(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、およびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルから選択される少なくとも1種である請求項6に記載の試薬キット。
前記カオトロピック剤が、尿素、グアニジン塩酸塩、サリチル酸ナトリウム、チオシアン酸ナトリウム、過塩素ナトリウム、アセトアミドおよびホルムアミドから選択される少なくとも1種である請求項8に記載の試薬キット。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において、「前処理」とは、HBs抗原を含む疑いのある試料を該抗原の検出方法に付す前に、該試料を検出に適した状態になるよう処理することを意図する。また、本発明の試料の前処理方法は、例えば、以下で説明する「処理工程」と「中和工程」を用手法で行ってもよいし、あるいは「処理工程」を用手法で行い、「中和工程」を装置で行ってもよい。
【0018】
本発明の試料の前処理方法(以下、「前処理方法」ともいう)では、まず、HBs抗原を含む疑いのある試料と、アルカリ性物質を含有する前処理液とを、該アルカリ性物質の終濃度が0.012〜0.15 Nとなるように混合することにより、該試料を処理する工程を行う(以下、「処理工程」ともいう)。この処理工程では、前処理液に含まれるアルカリ性物質の作用によって、試料中のHBs抗体は変性されて不活化される。
【0019】
なお、処理工程におけるアルカリ性物質の終濃度は、上記の範囲内であれば特に限定されず、例えば、0.012、0.013、0.014、0.015、0.016、0.017、0.018、0.019、0.020、0.030、0.040、0.050、0.060、0.070、0.080、0.090、0.10、0.11、0.12、0.13、0.14および0.15 Nが挙げられる。
【0020】
HBs抗原を含む疑いのある試料は、生体試料または該生体試料から調製された試料であれば特に限定されない。そのような生体試料としては、組織、細胞、体液、分泌物および排泄物などが挙げられる。具体的には、全血、血漿、血清、リンパ液、骨髄液、胆汁、胃腸分泌物、精液、唾液、母乳、尿、糞便などが挙げられる。また、生体試料から調製された試料としては、該生体試料の希釈液、懸濁液、抽出液、ホモジネートが挙げられる。例えば、組織または細胞の抽出液、あるいは、組織または細胞のホモジネートが挙げられる。
【0021】
本発明の実施形態において、前処理液中のアルカリ性物質は、当該技術において公知の強塩基が好ましい。そのような強塩基は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の水酸化物、水素化物およびアミド化物から少なくとも1種を選択することができる。それらの中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化マグネシウムが特に好ましい。
【0022】
前処理液中のアルカリ性物質の濃度は、該前処理液と、上記のHBs抗原を含む疑いのある試料とを混合したときに、該アルカリ性物質の終濃度を0.012〜0.15 Nとすることができる濃度であれば、特に限定されない。したがって、試料が液体である場合は、前処理液中のアルカリ性物質の濃度は、該試料と前処理液との混合比(体積比)に応じて適宜設定できる。例えば、試料と前処理液とを、体積比で表して1:1で混合する場合、該前処理液中のアルカリ性物質の濃度は0.024〜0.3 Nとすればよい。本発明の実施形態においては、液体の形態にある試料と、前処理液との混合比は特に限定されないが、好ましくは、体積比で表して1:1〜1:0.5である。
【0023】
本発明の実施形態においては、アルカリ性物質の作用により不活化されたHBs抗体および/またはその他の夾雑物を除去するために、上記の前処理液は、非イオン性界面活性剤をさらに含むことが好ましい。そのような非イオン性界面活性剤は特に限定されないが、好ましくは公知のポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤から選択される。ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(Brij(登録商標)35、Brij(登録商標)45など)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(Triton (登録商標) X-100、Triton(登録商標) X-114、NP-40(登録商標)など)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Tween(登録商標)-20、Tween(登録商標)-80など)などが挙げられ、それらのうちの少なくとも1種を用いることができる。それらの中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが特に好ましい。
【0024】
前処理液中の非イオン性界面活性剤の濃度は特に限定されないが、該前処理液と試料とを混合したときにHBs抗原が実質的に変性しない濃度であることが望ましい。例えば、前処理液がBrij(登録商標)35を含む場合、その濃度は、該前処理液と試料とを混合したときに、Brij(登録商標)35の終濃度を0.05〜0.5%とすることができる濃度であればよい。
【0025】
本発明の実施形態においては、アルカリ性物質の作用により不活化されたHBs抗体および/またはその他の夾雑物を除去するために、上記の前処理液は、カオトロピック剤をさらに含むことが好ましい。ここで、カオトロピック剤とは、タンパク質の分子構造を不安定化する作用を有する物質である。そのようなカオトロピック剤は特に限定されず、例えば、尿素、グアニジン塩酸塩、サリチル酸ナトリウム、チオシアン酸ナトリウム、過塩素ナトリウム、アセトアミド、ホルムアミドなどが挙げられ、それらのうちの少なくとも1種を用いることができる。それらの中でも、尿素が特に好ましい。
【0026】
前処理液中のカオトロピック剤の濃度は特に限定されないが、該前処理液と試料とを混合したときにHBs抗原が実質的に変性しない濃度であることが望ましい。例えば、前処理液が尿素を含む場合、その濃度は、該前処理液と試料とを混合したときに、尿素の終濃度を0.05〜1Mとすることができる濃度であればよい。
【0027】
本発明の実施形態では、上記工程における処理温度および処理時間は、前処理液の組成、試料の種類、前処理液と試料との混合量などの条件に応じて適宜設定できる。通常は、前処理液と試料とを混合した後、混合物を15〜25℃の温度下で5〜10分間静置すればよい。
【0028】
本発明の前処理方法では、上記の処理工程で得られた試料を、酸性物質を含有する試薬で中和する工程を行う(以下、「中和工程」ともいう)。この中和工程では、中和後の試料のpHが6.5〜8となるように、上記の処理工程で得られた試料と、酸性物質を含有する試薬とを混合することが好ましい。
【0029】
本発明の実施形態において、中和工程で用いられる試薬中の酸性物質の種類は、特に限定されない。そのような酸性物質としては、例えば、クエン酸、酢酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、リン酸、ギ酸、フマル酸、酒石酸、塩酸および硫酸などが挙げられ、それらのうちの少なくとも1種を用いることができる。それらの中でも、クエン酸が特に好ましい。
【0030】
本発明の実施形態において、試薬中の酸性物質の濃度は、上記の処理工程で得られた試料と、酸性物質を含有する試薬とを混合したときに、得られた試料のpHが6.5〜8となる濃度であれば特に限定されない。そのような濃度は、該酸性物質の種類、処理工程で得られた試料の量などに応じて適宜決定できる。例えば、酸性物質としてクエン酸を用いる場合は、試薬中のクエン酸濃度は0.03〜0.16 Mが好ましい。
【0031】
本発明の実施形態では、中和工程における処理温度および処理時間は特に限定されないが、通常は、上記の処理工程で得られた試料と、酸性物質を含有する試薬とを混合した後、混合物を15〜25℃の温度下で1〜10分間静置すればよい。
【0032】
本発明の実施形態においては、前処理方法を、後述するHBs抗原の検出方法に利用する場合、上記の前処理液、または酸性物質を含有する試薬は、還元剤をさらに含むことが好ましい。この還元剤の存在により、後述する回収工程において、担体粒子の凝集を抑制することができる。そのような還元剤は、タンパク質のジスルフィド結合を解離させる作用を有する還元剤が好ましい。例えば、メルカプトエチルアミン、メルカプトエタノール、ジチオトレイトール、システイン、ジチオエリトリトール、水素化ホウ素ナトリウム、ホスフィンなどが挙げられる。それらの中でも、メルカプトエチルアミン、ジチオトレイトールおよびシステイン塩酸塩が特に好ましい。本発明の実施形態において、前処理液、または酸性物質を含有する試薬における還元剤の濃度は、後述する形成工程に影響を及ぼさない濃度であれば特に限定されない。例えば、メルカプトエチルアミンを用いる場合、その濃度は10〜60 mMが好ましい。
【0033】
本発明の実施形態においては、前処理方法を後述するHBs抗原の検出方法に利用する場合、上記の前処理液、または酸性物質を含有する試薬は、無機塩類をさらに含むことが好ましい。この無機塩類の存在により、後述する回収工程において、担体粒子の凝集を抑制することができる。そのような無機塩類としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウムなどが挙げられる。それらの中でも、塩化ナトリウム、塩化カリウムおよび硫酸ナトリウムが特に好ましい。本発明の実施形態において、前処理液、または酸性物質を含有する試薬における無機塩類の濃度は、後述する形成工程に影響を及ぼさない濃度であれば特に限定されない。例えば、塩化ナトリウムを用いる場合、その濃度は0.1〜1Mが好ましい。
【0034】
本発明の範囲には、上記の本発明の前処理方法を利用するHBs抗原の検出方法も含まれる。HBs抗原の検出方法としては、公知の免疫測定法であれば特に限定されない。本発明の検出方法では、以下で説明する「転移工程」を含む免疫複合体転移測定法が、本発明の前処理方法を用いて高感度にHBs抗原を検出する上で、特に好ましい。以下に、本発明のHBs抗原の検出方法(以下、「検出方法」ともいう)について説明する。
【0035】
本発明の検出方法では、HBs抗原を含む疑いのある試料を本発明の前処理方法によって処理して得られた試料を用いて、後述する各工程を経てHBs抗原を検出する。したがって、本発明の検出方法におけるHBs抗原を含む疑いのある試料の前処理工程、および、それに続く中和工程の具体的な手順などは、本発明の前処理方法についての説明で述べたことと同様である。
【0036】
上記の2つの工程に続いて、本発明の検出方法では、中和工程で得られた試料に、HBs抗原と結合する標識抗体、担体粒子、並びにHBs抗原および該担体粒子と結合する第1抗体を加えて、HBs抗原、該標識抗体および該第1抗体を含む複合体を上記の担体粒子上に形成させる工程を行う(以下、「形成工程」ともいう)。
【0037】
本発明の実施形態において、HBs抗原と結合する標識抗体(以下、単に「標識抗体」ともいう)は、HBs抗原と特異的に結合することができ、且つ免疫学的手法で慣用される公知の標識物質で標識された抗体であれば特に限定されない。そのような標識抗体は、適当な架橋剤や市販のラベリングキットなどを用いる公知の方法により、抗HBs抗体と標識物質とを結合または連結させることによって作製することができる。なお、標識される抗体は、Fab、F(ab')
2などの抗原結合性抗体フラグメントまたはその誘導体であってもよい。
【0038】
本発明の実施形態において、標識物質は、検出または測定可能なシグナルを発することができる物質であれば特に限定されず、例えば、酵素、蛍光物質、放射性同位元素などが挙げられる。酵素としては、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、チロシナーゼ、酸性ホスファターゼ、ルシフェラーゼなどが挙げられる。蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)などの蛍光色素、グリーン蛍光タンパク質(GFP)などの蛍光タンパク質などが挙げられる。放射性同位元素としては、
125I、
14C、
32Pなどが挙げられる。それらの中でも、標識物質としては酵素が特に好ましい。
【0039】
本発明の実施形態において、担体粒子は、免疫学的手法で慣用される公知の粒子から選択することができる。そのような担体粒子としては、例えば、磁性粒子、ラテックス粒子、赤血球、ゼラチン粒子などが挙げられる。それらの中でも、磁性粒子が特に好ましい。ここで、磁性粒子とは、磁性を有する材料を基材として含む粒子である。このような磁性粒子は当該技術において公知であり、基材としてFe
2O
3および/またはFe
3O
4、コバルト、ニッケル、フィライト、マグネタイトなどを含む粒子が挙げられる。
【0040】
本発明の実施形態において、HBs抗原および担体粒子と結合する第1抗体(以下、単に「第1抗体」ともいう)は、上記の標識抗体が結合するHBs抗原のエピトープとは異なるエピトープと抗原抗体反応によって特異的に結合し、且つ上記の担体粒子と結合可能な抗体であれば、特に限定されない。ここで、該第1抗体と担体粒子との結合様式は、解離可能な結合であれば特に限定されず、例えば、物理的吸着、イオン結合などが挙げられる。また、第1抗体と担体粒子との間を介在する物質を用いて、両者を結合させることもできる。そのような物質としては、互いに特異的に結合し、且つ解離可能な2つの物質の組み合わせが好ましい(便宜上、2つの物質をそれぞれ「物質A」および「物質B」という)。例えば、物質Aを「担体粒子との結合部位」として第1抗体に結合させ、物質Bを担体粒子に結合させることにより、物質Aと物質Bとの親和性を利用して、第1抗体と担体粒子とを結合させることができる。そのような物質Aおよび物質Bの組み合わせは当該技術において公知であり、例えば、抗原(HBs抗原を除く)とその抗体、リガンドとその受容体、オリゴヌクレオチドとその相補鎖、ビオチン(またはデスチオビオチン)とアビジン(またはストレプトアビジン)、ニッケルとヒスチジンタグ、グルタチオンとグルタチオン-S-トランスフェラーゼといった組み合わせが挙げられる。なお、抗原とその抗体の組み合わせとしては、ハプテンと抗ハプテン抗体、および、ビオチン(またはデスチオビオチン)と抗ビオチン抗体(また抗デスチオビオチン抗体)が好ましい。また、ハプテンと抗ハプテン抗体の組み合わせとしては、2, 4-ジニトロフェノール(DNP)と抗DNP抗体が特に好ましい。
【0041】
本発明の実施形態においては、上記の物質Aおよび物質Bのうち、どちらを第1抗体または担体粒子に結合させるかは特に限定されないが、抗原とその抗体の組み合わせを用いる場合は、該抗原を第1抗体に結合させ、該抗原に対する抗体を担体粒子に結合させることが好ましい。なお、上記の物質を抗体および担体粒子に結合させる方法は、当該技術において公知である。例えば、抗体とビオチンとを結合させる場合は、該抗体中のアミノ基またはチオール基と反応する架橋剤(例えば、マレイミド、N-ヒドロキシスクシンイミドなど)を用いる方法が知られている。また、上記の物質と担体粒子とを結合させる方法としては、物理的吸着法、共有結合法、イオン結合法などが知られている。
【0042】
本発明の好ましい実施形態においては、担体粒子として、第1抗体と結合する第2抗体を固定した担体粒子を用いることにより、第2抗体を介して第1抗体と担体粒子とを結合させる。ここで、第1抗体と第2抗体との結合様式は、解離可能な結合であることが望ましい。例えば、ハプテン(例えば、DNPなど)またはビオチン(もしくはデスチオビオチン)を結合させた第1抗体と、該ハプテンまたはビオチン(もしくはデスチオビオチン)と特異的に結合する第2抗体を固定した担体粒子を用いることが好ましい。この場合では、ハプテンまたはビオチン(もしくはデスチオビオチン)と特異的に結合する抗体を、第1抗体に結合する第2抗体として用いている。特に好ましい実施形態においては、DNPを結合させた第1抗体と、抗DNP抗体を固定した担体粒子を用いる。
【0043】
この形成工程では、HBs抗原と上記の標識抗体とが抗原抗体反応により結合して、ここに上記の第1抗体が抗原抗体反応によって、さらに結合することで、「標識抗体−HBs抗原−第1抗体」を含む複合体が形成される。そして、該複合体に含まれる第1抗体と、担体粒子とが結合することにより、該担体粒子上に「標識抗体−HBs抗原−第1抗体」を含む複合体が形成される。本発明の好ましい実施形態では、担体粒子として、第1抗体と結合する第2抗体を固定した担体粒子を用いることにより、該担体粒子上に「標識抗体−HBs抗原−第1抗体−第2抗体」を含む複合体が形成される。
【0044】
本発明の実施形態においては、標識抗体、担体粒子および第1抗体の添加量は特に限定されず、試料の量などに応じて適宜決定できる。また、標識抗体、第1抗体および担体粒子をそれぞれ順番に試料に添加してもよいし、全てを同時に添加してもよい。ここで、標識抗体、第1抗体および担体粒子をそれぞれ順番に試料に添加する場合、標識抗体および第1抗体はいずれを先に添加してもよいが、担体粒子はこれらの抗体の後に添加することが好ましい。あるいは、第1抗体と担体粒子とは、形成工程を行う前にあらかじめ結合させていてもよい。
【0045】
本発明の実施形態では、形成工程における反応温度および反応時間は特に限定されないが、通常は、20〜45℃の温度下で15〜30分間静置するか、または穏やかに撹拌すればよい。なお、標識抗体、第1抗体および担体粒子をそれぞれ順番に試料に添加する場合、各剤を添加するたびに反応時間を設定してもよい。
【0046】
本発明の検出方法では、上記の形成工程で得られた試料中の担体粒子を選択的に回収する工程を行う(以下、「回収工程」ともいう)。該試料中には、上記の複合体を形成させた担体粒子の他に、前処理液の構成成分、余剰の標識抗体および第1抗体などの夾雑物が存在するが、この回収工程では、該担体粒子はそのような夾雑物から分離して回収される。したがって、この回収工程により、後述する測定工程に悪影響を及ぼす夾雑物を除くことができる。
【0047】
試料中の担体粒子を選択的に回収する方法自体は当該技術において公知であり、用いた担体粒子の種類に応じて適宜決定することができる。例えば、磁性粒子を用いた場合、磁気分離により、試料中の担体粒子を選択的に回収することができる。具体的には、形成工程で得られた試料が入った容器の壁面に磁石を近づけて、試料中の磁性粒子を容器の壁面に固定させ、液相を吸引除去することにより、該粒子を選択的に回収することができる。また、ゼラチン粒子またはラテックス粒子を用いた場合、遠心分離によって該粒子を沈殿させた後、液相を吸引除去することにより選択的に回収することができる。
【0048】
本発明の実施形態においては、回収工程は、回収した担体粒子を洗浄する工程をさらに含むことができる。担体粒子の洗浄は、例えば、回収した担体粒子に洗浄液を添加して懸濁した後、該担体粒子を、上記のようにして洗浄液から選択的に回収することにより行うことができる。洗浄液としては、担体粒子上に形成された複合体を損なわない緩衝液が好ましい。そのような洗浄液としては、界面活性剤を含む緩衝液が特に好ましく、例えば、TBS-T(0.05% Tween20含有Tris緩衝生理食塩水)およびPBST(0.05% Tween20含有リン酸緩衝生理食塩水)などが挙げられる。また、HISCL洗浄液(シスメックス株式会社製)などの市販の洗浄液を用いることもできる。
【0049】
本発明の検出方法では、上記の回収工程で得られた担体粒子上の複合体を遊離させて、該担体粒子とは異なる固相に転移させる工程を行う(以下、「転移工程」ともいう)。ここで、担体粒子上の複合体を遊離させる方法自体は、当該技術において公知である。例えば、形成工程で得られた複合体中の第1抗体と、担体粒子との結合を解離させることができる物質を遊離剤として用いる方法が挙げられる。そのような遊離剤は当該技術において公知であり、第1抗体と担体粒子との結合様式に応じて適宜選択することができる。例えば、複合体中の第1抗体と、担体粒子とが物理的吸着により結合している場合は、遊離剤として、界面活性剤を含む溶液を用いることで、該複合体を遊離させることができる。また、イオン結合の場合は、イオンを含む溶液を用いることで該複合体を遊離させることができる。
【0050】
第1抗体と担体粒子とが、上記の物質Aと物質Bとの親和性を利用して結合している場合にも、該物質Aと物質Bとの結合を解離させることができる物質を遊離剤として用いることにより、複合体を遊離させることができる。そのような遊離剤も当該技術において公知であり、物質Aと物質Bとの組み合わせに応じて適宜選択することができる。例えば、ハプテンと抗ハプテン抗体の結合の場合は、遊離剤として該ハプテンまたはその誘導体を用いることができる。また、ビオチン(またはデスチオビオチン)とアビジン(またはストレプトアビジン)との結合の場合は、遊離剤としてビオチンを用いることができる。
【0051】
上記の形成工程において得られた複合体が、第1抗体と第2抗体との結合を介して担体粒子に結合している場合は、遊離剤として、第2抗体が特異的に認識する抗原を用いることにより、該複合体を遊離させることができる。
【0052】
遊離剤を用いて複合体を遊離させる場合、処理温度および処理時間は特に限定されないが、通常は、20〜45℃の温度下で3〜8分間静置するか、または穏やかに撹拌すればよい。
【0053】
転移工程では、上記のようにして担体粒子から遊離させた複合体を、担体粒子とは異なる固相と接触させて結合させることにより、該複合体を該固相に転移させる。ここで、本明細書において、「担体粒子とは異なる固相」とは、上記の形成工程にて添加されたときから存在する担体粒子とは別の固相を意味する(以下、単に「固相」ともいう)。すなわち、この転移工程では、遊離した複合体が、形成工程にて添加されたときから存在する担体粒子に再び結合することを意図していない。したがって、本発明の実施形態においては、担体粒子から遊離させた複合体を回収して、新たに用意した固相と接触させることが好ましい。例えば、担体粒子から複合体を遊離させた後、上記の回収工程と同様にして該担体粒子を容器の壁面または底部に固定させる。そして、該複合体を含む液相を回収して、これを上記の固相と接触させることができる。
【0054】
本発明の実施形態において、担体粒子とは異なる固相は、上記の複合体と結合可能な固相であれば特に限定されず、免疫学的手法で慣用される公知の固相から選択することができる。そのような固相の材料としては、例えば、ラテックス、ゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリルアミド、ポリメタクリレート、スチレン−メタクリレート共重合体、ポリグリシジルメタクリレート、アクロレイン−エチレングリコールジメタクリレート共重合体、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)、シリコーン、アガロース、ゼラチン、赤血球、シリカゲル、ガラス、不活性アルミナ、磁性体などが挙げられる。また、これらの1種または2種以上を組み合わせてもよい。固相の形状としては、例えば、マイクロタイタープレート、試験管、粒子などが挙げられ、それらの中でも粒子が特に好ましい。
【0055】
本発明の実施形態において、固相と複合体との結合様式は特に限定されないが、複合体中の第1抗体と固相との間を介在する物質を用いて両者を結合させることが好ましい。そのような物質としては、上記の物質Aおよび物質Bの組み合わせが挙げられる。例えば、物質Aを「固相との結合部位」としてあらかじめ第1抗体に結合させておき、物質Bを固相に結合させることにより、物質Aと物質Bとの親和性を利用して、複合体中の第1抗体と固相とを結合させることができる。そのような物質Aおよび物質Bの組み合わせとしては、ビオチン(またはデスチオビオチン)とアビジン(またはストレプトアビジン)が好ましい。なお、第1抗体と固相との結合のための物質Aおよび物質Bの組み合わせは、該第1抗体と担体粒子との結合のための組み合わせとは異なっていることが好ましい。例えば、DNPおよびビオチンを結合させた第1抗体と、抗DNP抗体を固定した担体粒子と、抗ビオチン抗体を固定した固相とを用いることが挙げられる。
【0056】
複合体を固相に転移させるための処理温度および処理時間は特に限定されないが、通常は、20〜45℃の温度下で1〜30分間静置するか、または穏やかに撹拌すればよい。特に、固相の形状が粒子である場合、1〜5分間静置するか、または穏やかに撹拌すればよい。
【0057】
本発明の検出方法では、上記の転移工程で得られた固相上の複合体に含まれる標識抗体の標識を測定する工程を行う(以下、「測定工程」ともいう)。ここで、標識抗体の標識を測定する方法自体は当該技術において公知である。本発明の実施形態においては、上記の標識抗体に用いた標識物質に由来するシグナルの種類に応じた適切な測定方法を選択することができる。例えば、該標識物質が酵素である場合、該酵素に対する基質を反応させることによって発生する光、色などのシグナルを、公知の装置を用いて測定することにより行うことができる。そのような測定装置としては、分光光度計、ルミノメータなどが挙げられる。
【0058】
なお、酵素の基質は、該酵素の種類に応じて公知の基質から適宜選択することができる。例えば、酵素としてアルカリホスファターゼを用いる場合、基質としては、CDP-Star(登録商標)(4-クロロ-3-(メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2'-(5'-クロロ)トリクシロ[3. 3. 1. 1
3, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)、CSPD(登録商標)(3-(4-メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2-(5'-クロロ)トリシクロ[3. 3. 1. 1
3, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)などの化学発光基質;p-ニトロフェニルホスフェート、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)、4-ニトロブルーテトラゾリウムクロリド(NBT)、ヨードニトロテトラゾリウム(INT)などの発光基質;4-メチルウムベリフェニル・ホスフェート(4MUP)などの蛍光基質;5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)、5-ブロモ-6-クロロ−インドリルリン酸2ナトリウム、p-ニトロフェニルリンなどの発色基質が挙げられる。
【0059】
標識物質が放射性同位体である場合は、シグナルとしての放射線を、シンチレーションカウンターなどの公知の装置を用いて測定することができる。また、標識物質が蛍光物質である場合は、シグナルとしての蛍光を、蛍光マイクロプレートリーダなどの公知の装置を用いて測定することができる。
【0060】
本発明の検出方法では、上記の測定工程で得られた結果に基づいて、上記の試料中のHBs抗原を検出する工程を行う(以下、「検出工程」ともいう)。具体的には、測定工程において、複合体中の標識抗体に由来する標識が測定された場合に、被験者から得た試料においてHBs抗原が検出されたこととなる。反対に、該標識が測定されなかった場合に、被験者から得た試料においてHBs抗原が検出されなかったこととなる。本発明の実施形態においては、陰性対照および陽性対照として、それぞれHBs抗原を含まない試料(例えば、健常者から得た生体試料)、および、HBs抗原を含む試料(例えば、B型肝炎患者から得た生体試料)を用いることが好ましい。
【0061】
本発明の実施形態においては、測定工程で得られた測定値と、予め設定した閾値とを比較して、被験者から得た試料中のHBs抗原を検出してもよい。すなわち、測定値が閾値と同じかまたは閾値よりも大きい場合、被験者から得た試料においてHBs抗原が検出されたこととなる。反対に、測定値が閾値よりも小さい場合、被験者から得た試料においてHBs抗原が検出されなかったこととなる。なお、閾値は次のようにして設定することができる。まず、HBs抗原を含まない試料およびHBs抗原を含む試料を用いて、本発明の検出方法の測定工程までの手順にしたがって、それぞれの測定値を取得する。なお、各試料はそれぞれ複数検体あることが好ましい。そして、HBs抗原を含む試料の群と、HBs抗原を含まない試料の群とを区別可能な値を閾値として設定することができる。そのような閾値としては、例えば、HBs抗原を含む試料の群と、HBs抗原を含まない試料の群とを二等分できる中央値が挙げられる。
【0062】
本発明の範囲には、本発明の前処理方法および検出方法に好適に用いることができる、前処理用試薬キットも含まれる。以下に、本発明のHBs抗原を検出するための前処理用試薬キット(以下、「試薬キット」ともいう)について説明する。
【0063】
本発明の試薬キットは、アルカリ性物質を含有する第1試薬と、酸性物質を含有する第2試薬とを含む。ここで、本発明の試薬キットの第1試薬および第2試薬は、それぞれ、本発明の前処理方法で用いられる「アルカリ性物質を含有する前処理液」および「酸性物質を含有する試薬」に相当する試薬である。したがって、本発明の試薬キットの第1試薬および第2試薬の組成および使用方法などは、本発明の前処理方法で用いられる前処理液、および酸性物質を含有する試薬についての説明で述べたことと同様である。
【0064】
本発明の別の実施形態においては、上記の前処理用試薬キットと、HBs抗原の検出に用いられる試薬などとを組み合わせて、HBs抗原検出用試薬キットとすることができる。すなわち、本発明のHBs抗原検出用試薬キットは、
アルカリ性物質を含有する第1試薬と、
酸性物質を含有する第2試薬と、
HBs抗原と結合する標識抗体を含有する第3試薬と、
担体粒子を含有する第4試薬と、
HBs抗原および該担体粒子と結合する第1抗体を含む第5試薬と、
該担体粒子とは異なる固相と
を含む。
【0065】
上記の第3試薬に含まれる「HBs抗原と結合する標識抗体」、第4試薬に含まれる「担体粒子」、第5試薬に含まれる「HBs抗原および担体粒子と結合する第1抗体」および「担体粒子とは異なる固相」は、それぞれ、本発明の検出方法に用いられる標識抗体、第1抗体、担体粒子および固相に相当する。したがって、本発明のHBs検出用試薬キットの標識抗体、第1抗体、担体粒子および固相の種類、構造、使用方法などについては、本発明の検出方法についての説明で述べたことと同様である。
【0066】
本発明の実施形態においては、第3試薬、第4試薬および第5試薬は、適当な緩衝液をさらに含んでいてもよい。そのような緩衝液はpH6.5〜8にて緩衝作用を有する緩衝液であれば特に限定されず、例えばリン酸緩衝液(PBS)、イミダゾール緩衝液、トリエタノールアミン塩酸塩緩衝液(TEA)、グッド緩衝液などが挙げられる。グッド緩衝液としては、MES、Bis-Tris、ADA、PIPES、Bis-Tris-Propane、ACES、MOPS、MOPSO、BES、TES、HEPES、HEPPS、Tricine、Tris、Bicine、TAPSなどの緩衝液が挙げられる。また、本発明の実施形態においては、緩衝液は、必要に応じて、タンパク質安定化剤(BSAなど)、防腐剤(アジ化ナトリウム、フェニルメタンスルホニルフルオリドなど)、無機塩類(塩化マグネシウム、塩化亜鉛など)といった公知の添加物を含んでいてもよい。
【0067】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0068】
実施例1 セロコンバージョンパネルを用いた前処理効果の検討
1.材料
(1)試料
HBV陽性患者から得たセロコンバージョンパネル(PHM935B:Boston Biomedica, Inc.)を試料として用いた。このセロコンバージョンパネルは、1人のHBV陽性患者から定期的に採取した血清であり、各血清に含まれるHBs抗体の濃度は既知である。本実施例では、各試料を血清番号27〜32により識別する。血清番号30〜32の試料は、HBs抗体濃度が増加しており、セロコンバージョンしたと考えられる血清である。なお、陽性対照としてHISCL HBsAg キャリブレータ(HBs抗原濃度0.025 IU/mL:シスメックス株式会社)、および陰性対照として健常人血清(国際バイオ株式会社)を用いた。
【0069】
(2)前処理液(第1試薬)
水酸化ナトリウム(ナカライテスク株式会社)を0.3 N、Brij(登録商標)35(和光純薬工業株式会社)を0.4%、および尿素(キシダ化学株式会社)を1.2 Mの濃度で含む水溶液を、前処理液として用いた。
(3)酸性物質を含む試薬(第2試薬)
クエン酸(キシダ化学株式会社)を0.11 M、NaCl(マナック株式会社)およびメルカプトエチルアミン(ナカライテスク株式会社)を20 mMの濃度で含む水溶液を、酸性物質を含む試薬として用いた。
【0070】
(4)標識抗体試薬(第3試薬)
標識抗体として、アルカリフォスファターゼ(ALP)で標識された抗HBs抗体フラグメントを2種類用いた(以下、それぞれ「ALP標識HBs85Fab'」および「ALP標識HBs149Fab'」という)。ここで、ALP標識HBs149Fab'は、受託番号FERM BP-10583で、2006年3月27日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(郵便番号292−0818、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 120号室)に受託されているハイブリドーマから産生されるモノクローナル抗体から作製した。ALP標識HBs85Fab'は、受託番号NITE BP-1483で、2012年12月13日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(郵便番号292−0818、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室)に受託されているハイブリドーマから産生されるモノクローナル抗体から作製した。具体的な標識抗体試薬の作製手順は、次のとおりである。各モノクローナル抗体をペプシン消化および還元して、Fab'フラグメントを得た。また、ALP(オリエンタル酵母株式会社)をEMCS(N-(6-マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミド)(株式会社同仁化学研究所)を用いてマレイミド化した。そして、該フラグメントと、マレイミド化したALPとを混合して反応させることで、標識抗体を得た。得られた標識抗体を、希釈液(0.1 M MES (pH6.5)、0.15 M NaCl、1.0% BSA、0.1% NaN
3、10 mM MgCl
2、1mM ZnCl
2)で希釈した。各標識抗体の希釈液を1:1で混合して、標識抗体試薬(ALP濃度0.4 U/mL)を調製した。
【0071】
(5)担体粒子試薬(第4試薬)
磁性粒子(Micromer M:Micromod社製)に、第2抗体としての抗DNP抗体(DNP-1753)を固定化させて、担体粒子を得た。得られた担体粒子を希釈液(0.1 M MES (pH6.5)、0.15 M NaCl、0.25% BSA、0.1% NaN
3)で希釈して、担体粒子試薬(粒子濃度0.5%)を調製した(以下、「磁性粒子試薬」とも呼ぶ)。ここで、磁性粒子への抗体の固定化は、Sulfo-SMCC(ピアス社)を用いて行った。なお、上記のDNP-1753抗体は、受託番号NITE P-845で、2009年11月25日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに受託されているハイブリドーマから産生されるモノクローナル抗体である。
【0072】
(6)第1抗体試薬(第5試薬)
第1抗体として、ビオチンおよびDNPで修飾された抗HBs抗体を2種類用いた(以下、それぞれ「Biotin/DNP標識HBs1053」および「Biotin/DNP標識HBs628」という)。ここで、Biotin/DNP標識HBs1053は、受託番号FERM BP-10582で、2006年3月27日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センターに受託されているハイブリドーマから産生されるモノクローナル抗体から作製した。Biotin/DNP標識HBs628は、受託番号NITE BP-1484で、2012年12月13日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに受託されているハイブリドーマから産生されるモノクローナル抗体から作製した。具体的な標識抗体試薬の作製手順は、次のとおりである。ビオチン化試薬(EZ-Link(登録商標)Sulfo-NHS-LC-Biotin Reagents:ピアス社)をBSA(Proliant社)に添加して、次いでDNP標識試薬(DNP-X acid SE:ABD Bioquest社)を添加することで、ビオチンおよびDNPで修飾されたBSA(Biotin/DNP標識BSA)を調製した。Biotin/DNP標識BSAを、EMCS(同仁化学)を用いてマレイミド化した。そして、上記の各モノクローナル抗体と、マレイミド化したBiotin/DNP標識BSAとを混合して反応させることで、第1抗体を得た。得られた第1抗体を、希釈液(0.1 M MES (pH6.5)、0.15 M NaCl、1.0% BSA、0.1% NaN
3)で希釈した。各抗体の希釈液を1:1で混合して、第1抗体試薬(各抗体濃度0.5μg/mL)を調製した。
【0073】
(7)遊離剤
第1抗体に結合したDNPと、第2抗体との結合を解離するための遊離剤として、DNP-Lys溶液を用いた。このDNP-Lys溶液は、N-(2, 4-ジニトロフェニル)-L-リジン(東京化成工業株式会社)を、終濃度5mMとなるように希釈液(0.1 M MES (pH6.5)、0.25% BSA、0.1% NaN
3)で希釈して調製した。
(8)固相
上記の担体粒子とは異なる固相として、ストレプトアビジン固定化マイクロプレート(Nunc社)を用いた。
【0074】
2.試料の前処理
(1)処理工程
試料(60μL)と前処理液(50μL)とを混合して、室温にて7分間インキュベーションすることにより、該試料を、終濃度約0.136 Nの水酸化ナトリウムの存在下で処理した。
(2)中和工程
上記の処理工程で得られた試料と、酸性物質を含む試薬(50μL)とを混合して、室温にて8分間インキュベーションすることにより、該試料を中和した。なお、中和後の試料のpHをpH試験紙(Whatman社)により調べ、pHが7〜7.5であることを確認した。
(3)比較用試料の調製
前処理の効果を検討するために、上記の処理工程および中和工程に付さない比較用試料を調製した。すなわち、上記の各試料(60μL)とHISCL検体希釈液(シスメックス株式会社)(100μL)とを混合して、比較用試料を得た。
【0075】
3.HBs抗原の検出
(1)形成工程
中和工程で得られた試料(160μL)と、標識抗体試薬(100μL)とを、反応キュベット(HISCL用反応キュベット:シスメックス株式会社製)内で混合し、42℃で8分間インキュベーションした。この反応キュベットに、第1抗体試薬(100μL)を添加し、42℃で8分間インキュベーションした。さらに、この反応キュベットに、磁性粒子試薬(50μL)を添加し、42℃で10分間インキュベーションして、形成工程を行った。また、上記の前処理工程を行わなかった比較用試料についても、同様の操作を行った。
(2)回収工程
形成工程で得られた試料を含む反応キュベットに、集磁装置(MINITUBE MAG SEPARATOR:SPHERO TECH社製)を用いて磁気分離を行い、該キュベット内の上清を除去することにより、担体粒子を回収した。この反応キュベットに洗浄液(350μL)(HISCL洗浄液:シスメックス株式会社)を添加し、再び磁気分離を行って担体粒子を洗浄した。同様の洗浄操作を2回繰り返して、担体粒子を回収した。
【0076】
(3)転移工程
回収工程で得られた試料を含む反応キュベットに、遊離剤(40μL)を添加し、42℃で5分間インキュベーションした。次に、上記の集磁装置を用いて磁気分離を行い、上清を回収して固相に移した。該固相を室温で20分間インキュベーションすることにより、転移工程を実施した。そして、固相から上清を除去し、HISCL洗浄液(300μL)を添加し、再び上清を除去することにより洗浄を行った。同様の洗浄操作を5回繰り返した。
(4)測定工程
転移工程で得られた固相に、HISCL R4試薬(17.5μL)とHISCL R5試薬(17.5μL)(シスメックス株式会社)を添加し、42℃で5分間インキュベートした。そして、OPTIMA (BMG LABTECH社)を用いて、発光強度(counts)の測定(3sec at gain 3960)を行った。測定結果を、以下の表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
(5)検出工程
陽性対照および陰性対照についての測定結果より、本発明のHBs抗原の検出方法では試料中のHBs抗原を検出できることがわかる。被験者に由来するHBs抗体の濃度が低い血清番号27〜29の試料については、本発明の前処理方法を行わなくても、HBs抗原を検出することができた。しかしながら、HBs抗体の濃度が増加している血清番号27〜29の試料については、本発明の前処理方法を行ったときの発光強度は、行わなかったときの発光強度の約2倍となっていた。したがって、本発明の前処理方法により、被験者に由来するHBs抗体の影響を排除して、HBs抗原を検出することが可能となる。
【0079】
参考例1 HBs抗原の検出方法の感度の検討
1.試料
HBV陽性患者から得た血清(HBV6292-11:Zepto Metrix社)を段階的に希釈して血清希釈液を作製し、これらを試料として用いた。各試料に含まれるHBs抗原の濃度は既知である。本実施例では、これらを試料番号7〜12により識別する。なお、陽性対照としてHISCL HBsAgキャリブレータ(HBs抗原濃度0.025 IU/mL:シスメックス株式会社)、および陰性対照として健常人血清(国際バイオ株式会社)を用いた。
【0080】
2.検出感度の検討
試料として上記の血清希釈液を用いたこと以外は、実施例1と同様に前処理および検出の手順を行って、該試料についてHBs抗原を検出した。結果を以下の表2に示す。なお、表中の「S/N比」は、以下の式により算出される値である。
(S/N比)={(試料の発光強度)−(陰性対照の発光強度)}/(陰性対照の発光強度)
【0081】
【表2】
【0082】
表2より、本発明のHBs検出方法では、HBs抗原濃度が0.00046 IU/mLというHBs抗原が微量の試料であっても、HBs抗原を検出できることがわかった。ここで、従来のHBs抗原検出用試薬を用いた方法では、HBs抗原濃度0.05 IU/mLが最小検出感度であるとされている。したがって、本発明のHBs抗原の検出方法は、従来試薬を用いた方法よりも、検出感度が約100倍高い方法であることが示唆された。
【0083】
参考例2 前処理液によるHBs抗原への影響の検討
1.材料
(1)試料
HISCL HBsAg キャリブレータ(シスメックス株式会社)を試料として用いた。該試料に含まれるHBs抗原の濃度は既知である。なお、陰性対照として健常人血清(国際バイオ株式会社)を用いた。
(2)前処理液
実施例1で用いた前処理液と比較するために、各成分の濃度を増加させた比較用前処理液を調製した。すなわち、水酸化ナトリウム(ナカライテスク株式会社)を0.5 N、Brij(登録商標)35(和光純薬工業株式会社)を4%、および尿素(キシダ化学株式会社)を6Mの濃度で含む水溶液を、比較用前処理液として用いた。
【0084】
2.HBs抗原への影響の検討
試料として上記の血清を用いたこと、および、前処理液として実施例1の前処理液または上記の比較用前処理液を用いたこと以外は、実施例1と同様に前処理および検出の手順を行って、該試料についてHBs抗原を検出した。すなわち、試料の前処理の処理工程において、試料を終濃度0.136 Nまたは0.227Nの水酸化ナトリウムの存在下で処理した。結果を以下の表3に示す。
【0085】
【表3】
【0086】
表3より、比較用前処理液を用いた検出方法でも試料中のHBs抗原を検出することは可能であるが、S/N比は、実施例1の前処理液を用いた本発明の検出方法に比べて、著しく減少していた。これは、比較用前処理液によりHBs抗原が変性されて、その抗原性が失われていることを示唆する。これに対して、本発明の前処理方法を利用するHBs抗原の検出方法では、S/N比は高い値となっており、前処理液によるHBs抗原への影響は小さいと考えられる。
【0087】
実施例2 セロコンバージョンパネルを用いた前処理効果の検討(2)
1.材料
(1)試料
HBV陽性患者から得た血清(HBV11000-9:Zepto Metrix社)を段階的に希釈して血清希釈液を作製し、これらを試料として用いた。本実施例では、これらの試料を試料番号1〜4により識別する。各試料に含まれるHBs抗原の濃度は既知である。なお、該HBV陽性患者から得た血清は、健常人血清(HBs抗体を約23.4 mIU/mLの濃度で含有)で希釈した。
【0088】
HBV陽性患者から得た血清(HBV11048-6:Zepto Metrix社)を段階的に希釈して血清希釈液を作製し、これらを試料として用いた。本実施例では、これらの試料を試料番号5〜8により識別する。各試料に含まれるHBs抗原の濃度は既知である。なお、該HBV陽性患者から得た血清は、健常人血清(HBs抗体を約23.4 mIU/mLの濃度で含有)で希釈した。
【0089】
(2)前処理液
水酸化ナトリウム(ナカライテスク株式会社)を0.03 N、Brij(登録商標)35(和光純薬工業株式会社)を0.4%、および尿素(キシダ化学株式会社)を1.2 Mの濃度で含む水溶液を、前処理液として用いた。
【0090】
2.試料の前処理
(1)処理工程
試料(120μL)と前処理液 (100μL)とを混合して、室温にて7分間インキュベーションすることにより、該試料を、終濃度0.014 Nの水酸化ナトリウムの存在下で処理した。
(2)中和工程
上記の処理工程で得られた試料と、実施例1と同じ酸性物質を含む試薬(80μL)とを混合して、室温にて5分間インキュベーションすることにより、該試料を中和した。
【0091】
3.HBs抗原の検出
(1)形成工程
中和工程で得られた試料(300μL)と、実施例1と同じ標識抗体試薬(100μL)とを、反応キュベット(HISCL用反応キュベット:シスメックス株式会社製)内で混合し、42℃で9分間インキュベーションした。この反応キュベットに、実施例1と同じ第1抗体試薬(100μL)を添加し、42℃で9分間インキュベーションした。さらに、この反応キュベットに、実施例1と同じ担体粒子試薬(75μL)を添加し、42℃で10分間インキュベーションして、形成工程を行った。
【0092】
(2)回収工程
形成工程で得られた試料を含む反応キュベットに、集磁装置(MINITUBE MAG SEPARATOR:SPHERO TECH社製)を用いて磁気分離を行い、該キュベット内の上清を除去することにより、担体粒子を回収した。この反応キュベットに洗浄液を添加し、再び磁気分離を行って担体粒子を洗浄した。ここでは、600μLの洗浄液による洗浄を2回、150μLの洗浄液による洗浄を1回行った。なお、この工程で用いた洗浄液は、HISCL洗浄液(シスメックス株式会社)にNaClを添加してNaCl濃度を0.4 Mにして得た。
【0093】
(3)転移工程
回収工程で得られた試料を含む反応キュベットに、実施例1と同じ遊離剤(33μL)を添加し、38℃で5分間インキュベーションした。次に、上記の集磁装置を用いて磁気分離を行い、上清33μLを回収した。これ以降、測定工程まではHISCL2000i(シスメックス株式会社製)を用いて行った。具体的にHISCL2000iでは以下のことを行った。まず、回収した上清に実施例1と同じ担体粒子試薬(60μL)を添加し、42℃で約6分間インキュベーションすることにより、転移工程を実施した。なお、本実施例では、ここで添加した担体粒子試薬中の磁性粒子が、固相に該当する。そして、固相から上清を除去し、上記(2)の回収工程で用いた洗浄液(300μL)を添加し、再び上清を除去することにより洗浄を行った。同様の洗浄操作を5回繰り返した。
【0094】
(4)測定工程
転移工程で得られた固相に、HISCL R4試薬(50μL)とHISCL R5試薬(100μL)(シスメックス株式会社)を添加し、42℃で5分間インキュベートした。そして、発光強度(counts)の測定を行った。測定結果を、以下の表4および表5に示す。
【0095】
【表4】
【0096】
【表5】
【0097】
表4および表5に示されるように、2SD法により、本発明のHBsの検出方法では、セロコンバージョンパネルから調製したHBs抗体含有試料において、HBs抗原濃度が0.0002 IU/mLとHBs抗原が微量であっても、HBs抗原を検出できることがわかった。
【0098】
実施例3 前処理液のアルカリ性物質の濃度の違いによるHBs抗原の感度への影響の検討
1.材料
(1)試料
HBV陽性患者から得た3種類の血清(HBV6290-6、HBV11048-6およびHBV6272-6:いずれもZepto Metrix社より入手)を試料として用いた。
【0099】
(2)前処理液
(i)前処理液1
水酸化ナトリウム(ナカライテスク株式会社)を0.15 N、Brij(登録商標)35(和光純薬工業株式会社)を0.4%、および尿素(キシダ化学株式会社)を1.2 Mの濃度で含む水溶液を、前処理液1として用いた。
【0100】
(ii)前処理液2
水酸化ナトリウム(ナカライテスク株式会社)を0.625 N、Brij(登録商標)35(和光純薬工業株式会社)を0.4%、および尿素(キシダ化学株式会社)を1.2 Mの濃度で含む水溶液を、前処理液2として用いた。
【0101】
2.試料の前処理
(1)処理工程
試料(120μL)と前処理液1(100μL)とを混合して、室温にて7分間インキュベーションすることにより、該試料を、終濃度0.06 Nの水酸化ナトリウムの存在下で処理した。また、同じ試料に対し、前処理液1に代えて、前処理液2を用いて同様の操作を行った。すなわち、試料(120μL)と前処理液2(80μL)とを混合して、室温にて7分間インキュベーションすることにより、該試料を、終濃度0.25 Nの水酸化ナトリウムの存在下で処理した。
(2)中和工程
上記の処理工程で得られた試料と、実施例1と同じ酸性物質を含む試薬(80μL)とを混合して、室温にて5分間インキュベーションすることにより、該試料を中和した。
【0102】
3.HBs抗原の検出
(1)形成工程
中和工程で得られた試料(300μL)と、実施例1と同じ標識抗体試薬(100μL)とを、反応キュベット(HISCL用反応キュベット:シスメックス株式会社製)内で混合し、42℃で9分間インキュベーションした。この反応キュベットに、実施例1と同じ第1抗体試薬(100μL)を添加し、42℃で9分間インキュベーションした。さらに、この反応キュベットに、実施例1と同じ担体粒子試薬(75μL)を添加し、42℃で10分間インキュベーションして、形成工程を行った。
【0103】
(2)回収工程
形成工程で得られた試料を含む反応キュベットに、集磁装置(MINITUBE MAG SEPARATOR:SPHERO TECH社製)を用いて磁気分離を行い、該キュベット内の上清を除去することにより、担体粒子を回収した。この反応キュベットに洗浄液を添加し、再び磁気分離を行って担体粒子を洗浄した。ここでは、600μLの洗浄液による洗浄を2回、150μLの洗浄液による洗浄を1回行った。なお、この工程で用いた洗浄液は、HISCL洗浄液(シスメックス株式会社)にNaClを添加してNaCl濃度を0.4 Mにして得た。
【0104】
(3)転移工程
回収工程で得られた試料を含む反応キュベットに、実施例1と同じ遊離剤(33μL)を添加し、38℃で5分間インキュベーションした。次に、上記の集磁装置を用いて磁気分離を行い、上清33μLを回収した。これ以降、測定工程まではHISCL2000i(シスメックス株式会社製)を用いて行った。具体的にHISCL2000iでは以下のことを行った。まず、回収した上清に実施例1と同じ担体粒子試薬(60μL)を添加し、42℃で約6分間インキュベーションすることにより、転移工程を実施した。なお、本実施例では、ここで添加した担体粒子試薬中の磁性粒子が、固相に該当する。そして、固相から上清を除去し、上記(2)の回収工程で用いた洗浄液(300μL)を添加し、再び上清を除去することにより洗浄を行った。同様の洗浄操作を5回繰り返した。
【0105】
(4)測定工程
転移工程で得られた固相に、HISCL R4試薬(50μL)とHISCL R5試薬(100μL)(シスメックス株式会社)を添加し、42℃で5分間インキュベートした。そして、発光強度(counts)の測定を行った。また、上記の前処理液2で処理した試料についても、前処理液1で処理した試料と同様の検出操作を行った。測定結果を、
図1〜
図3に示す。
【0106】
図1〜
図3より、前処理液1を用いた本発明のHBs抗原の検出方法では、前処理液2のようなアルカリ物質の濃度が高い前処理液を用いたHBs抗原の検出方法に比べて、2.5倍以上の発光強度が得られた。よって、本発明のHBs抗原の検出方法によって、HBs抗原をより高感度に検出することができることがわかった。
【0107】
本出願は、2013年1月28日に出願された日本国特許出願特願2013−013167号に関し、これらの特許請求の範囲、明細書、図面及び要約書の全ては本明細書中に参照として組み込まれる。