特許第6348673号(P6348673)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6348673燃料消費量取得装置、燃料消費量取得方法、および燃料消費量取得プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6348673
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】燃料消費量取得装置、燃料消費量取得方法、および燃料消費量取得プログラム
(51)【国際特許分類】
   B63B 49/00 20060101AFI20180618BHJP
   B63H 21/38 20060101ALI20180618BHJP
【FI】
   B63B49/00 Z
   B63H21/38 B
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-542493(P2017-542493)
(86)(22)【出願日】2017年6月13日
(86)【国際出願番号】JP2017021712
【審査請求日】2017年8月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232818
【氏名又は名称】日本郵船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】特許業務法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 達也
(72)【発明者】
【氏名】大 浩司
【審査官】 山尾 宗弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−124807(JP,A)
【文献】 特開2012−250649(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/013704(WO,A1)
【文献】 特開2000−142563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 49/00
B63H 21/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶における燃料消費量を算出する燃料消費量取得装置であって、
基準となる第1の燃料種に対して、他の第2の燃料種毎に、前記第2の燃料種に係る燃料消費量を前記第1の燃料種での燃料消費量に換算する換算係数を、貨物の積載状態に応じて算出して換算係数記録部に記録する換算係数計算部と、
前記船舶について測定された運航データを取得する運航データ取得部と、
前記運航データ取得部により取得された直近の運航データから判定された貨物の積載状態と、前記第1の燃料種および前記第2の燃料種毎の燃料消費量と、前記換算係数記録部に記録された前記第2の燃料種毎の前記換算係数と、に基づいて、前記第2の燃料種毎の燃料消費量を前記第1の燃料種での燃料消費量に換算して、前記船舶の全体の燃料消費量を算出する燃料消費量計算部と、を有する、燃料消費量取得装置。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料消費量取得装置において、
前記換算係数計算部は、前記船舶の運航データに基づいて、前記第1の燃料種における燃料消費量と出力エネルギーとの間の第1の比例係数と、前記各第2の燃料種におけるそれぞれの燃料消費量と出力エネルギーとの間の第2の比例係数を求め、前記第1の比例係数と前記各第2の比例係数のそれぞれとの比に基づいて、前記第2の燃料種毎の前記換算係数を算出する、燃料消費量取得装置。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料消費量取得装置において、
前記換算係数計算部が参照する前記船舶の運航データは、前記運航データ取得部により取得され蓄積された過去の運航データである、燃料消費量取得装置。
【請求項4】
請求項2に記載の燃料消費量取得装置において、
前記換算係数計算部が参照する前記船舶の運航データは、所定の標準条件の下で前記船舶が運行されたときの運航データである、燃料消費量取得装置。
【請求項5】
請求項1に記載の燃料消費量取得装置において、
前記換算係数計算部は、前記船舶における入出力エネルギーに係る情報と、前記第2の燃料種毎の前記換算係数との対応関係に係る情報を予め保持し、前記船舶においてセンサにより測定された前記入出力エネルギーに係る情報に基づいて、前記第2の燃料種毎の前記換算係数を取得する、燃料消費量取得装置。
【請求項6】
請求項1に記載の燃料消費量取得装置において、
前記換算係数計算部は、前記船舶における入出力エネルギーに係る情報と、前記第2の燃料種毎の前記換算係数との対応関係に係る情報を予め保持し、所定のシミュレーション計算により推測した前記入出力エネルギーに係る情報に基づいて、前記第2の燃料種毎の前記換算係数を取得する、燃料消費量取得装置。
【請求項7】
請求項1に記載の燃料消費量取得装置において、
前記換算係数計算部は、前記第2の燃料種毎の前記換算係数の算出を定期的に行い、算出された前記換算係数により前記換算係数記録部に記録された内容を更新する、燃料消費量取得装置。
【請求項8】
請求項7に記載の燃料消費量取得装置において、
前記換算係数計算部により算出された前記換算係数が、過去の前記換算係数の値の推移から所定の程度以上乖離している場合に、前記船舶における異常の発生に係る警告を出力する、燃料消費量取得装置。
【請求項9】
船舶における燃料消費量を算出する燃料消費量取得装置における燃料消費量取得方法であって、
前記燃料消費量取得装置が、
基準となる第1の燃料種に対して、他の第2の燃料種毎に、前記第2の燃料種に係る燃料消費量を前記第1の燃料種での燃料消費量に換算する換算係数を、貨物の積載状態に応じて算出して換算係数記録部に記録する換算係数計算ステップと、
前記船舶について測定された運航データを取得する運航データ取得ステップと、
前記運航データ取得ステップにおいて取得された直近の運航データから判定された貨物の積載状態と、前記第1の燃料種および前記第2の燃料種毎の燃料消費量と、前記換算係数記録部に記録された前記第2の燃料種毎の前記換算係数と、に基づいて、前記第2の燃料種毎の燃料消費量を前記第1の燃料種での燃料消費量に換算して、前記船舶の全体の燃料消費量を算出する燃料消費量計算ステップと、を実行する、燃料消費量取得方法。
【請求項10】
船舶における燃料消費量を算出する燃料消費量取得装置としてコンピュータを機能させる燃料消費量取得プログラムであって、
基準となる第1の燃料種に対して、他の第2の燃料種毎に、前記第2の燃料種に係る燃料消費量を前記第1の燃料種での燃料消費量に換算する換算係数を、貨物の積載状態に応じて算出して換算係数記録部に記録する換算係数計算処理と、
前記船舶について測定された運航データを取得する運航データ取得処理と、
前記運航データ取得処理において取得された直近の運航データから判定された貨物の積載状態と、前記第1の燃料種および前記第2の燃料種毎の燃料消費量と、前記換算係数記録部に記録された前記第2の燃料種毎の前記換算係数と、に基づいて、前記第2の燃料種毎の燃料消費量を前記第1の燃料種での燃料消費量に換算して、前記船舶の全体の燃料消費量を算出する燃料消費量計算処理と、を前記コンピュータに実行させる、燃料消費量取得プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラントの燃料消費量を算出する技術に関し、特に、FO(Fuel Oil:燃料油)以外の燃料を使用することができるプラントの燃料消費量取得装置、燃料消費量取得方法、および燃料消費量取得プログラムに適用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、蒸気タービン船では、重油等のFOをボイラで燃焼させて加熱蒸気を発生させ、これを二次エネルギーとしてタービンを回転させることで推進力を得る。特に、LNG(Liquid Natural Gas:液化天然ガス)を貨物とするLNG船では、LNGが−160℃程度で気化することから、外部からの入熱等によりタンク内のLNGが徐々に気化することが避けられないため、発生したBOG(Boil Off Gas)についても燃料として用いることが行われる。また、タンク内のLNGを強制的に気化させて燃料として用いる場合もある。
【0003】
これらの燃料の種類(燃料種)をどのように組み合わせて用いるかは、LNG船の航行期間・区間毎に異なり得る。ここで、燃料としてBOGを用いる場合、FOとは熱量が異なることから、運行計画の作成時における燃料消費量の計算の際に考慮が必要となる。通常は、BOGに係る指標(単位熱量等)を、FOを基準としたものに換算する(もしくはその逆)ことが行われる。
【0004】
これに関連する技術として、例えば、特開2000−142563号公報(特許文献1)には、LNG船において燃料としてBOGを燃焼させる場合と、代替燃料として重油等を燃焼させる場合とにおいて、ボイラ負荷指令に対する不足発熱量を計算する際に、BOGの発熱量をBOG発熱量換算係数によって代替燃料の発熱量を基準とした値に換算する旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−142563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、例えば、LNG船において運行計画作成のために燃料消費量を計算する際に、従来技術では、BOGに係る指標(例えば、燃料消費量や発生蒸気量、発電量等の、プラントの入出力エネルギーの関係を換算または計算できるデータ)をFOを基準としたものに換算した上で、複数の燃料種の燃料について統一的に計算することが行われている。
【0007】
BOGの消費量をFOの消費量に換算する際の係数(FOE:Fuel Oil Equivalent)として、通常は予め設定された固定値が用いられる。しかし、LNGの化学的性質上、積荷(Laden)航海と空荷(Ballast)航海とでFOEは異なり得る。また、BOGでも、自然気化したNBOG(Natural Boil Off Gas)と、強制的に気化させたFBOG(Forced Boil Off Gas)とでFOEは異なり得る。したがって、運航状況(積荷航海か空荷航海か、NBOGとFBOGの混合比等)によってFOEの値を使い分けなければ、LNG船の性能把握、ひいては運行計画の作成等に支障が生じ得る。
【0008】
熱量計やガス組成計をLNG船に設置し、ボイラやDF(Dual Fuel)エンジンに投入されるFOおよびBOGの熱量を計測し、これに基づいてFOEをリアルタイムで常時算出することも考えられる。しかし、これらの計測器の設置には相当の費用がかかるため、現実的には設置が困難な場合が生じ得る。
【0009】
そこで本発明の目的は、FOおよびBOGを燃料として用いることができるLNG船等においてプラントの入力エネルギーと出力エネルギーとの関係を換算または計算できるデータと、消費されたBOGにおけるNBOGとFBOGの混合比率に基づいて、その時点における燃料種毎のFOEを計算する燃料消費量取得装置、燃料消費量取得方法、および燃料消費量取得プログラムを提供することにある。
【0010】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、以下のとおりである。
【0012】
本発明の代表的な実施の形態による燃料消費量取得装置は、船舶における燃料消費量を算出する燃料消費量取得装置であって、基準となる第1の燃料種に対して、他の第2の燃料種毎に、前記第2の燃料種に係る燃料消費量を前記第1の燃料種での燃料消費量に換算する換算係数を、貨物の積載状態に応じて算出して換算係数記録部に記録する換算係数計算部と、前記船舶について測定された運航データを取得する運航データ取得部と、前記運航データ取得部により取得された直近の運航データから判定された貨物の積載状態と、前記第1の燃料種および前記第2の燃料種毎の燃料消費量と、前記換算係数記録部に記録された前記第2の燃料種毎の前記換算係数と、に基づいて、前記第2の燃料種毎の燃料消費量を前記第1の燃料種での燃料消費量に換算して、前記船舶の全体の燃料消費量を算出する燃料消費量計算部と、を有するものである。
【0013】
また、本発明は、コンピュータを上記のような燃料消費量取得装置として動作させる燃料消費量取得プログラムにも適用することができる。
【発明の効果】
【0014】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0015】
すなわち、本発明の代表的な実施の形態によれば、FOおよびBOGを燃料として用いることができるLNG船等においてプラントの入力エネルギーと出力エネルギーとの関係を換算または計算できるデータと、消費されたBOGにおけるNBOGとFBOGの混合比率に基づいて、その時点における燃料種毎のFOEを計算することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施の形態における燃料消費量取得装置の構成例について概要を示した図である。
図2】LNG船における使用する燃料種のパターンと入出力エネルギーの関係の例について概要を示した図である。
図3】本発明の一実施の形態におけるFO換算係数の計算処理の流れの例について概要を示したフロー図である。
図4】本発明の一実施の形態における運航中の燃料消費量の計算処理の流れの例について概要を示したフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一部には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。一方で、ある図において符号を付して説明した部位について、他の図の説明の際に再度の図示はしないが同一の符号を付して言及する場合がある。
【0018】
<装置構成>
図1は、本発明の一実施の形態である燃料消費量取得装置の構成例について概要を示した図である。燃料消費量取得装置1は、プラントの入力エネルギーと出力エネルギーとの関係を換算または計算できるデータと、消費されたBOGにおけるNBOGとFBOGの混合比率に基づいて、その時点における燃料種毎のFOEを計算し、全体の燃料消費量を計算する装置もしくはシステムである。
【0019】
本実施の形態では、FO以外の燃料を使用することができるプラントの例として、LNGから生じたBOGを燃料とすることができるLNG船を対象として説明するが、これに限られない。LNG以外にもLPG(Liquefied Petroleum Gas:液化石油ガス)や水素等を燃料とすることができるプラントにも適用することができる。LNG船の場合、プラントの入力エネルギーと出力エネルギーとの関係を換算または計算できるデータとは、例えば、蒸気タービン船では発生蒸気量、DFエンジンを搭載した船では発電量である。本実施の形態では主に蒸気タービン船を対象として説明する。
【0020】
燃料消費量取得装置1は、例えば、半導体回路やマイコン等を用いた専用のハードウェア、もしくは、PC(Personal Computer)やサーバ機器、クラウドコンピューティングサービス上に構築された仮想サーバ等の汎用のコンピュータ、もしくはこれらの組み合わせによって構成される。本実施の形態では、コンピュータによって構成される場合を例として説明する。すなわち、図示しないCPU(Central Processing Unit)により、HDD(Hard Disk Drive)等の記録装置からメモリ上に展開したOS(Operating System)やDBMS(DataBase Management System)等のミドルウェアや、その上で稼働するソフトウェアを実行することで、燃料種毎のFOEの計算および全体の燃料消費量の計算に係る後述する各種機能を実現する。
【0021】
燃料消費量取得装置1は、例えば、ソフトウェアとして実装された運航データ取得部11、換算係数計算部12、燃料消費量計算部13、および運航条件判定部14等の各部を有する。また、データベースやテーブル等としてHDDやメモリ等の記録媒体に記録された運航データ15、およびFO換算係数16等の各データ(記録部)を有する。
【0022】
運航データ取得部11は、燃料消費量取得装置1が設置されたLNG船において運航状況を把握することができる図示しない運航管理システムや運航制御システム等の外部システムや、LNG船に設置された各種のセンサや計測器等から運行状況に係るデータを取得し、運航データ15として記録・蓄積する機能を有する。運航状況に係るデータは常時(より正確には数秒や数分等の短い間隔で定期的に)取得するものとする。なお、運航データ15には、現在の運行状況に係るデータに加えて過去の運行状況に係るデータも蓄積され、日時や時間帯等の範囲を指定して該当範囲に含まれるデータを適宜参照することが可能である。
【0023】
換算係数計算部12は、運航データ15に記録された過去の運航状況に係るデータに基づいて、後述する手法により当該過去の時点での燃料種毎の換算係数(FOE)を計算し、マスタ情報であるFO換算係数16として記録する機能を有する。例えば、本実施の形態では、蒸気タービン船が対象であることから、運航状況に係るデータとして、出力である発生蒸気量、および入力である消費されたBOGにおけるNBOGとFBOGの混合比率の情報を取得し、これらの情報に基づいて燃料種毎のFOEを計算する。
【0024】
燃料消費量計算部13は、運航データ15に記録された現在の運行状況に係るデータに基づいて、後述する手法により、FOに換算した現在の全体の燃焼消費量を計算して出力する機能を有する。このときに用いるFOEは、換算係数計算部12によって燃料種毎に計算されたFO換算係数16から対応する燃料種に係るFOEの値を取得して用いる。
【0025】
運航条件判定部14は、運行状況に係るデータを入力として、当該データが取得された時点での運航条件を判定する機能を有する。例えば、LNGを収容するタンク内の液位の計測情報に基づいて、積荷(Laden)航海か、空荷(Ballast)航海かを判定する。また、図示しないフローメーター等によって計測された燃料種毎の燃料量(燃料投入量)の情報に基づいて各燃料種の混合比率を取得し、使用している燃料種の組み合わせのパターンを判定する。LNG船の一般的な運航では、例えば、FOのみ、NBOGのみ、およびNBOG+FBOGのパターンが用いられる。なお、FBOGを用いる場合は必然的にNBOGも発生するため、FBOGのみというパターンはない。
【0026】
<FO換算係数の計算手法>
図2は、LNG船における使用する燃料種のパターンと入出力エネルギーの関係の例について概要を示した図である。図2の例では、使用する燃料種の各パターンについて、入力エネルギー(燃料量)と出力エネルギー(発生蒸気量)との関係の例をグラフにより示している。図示するように、燃料量と発生蒸気量との関係は、概ね比例関係にあり、その傾きは、FOのみのパターンに比べて、NBOGのみのパターンの方が大きくなる。NBOG+FBOGのパターンではさらに傾きが大きくなる。傾きが大きい方が、同じ入力エネルギー(燃料量)で大きな出力エネルギー(発生蒸気量)を得ることができ、効率が高いことを示している。本実施の形態では、後述するように、FOのみのパターンでの傾きを基準とし、燃料種毎の傾きとの間の比率に基づいて燃料種毎のFO換算係数を求める。
【0027】
図3は、本実施の形態におけるFO換算係数の計算処理の流れの例について概要を示したフロー図である。まず、換算係数計算部12では、運航データ15から過去の運航状況に係るデータを取得する(S01)。運航状況に係るデータは、例えば、過去のある時点での運航データを取得してもよいし、後述する運航条件の判定により運航状況が変わったと判断されるまで継続的にデータを取得し、その平均等の統計情報として取得するようにしてもよい。
【0028】
その後、取得した運航状況に係るデータに基づいて、運航条件判定部14により運航条件を判定する(S02)。ここでは、上述したように、積荷(Laden)航海か、空荷(Ballast)航海かを判定するとともに、投入された燃料における各燃料種の組み合わせのパターンが、FOのみ、NBOGのみ、NBOG+FBOGのいずれであるかを判定する。
【0029】
その後、換算係数計算部12では、運航状況に係るデータから、燃料種毎のボイラへの入力である燃料量Fおよび全体の出力である発生蒸気量Sを取得する(S03)。ここで、燃料量Fおよび発生蒸気量Sは、燃料種の組み合わせのパターンに応じて、例えば、FOのみの場合(以下では「パターン0」と記載する場合がある)はFOの燃料量Fおよび発生蒸気量Sを取得する(S03_0)。
【0030】
同様に、積荷(Laden)航海でNBOGのみの場合(以下では「パターン1」と記載する場合がある)はNBOGの燃料量Fおよび発生蒸気量S、積荷(Laden)航海でNBOG+FBOGの場合(以下では「パターン2」と記載する場合がある)はNBOGの燃料量F、FBOGの燃料量Fおよび全体の発生蒸気量Sを取得する(S03_1、2)。同様に、空荷(Ballast)航海でNBOGのみの場合(以下では「パターン3」と記載する場合がある)はNBOGの燃料量Fおよび発生蒸気量S、空荷(Ballast)航海でNBOG+FBOGの場合(以下では「パターン4」と記載する場合がある)はNBOGの燃料量F、FBOGの燃料量Fおよび全体の発生蒸気量Sを取得する(S03_3、4)。
【0031】
その後、パターン0〜4の各パターンに応じて、燃料種毎の燃料量Fと発生蒸気量Sとの間の比例係数Aを算出する(S04)。例えば、パターン0においてFOに係る比例係数をAとすると、ある時点tにおけるFOの燃料量F(t)と発生蒸気量S(t)の間には、
(t)=A×F(t
の式が成立する。したがって、
=S(t)/F(t
の式によってAを計算することができる(S04_0)。同様に、パターン1においてNBOGに係る比例係数をAとすると、ある時点tにおけるNBOGの燃料量F(t)と発生蒸気量S(t)の間には、
(t)=A×F(t
の式が成立し、
=S(t)/F(t
の式によってAを計算することができる(S04_1)。
【0032】
一方、パターン2においてFBOGに係る比例係数をAとすると、ある時点tにおけるNBOGの燃料量F(t)およびFBOGの燃料量F(t)と発生蒸気量S(t)の間には、ステップS04_1で既にAが計算されているものとして、
(t)=A×F(t)+A×F(t
の式が成立する。したがって、
={S(t)−A×F(t)}/F(t
の式によってAを計算することができる(S04_2)。
【0033】
また、上記のステップS03_1、2と同様に、パターン3においてNBOGに係る比例係数をAとすると、ある時点tにおけるNBOGの燃料量F(t)と発生蒸気量S(t)の間には、
(t)=A×F(t
の式が成立し、
=S(t)/F(t
の式によってA3を計算することができる(S04_3)。
【0034】
また、パターン4においてFBOGに係る比例係数をAとすると、ある時点tにおけるNBOGの燃料量F(t)およびFBOGの燃料量F(t)と発生蒸気量S(t)の間には、ステップS04_3で既にAが計算されているものとして、
(t)=A×F(t)+A×F(t
の式が成立する。したがって、
={S(t)−A×F(t)}/F(t
の式によってAを計算することができる(S04_4)。
【0035】
その後、パターン1〜4の各パターンに応じて、FOに係る比例係数Aを基準とした、燃料種毎のFOへの換算係数FOEを計算する(S05)。例えば、パターン1における積荷(Laden)航海でのNBOGのFOへの換算係数FOEは、
FOE=A/A
の式によって計算する(S05_1)。同様に、積荷(Laden)航海でのFBOGのFOへの換算係数FOE、空荷(Ballast)航海でのNBOGのFOへの換算係数FOE、および空荷(Ballast)航海でのFBOGのFOへの換算係数FOEは、それぞれ、
FOE=A/A
FOE=A/A
FOE=A/A
の各式によって計算する(S05_2〜4)。なお、一般的にはFOE>1が成立する。
【0036】
その後、計算されたFOEの値をFO換算係数16として記録しておく(S06)。上記の一連の処理を、定期的(例えば1日1回等)に直近の過去における運航状況に係る情報を用いて実行してFOEの値を随時更新することで、後述する全体の燃料消費量の計算の精度を向上させることができる。
【0037】
<燃料消費量の計算方法>
図4は、本実施の形態における運航中の燃料消費量の計算処理の流れの例について概要を示したフロー図である。まず、燃料消費量計算部13では、運航データ15から現在の運航状況に係るデータ(現在時刻もしくは直近のデータ)を取得する(S11)。その後、取得した運航状況に係るデータに基づいて、運航条件判定部14により運航条件を判定する(S12)。ここでは、積荷(Laden)航海か、空荷(Ballast)航海かを判定する。
【0038】
その後、燃料消費量計算部13では、運航状況に係るデータから、燃料種毎(ここではFO、NBOG、およびFBOG)に、入力である燃料量Fを取得する(S13)。すなわち、積荷(Laden)航海の場合は、FOの燃料量F、NBOGの燃料量F、FBOGの燃料量Fを取得する。また、空荷(Ballast)航海の場合は、FOの燃料量F、NBOGの燃料量F、FBOGの燃料量Fを取得する。
【0039】
その後さらに、燃料種毎のFOへの換算係数FOEをFO換算係数16から取得する(S14)。すなわち、積荷(Laden)航海の場合は、NBOGのFOへの換算係数FOEおよびFBOGのFOへの換算係数FOEを取得する。また、空荷(Ballast)航海の場合は、NBOGのFOへの換算係数FOEおよびFBOGのFOへの換算係数FOEを取得する。
【0040】
そして、燃料種毎の燃料量Fと換算係数FOEとに基づいて全体の燃料消費量を計算する(S15)。すなわち、積荷(Laden)航海の場合、全体の燃料消費量Total FOC(Fuel Oil Consumption)は、
Total FOC=F+(F×FOE)+(F×FOE
の式によって計算する。同様に、空荷(Ballast)航海の場合は、
Total FOC=F+(F×FOE)+(F×FOE
の式によって計算する。
【0041】
上記の一連の処理を定期的(例えば、数秒間隔)に実行することで、現在の全体の燃料消費量の推移をリアルタイムで精度良く把握することができる。なお、計算結果の燃料消費量の値は、データとして出力してもよいし、図示しないディスプレイ等に表示するようにしてもよい。
【0042】
以上に説明したように、本発明の一実施の形態である燃料消費量取得装置1によれば、発生蒸気量S等の、プラントの入力エネルギーと出力エネルギーとの関係を換算または計算できるデータと、消費されたBOGにおけるNBOGとFBOGの混合比率に基づいて、対象データが取得された時点における燃料種毎のFOEを計算する。そして、燃料種毎の燃料量とFOEを用いて、FOに換算した全体の燃料消費量を計算する。これにより、LNG船等の船舶の性能把握、ひいては運行計画の作成における精度を向上させることができる。
【0043】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、上記の実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、上記の実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0044】
例えば、上記の実施の形態では、図3の例に示すように、過去の運航状況に係るデータを用いて燃料種毎のFOEを計算するものとしているが、可能な場合には、過去の運航状況に係るデータに代えて、対象の船舶等のプラントの建造時の設計データに基づいて燃料種毎のFOEを計算・推定するものとしてもよい。例えば、過去の実績等からプラントの設計データと燃料種毎のFOEとの関係を予め設定しておき、これを参照することで対象の船舶等のプラントの設計データから燃料種毎のFOEの値を得ることができる。
【0045】
また、対象のLNG船等のプラントが熱量計やガス組成計を備え、燃料種毎の燃料量が計測できる場合には、測定された値に基づいて、所定の計算式に基づいて燃料種毎のFOEをリアルタイムで計算する構成(オンラインFOE)とすることも可能である。また、熱量計やガス組成計での実測値に代えて、所定のシミュレータにより燃料種毎の組成等の情報を推定することができる場合には、推定された値に基づいて燃料種毎のFOEをリアルタイムで計算する構成とすることも可能である。これらの場合も、例えば、過去の実績等から燃料種毎の組成等の情報とFOEとの関係を予め設定しておき、これを参照することで、測定もしくは推定された燃料種毎の組成等の情報から燃料種毎のFOEの値を得ることができる。
【0046】
また、燃料種毎のFOEの計算の際に基準となる、FOの燃料量Fと発生蒸気量Sとの間の比例係数について、図3の例に示すように、過去の運航状況に係るデータに基づいて求めたAを用いるのに代えて、標準条件におけるFO使用時(以下では「標準FO」と記載する場合がある)のデータに基づいて求めた比例係数Bを用いるようにしてもよい。ここで、標準条件とは、FOの組成や比重、燃料温度、ボイラにおけるバーナー稼働数、ボイラ水温や蒸気圧等の各種条件が既定値であることをいう。基準となる比例係数にBを用いることで、現在使用されているFOについて標準FOに対する換算係数FOEを計算することができ、全体の燃料消費量の計算をより高精度に行うことが可能となる。
【0047】
また、燃料種毎のFOEの計算を定期的に行う際に、FOE〜FOEの値の推移のトレンドを観測し、例えば、過去の一定時間範囲での平均値から所定の閾値以上乖離した値となる等、異常な変化の有無を判定することで、燃料の性状変化やプラントの異常等の検知を行う機能を備えるようにしてもよい。
【0048】
上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば、集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリやハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、またはICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0049】
また、上記の各図において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、必ずしも実装上の全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、FO以外の燃料を使用することができるプラントの燃料消費量取得装置、燃料消費量取得方法、および燃料消費量取得プログラムに利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1…燃料消費量取得装置、
11…運航データ取得部、12…換算係数計算部、13…燃料消費量計算部、14…運航条件判定部、15…運航データ、16…FO換算係数
【要約】
プラントの入力エネルギーと出力エネルギーとの関係を換算または計算できるデータと、消費されたBOGにおけるNBOGとFBOGの混合比率に基づいて、その時点における燃料種毎のFOEを計算する燃料消費量取得装置である。基準となるFOに対して、BOG毎にBOGに係る燃料消費量をFOでの燃料消費量に換算する換算係数を、貨物の積載状態に応じて算出してFO換算係数に記録する換算係数計算部と、運航データを取得する運航データ取得部と、直近の運航データから判定された貨物の積載状態と、FOおよびBOG毎の燃料消費量と、FO換算係数に記録されたBOG毎の換算係数とに基づいて、BOG毎の燃料消費量をFOでの燃料消費量に換算して全体の燃料消費量を算出する燃料消費量計算部とを有する。
図1
図2
図3
図4