(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6348744
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】鉄道車両用ストッパ
(51)【国際特許分類】
B61F 5/02 20060101AFI20180618BHJP
B61F 5/08 20060101ALI20180618BHJP
B61F 5/24 20060101ALI20180618BHJP
【FI】
B61F5/02 Z
B61F5/08
B61F5/24 F
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-60109(P2014-60109)
(22)【出願日】2014年3月24日
(65)【公開番号】特開2015-182565(P2015-182565A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年12月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】柏原 広樹
【審査官】
志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】
中国特許出願公開第102588482(CN,A)
【文献】
特公昭43−019967(JP,B1)
【文献】
米国特許第05318282(US,A)
【文献】
特開2014−004983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 5/02 − 5/24
B60G 11/22 − 11/24
B62D 21/11 , 21/15
F16F 1/00 − 3/12
F16F 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性材と、前記弾性材を支持する台座部材とを有し、
鉄道車両側の第1部材と台車側の第2部材との何れか一方と前記弾性材との間に間隙を設ける状態で、前記第1部材と前記第2部材との何れか他方に前記台座部材を支持可能に構成されている鉄道車両用ストッパであって、
前記台座部材に、前記台座部材における前記弾性材が固着されている面に開口する逃がし部を形成し、
前記何れか一方との当接により前記弾性材が圧縮された場合には、その圧縮された前記弾性材が前記逃がし部に入り込むように孕み出し変位可能に構成されている鉄道車両用ストッパ。
【請求項2】
前記逃がし部は、孔、凹み、切欠き、溝、穴から選ばれるものである請求項1に記載の鉄道車両用ストッパ。
【請求項3】
前記台座部材が鋼板製であり、かつ、前記逃がし部が孔である請求項1に記載の鉄道車両用ストッパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用ストッパに係り、詳しくは、弾性材とこれを支持する台座部材とを有し、鉄道車両側の第1部材と台車側の第2部材との何れか一方と弾性材との間に間隙を設ける状態で、第1部材と第2部材との何れか他方に台座部材を支持可能に構成されている鉄道車両用ストッパに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の鉄道車両用ストッパとしては、特許文献1や特許文献2で開示されるものが知られている。特許文献1のものは、車体(12)から下方に突設される左右一対の支持腕(14)の左右間に、台車枠(8)に立設されているストッパ受け(18)を配置してあり、各支持腕(14)には積層ゴム構造のストッパゴム(17)が装備されている。
特許文献2のものは、車体(1)から垂下される相手側固定部材(3)の左右両側のそれぞれに、その相手側固定部材(3)にストッパーゴム(9)が向く状態で台車枠(2)側に支持される可動ストッパー(4)が配備されている。
【0003】
上記いずれの従来技術でも、ストッパは、弾性材とこれを支持する金属板などの台座部材とでなり、台座部材をブラケットなどの装置固定部にボルト止めされている。
そして、ストッパにより、台車と車体(鉄道車両)との間に設置されて、カーブ走行などの際に車体が左右に揺れたときに、車体が過剰に揺れることが規制される。
【0004】
ところで、弾性材と台座部材とでなるストッパの場合、荷重が作用した場合の挙動は
図4に示すようになる。即ち、
図4(X)に示す自由状態において、荷重が弾性材21に作用すると、
図4(Y)に示すように、鋼板などの図示しない当接部材と台座部材22との間で弾性材21が圧縮される。弾性材21がある程度圧縮されている
図4(Y)の状態では、弾性材21が横に拡がり変形するとともに、弾性材21の抜き孔24が消滅している。
【0005】
ストッパS’に掛かる荷重がさらに大きくなると、
図4(Z)に示すように、弾性材21はより圧縮されて、台座部材22の長さ寸法を超えるまで横に拡がり変形し、明確な扁平形状になっている。なお、
図4において23は取付ボルト、24は抜き孔である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭62−125658号公報
【特許文献2】特開平04−283160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
台座部材に弾性材を一体化させた従来のストッパは、構造が簡単で廉価に作ることができて生産性に優れる利点を持つものであるが、大荷重が作用した場合には、急激にバネ定数が上昇し過ぎる傾向があった。つまり、
図4(Z)のような状態になると、従来のストッパS’ではその弾性材21がいわゆるハードニングを起こし、衝撃吸収作用が鈍ってショックが大きくなる、という慢性的な問題があった。ハードニングは、
図6の「荷重−たわみグラフ」にて破線で示されるように、荷重がある程度以上に大きくなると、たわみは殆ど増加しないようになること、すなわち殆どリジッド状態になってしまうことである。
【0008】
そこで、従来のストッパS’(
図4を参照)において、例えばゴム硬度を少し下げるなど弾性材21を柔らかくする試作品が試され、その試作品の「荷重−たわみグラフ」は、
図6に実線で示されるようになった。
図6から分るように、従来のストッパS’に比べて、試作品では、荷重に対するたわみ(たわみ量)が若干増える程度であり、大荷重状態になると荷重が増加してもたわみが殆ど増えないようになること、即ちハードニングが起きることには変わりが無く、従って、更なる改善の余地が残されているものであった。
【0009】
本発明の目的は、台座部材に弾性材が一体化されてなる構造を採りながらも、大荷重が作用したときのハードニングが解消又は軽減され、ショック吸収作用が改善されるようになる鉄道車両用ストッパを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、弾性材1と、前記弾性材1を支持する台座部材2とを有し、
鉄道車両側の第1部材11と台車側の第2部材12との何れか一方と前記弾性材1との間に間隙を設ける状態で、前記第1部材11と前記第2部材12との何れか他方に前記台座部材2を支持可能に構成されている鉄道車両用ストッパにおいて
前記台座部材2に
、前記台座部材2における前記弾性材1が固着されている面2bに開口する逃がし部10を形成し、
前記何れか一方との当接により前記弾性材1が圧縮された場合には、その圧縮された前記弾性材1が前記逃がし部10に入り込むように孕み出し変位可能に構成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の鉄道車両用ストッパにおいて、
前記逃がし部10は、孔、凹み、切欠き、溝、穴から選ばれるものであることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明は、
請求項1に記載の鉄道車両用ストッパにおいて、
前記台座部材2が鋼板製であり、かつ、前記逃がし部10が孔であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、例えば第1部材と弾性材とが当接して弾性材が圧縮された場合には、圧縮された弾性材がその弾性変位により、台座部材に形成されている逃がし部へ入り込むように孕み出し変位可能である。故に、ストッパに作用する荷重が従来品に作用する荷重と互いに等しい場合には、ストッパのたわみは従来のストッパのたわみよりも大きくなり、大荷重が作用したときのハードニング現象が軽減又は抑制されるようになる。
従って、ストッパに大荷重が掛かったときのバネ定数の増加具合が従来よりも緩やかになり、効果的なショック吸収作用が得られるので、衝撃吸収作用が鈍ってショックが大きくなる、という従来の慢性的な問題が大きく改善される鉄道車両用ストッパを提供することができる。
【0014】
この場合、
請求項1のように、台座部材における弾性材が固着されている面に開口する逃がし部とすれば、ごみや異物の不測の逃がし部への入り込みが生じない又は生じ難くなって、弾性材の逃がし部への孕み出し変位が確約されるものとなるか
ら、前記作用効果を確実に発揮できる利点がある。
【0015】
また、逃がし部は、
請求項2のように、状況に応じて、孔、凹み、切欠き、溝、穴から選ばれたものとすることができるとともに、
請求項3のように、台座部材を鋼板製としてプレス成形などにより一挙に逃がし部である孔も形成できる、という経済的なストッパとすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】鉄道車両用ストッパを示し、(a)は平面図、(b)は一部切欠きの正面図
【
図2】(a)は
図1のストッパの底面図、(b)は
図1のストッパの側面図
【
図3】本発明ストッパの荷重に対する変形状況を示し、(A)は自由状態、(B)はある程度の荷重が作用した状態、(C)は重荷重が作用した状態
【
図4】従来ストッパの荷重に対する変形状況を示し、(X)は自由状態、(Y)はある程度の荷重が作用した状態、(Z)は重荷重が作用した状態
【
図5】本発明及び従来ストッパの荷重とたわみとの関係を示す図
【
図6】ゴム硬度が互いに異なる従来ストッパの荷重とたわみとの関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明による鉄道車両用ストッパの実施の形態を、図面を参照しながら説明する。簡単のため、以降においては、「鉄道車両用ストッパ」は単に「ストッパ」と略称するものとする。
【0018】
〔実施例1〕
ストッパ(鉄道車両用ストッパ)Sは、
図1,
図2に示すように、ゴムでなる弾性材1と、厚肉の鋼板でなるとともに前記弾性材1を加硫接着により一体化して支持する台座部材2と、台座部材2に固定される一対の取付ボルト3,3とを有して構成されている。
なお、説明上、台座部材2の長手方向である矢印Pを左右、台座部材2の面と平行な方向にて矢印Pに直交する矢印Qを前後、そして矢印P,Qの双方に直交する矢印Rを上下、と定義するものとする。
【0019】
弾性材1は、直方体をなす下部1Aと、台形をなす上部1Bと、一対のスカート部1C,1Cとを有し、平面視で矩形を、かつ、正面視及び側面視で略台形を為すゴム塊で形成されている。そして、弾性材1は、加硫接着により台座部材2の上面(「弾性材が固着されている面」の一例)2bに一体化されている。各スカート部1Cは、台座部材2の上面2bの左右(矢印P)の端部を覆う薄膜状のものであり、
図1(b)に示すように、貫通する取付ボルト3の端部も覆うものとしても良い。
【0020】
下部1Aには、正面視で略三角形を呈して前後(矢印Q)に貫通する抜き孔4が形成されている。抜き孔4の断面形状は、上下に扁平な長円など、略三角形以外の形状でも良い。上部1Bは、前後左右の傾斜側面5,6,7,8を持つ上窄まり状の形状を呈し、平らな上面9が形成されている。弾性材1の前後幅寸法と、台座部材2の前後幅寸法とは同等に形成されているが、その限りでなくても良い。
【0021】
台座部材2は、
図1(a)や
図2(a)に示されるように、平面視で矩形をなすいわゆる鉄板であり、その長手方向である左右両端部で前後方向の中央のそれぞれに、取付ボルト3が圧入、溶着、焼嵌め、冷し嵌めなどの手段により下面2aから突出する状態で一体化されている。
そして、台座部材2には、前後に長い長円形の孔でなる逃がし部10が左右一対の計2ヶ所に形成されている。各逃がし部10は、その左右方向の位置が抜き孔4のほぼ左右端に合致する状態で、かつ、弾性材1が固着される面である上面2b側が滑らかな曲線でもって開花する上拡がり状となる貫通孔に形成されている。
【0022】
台座部材2に逃がし部10,10が形成されていることにより、ストッパSは、弾性材1が圧縮された場合にはその圧縮された弾性材1が各逃がし部10,10に入り込み変位可能に構成されている。各逃がし部10は、台座部材2における弾性材1が固着されている面である上面2bに開口する前後方向(矢印Q方向)に長い長円(長角丸)形状の孔として形成されている。
【0023】
以上のように構成されるストッパSの実際の使用例について、ここで簡単に説明する。ストッパSは、
図7に示すように、鉄道車両の台車部分に構成される横揺れ規制機構Eの構成要素として用いられている。一対の台車枠(第2部材の一例)12の間に、鉄道車両Dに垂下支持される牽引枠(第1部材の一例)11が配備されるとともに、各台車枠12,12と牽引枠11の上部とに亘ってダンパ13が架設されている。牽引枠11の下端部には牽引リンク15が軸支されている。
【0024】
ストッパSは、その台座部材2が各台車枠12のアーム部12aにボルト止めされ、かつ、左右の牽引枠11の上下中間部位に一体化された板金製の受け台14の側面14aに隙間を設けて弾性材1が対向配備される状態で組み込まれて、横揺れ規制機構Eが構成されている。この横揺れ規制機構Eにより、横揺れは左右のダンパ13,13によって減衰されるとともに、大きな横揺れに対しては、一対のストッパS,Sと受け台14との当接によって対処される。
【0025】
次に、ストッパSの作用について説明する。ストッパSに荷重が作用した場合の挙動変化を
図3に示す。
図3(A)に示す自由状態において、荷重が弾性材1の上面9に作用すると、
図3(B)に示すように、受け台14(
図7参照)などの当接部材(第1部材に相当するものであり、図示省略)との当接により、その当接部材と台座部材2との間で弾性材1が圧縮される。
この
図3(B)と従来のストッパS’による圧縮途中の
図4(Y)までの間は、
図5の「荷重−たわみグラフ」に示されるように、互いに同様の挙動を示している。
【0026】
そして、ストッパSに掛かる荷重がさらに大きくなると、
図3(C)に示すように、弾性材1はより圧縮されて前後左右に拡がり変形するとともに、左右一対の逃がし部10,10にその上方開口部から下方に入り込むように弾性変形して孕み出すこと(膨出変位とも言う)で下方変形部1aが形成される状態となる。
この逃がし部10への弾性材1の孕み出し変位は、
図3(B)に示す状態からさらに荷重が大きくなる頃から始まる。つまり、
図5に示されるように、ストッパSに作用する荷重が、それによる弾性材1のたわみがBのときの値となるとき以上において弾性材1の逃がし部10への孕み出し変位が見られ、荷重が増すとともに孕み出し量(入り込み量)も大きくなる。
【0027】
図5に示すように、本発明によるストッパSにおいては、荷重がBのときの値以上になった範囲での実線ラインの傾きが破線で示される従来品のものより明らかに緩くなることが理解できる。つまり、圧縮されることによる弾性変形により、弾性材1が逃がし部10へ入り込むように孕み出し変位することが可能になるから、従来品と互いに荷重が等しい場合には、ストッパSのたわみは従来のストッパS’のたわみよりも大きくなり、大荷重が作用したときのハードニング現象が軽減又は抑制されるようになる。
従って、ストッパSに大荷重が掛かったときのバネ定数の増加具合が従来よりも緩やかになり、効果的なショック吸収作用が得られるので、衝撃吸収作用が鈍ってショックが大きくなる、という従来の慢性的な問題が大きく改善されている。
【0028】
以上述べたストッパSにおいては、台座部材である金具2に弾性材であるゴム1が孕み出しによって逃げ込める逃がし部10が形成されているので、大荷重がストッパSに負荷された場合、ゴム1が金具2の逃がし部10に逃げるため、ハードニングが起きず、所期する一定の特性を維持することができるものとなる。孕み出たゴム1が逃がし部10から戻り変位する際に、ゴム1と金具2との間に摩擦が発生するため、それによってエネルギーを吸収すること(反力による車両の揺れ返しを抑えること)が可能となる。
このように、台座部材2に逃がし部10を設ける工夫によれば、ストッパSの外郭形状は従来と同じであるから、鉄道車両や台車等の周辺部位には何らの変更なく、ストッパSの部品交換のみで対策が可能であり、実用上の利点が大である。また、ゴムの圧縮量を従来品に比べて小さくできるので、耐衝撃力にも優れる。
【0029】
〔別実施形態〕
図8に示すように、長円形で左右一対の逃がし部10,10が、上下方向視で丁度抜き孔4の左右方向の幅寸法内に収まる状態に台座部材2に配置形成される構成のストッパSでも良い。
【0030】
そして、図示は省略するが、逃がし部10は、要は弾性材1が孕み出し変位可能なものであれば良く、
図1や
図8に示すものにおいて下端が開放されず行き止まり状態となったもの、即ち上面2bに開口する穴や凹みでも良い。また、図示は省略するが、逃がし部10は、上面2bに開口して前後に貫通する溝、或いは前後に貫通しない状態で、前及び/又は後に開放される切欠きなど、種々の変更設定が可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 弾性材
2 台座部材
2b 弾性材が固着されている面
10 逃がし部
11 第1部材
12 第2部材