特許第6348723号(P6348723)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6348723
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂押出発泡体その製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/04 20060101AFI20180618BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20180618BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20180618BHJP
   C08K 5/06 20060101ALI20180618BHJP
   C08K 5/103 20060101ALI20180618BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20180618BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20180618BHJP
   C08K 5/01 20060101ALI20180618BHJP
【FI】
   C08J9/04 103
   C08J9/04CET
   C08L25/04
   C08K3/04
   C08K5/06
   C08K5/103
   C08K3/22
   C08L63/00
   C08K5/01
【請求項の数】12
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-18839(P2014-18839)
(22)【出願日】2014年2月3日
(65)【公開番号】特開2015-145477(P2015-145477A)
(43)【公開日】2015年8月13日
【審査請求日】2016年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】角 亘
(72)【発明者】
【氏名】菊地 武紀
(72)【発明者】
【氏名】清水 浩司
【審査官】 横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−172140(JP,A)
【文献】 特開2013−136646(JP,A)
【文献】 特表2003−504472(JP,A)
【文献】 特表2012−528921(JP,A)
【文献】 特開平11−189673(JP,A)
【文献】 特開昭57−067641(JP,A)
【文献】 特開平09−227787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00−9/42
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂を主成分とするスチレン系樹脂混合物と発泡剤を用いて押出発泡して得られるスチレン系樹脂押出発泡体であって、スチレン系樹脂100重量部に対して、(a)グラファイトを1.0重量部以上3.5重量部以下、(b)テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテル、及びテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピル)エーテルより選ばれる少なくとも1種を1.0重量部以上6.0重量部以下、(c)多価アルコール部分エステル化合物を0.1重量部以上0.5重量部以下、含有し、
前記スチレン系樹脂混合物が、リサイクルしたスチレン系樹脂混合物を10重量%以上50重量%以下含み、
前記多価アルコール部分エステル化合物が、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールおよびトリペンタエリスリトールから選ばれるいずれかの多価アルコールと、一価のカルボン酸または二価のカルボン酸との反応物である部分エステルであることを特徴とするスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項2】
前記スチレン系樹脂混合物が、リサイクルしたスチレン系樹脂混合物を25重量%以上45重量%以下含むことを特徴とする、請求項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項3】
前記多価アルコール部分エステル化合物がジペンタエリスリトールとアジピン酸との反応物であることを特徴とする、請求項1または2に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項4】
前記グラファイトの固定炭素分が80重量%以上89重量%以下であることを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項5】
酸化チタンをスチレン系樹脂100重量部に対して1.0重量部以上3.5重量部以下含むことを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項6】
テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテル及びテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピル)エーテルを含有し、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテルの含有率が、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピル)エーテルの含有率に対して30重量%以上300重量%以下であることを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項7】
安定剤としてエポキシ化合物を前記臭素系難燃剤100重量部に対して4重量部以上20重量部以下含むことを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項8】
前記エポキシ化合物が構造式(1)で示されるビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂
【化1】
、構造式(2)で示されるクレゾールノボラック型エポキシ樹脂
【化2】
、構造式(3)で示されるフェノールノボラック型エポキシ樹脂
【化3】
よりなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1〜のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項9】
前記発泡剤が少なくとも炭素数が3〜5である飽和炭化水素を含み、更に、水、二酸化炭素、窒素、炭素数が2〜5のアルコール類、ジメチルエーテル、塩化メチル、及び、塩化エチルよりなる群から選ばれる少なくとも一種以上を含むことを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項10】
前記スチレン系樹脂押出発泡体が、製造から1週間後の該押出発泡体中のイソブタンの残存量が該押出発泡体1kgあたり0.30mol以上0.60mol以下であることを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項11】
JIS A9511に規定される燃焼性の測定方法Aに合格し、かつ、延焼長さが10mm以下であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項12】
JIS A9511に規定される方法で測定した熱伝導率が0.024W/mK以下であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性および断熱性を両立するスチレン系樹脂押出発泡体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂押出発泡体は、良好な施工性や断熱性から、例えば構造物の断熱材として用いられる。スチレン系樹脂押出発泡体を製造する場合において、スチレン系樹脂を押出機にて加熱溶融し、次いで発泡剤を添加し、冷却させ、これを低圧域に押し出すことにより、スチレン系樹脂押出発泡体を連続的に製造する。スチレン系樹脂押出発泡体には、JIS A9511記載の押出法ポリスチレンフォーム保温板の燃焼性規格を満たす為、難燃剤が添加される。一般的なポリスチレンの押出加工温度は230℃付近であり、この温度付近で難燃剤が分解しないことが要求され、難燃剤の熱安定性を高める添加剤の検討がなされているが、難燃剤の難燃性能は、熱安定性と相反する傾向にあることが知られている。(例えば、特許文献1)
一方、近年は住宅、建築物などの省エネルギー化の要求が高まり、従来以上の高断熱性発泡体の技術開発が望まれている。既に種々の技術が提案されており、スチレン系樹脂押出発泡体の高断熱化は熱線輻射抑制剤として黒鉛(グラファイト)や酸化チタンを添加する技術が主流となっている。(例えば、特許文献2)
一般的なスチレン系樹脂押出発泡体を製造する場合において、押し出されたスチレン系樹脂押出発泡体は切削機を用いてカットするが、その際に発生する発泡体の切削屑、および/または該押出発泡体を押出機などに通して熱処理を行い、リサイクルの原料として再利用することは、同業者間では一般的である。
【0003】
しかし、グラファイトを含むスチレン系樹脂押出発泡体、および/または該発泡体の切削屑は、グラファイトを含まないスチレン系樹脂押出発泡体、および/または該発泡体の切削屑と比較して、リサイクル原料として熱処理する過程において、大幅に樹脂劣化が進行する。また、JIS A9511に規定される燃焼性試験において、発泡体の燃焼は、樹脂燃焼と表面ガス燃焼に大別され、樹脂燃焼は難燃剤の増量によりある程度抑えることは可能であるが、発泡体表面のみを溶融するガス延焼は、難燃剤を増量しても抑制には限界があり、発泡体中の可燃性ガスの残存量をコントロールする必要がある。
【0004】
以上のような背景により、グラファイトを含むスチレン系樹脂押出発泡体、及び/または該発泡体の切削屑を、熱処理を行いリサイクル原料として使用したスチレン系樹脂押出発泡体において、優れた難燃性と熱伝導率を両立することが非常に困難という課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−172140号公報
【特許文献2】特開2004−196907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、グラファイトを含むスチレン系樹脂押出発泡体が有する前記課題を解決するためになされたものであって、難燃性能、及び断熱性能に優れるスチレン系樹脂押出発泡体、及びその製造方法を提供することを目的とする。特に、リサイクルしたスチレン系樹脂混合物を含有する場合にも、優れた難燃性と熱伝導率を両立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に至った。
【0008】
すなわち本発明は、
[1]スチレン系樹脂を主成分とするスチレン系樹脂混合物と発泡剤を用いて押出発泡して得られるスチレン系樹脂押出発泡体であって、スチレン系樹脂100重量部に対して、(a)グラファイトを1.0重量部以上3.5重量部以下、(b)テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテル、及びテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピル)エーテルより選ばれる少なくとも1種を1.0重量部以上6.0重量部以下、(c)多価アルコール部分エステル化合物を0.1重量部以上0.5重量部以下、含有することを特徴とするスチレン系樹脂押出発泡体。
【0009】
[2]前記スチレン系樹脂混合物が、リサイクルしたスチレン系樹脂混合物を10重量%以上50重量%以下含むことを特徴とする、[1]に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【0010】
[3]前記スチレン系樹脂混合物が、リサイクルしたスチレン系樹脂混合物を25重量%以上45重量%以下含むことを特徴とする、[2]に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【0011】
[4]前記多価アルコール部分エステル化合物がジペンタエリスリトールとアジピン酸との反応物であることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【0012】
[5]前記グラファイトの固定炭素分が80重量%以上89重量%以下であることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【0013】
[6]酸化チタンをスチレン系樹脂100重量部に対して1.0重量部以上3.5重量部以下含むことを特徴とする、[1]〜[5]のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【0014】
[7]テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテル及びテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピル)エーテルを含有し、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテルの含有率が、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピル)エーテルの含有率に対して30重量%以上300重量%以下であることを特徴とする、[1]〜[6]のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【0015】
[8]安定剤としてエポキシ化合物を前記臭素系難燃剤100重量部に対して4重量部以上20重量部以下含むことを特徴とする、[1]〜[7]のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【0016】
[9]前記エポキシ化合物が構造式(1)で示されるビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂
【0017】
【化1】
【0018】
、構造式(2)で示されるクレゾールノボラック型エポキシ樹脂
【0019】
【化2】
【0020】
、構造式(3)で示されるフェノールノボラック型エポキシ樹脂
【0021】
【化3】
【0022】
よりなる群から選ばれる少なくとも一種である、[1]〜[8]のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【0023】
[10]前記発泡剤が少なくとも炭素数が3〜5である飽和炭化水素を含み、更に、水、二酸化炭素、窒素、炭素数が2〜5のアルコール類、ジメチルエーテル、塩化メチル、及び、塩化エチルよりなる群から選ばれる少なくとも一種以上を含むことを特徴とする、[1]〜[9]のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【0024】
[11]前記スチレン系樹脂押出発泡体が、製造から1週間後の該押出発泡体中のイソブタンの残存量が該押出発泡体1kgあたり0.30mol以上0.60mol以下であることを特徴とする、[1]〜[10]のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【0025】
[12]JIS A9511に規定される燃焼性の測定方法Aに合格し、かつ、延焼長さが10mm以下であることを特徴とする、[1]〜[11]のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【0026】
[13]JIS A9511に規定される方法で測定した熱伝導率が0.024W/mK以下であることを特徴とする、[1]〜[12]のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
に関する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、難燃性能及び断熱性能が改善されたスチレン系樹脂押出発泡体を容易に提供することが出来る。さらには、リサイクルしたスチレン系樹脂混合物を含有する場合にも、優れた難燃性と熱伝導率を両立することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を説明する。なお、本実施の形態は本発明の一部にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で本実施形態を適宜変更できることは言うまでもない。
【0029】
本発明で用いられるスチレン系樹脂としては、特に限定はなく、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン等のスチレン系単量体の単独重合体、または2種以上の単量体の組み合わせからなる共重合体や;前記スチレン系単量体とジビニルベンゼン、ブタジエン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリロニトリル、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの単量体の1種または2種以上とを共重合させた共重合体などが挙げられる。
【0030】
また、本発明に用いるスチレン系樹脂は、前記スチレン系単量体の単独重合体または共重合体に限られず、前記スチレン系単量体の単独重合体または共重合体と、前記他の単量体の単独重合体または共重合体とのブレンド物であってもよく、ジエン系ゴム強化ポリスチレンやアクリル系ゴム強化ポリスチレンをブレンドすることもできる。さらに、本発明のスチレン系樹脂は、メルトフローレート(以下MFR)、成形加工時の溶融粘度、溶融張力などを調整する目的で、分岐構造を有するスチレン系樹脂であってもよい。
【0031】
また、本発明においては、前述されたスチレン系樹脂のなかでも、経済性・加工性の面からポリスチレン樹脂が特に好適に使用することができる。また、押出発泡体により高い耐熱性が要求される場合には、スチレン‐アクリロニトリル共重合体、(メタ)アクリル酸共重合ポリスチレン、無水マレイン酸変性ポリスチレンを用いることが好ましい。また、押出発泡体により高い耐衝撃性が求められる場合には、ゴム強化ポリスチレンを用いることが好ましい。これらスチレン系樹脂は、単独で使用してもよく、また、共重合成分、分子量や分子量分布、分岐構造、MFRなどの異なるスチレン系樹脂を2種以上混合して使用してもよい。
【0032】
また、本発明で用いられるスチレン系樹脂は、バージンスチレン系樹脂に限定されず、魚箱EPS、家電緩衝材、食品発泡ポリスチレントレーなどのスチレン系樹脂発泡体、または、冷蔵庫内装材としてのポリスチレントレーをリサイクルしたスチレン系樹脂も使用できる。
【0033】
本発明におけるスチレン系樹脂としては、MFRが0.5〜25g/10分のものを用いることが、押出発泡成形する際の成形加工性に優れ、成形加工時の吐出量、得られた熱可塑性樹脂発泡体の厚みや幅、密度または独立気泡率を所望の値に調整しやすく、発泡性(発泡体の厚みや幅、密度、独立気泡率、表面性などを所望の状況に調整しやすいほど、発泡性が良い)、外観などに優れた熱可塑性樹脂発泡体が得られると共に、圧縮強度、曲げ強度または曲げたわみ量といった機械的強度や、靱性などの特性のバランスがとれた熱可塑性樹脂発泡体が得られる点から、好ましい。さらに、スチレン系樹脂のMFRは、押出機内での溶融混錬時に発生するせん断発熱量、成形加工性および発泡性に対する機械的強度、靱性などのバランスの点から、1〜12g/10分が特に好ましい。なお、本発明において、MFRは、JIS K7210(1999年)のA法、試験条件Hにより測定される。
【0034】
また、本発明において、バージンスチレン系樹脂とは別に、製造工程等においてスチレン系樹脂押出発泡体を切削した際に発生する切削屑および/または運転スタート時等に発生するスチレン系樹脂押出発泡体、および/またはユーザーから返却されるスチレン系樹脂押出発泡体に熱処理を行い、リサイクルしたスチレン系樹脂混合物も原料として使用することができる。
【0035】
該リサイクルスチレン系樹脂混合物は、そのまま押出機へ投入しても良いが、一般的には押出機に投入しやすいように、減容化および/または溶融加工(ペレット化)を行なう方が好ましい。なお、ペレット化の際には一般的に押出機によって溶融・混練が行われるが、難燃剤などの影響も含め、樹脂の分子劣化ができる限り抑制される温度、例えば160〜240℃程度が好ましい。また、スチレン系樹脂押出発泡体および/または該発泡体の切削屑中の発泡剤を脱気する為に、ベント口を設ける事が望ましい。
【0036】
本発明におけるリサイクルスチレン系樹脂混合物は、スチレン系樹脂混合物の総和に対し10重量%以上50重量%以下含有することが好ましい。発泡体の生産コストと断熱性能等の観点から、リサイクルスチレン系樹脂混合物は、スチレン系樹脂混合物の総和に対し25重量%以上45重量%以下含有することがより好ましく、30重量%以上40重量%以下含有することが更に好ましい。
【0037】
リサイクルスチレン系樹脂混合物の含有量が10重量%未満では、リサイクル原料の発生量に対して使用量が不足し、実質的にリサイクル原料を廃棄する必要があるため、生産コストが悪化し、50重量%を超えると、発泡体の成形性・セル形状肥大などによる断熱性能の悪化等を引き起こす傾向がある。
【0038】
本発明においては、熱線輻射抑制剤としてグラファイトを添加することにより、高い断熱性を有する発泡体が得られる。前記熱線輻射抑制剤とは、近赤外または赤外領域(例えば、800〜3000nm程度の波長域)の光を反射・散乱・吸収する特性を有する物質をいう。
【0039】
本発明で使用するグラファイトは、例えば、鱗(片)状黒鉛、土状黒鉛、球状黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。これらの中でも、熱線輻射抑制効果が高い点から、主成分が鱗(片)状黒鉛のものを用いることが好ましい。グラファイトの固定炭素分は、得られるスチレン系樹脂押出発泡体の断熱性能と製造コストの観点から、80重量%以上89重量%以下のものが好ましい。
【0040】
グラファイトの分散粒子径は15μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。粒径を上記範囲とすることで、グラファイトの比表面積が大きくなり、熱線輻射との衝突確率が高くなるため、熱線輻射抑制効果が高くなる。分散粒径を前記範囲とするためには、一次粒径が15μm以下のものを選択すればよい。
【0041】
なお、前記分散粒径とは、発泡板中に分散しているそれぞれの粒子の粒子径の個数基準の算術平均値であり、粒子径は発泡板断面を顕微鏡などにより拡大して計測される。前記一次粒径とは体積平均粒径(d50)を意味する。
【0042】
本発明におけるグラファイトの含有量は、スチレン系樹脂100重量部に対して1.0重量部以上3.5重量部以下が好ましく、1.5重量部以上3.0重量部以下がより好ましい。含有量が1.0重量部未満では、十分な熱線輻射抑制効果が得られない。含有量が3.5重量部超では、含有量相応の熱線輻射抑制効果が得られずコストメリットが無い。
【0043】
尚、本発明におけるグラファイトの含有量は、JIS K 6226−2:2003に準じて測定することが出来る。具体的には、発泡体から約10mgの試験片を切り出し、熱分析システム:EXSTAR6000を備えた熱重量測定装置:TG/DTA 220U[エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製]を用いて、[1]200mL/分の窒素気流下で40℃から600℃まで20℃/分で昇温した後600℃で10分保持、[2]200mL/分の窒素気流下で600℃から400℃まで10℃/分で降温した後400℃で5分保持、[3]200mL/分の空気気流下で400℃から800℃まで20℃/分で昇温した後800℃で15分保持する。以下式(2)、式(3)よりグラファイトの含有量を算出できる。
炭素分=[3]での減少重量/試験片全量×100・・・(2)
グラファイト含有量=炭素分/使用したグラファイトの固定炭素分・・・(3)
本発明で使用することができる熱線輻射抑制剤としては、グラファイトの他に、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化アンチモンなどの白色系粒子を併用することが出来る。これらは、単独で使用しても良く、2種以上を併用しても良い。これらの中でも、線輻射抑制効果が大きい点から、酸化チタンや硫酸バリウムが好ましく、酸化チタンがより好ましい。白色系粒子の分散粒径については、特に限定されるものではないが、効果的に赤外線を反射し、また樹脂への発色性を考慮すれば、例えば、酸化チタンでは0.1μm〜10μmが好ましく、0.15μm〜5μmがより好ましい。
【0044】
本発明における白色系粒子の含有量としては、スチレン系樹脂100重量部に対して、1.0重量部以上3.5重量部以下が好ましく、1.5重量部以上3.0重量部以下がより好ましい。白色系粒子は、グラファイトと比較して熱線輻射抑制効果が小さく、含有量が1.0重量部未満では、上記白色系粒子を含有しても熱線輻射抑制効果は殆どない。3.5重量部超では、含有量相応の熱線輻射抑制効果が得られず、コストメリットがない。
【0045】
本発明における熱線輻射抑制剤の合計含有量は、スチレン系樹脂100重量部に対して、1.0重量部以上6.0重量部以下が好ましく、2.0重量部以上5.0重量部以下がより好ましい。熱線輻射抑制剤の合計含有量が1.0重量部未満では、高い断熱性が得られず、6.0重量部超では、押出安定性・成形性が劣ったり、燃焼性が損なわれたりする傾向がある。
【0046】
本発明のスチレン系樹脂押出発泡体における臭素系難燃剤の含有量は、JIS A9511に規定される燃焼性燃焼性の測定方法Aに合格し、かつ、延焼長さが10mm以下の難燃性能を示すと共に、更に、発泡体製造時の押出機中でスチレン系樹脂の熱安定性を維持できるように、スチレン系樹脂100重量部に対して、1.0重量部以上6.0重量部以下である。
【0047】
臭素系難燃剤の含有量が1.0重量部未満では、難燃性などの発泡体としての良好な諸特性が得られがたい傾向があり、6.0重量部を超えると、発泡体製造時の安定性、表面性などを損なう場合がある。
【0048】
本発明における臭素系難燃剤の具体例としては、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテル、およびテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピル)エーテルより選ばれる少なくとも1種からなる臭素系難燃剤を含有することにより、得られるスチレン系樹脂発泡体に難燃性を付与することができる。
【0049】
スチレン系樹脂押出発泡体における臭素系難燃剤の含有率は、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテル及びテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピル)エーテルを含有し、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテルの含有率が、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピル)エーテルの含有率に対し、30重量%以上300重量%以下であることがより好ましい。
【0050】
理由は定かではないが、該スチレン系樹脂押出発泡体に含まれるテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテルの含有率が、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピル)エーテルの含有率に対し、30重量%以上300重量%以下であると、得られる押出発泡体の難燃性能に関しては、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテルの高い難燃性能が影響するためか、混合相手であるテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピル)エーテルのデメリットであった低い難燃性能を打ち消し、あたかもテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテル単独であるかのような高い難燃性能を発現することができる。一方、得られる押出発泡体の熱安定性に関しては、熱安定性能が低いテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテルの含有量を減少させられ、代わりに熱安定性の高いテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピル)エーテルを含有することができるので、熱安定性は、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテルを単独で用いるよりも高くすることができる。
【0051】
該スチレン系樹脂押出発泡体において、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテルの含有率が、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピル)エーテルの含有率に対し、30重量%未満では、得られる難燃性が低い傾向にあり、300重量%を超えると、熱安定性が悪化する傾向にある。なお、スチレン系樹脂内での難燃剤の分散・バラツキを考慮して、安定的により高い難燃性、およびより高い熱安定性を得ようとする際には、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテルの含有率は、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピル)エーテルの含有率に対し、40〜200重量%の範囲であることが更に好ましい。
【0052】
本発明においては、安定剤として多価アルコール部分エステル化合物を併用することにより、難燃剤の熱安定性を向上させることが可能であり、リサイクル時においても樹脂・難燃剤の分解を抑制することにより、成形性、難燃性能、断熱性能に優れた発泡体を得ることができる。
【0053】
本発明で用いられる多価アルコール部分エステル化合物としては、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等の多価アルコールと、酢酸、プロピオン酸等の一価のカルボン酸、または、アジピン酸、グルタミン酸等の二価のカルボン酸との反応物である部分エステルであって、その分子中に一個以上の水酸基を持つ化合物の混合物であり、原料の多価アルコールを少量含有していても良い。
【0054】
具体的な多価アルコール部分エステル化合物としては、ジペンタエリスリトールとアジピン酸との部分エステルおよび多価アルコールとの反応物である、例えば、味の素ファインテクノ(株)製プレンライザーST−210、プレンライザーST−220、等があげられる。
【0055】
本発明における多価アルコール部分エステルの含有量は、スチレン系樹脂100重量部に対して0.1重量部以上0.5重量部以下であることが好ましい。
【0056】
多価アルコール部分エステル化合物の含有量が0.1重量部未満では、熱安定化効果が小さい傾向にある。一方、多価アルコール部分エステル化合物の含有量が0.5重量部を超えると、安定化効果が大きく発揮されてしまい、難燃剤本来の難燃効果を低下させる恐れがある。
【0057】
本発明で用いられる発泡剤としては、特に限定するものではないが、炭素数3〜5の飽和炭化水素を使用することにより、優れた環境適合性を付与することができる。
【0058】
本発明においては、安定剤としてエポキシ化合物を含有することにより、難燃剤の難燃性能を損なうことなく、熱安定性を向上させることができる。本発明におけるエポキシ化合物の含有量としては、臭素系難燃剤100重量部に対して、4重量部以上20重量部以下が好ましい。エポキシ化合物の含有量が4重量部未満であると、難燃剤の安定化効果が十分に発揮されず、難燃剤および樹脂の分解が発生し、樹脂の分子量が低下する傾向にあり、結果として発泡体を形成する気泡径の肥大化が生じ、断熱性能が悪化する傾向にある。又、分子量分布の低下に伴い、発泡体表面の平滑性が悪化し、成形性が悪化する傾向にある。更に、難燃剤の分解によって、他の添加剤もしくは樹脂が黒変し、外観不良に繋がる。また、製品カット時等に発生するスクラップを加熱溶融・混練するリサイクル時においても、難燃剤・樹脂の分解が発生することによって、樹脂の黒色化・分子量分布低下が発生しやすくなる傾向にあり、結果としてリサイクル化が困難となり、コストアップに繋がる。
【0059】
一方、エポキシ化合物の含有量が20重量部を超えると、逆に安定剤の安定化効果が過剰となり、難燃剤が発泡体の燃焼時に効果的に分解できず、難燃性能が低下する傾向にある。
【0060】
本発明で用いられるエポキシ化合物としては、エポキシ当量が1000g/eq未満であることが好ましい。エポキシ基が臭素系難燃剤の分解を抑制し、スチレン系樹脂の熱安定性能を向上させていると考えられることから、エポキシ当量が1000g/eq以上であると、難燃剤の分解抑制効果が非常に低いため、結果的に、多量添加する必要があることから、コスト的に現実的ではない。コスト・性能のバランスを鑑みると、500g/eq未満であることがより好ましく、400g/eq未満であることが更に好ましい。
【0061】
本発明で用いられるエポキシ化合物の化学構造としては、コスト、性能、供給安定性の面から、構造式(1)で示されるビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂
【0062】
【化4】
【0063】
、構造式(2)で示されるクレゾールノボラック型エポキシ樹脂
【0064】
【化5】
【0065】
、構造式(3)で示されるフェノールノボラック型エポキシ樹脂
【0066】
【化6】
【0067】
が望ましい。
また、構造式(4)で示されるビスフェノールA骨格に臭素が付加したもの
【0068】
【化7】
【0069】
を用いてもよい。これらは、単独で使用しても良いし、2種類以上を混合して使用しても良い。
【0070】
本発明の発泡剤は少なくとも炭素数が3〜5である飽和炭化水素を含み、更に、水、二酸化炭素、窒素、炭素数が2〜5のアルコール類、ジメチルエーテル、塩化メチル、及び、塩化エチルよりなる群から選ばれる少なくとも一種以上を含むことが好ましい。
【0071】
本発明で用いられる炭素数3〜5の飽和炭化水素としては、例えば、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、n−ペンタン、i−ペンタン、ネオペンタンなどが挙げられる。これらの炭素数3〜5の飽和炭化水素のなかでは、発泡性の点から、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、あるいは、これらの混合物が好ましい。また、発泡体の断熱性能の点から、n−ブタン、i−ブタン(以下、「イソブタン」と呼ぶこともある)、あるいは、これらの混合物が好ましく、特に好ましくはi−ブタンである。
【0072】
ただし、目的とする発泡倍率、難燃性等の発泡体の諸特性いかんによっては、その使用量などが制限される場合があり、押出発泡成形性などが充分でない場合がある。
【0073】
本発明では、さらに、他の発泡剤を用いることにより、発泡体製造時の可塑化効果や助発泡効果が得られ、押出圧力を低減し、安定的に発泡体の製造が可能となる。
【0074】
他の発泡剤としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、イソプロピルエーテル、n−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、フラン、フルフラール、2−メチルフラン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピランなどのエーテル類;ジメチルケトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルn−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチル−i−ブチルケトン、メチル−n−アミルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、エチル−n−プロピルケトン、エチル−n−ブチルケトンなどのケトン類;メタノール、エタノール、プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、t−ブチルアルコールなどの炭素数1〜4の飽和アルコール類;蟻酸メチルエステル、蟻酸エチルエステル、蟻酸プロピルエステル、蟻酸ブチルエステル、蟻酸アミルエステル、プロピオン酸メチルエステル、プロピオン酸エチルエステルなどのカルボン酸エステル類;塩化メチル、塩化エチルなどのハロゲン化アルキル、トランス−1、3、3、3−テトラフルオロプロパ−1−エンなどの有機発泡剤、水、二酸化炭素などの無機発泡剤、アゾ化合物、テトラゾールなどの化学発泡剤などを用いることができる。これら他の発泡剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0075】
他の発泡剤の中では、発泡性、発泡体成形性などの点からは、炭素数1〜4の飽和アルコール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、塩化メチル、塩化エチルなどが好ましく、発泡剤の燃焼性、発泡体の難燃性あるいは後述する断熱性等の点からは、水、二酸化炭素が好ましい。これらの中では、可塑化効果の点からジメチルエーテルが、コスト、気泡径の制御による断熱性向上効果の点から水が特に好ましい。
【0076】
本発明で使用される発泡剤として、少なくともイソブタンを含み、更に、水、二酸化炭素、窒素、炭素数が2〜5のアルコール類、ジメチルエーテル、塩化メチル、および塩化エチルよりなる群から選ばれる少なくとも一種以上を含むことが、発泡体の断熱性能、発泡性、発泡成形性などが両立できる点で好ましい。
【0077】
発泡剤を添加または注入する際の圧力は、特に制限するものではなく、押出機などの内圧力よりも高い圧力であればよい。
【0078】
本発明における発泡剤の使用量は、スチレン系樹脂100重量部に対して、2重量部以上20重量部以下が好ましく、2重量部以上10重量部以下がより好ましい。発泡剤の添加量が2重量部より少ないと、発泡倍率が低く、樹脂発泡体としての軽量、断熱などの特性が発揮されにくい場合があり、20重量部を超えると、過剰な発泡剤量の為、発泡体中にボイドなどの不良を生じる場合がある。
【0079】
本発明においては、スチレン系樹脂押出発泡体製造から1週間後の該押出発泡体中のイソブタンの残存量を、所定量とすることで、JIS A9511の測定方法Aに準じた燃焼試験法に合格し、かつ、延焼長さが10mm以下を示し、更に、優れた断熱性を有するスチレン系押出発泡体を得ることが出来る。
スチレン系樹脂押出発泡体製造から1週間後の該押出発泡体中のイソブタンの残存量は、該押出発泡体1kgあたり0.30mol以上0.60mol以下が好ましく、0.40mol以上0.50mol以下がより好ましい。0.30mol未満では、空気より低い熱伝導率を有するイソブタンの押出発泡体中での量が少なく、押出発泡体へ優れた断熱性を付与できない。一方で、燃焼性の高いイソブタンの量が0.60molを超えるとJIS A9511に準じた燃焼試験法に不合格となる場合がある。
【0080】
本発明においては、他の発泡剤として水やアルコール類を用いる場合には、安定して押出発泡成形を行うために、吸水性物質を添加することが好ましい。本発明に用いられる吸水性物質の具体例としては、ポリアクリル酸塩系重合体、澱粉−アクリル酸グラフト共重合体、ポリビニルアルコール系重合体、ビニルアルコール−アクリル酸塩系共重合体、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、アクリロニトリル−メタクリル酸メチル−ブタジエン系共重合体、ポリエチレンオキサイド系共重合体およびこれらの誘導体などの吸水性高分子の他、表面にシラノール基を有する無水シリカ(酸化ケイ素)[例えば、日本アエロジル(株)製AEROSILなどが市販されている]などのように表面に水酸基を有する粒子径1000nm以下の微粉末;スメクタイト、膨潤性フッ素雲母などの吸水性あるいは水膨潤性の層状珪酸塩並びにこれらの有機化処理品;ゼオライト、活性炭、アルミナ、シリカゲル、多孔質ガラス、活性白土、けい藻土などの多孔性物質等があげられる。
【0081】
本発明で用いられる吸水性物質の添加量は、水の添加量などによって、適宜調整されるものであるが、スチレン系樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上5重量部以下が好ましく、0.1重量部以上3重量部以下がより好ましい。
【0082】
本発明においては、必要に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲で、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、流動パラフィン、オレフィン系ワックスなどの加工助剤、前記以外の難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、帯電防止剤、顔料などの着色剤などの添加剤を含有させることができる。
【0083】
本発明のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法としては、スチレン系樹脂、難燃剤、他の添加剤等を押出機等の加熱溶融手段に供給し、任意の段階で高圧条件下にて発泡剤をスチレン系樹脂に添加し、流動ゲルとなし、押出発泡に適する温度に冷却した後、ダイを通して該流動ゲルを低圧領域に押出発泡して、発泡体を形成することにより製造される。
【0084】
スチレン系樹脂、難燃剤、安定剤、および他の添加剤等の加熱溶融の形態としては、スチレン系樹脂に難燃剤、及びおよび添加剤を混合した後、加熱溶融する;スチレン系樹脂を加熱溶融した後に臭素系難燃剤、及び他の添加剤を添加混合する;予めスチレン系樹脂に臭素系難燃剤、安定剤、及び他の添加剤を混合した後、加熱溶融した組成物を準備し、改めて押出機に供給し加熱溶融する;などが挙げられる。
【0085】
スチレン系樹脂と発泡剤などの添加剤を加熱溶融混練する際の加熱温度、溶融混練時間および溶融混練手段については、特に制限するものではない。
加熱温度は、使用するスチレン系樹脂が溶融する温度以上であればよいが、難燃剤などの影響も含め、樹脂の分子劣化ができる限り抑制される温度、例えば160〜240℃程度が好ましく、更に好ましくは230℃以下である。
溶融混練時間は、単位時間当たりの押出量、溶融混練手段などによって異なるので一概には決定することができないが、スチレン系樹脂と発泡剤が均一に分散混合するのに要する時間が適宜選ばれる。
【0086】
溶融混練手段としては、例えばスクリュー型の押出機などが挙げられるが、通常の押出発泡に用いられているものであれば特に限定はない。
【0087】
本発明の発泡成形方法は、例えば、押出成形用に使用される開口部が直線のスリット形状を有するスリットダイを通じて、高圧領域から低圧領域へ開放して得られた押出発泡体を、スリットダイと密着又は接して設置された成形金型、及び該成形金型の下流側に隣接して設置された成形ロールなどを用いて、断面積の大きい板状発泡体を成形する方法が用いられる。成形金型の流動面形状調整および金型温度調整によって、所望の発泡体の断面形状、発泡体の表面性、発泡体品質が得られる。
【0088】
本発明に係るスチレン系樹脂押出発泡体における厚みは特に限定はないが、例えば建築用断熱材や保冷庫用又は保冷車用の断熱材として機能することを考慮した断熱性、曲げ強度及び圧縮強度の観点から、10mm以上160mm以下であることが好ましく、20mm以上100mm以下であることがより好ましい。
【0089】
本発明のスチレン系樹脂押出発泡体の密度については、軽量でかつ優れた断熱性および曲げ強度、圧縮強度を付与せしめるためには、15〜50kg/m3であることが好ましく、25〜40kg/m3であることがより好ましい。
【0090】
かくして、本発明により、JIS A9511に規定される燃焼性の測定方法Aに合格し、かつ延焼長さが10mm以下の難燃性能を示し、更に、JIS A9511に規定される方法で測定した熱伝導率が0.024W/mK以下を示す、難燃性能及び断熱性能が改善されたスチレン系樹脂押出発泡体を容易に提供することが出来る。
【実施例】
【0091】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明が以下の実施例に限定されないことは勿論である。また、以下の実施例および比較例においては、特に断られない限り、「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を表すものとする。
【0092】
実施例および比較例において使用した原料は、次の通りである。
(A)基材樹脂
・スチレン系樹脂 [PSジャパン(株)製、G9401;MFR2.2g/10分]
(B)熱線輻射抑制剤
・グラファイト [(株)丸豊鋳材製作所製、M−885;鱗(片)状黒鉛、一次粒径5.5μm、固定炭素分89%]
・酸化チタン [堺化学工業(株)製、R−7E;一次粒径0.23nm]
(C)難燃剤
・テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2、3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテル、及びテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2、3−ジブロモプロピル)エーテルの混合臭素系難燃剤[第一工業製薬(株)製、GR−125P]
(D)難燃助剤
・トリフェニルホスフィンオキシド [住友商事ケミカル]
(E)多価アルコール部分エステル化合物
・ジペンタエリスリトール−アジピン酸反応混合物 [味の素ファインテクノ製、プレンライザーST210]
(F)エポキシ化合物
・ビスフェノール−A−グリシジルエーテル [(株)ADEKA製、EP−13]
・クレゾールノボラック型エポキシ樹脂 [ハンツマンジャパン製、ECN−1280]
(G)安定剤
・トリエチレングリコール−ビス−3−(3−t−ブチルー4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート [Songwon Japan(株)製、ソンノックス2450FF]
(H)発泡剤
・イソブタン [三井化学(株)製]
・ジメチルエーテル [岩谷産業(株)製]
・水 [水道水]
(I)その他添加剤
・タルク [林化成(株)製、タルカンパウダーPK−Z]
・ステアリン酸カルシウム [堺化学工業(株)製、SC−P]
・ベントナイト [(株)ホージュン製、ベンゲルブライトK11]
・シリカ [エボニックデグサジャパン(株)製、カープレックスBS−304F]
実施例および比較例にて実施した評価方法は、次の通りである。
【0093】
(1)見掛け密度(kg/m3)
得られたスチレン系樹脂押出発泡体の重量および体積を測定し、以下の式に基づいて発泡体密度を求め、単位をkg/m3に換算した。
見掛け密度(g/cm3)=発泡体重量(g)/発泡体体積(cm3)
(2)イソブタン残存量
得られたスチレン系樹脂押出発泡体をJIS K7100に規定された標準温度状態3級(23℃±5℃)、および標準湿度状態3級(50+20、−10%R.H.)の条件下に静置し、発泡体を製造してから7日間経過した後のイソブタン残存量を以下の設備、手順にて評価した。
a)使用機器;ガスクロマトグラフ GC−2014 [(株)島津製作所製]
b)使用カラム;G−Column G−950 25UM [化学物質評価研究機構製]
c)測定条件;
・注入口温度:65℃
・カラム温度:80℃
・検出器温度:100℃
・キャリーガス:高純度ヘリウム
・キャリーガス流量:30mL/分
・検出器:TCD
・電流:120mA
約130ccの密閉可能なガラス容器(以下、「密閉容器」と言う)に、発泡体から切り出した見掛け密度により異なるが約1.2gの試験片を入れ、真空ポンプにより密閉容器内の空気抜きを行った。その後、密閉容器を170℃で10分間加熱し、発泡体中の発泡剤を密閉容器内に取り出した。密閉容器が常温に戻った後、密閉容器内にヘリウムを導入して大気圧に戻した後、マイクロシリンジにより40μLのヘリウム、イソブタン、ジメチルエーテル、空気の混合気体を取り出し、上記a)〜c)の使用機器、測定条件にて評価した。
【0094】
(3)発泡体の重量平均分子量保持率(以下、「Mw保持率」と略す)
押出機内での熱履歴に伴う樹脂劣化の程度を評価する為に、得られた発泡体の重量平均分子量Mwを、ゲル浸透クロマトグラフ法にて、以下の手順により求めた。
【0095】
a)試料濃度:2.5mg/mL(溶媒;クロロホルム)
b)使用機器:Waters e2695
c)使用カラム:SHODEX GPC−K−806M 2本直結
d)測定条件:温度;40℃、溶媒;クロロホルム、試料注入量;50μL、流速;1.0mL/min、検出方法;UV(254nm)、標準ポリスチレン;SHODEX STANDARD SM−105
得られた発泡体の重量平均分子量Mwをリサイクル回数が0回の発泡体の重量平均分子量Mwで除した値を、該発泡体のMw保持率として、評価した。
【0096】
(4)JIS燃焼性、延焼長さ
JIS A9511:2006Rに準拠し(測定方法Aを採用)、厚さ10mm×長さ200mm×幅25mmの試験片を用い、測定は、スチレン系樹脂押出発泡体の製造後、前記寸法の試験片に切削し、JIS K7100に規定された標準温度状態3級(23℃±5℃)、及び標準湿度状態3級(50+20、−10%R.H.)の条件下に静置し、発泡体を製造してから7日間経過した後に行った。
【0097】
JIS燃焼性の評価基準としては、消炎時間は試験片5個の測定結果の平均値とし、合否判定基準は次の通りとした。
○(合格):3秒以内に炎が消えて、残じんがなく、燃焼限界指示線を超えて燃焼しないこと、の基準を満たす。
×(不合格):上記基準を満たさない。
【0098】
また、発泡体中に含まれる可燃性ガスの延焼によって、発泡体表面のみを延焼するガス表面燃焼に関して、燃焼限界指示線を超えて延焼した長さ(mm)を「延焼長さ」として測定した。「延焼長さ」は試験片5個の測定結果の平均値とした。
【0099】
なお、燃焼限界指示線を超えずにガス表面燃焼が消火した場合には、「延焼長さ」はゼロとみなした。
【0100】
(5)熱伝導率(W/mK)
発泡体を製造してから7日間経過したスチレン系樹脂押出発泡体の熱伝導率を、JIS A9511に準じて測定した。
【0101】
(実施例1)
[樹脂混合物の作製]
スチレン系樹脂100重量部に対して、熱線輻射抑制剤としてグラファイト(M−885)2.5重量部、酸化チタン(R−7E)1.5重量部、難燃剤として、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2、3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテル、及びテトラブロモビスフェノールA−ビス(2、3−ジブロモプロピル)エーテルの混合臭素系難燃剤(GR−125P)3.0重量部、難燃助剤としてトリフェニルホスフィンオキシド1.0重量部、多価アルコール部分エステル化合物として、ジペンタエリスリトール−アジピン酸反応混合物(プレンライザーST210)0.1重量部、安定剤として、ビスフェノール−A−グリシジルエーテル(EP−13)0.2重量部、トリエチレングリコール−ビス−3−(3−t−ブチルー4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート(ソンノックス2450FF)0.2重量部、気泡径調整剤として、タルク(タルカンパウダーPK−Z)0.5重量部、滑剤としてステアリン酸カルシウム(SC−P)0.2重量部、吸水媒体として、ベントナイト(ベンゲルブライトK11)0.4重量部、シリカ(カープレックスBS−304F)0.4重量部をドライブレンドした。該ドライブレンドしたスチレン系樹脂混合物を「GP」と称する。
【0102】
ただし、前記グラファイト、酸化チタンは、あらかじめスチレン系樹脂のマスターバッチの形態として投入した。マスターバッチの混合濃度は、スチレン系樹脂/グラファイトを50重量%/50重量%とし、スチレン系樹脂/酸化チタンを40重量%/60重量%とした。
【0103】
[押出発泡体の作製]
得られたスチレン系樹脂混合物を口径150mmの単軸押出機(第一押出機)と口径200mmの単軸押出機(第二押出機)、及び冷却機を直列に連結した押出機へ、約900kg/hrで供給した。
【0104】
第一押出機に供給した樹脂混合物を、樹脂温度230℃に加熱して溶融ないし可塑化、混練し、発泡剤(スチレン系樹脂100重量部に対して、イソブタン3.3重量部、ジメチルエーテル2.4重量部、および水0.7部を第一押出機の先端付近で樹脂中に圧入した。その後、第一押出機に連結された第二押出機及び冷却機中にて、樹脂温度を約120℃に冷却し、冷却機先端に設けた厚さ6mm×幅400mmの長方形断面の口金(スリットダイ)より大気中へ押出発泡させた後、口金に密着させて設置した成形金型とその下流側に設置した成形ロールにより、厚さ60mm×幅1000mmである断面形状の押出発泡板を得、カッターにて厚み50mm×幅910mm×長さ1820mmにカットした。上記発泡体をリサイクル0回目の発泡体とする。
【0105】
[リサイクルスチレン系樹脂混合物の作製]
得られた発泡体を破砕機にて粉砕したもの、および、カッターにて所定の寸法にカットした際に発生したカット屑を、口径120mmの単軸押出機に供給し、樹脂温度を約230℃に加熱して溶融ないし可塑化、混練し、オープンベント条件下で発泡体に残存する発泡剤を除去した後、ダイスより吐出させ、ストランドカットにてペレット化を行った。該リサイクルスチレン系樹脂混合物を「RP」と称する。
【0106】
[リサイクルスチレン系樹脂混合物を含有する押出発泡体の作製]
得られたRPとGPを50対50の割合で、口径150mmの単軸押出機(第一押出機)と口径200mmの単軸押出機(第二押出機)、及び冷却機を直列に連結した押出機へ、約900kg/hrで供給した以外は、上記押出発泡体の作製条件と同様の操作により、押出発泡体を得た。得られた発泡体を、リサイクル1回目の発泡体とした。
以降、同様のリサイクル樹脂およびリサイクル樹脂含有押出発泡体の作製条件により、リサイクルを2〜5回行った。得られた発泡体の物性を、表1に示す。
【0107】
(実施例2〜7)
表1に示すように、各種配合剤の種類・添加量、及び製造条件を変更した以外は、実施例1と同様の操作により、発泡体を得た。得られた発泡体の物性を、表1に示す。
【0108】
(比較例1〜4)
表2に示すように、各種配合剤の種類・添加量、及び製造条件を変更した以外は、実施例1と同様の操作により、発泡体を得た。得られた発泡体の物性を表2に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
実施例1〜7と比較例1〜4を比較して明らかなように、熱伝導率が0.024W/mK以下と高い断熱性を保持しつつ、軽量で断熱性および難燃性に優れた、高性能且つ経済的なスチレン系樹脂押出発泡体を容易に得られることがわかる。