液、すなわち0.198重量%)である。
【0025】
特に好ましい実施形態において、この物質は、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)であり、PDADMACとしても知られる(Sigma−Aldrich提供の画像):
【0026】
【化1】
【0027】
PDADMACは、金属とテキスタイルの間のバインダーとして重要な役割を果たし、より均一で密なコーティングを生じる。ポリマー鎖中の2個のメチル基および1個のアミン基の存在によって、核形成が起こる電気的に正の部位がもたらされると考えられる。PDADMACの繊維への付着は、カチオン性PDADMACと繊維のアニオン性の表面との間のイオン性の相互作用によって主に決まると考えられる。そのカチオン性の性質の結果、PDADMACの綿繊維への付着がイオン結合によって起こると考えられる。また、長いポリマー鎖も、より多くのカチオン性の部位をもたらして、おそらく布の表面とさらに強く結合することができる。
【0028】
PDADMACは4種類が市販されており、分子量が異なる:
(i)超低分子量(平均Mw<100,000)
(ii)低分子量(平均Mw100,000〜200,000)
(iii)中分子量(平均Mw200,000〜350,000)
(iv)高分子量(平均Mw400,000〜500,000)
これら(または組み合わせ)のいずれも本発明において用いることができるが、(ii)低分子量PDADMACが好ましい。商業的に、このPDADMACは20重量%水溶液で提供されている。
【0029】
ステップ(a1)は、マーセル加工として知られる周知の技術である。従来のマーセル加工において、アルカリ溶液の濃度は10重量%以上である。しかし、本発明において、約1重量%のアルカリ溶液を使用するのが好ましい。
【0030】
繊維がアルカリ溶液(水酸化ナトリウム溶液など)で処理されるとき、繊維表面のアニオン性の部位の数が増え、PDADMACの吸着がさらに容易になる。
【0031】
水酸化ナトリウムは、布中のセルロース鎖をいくらか離脱させる原因となり、したがって結合する負の部位の数が増える。したがって、溶液中のNaOHの重量パーセントを上昇させることによって、負の部位の数も増えることが予想される。しかし、3.0moldm
-3を超えるアルカリ処理では、繊維の特性が変化するようである。したがって、好ましい実施形態において、アルカリ溶液の濃度は、この値未満である。
【0032】
他のタイプのアルカリ溶液も同様に振る舞うと予想されることに留意されたい。セルロースベースの材料のアルカリ処理は、マーセル加工と呼ばれる。しかし、他のタイプの布の表面電荷は、異なる処理を用いて増加させることができる。
【0033】
次に、繊維を布(または、他の非導電性布内の導電性パターン)に織ることができる。同様に、本発明による方法を用いて、布中の繊維を導電性コーティングでコーティングすることができる。
【0034】
ナノ銀コートファブリックは、創傷被覆材、衛生衣料、および、細菌の存在が危険な医療用途など、幅広い用途で使用することができる。例えば、このファブリックは、傷の感染が深刻な影響を与えうるフェイスマスク、手術用手袋および軍服の製作に使用することができる。高い柔軟性によって、布地類を健康産業、レジャー産業およびスポーツ産業で使用することが可能になる。
【0035】
また、導電性布は、快適で、窮屈さを感じないウェアラブルセンサとして使用することもできる。
【0036】
本発明の工程において、ナノ粒子の作製は、好ましくは、同時に(1)布を還元溶液で濡らし、(2)金属塩溶液を加えることによって行われ、この結果、ナノ粒子が形成されて、繊維上に析出する。これは、ナノ粒子の析出に、ナノ粒子を含む溶液に布全体を浸漬させる必要がないという点で重要な概念上の利点である。このナノ金属析出の方法は、従来の方法よりも費用効果が高い。さらに、この方法は、銀を選択的に析出させるように適合させることができる。これは、複雑なパターンを含む、あらゆるタイプの回路設計のための布にスクリーン印刷またはスプレー印刷することによっても可能である。
【0037】
ナノ粒子を析出させる前に、布をコーティングするための他のタイプのポリマーも使用することができる。ポリマーは、電荷を有することもできて、単独または組み合わせで使用することができる。さらに、工程は、銅、二酸化チタンおよび亜鉛など、異なる特性を与える他のタイプのナノ粒子で綿のテキスタイルを覆うために利用することができる。
【0038】
無電解めっきの前に、異なるタイプのナノ粒子/ナノワイヤを使用することもできる。無電解めっきは、Al、NiおよびSnなど、用途に応じて他のタイプの材料により実現することができる。
【0039】
この工程の別の展開には、スプレーコーティングを含むことができる。
【0040】
本発明の第2の態様において:
(i)繊維の表面に負電荷を有する繊維を提供するステップと、
(ii)繊維の表面の負電荷を増加させるために、繊維をアルカリ溶液で処理するステップと、
(iii)ステップ(ii)の繊維に、物質を施して、前記物質の層を繊維の周りに提供し、繊維の表面の電荷を負から正に変えるステップと、
(iv)表面を導電性にするために、金属をステップ(iii)の繊維の表面に析出させるステップとを含む、導電性の繊維を製造するための方法が提供される。
【0041】
本発明の第3の態様において、還元剤(水性の水素化ホウ素ナトリウムなど)を繊維の表面にまず施すステップと、金属イオン(硝酸銀など)を二番目に繊維の表面に施すステップとを含み、これにより、金属イオンが金属粒子(好ましくは50nm未満の平均サイズを備え、最も好ましくは約20nmの平均サイズを備える。)に還元される、繊維の表面に正の電荷を有する繊維の表面に金属を析出させるための方法が提供される。
【0042】
好ましくは、使用される還元剤の量は、98mlの水中で7mg(最も好ましくは6.1mg)未満である。
【0043】
ここで本発明のいくつかの好ましい実施形態を以下の添付図面を参照して説明する。