特許第6348530号(P6348530)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6348530
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】トリテルペンの生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 15/00 20060101AFI20180618BHJP
   C12P 5/00 20060101ALI20180618BHJP
   C12P 7/02 20060101ALI20180618BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20180618BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20180618BHJP
   C12N 15/61 20060101ALN20180618BHJP
【FI】
   C12P15/00
   C12P5/00
   C12P7/02
   C12N15/09 ZZNA
   !C12N1/21
   !C12N15/61
【請求項の数】4
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-59630(P2016-59630)
(22)【出願日】2016年3月24日
(65)【公開番号】特開2016-182118(P2016-182118A)
(43)【公開日】2016年10月20日
【審査請求日】2017年9月12日
(31)【優先権主張番号】特願2015-64672(P2015-64672)
(32)【優先日】2015年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511169999
【氏名又は名称】石川県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100152319
【弁理士】
【氏名又は名称】曽我 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】小林 美保
(72)【発明者】
【氏名】三沢 典彦
【審査官】 福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−207376(JP,A)
【文献】 Journal of Bioscience and Bioengineering,2015年 2月,Vol.119, No.2,p.165-171
【文献】 International Journal of Molecular Sciences,2013年,Vol.14,p.12806-12826
【文献】 化学と生物,2011年,Vol.49, No.12,p.825-833
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−41/00
C12N 1/00−15/90
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Genbank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリテルペンの生産方法であって、
Idi (isopentenyl diphosphateisomerase) をコードする遺伝子、SQS (squalene synthase) をコードする遺伝子、SQE (squalene epoxidase) をコードする遺伝子及びOSC(oxidosqualene cyclase)をコードする遺伝子の遺伝子群が導入されたファルネシル二リン酸産生能を持つ大腸菌宿主を培養し、培養後の大腸菌宿主からトリテルペンを抽出する、
又は、
Idi (isopentenyl diphosphateisomerase) をコードする遺伝子、SQE (squalene epoxidase) をコードする遺伝子及びOSC(oxidosqualene cyclase)をコードする遺伝子の遺伝子群が導入されたスクアレン産生能を持つ大腸菌宿主を培養し、培養後の大腸菌宿主からトリテルペンを抽出する、
トリテルペンの生産方法。
【請求項2】
β-アミリンまたはその代謝物の生産方法であって、
Idi (isopentenyl diphosphateisomerase) をコードする遺伝子、SQS (squalene synthase) をコードする遺伝子、SQE (squalene epoxidase) をコードする遺伝子及びbAS (β-amyrin synthase)をコードする遺伝子の遺伝子群が導入されたファルネシル二リン酸産生能を持つ大腸菌宿主を培養し、培養後の大腸菌宿主からβ-アミリンまたはその代謝物を抽出する、
又は、
Idi (isopentenyl diphosphateisomerase) をコードする遺伝子、SQE (squalene epoxidase) をコードする遺伝子、及びbAS (β-amyrin synthase)をコードする遺伝子の遺伝子群が導入されたスクアレン産生能を持つ大腸菌宿主を培養し、培養後の大腸菌宿主からβ-アミリンまたはその代謝物を抽出する、
ことを特徴とするβ-アミリンまたはその代謝物の生産方法。
【請求項3】
シクロアルテノールまたはその代謝物の生産方法であって、
Idi (isopentenyl diphosphateisomerase) をコードする遺伝子、SQS (squalene synthase) をコードする遺伝子、SQE (squalene epoxidase) をコードする遺伝子及びCAS (cycloartenol synthase)をコードする遺伝子の遺伝子群が導入されたファルネシル二リン酸産生能を持つ大腸菌宿主を培養し、培養後の大腸菌宿主からシクロアルテノールまたはその代謝物を抽出する、
又は、
Idi (isopentenyl diphosphateisomerase) をコードする遺伝子、SQE (squalene epoxidase) をコードする遺伝子、及びCAS (cycloartenol synthase)をコードする遺伝子の遺伝子群が導入されたスクアレン産生能を持つ大腸菌宿主を培養し、培養後の大腸菌宿主からシクロアルテノールまたはその代謝物を抽出する、
ことを特徴とするシクロアルテノールまたはその代謝物の生産方法。
【請求項4】
2,3−オキシドスクアレンまたはその代謝物の生産方法であって、
Idi (isopentenyl diphosphateisomerase) をコードする遺伝子、SQS (squalene synthase) をコードする遺伝子及びSQE (squalene epoxidase) をコードする遺伝子群が導入されたファルネシル二リン酸産生能を持つ大腸菌宿主を培養し、培養後の大腸菌宿主から2,3−オキシドスクアレンまたはその代謝物を抽出する、
又は、
Idi (isopentenyl diphosphateisomerase) をコードする遺伝子、SQE (squalene epoxidase) をコードする遺伝子群が導入されたスクアレン産生能を持つ大腸菌宿主を培養し、培養後の大腸菌宿主から2,3−オキシドスクアレンまたはその代謝物を抽出する、
ことを特徴とする2,3−オキシドスクアレンまたはその代謝物の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの健康への有用性が期待されるトリテルペンを、宿主を用いて生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリテルペン(triterpene;トリテルペノイド)は、炭素数5のイソプレン単位6個から構成される、炭素数30の基本骨格を持つ多様な天然有機化合物群である。トリテルペンの生合成については、まず、SQS (squalene synthase) によりファルネシル二リン酸(farnesyl diphosphate; FPP)2分子から炭素数30の直鎖状イソプレンであるスクアレン(squalene)が合成され、さらに、SQE (squalene epoxidase) により2,3-オキシドスクアレン(2,3-oxidosqualene)が合成される。次に、OSC (oxidosqualene cyclase;2,3-oxidosqualene-triterpene cyclaseまたはtriterpene synthaseとも言う) と総称される様々なオキシドスクアレン環化酵素により、種々の多環化した骨格を持つトリテルペンが合成され、さらに水酸化や糖付加反応を経て多様な化合物群が合成される(非特許文献1)。なお、糖が付加されたトリテルペンはサポニン(saponin)と呼ばれている。植物は多様なトリテルペンを生産でき、例を挙げると、β-アミリン(β-amyrin)、グリチルリチン(glycyrrhizin;カンゾウの根)、プラチコジン(platycodin;キキョウの根)、ジンセノサイド(ginsenoside;オタネニンジンの根)、ジゴキシン(digoxin;ジギタリス)等がある。また、トリテルペンの1種であるステロールは全ての真核生物(eukaryote)に含まれており、動物や真核微生物(酵母やカビ)では、ラノステロール(lanosterol)を経由して、コレステロール(cholesterol)やエルゴステロール(ergosterol)が生合成され、植物では、シクロアルテノール(cycloartenol)を経由してβ-シトステロール(β-sitosterol)等が生合成される(非特許文献1)。
なお、細菌(原核生物:prokaryote)は一般にステロールを生産しないが、例外的に、メタン資化細菌(methanotroph)であるメチロコッカス・カプスラタス(Methylococcus capsulatus)といった一部の細菌は、ラノステロールを経由して特殊なステロールを生合成できる(非特許文献2)。このステロールの生合成遺伝子群は、祖先の真核生物から水平伝播により獲得したものと考えられた(非特許文献2)。
また、ザイモモナス・モービリス(Zymomonas mobilis)やアリシクロバチルス・アシドカルダリウス(Alicyclobacillus acidocaldarius)及びシアノバクテリア(Cyanobacteria;ラン藻)など細菌の一部は、ホペン(hopene)由来のトリテルペン(ホパノイド)を生産できる(非特許文献3)。なお、ホペンの生合成経路は例外的であり、スクアレン-ホペン環化酵素(squalene-hopene cyclase)によりスクアレンから直接ホペンが合成され、2,3-オキシドスクアレンを経由しない(非特許文献3)。大腸菌(Escherichia coli)等の多くの細菌はステロールやホパノイド等のトリテルペンを一切、生合成できない。植物のトリテルペンは、生薬成分として多様な生理活性を持ち、ヒトの健康に重要であることがわかっている。たとえば、グリチルリチンは甘味料のほか、抗炎症・抗アレルギー作用を持つ医薬品として、ジンセノサイドは滋養強壮、鎮静、抗糖尿病作用を持つ漢方薬として、ジゴキシンは研究用試薬のほか、強心作用のある医薬品として用いられている(非特許文献1)。トリテルペンは一般に、特定の生薬・薬用植物の根などに微量にしか含まれていないため、大量に調製するのは困難であった。
【0003】
植物におけるトリテルペン生合成経路および生合成系遺伝子については、まだまだ不明な部分も多いが、初期段階の反応については明らかとなっている。今日では、関連の生合成遺伝子などを利用した代謝工学{pathway engineering;先端(モダン)バイオテクノロジーの一技術分野}により、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)を用いてβ-アミリン、さらにはグリチルレチン酸(glycyrrhetinic acid;グリチルリチンの前駆体)などの生産が可能となっている(非特許文献4)。しかしながら、取り扱いの容易さや生産性を考えると、大腸菌にトリテルペンを生産させることが望まれていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】P. M. Dewick, Medicinal Natural Products, A Biosynthetic Approach, 3rd edition, A John Wiley and Sons, UK, 2009.
【非特許文献2】C. Nakano, A. Motegi, T. Sato, M. Onodera, T. Hoshino, Biosci. Biotechnol. Biochem. 71: 2543-2550, 2007
【非特許文献3】E. L. Kannenberg, K. Poralla, Natur Wissenschaften 86: 168-176, 1999
【非特許文献4】關光, 村中俊哉, 生物工学 89: 656-659, 2011
【非特許文献5】A. Katabami, L. Li. M. Iwasaki, M. Furubayashi, K. Saito, D. Umeno, J. Biosci. Bioeng. 119: 165-171, 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまでに、様々な生物由来のスクアレンシンターゼ (スクアレン合成酵素;squalene synthase: SQS) をコードする遺伝子(SQS)を大腸菌に導入することにより、FPPからスクアレンを合成できることが報告されている(非特許文献5)。次に、このスクアレン生産大腸菌に、スクアレンエポキシダーゼ (スクアレンエポキシ化酵素;squalene epoxidase: SQE) をコードする遺伝子(SQE)を導入し、この遺伝子を機能発現させれば、2,3-オキシドスクアレンができるはずであるが、これまでのところ、SQE遺伝子が大腸菌の中で発現して2,3-オキシドスクアレンを合成できたという報告は無い。2,3-オキシドスクアレンは、全ての環化トリテルペンの共通の前駆体であるため、2,3-オキシドスクアレンの大腸菌内での生合成に成功すれば、多様なトリテルペンの大腸菌での生産が可能になる。このため、SQE遺伝子を大腸菌の中で機能発現させる技術が求められていた。
【0006】
本発明は、これまで大腸菌において生成できなかった環化トリテルペンの前駆体である2,3-オキシドスクアレンの生成及び基質としての利用を可能にすることにより自然界に微量にしか存在せず、ヒトの健康への有用性が期待されるトリテルペンを、大腸菌を用いて生産する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を行った結果、Idi{isopentenyl diphosphate (IPP) isomerase}をコードする遺伝子 (idi)、SQS (squalene synthase) をコードする遺伝子 (SQS)、及びSQE (squalene epoxidase) をコードする遺伝子 (SQE) と、OSC (oxidosqualene cyclase)の1種であるbAS (β-amyrin synthase) をコードする遺伝子 (bAS) を組み合わせて大腸菌に導入して発現させると、トリテルペンであるβ-アミリンが生産されること、さらにその際、電子伝達系タンパク質をコードする遺伝子及び/又はNADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子を共に導入して共発現させると、β-アミリンが、より効率的に生産されることを見出し、課題を解決するに至った。
なお、β-アミリンは、前述したグリチルレチン酸、グリチルリチン、プラチコジンのほか、サイコサポニン(saikosaponin;サイコ由来)やセネギン(senegin;セネガ由来)等の多くの機能性トリテルペンの共通の基質であるため(非特許文献1)、これらのトリテルペンの大腸菌での生産の道を開くものである。なお、グリチルレチン酸は、カンゾウ由来の2つのシトクロムP450であるCYP88D6及びCYP72A154の働きにより、β-アミリンから11-オキソ-β-アミリン(11-oxo-β-amyrin)を経て生合成される(非特許文献4)。
さらに発明者らは、idi遺伝子、SQS遺伝子、及びSQE遺伝子と、OSCの1種であるCAS (cycloartenol synthase) をコードする遺伝子(CAS) を組み合わせて大腸菌に導入して発現させると、トリテルペンであるシクロアルテノールが生産されること、さらにその際、電子伝達系タンパク質をコードする遺伝子及びNADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子を共に導入して共発現させると、シクロアルテノールが、より効率的に生産されることを見出し、解決した課題を補強するに至った。
上記の結果はまた、発明者にとっても驚くべき、且つ、予想できない内容であった。それは、大腸菌内でFPP産生能を増やす働きをするidi遺伝子(S. Kajiwara et al, Biochemical J. 324: 421-426, 1997)に加えて、FPPからβ-アミリンまたはシクロアルテノールの合成に必要な3遺伝子、すなわちSQSSQE、及びbAS若しくはCAS遺伝子を大腸菌に導入して発現させるだけで、β-アミリンまたはシクロアルテノールが生成したという事実である。電子伝達系タンパク質遺伝子またはNADPH再生系タンパク質遺伝子の導入は、大腸菌でのβ-アミリンやシクロアルテノールの合成に必須では無かったのである。β-アミリンやシクロアルテノールの生成に成功したということは、idiSQS及びSQE遺伝子が導入された大腸菌は、β-アミリンやシクロアルテノールの基質である2,3-オキシドスクアレンを生合成できることを意味している。これまで、大腸菌での2,3-オキシドスクアレンの合成の報告が皆無であったことを考えあわせて上記の結果を考察すると、2,3-オキシドスクアレンのようなエポキシ化合物は一般に不安定であり、大腸菌内では特に不安定であり、今回、bASまたはCAS遺伝子を共導入したことにより、不安定な2,3-オキシドスクアレンがすぐにβ-アミリンまたはシクロアルテノールに変換されたという可能性が考えられる。この考察が正しければ、bASCAS遺伝子に限らず、任意のOSC (oxidosqualene cyclase) 遺伝子を用いることができることを意味している。例えば、β-アミリンやシクロアルテノールとは別の環化骨格構造を持つダマレンジオール-II(dammarenediol-II)や他のステロール(ラノステロール等)などを合成するOSC遺伝子を用いることができる。なお、ダマレンジオール-IIはジンセノサイドの前駆体である。オタネニンジン由来のCYP716A47によりダマレンジオール-IIがプロトパナキサジオール(protopanaxadiol)に変換され(参照:J.Y. Han et al, Plant Cell Physiol. 52: 2062-2073, 2011)、幾つかの反応を経てジンセノサイドが生合成される。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.トリテルペンの製造方法であって、
Idi (isopentenyl diphosphate isomerase) をコードする遺伝子、SQS (squalene synthase) をコードする遺伝子、SQE (squalene epoxidase) をコードする遺伝子及びOSC (oxidosqualene cyclase)をコードする遺伝子の遺伝子群が導入されたファルネシル二リン酸産生能を持つ宿主を培養し、培養後の宿主からトリテルペンを抽出する、
又は、
Idi (isopentenyl diphosphate isomerase) をコードする遺伝子、SQE (squalene epoxidase) をコードする遺伝子、及びOSC (oxidosqualene cyclase)をコードする遺伝子の遺伝子群が導入されたスクアレン産生能を持つ宿主を培養し、培養後の宿主からトリテルペンを抽出する、
ことを特徴とするトリテルペンの生産方法。
2.さらに、電子伝達系タンパク質をコードする遺伝子及び/又はNADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子が前記宿主に導入されていることを特徴とする前項1に記載の生産方法。
3.OSC (oxidosqualene cyclase)がbAS (β-amyrin synthase)であることを特徴とする前項1又は2に記載の生産方法。
4.前記トリテルペンは、β-アミリンである前項1〜3のいずれか1つに記載の生産方法。
5.OSC (oxidosqualene cyclase)がCAS (cycloartenol synthase)であることを特徴とする前項1又は2に記載の生産方法。
6.前記トリテルペンは、シクロアルテノールである前項1、2及び5のいずれか1つに記載の生産方法。
7.前記宿主は、大腸菌である前項1〜6のいずれか1つに記載の生産方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、トリテルペン(特に、β-アミリンやシクロアルテノール)を宿主により生産することができる。これにより、自然界に微量にしか存在せず、ヒトの健康への有用性が期待されるトリテルペンを効率よく供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】トリテルペンを生合成する大腸菌の例として、スクアレン(squalene)合成酵素(スクアレンシンターゼ;SQS)、スクアレンエポキシ化酵素(スクアレンエポキシダーゼ;SQE)、及びβ-アミリン(β-amyrin)合成酵素(bAS)若しくはシクロアルテノール(cycloartenol)合成酵素(CAS)の各酵素をコードする遺伝子が導入され発現した遺伝子組換え大腸菌におけるトリテルペンの生合成経路及び各種トリテルペン合成酵素の機能を示す図である。さらに、イソペンテニル二リン酸イソメラーゼ(IPPイソメラーゼ;Idi)、及び電子伝達系タンパク質及び/又はNADPH再生系タンパク質の各酵素をコードする遺伝子を共導入し共発現することにより、大腸菌におけるトリテルペンの生産量を上げることができる。
図2】遺伝子組換え大腸菌から抽出されたトリテルペンのGC-MS分析結果を示す図である。(A)−(D)はそれぞれ、(A) pAC-PT-Hpidi/AtSQS/AtSQE + pETD-bAS + CDFD-gdh + RSFD-camAB, (B) pAC-PT-Hpidi/AtSQS/AtSQE + pETD-bAS + CDFD-gdh + RSFD-AtATR2, (C) pAC-PT-Hpidi/AtSQS/AtSQE + pETD-bAS + CDFD-zwf + RSFD-camAB及び(D) pAC-PT-Hpidi/AtSQS/AtSQE + pETD-bAS + CDFD-zwf + RSFD-AtATR2の組み合わせのプラスミドを導入した大腸菌における結果である。それぞれ、左側がM9培地で培養した場合、右側が2YT(2 x YT)培地で培養した場合の、大腸菌のトリテルペン分析結果である。ピーク1:スクアレン、ピーク2:β-アミリン。(E) (A)左のβ-アミリンのピークのマススペクトル。(F) β-アミリン標品のマススペクトル。
図3】大腸菌形質転換用ベクター、(A) pETDuet-1, (B) RSFDuet-1, (C) CDFDuet-1及び(D) pAC-PTの構造を示す図である。
図4】大腸菌形質転換用プラスミド(A) pETD-bAS, (B) RSFD-camAB, (C) RSFD-AtATR2, (D) CDFD-zwf (gdh), (E) pAC-PT-Hpidi/AtSQS/AtSQE及び(F) pETD-AtCAS1の構造を示す図である。
図5】遺伝子組換え大腸菌から抽出されたトリテルペンのGC-MS分析結果を示す図である。(A) pAC-PT-Hpidi/AtSQS/AtSQE + pETD-AtCAS1の2つのプラスミドを導入した大腸菌抽出物のガスクロマトグラム。ピーク1:スクアレン、ピーク2:シクロアルテノール。(B) ピーク2のマススペクトル。(C) シクロアルテノール標品のマススペクトル。(D) シクロアルテノール標品のガスクロマトグラム。(E) pAC-PT-Hpidi/AtSQS/AtSQE + pETD-AtCAS1の2つのプラスミドを導入した大腸菌抽出物のガスクロマトグラム{(A)のピーク2付近を拡大したもの}。(F) シクロアルテノール標品{(D)のサンプル}と{(E)のサンプル}を重ね打ちしたもののガスクロマトグラム。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0012】
(トリテルペンを産生する宿主)
本発明において原料として用いられるトリテルペンを産生する宿主は、トリテルペン生合成酵素をコードする外来性の遺伝子群に加えて、好ましくは、電子伝達系タンパク質をコードする外来性の遺伝子及び/又はNADPH再生系タンパク質をコードする外来性の遺伝子が導入された遺伝子組換え宿主のことである。
具体的には、下記を列挙するが、特に限定されない。
(1)Idi (IPP isomerase) をコードする遺伝子、SQS (squalene synthase) をコードする遺伝子、SQE (squalene epoxidase) をコードする遺伝子に加えて、電子伝達系タンパク質をコードする遺伝子及び/又はNADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子の遺伝子群が導入されたファルネシル二リン酸産生能を持つ宿主。
(2)Idi (IPP isomerase) をコードする遺伝子、SQE (squalene epoxidase) をコードする遺伝子に加えて、電子伝達系タンパク質をコードする遺伝子及び/又はNADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子の遺伝子群が導入されたスクアレン産生能を持つ宿主。
宿主としては、組換え大腸菌、昆虫系、酵母系、植物細胞系、無細胞系(コムギ胚芽等)等を使用することができるが、特に好ましいのはトリテルペンを産生する大腸菌である。なお、トリテルペンを産生する大腸菌とは、トリテルペン生合成酵素をコードする外来性の遺伝子群が導入された遺伝子組換え大腸菌のことである。
【0013】
(トリテルペン生合成酵素遺伝子群)
トリテルペン生合成酵素遺伝子群は、以下の遺伝子を例示するが、特に限定されない。
(1)ファルネシル二リン酸(farnesyl diphosphate; FPP)からスクアレンを合成する酵素であるスクアレン合成酵素(SQS)をコードする遺伝子
(2)スクアレンから2,3-オキシドスクアレンを合成する酵素であるスクアレンエポキシダーゼ(SQE)をコードする遺伝子
(3)2,3-オキシドスクアレンからβ-アミリンを合成する酵素であるβ-アミリン合成酵素(bAS)をコードする遺伝子
(4)β-アミリンから11-オキソ-β-アミリン(11-oxo-β-amyrin)を合成する酵素(シトクロムP450)であるCYP88D6をコードする遺伝子
(5)β-アミリンから11-オキソ-β-アミリンを経てグルチルレチン酸を合成する2種の酵素であるCYP88D6及びCYP72A154をコードする遺伝子
(6)2,3-オキシドスクアレンからラノステロールを合成する酵素であるlanosterol synthase をコードする遺伝子
(7)2,3-オキシドスクアレンからシクロアルテノールを合成する酵素であるcycloartenol synthase(CAS)をコードする遺伝子
(8)2,3-オキシドスクアレンからダマレンジオール-IIを合成する酵素であるdammarenediol-II synthaseをコードする遺伝子
(9)2,3-オキシドスクアレンからプロトパナキサジオールを合成する酵素である2種のダマレンジオール-II及び CYP716A47をコードする遺伝子
さらに、本発明では、好ましくは、電子伝達系タンパク質をコードする遺伝子とNADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子を宿主に導入する。
以下、トリテルペン生合成に関与する酵素遺伝子群について、以下に説明する。
【0014】
{スクアレンエポキシダーゼ遺伝子(SQE)}
スクアレンをエポキシ化し、2,3-オキシドスクアレンを合成するのに必要な酵素遺伝子については、上述したように、スクアレンエポキシダーゼをコードする遺伝子が好適である。スクアレンエポキシダーゼ遺伝子として、シロイヌナズナから単離されたAtSQEなどが知られている。好ましくは、少なくともスクアレンエポキシダーゼ遺伝子を用いる。より好ましくは、シロイヌナズナ由来のスクアレンエポキシダーゼをコードする遺伝子配列を用いる。しかし必ずしもこれと同じSQE遺伝子配列を用いる必要はなく、他の生物由来のスクアレンエポキシダーゼを用いてもよい。
スクアレンエポキシダーゼをコードする遺伝子としては、シロイヌナズナ由来のスクアレンエポキシダーゼ(例えば、配列番号4に記載のアミノ酸配列又は配列番号4に記載のアミノ酸配列と相同性がアミノ酸配列の全体で70%以上、好ましくは80%、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上同一であるアミノ酸配列でありかつスクアレンをエポキシ化し、2,3-オキシドスクアレンを合成する活性を有する)をコードする遺伝子が好ましく、このような遺伝子として、例えば、配列番号3の塩基配列を含むDNAがより好ましい。
また、スクアレンエポキシダーゼをコードする遺伝子として、配列番号3の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつスクアレンをエポキシ化し、2,3-オキシドスクアレンを合成する活性を有するポリペプチドをコードするDNAも、好適に用いられる。また、このようなDNA配列として、配列番号3の塩基配列からなるDNAと通常約90%以上、好ましくは約95%、より好ましくは約98%以上の配列同一性を有し、かつスクアレンをエポキシ化し、2,3-オキシドスクアレンを合成する活性を有するポリペプチドをコードするDNAが好適に用いられる。
本明細書中において「ストリンジェントな条件」は、一般的な条件、例えば、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, 1989, Vol2, p11.45に記載された条件を指す。具体的には、完全ハイブリッドの融解温度(Tm)より5〜10℃低い温度でハイブリダイゼーションが起こる場合を指す。
【0015】
{IPPイソメラーゼ遺伝子(idi)}
イソペンテニル二リン酸(IPP)イソメラーゼ(IdiまたはIDIと記載;IPP isomerase)によりIPPとジメチルアリル二リン酸(DMAPP)の量比が調整される。Idi(IDI)には互いに構造が異なる、1型(type 1)と2型(type 2)のものが存在している。2型のidi遺伝子は、α-プロテオバクテリア綱又はγ-プロテオバクテリア綱に属するカロテノイド産生細菌が有するカロテノイド生合成遺伝子群(carotenoid biosynthesis gene cluster)の中に時々一緒に存在している(三沢典彦, オレオサイエンス 9 (9): 385-391, 2009)。1型、2型にかかわらず、idi遺伝子をカロテノイドやセスキテルペンといったテルペンの生合成遺伝子と共に大腸菌に導入して発現させると、idi遺伝子を導入しない場合と比べて、テルペンの生産量が上昇することがわかっている(S. Kajiwara, P.D. Fraser, K. Kondo and N. Misawa, Biochem J., 324, 421-426. 1997)。本発明で用いられる遺伝子組換え大腸菌は、前記トリテルペン生合成に関与する酵素遺伝子に加えて、IPPイソメラーゼをコードする遺伝子を導入することにより得られる遺伝子組換え大腸菌であることが好ましい。
本発明者らは、下記実施例では一例として1型のidi遺伝子を用いた。具体的には、Haematococcus pluvialus由来のIdiをコードする遺伝子配列(配列情報はDDBJ アクセッション番号 AB019034に記載)を用いた。すなわち、実施例では、このidi遺伝子を前述した遺伝子配列とともに大腸菌に導入し、トリテルペンを産生する遺伝子組換え大腸菌を得た。前記Haematococcus pluvialus由来のIPPイソメラーゼ(Idi)をコードする遺伝子配列(DDBJ アクセッション番号 AB019034)を配列番号5に、また、Haematococcus pluvialus由来のIPPイソメラーゼ(Idi)のアミノ酸配列を配列番号6に、それぞれ示す。
また、イソペンテニル二リン酸(IPP)イソメラーゼをコードする遺伝子として、配列番号5の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつIPPをジメチルアリル二リン酸(DMAPP)に変換するイソメラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA等も好適に用いられる。また、このようなDNAとして、例えば、配列番号5の塩基配列からなるDNAと通常約90%以上、好ましくは約95%以上、より好ましくは約98%以上の配列同一性を有し、かつIPPをDMAPPに変換するイソメラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNAが好適に用いられる。
【0016】
(電子伝達系タンパク質をコードする遺伝子)
電子伝達系タンパク質遺伝子として、Pseudomonas putidaから単離されたcamABcamA&camB)やシロイヌナズナから単離されたAtATR2(NADPH-cytochrome P450 reductase 2)などが知られている。好ましくは、少なくとも電子伝達系タンパク質を用いる。より好ましくは、Pseudomonas putidaから単離されたCamAとCamBまたはシロイヌナズナから単離されたAtATR2をコードする遺伝子配列を用いる。しかし必ずしもこれと同じ遺伝子配列を用いる必要はなく、他の生物由来の電子伝達系タンパク質を用いてもよい。
電子伝達系タンパク質をコードする遺伝子としては、Pseudomonas putidaから単離されたCamAB(配列番号12に記載のアミノ酸配列又は配列番号12に記載のアミノ酸配列と相同性がアミノ酸配列の全体で70%以上、好ましくは80%、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上同一であるアミノ酸配列でありかつ電子を伝達する活性を有する)やシロイヌナズナから単離されたAtATR2(配列番号10に記載のアミノ酸配列又は配列番号10に記載のアミノ酸配列と相同性がアミノ酸配列の全体で70%以上、好ましくは80%、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上同一であるアミノ酸配列でありかつ電子を伝達する活性を有する)をコードする遺伝子が好ましく、このような遺伝子として、例えば、配列番号11あるいは配列番号9の塩基配列を含むDNAがより好ましい。
また、電子伝達系タンパク質をコードする遺伝子として、配列番号9あるいは11の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ電子を伝達する活性を有するポリペプチドをコードするDNAも、好適に用いられる。また、このようなDNA配列として、配列番号9あるいは11の塩基配列からなるDNAと通常約90%以上、好ましくは約95%、より好ましくは約98%以上の配列同一性を有し、かつ電子を伝達する活性を有するポリペプチドをコードするDNAが好適に用いられる。
【0017】
(NADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子)
NADPH再生系タンパク質遺伝子として、大腸菌から単離されたzwfや枯草菌(Bacillus subtilis)から単離されたgdhなどが知られている。好ましくは、少なくともNADPH再生系タンパク質を用いる。より好ましくは、大腸菌から単離されたZwfやBacillus subtilisから単離されたGdhをコードする遺伝子配列を用いる。しかし必ずしもこれと同じ遺伝子配列を用いる必要はなく、他の生物由来のNADPH再生系タンパク質を用いてもよい。
NADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子としては、大腸菌から単離されたZwf(配列番号14に記載のアミノ酸配列又は配列番号14に記載のアミノ酸配列と相同性がアミノ酸配列の全体で70%以上、好ましくは80%、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上同一であるアミノ酸配列でありかつNADPHを再生する活性を有する)やBacillus subtilisから単離されたGdh(配列番号16に記載のアミノ酸配列又は配列番号16に記載のアミノ酸配列と相同性がアミノ酸配列の全体で70%以上、好ましくは80%、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上同一であるアミノ酸配列でありかつNADPHを再生する活性を有する)をコードする遺伝子が好ましく、このような遺伝子として、例えば、配列番号13あるいは配列番号15の塩基配列を含むDNAがより好ましい。
また、NADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子として、配列番号13あるいは15の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつNADPHを再生する活性を有するポリペプチドをコードするDNAも、好適に用いられる。また、このようなDNA配列として、配列番号13あるいは15の塩基配列からなるDNAと通常約90%以上、好ましくは約95%、より好ましくは約98%以上の配列同一性を有し、かつNADPHを再生する活性を有するポリペプチドをコードするDNAが好適に用いられる。
【0018】
{スクアレン合成酵素遺伝子(SQS)}
スクアレンを合成するのに必要な酵素遺伝子については、上述したように、スクアレン合成酵素をコードする遺伝子が好適である。スクアレン合成酵素遺伝子として、シロイヌナズナから単離されたAtSQSなどが知られている。好ましくは、少なくともスクアレン合成酵素を用いる。より好ましくは、シロイヌナズナから単離されたAtSQSをコードする遺伝子配列を用いる。しかし必ずしもこれと同じ遺伝子配列を用いる必要はなく、他の生物由来のスクアレン合成酵素を用いてもよい。
スクアレン合成酵素をコードする遺伝子としては、シロイヌナズナから単離されたAtSQS(配列番号2に記載のアミノ酸配列又は配列番号2に記載のアミノ酸配列と相同性がアミノ酸配列の全体で70%以上、好ましくは80%、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上同一であるアミノ酸配列でありかつファルネシル二リン酸からスクアレンを合成する活性を有する)をコードする遺伝子が好ましく、このような遺伝子として、例えば、配列番号1の塩基配列を含むDNAがより好ましい。
また、スクアレン合成酵素をコードする遺伝子として、配列番号1の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつファルネシル二リン酸からスクアレンを合成する活性を有するポリペプチドをコードするDNAも、好適に用いられる。また、このようなDNA配列として、配列番号1の塩基配列からなるDNAと通常約90%以上、好ましくは約95%、より好ましくは約98%以上の配列同一性を有し、かつファルネシル二リン酸からスクアレンを合成する活性を有するポリペプチドをコードするDNAが好適に用いられる。
【0019】
{オキシドスクアレン環化酵素(OSC、oxidosqualene cyclase)}
本発明で使用するオキシドスクアレン環化酵素{OSC (oxidosqualene cyclase) }は、特に限定されないが、以下を例示することができる。
【0020】
{β-アミリン合成酵素遺伝子(bAS)}
β-アミリン合成に必要な酵素遺伝子としては、上述したように、β-アミリン合成酵素をコードする遺伝子が好適である。β-アミリン合成酵素遺伝子として、Euphorbia tirucalliから単離されたbASなどが知られている。好ましくは、少なくともβ-アミリン合成酵素を用いる。より好ましくは、Euphorbia tirucalliから単離されたbASをコードする遺伝子配列を用いる。しかし必ずしもこれと同じ遺伝子配列を用いる必要はなく、他の生物由来のβ-アミリン合成酵素を用いてもよい。
β-アミリン合成酵素をコードする遺伝子としては、Euphorbia tirucalliから単離されたbAS(配列番号8に記載のアミノ酸配列又は配列番号8に記載のアミノ酸配列と相同性がアミノ酸配列の全体で70%以上、好ましくは80%、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上同一であるアミノ酸配列でありかつ2,3-オキシドスクアレンからβ-アミリンを合成する活性を有する)をコードする遺伝子が好ましく、このような遺伝子として、例えば、配列番号7の塩基配列を含むDNAがより好ましい。
また、β-アミリン合成酵素をコードする遺伝子として、配列番号7の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ2,3-オキシドスクアレンからβ-アミリンを合成する活性を有するポリペプチドをコードするDNAも、好適に用いられる。また、このようなDNA配列として、配列番号7の塩基配列からなるDNAと通常約90%以上、好ましくは約95%、より好ましくは約98%以上の配列同一性を有し、かつ2,3-オキシドスクアレンからβ-アミリンを合成する活性を有するポリペプチドをコードするDNAが好適に用いられる。
【0021】
(CYP88D6遺伝子)
β-アミリンから11-オキソ-β-アミリン(11-oxo-β-amyrin)を合成するのに必要な酵素遺伝子としては、シトクロムP450であるCYP88D6遺伝子(参照:非特許文献4)を例示することができる。
【0022】
(CYP88D6遺伝子及びCYP72A154遺伝子)
β-アミリンから11-オキソ-β-アミリンを経てグルチルレチン酸を合成するのに必要な酵素群の遺伝子群としては、CYP88D6遺伝子及びCYP72A154遺伝子(参照:非特許文献4)を例示することができる。
【0023】
(lanosterol synthase遺伝子)
2,3-オキシドスクアレンからラノステロールを合成するのに必要な酵素遺伝子としては、lanosterol synthase遺伝子(例:シロイヌナズナLAS1、参照: M. Suzuki et al, Plant Cell Physiol. 47: 565-571, 2006)を例示することができる。
【0024】
{cycloartenol synthase(シクロアルテノール合成酵素)遺伝子(CAS)}
2,3-オキシドスクアレンからシクロアルテノールを合成するのに必要な酵素遺伝子としては、cycloartenol synthase(CAS)遺伝子 (例:シロイヌナズナCAS1、参照: M. Suzuki et al, Plant Cell Physiol. 47: 565-571, 2006) を例示することができる。好ましくは、少なくともcycloartenol synthaseを用いる。より好ましくは、シロイヌナズナから単離されたCAS1をコードする遺伝子配列を用いる。しかし必ずしもこれと同じ遺伝子配列を用いる必要はなく、他の生物由来のcycloartenol synthaseを用いてもよい。
cycloartenol synthaseをコードする遺伝子としては、シロイヌナズナから単離されたcycloartenol synthase(配列番号34に記載のアミノ酸配列又は配列番号34に記載のアミノ酸配列と相同性がアミノ酸配列の全体で70%以上、好ましくは80%、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上同一であるアミノ酸配列でありかつ2,3-オキシドスクアレンからシクロアルテノールを合成する活性を有する)をコードする遺伝子が好ましく、このような遺伝子として、例えば、配列番号33の塩基配列を含むDNAがより好ましい。
また、cycloartenol synthaseをコードする遺伝子として、配列番号33の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ2,3-オキシドスクアレンからシクロアルテノールを合成する活性を有するポリペプチドをコードするDNAも、好適に用いられる。また、このようなDNA配列として、配列番号33の塩基配列からなるDNAと通常約90%以上、好ましくは約95%、より好ましくは約98%以上の配列同一性を有し、かつ2,3-オキシドスクアレンからシクロアルテノールを合成する活性を有するポリペプチドをコードするDNAが好適に用いられる。
【0025】
(dammarenediol-II synthase遺伝子)
2,3-オキシドスクアレンからダマレンジオール-IIを合成するのに必要な酵素遺伝子としては、dammarenediol-II synthase遺伝子{例:オタネニンジン (Panax ginseng) のPNA、参照:P. Tansakul et al, FEBS Lett. 580: 5143-5149, 2006)}を例示することができる。
【0026】
(dammarenediol-II synthase遺伝子及びCYP716A47遺伝子)
2,3-オキシドスクアレンからプロトパナキサジオールを合成するのに必要な酵素群の遺伝子群としては、dammarenediol-II synthase遺伝子及び CYP716A47遺伝子(参照:J.Y. Han et al, Plant Cell Physiol. 52: 2062-2073, 2011)を例示することができる。
【0027】
(大腸菌形質転換ベクター)
前記トリテルペンを合成する酵素遺伝子は、公知の方法により、例えば、大腸菌に導入される。大腸菌への外来性遺伝子の導入方法は特に限定されず、例えば、導入したい外来性遺伝子を、公知の方法により適当なプロモータとターミネータの利用により発現する形にして大腸菌の形質転換用ベクターに挿入してプラスミドを作製し、該プラスミドを大腸菌の細胞に導入すればよい。複数の遺伝子を導入する場合、それらの遺伝子は、1つの形質転換用ベクターにより導入されてもよく、それぞれ異なる形質転換用ベクターにより導入されてもよい。
大腸菌の形質転換用ベクターは、導入遺伝子の数や種類等により適宜選択すればよいが、大腸菌のタンパク質発現用ベクター等が好ましく、例えば、pETDuet-1やRSFDuet-1(図3)等が挙げられる。また、プロモータは、大腸菌中で発現できるものであればいずれを用いてもよい。例えば、T7プロモータ、lacZプロモータ、tacプロモータ等が挙げられる。中でも、導入した遺伝子が大腸菌において高発現することが好ましいことから、tacプロモータがより好ましい。また、導入した遺伝子が大腸菌において一過的に発現することが好ましい場合は、誘導プロモータを用いることが好ましく、IPTG等による誘導型T7プロモータ等がより好ましい。ターミネータとしては、導入する遺伝子等により適宜選択することができるが、例えば、T7ターミネータ、rrnBターミネータ等が挙げられる。
また、大腸菌形質転換ベクターにより目的とする外来性遺伝子(例えば、SQEをコードする遺伝子等)が導入された大腸菌細胞を効率よく選抜するために、各種選抜マーカー遺伝子を用いてもよい。選抜マーカー遺伝子は、特に限定されず、自体公知のものを用いてよい。例えば、薬剤耐性を付与する遺伝子を選抜マーカーとして用い、この選抜マーカー遺伝子と前記トリテルペンの生合成に関わる遺伝子とを含むプラスミド等を大腸菌形質転換ベクターとして大腸菌細胞に導入することが好ましい。これによって選抜マーカー遺伝子の発現から効率良く外来性遺伝子が導入された大腸菌細胞を選抜することができる。このような選抜マーカー遺伝子として、例えば、各種の薬剤耐性遺伝子等が挙げられる。より具体的には、例えば、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子等が挙げられる。また、該選抜マーカー遺伝子の上流及び下流には、該遺伝子を発現するためのプロモータ及びターミネータを有することが好ましい。
大腸菌の形質転換用ベクター、及びこれを用いた大腸菌の形質転換法は、公知のものを用いることができる。一例として、β-アミリンを合成する酵素遺伝子を大腸菌に導入するために発明者らが用いた大腸菌形質転換用ベクターを図3に示した。大腸菌の形質転換用ベクターのクローニング部位に、発現させたい外来遺伝子を導入すればよい。プロモータやターミネータは大腸菌で機能するものを用いればよいが、例として、T7プロモータとT7ターミネータを挙げることができる。さらに、プロモータとターミネータに囲まれた薬剤耐性遺伝子を形質転換のマーカー遺伝子として一緒に用いることが好ましい。
【0028】
(大腸菌の形質転換と遺伝子組換え大腸菌の取得)
大腸菌の形質転換は、公知の方法により行うことができる。例えば、導入したい外来遺伝子や選抜マーカー遺伝子(薬剤耐性遺伝子など)を適当なプロモータとターミネータの利用により発現する形にしたDNA断片を作製し、該DNA断片を熱ショック法等により導入すればよい。遺伝子が導入された大腸菌は、薬剤により選抜することにより得られる。
大腸菌に導入した外来性遺伝子が遺伝子組換え大腸菌において発現していることは、例えば、ノザンブロッティング、RT-PCR、ウェスタンブロッティング等の方法により確認することができる。また、該大腸菌においてトリテルペンが産生されていることは、例えば、GC-MS分析等の方法により確認することができる。
【0029】
(遺伝子組換え大腸菌のトリテルペンを製造するための使用)
本発明は、該遺伝子組換え大腸菌から、トリテルペンを製造するための使用も包含する。遺伝子組換え大腸菌やその作製方法等の好ましい態様は、上述した通りであり、スクアレン合成酵素、スクアレンエポキシダーゼ、イソペンテニル二リン酸イソメラーゼ、電子伝達系タンパク質、NADPH再生系タンパク質、β-アミリン合成酵素及びシクロアルテノール合成酵素の各酵素をコードする遺伝子群のうち、そのすべて、または一部の遺伝子群を、大腸菌に導入して得られる遺伝子組換え大腸菌が好ましい。
各遺伝子及びその好ましい態様は、上述した通りである。
作出した遺伝子組換え大腸菌を、通常、培養することにより、該大腸菌内にトリテルペンが産生される。遺伝子組換え大腸菌の培養方法は、特に限定されない。
例えば、遺伝子組換え大腸菌には、トリテルペンとして、通常、β-アミリンまたはシクロアルテノールが含まれる。このため公知の抽出方法により、トリテルペンが得られる。
【0030】
(トリテルペンを産生する宿主)
以下に、大腸菌を宿主の例示として、トリテルペンを産生する宿主を列挙する。
【0031】
2,3-オキシドスクアレンを産生する大腸菌(1)
Idiをコードする遺伝子、SQSをコードする遺伝子、SQEをコードする遺伝子、さらに好ましくは電子伝達系タンパク質をコードする遺伝子及びNADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子を、ファルネシル二リン酸を生産する大腸菌に導入した2,3-オキシドスクアレン産生能を有する大腸菌。
【0032】
2,3-オキシドスクアレンを産生する大腸菌(2)
Idiをコードする遺伝子、SQEをコードする遺伝子、さらに好ましくは電子伝達系タンパク質をコードする遺伝子及びNADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子を、スクアレンを生産する組換え大腸菌に導入した2,3-オキシドスクアレン産生能を有する大腸菌。
【0033】
β-アミリンを産生する大腸菌(1)
Idiをコードする遺伝子、SQSをコードする遺伝子、SQEをコードする遺伝子、bASをコードする遺伝子、さらに好ましくは電子伝達系タンパク質をコードする遺伝子及びNADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子を、ファルネシル二リン酸を生産する大腸菌に導入したβ-アミリン産生能を有する大腸菌。
【0034】
β-アミリンを産生する大腸菌(2)
Idiをコードする遺伝子、SQEをコードする遺伝子、bASをコードする遺伝子、さらに好ましくは電子伝達系タンパク質をコードする遺伝子及びNADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子を、スクアレンを生産する組換え大腸菌に導入したβ-アミリン産生能を有する大腸菌。
【0035】
11-オキソ-β-アミリンを産生する大腸菌(1)
Idiをコードする遺伝子、SQSをコードする遺伝子、SQEをコードする遺伝子、bASをコードする遺伝子、CYP88D6をコードする遺伝子、さらに好ましくは電子伝達系タンパク質をコードする遺伝子及びNADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子を、ファルネシル二リン酸を生産する大腸菌に導入した11-オキソ-β-アミリン産生能を有する大腸菌。
【0036】
11-オキソ-β-アミリンを産生する大腸菌(2)
Idiをコードする遺伝子、SQEをコードする遺伝子、bASをコードする遺伝子、CYP88D6をコードする遺伝子、さらに好ましくは電子伝達系タンパク質をコードする遺伝子及びNADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子を、スクアレンを生産する組換え大腸菌に導入した11-オキソ-β-アミリン産生能を有する大腸菌。
【0037】
グルチルレチン酸を産生する大腸菌(1)
Idiをコードする遺伝子、SQSをコードする遺伝子、SQEをコードする遺伝子、bASをコードする遺伝子、CYP88D6及びCYP72A154をコードする遺伝子、さらに好ましくは電子伝達系タンパク質をコードする遺伝子及びNADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子を、ファルネシル二リン酸を生産する大腸菌に導入したグルチルレチン酸産生能を有する大腸菌。
【0038】
グルチルレチン酸を産生する大腸菌(2)
Idiをコードする遺伝子、SQEをコードする遺伝子、bASをコードする遺伝子、CYP88D6及びCYP72A154をコードする遺伝子、さらに好ましくは電子伝達系タンパク質をコードする遺伝子及びNADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子を、スクアレンを生産する組換え大腸菌に導入したグルチルレチン酸産生能を有する大腸菌。
【0039】
ラノステロールを産生する大腸菌(1)
Idiをコードする遺伝子、SQSをコードする遺伝子、SQEをコードする遺伝子、lanosterol synthase (例:シロイヌナズナLAS1) をコードする遺伝子 (LAS1; M. Suzuki et al, Plant Cell Physiol. 47: 565-571, 2006)、さらに好ましくは電子伝達系タンパク質をコードする遺伝子及びNADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子をコードする遺伝子を、ファルネシル二リン酸を生産する大腸菌に導入したラノステロール産生能を有する大腸菌。
【0040】
ラノステロールを産生する大腸菌(2)
Idiをコードする遺伝子、SQEをコードする遺伝子、lanosterol synthase (例:シロイヌナズナLAS1) をコードする遺伝子、さらに好ましくは電子伝達系タンパク質をコードする遺伝子及びNADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子をコードする遺伝子を、スクアレンを生産する組換え大腸菌に導入したラノステロール産生能を有する大腸菌。
【0041】
シクロアルテノールを産生する大腸菌(1)
Idiをコードする遺伝子、SQSをコードする遺伝子、SQEをコードする遺伝子、cycloartenol synthase (CAS;例:シロイヌナズナCAS1) をコードする遺伝子 (CAS1; M. Suzuki et al, Plant Cell Physiol. 47: 565-571, 2006)、さらに好ましくは電子伝達系タンパク質をコードする遺伝子及びNADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子をコードする遺伝子を、ファルネシル二リン酸を生産する大腸菌に導入したシクロアルテノール産生能を有する大腸菌。
【0042】
シクロアルテノールを産生する大腸菌(2)
Idiをコードする遺伝子、SQEをコードする遺伝子、cycloartenol synthase (CAS;例:シロイヌナズナCAS1) をコードする遺伝子、さらに好ましくは電子伝達系タンパク質をコードする遺伝子及びNADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子をコードする遺伝子を、スクアレンを生産する組換え大腸菌に導入したシクロアルテノール産生能を有する大腸菌。
【0043】
ダマレンジオール-IIを産生する大腸菌(1)
Idiをコードする遺伝子、SQSをコードする遺伝子、SQEをコードする遺伝子、dammarenediol-II synthase{例:オタネニンジン (Panax ginseng) のPNA}をコードする遺伝子(PNA; P. Tansakul et al, FEBS Lett. 580: 5143-5149, 2006)、さらに好ましくは電子伝達系タンパク質をコードする遺伝子及びNADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子をコードする遺伝子を、ファルネシル二リン酸を生産する大腸菌に導入したダマレンジオール-II産生能を有する大腸菌。
【0044】
ダマレンジオール-IIを産生する大腸菌(2)
Idiをコードする遺伝子、SQEをコードする遺伝子、dammarenediol-II synthase{例:オタネニンジン (Panax ginseng) のPNA}をコードする遺伝子、さらに好ましくは電子伝達系タンパク質をコードする遺伝子及びNADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子をコードする遺伝子を、スクアレンを生産する組換え大腸菌に導入したダマレンジオール-II産生能を有する大腸菌。
【0045】
プロトパナキサジオールを産生する大腸菌(1)
Idiをコードする遺伝子、SQSをコードする遺伝子、SQEをコードする遺伝子、dammarenediol-II synthase{例:オタネニンジン (Panax ginseng) のPNA}をコードする遺伝子、CYP716A47をコードする遺伝子(J.Y. Han et al, Plant Cell Physiol. 52: 2062-2073, 2011)、さらに好ましくは電子伝達系タンパク質をコードする遺伝子及びNADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子をコードする遺伝子を、ファルネシル二リン酸を生産する大腸菌に導入したプロトパナキサジオール (protopanaxadiol) 産生能を有する大腸菌。
【0046】
プロトパナキサジオールを産生する大腸菌(2)
Idiをコードする遺伝子、SQEをコードする遺伝子、dammarenediol-II synthase{例:オタネニンジン (Panax ginseng) のPNA}をコードする遺伝子、CYP716A47をコードする遺伝子、さらに好ましくは電子伝達系タンパク質をコードする遺伝子及びNADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子をコードする遺伝子を、スクアレンを生産する組換え大腸菌に導入したプロトパナキサジオール産生能を有する大腸菌。
【0047】
(組換え大腸菌以外の宿主)
本発明のトリテルペン(特に、β-アミリンやシクロアルテノール)の産生方法において、組換え大腸菌以外の宿主としては、昆虫系、酵母系、植物細胞系、無細胞系(コムギ胚芽等)等を使用することができる。
これらの宿主においても、適切な各合成酵素遺伝子(SQSSQE、及びbAS若しくはCAS)、及びidi遺伝子(1型及び/又は2型)等を導入することにより、さらに好ましくは、該適切な各合成酵素遺伝子、idi遺伝子、電子伝達系タンパク質をコードする遺伝子とNADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子等を導入することにより、組換え大腸菌系と同様に、2,3-オキシドスクアレンを経てβ-アミリンまたはシクロアルテノールの製造が可能になる。
すなわち、各宿主に追加で必要な合成酵素遺伝子は、以下の通りである。
酵母系:idiSQSSQE、及びbAS若しくはCAS
昆虫系:idiSQSSQE、及びbAS若しくはCAS
植物系:idiSQSSQE、及びbAS若しくはCAS
ただし、昆虫系、酵母系、植物細胞系(ただし細胞質)、無細胞系(コムギ胚芽等)等の真核生物が宿主の場合、大腸菌と違って、これらの宿主は元々SQSSQE遺伝子を持っているので、この2つの遺伝子の導入は必ずしも必要とされない場合もある。
加えて、パーティクルガンによる葉緑体の形質転換により葉緑体内に、直接、外来遺伝
子を導入し発現させる場合には、適切な各合成酵素遺伝子(SQSSQE、及びbAS若しくはCAS)に加えて、イソペンテニル二リン酸(IPP)イソメラーゼ(idi;1型及び/又は2型)遺伝子を共発現させることにより、目的のトリテルペン生産量が向上することができると考えられる。
【0048】
以下に具体例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例1】
【0049】
(トリテルペン生産用プラスミドの作製)
β-アミリン等のトリテルペン生産用プラスミドを作製した。詳細は、以下の通りである。
【0050】
シロイヌナズナのAtSQS, AtSQE遺伝子の配列は、PCR法によって、下記表1に示すプライマーを用い、シロイヌナズナcDNAより増幅した。増幅した配列をそれぞれ配列番号1、配列番号3に示す。Haematococcus pluvilalis由来のidi遺伝子の配列は、Haematococcus pluvilalisのcDNAよりPCRにより増幅した。増幅した配列を、配列番号5に示す。Euphorbia tirucallibAS遺伝子の配列は、Euphorbia tirucalliのcDNAより増幅した。増幅した配列を、配列番号7に示す。シロイヌナズナ由来のAtATR2遺伝子の配列は、シロイヌナズナcDNAより増幅した。増幅した配列を、配列番号9に示す。Pseudomonas putidaのcamA, camB遺伝子の配列は、Pseudomonas putidaのcDNAより増幅した。増幅した配列を、配列番号11に示す。大腸菌zwf遺伝子の配列は、大腸菌cDNAより増幅した。増幅した配列を、配列番号13に示す。Bacillus subtilisgdh遺伝子の配列は、Bacillus subtilusのcDNAより増幅した。増幅した配列を、配列番号15に示す。AtSQS, AtSQE, idi, bAS, AtATR2, CamAB, zwf, gdh,の塩基配列(配列番号1、3、5、7、9、11、13、15)はそれぞれ、DDBJ アクセッション番号NM_119630, AY099643, AB019034 , AB206469, AF325101, PSECAMABA, ECOZWF, EF626962から入手することができる。
大腸菌形質転換用ベクターとして、pETDuet-1(図3A)、RSFDuet-1(図3B)、CDFDuet-1(図3C)とpAC-PT(図3D)を用いた。NcoIおよびHindIIIで切断したbAS断片を切り出し、ベクターpETDuet-1のNcoI- HindIII部位に挿入し、プラスミドpETD-bASを作製した(図4A)。NcoIおよびBamHIで切断したPseudomonas putidacamAB遺伝子断片を切り出し、ベクターRSFDuet-1のNcoI-BamHI部位に挿入し、プラスミドRSFD-camABを作製した(図4B)。NcoIおよびBamHIで切断したAtATR2断片を切り出し、ベクターRSFDuet-1のNcoI-BamHI部位に挿入し、プラスミドRSFD-AtATR2を作製した(図4C)。NcoIおよびNotIで切断したzwf断片と、NcoIおよびSalIで切断したGdh断片を、それぞれベクターCDFDuet-1のNcoI-NotI部位およびNcoI-SalI部位に挿入し、プラスミドCDFD-zwfとCDFD-Gdhを作製した(図4D)。XhoIおよびKpnIで切断したHpidi/AtSQS/AtSQE断片を、ベクターpAC-PTのXhoI-KpnI部位に挿入し、プラスミドpAC-PT-AtSQS/AtSQEを作製した(図4E)。
【0051】
PCR増幅に用いたプライマーを示す。AtSQEはAtSQEFとAtSQER、AtSQSはAtSQSFとAtSQSR、idiはidiFとidiR、bASはbASFとbASR、AtATR2はAtATR2FとAtATR2R、camABはPpCamABFとPpCamABR、zwfはzwfFとzwfR、gdhはgdhFとgdhRを用いた。
【0052】
【表1】
【実施例2】
【0053】
(β-アミリン生産用大腸菌の形質転換)
実施例1で作製したプラスミドpETD-bAS(図4A), RSFD-camAB(図4B), RSFD-AtATR2(図4C), CDFD-zwf(図4D), CDFD-gdh(図4D)ならびにpAC-PT-Hpidi/AtSQS/AtSQE(図4E)を用いて、大腸菌を公知の方法により形質転換した。詳細は、以下の通りである。
【0054】
大腸菌{BL21(DE3)}を、SOB培地(2%バクトトリプトン、0.5%イーストイクストラクト、10 mM NaCl、2.5 mM KCl、10 mM MgCl2、10 mM MgSO4)で培養した後、TBバッファー(10 mM PIPES (pH6.7), 15 mM CaCl2, 250 mM KCl, 55 mM MnCl2・4H2O)で処理した。そして、実施例1で作製したプラスミドを組み合わせて、処理した大腸菌と混合し、氷上で静置した。42℃の熱ショックをかけた後、SOC培地で培養し、薬剤含有培地に撒いた。一晩培養後、出てきた薬剤耐性コロニーを、形質転換大腸菌(遺伝子組換え大腸菌)として得た。薬剤(抗生物質)としては、テトラサイクリン(15 mg/L)、スペクチノマイシン(100 mg/L)、アンピシリン(40 mg/L)とカナマイシン(40 mg/L) を培地に加えた。
【実施例3】
【0055】
(組換え大腸菌からトリテルペンの抽出とGC-MS分析)
実施例2で得た遺伝子組換え大腸菌を37℃、M9培地(0.6 g/l Na2HPO4, 3 g/l KH2PO4, 0.5 g/l NaCl,1 g/l NH4Cl, 1 mM MgSO4, 0.2% glucose, 10 mg/l Thiamine-HCl, 0.1 mM CaCl2)あるいは2YT培地(1.6%バクトトリプトン、1%イーストイクストラクト、0.5% NaCl)で培養した。その際に、培地は試験管に10 mL入れたものを1本用い、抗生物質を、テトラサイクリン(15 mg/L)、スペクチノマイシン(100 mg/L)、アンピシリン(40 mg/L)とカナマイシン(40 mg/L) を培地に加えた。OD600が0.4-0.6になるまで培養した後、0.05 mMのIPTGを加え、20℃で2晩培養した。培養した菌液を遠心分離し、菌体を得た。菌体にメタノール・クロロフォルム混液(1:1)を加え、15分懸濁した後、遠心分離を行った。上清を別のチューブに移し、菌体に再びメタノール・クロロフォルム混液(1:1)を加え、15分懸濁した後、遠心分離を行った。上清を先ほどのチューブに移し、菌体に再びメタノール・クロロフォルム混液(1:1)を加え、15分懸濁した後、遠心分離を行った。上清を先ほどのチューブに移し、抽出液とした。
上記の抽出溶液をエバポレーターで濃縮乾固した後、メタノールに溶解し、それぞれのトリテルペンをGC-MSにより分離し、分析した。
(GC-MSの条件)
GCカラム:DB-5ms (φ0.25 mm x 30 m, 0.25 μm film thickness) (J W Scientific)
イオン化圧:70 eV
検出範囲:50-550 Da
カラム温度:40℃, 1分→320℃まで上昇(20℃/分)→300℃、15分
テルペンの組成はGC-MSのピーク面積より求めた。また、各ピーク化合物の同定は、標品の保持時間との比較、およびマススペクトルの比較により行った。
【0056】
(トリテルペンのGC-MS分析結果1)
大腸菌に、4つのプラスミドpETD-bAS, RSFD-camAB(AtATR2), CDFD-zwf(gdh)とpAC-PT-Hpidi/AtSQS/AtSQEを導入した遺伝子組換え大腸菌により生産されたトリテルペンのGC-MS分析を行った。その結果、組換え大腸菌のトリテルペン組成は、スクアレンとβアミリンであった。このGC-MS分析の結果を図2に示した。
図2における各ピークは、1: スクアレン, 2: β-アミリンと同定された。
【0057】
4つのプラスミドpETD-bAS, RSFD-camAB, CDFD-gdhとpAC-PT-Hpidi/AtSQS/AtSQEを導入した遺伝子組換え大腸菌を2YT培地で培養した場合、生産されたトリテルペンについて、スクアレンとβ-アミリンの比率は表2のようになった。pAC-PT-idi/AtSQS/AtSQE とpETD-bASは全てに共通しているので、表2には特に記載していない。β-アミリンの占める割合は、遺伝子組換え大腸菌によって異なっていたが、電子伝達系およびNADPH再生系遺伝子を導入しない場合の4.2%と比較して、最大(pAC-PT-Hpidi/AtSQS/AtSQE + pETD-bAS + CDFD-gdh + RSFD-camAB、2YT培地培養)で29.2%に増加した。
【0058】
【表2】
【実施例4】
【0059】
(シクロアルテノール生産用プラスミドの作製と大腸菌の形質転換)
トリテルペンのシクロアルテノール生産用プラスミドを作製した。詳細は、以下の通りである。
シロイヌナズナのCAS1をコードする遺伝子の配列は、PCR法によって、表3に示すプライマーを用い、シロイヌナズナcDNAより増幅した。増幅した配列を配列番号33に示す。AtCAS1の塩基配列(配列番号33)は、DDBJ アクセッション番号U02555から入手することができる。
大腸菌形質転換用ベクターとして、pETDuet-1(図3A)とpAC-PT(図3D)を用いた。実施例1に示したように、プラスミドpAC-PT-Hpidi/AtSQS/AtSQEを作製した(図4E)。BamHIおよびSalIで切断したAtCAS1断片を切り出し、ベクターpETDuet-1のBamHI - SalI部位に挿入し、プラスミドpETD-AtCAS1を作製した(図4F)。
PCR増幅に用いたプライマーを示す。AtCAS1はAtCAS1FとAtCAS1Rを用いた。
【0060】
【表3】
【0061】
(シクロアルテノール生産用大腸菌の形質転換)
作製したプラスミドpETD-AtCAS1(図4F)、及び実施例1で作製したpAC-PT-Hpidi/AtSQS/AtSQE(図4E)を用いて、実施例2と同様に、大腸菌を公知の方法により形質転換した。薬剤(抗生物質)としては、テトラサイクリン(15 mg/L)とアンピシリン(40 mg/L)を培地に加えた。
【実施例5】
【0062】
(組換え大腸菌からシクロアルテノールの抽出とGC-MS分析)
実施例4で得た遺伝子組換え大腸菌を37℃、2YT培地(1.6%バクトトリプトン、1%イーストエクストラクト、0.5% NaCl)で培養した。その際に、培地は試験管に10 mL入れたものを1本用い、抗生物質として、テトラサイクリン(15 mg/L)とアンピシリン(40 mg/L)を培地に加えた。OD600が0.4-0.6になるまで培養した後、0.05 mMのIPTGを加え、20℃で2晩培養した。培養した菌液を遠心分離し、菌体を得た。菌体にメタノール/クロロフォルム混液(2:1)を加え、15分懸濁した後、遠心分離を行った。上清を別のチューブに移し、菌体に再びメタノール/クロロフォルム混液(2:1)を加え、15分懸濁した後、遠心分離を行った。上清を先ほどのチューブに移し、菌体に再びメタノール/クロロフォルム混液(2:1)を加え、15分懸濁した後、遠心分離を行った。上清を先ほどのチューブに移し、抽出液とした。
上記の抽出溶液をエバポレーターで濃縮乾固した後、メタノールに溶解したサンプル(トリテルペンを含む)をGC-MSにより分離し、分析した。
(GC-MSの条件)
GCカラム: DB-5ms (φ0.25 mm x 30 m, 0.25 μm film thickness) (J W Scientific)
イオン化圧:70 eV
検出範囲:50-550 Da
カラム温度:40℃, 1分→320℃まで上昇(20℃/分)→300℃、15分
テルペンの組成はGC-MSのピーク面積より求めた。また、各ピーク化合物の同定は、標品の保持時間との比較、およびマススペクトルの比較により行った。
【0063】
(トリテルペンのGC-MS分析結果2)
2つのプラスミドpETD-AtCAS1とpAC-PT-Hpidi/AtSQS/AtSQEを導入した遺伝子組換え大腸菌により生産されたトリテルペンのGC-MS分析を行った。このGC-MS分析の結果を図5に示す。GC分析では、ベクターpETDuet-1のみを導入したコントロールの大腸菌には見られないピークとして、ピーク1と2が観察された(図5A)。ピーク1とピーク2はそれぞれ、スクアレン(Squalene)とシクロアルテノール(Cycloartenol)であることが、標品と比較することにより分かった。すなわち、ピーク2のマススペクトル(図5B)はシクロアルテノール標品(シグマ製)のマススペクトル(図5C)と一致した。なお、図5Dはシクロアルテノール標品のガスクロマトグラム、図5Eは図5Aのピーク2の付近を拡大したガスクロマトグラムである。図5Fは、シクロアルテノール標品(図5Dに用いたサンプル)と組換え大腸菌(pETD-AtCAS1とpAC-PT-Hpidi/AtSQS/AtSQE)抽出物(図5Eに用いたサンプル)を重ね打ちしたものであり、ピーク2に相当する保持時間22.73分のピーク(点線で示す)が完全に一致した。したがって、図5Aにおけるピーク2はシクロアルテノールと同定された。なお、スクアレンとシクロアルテノールの比率はそれぞれ、93.3%と6.7%となった(図5A)。
【実施例6】
【0064】
(シクロアルテノール生産用大腸菌の形質転換、組換え大腸菌からシクロアルテノールの抽出とGC-MS分析)
実施例4で作製したプラスミドpETD-AtCAS1 (図4F)、及び実施例1で作製したプラスミドpAC-PT-Hpidi/AtSQS/AtSQE (図4E)に加えて、プラスミドRSFD-camAB (図4B)、及びプラスミドCDFD-zwf (図4D)またはCDFD-gdh (図4D) を用いて、実施例2と同様に、大腸菌を公知の方法により形質転換した。薬剤(抗生物質)としては、テトラサイクリン(15 mg/L)、スペクチノマイシン(100 mg/L)、アンピシリン(40 mg/L)とカナマイシン(40 mg/L)を培地に加えた。
上記の遺伝子組換え大腸菌を37℃、2YT培地(1.6%バクトトリプトン、1%イーストイクストラクト、0.5% NaCl)で培養した。その際に、培地は試験管に10 mL入れたものを1本用い、抗生物質として、テトラサイクリン(15 mg/L) 、スペクチノマイシン(100 mg/L)、アンピシリン(40 mg/L)とカナマイシン(40 mg/L)を培地に加えた。OD600が0.4-0.6になるまで培養した後、0.05 mMのIPTGを加え、20℃で2晩培養した。培養した菌液を遠心分離し、菌体を得た。菌体にメタノール・クロロフォルム混液(2:1)を加え、15分懸濁した後、遠心分離を行った。上清を別のチューブに移し、菌体に再びメタノール・クロロフォルム混液(2:1)を加え、15分懸濁した後、遠心分離を行った。上清を先ほどのチューブに移し、菌体に再びメタノール・クロロフォルム混液(2:1)を加え、15分懸濁した後、遠心分離を行った。上清を先ほどのチューブに移し、抽出液とした。
上記の抽出溶液をエバポレーターで濃縮乾固した後、メタノールに溶解し、それぞれのトリテルペンをGC-MSにより分離し、分析した。
(GC-MSの条件)
GCカラム: DB-5ms (φ0.25 mm x 30 m, 0.25 μm film thickness) (J W Scientific)
イオン化圧:70 eV
検出範囲:50-550 Da
カラム温度:40℃, 1分→320℃まで上昇(20℃/分)→300℃、15分
テルペンの組成はGC-MSのピーク面積より求めた。また、各ピーク化合物の同定は、標品の保持時間との比較、およびマススペクトルの比較により行った。
【0065】
(トリテルペンのGC-MS分析結果3)
4つのプラスミドpETD-AtCAS1、pAC-PT-Hpidi/AtSQS/AtSQE、RSFD-camAB、及びCDFD-gdh若しくはCDFD-zwfを導入した遺伝子組換え大腸菌により生産されたトリテルペンのGC-MS分析を行った。その結果を表4に示す。pETD-AtCAS1とpAC-PT-idi/AtSQS/AtSQEは全てに共通しているので、表4には特に記載していない。本組換え大腸菌のトリテルペン組成は、実施例5の場合と同様にスクアレンとシクロアルテノールであったが、スクアレンとシクロアルテノールの比率は異なっていた。すなわち、電子伝達系及びNADPH再生系タンパク質遺伝子を導入した場合、スクアレンとシクロアルテノールの比率では、後者の割合が大きくなった。電子伝達系及びNADPH再生系タンパク質遺伝子を導入しない場合のシクロアルテノール6.7%(実施例5)と比較して、最大(pETD-AtCAS1 + pAC-PT-Hpidi/AtSQS/AtSQE + RSFD-camAB + CDFD-gdhを導入した大腸菌)でシクロアルテノール34.4%に増加した(表4)。
以上、β-アミリン生産だけでなくシクロアルテノール生産に関しても、電子伝達系タンパク質及びNADPH再生系タンパク質をコードする遺伝子の共導入の効果を確認することができた。
【0066】
【表4】
【0067】
上記表4では、4つのプラスミドpETD-AtCAS1、pAC-PT-Hpidi/AtSQS/AtSQE、RSFD-camAB及びCDFD-gdh(若しくはCDFD-zwf)を導入した遺伝子組換え大腸菌を2YT培地で培養した際に生産されたトリテルペンである。
【0068】
(総論)
遺伝子組み換え大腸菌におけるトリテルペンの生合成経路と各種トリテルペン合成酵素の機能は、図1に示した。大腸菌への遺伝子導入において、電子伝達系タンパク質遺伝子としては、緑膿菌(Pseudomonas putida)由来のputidaredoxin reductase (CamA) とputidaredoxin (CamB)の組み合わせをコードする遺伝子(camAB)、あるいはシロイヌナズナ由来のNADPH-cytochrome P450 reductase 2遺伝子(AtATR2)を用いた。また、NADPH再生系タンパク質遺伝子としては、大腸菌由来のglucose-6-phosphate dehydrogenase (Zwf)をコードする遺伝子(zwf) あるいは枯草菌(Bacillus subtilis)由来のglucose dehydrogenase (Gdh) をコードする遺伝子(gdh)を用いた。
いずれの電子伝達系およびNADPH再生系の組み合わせにおいても、β-アミリンのピークが検出されたが、その割合は異なっていた。最もβ-アミリンの割合が高かった組換え大腸菌が生産したトリテルペン組成は、スクアレン(70.8%)、β-アミリン(29.2%)であった。
これらの結果は、シロイヌナズナ由来のSQE遺伝子は大腸菌内で効率的に機能発現し、2,3-オキシドスクアレンを高効率で合成できることを示している。このような結果は、従来の研究成果からは思いもよらないことであった。
要約すると、本発明のトリテルペンの生産方法では、2,3-オキシドスクアレンを経てβ-アミリンが効率的に生産することができる。
より詳しくは、Haematococcus pluvialus由来のidi、シロイヌナズナ由来のSQS及びSQE遺伝子に加えて、電子伝達系タンパク質、NADPH再生系タンパク質、ユーフォルビア由来のbASの各酵素をコードする遺伝子を導入することにより、トリテルペンのβ-アミリンを、全トリテルペンの29.2%のレベルで生産できることを見出した。
なお、電子伝達系タンパク質遺伝子としては、Pseudomonas putidacamAB遺伝子あるいはシロイヌナズナのAtATR2遺伝子を用いた。また、NADPH再生系タンパク質としては、大腸菌のzwfあるいは枯草菌のgdh遺伝子を用いた。
【0069】
さらに、本発明のトリテルペンの生産方法により、2,3-オキシドスクアレンを経てシクロアルテノールを生産できることも確認した。
より詳しくは、シロイヌナズナ由来のSQS及びSQE遺伝子に加えて、電子伝達系タンパク質、NADPH再生系タンパク質、シロイヌナズナ由来のCAS1の各酵素をコードする遺伝子を導入することにより、トリテルペンのシクロアルテノールを、全トリテルペンの34.4%のレベルで生産できることを見出した。
【0070】
これらの研究を通して本発明者らは、遺伝子組換え大腸菌においてトリテルペンであるβ-アミリンやシクロアルテノールが生産できることを見出いした。今日では、先端バイオテクノロジーにより遺伝子組換え大腸菌に種々のモノテルペンおよびセスキテルペンを生産させることが報告されているが、今回の遺伝子組換え大腸菌の場合のように、トリテルペンが生産されたことは報告がない。今回作出した遺伝子組換え大腸菌は通常の培養装置で容易に増殖できるので、トリテルペンの安定的供給源として期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明では、トリテルペンを高効率に生産することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]