特許第6348546号(P6348546)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6348546
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】点火プラグ及び点火装置
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/20 20060101AFI20180618BHJP
   F02P 13/00 20060101ALI20180618BHJP
【FI】
   H01T13/20 B
   F02P13/00 301J
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-152704(P2016-152704)
(22)【出願日】2016年8月3日
(65)【公開番号】特開2018-22604(P2018-22604A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2017年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】特許業務法人しんめいセンチュリー
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 浩貴
(72)【発明者】
【氏名】宇佐見 晃平
(72)【発明者】
【氏名】伴 謙治
【審査官】 関 信之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−123435(JP,A)
【文献】 特開2014−026754(JP,A)
【文献】 特開2016−110992(JP,A)
【文献】 特開2010−212245(JP,A)
【文献】 米国特許第05469013(US,A)
【文献】 特開2014−022341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/20
F02P 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側から後端側へと軸線に沿って延びる中心電極と、
前記中心電極の先端を内包する有底筒状の絶縁体と、
前記絶縁体の先端側が自身の先端から突出する状態で前記絶縁体を保持する筒状の主体金具と、を備える点火プラグであって、
前記中心電極と前記絶縁体との間に0.01mm以上の径差が存在し、
前記絶縁体のうち前記主体金具の前記先端よりも先端側に存在する突出部の軸方向の長さは6.7mm以上12.7mm以下であり、
前記突出部の外面の表面積Sを前記突出部の体積V1で除した値S/V1は、1.07≦S/V1≦1.35を満たすことを特徴とする点火プラグ。
【請求項2】
前記体積V1と、前記中心電極のうち前記主体金具の前記先端よりも先端側に存在する部位の体積V2と、前記絶縁体と前記中心電極との隙間のうち前記主体金具の前記先端よりも先端側に存在する部位の体積V3とは、0.01≦V2/(V1+V2+V3)≦0.49の関係を満たすことを特徴とする請求項1記載の点火プラグ。
【請求項3】
前記突出部は、第1の外径を有する第1部と、前記第1部よりも先端側に位置し前記第1の外径より小さく一定の第2の外径を有する第2部と、を備え、
前記第2部は、径方向の厚さが0.75mm以上2.4mm以下であることを特徴とする請求項2記載の点火プラグ。
【請求項4】
前記突出部は、第1の外径を有する第1部と、前記第1部よりも先端側に位置し前記第1の外径より小さく一定の第2の外径を有する第2部と、前記第1部と前記第2部とを連絡する第3部とを備え、
前記軸線を含む断面において、
前記第3部は、自身の外面が先端側から後端側へ向かうにつれてテーパ状に拡径することを特徴する請求項2記載の点火プラグ。
【請求項5】
前記突出部は、前記外面に凹凸が形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の点火プラグ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の点火プラグと、
交流電圧または複数回のパルス電圧を前記中心電極に印加することによって前記突出部の前記外面に非平衡プラズマを発生させる電圧印加部と、を備えていることを特徴とする点火装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は点火プラグ及び点火装置に関し、特に過早着火を防ぎつつ着火性能を向上できる点火プラグ及び点火装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の燃焼室に吸入した混合気に点火する点火プラグとして、非平衡プラズマを利用するものがある(特許文献1)。特許文献1に開示される点火プラグは、中心電極の先端を有底筒状の絶縁体が内包し、絶縁体の先端が自身の先端から突出するように主体金具が絶縁体を保持する。点火プラグは、絶縁体の周囲の空間に非平衡プラズマを発生させ混合気に着火する。絶縁体の先端の表面積を増やし非平衡プラズマの発生量を増やすと、点火プラグの着火性能が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−22341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、絶縁体の先端の表面積が増えるほど、絶縁体の先端が燃焼ガスによって加熱され易くなる。加熱された絶縁体の表面の温度が過剰に上昇すると、絶縁体が熱源になって過早着火(プレイグニッション)が生じるという問題点がある。
【0005】
一方、絶縁体の先端の表面積の増加に伴って絶縁体の体積が増えると、絶縁体の先端の熱が絶縁体を伝って放散(熱引き)され易くなる。絶縁体の先端の温度が下がると、絶縁体の先端にカーボンが堆積し易くなるので、非平衡プラズマが発生し難くなり、着火性能が低下するという問題点がある。
【0006】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、過早着火を防ぎつつ着火性能を向上できる点火プラグを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0007】
この目的を達成するために請求項1記載の点火プラグによれば、先端側から後端側へと軸線に沿って延びる中心電極の先端を有底筒状の絶縁体が内包する。筒状の主体金具は、絶縁体の先端側が自身の先端から突出する状態で絶縁体を保持する。中心電極と絶縁体との間に0.01mm以上の径差が存在する。絶縁体のうち主体金具の先端よりも先端側に存在する突出部の軸方向の長さは6.7mm以上12.7mm以下である。突出部の外面の表面積Sを突出部の体積V1で除した値S/V1は、1.07≦S/V1≦1.35を満たす。
【0008】
その結果、突出部の外面の表面積Sを確保しながら、絶縁体が放散する熱量を十分に確保できるので、突出部を熱源とする過早着火の発生を防止できる。さらに、非平衡プラズマの発生量の低下を防止できるので、過早着火を防ぎつつ着火性能を向上できる効果がある。
【0009】
請求項2記載の点火プラグによれば、体積V1と、中心電極のうち主体金具の先端よりも先端側に存在する部位の体積V2と、絶縁体と中心電極との隙間のうち主体金具の先端よりも先端側に存在する部位の体積V3とは、0.01≦V2/(V1+V2+V3)≦0.49の関係を満たす。体積(V1+V2+V3)に対する中心電極の先端の体積V2の比率の設定により、中心電極が放散する突出部の熱量と非平衡プラズマの発生量とを確保できる。よって、請求項1の効果に加え、過早着火を防ぎつつ着火性能をさらに向上できる効果がある。
【0010】
請求項3記載の点火プラグによれば、突出部は、第1の外径を有する第1部と、第1部よりも先端側に位置する第2部とを備えている。第2部は第1の外径より小さく一定の第2の外径を有し、径方向の厚さが0.75mm以上2.4mm以下である。これにより、請求項2の効果に加え、第2部による非平衡プラズマの発生量を確保できると共に、第2部の耐電圧の低下を防止できる効果がある。
【0011】
請求項4記載の点火プラグによれば、突出部は、第1の外径を有する第1部と、第1部よりも先端側に位置し、第1の外径より小さく一定の第2の外径を有する第2部と、第1部と第2部とを連絡する第3部とを備える。軸線を含む断面において、第3部は、自身の外面が先端側から後端側へ向かうにつれてテーパ状に拡径するので、第3部にも非平衡プラズマを生じさせ易くできる。よって、請求項2の効果に加え、突出部による非平衡プラズマの発生量を増やすことができる効果がある。
【0012】
請求項5記載の点火プラグによれば、突出部は外面に凹凸が形成されているので、突出部を軸方向に長くしなくても、凹凸によって突出部の外面の表面積Sを増やすことができる。凹凸によって突出部の表面積Sと体積V1とを比較的自在に設定できるので、請求項1から4のいずれかの効果に加え、過早着火を防ぎつつ着火性能を向上できる点火プラグの設計を容易にできる効果がある。
【0013】
請求項6記載の点火装置によれば、交流電圧または複数回のパルス電圧を中心電極に印加する電圧印加部により、請求項1から5のいずれかに記載の点火プラグの突出部の外面に非平衡プラズマが発生する。よって、請求項1から5のいずれかの効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施の形態における点火装置の模式図である。
図2】点火プラグの片側断面図である。
図3】先端を拡大した点火プラグの片側断面図である。
図4】第2実施の形態における点火プラグの片側断面図である。
図5】第3実施の形態における点火プラグの片側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は本発明の第1実施の形態における点火装置10の模式図である。点火装置10は、点火プラグ11と電圧印加部12とを備えている。点火プラグ11は、燃焼室14の内側に先端を露出させた状態で内燃機関13のねじ穴15に取り付けられる。点火プラグ11は、後端が電圧印加部12と電気的に接続されている。
【0016】
電圧印加部12は、交流電圧または複数回のパルス電圧を点火プラグ11に印加する。これにより、点火プラグ11は先端に非平衡プラズマを発生させ、燃焼室14の混合気に着火する。電圧印加部12はバッテリ(図示せず)から供給される電力を用いて点火プラグ11に電圧を印加する。
【0017】
図2を参照して点火プラグ11について説明する。図2は点火プラグ11の軸線Oを境にした片側断面図である。図2では、紙面下側を点火プラグ11の先端側、紙面上側を点火プラグ11の後端側という。図2に示すように点火プラグ11は、主体金具20、絶縁体30及び中心電極40を備えている。
【0018】
主体金具20は、内燃機関13(図1参照)のねじ穴15に固定される略円筒状の部材であり、導電性を有する金属材料(例えば低炭素鋼等)によって形成されている。主体金具20は、後端側から先端側へと軸線Oに沿って加締め部21、工具係合部22、湾曲部23、座部24、胴部25の順に連接されている。胴部25は外周面にねじ部26が形成されている。
【0019】
加締め部21及び湾曲部23は、絶縁体30を加締めるための部位である。工具係合部22は、ねじ部26をねじ穴15(図1参照)に結合するときにレンチ等の工具を係合させる部位である。座部24は、胴部25の後端側に位置し、径方向外側に環状に突出する部位である。座部24は、胴部25との間に環状のガスケット50が配置される。
【0020】
ガスケット50は、ねじ穴15にねじ部26が嵌められたときに、座部24と内燃機関13とに挟まれてねじ穴15とねじ部26との隙間を封止する。棚部27は、胴部25の径方向内側へ張り出す部位であり、棚部27の後端側の面にパッキン51が配置される。パッキン51は、主体金具20を構成する金属材料よりも軟質の軟鋼板等の金属材料で形成される円環状の板材である。
【0021】
絶縁体30は、機械的特性や高温下の絶縁性に優れるアルミナ等により形成された有底円筒状の部材である。絶縁体30は、自身の後端に開口し先端が閉じた穴部31が軸線Oに沿って形成されている。絶縁体30は主体金具20に挿入され、外周に主体金具20が固定される。
【0022】
絶縁体30の外周と主体金具20の工具係合部22の内周との間に、リング部材52及びリング部材52に挟まれたタルク等の充填材53が配置される。主体金具20の加締め部21が絶縁体30に向けて径方向内側に加締められると、リング部材52及び充填材53を介して、絶縁体30が主体金具20の棚部27へ向けて押圧される。その結果、主体金具20は、パッキン51、リング部材52及び充填材53を介して絶縁体30を固定する。主体金具20が固定された絶縁体30は、先端の突出部32が、主体金具20の先端から突出する。
【0023】
中心電極40は、導電性を有する金属材料(例えばニッケル基合金等)によって形成された棒状の電極である。中心電極40は、絶縁体30の穴部31内に係止され、先端側から後端側へと軸線Oに沿って延びる。
【0024】
端子金具54は、電圧印加部12(図1参照)が接続される棒状の部材であり、導電性を有する金属材料(例えば低炭素鋼等)によって形成されている。端子金具54の先端側は絶縁体30の穴部31内に配置される。端子金具54と中心電極40との間に、導電性を有するシール材55が配置される。シール材55により中心電極40と端子金具54とは穴部31内で電気的に接続される。
【0025】
図3を参照して点火プラグ11の構成を詳細に説明する。図3は先端を拡大した点火プラグ11の軸線Oを境にした片側断面図である。絶縁体30は、主体金具20の先端から突出部32が突出する。突出部32は、絶縁体30のうち、主体金具20の先端よりも軸線O方向の先端側に存在する部分である。突出部32は、軸線O方向の長さLが6.7mm以上12.7mm以下に設定されている。突出部32の外面36の表面積Sを確保するためである。
【0026】
突出部32は、後端側(図3上側)に位置する筒状の第1部33と、先端側に位置する有底筒状の第2部34と、第1部33と第2部34とを連絡する筒状の第3部35とを備えている。第1部33は第1の外径D1を有し、第2部34は第1の外径D1より小さい一定の第2の外径D2を有する。突出部32の外面36のうち第3部35は、軸線Oを含む断面(図3紙面)において、変曲点37を有する滑らかな曲線状に形成されている。突出部32は、主に第1部33及び第2部34の外面36の周囲の空間に非平衡プラズマを発生する。
【0027】
絶縁体30の軸線Oに沿って形成された穴部31は、絶縁体30の先端を除き、軸線O方向に亘って内径D3が略同一である。従って、第2部34の径方向の厚さTは、第1部33の径方向の厚さより小さい。本実施の形態では、第2部34の厚さTは0.75mm以上2.4mm以下に設定されている。
【0028】
即ち、T<0.75mmとなると、第2部34の耐電圧が低下し、貫通や割れが発生し易くなる傾向がみられる。T>2.4mmとなると、第2部34からの非平衡プラズマの発生量が少なくなり、着火性能が低下する傾向がみられる。0.75≦T(mm)≦2.4を満たすことによって、第2部34による非平衡プラズマの発生量を確保しつつ、第2部34の耐電圧の低下を防止できる。
【0029】
突出部32は、第2部34の軸方向の長さが、第1部33の軸方向の長さより長く設定されている。その結果、第2部34の軸方向の長さが、第1部33の軸方向の長さより短い場合に比べて、非平衡プラズマの発生量を増やすことができる。
【0030】
絶縁体30は、穴部31内に配置された中心電極40の先端部41を突出部32が内包する。先端部41は、中心電極40のうち、主体金具20の先端よりも軸線O方向の先端側に存在する部分である。
【0031】
点火プラグ11は、絶縁体30の穴部31の内径D3と先端部41(中心電極40)の外径D4との径差(D3−D4)が0.01mm以上に設定される。この径差により、穴部31と先端部41とに径方向の間隙が形成される。また、穴部31の底と先端部41とに軸方向の間隙が形成される。これらの間隙は、先端部41の表面と穴部31との隙間38を形成する。隙間38は、中心電極40と穴部31との隙間のうち、主体金具20の先端よりも軸線O方向の先端側に存在する部分である。
【0032】
点火プラグ11は、突出部32の外面36の表面積をS、突出部32の体積をV1とすると、表面積Sを体積V1で除した値S/V1(単位は1/mm)が1.07≦S/V1≦1.35を満たす。突出部32の外面36の表面積Sを確保しながら、絶縁体30が放散する熱量を十分に確保するためである。
【0033】
即ち、突出部32の軸線O方向の長さLが6.7mm以上12.7mm以下に設定された状態でS/V1<1.07を満たすと、体積V1に対する表面積Sの割合が小さいので、突出部32の外面36の周囲に発生する非平衡プラズマの量が少なくなる。そのため、着火性能が低下する。
【0034】
また、S/V1<1.07を満たすと、表面積Sに対する体積V1の割合が大きいので、突出部32の熱が、絶縁体30を伝って内燃機関13(図1参照)の系外へ放散(熱引き)され易くなる。突出部32の温度が下がると、突出部32の外面36にカーボンが堆積し易くなるので、非平衡プラズマが発生し難くなり、着火性能が低下する。
【0035】
一方、S/V1>12.7を満たすと、体積V1に対する突出部32の表面積Sの割合が大きいので、突出部32が燃焼ガスによって加熱され易くなる。加熱された突出部32の外面36の温度が過剰に上昇すると、突出部32が熱源になって過早着火(プレイグニッション)が生じる。
【0036】
また、S/V1>12.7を満たすと、表面積Sに対する体積V1の割合が小さいので、突出部32の熱が絶縁体30を伝って放散され難くなる。突出部32の温度が過剰に上昇すると、過早着火が生じ易くなる。これに対し、1.07≦S/V1≦1.35を満たす点火プラグ11によれば、これらを解決することができ、過早着火を防ぎつつ着火性能を向上できる。
【0037】
本実施の形態では、点火プラグ11は、絶縁体30の突出部32の体積をV1、中心電極40の先端部41の体積をV2、先端部41の表面と穴部31との隙間38の体積をV3とすると、0.01≦V2/(V1+V2+V3)≦0.49の関係を満たす。
【0038】
即ち、V2/(V1+V2+V3)<0.01を満たすと、先端部41(中心電極40)の体積V2の割合が小さいので、先端部41の表面と突出部32の外面36との距離が大きくなり、放電が生じ難くなる。その結果、非平衡プラズマの発生量が少なくなるので、着火性能が低下する。
【0039】
V2/(V1+V2+V3)>0.49を満たすと、先端部41(中心電極40)の体積V2の割合が大きいので、突出部32の熱が、中心電極40を伝って放散され易くなる。突出部32の温度が下がると、突出部32の外面36にカーボンが堆積し易くなるので、非平衡プラズマが発生し難くなり、着火性能が低下する。
【0040】
これに対し、0.01≦V2/(V1+V2+V3)≦0.49を満たす点火プラグ11によれば、これらを解決することができ、中心電極40が放散する突出部32の熱量と突出部32による非平衡プラズマの発生量とを確保できる。
【0041】
次に図4を参照して第2実施の形態について説明する。第1実施の形態では、突出部32の第2部34が軸線O方向に亘って一定の外径を有する場合について説明した。これに対し第2実施の形態では、突出部61の外面に凹凸65が形成される場合について説明する。なお、第1実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図4は第2実施の形態における点火プラグ60の軸線Oを境にした片側断面図である。
【0042】
点火プラグ60は、主体金具20(胴部25)の先端から突出部61が突出する。突出部61は、軸線O方向の長さLが6.7mm以上12.7mm以下に設定されている。突出部61は、筒状の第1部62と、先端側に位置する有底筒状の第2部63と、第1部62と第2部63とを連絡する筒状の第3部64とを備えている。第1部62は第1の外径D1を有し、第2部63は第1の外径D1より小さい一定の第2の外径D2を有する。第3部64は段差状に形成されている。
【0043】
第2部63は、外面に凹凸65が形成される。本実施の形態では、周方向に連続する円環状の溝を軸線O方向に互いに間隔をあけて複数設け、凹凸65が作られている。凹凸65が形成された第2部63は、凹凸65の底の厚さT1(第2部63の最小の厚さ)及び凹凸65の頂の厚さT2(第2部63の最大の厚さ)が0.75mm以上2.4mm以下に設定されている。第2部63による非平衡プラズマの発生量と第2部63の耐電圧とを確保するためである。
【0044】
点火プラグ60は、突出部61の外面の表面積Sを突出部61の体積V1で除した値S/V1(単位は1/mm)が1.07≦S/V1≦1.35を満たす。凹凸65により、突出部61の長さLに関わらずに突出部61の表面積Sと体積V1とを比較的自在に設定できる。従って第2実施の形態によれば、第1実施の形態で得られる効果に加え、過早着火を防ぎつつ着火性能を向上できる点火プラグ60の設計を容易にできる。
【0045】
次に図5を参照して第3実施の形態について説明する。第1実施の形態および第2実施の形態では、第3部35,64が段差状に形成される場合について説明した。これに対し第3実施の形態では、第3部74がテーパ状に形成される場合について説明する。なお、第1実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図5は第3実施の形態における点火プラグ70の軸線Oを境にした片側断面図である。
【0046】
点火プラグ70は、主体金具20(胴部25)の先端から突出部71が突出する。突出部71は、軸線O方向の長さLが6.7mm以上12.7mm以下に設定されている。突出部71は、筒状の第1部72と、先端側に位置する有底筒状の第2部73と、第1部72と第2部73とを連絡する筒状の第3部74とを備えている。
【0047】
第3部74は、自身の外面が先端側から後端側へ向かうにつれてテーパ状に拡径する。第3部74がテーパ状の円錐面をもつことにより、第3部74の外面にも非平衡プラズマを発生させ易くできる。よって、突出部71による非平衡プラズマの発生量を増やすことができる。
【0048】
第3部74のテーパの角度θは、第1部72及び第2部73の外径にもよるが、30°〜120°が好適である。角度θが30°より小さくなると、第3部74が軸線O方向に長くなるので、第2部73の軸線O方向の長さが短くなる。その結果、第2部73の外面の表面積が狭くなり、非平衡プラズマの発生量が少なくなる傾向がみられる。角度θが120°より大きくなると、第3部74による非平衡プラズマの発生量が少なくなるので、第3部74をテーパ状にする効果が乏しくなる。
【0049】
点火プラグ70は、突出部71の外面の表面積Sを突出部61の体積V1で除した値S/V1(単位は1/mm)が1.07≦S/V1≦1.35を満たす。第3部74により非平衡プラズマの発生量を増やすことができるので、第1実施の形態で得られる効果に加え、着火性能を向上できる。
【実施例】
【0050】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
試験者は、突出部の長さL、第2部の外径D2、及び、S/V1の異なる種々の点火プラグのサンプル1〜27を準備した。なお、サンプル1〜27は、各部の寸法が異なる点を除き、第1実施の形態における点火プラグ11と同様である。サンプル1〜27以外に、1.07≦S/V1≦1.35を満たすサンプルであって、突出部の長さLが4.7mmのサンプルや突出部の長さLが12.7mmより長いサンプルも準備した。
【0052】
試験者は、排気量1.6リットルの4気筒DOHCエンジンに各サンプルを取り付け、エンジンの安定性が許容限界に達したときの燃料の希薄側の空燃比(希薄限界)を測定した。エンジンの運転条件は、回転数を1200rpm、負荷を図示平均有効圧力(NMEP)500kPaとした。点火時期が各運転のMBTとなるように点火プラグに交流電圧を印加した。
【0053】
エンジンの安定性の評価にはNMEPの燃焼変動率(COV)を用いた。エンジンの安定性の許容限界をCOV=5%とした。試験結果を表1に示した。エンジンが失火したサンプルは、表1の希薄限界の欄に、空燃比を記す代わりに(−)を記した。
【0054】
【表1】
表1に示すように、S/V1の値が大きくなるにつれて希薄限界が大きくなることがわかった。希薄混合気の空燃比(希薄限界)を大きくできると、完全燃焼により一酸化炭素の生成を抑制できると共に、燃焼温度を低下できるので窒素酸化物の生成を抑制できる。また、希薄燃焼はエンジンの熱効率も向上できる。
【0055】
S/V1が小さい、即ち突出部の体積V1が大きくなると、絶縁体や中心電極による熱の放散(熱引き)の影響が大きくなるので、希薄限界が小さくなると考えられる。突出部の長さLに関係なく、S/V1≦1.06では失火した(サンプル1,2,10,11,19,20)。突出部の体積V1に対する表面積Sの割合を増やす(S/V1を大きくする)ことによって、熱引きの影響を軽減して希薄限界を大きくできる。なお、突出部の長さLが4.7mmのサンプルは、S/V1の値に関係なく失火した。
【0056】
サンプル9,18では最適点火時期(MBT)以外で過早着火(プレイグニッション)が起きた。突出部の表面積Sに対する体積V1の割合が小さいので、絶縁体によって突出部の熱を放散させ難いからであると推察される。なお、突出部の長さLが12.7mmより長いサンプルは、S/V1の値に関係なくプレイグニッションが起きた。
【0057】
この試験結果によれば、プレイグニッションを防ぎつつ着火性能を向上させるために、6.7≦L≦12.7、且つ、1.07≦S/V1≦1.35の条件を満たすように突出部を設定することが好ましいことが明らかである。
【0058】
(実施例2)
試験者は、サンプル4を基準にしたサンプル28〜36、サンプル13を基準にしたサンプル37〜45を準備した。サンプル37〜45は、第2部の外径D2を5.9mmとし、第2部の厚さTを異ならせたサンプルである。サンプル37〜45は、第2部の厚さTが異なることにより、突出部の体積V1、中心電極の先端部の体積V2、隙間の体積V3が相違し、その結果、V2/Vの値が相違する。なお、V=V1+V2+V3である。
【0059】
(着火性および熱引きの評価)
試験者は、実施例1で使用した排気量1.6リットルの4気筒DOHCエンジンに各サンプルを取り付け、エンジンの一連の行程を1サイクルとして、そのサイクルを1000回繰り返すまでエンジンを稼働し、着火性および熱引きを評価した。エンジンの運転条件は、回転数を1200rpm、負荷を図示平均有効圧力(NMEP)500kPa、空燃比は理論空燃比とした。点火時期が各運転のMBTとなるように点火プラグに交流電圧を印加した。放電電圧は20kVとした。評価の閾値はNMEPのCOV=5%とした。
【0060】
COVが5%以下のサンプルは、燃焼が安定している、即ち着火性は良好(○)と評価し、COVが5%を超えたサンプルは、燃焼が不安定である、即ち着火性は劣る(△)と評価した。プレイグニッションが発生しなかったサンプルは、熱引きが良好(○)と評価し、プレイグニッションが発生したサンプルは、熱引きが不十分(×)と評価した。
【0061】
(耐電圧の評価)
試験者は、排気量1.6リットルの同じ4気筒DOHCエンジンに各サンプルを取り付け、エンジンを連続して20時間稼働し、絶縁体(突出部)に貫通や割れが発生するか否かを調べた。エンジンの運転条件は、回転数を1200rpm、負荷を図示平均有効圧力(NMEP)500kPa、空燃比は理論空燃比とした。点火時期が各運転のMBTとなるように点火プラグに交流電圧を印加した。放電電圧は20kVとした。
【0062】
絶縁体に貫通や割れが発生しなかったサンプルは耐電圧が確保されている(○)と評価し、絶縁体に貫通や割れが発生したサンプルは耐電圧が不十分(×)と評価した。試験結果を表2に示した。表2において、サンプル29のV2/Vは小数点以下第4位を四捨五入し、サンプル45のV2/Vは小数点以下第4位を切り捨てた。
【0063】
【表2】
表2に示すように、第2部の厚さT≦0.70mmのサンプル28,37は、耐電圧の評価において絶縁体の貫通や割れが確認された。第2部の厚さT≧2.60mmのサンプル36,45は、着火性の評価においてCOVが5%を超えた。これにより、耐電圧と燃焼の安定性とを確保するために、第2部は0.75≦厚さT(mm)<2.60、好ましくは0.75≦厚さT(mm)≦2.40が好適なことが明らかである。
【0064】
また、V2/V<0.01のサンプル45は、熱引きの評価においてプレイグニッションが発生した。これにより、熱引き性を確保するために、V2/V≧0.01が好適なことが明らかである。以上を勘案すると、耐電圧性、燃焼の安定性および熱引き性を確保するためには、0.01≦V2/(V1+V2+V3)≦0.49を満たし、0.75mm≦T≦2.4mmを満たすことが好適なことが明らかである。
【0065】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば突出部32,61,71の形状や寸法は一例であり適宜設定できる。
【0066】
上記第1実施の形態では、点火プラグ11が0.01≦V2/(V1+V2+V3)≦0.49を満たし、0.75mm≦T≦2.4mmを満たす場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。点火プラグがこれらの条件を満たすようにすることは任意である。
【0067】
上記第2実施の形態では、周方向に連続する円環状の溝を軸線O方向に互いに間隔をあけて突出部61に複数設けることによって凹凸65を形成する場合について説明した。しかし、凹凸65は突出部61の表面積Sを増やすことができれば良いので、必ずしもこれに限られるものではない。他の凹凸としては、例えば、突出部61の外面に点在する凸起や突条、突出部61の外面に分散する凹みや溝等が挙げられる。溝や突条としては、周方向に延びるもの、軸線O方向に延びるもの、螺旋状に延びるものが挙げられる。
【0068】
第2実施の形態で説明した突出部61の凹凸65を、第3実施の形態で説明した点火プラグ70に設けることは当然可能である。点火プラグ70に凹凸65を設けることによって、突出部71の外面の表面積Sを拡大できる。その結果、突出部71による非平衡プラズマの発生量を増やすことができる。
【0069】
上記実施の形態では、リング部材52及び充填材53を介して主体金具20を加締める場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。リング部材52及び充填材53を省略して、主体金具20を加締めることは当然可能である。
【符号の説明】
【0070】
10 点火装置
11,60,70 点火プラグ
12 電圧印加部
20 主体金具
30 絶縁体
32,61,71 突出部
33,62,72 第1部
34,63,73 第2部
38 隙間
40 中心電極
41 先端部(部位)
65 凹凸
74 第3部
O 軸線
図1
図2
図3
図4
図5