(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図8は、特許文献5等に開示されているプラグファンを用いた送風機における空気吹出口の風速分布を示す図である。
図8では、縦軸に空気吹出口の幅方向の位置をとり、横軸に流速をとって、空気吹出口から送風対象の空間へ向かう気流の速度を正、送風対象の空間から空気吹出口側へ向かう気流の速度を負として示した。
【0009】
図8に示されるように、プラグファンを用いた送風機では、空気吹出口の周辺部の風速が卓越し、空気吹出口の中央部の風速が負となっている。このような風速のバラツキは、送風対象の空間において高速気流を偏在させ、問題を生じさせる。
【0010】
例えば、対人空調であれば、高速気流は、不快なドラフト感を生じさせることになる。
また、粉体を扱う機械や輪転機のように、気流の影響を受け易い設備の場合、上記高速気流によって不具合を生じることがある。このため、気流の影響を受け易い設備を備えた空間の空調や対人空調に上記プラグファンを用いた送風機を適用することが難しかった。
【0011】
また、温熱環境を制御する場合にも、対象空間に高速気流が生じると、周囲空気の誘引により温熱環境を乱すため、制御性が低下するという問題があった。
【0012】
例えば、データセンターの空調システムは、情報処理機器の仕様に基づく温度や湿度等を所定の範囲とした環境(以下、適切な温熱環境とも称す)を維持することが求められる。
【0013】
しかし、上記のように高速に吹き出した気流が偏在し、この高速気流が情報処理機器を収容したラックの吸込み面に到達すると、ラック吸込み面の前側近傍を高速で流れたり、ラック端部で渦や偏流を生じたりすることで、ラック吸込み面にヒートスポットを生じることがある。ヒートスポットが生じると、情報処理機器を冷却する空気の温度を所定の範囲に維持できなくなり、熱問題を生じる可能性が高まるという問題となる。
【0014】
このため、壁吹出し方式の空調システムにおいて、吹出す空気の風速の最大値を抑えて均一化する方法としては、吹出し口全面を抵抗体で覆う方法が一般的である。吹出し口を抵抗体で覆った場合、最大風速が抑えられ、風速分布の均一化は図れるものの、抵抗体により送風経路の圧損が増大して送風動力が著しく増大するという問題が生じる。
【0015】
例えば、特許文献1(特開平11-166757)のクリーンルームは、ファンフィルタユニッ
トの直下に、風向板を設け、ファンフィルタユニットの下方領域より外側に流れるようにし、ファンフィルタユニットの台数削減を可能にすることを提案している。特許文献1は、風向板だけでなく、フィルタと風向板とで気流の均一化を図るものであり、圧損が大きいという問題がある。
【0016】
特許文献2(特開2011-12942)の換気装置は、波板パンチング板、網材、格子状ルーバーを少なくとも有する層流発生機構を提案している。当該換気装置においても、請求項1に記載されているとおり、パンチング板等の抵抗によって気流の均一化を図る方法であって、圧損が大きいという問題がある。
【0017】
また、特許文献3(特開平5-141701)の一体型空気調和機は、熱交換器をファンの吸込み側に設置し、均一な熱交換と運転時の騒音の低減が提案されている。これは従来技術として、ファンの下流側に熱交換器を設置して熱交換性能が十分得られないことを課題としており、風速の均一化を図るものではない。
【0018】
更に、特許文献4(特開2000-271419)のファンフィルタユニットは、モータや、ター
ボファンを囲むように、パンチング板を有した拡散板が箱状に形成されて取付けられた構成である。特許文献4の構成では、ファンから吹出される気流をほぼ全体に覆ってしまい、圧損が大きい。また、角型の拡散板を用いているので、拡散板の角部付近を通る気流が渦を巻いたり乱れて一層抵抗が大きくなったり吹出し気流のムラが大きくなることが考えられる。
【0019】
そこで本発明は、圧損の増大を抑え、且つ吹出気流の風速分布を均一化する技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するため、本発明の送風装置は、
空調の対象である空調対象室の壁面に設けられ、熱交換器によって温度が調整された空気を空調対象室内へ送風する送風機と、
前記送風機の少なくとも一部を囲繞する筒形状の部材であって、前記筒形状の開口部を前記送風機の前記空調対象室側に位置させ、前記筒形状の側面に前記空気を部分的に通過させる通気孔を有する整流部材と、を備え、
前記整流部材が、前記通気孔を介して前記送風機から前記空調対象室へ送られる空気の一部を通過させ、前記通気孔を通過しなかった前記空気を前記開口部を介して前記空調対象室へ導くことを特徴とする。
【0021】
このように本発明の送風装置は、送風機から送風された空気を整流部材が、通気孔を通過する空気と、通気孔を通過せずに前記開口部から空調対象室へ送られる空気とに分けることにより、空調対象室へ送風される空気の風速分布が均一化される。このとき整流部材の通気孔を通過しなかった空気は、整流部材の開口部を介して空調対象室へ送られるので、殆ど圧損を増大させることが無い。従って本発明の送風装置は、空調対象室へ送風される空気の風速分布の均一化と圧損の抑制を両立できる。
【0022】
また、前記送風装置は、前記送風機がケーシング部内に備えられ、前記整流部材が前記ケーシング部内壁と前記送風機の少なくとも一部との間に設けられた構成としても良い。
【0023】
このようにケーシング部内壁と前記送風機との間に整流部材を設けることで、送風機から送風された空気が、整流部材を通過する空気と整流部材を通過せずに空調対象室へ送られる空気とに分けられるので、整流部材を通過してケーシング部内壁に当たり、このケーシング部内壁に案内されて空調対象室へ送られる空気が抑えられ、空調対象室へ送風される空気の風速分布の均一化が図られる。
【0024】
前記送風機は、遠心ファン又は軸流ファンであっても良い。ここで、遠心ファンは、例えば、プラグファンである。また、軸流ファンは、例えばプロペラファンである。
【0025】
前記送風装置は、前記整流部材において前記通気孔を介して前記空気が通過する前記側面の開口率が40%以上60%未満であっても良い。
【0026】
このように、整流部材の開口率を40%以上60%未満の範囲とすることで、良好に風速分布の均一化が図れることが実験により確認された。なお、これに限らず、風速分布のバラツキの許容度が大きい場合には、当該開口率を30%以上70%未満としても良い。また、風速分布のバラツキの許容度が小さい場合には、当該開口率を45%以上55%未満としても良い。
【0027】
また、上記課題を解決するため、本発明の空調システムは、
熱交換により空気の温度を調整する熱交換器と、
情報処理機器を収容するラックを列状に並べて設置する情報処理機器室を前記空調対象室とし、前記ラックの列の吸気面を対向させて前記ラック列を並設し、対向する前記吸気面の間の領域へ前記熱交換部で調整された前記空気を送風する前記送風装置と、を備える。
【0028】
このように温度調整された空気を空調対象室へ送風する送風装置として前記送風装置を採用することにより、送風する空気の風速分布を均一化し、良好な温熱環境を維持することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、圧損の増大を抑え、且つ吹出気流の風速分布を均一化する技術を提供
できる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。以下の実施の形態の構成は例示であり、本発明は実施の形態の構成に限定されない。
〈実施形態1〉
図1は本実施形態に係る送風装置及びコイル(熱交換器)を備えた単位モジュールを示す図、
図2は
図1に示す線A−Aに沿う断面図、
図3は送風機の分解図である。
【0032】
空調機10は、
図1及び
図2に示されているように、台座となるフレーム12上に組み込まれた複数の単位モジュール16(16a,16b)と、各単位モジュール16の作動を制御する制御回路18とを含む。
【0033】
各単位モジュール16は、ケーシング部20(20a,20d)を備えている。各ケーシング部20は、角筒状の枠体であり、
図2に示すように矩形の開口端を有し、
図1に示すように、空調対象室側の開口端を空気吹出口22−1とし、また機械室側の開口端を空気吸込口22−2としている。各ケーシング部20の内部には、空気吹出口22−1側と空気吸込口22−2側を仕切る仕切板23(23a,23b)が設けられ、仕切板23の開口23−1に機械室側の空気を送風機32(32a,32b)へ吸い込むための吸気口23−2が固設されている。吸気口23−2は、空気の流入側の径を大きく、流出側の径を小さくした所謂ベルマウスである。送風機32は、吸気口23−2の空調対象室側の開口端と近接して配置されている。
図1に示すように、吸気口23−2をベルマウスとすることで、吸気抵抗を減らして、送風機32による送風の効率を向上できることが知られている。なお、吸気口23−2は、ベルマウスに限らず、他の形状であっても良い。仕切板23は、吸気口23−2からの導入空気の逆流を断ち、導入空気は熱交換器30を経て曲がりのない経路で導かれ吸気口23−2で流路を絞られ送風機32の吸込口(中心空洞部74)に至る。
【0034】
送風機32は、
図1〜
図3に示すように、プラグファン7及びモータ34(34a,34b)を有し、プラグファン7がモータ34に直結されて軸支され、モータ34が取付架台28によって仕切板23に固設されている。
【0035】
プラグファン7は、ランナとなる二枚の外円形外枠71と内円形外枠72から構成され、この二枚の内外円形外枠71,72の間には複数のブレード73が設けられ、吸気口23−2に続く中心空洞部74の周りに回転中心から外側に向かうように、ブレード73の複数枚が円周上に等間隔に配置してあり、空気が側面の送風口75から円周方向に放出される。
【0036】
また、送風機32の周囲には、整流部材5(5a,5b)が設けられている。整流部材5は、送風機32の周囲、本実施形態では送風口75の周囲を囲繞する筒形状の部材であって、前記筒形状の開口部51を送風機32の空調対象室側に位置させるように、開口部51と反対側の端部が仕切板23に固設されている。ここでは整流部材5を両端開放の筒状体としているが、整流部材5の仕切板23側は送風機32の吸込口(中心空洞部74)への開口のみを残した閉塞板としてもよい。実施形態1では、整流部材5は、開口部51と反対側の端部が仕切板23に固設され、開口部51側の端部が空気吹出口22−1近傍まで延出している。その結果、整流部材5は、送風機32全体、換言すると、ブレード73を含むプラグファン7、及びモータ7の周囲を囲繞するように設けられている。なお、整流部材5は、送風機32の少なくとも一部を囲繞するように設けられていればよい。換言すると、整流部材5は、送風機から送られる空気のうちケーシング部20の内壁側へ向かう空気が通過する箇所に設けられていればよい。例えば、整流部材5を短くし、整流部材5は、プラグファン7(ブレード73)のみ、更には、プラグファン7の一部のみを囲繞するように設けてもよい。また、実施形態1では、整流部材5が仕切板23に固設されているが、整流部材5は、例えばケーシング部20の内壁に固設してもよい。
【0037】
図22(A)は、本実施形態の整流部材5を示す図であり、
図22(B)は、整流部材5の側面52を示す部分拡大図である。整流部材5は、
図22(A)に示すように筒形状に形成されたパンチング板であり、筒形状の側面52に空気を部分的に通過させるため複数の通気孔5−2を有している。
図22(B)では、円形の白抜き部分が通気孔5−2を示し、網掛け部分が骨部5−1を示している。なお、
図22では、一部の通気孔5−2にのみ符号を付し、その他の通気孔5−2の符号を省略したが、同一形状の通気孔5−2が側面52の全域にわたり、ほぼ均一に設けられている。このため、送風機から吹出された空気は、一部が通気孔5−2を通過し、骨部5−1に遮られた一部が開口部51を通って空調対象室側へ送られる。
【0038】
また、整流部材5は、パンチング板に限らず、メッシュやネット、格子等でも良い。更に、整流部材5は、パンチング板やメッシュ等のように通気孔5−1として明確な開口を有した部材に限らず、不織布のように微細な孔を介して空気を通過させる部材であっても良い。整流部材5は、金属やプラスチック等、耐久性やメンテナンス性、形成の容易さ等に応じて、任意の材料を用いることができる。なお、合成樹脂製の網や不織布などを用いる場合は、骨組みに網や不織布を固定する構成としても良い。
【0039】
筒形状とした整流部材5の開口部51の直径5φは、送風機32から吹き出される空気の流速やケーシング部20の大きさ等に応じ、空調対象室側での流速の均一化が効果的に図られる径に設定される。例えば本実施形態の整流部材5は、直径5φを800mmとしている。
【0040】
また、ケーシング部20の空気吸込口22−2にはコイル30(30a,30b)が設けられている。
【0041】
なお、
図1〜
図3において、ケーシング部20、仕切板23、送風機32、整流部材5等からなる単位モジュール16のコイル30以外の部分が本実施形態における送風装置である。
【0042】
図1〜
図3の例では、2段に配列された2つの単位モジュール16(16a,16b)が用いられている。単位モジュール16の数は、2つに限らず、1つであっても、3つ以上の複数であっても良く、空調対象室の広さや収容する情報処理装置の数等に応じて任意に設定できる。
【0043】
各単位モジュール16(16a,16b)のモータ34(34a,34b)は、制御回路18により、個別に回転速度及び作動のオン、オフが制御可能であり、対応する送風機32を作動する。各送風機32は、その作動により、コイル30(30a,30b)を経た空気を空気吸込口22−2から吸入する。この吸入空気は、プラグファン7の周方向に吹き出され、整流部材5を介して空調対象室側へ送風される。したがって、制御回路18は、各モータ34(34a,34b)の作動制御により、各空気吹出口22−1から空調対象室へ吹き出される空気の流量を個別に制御可能である。
【0044】
各コイル30(30a,30b)には、該コイルに熱媒体を循環するための入口及び出口が設けられている。
図4には、各コイル30(30a,30b)と、熱源38との間で熱媒体を循環させるための配管系40の一例が示されている。熱源38は例えば冷凍機からなり、該冷凍機から熱媒体としての冷水を供給するための冷水供給管40−1及び冷水を熱源38に戻すための冷水帰還管40−2が接続されている。
【0045】
冷水供給管40−1は冷水を各コイル30(30a,30b)に分流するための2つの分岐支管42−1を有し、当該分岐支管42−1を介して各コイル30の前記入口と接続されている。また冷水帰還管40−2は各コイル30(30a,30b)からの冷水を集合するための2つの分岐支管42−2を有し、冷水帰還管40−2を介してコイル30の前記出口と接続されている。
【0046】
分岐支管42−1には制御弁46が設けられ、当該制御弁46を開くことにより、熱源38からの熱媒体は、冷水供給管40−1、各分岐支管42−1を経て前記入口から各コイル30(30a,30b)に案内される。さらに、前記熱媒体は、各コイル30(30a,30b)内をその前記出口に向けて巡り、該出口から各分岐支管42−2、冷水帰還管40−2を経て熱源38に戻る。
【0047】
このように、前記熱媒体は、熱源38とコイル30(30a,30b)との間を循環する。各コイル30(30a,30b)の下方には、必要に応じてドレンパン(図示せず)を配置することができる。
【0048】
制御回路18は、図示しないが各空気吹出口22−1に設けられた吹出口温度センサからの温度信号を受け、空気吹出口22−1から吹き出される空気の温度(給気温度)に基づいて制御弁46の開度制御を行う。これにより各コイル30(30a,30b)を巡る前記熱媒体の流量は、各空気吹出口22−1から吹き出される空気温度によって決められる。
【0049】
また、制御回路18は、吹出口温度センサからの信号を受け、該信号の値に応じて各単位モジュール16のモータ34(34a,34b)の作動を制御する。
【0050】
図5及び
図6には、
図1ないし
図4に示した空調機10を用いた空調システムの具体的な使用例が示されている。本実施形態の空調システムは、冷気の供給を側壁から行い、内部天井で仕切られた天井裏を還気経路とし、排熱を含む還気を空調機10に戻す方式である。室50内は、サンドイッチパネルなどの建材からなる隔壁59により、その床50a上がサーバ室(情報処理機器室)54−1とその背後に区画された機械室54−2とに区画されている。なお、隔壁59は、空間を区画するものを含んで指し、躯体、建築構造体を意味しない。本実施形態の隔壁59は、サンドイッチパネル等の建材のみならず、不燃性や難燃性で自己消火性のあるビニール素材の間仕切りや天井壁であっても良い。
【0051】
また、本実施形態において、送風機32を含む送風装置は、壁面に設けられている。ここで「壁面に設けられ」とは、送風装置が必ずしも躯体としての壁面と面一であることを意味しない。例えば、コンクリート壁に沿って間仕切りを空調対象室内側に建て込み、その間仕切りを室内側に向けて開口させ、この開口に前記送風装置を設けても良い。また竪ダクトやチャンバのような鉄板体を同様に設置し、この竪ダクトやチャンバの一側面に送風装置を設けて、この送風装置の背面となる竪ダクト内やチャンバ内の通気経路を還気路、例えば天井内チャンバから還気する場合は天井裏空間、床下チャンバから還気する場合は床下空間まで連通させ、専用の空調機械室を省略することもできる。これらの場合、コイル(熱交換器)30は竪ダクト内やチャンバ内に斜めに設置したり、天井裏空間又は床下空間でのダクト又はチャンバへの空気取入口かその近傍に設けることができる。この場合、送風装置を取り付けた竪ダクトやチャンバの一側面が「壁面」となる。
【0052】
本実施形態では、サーバ室54−1が、前記空調対象室であり、サーバ等の温度環境の制御が必要な情報処理機器を収容するラックを列状に並べて設置している。また、
図5に示すように、室50の内部天井50bにより仕切られた天井裏空間は、サーバ室54−1の内部天井50bに配置された還気口56aからの吸入された空気を還気として機械室54−2に設置された空調機10へ戻すための還気経路56として機能する。
【0053】
サーバ室54−1には、
図6に示されているように、それぞれに情報処理機器(不図示)を多段に収納するラック58aが整列して配置されている。図示の例では、サーバ室54−1の長手方向に沿ってラック58aの10台が列をなしこの単位が対向して一対のラック列58を構成するように配列されている。このサーバ室54−1では、各ラック58aへ冷気が効率的に供給されるよう、一つのラック列を構成する各ラック58aの吸気面と排気面の向きが揃えられている。そして、対峙する2つのラック列が、共に吸気面あるいは排気面で向き合うように配置される。別の観点からは、ラック列は1つおきに吸気面・排気面の向きが同じ、隣のラック列は吸気面・排気面の向き逆にして設置されているともいえる。この配列により、各ラック列の間には、冷気が流れる通路と暖気が流れる通路
とが交互に形成されることになる。以下、吸気面が向かい合う一対のラック列に囲まれた、冷気が流れる通路(冷気領域)をコールドアイル60−2といい、排気面が向かい合う一対のラック列によって囲まれた、暖気が流れる通路をホットアイル60−1という。なお、本実施形態では、サーバ室54−1の両側壁54cとラック列の吸気面が向き合う領域もコールドアイル60−2としている。
【0054】
排気面が向かい合うラック列58の排気面側各列前端と後端の間にはそれぞれ仕切り板(後述する「遮蔽板」)が渡され、ホットアイル60−1を隔てている。ラック排気面と前記仕切り板とで形成されるホットアイル60−1は、境界面に沿って囲繞するようにラック58aの上面から天井面にかけて遮蔽板が立設され、冷気が上部からホットアイル60−1に侵入することを防いでいる。ホットアイル60−1上方の内部天井には還気口56aとしての開口が設けられ、ホットアイル60−1と還気通路56とが連通している。つまりホットアイル60−1は、還気口56aのみが開放した準閉鎖空間である。また図示の例では天井裏を還気通路としているが、これに替えまたはこれに加えて床下空間を還気通路とすることができる。また、必要に応じて、これら還気経路の少なくとも一部を系外への排気通路とすることもできる。本実施形態において、コールドアイル60−2は、ホットアイル60−1と比べて広くしている。なお、図示の例では、図面の簡素化のために、各側壁54cに設けられる出入り口及びその扉が省略されている。
【0055】
機械室54−2は、還気通路56と室上部で連通し、この機械室54−2には、空調機10が、隔壁59に設けられた送風口59−1(
図5)を経てサーバ室54−1へ送風可能に設置されている。すなわち、ケーシング部20の先端に隔壁59の開口端が接し、接続部の周囲がコーキングされている。
【0056】
冷水供給管40−1、冷水帰還管40−2を経て各単位モジュール16のコイル30を循環する冷媒は、該コイル30で、送風機32の作動よって生じる前記空気流と熱交換する。この熱交換によって冷却された空気が送風口59−1からサーバ室54−1へ吹き出される。この冷却された空気がコールドアイル60−2を介してラック58aの前記吸込面から吸い込まれ、該ラック内の前記電子機器を冷却する。そして、ラック58a内の前記電子機器によって暖められた空気はホットアイル60−1へ排出される。
【0057】
また、ホットアイル60−1を流れる空気流は、
図5に示されているように、吸込口56aから還気経路56を経て空調機10が配置された機械室54−2に還流され、再び空気吸込口22−2から空調機10に戻され、該空調機により冷却された後、サーバ室54−1へ放出される。この空気循環により、サーバ室54−1の空調が適正に維持される。
【0058】
このように本実施形態では、冷却された空気が流れるコールドアイル60−2と排気が流れるホットアイル60−1とが隔絶されており、効率良く電子機器の冷却を行うことができる。しかし、流速の速い気流がラック列58の吸気面付近を流れたり、流速の速い気流がラック列58の角で渦を生じさせたりすると、ラック内部よりも負圧の部分ができて、ラック内の温かい空気が吸い出され、ホットスポットが生じてしまうことがある。このため本実施形態では、整流部材5を設けて、サーバ室54−1に吹き出される空気の風速分布を均一化することにより、ホットスポットが形成されるのを防止している。ここで、
図7と
図8の長い線(ファン軸から離れる側の気流)がラック吸込み面に沿う配置が上の問題の典型であるが、問題はこの配置に限らない。すなわち気流の速い部位を仮にコールドアイル60−2の中央に位置するように空気吹出口22−1を配置しても、高速気流は周囲空気を誘引するため、ラック58aの吸込面の吸引力より誘引力が勝り、ラック吸込面で負圧になる現象が引き起こされうる。
【0059】
図7は、本実施形態1の空調システムにおける空気吹出口22−1のフェース面(空調
対象室との境界面)の風速分布を示したものである。
図8は、本実施形態1の空調システ
ムから整流部材5を除いた構成とした比較例における吹出口の風速分布を示す図である。
図7,
図8では、縦軸に吹出口22−1の幅方向の位置をとり、横軸に流速をとって、吹出口22−1からサーバ室54−1方向へ向かう気流の速度を正、サーバ室54−2側から吹出口22−1側へ向かう気流の速度を負として示した。なお、比較に際し、プラグファン7の直径を500mm、整流部材5の直径を800mmとし、プラグファン7と整流部材5を同心に配置した。また、整流部材5の開口率は50%とした。ここで、開口率は側面52の面積に対する通気口5−2の面積であり、メッシュであれば目空き率、不織布であれば透過率に相当する。すなわち基材の面積に対する通気孔それぞれの面積の総計の割合が50%以上であると、本発明をより好適に実施できる。例えば、
図22(B)のように円形の通気孔5−2を千鳥型に配置した場合の開口率は、次式によって求める。
【0060】
例えば、通気孔5−2の配置が角千鳥の場合、
開口率=(157×D
2)/P
2とする。
但し、Dは通気孔5−2の直径、Pは通気孔5−2の間隔(ピッチ)を示す。
なお、通気孔5−2の形状や配置は、
図22(B)の例に限らず、任意に設定できる。例えば、同様のパンチング開口であっても、通気孔5−2の配置が60°千鳥の場合は、上記式のパラメータ「157」が「90.6」となる。
【0061】
図8に示すように、比較例では、プラグファン7の周方向に吹き出された空気が、ケーシング部内壁に沿ってサーバ室54−1側へ吹き出す際、空気吹出口22−1の周辺部に卓越して流速の速い気流が生じてしまう。また、プラグファン7の周方向に吹き出される空気に巻き込まれるように、空気吹出口22−1の中央付近の空気がサーバ室54−2側から空気吹出口22−1側へ流れて負の速度をとることにより、風速分布が非常に不均一となった。
【0062】
これに対し、本実施形態1では、
図7に示すように、空気吹出口22−1の周辺部における最大風速が抑えられたと共に、空気吹出口22−1の中央付近の逆流が抑えられて、風速分布のバラツキが改善されている。
【0063】
このように本実施形態1の構成では、ケーシング部20の内壁と前記送風機32の少なくとも一部との間に整流部材5を設けることで、送風機32から送風された空気が、整流部材5を通過する空気と整流部材5を通過せずにサーバ室54−1側へ送られる空気とに分けられるので、整流部材5を通過してケーシング部20の内壁に当たる空気が減り、このケーシング部20の内壁に案内されて空調対象室へ送られる空気の最大風速が抑えられる。また、整流部材5を通過せずに、サーバ室54−1側へ送られる空気の流れが形成されるので、空気吹出口22−1の中央付近でサーバ室54−2側から空気吹出口22−1側への逆流が抑えられた。
【0064】
図9は、
図7と
図8の差である改善効果のイメージを示す図である。
図9において、ハッチングで示したように、本実施形態1の構成によれば、比較例と比べて、空気吹出口22−1の周辺部における最大風速が低下すると共に、空気吹出口22−1の中央付近での逆流が抑えられ、風速分布の均一化が図れる。
【0065】
図10は、本実施形態1の構成においてCFD(Computational Fluid Dynamics)解析により求めた風速分布を示す正面図、
図11は、上記比較例においてCFD解析により求めた風速分布を示す正面図である。
【0066】
また、
図12は、本実施形態1の構成においてCFD解析により求めた風速分布を示す平面図、
図13は、上記比較例においてCFD解析により求めた風速分布を示す平面図で
ある。
【0067】
図10−
図13では、風速の解析結果を線図で示すため、低い風速から高い風速にかけて、9段階のハッチングL1〜L9で示した。L1側のハッチングの箇所は風速が低く、L9側のハッチングの箇所は風速が高いことを示している。
図10−
図13のCFD解析においても本実施形態1の構成によれば、比較例と比べて、空気吹出口22−1の周辺部における最大風速が低下すると共に、空気吹出口22−1の中央付近での逆流が抑えられ、風速分布の均一化が図れることが確認できた。
【0068】
図14は、前記比較例と本実施形態1の構成とにおけるラック吸込面の熱画像を示す図である。
図14(A)は比較例においてコールドアイル中央付近から空気吹出口側を見た場合のラック吸込面の熱画像を示す図、
図14(B)は比較例においてコールドアイル中央付近から空気吹出口と反対側の方向を見た場合のラック吸込面の熱画像を示す図である。また、
図14(C)は本実施形態の構成においてコールドアイル中央付近から空気吹出口側を見た場合のラック吸込面の熱画像を示す図、
図14(D)は本実施形態の構成においてコールドアイル中央付近から空気吹出口と反対側の方向を見た場合のラック吸込面の熱画像を示す図である。
図14では、熱画像を線図で示すため、低温から高温にかけて、8段階のハッチングV1〜V8で示した。V1側のハッチングの箇所は温度が低く、V8側のハッチングの箇所は温度が高いことを示している。
【0069】
図14(A),
図14(B)に示す比較例では、空気吹出口22−1側及びその反対側において、ヒートスポット91が多く存在するのに対し、
図14(C),
図14(D)に示す本実施形態1の構成では、比較例と比べ、空気吹出口22−1側及びその反対側において、ヒートスポット91が縮小し、温度ムラが小さくなっている。
【0070】
このように本実施形態1の構成によりサーバ室54−1へ送風する空気の風速分布を均一化することで、適切な温熱環境が確保されることが確認できた。流速を抑えて気流分布の均一化を図るために抵抗体を気流を遮るように設置することは公知だが、本発明では気流の指向すべき進路を遮らずに風向成分を分散させて省動力での気流供給を達成している。なお、遠心ファンや軸流ファンは吐出しようとする方向と直交方向、換言すれば軸からブレードの延びる方向に流れの成分が分散しがちである。本実施形態のケーシング部20はこれを規制する機能を有するが、これを省略した場合に整流部材5は前記分散の抑制にも寄与する。
【0071】
また、本実施形態1では、整流部材5が、送風機32のサーバ室54−1側に開口部を有し、従来のように空気吹出口22−1の全面を覆う構成ではなく、整流部材5を通過しなかった空気を開口部を介してサーバ室54−1側へ導く構成であるので、このとき整流部材の通気孔を通過しなかった空気は、殆ど圧損を増大させることが無い。
【0072】
従って本実施形態1によれば、発明の送風装置は、空調対象室へ送風される空気の風速分布の均一化と圧損の抑制を両立できる。
【0073】
なお、本実施形態1では、整流部材5において、円筒形状の側面52をなす面の開口率、即ち側面52の面積に占める通気孔5−2の面積の割合を50%としたが、当該開口率を40%以上60%未満の範囲とすることで、良好に風速分布の均一化が図れることが実験により確認された。これに限らず風速分布のバラツキの許容度が大きい場合には、当該開口率を30%以上70%未満としても良い。また、風速分布のバラツキの許容度が小さい場合には、当該開口率を45%以上55%未満としても良い。
【0074】
〈変形例〉
前記実施形態1では、円筒形の整流部材5を設けた例を示したが、これに限らず、整流部材5は、送風機32の少なくとも一部を囲繞する筒形状、例えば、送風機から送られる空気のうちケーシング部20の内壁側へ向かう空気が通過する箇所を囲む形状であれば良い。
【0075】
例えば、整流部材5において、筒形状の側面をテーパー状とし、開口側端部の径を他端部と比べて小さくしても良い。
図15は、この開口側の径を小さくしたテーパー状の整流部材5の例を示す図である。
【0076】
また、
図15とは逆に、整流部材5において、筒形状の側面をテーパー状とし、開口側端部の径を他端部と比べて大きくしても良い。
図16は、この開口側の径を大きくしたテーパー状の整流部材5の例を示す図である。
【0077】
例えば
図16に示す整流部材5を開口率50%のパンチング板で形成し、仕切板23側の径を800mm、開口部51の直径(
図22の5φに相当する径)を900mmとした場合に最大風速が抑えられ、温熱環境においても良好な結果が得られた。また、整流部材5を開口率40%のパンチング板で形成した場合、仕切板23側の径を800mm、開口部51の直径(
図22の5φに相当する径)を950mmとした場合に最大風速が抑えられ、温熱環境においても良好な結果が得られた。
【0078】
更に、整流部材5において、筒形状の側面を湾曲させて椀状とし、開口側端部の径を他端部と比べて小さくしても良い。
図17は、この開口側の径を小さくした椀状の整流部材5の例を示す図である。
【0079】
また、
図17とは逆に、整流部材5において、筒形状の側面を湾曲させて椀状とし、開口側端部の径を他端部と比べて大きくしても良い。
図18は、この開口側の径を大きくした椀状の整流部材5の例を示す図である。このように側面52を湾曲させた整流部材5は、側面52に導かれる空気の流路がなめらかであるために風向が変わるための圧力損失の低減が図れ、省エネルギーの観点から優れている。
【0080】
また、整流部材5は、複数設けても良い。
図19は、径の異なる円筒状の整流部材5を同心円状に複数設けた例を示す図である。整流部材5を複数設ける場合、各整流部材5の開口率を異ならせても良い。例えば、送風機32に近い整流部材5の開口率を送風機32から遠い整流部材5と比べて大きく設定しても良い。
【0081】
なお、整流部材5を同心円状に複数設ける場合にも、
図15〜
図18と同様に円筒以外の整流部材5を複数設けても良い。
【0082】
〈実施形態2〉
前記実施形態1では、送風機32にプラグファン7を用いたが、本実施形態2では、プロペラファンを用いた構成が異なっている。なお、その他の構成は同じであるため、同一の要素には同符号を付す等して再度の説明を省略している。
【0083】
図20は、本実施形態2に係る送風装置の構成を示す図である。
図20に示すように、本実施形態2の送風機32は、プロペラファン70及びモータ34を有し、プロペラファン70がモータ34に直結されて軸支され、モータ34が取付架台28によって仕切板23に固設されている。プロペラファン70は、ハブ76と、ハブ76を中心として放射状に設けられた複数のブレード77を備えている。
【0084】
モータ34の駆動により、プロペラファン70が回転すると、コイル30を経た空気を
空気吸込口22−2から吸入する。この吸入空気は、プロペラファン70の軸方向に吹き出され、サーバ室54−1側へ送風される。なお、プロペラファンにおいても、静圧が高い場合、回転軸と直交する方向にも気流が広がるため、整流部材5を設けないと、空気吹出口22−1周辺部で卓越した風速の気流が生じることがある。そこで、送風機32の少なくとも一部を囲繞するように整流部材5を設けたことにより、サーバ室54−1へ送風する空気の風速分布を改善している。実施形態2では、整流部材5は、開口部51と反対側の端部が仕切板23に固設され、開口部51側の端部が空気吹出口22−1近傍まで延出している。その結果、整流部材5は、送風機32全体、換言すると、複数のブレード77を含むプロペラファン70及びモータ34の周囲を囲繞するように設けられている。なお、整流部材5は、送風機32の少なくとも一部を囲繞するように設けられていればよい。換言すると、整流部材5は、送風機から送られる空気のうちケーシング部20の内壁側へ向かう空気が通過する箇所に設けられていればよい。例えば、整流部材5を短くし、整流部材5は、プロペラファン70(ブレード77)のみ、更には、プロペラファン70(ブレード77)の一部のみを囲繞するように設けてもよい。また、プロペラファン70の回転軸と直交する方向を遠心方向とし、空調対象室側を前方とし、プロペラファン70からケーシング部20の内壁側へ向かう空気のうち、プロペラファン70(ブレード77)の斜め前方へ向かう空気が卓越した流速の気流となる場合には、プロペラファン70(ブレード77)の遠心方向でなく、ブレード77の斜め前方に整流部材5を配置しても良い。この場合、整流部材5は、例えばケーシング部20の内壁に固設することができる。
【0085】
図21は、本実施形態2の構成と、整流部材5を除いた構成とを比較した場合の改善効果を示す図である。
図21において、ハッチングで示したように、本実施形態2の構成によれば、整流部材5を設けない場合と比べて、空気吹出口22−1の周辺部における最大風速が低下すると共に、空気吹出口22−1の中央付近での流速が改善され、風速分布の均一化が図れる。
【0086】
以上のように本実施形態2の構成によれば、送風機にプロペラファンを用いた場合にも、圧損の増大を抑え、且つ吹出気流の風速分布を均一化することができる。