(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6348766
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】車両用サスペンション
(51)【国際特許分類】
B60G 7/02 20060101AFI20180618BHJP
F16F 1/38 20060101ALI20180618BHJP
【FI】
B60G7/02
F16F1/38 S
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-92439(P2014-92439)
(22)【出願日】2014年4月28日
(65)【公開番号】特開2015-209145(P2015-209145A)
(43)【公開日】2015年11月24日
【審査請求日】2017年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120514
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】樋口 義朗
【審査官】
田々井 正吾
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−140137(JP,A)
【文献】
実開昭55−028123(JP,U)
【文献】
特開2006−160008(JP,A)
【文献】
実公昭50−039543(JP,Y2)
【文献】
特開平05−010363(JP,A)
【文献】
実開昭60−180611(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0200587(US,A1)
【文献】
実開昭63−121835(JP,U)
【文献】
実開昭59−189938(JP,U)
【文献】
実開平03−094440(JP,U)
【文献】
特開2001−301434(JP,A)
【文献】
特開2003−191736(JP,A)
【文献】
特開平09−104212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 7/02
F16F 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向に間隔を隔てて車両前後方向に延び、かつ後部に車軸が設けられているとともに、前端部が車体側のブラケットに対して上下方向に回転可能に連結されている左右一対のトレーリングアームと、
上部が前記ブラケットとは異なる車体側のブラケットに支持され、かつ下部がゴムブッシュを介して前記各トレーリングアームと相対動可能に連結されるショックアブソーバと、
を備えており、
前記ゴムブッシュは、内筒と外筒との間にゴム弾性体が介装され、かつこれらの中心軸は車幅方向に延びる構成とされており、
前記外筒には、前記ショックアブソーバの下部が連結され、
前記内筒は、少なくともその一端部が前記トレーリングアームの後部に設けられた支持壁部に当接するようにして前記支持壁部に支持されている、車両用サスペンションであって、
前記支持壁部には、この支持壁部と前記内筒との当接部分よりも前記ゴムブッシュの幅方向中心側に位置するように屈曲または湾曲し、かつ前記外筒に前記ショックアブソーバのこじり力が作用していない状態において、前記ゴム弾性体の側面に隙間を介して対面する傾斜部が設けられており、
前記外筒に前記ショックアブソーバのこじり力が作用したときには、前記ゴム弾性体の側面が前記傾斜部に当接可能とされていることを特徴とする、車両用サスペンション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムブッシュが用いられている車両用サスペンションに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用サスペンションにおいては、特許文献1に記載されているように、2つの部材を相対動可能に連結する場合、ゴムブッシュがよく用いられる。このようなゴムブッシュの一例を、
図4に示す。同図に示すゴムブッシュBeは、内筒5と外筒6との間にゴム弾性体7が介装された構造を有している。外筒6は、可動部材96と連結され、内筒5は、ブラケット3の左右一対の支持壁部30に支持される。ゴムブッシュBeのバネ特性のパラメータとしては、捩じり力(中心軸CL周りの力)に対するバネ特性、軸長方向の力に対するバネ特性、およびこじり力(外筒6の中心軸を傾かせるように作用する力)に対するバネ特性などがある。
【0003】
ゴムブッシュBeに作用する荷重の大きさや方向は一定ではなく、これらは車両の走行状況に応じて大きく変化する。たとえば、車両の直進走行時のバウンド・リバウンド時には、ゴムブッシュBeに捩じり力が作用し、コーナリング時にはこじり力が作用するような場合がある。走安性を良くする上では、前記したいずれの種類の力を受けた場合であっても、好適に対応できるようにすることが望まれる。
【0004】
しかしながら、
図4に示したゴムブッシュBeにおいては、捩じり力とこじり力とのそれぞれに対するバネ特性を個別に、かつ適切にコントロールすることが難しいものとなっている。とくに、こじり力が大きい場合には、これに対して十分な抵抗力となるバネ力を生じさせることが難しいものとなっている。
これを解消するための手段としては、たとえば
図5に示すように、ゴム弾性体7の幅を拡大し、ゴム弾性体7の両側面を一対の支持壁部30に当接させることが考えられる。ところが、このような手段によれば、ゴム弾性体7の捩じり変形が阻害されることとなる。したがって、やはり捩じり力およびこじり力のそれぞれに対するバネ特性を適切にコントロールすることは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−104212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであり、ゴムブッシュの捩じり力とこじり力に対する個々のバネ特性を容易かつ適切にコントロールすることができ、車両の走安性を高めることが可能な車両用サスペンションを提供することを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0008】
本発明により提供される車両用サスペンションは、
車幅方向に間隔を隔てて車両前後方向に延び、かつ後部に車軸が設けられているとともに、前端部が車体側のブラケットに対して上下方向に回転可能に連結されている左右一対のトレーリングアームと、上部が前記ブラケットとは異なる車体側のブラケットに支持され、かつ下部がゴムブッシュを介して前記各トレーリングアームと相対動可能に連結されるショックアブソーバと、を備えており、前記ゴムブッシュは、内筒と外筒との間にゴム弾性体が介装され
、かつこれらの中心軸は車幅方向に延びる構成とされており、前記外筒には、前記
ショックアブソーバの下部が連結され、前記内筒は、少なくともその一端部が前記
トレーリングアームの後部に設けられた支持壁部に当接するようにして前記支持壁部に支持されている、車両用サスペンションであって、前記支持壁部には、この支持壁部と前記内筒との当接部分よりも前記ゴムブッシュの幅方向中心側に位置するように屈曲または湾曲し、かつ前記外筒に
前記ショックアブソーバのこじり力が作用していない状態において、前記ゴム弾性体の側面に隙間を介して対面する傾斜部が設けられており、前記外筒に
前記ショックアブソーバのこじり力が作用したときには、前記ゴム弾性体の側面が前記傾斜部に当接可能とされていることを特徴としている。
【0009】
このような構成によれば、次のような効果が得られる。
すなわち、ゴムブッシュにこじり力が作用していない場合には、ゴムブッシュのゴム弾性体は、支持壁部の傾斜部に非接触であるため、ゴム弾性体の捩じり変形が前記傾斜部によって抑え込まれるようなことはなく、捩じり力に対するゴムブッシュの特性を好適にコントロールすることができる。一方、ゴムブッシュにこじり力が作用した場合には、ゴム弾性体が支持壁部の傾斜部に当接する作用により、こじり力に対する十分な抵抗力を発揮させ、所望のバネ特性を得ることができる。したがって、ゴムブッシュの捩じり力とこじり力に対する個々のバネ特性を容易かつ適切にコントロールし、車両の走安性を高めることが可能となる。
また、前記した効果は、ゴムブッシュを支持する支持壁部に傾斜部を設けるという簡易な構成により得られるものであるため、重量の増加や、製造コストの上昇も好適に抑制することができる。
【0010】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る車両用サスペンションの一例を示し、(a)は、要部概略側面図であり、(b)は、要部概略背面図である。
【
図2】(a)は、
図1(b)のIIa部の拡大断面図であり、(b)は、(a)に示す部分の作用を示す要部断面図である。
【
図3】
車両用サスペンションの他の例を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
図面において、矢印Frは車両前方を示し、矢印Upは上方を示し、矢印Wは車幅方向を示している。
また、説明の便宜上、先に述べた
図4および
図5に示した構成要素と同一または類似の要素には、それらと同一の符号を用いることとする。
【0013】
図1に示す車両用サスペンションSは、トレーリングアーム式のリヤサスペンションであり、後述するトレーリングアーム1とショックアブソーバ2との連結部分の構造に特徴を有している。
具体的に説明すると、車両用サスペンションSは、車両前後方向に延び、かつ後部10bに車軸92が設けられたトレーリングアーム1を備えている(符号90は、車輪を示す)。トレーリングアーム1は、車幅方向に間隔を隔てて左右一対に設けられており、これらは車幅方向に延びるクロスビーム19を介して互いに連結されている。トレーリングアーム1の前端部10aは、車体4のブラケット40に対し、ゴムブッシュB’を介して上下方向に回転可能に連結されている。このゴムブッシュB’とブラケット40との連結部分の構造は、好ましくは、
図2を参照して後述するのと同様な構造とされる。ただし、従来既知の構造(たとえば、
図4に示した構造)と同様な構造とすることも可能である。
【0014】
トレーリングアーム1の後部10b側には、バネ91が装着されている他、上部2aが車体側ブラケット41に支持されたショックアブソーバ2の下部2bがゴムブッシュBを介して連結されている。
この部分の構造は、
図2(a)に示すような構造とされている。すなわち、ゴムブッシュBは、内筒5と外筒6との間にゴム弾性体7が介装された構成であり、外筒6には、ショックアブソーバ2の下部2bが連結されている。内筒5は、トレーリングアーム1の後部に設けられたブラケット3との連結が図られている。ブラケット3は、互いに間隔を隔てて対面する左右一対の支持壁部30を有しており、内筒5は、それら一対の支持壁部30に両端が挟まれた状態とされ、かつボルト98およびナット99の締結により一対の支持壁部30との連結が図られている。
【0015】
ゴムブッシュBのゴム弾性体7の両側面70は、外方に向けて適度な曲率半径で膨出する曲面状とされている。一方、各支持壁部30には、曲げ加工が施され、第1および第2の傾斜部30a,30bが設けられている。これら第1および第2の傾斜部30a,30bは、支持壁部30と内筒5の端部との当接部分よりもゴムブッシュBの幅方向中心側に位置するように屈曲または湾曲した部分であって、ゴム弾性体7の側面70に対面している。
図2(a)のように、外筒6にこじりを生じていない状態においては、第1および第2の傾斜部30a,30bのそれぞれは、ゴム弾性体7の側面70には非接触であり、これらの間には、隙間Cが形成されるように設定されている。これに対し、
図2(b)に示すように、外筒6にこじりを生じた際には、ゴム弾性体7の側面70が第1および第2の傾斜部30a,30bに当接するようになっている。この場合、ゴム弾性体7の側面70は、左右一対の支持壁部30のうち、一方の支持壁部30の第1の傾斜部30aに当接するとともに、他方の支持壁部30の第2の傾斜部30bにも当接するようになっている。
【0016】
次に、前記した車両用サスペンションSの作用について説明する。
【0017】
まず、
図2(a)に示すように、ゴムブッシュBにショックアブソーバ2のこじり力が作用していない状態においては、ゴム弾性体7が各支持壁部30の第1および第2の傾斜部30a,30bとは非接触であるため、ゴム弾性体7の捩じり変形が第1および第2の傾斜部30a,30bによって抑え込まれるようなことはない。このため、捩じり力に対するゴムブッシュBの特性を好適にコントロールすることができる。
【0018】
一方、
図2(b)に示すように、ゴムブッシュBにショックアブソーバ2のこじり力が作用した場合には、既述したように、ゴム弾性体7の側面70が第1および第2の傾斜部30a,30bに当接する。このため、前記こじり力に対する十分な抵抗力をゴム弾性体7に発揮させることが可能となり、所望のバネ特性を得ることができる。
このようことから、ゴムブッシュBの捩じり力とこじり力に対する個々のバネ特性を容易かつ適切にコントロールし、車両の走安性を高めることができる。
【0019】
前記した効果は、一対の支持壁部30に曲げ加工を施して第1および第2の傾斜部30a,30bを設ける手段により得られている。このため、重量の増加や、製造コストの上昇も好適に抑制することができる。
【0020】
図3は、
車両用サスペンションの他の実施形態を示している。
同図に示す実施形態においては、ゴムブッシュBの内筒5に挿通するボルト98が、車体1Aに固定されており、このことにより内筒5が車体1Aの壁部(支持壁部10)に当接した状態で支持されている。ゴムブッシュBの取り付けに際し、ブラケットは用いられていない。車体1Aの支持壁部10には、この支持壁部10と内筒5の端部との当接箇所よりもゴムブッシュBの幅方向中心側に位置するように屈曲または湾曲した第1および第2の傾斜部10a,10bが設けられている。外筒6にこじりが生じていないときには、傾斜部10aとゴム弾性体7の側面70との間に隙間Cが形成されているが、外筒6にこじりが生じたときには、ゴム弾性体7の側面70が第1および第2の傾斜部10a,10bのいずれか一方に圧接する構成とされている。
本実施形態おいても、前記した実施形態と同様に、ゴムブッシュBの捩じり力とこじり力のそれぞれに対して好適に対処することができ、それら双方の力に対する個々のバネ特性を、やはり容易かつ適切にコントールすることが可能である。
【0021】
本発明では、ゴムブッシュの支持手段として、必ずしもブラケットを用いなくてもよく、ゴムブッシュ
をいわゆる直付け状態に取り付けてもよい。ゴムブッシュの内筒を支持する支持壁部、およびこの支持壁部に設けられる傾斜部は、必ずしも左右一対で設けられていなくてもよい。
【0022】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係る車両用サスペンションの各部の具体的な構成は、本発明の意図する範囲内において種々に設計変更自在である。
【0023】
たとえば、
図2に示した実施形態においては、支持壁部30に第1および第2の傾斜部30a,30bの双方が設けられているが、これとは異なり、第1および第2の傾斜部30a,30bのいずれか一方のみが設けられた構成とすることもでき
る。
ゴムブッシュBのゴム弾性体7の側面70は、外方に膨出した湾曲状とすることに代えて、外方に膨出しない非湾曲状の傾斜面などとすることもできる
。
【符号の説明】
【0024】
B ゴムブッシュ
S 車両用サスペンション
1 トレーリングアー
ム
1A 車
体
10 支持壁部
10a,10b 第1および第2の傾斜部(傾斜部)
2 ショックアブソー
バ
3 ブラケット
30 支持壁部
30a,30b 第1および第2の傾斜部(傾斜部)
5 内筒
6 外筒
7 ゴム弾性体
70 側面(ゴム弾性体の)