(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は係る事実を考慮し、耐火木質部材の隅角部の耐火性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1態様の発明は、矩形断面を有し荷重を支持する木製の心材と、前記心材を取り囲む燃え止まり層と、前記燃え止まり層を取り囲む木製の燃え代層と、を備え、交わる一方の前記燃え止まり層は前記燃え代層内へ延びている耐火木質部材である。
【0008】
第1態様の発明では、火災時に火炎が燃え代層に着火し燃え代層が燃焼する。そして、燃焼した燃え代層は炭化する。これにより、耐火木質部材の外部から心材への熱伝達を炭化した燃え代層が抑制し、燃え止まり層が吸熱するので、火災時、又は火災時と火災終了後における心材の温度上昇を抑制することができる。よって、火災時の所定時間の間、又は火災時と火災終了時以降において、心材によって荷重を支持させることができる。
【0009】
また、耐火木質部材の隅角部が、交わる2つの外周面(燃え代層の外面)から加熱された場合に、燃え代層内へ延びている燃え止まり層の部分がこの熱を吸収して、耐火木質部材の隅角部に位置する燃え代層の温度上昇を抑制する。これにより、耐火木質部材の隅角部の燃え代層が、他の部分の燃え代層よりも早く燃焼してしまったり、また、耐火木質部材の隅角部の燃え代層が燃焼することにより形成される炭化層の厚さが、他の部分の燃え代層が燃焼することにより形成される炭化層の厚さよりも薄くなってしまったりするのを防ぐことができ、心材の隅角部の温度を燃焼温度よりも低い温度に保つことができる。すなわち、耐火木質部材の隅角部の耐火性を向上させることができる。
【0010】
第2態様の発明は、第1態様の耐火木質部材において、前記燃え止まり層は、不燃木材によって形成されている。
【0011】
第2態様の発明では、木材から燃え止まり層を形成することができる。
【0012】
第3態様の発明は、第1又は第2態様の耐火木質部材の製造方法において、前記燃え代層に前記燃え止まり層を取り付けて外層を形成する工程と、前記心材に前記外層を取り付ける工程と、を有する。
【0013】
第3態様の発明では、2つの工程(燃え代層に燃え止まり層を取り付ける工程と、心材に外層を取り付ける工程)で耐火木質部材を製造することができるので、耐火木質部材の製造性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は上記構成としたので、耐火木質部材の隅角部の耐火性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る柱部材を示す平面断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る柱部材の製造方法を示す平面断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る柱部材と比較する柱部材を示す平面断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る柱部材と比較する柱部材の製造方法を示す平面断面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る柱部材を示す平面断面図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る柱部材の製造方法を示す平面断面図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る柱部材のバリエーションを示す平面断面図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る燃え止まり層のバリエーションを示す平面断面図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る燃え止まり層のバリエーションを示す平面断面図である。
【
図10】本発明の実施形態に係る柱部材のバリエーションを示す平面断面図である。
【
図11】本発明の実施形態に係る梁部材を示す正面断面図である。
【
図12】本発明の実施形態に係る梁部材を示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。まず、本発明の実施形態に係る耐火木質部材について説明する。
【0017】
図1の平面断面図に示すように、本実施形態に係る耐火木質部材としての柱部材10は、略正方形の矩形断面を有し荷重を支持する木製の心材12と、心材12を取り囲む燃え止まり層14と、燃え止まり層14を取り囲む木製の燃え代層16と、を備えている。燃え止まり層14は、心材12の四方を覆うように配置された燃え止まり層14A、14B、14C、14Dを有して構成され、燃え代層16は、燃え止まり層14A、14B、14C、14Dを覆うように配置された燃え代層16A、16B、16C、16Dを有して構成されている。
【0018】
燃え止まり層14Aと燃え止まり層14B、燃え止まり層14Bと燃え止まり層14C、燃え止まり層14Cと燃え止まり層14D、及び燃え止まり層14Dと燃え止まり層14Aは、心材12の隅角部34付近で略直角に交わっている。
【0019】
また、燃え代層16Aの外面18Aを正面視したときに、交わる一方の燃え止まり層14Aの端部20は、交わる他方の燃え止まり層14Dの外面28Dよりも外側へ突出し、交わる一方の燃え止まり層14Aの端部22は、交わる他方の燃え止まり層14Bの外面28Bよりも外側へ突出している。さらに、燃え代層16Cの外面18Cを正面視したときに、交わる一方の燃え止まり層14Cの端部24は、交わる他方の燃え止まり層14Bの外面28Bよりも外側へ突出し、交わる一方の燃え止まり層14Cの端部26は、交わる他方の燃え止まり層14Dの外面28Dよりも外側へ突出している。すなわち、交わる一方の燃え止まり層(
図1の例では、燃え止まり層14A、14C)は、燃え代層16内へ延びている。
【0020】
燃え止まり層14A、14B、14C、14Dは、単板積層材に難燃薬剤を含浸して形成した一枚ものの不燃木材ボードによって構成されている。単板積層材は、丸太を薄く剥いた木の板(単板)を積層接着して形成した板材である。
【0021】
柱部材10を製造する方法の一例は、まず、
図2(a)の平面断面図に示すように、燃え代層16B、16Dに、燃え代層16B、16Dと平面形状が等しい燃え止まり層14B、14Dを接着剤等により取り付けて一体化し、外層30B、30Dを形成する(第1工程)。
【0022】
次に、心材12に外層30B、30Dを接着剤等により取り付けて一体化し、中間部材32を形成する(第2工程)。
【0023】
次に、
図2(b)の平面断面図に示すように、燃え代層16A、16Cに、燃え代層16A、16Cと平面形状が等しい燃え止まり層14A、14Cを接着剤等により取り付けて一体化し、外層30A、30Cを形成する(第3工程)。
【0024】
次に、中間部材32(心材12)に外層30A、30Cを接着剤等により取り付けて一体化する。これによって、
図2(c)に示すように、柱部材10が形成される(第4工程)。
【0025】
次に、本発明の実施形態に係る耐火木質部材の作用と効果について説明する。
【0026】
図1に示すように、本実施形態の柱部材10では、火災時に火炎が燃え代層16A、16B、16C、16Dに着火し燃え代層16A、16B、16C、16Dが燃焼する。そして、燃焼した燃え代層16A、16B、16C、16Dは炭化する。これにより、柱部材10の外部から心材12への熱伝達を炭化した燃え代層16A、16B、16C、16Dが抑制し、燃え止まり層14A、14B、14C、14Dが吸熱するので、火災時、又は火災時と火災終了後における心材12の温度上昇を抑制することができる。よって、火災時の所定時間の間、又は火災時と火災終了後において、心材12によって荷重を支持させることができる。
【0027】
また、
図3の平面断面図に示す柱部材36ように、略正方形の矩形断面を有し荷重を支持する木製の心材38と、心材38を取り囲む燃え止まり層40と、燃え止まり層40を取り囲む木製の燃え代層42と、を備える木質部材の場合、火災時において、柱部材36の隅角部44は直交する2つの外周面から加熱されるので、隅角部44の燃え代層42は、他の部分の燃え代層42よりも早く燃焼してしまう。
【0028】
また、
図3(b)の平面断面図に示すように、隅角部44の燃え代層42が燃焼することにより形成される炭化層46の厚さは、他の部分の燃え代層42が燃焼することにより形成される炭化層46の厚さよりも薄くなってしまう。これにより、心材38の隅角部48の温度が高くなって燃焼温度に達してしまうことが懸念される。すなわち、柱部材36の隅角部44が耐火性の弱点になってしまう。
【0029】
これに対して、本実施形態の柱部材10では、火災時に、柱部材10の隅角部50が、略直角に交わる2つの外周面(燃え代層16A、16B、16C、16Dの外面18A、18B、18C、18D)から加熱された場合に、燃え止まり層14A、14Cの端部20、22、24、26がこの熱を吸収して、柱部材10の隅角部50に位置する燃え代層16A、16B、16C、16Dの温度上昇を抑制する。これにより、柱部材10の隅角部50に位置する燃え代層16A、16B、16C、16Dが、他の部分の燃え代層16A、16B、16C、16Dよりも早く燃焼してしまったり、また、柱部材10の隅角部50の燃え代層16A、16B、16C、16Dが燃焼することにより形成される炭化層の厚さが、他の部分の燃え代層16A、16B、16C、16Dが燃焼することにより形成される炭化層の厚さよりも薄くなってしまったりするのを防ぐことができ、心材12の隅角部34の温度を燃焼温度よりも低い温度に保つことができる。すなわち、柱部材10の隅角部50の耐火性を向上させることができる。
【0030】
さらに、本実施形態の柱部材10では、燃え止まり層14A、14B、14C、14Dを不燃木材によって形成することにより、燃え止まり層14A、14B、14C、14Dを木材から形成することができる。
【0031】
また、
図4(c)の平面断面図に示す柱部材52のように、略正方形の矩形断面を有し荷重を支持する木製の心材54と、心材54を取り囲む燃え止まり層56A、56B、56C、56Dと、燃え止まり層56A、56B、56C、56Dを取り囲む木製の燃え代層58A、58B、58C、58Dと、柱部材52の隅角部60に配置された燃え止まり部材62とを有して構成される木質部材の場合、火災時において、柱部材52の隅角部60が、略直角に交わる2つの外周面(燃え代層58A、58B、58C、58Dの外面)から加熱された場合に、燃止まり部材62がこの熱を吸収して、柱部材52の隅角部60に位置する燃え代層58A、58B、58C、58Dの温度上昇を抑制することができる。
【0032】
柱部材52を製造する方法は、まず、
図4(a)の平面断面図に示すように、燃え代層58B、58Dに、燃え代層58B、58Dと平面形状が等しい燃え止まり層56B、56Dを接着剤等により取り付けて一体化し、外層66B、66Dを形成する。
【0033】
次に、心材54に外層66B、66Dを接着剤等により取り付けて一体化し、中間部材68を形成する。
【0034】
次に、
図4(b)の平面断面図に示すように、外燃え代層70A、70Cに、内燃え代層72A、72C、燃え止まり部材62、及び燃え代部材74を接着剤等により取り付けて一体化し、燃え代層58A、58Cを形成する。
【0035】
次に、燃え代層58A、58Cに、燃え止まり層56A、56C、及び燃え代部材76を接着剤等により取り付けて一体化し、外層66A、66Cを形成する。
【0036】
次に、中間部材68(心材54)に外層66A、66Cを接着剤等により取り付けて一体化する。これによって、
図4(c)に示すように、柱部材52が形成される。
【0037】
しかし、柱部材52は、
図4(c)に示すように、構造断面形状が複雑なので、
図4(b)に示すように、柱部材52を構成するために接合して一体化する部材の数が多くなり、製造に多くの手間が掛かってしまう。
【0038】
これに対して、本実施形態の柱部材10では、構造断面形状が簡単なので、柱部材10を構成するために接合して一体化する部材の数を少なくすることができる。すなわち、部材同士を接合する工程の数を少なくすることができるので、柱部材10の製造性を向上させることができる。
【0039】
また、
図4(b)に示すように、柱部材52の製造方法では、外層66A、66Cを形成する際に、2つの工程(外燃え代層70A、70Cに、内燃え代層72A、72C、燃え止まり部材62、及び燃え代部材74を取り付ける工程と、燃え代層58A、58Cに、燃え止まり層56A、56C、及び燃え代部材76を取り付ける工程)が必要になる。これに対して、本実施形態の柱部材10では、
図2(b)に示すように、1つの工程(燃え代層16A、16Cに、燃え止まり層14A、14Cを取り付ける工程)によって外層30A、30Cを形成することができるので、柱部材10の製造性を向上させることができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明した。
【0041】
なお、本実施形態では、
図1に示すように、燃え止まり層14A、14Cの両端部20、22、24、26を燃え代層16内へ延びているように、燃え止まり層14A、14B、14C、14Dを配置した例を示したが、燃え止まり層14A、14B、14C、14Dは、交わる一方の燃え止まり層14A、14B、14C、14Dが燃え代層16内へ延びているように配置されていればよい。例えば、
図5の平面断面図に示す柱部材78のように、燃え止まり層14A、14B、14C、14Dの片方の端部80、82、84、86が燃え代層16内へ延びているように、燃え止まり層14A、14B、14C、14Dを配置してもよい。
【0042】
柱部材78の製造方法の一例は、
図6の平面断面図に示すように、まず、燃え代層16A、16B、16C、16Dに、燃え代層16A、16B、16C、16Dと平面形状が等しい燃え止まり層14A、14B、14C、14Dを接着剤等により取り付けて一体化し、外層88A、88B、88C、88Dを形成する。
【0043】
次に、心材12に外層88A、88B、88C、88Dを接着剤等により取り付けて一体化する。これによって柱部材78が形成される。
【0044】
また、本実施形態では、
図1に示すように、燃え止まり層14A、14Cの端面が柱部材10の外面へ達している例を示したが、交わる一方の燃え止まり層14A、14B、14C、14Dの端面が燃え代層16中に位置していてもよい。例えば、
図7の平断面図に示す柱部材94のように、燃え止まり層14A、14Cの端面が、柱部材94の外面よりも内側へ位置するようにし、これによって形成された凹部に燃え代層16A、16B、16C、16Dと同じ材料によって形成された化粧部材96を設けるようにすれば、柱部材94の外観上において、燃え止まり層14A、14Cを設けることにより美観が損なわれるのを防ぐことができる。
【0045】
さらに、本実施形態では、
図1に示すように、燃え止まり層14A、14B、14C、14Dを、一枚ものの不燃木材ボードによって構成した例を示したが、この不燃木材ボードを複数枚積層して燃え止まり層14A、14B、14C、14Dを構成してもよい。
【0046】
また、本実施形態では、
図1で示した心材12及び燃え代層16A、16B、16C、16Dを木製としたが、心材12及び燃え代層16A、16B、16C、16Dは、木材によって形成されていればよい。例えば、心材12及び燃え代層16A、16B、16C、16Dは、米松、唐松、檜、杉、あすなろ等の一般の木造建築に用いられる木材(以下、「一般木材」とする)によって形成してもよいし、これらの一般木材を板状や角柱状等に加工した製材を複数集成し、製材同士を接着剤により接着して一体化した、所謂、集成材であってもよい。
【0047】
さらに、本実施形態では、
図1で示した燃え止まり層14A、14B、14C、14Dを、単板積層材に難燃薬剤を含浸して形成した一枚ものの不燃木材ボードによって構成した例を示したが、燃え止まり層14A、14B、14C、14Dは、火炎及び熱の進入を抑えるとともに熱を吸収して燃え止まり効果を発揮できる層であればよい。例えば、難燃薬剤を木板に含浸した不燃木材ボード、一般木材よりも着火温度が高く熱容量が大きな材料によって形成されたボード、一般木材よりも断熱性が高い材料によって形成されたボード、一般木材よりも熱貫性が高い材料によって形成されたボード、石膏ボード、木毛セメントボード等の一枚ものの板部材(以下、「燃え止まり板部材」とする)によって燃え止まり層を形成してもよいし、これらの燃え止まり板部材を複数積層して燃え止まり層を形成してもよい。
【0048】
一般木材よりも着火温度が高く熱容量が大きな材料としては、モルタル、石材、ガラス、繊維補強セメント、各種の金属材料などが挙げられる。一般木材よりも断熱性が高い材料としては、けい酸カルシウム、ロックウール、グラスウールなどが挙げられる。一般木材よりも熱貫性が高い材料としては、セランガンバツ、ジャラ、ボンゴシ等の木材などが挙げられる。
【0049】
燃え止まり板部材は、
図8の平面断面図に示すように、板状、角柱状等の単材(以下、「燃え止まり単材90」とする)を複数組み合わせ一体化して形成してもよい。また、
図9の平面断面図に示すように、燃え止まり単材90と、一般木材を板状や角柱状等に加工した製材92とを複数組み合わせ一体化して燃え止まり板部材を形成してもよい(
図9には、燃え止まり単材90と製材92を交互に並べて配置することにより燃え止まり板部材が形成されている例が示されている)。この場合、燃え代層16内へ延びている燃え止まり層14Aの部位は、燃え止まり単材によって形成されているようにする。
【0050】
このようにして燃え止まり板部材を形成すれば、さまざまな大きさの燃え止まり層14A、14B、14C、14Dを構成することができる。本実施形態の柱部材10のように、一枚もののボード材(不燃木材ボード)によって燃え止まり層14A、14B、14C、14Dを構成するようにすれば、燃え止まり単材90同士や、燃え止まり単材90と製材92の接合が不要になるので、より製造性を向上させることができる。
【0051】
また、
図10の平面断面図に示すように、本実施形態の柱部材10の外面を、化粧合板や化粧ボード等の仕上げ材で覆うようにしてもよい。このようにすれば、柱部材10の外観上において、燃え止まり層14A、14Cを設けることにより美観が損なわれるのを防ぐことができる。
【0052】
さらに、本実施形態では、耐火木質部材を柱部材10とした例を示したが、耐火木質部材を他の構造部材としてもよい。例えば、
図11及び
図12の正面断面図に示すように、耐火木質部材を梁部材100、102としてもよい。
図12の梁部材102は、コンクリート製の床スラブ104を支持しており、梁部材102上面が床スラブ104で覆われている。よって、梁部材102上面の耐火性は床スラブ104によって確保されるので、心材102上面は燃え止まり層によって覆われていない。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。