【実施例1】
【0033】
図1(a)は本発明のデッキ受け治具がH型鋼に取り付けられた状態の一例を示す側面図であり、
図1(b)はそのデッキ受け治具の正面図である。また、
図2(a)及び
図2(b)は
図1(b)におけるA−A線矢視断面図である。なお、
図1(b)ではH型鋼の図示を省略している。
図1及び
図2に示すように、本発明のデッキ受け治具1aは、H型鋼58のウェブ58aに対してボルトとナットからなる締結具11を用いて固定されるアングル材2と、端部3aにアングル材2が取り付けられた長尺の角筒体3と、上面3cと上面4aが平行となるように角筒体3に外挿された角筒体4と、この角筒体4の上面4aに取り付けられた受け金具5と、を備えている。
また、角筒体3の下面3dと角筒体4の下面4bの間には、所定の高さを有する空間が形成されている。
【0034】
アングル材2は、締結具11を取り付けるための一対の取付用ボルト穴6a,6aを有し、角筒体3の長手方向と直交するように端部3aに接合された垂直片6と、角筒体3の上面3cに下面7aが接合された水平片7からなる。なお、取付用ボルト孔6a,6aは、垂直片6の長手方向へ沿って細長く形成された長穴状をなしており、水平片7から等距離の位置にそれぞれ設けられている。そして、アングル材2の両端には、平面視直角三角形状をなす一対の補強板13,13が垂直片6と水平片7に対してそれぞれ直交するように設けられている。
また、角筒体3の内部は、下面3dと平行に設置される仕切板8によって、2つの空間に仕切られており、そのうち、下面3dと仕切板8の間には、角筒体3の長手方向へ摺動可能に板状の摺動部材9が設置されている。
【0035】
角筒体4の下面4bには、高さ調整用ボルト10aに螺合する雌ネジ部4d(
図2参照)が設けられており、角筒体3には、雌ネジ部4dに螺入された高さ調整用ボルト10aの先端をその内部へ配置可能に、端部3bから長手方向に沿って所定の長さの切欠3f(
図2参照)が設けられている。なお、切欠3fは、高さ調性用ボルト10aの頭部及び摺動部材9よりも幅が狭く、かつ、高さ調整用ボルト10aの外径よりも幅が広くなるように形成されている。
また、角筒体4は、側面4cに雌ネジ部(図示せず)が設けられており、この雌ネジ部には、角筒体4の内部へ突出させた先端によって、角筒体3の側面3eを押圧可能に固定用ボルト10bが螺入されている。
【0036】
摺動部材9には、高さ調整用ボルト10aの先端を挿通可能に段付き穴9a(
図2参照)が設けられており、この段付き穴9aへ回動可能な状態で挿通された高さ調整用ボルト10aの先端には抜け止め具12(
図2参照)が取り付けられている。
すなわち、高さ調整用ボルト10aは摺動部材9に対し、回動可能かつ離脱不能に連結されている。この場合、摺動部材9は抜け止め具12とともに、高さ調整用ボルト10aの抜け止め部材として機能する。
【0037】
受け金具5は、平面視矩形状をなす平坦部5aと、この平坦部5aの一端から直角に延設される直立部5bからなり、矩形状の平板材が一端を直角に折り曲げられたような形状をしている。
また、平坦部5aは、直立部5bが角筒体4の長手方向と直交するように上面4aに対して溶接されており、直立部5bは角筒体3の端部3bに近い側へ配置されている。
【0038】
このような構造のデッキ受け治具1aにおいては、ボルトを用いてアングル材2がウェブ58aに固定される構造であるため、H型鋼58に対する取り付けや取り外しが容易である。
また、アングル材2をH型鋼58へ取り付ける際に、水平片7が水平となるように垂直片6をウェブ58aに固定した場合、角筒体3の上面3cと角筒体4の上面4aがいずれも水平となり、角筒体4の上面4aに下面が接合された受け金具5の平坦部5aの上面が水平になるという作用を有する。
【0039】
すなわち、デッキ受け治具1aは、受け金具5の平坦部5aの上面に載置された角材を介してデッキプレートを支持可能な構造であって、受け金具5が平坦部5aによって角材を水平に支持するとともに、直立部5bによって角材の水平面内での揺動を抑えるという作用を有している。
したがって、コンクリートスラブの施工時にデッキ受け治具1aを用いると、角材の設置作業を効率良く行うことができる。そして、デッキ受け治具1aにおいては、受け金具5を角筒体4とともに上下方向へ移動させる際に、角材が水平面内で揺動するおそれがないため、当該作業を安全に効率良く行うことが可能である。
【0040】
また、デッキ受け治具1aは、角筒体3の長手方向に沿って角筒体4をスライドさせた場合、平坦部5aの上面の水平状態が維持されたまま、受け金具5が角筒体3の長手方向へ移動するという作用を有している。
すなわち、デッキ受け治具1aでは、角筒体3の長手方向に沿って角筒体4をスライドさせることによりH型鋼58のウェブ58aから受け金具5までの距離を調節することが可能である。したがって、デッキ受け治具1aは、フランジの長さが異なる複数種類のH型鋼58に対しても共通して使用できるという独自の効果を有している。
【0041】
さらに、デッキ受け治具1aにおいては、仕切板8が角筒体3の長手方向以外の方向への摺動部材9の移動を拘束して、高さ調性用ボルト10aが先端を中心として揺動することを防ぐという作用を有している。
すなわち、デッキ受け治具1aでは、仕切板8によって摺動部材9の移動が角筒体3の長手方向のみに制限されており、角筒体4を角筒体3の長手方向に沿ってスライドさせる際に高さ調整用ボルト10aが先端を中心として揺動し難いため、角筒体4を移動させて受け金具5の上に載置された角材の水平方向に対する位置を調整する作業を安全に短時間で効率よく行うことが可能となっている。
【0042】
また、デッキ受け治具1aでは、高さ調整用ボルト10aを回動させることにより、受け金具5が角筒体4とともに上下方向へ移動するという作用を有する。したがって、コンクリートスラブの施工にデッキ受け治具1aを用いた場合、コンクリートスラブが形成された時点で角筒体3に対して角筒体4を下方へ移動させることにより角材が受け金具5ごと下降するため、コンクリートスラブからデッキプレートを容易に分離して回収することが可能である。
さらに、デッキ受け治具1aでは、固定用ボルト10bを回動させ、角筒体4の内部へ突出させた固定用ボルト10bの先端によって角筒体3の側面3eを押圧すると、角筒体3に対して角筒体4が移動不能に固定されるという作用を有している。したがって、角筒体3の長手方向と平行な方向又は直交する方向へ角筒体4を移動させた場合、固定用ボルト10bを操作して、その先端で角筒体3の側面3eを押圧すれば、角筒体3に対する角筒体4の位置関係を確実に保持することができる。
なお、角筒体3の側面3eに上記先端が接触しないように固定用ボルト10bを後退させると、角筒体4は角筒体3に対して再び移動可能な状態となる。
【0043】
そして、デッキ受け治具1aでは、H型鋼58に取り付ける際に、アングル材2が角筒体3の横方向や上下方向への揺動を抑える補強部材として機能するため、角材が受け金具5によって安定した状態で支持される。したがって、以下に説明するように、デッキプレートを用いた型枠の設置作業にデッキ受け治具1aを用いることによれば、当該作業を短時間で効率よく行うことが可能である。
【0044】
デッキ受け治具1aを用いたコンクリートスラブの施工方法について、
図4及び
図5を適宜参照しながら
図3を用いて説明する。
図3はデッキ受け治具1aを用いてコンクリートスラブを施工する際の作業手順の一例を示したフローチャートである。また、
図4及び
図5は、その作業手順を説明するために、H型鋼に対するデッキ受け治具1aの取り付け状態を拡大して示した側面図である。
なお、
図5(a)や
図5(b)における52(53)や56b(57b)等の表記はデッキ受け治具1aによって支持された角材の上面に型枠部材52,53のいずれもが同様の状態で載置され得ることを示している。また、
図1、
図2及び
図9に示した構成要素については同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0045】
まず、ステップS1では、H型鋼58のウェブ58aにフランジ58bと平行に設けられた一対のボルト穴(図示せず)に対して、取付用ボルト穴6a,6aが連通するように垂直片6を配置した後、締結具11,11を用いて、アングル材2をウェブ58aに固定する(
図4(a)参照)。
次に、ステップS2では、受け金具5に対し、側面59bを直立部5bに当接させるようにして角材59を平坦部5aの上面に設置する(
図4(b)参照)。
ステップS3では、固定用ボルト10bを緩めて、角筒体4を角筒体3の長手方向へ沿って所定の位置まで移動させる。さらに、高さ調整用ボルト10aを所定の方向へ回動し、受け金具5に設置された角材59の上面59aが所定の高さになるまで角筒体4を上下方向へ移動させて、その高さを調整した後、固定用ボルト10bを締めて角筒体4を角筒体3に固定する。
なお、受け金具5に角材59を設置する前に、受け金具5に角材59が設置された状態を想定して、予め角筒体4の高さを調整したり、角筒体3の長手方向に沿って角筒体4を移動させたりするようにしても良い。すなわち、ステップS2とステップS3は、必ずしも
図3に示した順序に限定されるものではなく、その順序は適宜変更可能である。
【0046】
ステップS4では、型枠部材52,53をスライドさせてデッキプレート51の全長を調節した後、角材59の上面59aにデッキプレート51の扁平端56b,57bを載置する(
図5(a)参照)。
ステップS5では、予め練り混ぜたコンクリートをH型鋼58のフランジ58bとデッキプレート51の上面に流し込む。これにより、コンクリートの打設作業が完了し、そのコンクリートが固化することで、コンクリートスラブ60(
図5(b)参照)が形成される。
【0047】
ステップS6では、固定用ボルト10bを緩めた後、高さ調整用ボルト10aを所定の方向へ回動し、
図5(b)に示した状態となるまで角筒体4を下降させる。そして、受け金具5から角材59を撤去すると、デッキプレート51は下方への移動に対する拘束が解除されるため、コンクリートスラブ60から容易に分離可能となる。
さらに、ステップS7では、締結具11を緩めて、これをウェブ58aのボルト穴と垂直片6の取付用ボルト穴6aから抜き取る。その後、デッキ受け治具1aをH型鋼58から撤去する。
最後に、ステップS8において、デッキプレート51をコンクリートスラブ60から撤去する。これにより、デッキ受け治具1aを用いたコンクリートスラブの施工作業が完了する。
【0048】
本実施例では、切欠3fが端部3bから角筒体3の長手方向に沿って設けられているが、本発明のデッキ受け治具は、このような構造に限定されるものではない。例えば、端部3bの代わりに端部3aから切欠3fが設けられていても良い。また、切欠3fの代わりに、角筒体3の長手方向に細長く形成された長穴や端部3aから端部3bに達するように設けられた所定の幅の隙間を備えた構造とすることもできる。
【0049】
このように、切欠3fの代わりに長穴や隙間が設けられた構造であっても、それらはいずれも切欠3fと同様に、抜け止め部材を縁部に係止させつつ、高さ調整用ボルト10aを角筒体3の長手方向へ案内可能に設けられたガイド用隙間を構成するため、切欠3fを設けた場合と同様の作用・効果を有する。
また、アングル材2と角筒体3は、鋼材によって個別に成形された後、溶接等によって接合されたものであっても良いし、鋳造によって一体品として成形されたものであっても良い。
【実施例4】
【0052】
図8(a)は実施例1乃至実施例3とは別の構造を備えた本発明のデッキ受け治具の一例を示す正面図であり、
図8(b)は
図8(a)におけるD−D線矢視断面図である。なお、
図7に示した構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
図8(a)及び
図8(b)に示すように、デッキ受け治具1dは、実施例3のデッキ受け治具1cにおいて、摺動部材9が省略されるとともに、角筒体3の下面3dにボルト穴3gの代わりに高さ調整用ボルト10aが螺入される雌ネジ部3hが設けられ、角筒体4の下面4bに雌ネジ部4dの代わりに、雌ネジ部3hに螺入された高さ調整用ボルト10aの根本部分をその内部へ配置可能に、端部4eから角筒体4の長手方向に沿って所定の長さの切欠4gが設けられた構造となっている。
なお、切欠4gは、高さ調整用ボルト10aの外径よりも幅が広く、かつ、高さ調整用ボルト10aの頭部を係止可能な幅を有するように形成されている。
このような構造のデッキ受け治具1dでは、デッキ受け治具1cの作用及び効果に加えて、角筒体3の長手方向に沿って角筒体4をスライドさせてH型鋼58のウェブ58aから受け金具5までの距離を調節することで、フランジの長さが異なるH型鋼58に対しても共通して使用できるという効果を有している。
【0053】
本実施例では、切欠4gが端部4eから角筒体4の長手方向に沿って設けられているが、本発明のデッキ受け治具は、このような構造に限定されるものではない。例えば、端部4eの代わりに端部4fから切欠4gが設けられていても良い。また、切欠4gの代わりに、雌ネジ部3hに連通するように設けられたボルト穴や角筒体4の長手方向に細長く形成された長穴や端部4eから端部4fに達するように設けられた所定の幅の隙間を備えた構造とすることもできる。
なお、切欠4gの代わりにボルト穴や長穴や隙間が設けられた構造であっても、それらはいずれも切欠4gと同様に、抜け止め部材を縁部に係止させつつ、高さ調整用ボルト10aを角筒体4の長手方向へ案内可能に設けられたガイド用隙間を構成するため、切欠4gを設けた場合と同様の作用・効果を有する。
【0054】
さらに、デッキ受け治具1a〜1dでは、高さ調性用ボルト10aを回動させることにより角筒体4が上下方向へ移動可能となっているが、このような構造に限らず、例えば、角筒体4が上下方向へ移動しない構造とすることもできる。
この場合、コンクリートスラブが形成された段階でアングル材2をウェブ58aから取り外せば、受け金具5の上面に載置された角材の撤去が可能となる。したがって、このような構造であっても、デッキプレートをコンクリートスラブから容易に分離して回収できるという効果は発揮される。