特許第6348672号(P6348672)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6348672
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】グラビア印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 1/10 20060101AFI20180618BHJP
   B41F 3/36 20060101ALI20180618BHJP
   B41F 9/00 20060101ALI20180618BHJP
   B41N 1/06 20060101ALI20180618BHJP
   C09D 11/023 20140101ALI20180618BHJP
【FI】
   B41M1/10
   B41F3/36
   B41F9/00
   B41N1/06
   C09D11/023
【請求項の数】5
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-539763(P2017-539763)
(86)(22)【出願日】2016年8月3日
(86)【国際出願番号】JP2016072791
(87)【国際公開番号】WO2017047268
(87)【国際公開日】20170323
【審査請求日】2018年3月20日
(31)【優先権主張番号】特願2015-184942(P2015-184942)
(32)【優先日】2015年9月18日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000131625
【氏名又は名称】株式会社シンク・ラボラトリー
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147935
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100080230
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 詔二
(72)【発明者】
【氏名】重田 龍男
(72)【発明者】
【氏名】水島 龍馬
(72)【発明者】
【氏名】松本 雄大
(72)【発明者】
【氏名】植田 泰史
【審査官】 亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−1084(JP,A)
【文献】 特開2004−262036(JP,A)
【文献】 特開2007−125730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 1/10
B41F 3/36
B41F 9/00
B41N 1/06
C09D 11/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃におけるザーンカップ#3の粘度が11.0秒以上20.0秒以下であり、乾燥試験(インキ1gを温度40℃、エアーフロー1400L/分で30分乾燥)における蒸発率が30質量%以下である水性インキを用いて、1ml/m2以上7ml/m2以下のインキを印刷媒体に転写するグラビア印刷方法。
【請求項2】
グラビアセルからの印刷媒体へのインキの転写率が50%以上である請求項1記載のグラビア印刷方法。
【請求項3】
グラビアセルの体積が2ml/m2以上8ml/m2以下である請求項1又は2記載のグラビア印刷方法。
【請求項4】
グラビアセルの深度が3μm以上15μm以下である請求項1〜3いずれか1項記載のグラビア印刷方法。
【請求項5】
グラビア版数が150線/インチ以上350線/インチ以下である請求項1〜4いずれか1項記載のグラビア印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インキを用いたグラビア印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラビア印刷は、版母材となるシリンダに対し、製版情報に応じたグラビアセルを形成して版面を製作し、セルにグラビアインキを充填して被印刷物に転写するものである。
近年、環境に配慮した製品の開発に伴いVOCを低減した水性グラビアインキが実用化されている。しかしながら、水性グラビアインキは油性グラビアインキに比べて乾燥性が劣る為、乾燥すべきインキのビヒクル量を低減するために、グラビアセル深度を油性グラビアインキの20μm程度から14μm程度に浅くして、インキの転写量を少なくする必要があった。
【0003】
これらの課題を解決するために、製版ロールの製造方法や水性グラビアインキが提案されている。
例えば、特許文献1には、毒性がなくかつ公害発生の心配が皆無な表面強化被覆層を具備したグラビア製版ロールが開示されている。
特許文献2には、有機溶剤を1〜10重量%含有する水性グラビア印刷インキ組成物により、良好な乾燥性と印刷適性を両立することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−125730号公報
【特許文献2】特開2002−188029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1においては、グラビアセル深度が5〜150μmであることの規定があり、具体的な水性インキが明記されているものの、そのインキ組成については言及されていなかった。
特許文献2のインキ組成物では、インキの規定があるものの、グラビア線数は明示されておらず、実施例で使用しているセル深度は20μmと深いものであった。
【0006】
そこで、本発明は、高精細(例えば150〜350線/インチ)で浅版化(例えば3〜15μm)されたグラビア版を用いても、高い印刷濃度と優れたハイライト適性(網点面積率の低い印刷部の再現性)を得る事ができるグラビア印刷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、20℃におけるザーンカップ#3の粘度が11.0秒以上20.0秒以下であり、乾燥試験(インキ1gを温度40℃、エアーフロー1400L/分で30分乾燥)における蒸発率が30質量%以下である水性インキを用いて、1ml/m2以上7ml/m2以下のインキを印刷媒体に転写するグラビア印刷方法により、上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
具体的には、20℃におけるザーンカップ#3の粘度が11秒以上18秒以下であり、乾燥試験(インキ1gを温度40℃、エアーフロー1400L/分で30分乾燥)における蒸発率が30質量%以下である水性インキを用いる事により、高精細で浅版化されたグラビア版のセル内の乾燥が抑制され、体積が小さいセル内のインキでも印刷基材へのインキの転写率を高く維持でき、従来よりも小さなドットでも転写可能となりハイライト適性が良好となったと考えられる。
20℃におけるザーンカップ#3の粘度が11.0秒以上20.0秒以下であり、乾燥試験(インキ1gを温度40℃、エアーフロー1400L/分で30分乾燥)における蒸発率が30質量%を超える水性インキでは、セル内の乾燥が進行し、インキの転写率が低下する為、ハイライト適性に劣るものと考えられる。
【0009】
本発明のグラビア印刷方法において、グラビアセルからの印刷媒体へのインキの転写率が50%以上であることが好ましい。
【0010】
本発明のグラビア印刷方法において、グラビアセルの体積が2ml/m2以上8ml/m2以下であることが好適である。
【0011】
本発明のグラビア印刷方法において、グラビアセルの深度が3μm以上15μm以下であることが好ましい。
【0012】
本発明のグラビア印刷方法において、グラビア版数が150線/インチ以上350線/インチ以下であることが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、20℃におけるザーンカップ#3の粘度が11.0秒以上20.0秒以下であり、乾燥試験(インキ1gを温度40℃、エアーフロー1400L/分で30分乾燥)における蒸発率が30質量%以下である水性インキを用いて、1ml/m2以上7ml/m2以下のインキを印刷媒体に転写するグラビア印刷方法により、高精細で浅版化されたグラビア版を用いても、高い印刷濃度と優れたハイライト適性を得る事ができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[グラビア版]
本発明のグラビア印刷方法を用いて印刷可能なグラビア版としては、従来公知の製版方法で作製されたグラビア版であれば、いずれも適用できる。例えば、コンベンショナル法、網グラビア法、電子彫刻法等の製版方法で製版されたグラビア版に適用することができる。
【0015】
コンベンショナル法や網グラビア法は、感光膜塗布―露光―現像―エッチング(エッチング法)によってセルを形成することができる。電子彫刻法は、彫刻針を使って機械的に直接シリンダ上にセルを彫っていく方法である。電子彫刻法によるセルの形成方法はセルが四角錐に形成されるのでハイライト部におけるインキの転写が良好である。エッチング法はセルが浅い皿状の凹部に形成されるので、セルが非常に小さいハイライト部においてインキがセル内に詰まってしまうことに起因してインキの転写が電子彫刻法よりも劣っているが、最シャドウ部のスクリーン線の交差部をインキが流れるように欠いて交差部にインキが確実に転写しうるとともに文字の輪郭をギザギザがないアウトラインとすることができるメリットがあり、さらに最シャドウ部のセルも浅いので水性グラビアインキを使用する印刷に適している。そして、本発明のグラビア印刷方法には、レーザービームでシリンダに露光するレーザー製版法により作製したグラビア版が特に適している。本発明のグラビア印刷方法では、高い印刷濃度と優れたハイライト適性を得ることができるので、高精細なグラビア版を得ることが可能なレーザー製版法により製版すること好適であるからである。
【0016】
グラビアセルの体積は、印刷濃度及び乾燥性の観点から2ml/m2以上8ml/m2以下が好ましく、2.5ml/m2以上7ml/m2以下がより好ましく、3ml/m2以上6.5ml/m2以下が更に好ましい。
【0017】
グラビアセルの深度は、印刷濃度及び乾燥性の観点から3μm以上15μm以下が好ましく、4μm以上13μm以下がより好ましく、5μm以上10μm以下が更に好ましい。
【0018】
グラビア版数は、印刷濃度及び乾燥性の観点から150線/インチ以上350線/インチ以下が好ましく、175線/インチ以上300線/インチ以下がより好ましく、200線/インチ以上250線/インチ以下が更に好ましい。
150線/インチ未満では、乾燥性が低下する場合があり、350線/インチを超えると印刷濃度が低下する場合がある。
【0019】
セル形状は特に限定しないが、直線、曲線、円弧、ジグザグ状、螺旋状、格子状、ハニカム状、菱形状、三角形状、四角形状や幾何学模様状などのいずれのパターンも好ましく用いる事ができる。階調の表現はこのようなセルを分布個数において100%〜0%まで連続的またはある巾(例えば10%刻み)を持って連続的に変化させることによって行う。
【0020】
[印刷方法]
グラビア印刷は、表面にセルが形成されたグラビアシリンダを回転させながらグラビアシリンダ表面にインキを供給し、所定の位置に固定されたドクターでインキをかき落としセル内のみにインキを残し、連続的に供給される印刷媒体を表面がゴムで形成された圧胴にてグラビアシリンダに圧着させ、グラビアシリンダのセル内のインキのみを印刷媒体に転写させることにより、絵柄を印刷する。
【0021】
印刷媒体に転写するインキ量は、印刷濃度及び乾燥性の観点から1ml/m2以上7ml/m2以下が好ましく、1.5ml/m2以上6ml/m2以下がより好ましく、2ml/m2以上5.6ml/m2以下が更に好ましい。特に、100%網点印刷部で測定した時の印刷媒体に転写するインキ量が上記範囲であることが好ましい。
【0022】
グラビアセルからの印刷媒体へのインキの転写率は、ハイライト適性の観点から50%以上100%以下が好ましく、55%以上がより好ましく、60%以上が更に好ましい。転写率は、グラビアセル体積に対する印刷媒体に転写するインキ転写量で求めることができる。特に、100%網点印刷部のセルを測定した時の転写率が上記範囲であることが好ましい。
【0023】
ドクターは、インキが正常に掻き取れ、版かぶりが起こらない範囲で圧力を調整する事ができ、ドクター材質としては、通常のステンレス材質に加えて摩耗性の少ないセラミック製も用いる事ができる。
【0024】
インキの乾燥は、印刷基材にダメージを与えない温度と風量で調整する事ができる。
【0025】
印刷速度は、ガイドロールが汚れず、巻き取り後のインキの裏移りが起こらない範囲で高速化する事ができる。
【0026】
食品包装用樹脂フィルムに印刷を施す場合には、樹脂フィルムにおける袋の表面に相当する面のみに印刷を施す表刷り方式と、樹脂フィルムにおける袋の表面とは反対側の面に相当する面に印刷を施し、この印刷面にさらに他のフィルムをラミネートする方法(裏刷り方式)とがある。本発明で用いられる水性インキは表刷り方式、裏刷り方式を問わずに適用することができる。
【0027】
[水性インキ]
本発明で用いられる水性インキは、顔料、ポリマー、水溶性有機溶剤、界面活性剤、水を含むことが好ましい。なお、「質量部」及び「質量%」は特記しない限り、固形分での値である。
水性インキのザーンカップ#3の20℃における粘度は、11.0秒以上20.0秒以下であり、インキの転写性の観点から、11.5秒以上が好ましく、12.0秒以上がより好ましく、13.5秒以上が更に好ましく、そして、19.0秒以下が好ましく、18.0秒以下がより好ましく、17.5秒以下が更に好ましい。
また、水性インキのザーンカップ#3の20℃における粘度は、インキの転写性の観点から11.0秒以上20.0秒以下であり、11.5秒以上19.0秒以下が好ましく、12.0秒以上18.0秒以下がより好ましい。
水性インキは、ハイライト適性の観点から乾燥試験(インキ1gを温度40℃、エアーフロー1400L/分で30分乾燥)での蒸発率が30質量%以下のインキが好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。水性インキの粘度は、配合されるポリマー、水溶性有機溶剤、界面活性剤等の種類や含有量で調整することができる。
【0028】
[顔料]
本発明で用いられる水性インキには、顔料を含有することができる。
本発明で用いられる顔料の種類は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物等が挙げられ、黒色インキにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。白色インキにおいては、二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム等の金属酸化物等が挙げられる。
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
色相は特に限定されず、イエロー、マゼンタ、シアン、赤色、青色、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
【0029】
本発明で用いられる顔料の形態は、自己分散型顔料及び顔料をポリマーで分散させた粒子から選ばれる1種以上の顔料である。
〔自己分散型顔料〕
本発明において用いることができる自己分散型顔料とは、親水性官能基(カルボキシ基やスルホン酸基等のアニオン性親水基、又は第4級アンモニウム基等のカチオン性親水基)の1種以上を直接、又は炭素数1〜12のアルカンジイル基等の他の原子団を介して顔料の表面に結合することで、界面活性剤や樹脂を用いることなく水系媒体に分散可能である顔料を意味する。顔料を自己分散型顔料とするには、例えば、親水性官能基の必要量を、常法により顔料表面に化学結合させればよい。自己分散型顔料の市販品としては、キャボットジャパン株式会社製のCAB−O−JET 200、同300、同352K、同250A、同260M、同270Y、同450A、同465M、同470Y、同480Vやオリヱント化学工業株式会社製のBONJET CW−1、同CW−2等、東海カーボン株式会社製のAqua−Black 162等、SENSIENT INDUSTRIAL COLORS社製のSENSIJET BLACK SDP100、SDP1000、SDP2000等が挙げられる。自己分散型顔料は、水に分散された顔料水分散体として用いることが好ましい。
【0030】
インキ中の顔料の含有量は、印刷濃度の観点から1質量%以上20質量%以下が好ましく、2質量%以上18質量%以下がより好ましく、3質量%以上15質量%以下が更に好ましい。
【0031】
[ポリマー]
本発明で用いられる水性インクには、顔料の分散安定性を向上する観点及び定着性を向上する観点から、ポリマーを含有することが好ましい。
本発明に用いられるポリマーは、水溶性ポリマー或いは水不溶性ポリマーいずれも好ましく用いる事ができる。
インキ中のポリマーの含有量は、顔料を分散する観点及び定着性の観点から、3質量%以上38質量%以下がより好ましく、5質量%以上30質量%以下が更に好ましく、5質量%以上25質量%以下がより更に好ましい。
【0032】
[水溶性ポリマー]
水溶性ポリマーとは、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以上であるポリマーを示す。
アニオン性ポリマーの場合、溶解量は、ポリマーのアニオン性基を水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。
本発明に用いられる水溶性ポリマーは、水系インキ中に顔料を分散させる目的で用いる事ができる。
用いられるポリマーとしては、ポリエステル、ポリウレタン、ビニル系ポリマー等が挙げられるが、顔料の分散安定性の観点から、ビニル単量体(ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物)の付加重合により得られるビニル系ポリマーが好ましい。
ビニル系ポリマーとしては、例えば、「ジョンクリル690」、「ジョンクリル60」、「ジョンクリル6610」、「HPD−71」(以上、BASFジャパン株式会社製)等のアクリル樹脂やスチレン−アクリル樹脂等が挙げられる。
【0033】
[水不溶性ポリマー]
水不溶性ポリマーとは、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g未満であるポリマーをいい、その溶解量は好ましくは5g未満、より好ましくは1g未満である。アニオン性ポリマーの場合、溶解量は、ポリマーのアニオン性基を水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。
水不溶性ポリマーは、顔料を含有するポリマー粒子及び顔料を含有しないポリマー粒子として、水性インキ中に分散して用いる事ができる。以下、顔料を含有する水不溶性ポリマーを水不溶性ポリマーaと、顔料を含有しない水不溶性ポリマーを水不溶性ポリマーbとも称する。
【0034】
[水不溶性ポリマーa]
水不溶性ポリマーaは、顔料を含有するポリマーとして、ポリエステル、ポリウレタン、ビニル系ポリマー等が挙げられるが、水系インキの保存安定性を向上させる観点から、ビニル単量体(ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物)の付加重合により得られるビニル系ポリマーが好ましい。
ビニル系ポリマーとしては、(a−1)イオン性モノマー(以下「(a−1)成分」ともいう)と、(a−2)疎水性モノマー(以下「(a−2)成分」ともいう)とを含むモノマー混合物(以下、単に「モノマー混合物」ともいう)を共重合させてなるビニル系ポリマーが好ましい。このビニル系ポリマーは、(a−1)成分由来の構成単位と(a−2)成分由来の構成単位を有する。
【0035】
〔(a−1)イオン性モノマー〕
(a−1)イオン性モノマーは、顔料含有ポリマー粒子のインキ中における分散安定性を向上させる観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いられることが好ましい。イオン性モノマーとしては、アニオン性モノマー及びカチオン性モノマーが挙げられ、アニオン性モノマーが好ましい。
アニオン性モノマーとしては、カルボン酸モノマー、スルホン酸モノマー、リン酸モノマー等が挙げられる。
カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
上記アニオン性モノマーの中では、顔料含有ポリマー粒子のインキ中における分散安定性を向上させる観点から、カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
【0036】
〔(a−2)疎水性モノマー〕
(a−2)疎水性モノマーは、顔料含有ポリマー粒子のインキ中における分散安定性を向上させる観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いられることが好ましい。疎水性モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー、マクロモノマー等が挙げられる。
【0037】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数1〜22、好ましくは炭素数6〜18のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在する場合としない場合の双方を意味し、これらの基が存在しない場合には、ノルマルを示す。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及び/又はメタクリレートを示す。
【0038】
芳香族基含有モノマーとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6〜22の芳香族基を有するビニルモノマーが好ましく、スチレン系モノマー、芳香族基含有(メタ)アクリレートがより好ましい。
スチレン系モノマーとしてはスチレン、2−メチルスチレン、及びジビニルベンゼンが好ましく、スチレンがより好ましい。
また、芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましく、ベンジル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0039】
マクロモノマーは、片末端に重合性官能基を有する数平均分子量500以上100,000以下の化合物であり、顔料含有ポリマー粒子のインキ中における分散安定性を向上させる観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いられることが好ましい。片末端に存在する重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、メタクリロイルオキシ基がより好ましい。
マクロモノマーの数平均分子量は1,000以上10,000以下が好ましい。なお、数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミンを含有するクロロホルムを用いたゲル浸透クロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
マクロモノマーとしては、顔料含有ポリマー粒子のインキ中における分散安定性を向上させる観点から、芳香族基含有モノマー系マクロモノマー及びシリコーン系マクロモノマーが好ましく、芳香族基含有モノマー系マクロモノマーがより好ましい。
芳香族基含有モノマー系マクロモノマーを構成する芳香族基含有モノマーとしては、上記芳香族基含有モノマーが挙げられ、スチレン及びベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、スチレンがより好ましい。
スチレン系マクロモノマーの具体例としては、東亞合成株式会社製のAS−6(S)、AN−6(S)、HS−6(S)等が挙げられる。
シリコーン系マクロモノマーとしては、片末端に重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0040】
(a−2)疎水性モノマーは、上記のモノマー2種類以上を使用してもよく、スチレン系モノマー、芳香族基含有(メタ)アクリレート、マクロモノマーを併用してもよく、特にマクロモノマーは他の疎水性モノマーとの併用が好ましい。
【0041】
〔(a−3)ノニオン性モノマー〕
水不溶性ポリマーには、顔料含有ポリマー粒子のインキ中における分散安定性を向上させる観点から、更に、(a−3)ノニオン性モノマー(以下「(a−3)成分」ともいう)をモノマー成分として用いることが好ましい。ノニオン性モノマーとは水や水溶性有機溶剤との親和性が高いモノマーであり、例えば水酸基やポリアルキレングリコールを含むモノマーである。
【0042】
(a−3)成分としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2〜30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート(n=2〜30)等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(n=1〜30)(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(n=1〜30、その中のエチレングリコール:n=1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。
商業的に入手しうる(a−3)成分の具体例としては、新中村化学工業株式会社製のNKエステルTM−20G、同40G、同90G、同230G等、日油株式会社製のブレンマーPE−90、同200、同350、PME−100、同200、同400等、PP−500、同800、同1000等、AP−150、同400、同550等、50PEP−300、50POEP−800B、43PAPE−600B等が挙げられる。
上記(a−1)〜(a−3)成分は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0043】
(モノマー混合物中又はポリマー中における各成分又は構成単位の含有量)
ビニル系ポリマー製造時における、上記(a−1)〜(a−3)成分のモノマー混合物中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又は水不溶性ポリマー中における(a−1)〜(a−3)成分に由来する構成単位の含有量は、顔料含有ポリマー粒子のインキ中における分散安定性を向上させる観点から、次のとおりである。
【0044】
(a−1)成分の含有量は、3質量%以上40質量%以下が好ましく、5質量%以上30質量%以下がより好ましく、7質量%以上20質量%以下が更に好ましい。
(a−2)成分の含有量は、5質量%以上86質量%以下が好ましく、10質量%以上80質量%以下がより好ましく、20質量%以上60質量%以下が更に好ましい。
(a−3)成分の含有量は、5質量%以上60質量%以下が好ましく、10質量%以上55質量%以下がより好ましく、15質量%以上40質量%以下が更に好ましい。
また、〔(a−1)成分/(a−2)成分〕の質量比は、好ましくは0.01〜1、より好ましくは0.05〜0.60、更に好ましくは0.10〜0.30である。
【0045】
なお、イオン性モノマー(a−1)はインキ中での電荷反発を用いた分散基であり、ノニオン性モノマー(aー3)は、インキ中での立体反発を用いた分散基である。疎水性モノマー(a−2)、イオン性モノマー(а―1)へ、ノニオン性モノマー(a−3)を加えることでさらに、顔料含有ポリマー粒子のインキ中での安定性が更に高まり、結果としてインキ安定性が高くなる。
【0046】
又、インキが乾燥した場合、最初に水が揮発する場合が多く、分散媒(水、水溶性有機溶剤A,B)の中で水(分散媒の中で誘電率が高く、分散体の電荷反発を最も高める分散媒)が減ると、分散体の電荷反発性が著しく低下し、インキ安定性が低下し、吐出性が劣化する。そこで、イオン性モノマーに加えて、ノニオン性モノマーの併用(立体反発基の導入)を行うことで、水が揮発し分散媒の誘電率が低下し、電荷反発基が働きにくい条件下でもノニオン基(立体反発基)によって顔料含有ポリマー粒子の安定性が高い状態を維持できる。
【0047】
(水不溶性ポリマーaの製造)
上記水不溶性ポリマーaは、モノマー混合物を公知の重合法により共重合させることによって製造される。重合法としては溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒に制限はないが、炭素数1〜3の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等の極性有機溶媒が好ましく、具体的にはメタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトンが挙げられ、水不溶性ポリマーに対する溶媒の溶解性の観点から、メチルエチルケトンが好ましい。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができるが、重合開始剤としては、アゾ化合物が好ましく、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)がより好ましい。重合連鎖移動剤としては、メルカプタン類が好ましく、2−メルカプトエタノールがより好ましい。
好ましい重合条件は、重合開始剤の種類等によって異なるが、重合開始剤の反応性の観点から、重合温度は50℃以上90℃以下が好ましく、重合時間は1時間以上20時間以下であることが好ましい。また、重合雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去することができる。
【0048】
水不溶性ポリマーaは、顔料含有ポリマー粒子の水分散体の生産性を向上させる観点から、重合反応に用いた溶剤を除去せずに、含有する有機溶媒を後述する工程1に用いる有機溶媒として用いるために、そのままポリマー溶液として用いることが好ましい。
水不溶性ポリマーa溶液の固形分濃度は、顔料含有ポリマー粒子の水分散体の生産性を向上させる観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、また、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。
【0049】
本発明で用いられる水不溶性ポリマーaの重量平均分子量は、顔料含有ポリマー粒子のインキ中における分散安定性を向上させる観点、及びインキの記録媒体への定着強度を向上させる観点から、20,000以上500,000以下が好ましく、30,000以上300,000以下がより好ましく、50,000以上200,000以下が更に好ましい。
【0050】
本発明で用いられる水不溶性ポリマーaの酸価は、顔料の分散性及びポリマーの吸着性の観点から50以上140以下が好ましく、60以上130以下がより好ましく、70以上120以下が更に好ましい。
なお、重量平均分子量及び酸価の測定は後述する実施例に記載の方法により行うことができる。
【0051】
[顔料を含有するポリマー粒子(顔料含有ポリマー粒子)]
上記顔料含有ポリマー粒子は、顔料表面に水不溶性ポリマーが付着した粒子であり、水不溶性ポリマーによって顔料を水、及びインキ中で安定に分散させることができる。
【0052】
(顔料含有ポリマー粒子の製造)
顔料含有ポリマー粒子は、水分散体として下記の工程I及び工程IIを有する方法により、効率的に製造することができる。
なお、工程I及びIIを有する製法で顔料含有ポリマー粒子を製造する際、顔料とポリマーaは化学結合していないが不可逆吸着の状態であり、インキ中で顔料とポリマーは常に吸着、つまり顔料を含有したポリマー粒子として存在する。一方、後述するようにインキ成分として「水不溶性ポリマー粒子」を用いてもよいが、顔料含有ポリマー粒子は顔料を含有したポリマー粒子(顔料とポリマーは不可逆吸着)であるのに対し、水不溶性ポリマー粒子は顔料を含んでいないポリマー粒子である点が相違する。
工程I:水不溶性ポリマーa、有機溶媒、顔料、及び水を含有する混合物(以下、「顔料混合物」ともいう)を分散処理して、顔料含有ポリマー粒子の分散体を得る工程
工程II:工程Iで得られた分散体から上記有機溶媒を除去して、顔料含有ポリマー粒子の水分散体(以下、「顔料水分散体」ともいう)を得る工程
また、任意の工程であるが、更に工程IIIを行ってもよい。
工程III:工程IIで得られた水分散体と架橋剤を混合し、架橋処理して水分散体を得る工程
【0053】
(工程I)
工程Iでは、まず、水不溶性ポリマーaを有機溶媒に溶解させ、次に顔料、水、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を、得られた有機溶媒溶液に加えて混合し、水中油型の分散体を得る方法が好ましい。水不溶性ポリマーの有機溶媒溶液に加える順序に制限はないが、水、中和剤、顔料の順に加えることが好ましい。
水不溶性ポリマーaを溶解させる有機溶媒に制限はないが、工程IIにおける有機溶媒除去の容易さの観点から、炭素数1〜3の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等が好ましく、ケトン類がより好ましく、メチルエチルケトンが更に好ましい。水不溶性ポリマーを溶液重合法で合成した場合には、重合で用いた溶媒をそのまま用いてもよい。なお、工程IIにて脱有機溶剤処理を行うので、上記有機溶媒は最終的な顔料含有ポリマー粒子には含まれない。
水不溶性ポリマーaがアニオン性ポリマーの場合、中和剤を用いて水不溶性ポリマー中のアニオン性基を中和してもよい。中和剤を用いる場合、pHが7以上11以下になるように中和することが好ましい。中和剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、各種アミン等の塩基が挙げられる。また、該水不溶性ポリマーを予め中和しておいてもよい。
水不溶性ポリマーaのアニオン性基の中和度は、顔料含有ポリマー粒子のインキ中及び顔料水分散体における分散安定性を向上させる観点から、アニオン性基1モルに対して0.3モル以上3.0モル以下が好ましく、0.4モル以上2.0モル以下がより好ましく、0.5モル以上1.5モル以下が更に好ましい。
ここで中和度とは、中和剤のモル当量を水不溶性ポリマーのアニオン性基のモル量で除したものである。
【0054】
(顔料混合物中の各成分の含有量)
上記顔料混合物中の顔料の含有量は、顔料含有ポリマー粒子のグラビア印刷用インキ中及び顔料水分散体中における分散安定性を向上させる観点、顔料水分散体の生産性を向上させる観点から、10質量%以上30質量%以下が好ましく、12質量%以上27質量%以下がより好ましく、14質量%以上25質量%以下が更に好ましい。
上記顔料混合物中の水不溶性ポリマーaの含有量は、顔料水分散体の分散安定性及びグラビア印刷用インキの保存安定性を向上させる観点から、2.0質量%以上15質量%以下が好ましく、4.0質量%以上12質量%以下がより好ましく、5.0質量%以上10質量%以下が更に好ましい。
上記顔料混合物中の有機溶媒の含有量は、顔料への濡れ性及び水不溶性ポリマーの顔料への吸着性を向上させる観点から、10質量%以上35質量%以下が好ましく、12質量%以上30質量%以下がより好ましく、15質量%以上25質量%以下が更に好ましい。
上記顔料混合物中の水の含有量は、顔料水分散体の分散安定性を向上させる観点及び顔料水分散体の生産性を向上させる観点から、40質量%以上75質量%以下が好ましく、45質量%以上70質量%以下がより好ましく、50質量%以上65質量%以下が更に好ましい。
水不溶性ポリマーaに対する顔料の質量比〔顔料/水不溶性ポリマー〕は、顔料水分散体の分散安定性及びグラビア印刷用インキの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは30/70〜90/10、より好ましくは40/60〜85/15、更に好ましくは50/50〜75/25である。
【0055】
工程Iにおいて、更に顔料混合物を分散して分散処理物を得る。分散処理物を得る分散方法に特に制限はない。本分散だけで顔料粒子の平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、好ましくは顔料混合物を予備分散させた後、更に剪断応力を加えて本分散を行い、顔料粒子の平均粒径を所望の粒径とするよう制御することが好ましい。
工程Iの予備分散における温度は、好ましくは0℃以上であり、また、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下、更に好ましくは20℃以下であり、分散時間は0.5時間以上30時間以下が好ましく、1時間以上20時間以下がより好ましく、1時間以上10時間以下が更に好ましい。
顔料混合物を予備分散させる際には、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができるが、中でも高速撹拌混合装置が好ましい。
本分散の剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー(Microfluidics社製)等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。市販のメディア式分散機としては、ウルトラ・アペックス・ミル(寿工業株式会社製)、ピコミル(浅田鉄工株式会社製)等が挙げられる。これらの装置は複数を組み合わせることもできる。これらの中では、顔料を小粒子径化する観点から、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
高圧ホモジナイザーを用いて本分散を行う場合、処理圧力やパス回数の制御により、顔料を所望の粒径になるように制御することができる。
処理圧力は、生産性及び経済性の観点から、60MPa以上200MPa以下が好ましく、100MPa以上180MPa以下がより好ましく、130MPa以上180MPa以下が更に好ましい。
また、パス回数は、3回以上30回以下が好ましく、5回以上25回以下がより好ましい。
【0056】
(工程II)
工程IIでは、得られた分散体から、公知の方法で有機溶媒を除去することで、顔料含有ポリマー粒子の水分散体を得ることができる。得られた顔料含有ポリマー粒子を含む水分散体中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残存していてもよい。残留有機溶媒の量は好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下である。
また必要に応じて、有機溶媒を留去する前に分散体を加熱撹拌処理することもできる。
得られた顔料含有ポリマー粒子の水分散体は、顔料を含有する固体の水不溶性ポリマー粒子が水を主媒体とする媒体中に分散しているものである。ここで、水不溶性ポリマー粒子の形態は特に制限はなく、少なくとも顔料と水不溶性ポリマーにより粒子が形成されていればよい。例えば、該水不溶性ポリマーに顔料が内包された粒子形態、該水不溶性ポリマー中に顔料が均一に分散された粒子形態、該水不溶性ポリマー粒子表面に顔料が露出された粒子形態等が含まれ、これらの混合物も含まれる。
【0057】
(工程III)
工程IIIは、任意の工程であるが、工程IIで得られた水分散体と架橋剤を混合し、架橋処理して水分散体を得る工程である。
ここで、架橋剤は、水不溶性ポリマーがアニオン性基を有するアニオン性水不溶性ポリマーである場合において、該アニオン性基と反応する官能基を有する化合物が好ましく、該官能基を分子中に2以上、好ましくは2〜6有する化合物がより好ましい。
架橋剤の好適例としては、分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物、分子中に2以上のオキサゾリン基を有する化合物、分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物が挙げられ、これらの中では、分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物が好ましく、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルがより好ましい。
得られた顔料水分散体の不揮発成分濃度(固形分濃度)は、顔料水分散体の分散安定性を向上させる観点及びグラビア印刷用インキの調製を容易にする観点から、10質量%以上30質量%以下が好ましく、15質量%以上25質量%以下がより好ましい。
顔料水分散体中の顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、粗大粒子を低減させる観点から、30nm以上200nm以下が好ましく、40nm以上180nm以下がより好ましく、50nm以上170nm以下が更に好ましい。
なお、顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、後述する実施例に記載の方法により測定される。
また、水性インキ中の顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、顔料水分散体中の平均粒径と同じであり、好ましい平均粒径の態様は、顔料水分散体中の平均粒径の好ましい態様と同じである。
【0058】
(水性インキ中の顔料含有ポリマー粒子の各成分の含有量)
インキ中の顔料の含有量は、印刷濃度の観点から1質量%以上20質量%以下が好ましく、2質量%以上18質量%以下がより好ましく、3質量%以上15質量%以下が更に好ましい。
インキ中の顔料含有ポリマー粒子の含有量は、印刷濃度及び定着性の観点から1質量%以上30質量%以下が好ましく、3質量%以上25質量%以下がより好ましく、5質量%以上20質量%以下が更に好ましい。
インキにおける顔料含有ポリマー粒子中の水不溶性ポリマーの含有量は、定着性の観点から1質量%以上20質量%以下が好ましく、2質量%以上15質量%以下がより好ましく、3質量%以上10質量%以下が更に好ましい。
【0059】
[水不溶性ポリマーb]
水不溶性ポリマーbは、顔料を含有しないポリマー粒子であり、その成分としては、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂等が挙げられる。これらの中では、印刷基材上での乾燥性を早め、印刷物の耐擦過性を向上させる観点から、アクリル系樹脂が好ましい。
また、水不溶性ポリマーbは、水系インキの生産性を向上させる観点から、水不溶性ポリマー粒子を含む分散液として用いることが好ましい。水不溶性ポリマー粒子は、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
水不溶性ポリマーbは、モノマーの混合物を公知の重合法により共重合させることによって製造される。例えば、重合法としては、好ましくは乳化重合法や懸濁重合法等が挙げられ、より好ましくは乳化重合法である。
重合の際には、重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、過硫酸塩や水溶性アゾ重合開始剤等が挙げられ、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩が好ましい。
重合の際には、界面活性剤を用いることができる。界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等が挙げられ、樹脂粒子の分散安定性を向上させる観点から、ノニオン性界面活性剤が好ましい。ノニオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、オキシエチレン/オキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられ、樹脂粒子の分散安定性を向上させる観点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。
好ましい重合条件は、重合開始剤の種類等によって異なるが、重合温度は50℃以上90℃以下が好ましく、重合時間は1時間以上20時間以下であることが好ましい。また、重合雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去することができる。
水不溶性ポリマーbは、インキへの配合性の観点から、重合反応に用いた溶剤を除去せずに、水を分散媒とするポリマー分散体として用いることが好ましい。
市販の水不溶性ポリマーbの分散体としては、例えば、「Neocryl A1127」(DSM NeoResins社製、アニオン性自己架橋水系アクリル樹脂)、「ジョンクリル390」(BASFジャパン株式会社製)等のアクリル樹脂、「WBR−2018」「WBR−2000U」(大成ファインケミカル株式会社製)等のウレタン樹脂、「SR−100」、「SR102」(以上、日本エイアンドエル株式会社製)等のスチレン−ブタジエン樹脂、「ジョンクリル7100」、「ジョンクリル734」、「ジョンクリル538」(以上、BASFジャパン株式会社製)等のスチレン−アクリル樹脂及び「ビニブラン701」(日信化学工業株式会社製)等の塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。
水不溶性ポリマーbの形態としては、水中に分散した粒子が挙げられる。水不溶性ポリマー粒子の分散体は、印刷基材上で成膜して定着性を向上させる。
【0060】
インキ中の水不溶性ポリマーbの含有量は、インキの定着性の観点から、1質量%以上30質量%以下が好ましく、2質量%以上20質量%以下がより好ましく、3質量%以上15質量%以下が更に好ましい。なお、上記範囲の下限未満であるとインキの定着性が低下し、上限を超えるとインキの保存安定性が低下する場合がある。
本発明で用いられる水不溶性ポリマーbの重量平均分子量は、定着性の観点から、好ましくは100,000以上、より好ましくは200,000以上、更に好ましくは500,000以上であり、好ましくは2,500,000以下、より好ましくは1,000,000以下である。
また、水不溶性ポリマー粒子を含有する分散体中又はインキ中の水不溶性ポリマー粒子の平均粒径は、インキの保存安定性から、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、更に好ましくは50nm以上であり、そして、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは150nm以下、より更に好ましくは130nm以下である。
本発明で用いられる水不溶性ポリマーbの酸価は、インキの保存安定性の観点から1以上45以下が好ましく、3以上40以下がより好ましく、5以上35以下が更に好ましい。
なお、水不溶性ポリマーbの重量平均分子量と平均粒径は、実施例記載の方法により測定される。
本発明で用いられるインキ中の顔料と水不溶性ポリマー(ポリマーa+ポリマーbの総量)の比率は、インキの安定性の観点から100/20〜100/300が好ましく、100/30〜100/280がより好ましく、100/50〜250が更に好ましい。
【0061】
[水溶性有機溶剤]
本発明で用いられる水性インキは、インキの粘度及び印刷媒体への転写量を調整する観点から、水溶性有機溶剤を含有することが好ましい。
本発明に用いられる水溶性有機溶剤は、常温で液体であっても固体であっても構わず、自由に用いることができる。水溶性有機溶剤は、100℃以上260℃以下の沸点であるものが好ましく、110℃以上250℃以下の沸点であるものがより好ましく、120℃以上240℃以下の沸点であるものが更に好まし。なお、上記範囲の下限未満であるとハイライト適性が低下し、上限を超えると乾燥性が低下する場合がある。
水溶性有機溶剤の分子量としては、60以上200以下が好ましく、80以上190以下がより好ましく、100以上180以下が更に好ましい。
このような水溶性有機溶剤としては、グリコール及びグリコールエーテルが好ましく、グリコールエーテルがより好ましい。これらを2つ以上併用しても構わない。
【0062】
グリコールとしては、プロピレングリコール(188℃)、1,2ブタンジオール(194℃)、エチレングリコール(197℃)、3−メチル―1,3ブタンジオール(203℃)、1、2ペンタンジオール(210℃)、2−メチル―1,3プロパンジオール(214℃)、1,2ヘキサンジオール(224℃)、1,3プロパンジオール(230℃)、ジプロピレングリコール(231℃)、ジエチレングリコール(244℃)等が挙げられる。なお、括弧内の数値は沸点を示したものである。これらを2つ以上併用してもよい。グリコールは、インキの乾燥性及びハイライト適性の観点からプロピレングリコールを含有することが好ましい。
【0063】
グリコールエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル(125℃)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(142℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(171℃)、エチレングリコールモノイソブチルエーテル(161℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(194℃)、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル(207℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(231℃)、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(220℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(121℃)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(150℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(187℃)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(220℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(162℃)、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル(176℃)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(189℃)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(216℃)等が挙げられる。なお、括弧内の数値は沸点を示したものである。これらを2つ以上併用してもよい。グリコールエーテルは、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルがインキの乾燥性及びハイライト適性の観点から好ましい。
【0064】
インキ中の水溶性有機溶剤の含有量は、ハイライト適性及び乾燥性を向上させる観点から、10質量%以上35質量%以下が好ましく。12質量%以上32質量%以下がより好ましく、13質量%以上30質量%以下が更に好ましい。
【0065】
[界面活性剤]
インキは界面活性剤を含んでもよく、好ましくはアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤の中から選ばれ、これらを2つ以上併用しても構わない。
これらの中では、分散液の保存性を向上させる観点から特にノニオン性界面活性剤が好ましい。ノニオン性界面活性剤としては、アルコール系、アセチレングリコール系、シリコーン系、フッ素系界面活性剤があり、これらを2つ以上併用しても構わない。印刷基材への濡れ性の観点から特にシリコーン系界面活性剤が好ましい。
【0066】
アルコール系界面活性剤としては、印刷基材への濡れ性の観点から、炭素数が6以上30以下のアルコールのアルキレンオキシド付加物が好ましい。
アルコールの炭素数は、上記と同様の観点から、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは12以上であり、また、好ましくは24以下、より好ましくは22以下、更に好ましくは20以下である。
アルキレンオキシド付加物としては、上記と同様の観点から、エチレンオキシド付加物、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの付加物が好ましく、エチレンオキシドの付加物が好ましい。
アルコール系界面活性剤の市販品としては、ラウリルアルコールのエチレンオキシド付加物として、花王株式会社製のエマルゲン108(HLB:12.1、EO平均付加モル数:6)、同109P(HLB:13.6、EO平均付加モル数8)、同120(HLB:15.3、EO平均付加モル数:13)、同147(HLB:16.3、EO平均付加モル数:17)、同150(HLB:18.4、EO平均付加モル数:44)が挙げられる。その他、花王株式会社製のエマルゲン707(炭素数11〜15の第2級アルコールのエチレンオキシド付加物、HLB:12.1、EO平均付加モル数:6)、同220(炭素数16〜18の直鎖1級アルコールのエチレンオキシド付加物、HLB:14.2、EO平均付加モル数:13)等が挙げられる。
【0067】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、印刷基材への濡れ性の観点から、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、及び2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオールから選ばれる1種以上のアセチレングリコール、及び前記アセチレングリコールのエチレンオキシド付加物が挙げられる。
これらの市販品としては、日信化学工業株式会社及びAir Products & Chemicals社のサーフィノール104(2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、EO平均付加モル数:0、HLB:3.0)、同104E(2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレングリコール50%希釈品)、同104PG−50(2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのプロピレングリコール50%希釈品)、サーフィノール420(2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのEO平均1.3モル付加物、HLB:4.7、)、川研ファインケミカル株式会社製のアセチレノールE13T(EO平均付加モル数:1.3、HLB:4.7)等が挙げられる。
【0068】
シリコーン系界面活性剤としては、ジメチルポリシロキサン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、メチルフェニルポリシロキサン、脂肪酸変性シリコーン、アルコール変性シリコーン、脂肪族アルコール変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、フッ素変性シリコーン、環状シリコーン、アルキル変性シリコーン等が挙げられる。これらの中では、ポリエーテル変性シリコーンが印刷基材への濡れ性の観点から好ましい。
ポリエーテル変性シリコーンとしては、PEG−3ジメチコン、PEG−9ジメチコン、PEG−9PEG−9ジメチコン、PEG−9メチルエーテルジメチコン、PEG−10ジメチコン、PEG−11メチルエーテルジメチコン、PEG/PPG−20/22ブチルエーテルジメチコン、PEG−32メチルエーテルジメチコン、PEG−9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン、ラウリルPEG−9ポリジメチルシロキシエチルジメチ
コン等が挙げられる。これらの中では、特にPEG−11メチルエーテルジメチコンが好ましい。
市販品としては、信越化学工業株式会社のシリコーン KF−6011、KF−6012、KF−6013、KF−6015、KF−6016、KF−6017、KF−6028、KF−6038、KF−6043等が挙げられる。
【0069】
界面活性剤の含有量は、印刷基材への濡れ性を向上させる観点から、インキ中、0.01質量%以上5.0質量%以下が好ましく、0.1質量%以上2.0質量%以下がより好ましく、0.2質量%以上1.0質量%以下が更に好ましい。
【0070】
[水]
インキにおける水の含有量は、乾燥性及びVOCを低減する観点から、50質量%以上70質量%以下が好ましく、52質量%以上68質量%以下がより好ましく、55質量%以上65質量%以下が更に好ましい。顔料、ポリマー、水溶性有機溶剤、界面活性剤及び水以外の他の成分をインキ中に含有する場合は、水の含有量の一部を他の成分に置き換えて含有することができる。
【0071】
[グラビア印刷用インキの任意成分]
さらにインキには、pH調整剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等の各種添加剤を添加することができる。
【0072】
[印刷媒体]
本発明に印刷で用いる印刷媒体としては、コート紙、アート紙、合成紙、加工紙等の紙、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルム、塩化ビニルフィルムナイロンフィルム等の樹脂フィルム、等が挙げられる。印刷媒体は、印刷濃度が高くなる観点から、樹脂フィルムが好ましい。これらの中では、印刷媒体は、後加工適性の観点からポリエステルフィルム及びポリプロピレンフルムが好ましい。グラビア印刷適性を向上させる観点からコロナ処理、プラズマ処理等の放電加工による表面処理を行ったフィルムを用いても良い。
【実施例】
【0073】
以下に実施例等により、本発明を更に具体的に説明する。以下の実施例等においては、各物性は次の方法により測定した。なお、「部」及び「%」は特記しない限り、「質量部」及び「質量%」である。
【0074】
(1)ポリマーの重量平均分子量の測定
N,N−ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、水不溶性ポリマーの分子量をゲル浸透クロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPA装置(HLA−8120GPA)、東ソー株式会社製カラム(TSK−GEL、α−M×2本)、流速:1mL/min〕により測定した。なお、標準物質として分子量既知の単分散ポリスチレンを用いた。
【0075】
(2)粒子の平均粒径の測定
レーザー粒子解析システム(大塚電子株式会社製、型番:ELS−8000、キュムラント解析)を用いて測定した。測定する粒子の濃度が、約5×10−3質量%になるよう水で希釈した分散液を用いた。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。
【0076】
(3)酸価の測定
電位差自動滴定装置(京都電子工業株式会社製、電動ビューレット、型番:APB−610)にポリマーをトルエンとアセトン(2+1)を混合した滴定溶剤に溶かし、電位差滴定法により0.1N水酸化カリウム・エタノール溶液で滴定し、滴定曲線上の変曲点を終点とする。水酸化カリウム溶液の終点までの滴定量から酸価を算出した。
【0077】
・製造例I(水不溶性ポリマーa溶液の製造)
2つの滴下ロート1及び2を備えた反応容器内に、表1の「初期仕込みモノマー溶液」に示す種類のモノマー、溶媒、重合開始剤(2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業株式会社製、商品名:V−65)、重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)(キシダ化学株式会社製)を入れて混合し、窒素ガス置換を行い、初期仕込みモノマー溶液を得た。
次に、表1の「滴下モノマー溶液1」に示すモノマー、溶媒、重合開始剤、重合連鎖移動剤を混合して、滴下モノマー溶液1を得、滴下ロート1内に入れて、窒素ガス置換を行った。また、表1の「滴下モノマー溶液2」に示すモノマー、溶媒、重合開始剤、重合連鎖移動剤を混合して、滴下モノマー溶液2を得、滴下ロート2内に入れて、窒素ガス置換を行った。
【0078】
なお、各表中のマクロモノマーは、東亜合成株式会社製の商品名:AS−6S、数平均分子量6000の50質量%トルエン溶液である。NKエステルTM−40Gは、新中村化学工業株式会社製のメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシド平均付加モル数=4)の商品名である。ブレンマーPP1000は、日油株式会社製のポリプロピレングリコールモノメタクリレート(プロピレンオキサイド平均付加モル数=5、末端:水素原子)の商品名である。重合開始剤 V−65は、和光純薬工業株式会社製の2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)の商品名である。又、各表中のメタクリル酸、スチレンは和光純薬工業株式会社製の試薬を用いた。
窒素雰囲気下、反応容器内の初期仕込みモノマー溶液を攪拌しながら77℃に維持し、滴下ロート1中の滴下モノマー溶液1を3時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。次いで滴下ロート2中の滴下モノマー溶液2を2時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。滴下終了後、反応容器内の混合溶液を77℃で0.5時間攪拌した。
次いで上記の重合開始剤(V−65)1部をメチルエチルケトン100部(和光純薬工業株式会社製)に溶解した重合開始剤溶液を調製し、該混合溶液に加え、77℃で0.5時間攪拌することで熟成を行った。上記重合開始剤溶液の調製、添加及び熟成を更に5回行った。次いで反応容器内の反応溶液を80℃に1時間維持し、固形分濃度は38.0%になるようにメチルエチルケトン429部を加えて水不溶性ポリマーa溶液を得た。水不溶性ポリマーaの重量平均分子量は62,000、酸価102であった。
【0079】
【表1】
【0080】
表1において、各配合物質の配合量は質量部で示される。表1のモノマー仕込み比は、マクロモノマーの場合は固形分50%の値であり、その他のモノマーは固形分100%の値である。又、表1のモノマー溶液の仕込み量は、溶液での値である。
【0081】
・製造例II(水不溶性ポリマーb粒子の分散液の製造)
滴下ロートを備えた反応容器内に、メタクリル酸0.5g、メタクリル酸メチル(和光純薬工業株式会社製)14.5g、アクリル酸2−エチルヘキシル(和光純薬工業株式会社製)5.0g、ラテムルE−118B(ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム11.1g、花王株式会社製、界面活性剤)、重合開始剤である過硫酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)0.2g、イオン交換水282.8gを入れて150rpmで混合した後、窒素ガス置換を行い、初期仕込みモノマー溶液を得た。
メタクリル酸9.5g、メタクリル酸メチル275.5g、アクリル酸2−エチルヘキシル95.0g、ラテムルE−118B 35.1g、過硫酸カリウム0.6g、イオン交換水183.0を150rpmで混合した滴下モノマー溶液を滴下ロート内に入れて、窒素ガス置換を行った。
窒素雰囲気下、反応容器内の初期仕込みモノマー溶液を150rpmで攪拌しながら室温から80℃に30分かけて昇温し、80度に維持したまま、滴下ロート中のモノマーを3時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。滴下終了後、反応容器内の温度を維持したまま、1時間攪拌し、イオン交換水204.7部を加えた。次いでステンレス金網(200メッシュ)でろ過し、水不溶性ポリマーb粒子の分散液(固形分濃度40%、平均粒径100nm、酸価16、Tg48℃)を得た。
【0082】
・製造例III(顔料含有ポリマー粒子の水分散体Aの製造)
製造例Iで得られた水不溶性ポリマーa溶液(固形分濃度38.0%)225.6部を、メチルエチルケトン(MEK)72.6部と混合し、水不溶性ポリマーaのMEK溶液を得た。ディスパー翼を有する容積が2Lのベッセルに該水不溶性ポリマーaのMEK溶液を投入し、1400rpmの条件で撹拌しながら、イオン交換水681.9部、5N水酸化ナトリウム水溶液29.8部(和光純薬工業株式会社製)、及び25%アンモニア水溶液2.3部(和光純薬工業株式会社製)を添加して、水酸化ナトリウムによる中和度が78.8モル%、アンモニアによる中和度が21.2モル%となるように調整し、0℃の水浴で冷却しながら、1400rpmで15分間撹拌した。
次いでカーボンブラック(キャボットジャパン株式会社製、商品名:モナーク717)200部を加え、6400rpmで1時間撹拌した。得られた顔料混合物をマイクロフルイダイザー「M−110EH」(Microfluidics社製)を用いて150MPaの圧力で9パス分散処理し、分散処理物(固形分濃度は20%)を得た。
上記工程で得られた分散処理物600部を2Lナスフラスコに入れ、イオン交換水200部を加え(固形分濃度15.0%)、回転式蒸留装置「ロータリーエバポレーター」(N−1000S、東京理化器械株式会社製)を用いて、回転数50r/minで、32℃に調整した温浴中にて、0.09MPaの圧力で3時間保持して、有機溶媒を除去した。更に、温浴を62℃に調整し、圧力を0.07MPaに下げて固形分濃度25%になるまで濃縮した。
得られた濃縮物を500mlアングルローターに投入し、高速冷却遠心機(himaa AR22G、日立工機株式会社製、設定温度20℃)を用いて7000rpmで20分間遠心分離した後、液層部分を5μmのメンブランフィルター(Sartorius社製、Minisart MAP−010XS)で濾過した。
上記で得られた濾液400部(顔料68.6部、水不溶性ポリマーa29.4部)にデナコール EX−321L(ナガセケムテックス株式会社製、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、エポキシ当量129)2.1部(ポリマー中メタクリル酸に含有する架橋反応点となるカルボン酸に対し25mol%相当)、プロキセルLV(S)(ロンザジャパン株式会社製、防黴剤、有効分20%)0.91部を添加し、更に固形分濃度が22.0%になるようにイオン交換水51.94部を添加し、70℃で3時間攪拌した後、5μmのメンブランフィルター(Sartorius社製、Minisart MAP−010XS)で濾過し、顔料含有ポリマー粒子22%の水分散体A(顔料水分散体;平均粒径105nm)を得た。
【0083】
<グラビア印刷用インキの調製>
・製造例1(インキ1の製造)
表2記載のインキ組成となるように、製造容器内に製造例III記載の水分散体A 65.4部(インキ中の顔料濃度10%に相当、固形分濃度22%)に中和剤0.59部(和光純薬工業株式会社製、1N 水酸化ナトリウム溶液)及び製造例II記載の水分散液b 8.25部(インキ中のポリマー濃度3.3%に相当、固形分濃度40%)を加え、150rpmで撹拌を行った。更にプロピレングリコール5部(和光純薬工業株式会社製)、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル20部、界面活性剤0.5部(信越化学工業株式会社製、商品名:KF−6011、PEG−11メチルエーテルジメチコン)及びイオン交換水0.26部を加え、室温下で30分撹拌を行った後、ステンレス金網(200メッシュ)で濾過し、インキ1を得た。
【0084】
【表2】
【0085】
表2において、各配合物質の配合量は質量部で示される。表2中の記号は、以下を示すものである。
PG:プロピレングリコール(和光純薬工業株式会社製、沸点188℃)
BG:エチレングリコールモノブチルエーテル(和光純薬工業株式会社製、沸点171℃)
MDG:ジエチレングリコールモノメチルテーテル(和光純薬工業株式会社製、沸点194℃)
iBDG:ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(和光純薬工業株式会社製、沸点220℃)
BDG:ジエチレングリコールモノブチルエーテル(和光純薬工業株式会社製、沸点231℃)
【0086】
得られたインキに対して、下記評価方法にて、粘度及び蒸発率を測定した。結果を表2に示す。
<ザーンカップ#3の粘度評価方法>
水温を20℃に調整した恒温槽にインキを30分以上浸漬し、ザーンカップ#3(株式会社メイセイ製)を用いてインキの留出時間を測定し、その値をザーンカップの粘度とした。
【0087】
<インキ蒸発率の評価方法>
インキ1gを40℃に調整した乾燥機に投入し、エアー流量1400L/分で30分乾燥した後、下記式(1)でインキ蒸発率を求めた。なお、乾燥機として、エアー管理用メータ(アズビル(株)製、型番:MCF0250)をエアー吸気側に設置した乾燥機(ヤマト科学(株)製、型番:Vacuum Oven DP33)を用いた。
インキ蒸発率(%)=〔1−(乾燥後のインキ質量/乾燥前のインキ質量)〕×100 ・・・(1)
【0088】
・製造例2〜5(インキ2〜5の製造)
表2記載のインキ組成となるように置き換えた以外は、製造例1記載の製造方法に従って、インキ2〜5を得た。得られたインキに対して、製造例1と同様の方法により粘度及び蒸発率を測定した。結果を表2に示す。
【0089】
(実施例1)
<印刷試験>
製造例1のインキ1を用いて、OPPフィルム(フタムラ化学株式会社製、FOR−AQ#20、ラミネートグレード)のコロナ処理面に印刷を行った。印刷は、グラビアロール(株式会社シンク・ラボラトリー製、レーザー製版方式、グラビア版175線/インチ、セル形状:グラビアドット(四角形状)、グラビアセル深度6μm)を設置したグラビア印刷機(株式会社オリエント総業製8色機、OSG−SDX Type VLS)に印刷条件(印刷速度:30m/分)で網点パターン(1%、3%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%)を印刷後、温風乾燥を行った。
【0090】
<グラビアセル体積の評価方法>
グラビアセルの体積は、ロール検査装置(株式会社シンク・ラボラトリー製 コンフォーカルレーザ顕微鏡 対物レンズ50x)をロール上に置き、100%網点印刷部のセルの底面から上面までスキャンして1つ当たりのセル体積を測定し、製版した線数をセルの密度とすることで、100mmx100mmあたりのグラビアセル体積に換算した。
【0091】
<インキ転写量の評価方法>
インキの転写量の測定方法は、100%網点印刷部の100mmx100mm角の印刷物を10枚用意し、まず、初期の重量を測り、その後、10枚ともすべてインキ被膜を、インキ希釈溶剤(DIC製ダイレジューサ)で、溶解・除去する。その後、基材を45℃、24時間、温風乾燥し、重量を測定する。初期の重量とインク除去・乾燥後の重量の差をインキ転写量とした。インキ転写量は、印刷物10枚の平均値である。
【0092】
<インキ転写率の評価方法>
インキの転写率は、前記より求められたグラビアセル体積及びインキ転写量から下記式(2)から求めた値である。
インキ転写率(%)=(インキ転写量/グラビアセル体積)×100 ・・・(2)
【0093】
<印刷濃度の評価方法>
分光光度計(グレタグマクベス社製、商品名:SpectroEye)を用いて、100%網点印刷部を濃度測定モード(DIN,Abs)にて測定を行った。結果を表2に示した。
【0094】
<ハイライト適性の評価方法>
分光光度計(グレタグマクベス社製、商品名:SpectroEye)を用いて、測定モード(DIN,Abs)にて5%網点印刷部の網点面積率を測定して、以下の基準でハイライト適性を評価した。評価がA及びBであれば実用上問題はない。結果を表2に示した。
A:網点面積率20%以上30%未満
B:網点面積率10%以上20%未満
C:網点面積率0%以上10%未満
【0095】
(実施例2)
実施例1のグラビアロールのセル深度を8μmに置き変えた以外は、実施例1記載の印刷方法と同様に行った。結果を表2に示した。
【0096】
(実施例3)
実施例1のグラビアロールのセル深度を10μmに置き変えた以外は、実施例1記載の印刷方法と同様に行った。結果を表2に示した。
【0097】
(実施例4)
実施例1のグラビア版数を250線/インチに、セル深度を5μmに置き変えた以外は、実施例1記載の印刷方法と同様に行った。結果を表2に示した。
【0098】
(実施例5)
実施例1のグラビア版数を250線/インチに置き変えた以外は、実施例1記載の印刷方法と同様に行った。結果を表2に示した。
【0099】
(実施例6)
実施例1のインキ1を製造例2のインキ2に、グラビア版数を250線/インチに置き変えた以外は、実施例1記載の印刷方法と同様に行った。結果を表2に示した。
【0100】
(実施例7)
実施例1のインキ1を製造例3のインキ3に、グラビア版数を250線/インチに置き変えた以外は、実施例1記載の印刷方法と同様に行った。結果を表2に示した。
【0101】
(実施例8)
実施例1のインキ1を製造例4のインキ4に、グラビア版数を250線/インチに置き変えた以外は、実施例1記載の印刷方法と同様に行った。結果を表2に示した。
【0102】
(実施例9)
実施例1のインキ1を製造例5のインキ5に、グラビア版数を250線/インチに置き変えた以外は、実施例1記載の印刷方法と同様に行った。結果を表2に示した。
【0103】
(比較例1)
実施例1のインキ1を水性グラビアインキ(東洋インキ株式会社製、汎用水性ラミネートインキ JW252 アクワエコール F121F)100gを水/ノルマルプロパノール/イソプロパノール(50/25/25)希釈液90gで希釈混合したインキに、グラビア版数を250線/インチに置き変えた以外は、実施例1記載の印刷方法と同様に行った。結果を表2に示した。
【0104】
(比較例2)
実施例1のインキ1を油性グラビアインキ(サカタインクス株式会社製、裏刷り用グラビアインキ ベルカラーHS R墨10000)100gを希釈液(サカタインクス株式会社製、校正刷り用L溶剤)30gで希釈混合したインキに、グラビア版数を250線/インチに置き変えた以外は、実施例1記載の印刷方法と同様に行った。結果を表2に示した。
【0105】
表2から明らかなように、20℃におけるザーンカップ#3の粘度が11.0秒以上20.0秒以下であり、乾燥試験(インキ1gを温度40℃、エアーフロー1400L/分で30分乾燥)における蒸発率が30質量%以下である水性インキを用いて、1ml/m2以上7ml/m2以下のインキを印刷媒体に転写するグラビア印刷方法を行った実施例1〜9は、インキ転写率が高く、高い印刷濃度と優れたハイライト適性がある。
比較例1及び2においては、インキ転写率が低く、印刷濃度とハイライト適性を両立できなかった。