【実施例1】
【0014】
図1は、フォーカルプレーンシャッタ1を備えたカメラ(撮像装置)Aのブロック図である。カメラAは、フォーカルプレーンシャッタ1、制御部110、撮像素子130、駆動回路170bを備えている。フォーカルプレーンシャッタ1は、後幕アクチュエータ70bを備えている。
【0015】
制御部110は、駆動回路170bに所定の指令を出す。駆動回路170bは、この指令を受けてアクチュエータ70bの駆動を制御する。制御部110は、カメラ全体の動作を制御し、CPU、ROM、RAM等を備えている。撮像素子130は、CMOSである。撮像素子130は、被写体像を光電変換作用により電気的信号に変換する受光素子である。尚、カメラAは、
図1には図示していないが、焦点距離を調整するためのレンズ等を備えている。
【0016】
制御部110は、撮像素子130の蓄積電荷を画素ライン毎に所定方向に順次リセットすることにより電荷の蓄積を順次開始する。具体的には、後幕20Bの走行方向と直交する撮像素子130の画素ライン毎に、撮像素子130の電荷の蓄積を所定のタイミングで順次開始する。これにより、電子的な先幕が露出開始位置から露出終了位置へ向けて擬似的に走行する。その後、所定時間後に後幕20Bが開口11を閉鎖するように移動させることで撮像素子130の画素ライン毎に電荷の蓄積が順次終了して露出作動が終了する。カメラAは、所謂、電子先幕機能を有する撮像装置である。
【0017】
図2は、フォーカルプレーンシャッタ1の正面図である。
図2では、アクチュエータ70bについては省略してある。フォーカルプレーンシャッタ1は、基板10、後幕20B、アーム31b、32b、アクチュエータ70bを有している。基板10は、矩形状の開口11を有している。
図2には、開口11内に撮像素子130の結像面を示している。撮像素子130に入射する光は開口11を通過する。
【0018】
後幕20Bは、3枚の羽根21b〜23bから構成される。
図2は、後幕20Bが重畳状態であり、開口11から退避している。後幕20Bは、アーム31b、32bに連結されている。これらアーム31b、32bは、それぞれ基板10に回転自在に支持されている。
【0019】
基板10には、アーム31bをそれぞれ駆動するための後幕駆動レバー(以下、駆動レバーと称する)55bが設けられている。駆動レバー55bは、歯車50bに連結されている。歯車50bは、歯車40bと噛合している。歯車40b、50bは、それぞれ筒部41b、51bを有し、各筒部と嵌合する軸42b、52bを中心に基板10に回転可能に支持されている。尚、軸42b、52bは必ずしも開口11が形成された基板10に形成されていなくてもよく、開口11に対して定位置に設ければよい。
【0020】
歯車40bは、アクチュエータ70bのロータに連結されている。アクチュエータ70bが駆動することにより、歯車40b、50bが駆動し、これにより駆動レバー55bが駆動する。駆動レバー55bが駆動することにより、アーム31bが駆動する。これにより、後幕20Bが走行する。後幕20Bは、アクチュエータ70bにより開口11から退避した退避位置及び開口11を閉鎖する閉鎖位置間を走行可能である。
【0021】
次に、フォーカルプレーンシャッタ1の動作について説明する。待機状態においては、
図2に示すように後幕20Bは、退避位置に位置づけられ開口11は全開状態のままに維持される。カメラAのレリーズスイッチが押されると、制御部110は、露出開始位置から露出終了位置に向かって、後幕20Bの走行方向と直交する撮像素子130の画素ライン毎に、撮像素子130に蓄積された電荷を所定のタイミングで消去するセンサリセットを行う。換言すれば所定のタイミングで、後幕20Bの走行方向と直交する撮像素子130の画素ライン毎に電荷が蓄積されていく。撮像素子130の電荷の蓄積が開始してから所定時間後、制御部110は、アクチュエータ70bを通電して後幕20Bは開口11を閉じるように走行させる。したがって、撮像素子130の画素ライン毎に電荷の蓄積が終了されていく。なお、本実施例においては、所定のタイミングで露出開始位置から露出終了位置に向かって撮像素子130の画素ライン毎に電荷が蓄積されていくことを電子先幕が走行すると称する。その後、後幕20Bが開口11を完全に閉鎖するとアクチュエータ70bへの通電は遮断される。このようにして露出作動が終了する。ここで、電子先幕が走行を開始してから後幕20Bが開口11を閉じるまでの間の期間を露出期間と称する。露出作動終了後、制御部110のRAMや又はカメラ側のメモリにデータが出力される。
【0022】
その後、チャージ作動が行われる。チャージ作動では、制御部110は、後幕20Bが開口11から退避するようにアクチュエータ70bへ通電する。これにより、
図2に示したように開口11が全開状態となり待機状態へ移行する。
【0023】
図3は、アクチュエータ70bの説明図である。後幕アクチュエータ70bは、基板10に支持される。アクチュエータ70bは、基板10に回転可能に支持されたロータ71b、励磁されることによりロータ71bとの間で磁力が作用するステータ74b、ステータ74bを励磁するためのコイル76b、77bを備えている。ロータ71bは、周方向に異なる極性に着磁された永久磁石である。ロータ71bには、歯車40bが固定されている。このため、コイル76b、77bへの通電によりロータ71bが回転し、歯車40bが回転して、歯車50bが回転する。歯車50bが回転すると、駆動レバー55bが揺動し、後幕20Bが走行する。また、コイル76b、77bへの逆通電によりロータ71bが逆回転し、後幕20Bが前述とは逆方向に走行する。
【0024】
ステータ74bは、ベース部74b1、ベース部74b1の両端からそれぞれ略同じ方向に延び互いに略平行な腕部74b2、74b3、を含む。腕部74b2、74b3のそれぞれ先端部には、ロータ71bと対向する磁極部74b4、75b5が形成されている。また、腕部74b3に2つのコイル76b、77bがコイルボビン79bを介して巻回されている。2つのコイル76b、77bの端部は、駆動回路170bの端子部171b〜174bに個別に接続されている。
【0025】
コイル76b、77bは、径は同一であり長さも同一である。コイル76b、77bは互いに導通していない。コイル76b、77b、略同じ巻き数でステータ74bの腕部74b3側に巻回されている。コイル76b、77bが腕部74b3周りに巻かれている方向は、同一方向であってもよいし逆方向であってもよいが、コイル76b、77bの双方が通電される際の通電方向は、通電によって磁極部74b4、74b5のそれぞれに生じる極性が相殺されることがない通電方向であればよい。本実施例では、腕部74b3周りに同一方向に電流が流れるように、コイル76b、77bのそれぞれに流れる電流の方向が設定されている。尚、2つのコイル76b、77bが巻回される位置は、腕部74b3に限定されない。例えば、コイル76b、77bの何れか一方を腕部74b2に巻回させ、他方を腕部74b3に巻回してもよい。
【0026】
図4は、比較例のアクチュエータ70xの説明図である。アクチュエータ70xについては、アクチュエータ70bと類似する部分については類似する符号を付することにより重複する説明を省略する。アクチュエータ70xには、単一のコイル76xがステータ74bの腕部74b3側に巻回されている。コイル76xは両端がそれぞれ駆動回路170xの端子部171x、172xに接続されている。コイル76xの巻き数は、コイル76b、77bの合計の巻き数と同じである。また、コイル76xの抵抗値は、コイル76b、77bの合計の抵抗値と同じである。また、コイル76b、77bのそれぞれに流れる電流値と同じ電流値がコイル76xに流れるように、コイル76xに印加される電圧が調整されている。具体的には、コイル76b、77bのそれぞれに印加される電圧の2倍の電圧がコイル76xに印加される。従って、コイル76b、77bの合計のアンペアターンと、コイル76xのアンペアターンは同じである。このため、アクチュエータ70b、70xのトルクは略同じである。
【0027】
図5Aは、アクチュエータ70bのコイル76bに通電を開始してからの電流値の変化を示したグラフであり、
図5Bは、比較例であるアクチュエータ70xのコイル76xに通電を開始してからの電流値の変化を示したグラフである。曲線B1は、コイル76bに流れる電流値を示している。尚、コイル77bは、コイル76bと巻き数、抵抗値、印加される電流値及び電圧値が同じであるため、コイル77bに流れる電流値も曲線B1のように変化する。曲線X1は、コイル76xに流れる電流値を示している。曲線B1、X1に示すように、通電開始してから所望の電流値に到達するまでのタイムラグが存在するが、このタイムラグは、アクチュエータ70bの方がアクチュエータ70xよりも短い。この理由は、コイル76bの抵抗値は、コイル76xよりも小さく、コイル76bの方がコイル76xよりも電流が流れやすいからである。このため、コイル76b、コイル77bを用いたアクチュエータ70bの方が、コイル76xを用いたアクチュエータ70xを用いた場合よりも、所望の電流値におけるトルクに達する時間が短い。このため通電開始からの後幕20Bの駆動し始めるまでの間の期間が小さくなる。
【0028】
図5A、5Bにそれぞれ示したB2、X2は、高温環境下でアクチュエータ70b、70xのそれぞれのコイル76b、76xに流れる電流値を示している。
図5A、5Bに示すように、何れの場合にも、高温となった後では通電開始から所望の電流値に到達するまでの間のタイムラグが増大する。この理由は、一般的に、コイルが高温になれば抵抗値が増大し電流が流れにくくなるからである。
【0029】
ここで、
図5Aに示す変化量ΔBは、コイル76bに電流の印加を開始してからコイル76bに流れる電流値が所望の電流値に到達するまでの立上がり期間の変化量を示している。同様に、
図5Bに示した変化量ΔXは、コイル76xに電流の印加を開始してからコイル76xに流れる電流値が所望の電流値に到達するまでの立上がり期間の変化量を示している。変化量ΔBは、変化量ΔXよりも小さい。この理由は、コイル76bの抵抗値は巻き数の分だけコイル76xよりも小さいため、コイル76b、76xの双方が同程度だけ温度が変化した場合、温度変化に起因するコイル76bの抵抗値の変化量は、コイル76xの抵抗値の変化量よりも小さいからと考えられる。
【0030】
このようなコイル76b、76xの温度変化は、複数回アクチュエータ70b、70xを駆動させた場合にも生じる。従って、例えば連写撮影等により連続的に複数回アクチュエータ70b、70xが駆動した場合には、コイル76b、76xも同程度に温度が上昇すると考えられる。この場合、コイル76bに流れる電流値の立上がり期間の変化量ΔBは、変化量ΔXよりも小さいため、本実施例の方が、比較例よりも、通電開始からの後幕20Bの駆動し始めるまでの間の期間の変化が抑制されている。
【0031】
これにより、本実施例では、温度変化に起因する露出期間の変動も抑制できる。電子先幕を採用した場合、電子先幕の走行速度は使用環境の温度変化によっては変化しないため、通電開始からの後幕20Bの駆動し始めるまでの間の期間の変化が露出期間の変動の主な原因となるおそれがある。しかしながら、本実施例のように2つのコイル76b、77bをアクチュエータ70bに採用することにより、電子先幕を採用した場合であっても後幕20Bの走行速度の変化を抑制し露出期間の変動を抑制できる。
【0032】
尚、制御部110は、露出作動時にはコイル76b、77bの双方を通電するが、チャージ作動時には、コイル76b、77bの一方のみを通電してもよい。露出作動時には、後幕20Bの速い走行速度の確保が要求されるが、チャージ作動時には後幕20Bの走行速度は要求されないからである。これにより、消費電力を抑制できる。尚、連写モードでは、チャージ作動時においてもコイル76b、77bの双方に通電してもよい。
【0033】
図6A、6Bは、変形例の説明図である。
図6Aに示すように、コイル76b、77bは、それぞれ個別の駆動回路170b1、170b2に接続されている。具体的には、コイル76bの両端はそれぞれ駆動回路170b1の端子部171b、172bに接続され、コイル77bの両端はそれぞれ駆動回路170b2の端子部173b、174bに接続されている。尚、駆動回路170b1、170b2は、それぞれ制御部110によって制御される。このような構成であっても、後幕20Bの走行速度の変化を抑制し露出期間の変動を抑制できる。
【0034】
尚、コイル76bの一端、他端が、コイルボビン79bに形成された2つの凸部にそれぞれ巻き付けられ、コイル77bの一端、他端がコイルボビン79bに形成された別の2つの凸部にそれぞれ巻き付けられていてもよい。この場合、フォーカルプレーンシャッタ1単体で、互いに導通接続されていない2つのコイル76b、77bがステータ74bに巻回されていることを確認できる。
【0035】
図6Bに示すように、アクチュエータ70b1のステータ74bに巻回されたコイル76b、77bは、互いに並列接続されて駆動回路170b3に接続している。そのため、駆動回路170b3には2つの端子部171b、172bのみが設けられている。コイル76b、77bの一端が端子部171bに接続され、コイル76b、77bの他端が端子部172bに接続されている。このような構成であっても、後幕20Bの走行速度の変化を抑制し露出期間の変動を抑制できる。
【0036】
尚、コイル76b、77bの一端同士が、コイルボビン79bの凸部等に巻きつけられて互いに導通接続され、コイル76b、77bの他端同士が、コイルボビン79bの別の凸部等に巻きつけられて互いに導通接続されていてもよい。この場合、フォーカルプレーンシャッタ1単体で、並列接続されている2つのコイル76b、77bがステータ74bに巻回されていることを確認できる。
【0037】
図7Aは、変形例であるカメラAaのブロック図である。カメラAaは、フォーカルプレーンシャッタ1a、110a、駆動回路170aを備えている。フォーカルプレーンシャッタ1aは、先幕20A、先幕20Aを駆動する先幕アクチュエータ70a(以下、アクチュエータと称する)を備えている。駆動回路170aは、制御部110aからの指令に応じてアクチュエータ70aの駆動を制御する。カメラAaにおいては、電子先幕は採用せずに、機械式の先幕20Aを採用している。このように先幕20A、アクチュエータ70aを採用する場合であっても、コイル76b、77bの温度変化に起因する後幕20Bの走行速度の変化を抑制でき、露出期間の変動を抑制できる。
【0038】
尚、アクチュエータ70aについても、アクチュエータ70bと同様に2つのコイルを採用した場合であっても露出期間の変動を抑制できる。この場合、アクチュエータ70aの2つのコイルとアクチュエータ70bの2つのコイル76b、77bとでは、必ずしも同一温度となるわけではないため、このような場合によっても、露出期間は多少変動する恐れがある。しかしながら、先幕20A、後幕20Bのそれぞれの温度変化に基づく走行速度の変化量は小さく抑制されるため、露出期間についての変動も抑制される。また、先幕20A、後幕20Bの双方について走行速度の低下を抑制できるため、シャッタ速度の低下も抑制できる。
【0039】
また、アクチュエータ70aに上述したように2つのコイルを採用し、アクチュエータ70bに単一のコイルを採用してもよい。この場合も、先幕20Aの走行速度の変動を抑制でき、露出期間の変動を抑制できる。
【0040】
図7Bは、変形例であるカメラAbのブロック図である。カメラAbは、フォーカルプレーンシャッタ1b、110b、を備えている。フォーカルプレーンシャッタ1bは、先幕20A、スプリングS、先幕電磁石(以下、電磁石と称する)80aを備えている。先幕20Aは、スプリングSにより開口11から退避する方向に付勢されている。電磁石80aは、先幕20Aが開口11を閉鎖した状態で電磁力により先幕20Aが開口11を閉じた状態に維持する。具体的には、先幕20Aを駆動する駆動レバーがスプリングSにより付勢されている。また駆動レバーに電磁石80aにより吸着可能な鉄片が設けられている。
【0041】
電磁石80aが通電されることによりスプリングSの付勢力に抗して駆動レバーの鉄片が電磁石80aに吸着保持される。電磁石80aへの通電が遮断されることにより、スプリングSの付勢力に従って先幕20Aは開口11から退避するように走行する。尚、フォーカルプレーンシャッタ1bには、駆動レバーの鉄片が電磁石80aに接触するように駆動レバーを駆動する不図示のセットレバーが設けられている。このような構成であっても、後幕20Bの走行速度の変化を抑制できるため、露出期間の変動も抑制できる。
【0042】
尚、上述したカメラAa、Abにおいて、
図6Aに示した構成を採用してもよいし、
図6Bに示した構成を採用してもよい。
【0043】
コイル76b、77bは、長さ、径、抵抗値の少なくとも一つが異なっていてもよい。この場合であっても、単一のコイルにのみによって幕を駆動させる場合と比較して、露出期間の変動を抑制できるからである。
【0044】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、変形・変更が可能である。
【0045】
本実施例のフォーカルプレーンシャッタは、スチールカメラやデジタルカメラなどの光学機器に採用できる。
【0046】
上記実施例においては、羽根が合成樹脂製である場合を説明したが、薄く形成された金属製の羽根であってもよい。
【0047】
上記実施例において、後幕は3枚の羽根から構成されるが、これに限定されない。