【実施例1】
【0014】
図1は本発明の第1の実施例である同期電動機の駆動システム(以下モータ駆動システムと記す)の構成を示すブロック図である。
【0015】
本実施例のモータ駆動システムは、永久磁石同期モータ4(図中の「PMSM」(Permanent Magnet Synchronous Motorの略記))を駆動するものであり、概略的に次のような構成を有する。すなわち、このモータ駆動システムは、永久磁石同期モータ4,直流(DC)電源31の直流電力を三相交流電力に変換して永久磁石同期モータ4に三相交流電力を出力するインバータ装置3,指令発生器1が発生する電圧指令に応じた交流電圧を出力するようにインバータ装置3を制御する制御器2,制御器2が用いる永久磁石同期モータ4の回転子位置情報を取得する非通電相ゼロクロス検出器23,制御器2および非通電相ゼロクロス検出器23が参照する各部の電圧を検出する電圧状態検出器(21,22)を備える。本実施例は、電圧状態検出器として、インバータ装置3の直流(DC)電源31の直流電源電圧を検出する電源電圧検出器21と、永久磁石同期モータ4の交流端子電圧すなわちインバータ装置3の出力端子電圧(以下、「交流端子電圧」と記す)を三相交流の各相について検出する相電圧検出器22とを備える。
【0016】
次に、上記の構成並びにその細部について、さらに説明する。
【0017】
指令発生器1は、インバータ装置3が出力する交流端子電圧を制御器2に指令するための電圧指令信号を発生する回路である。指令発生器1は、制御器2の前段に位置する制御器である。たとえば、永久磁石同期モータ4の速度および電流を制御する場合、指令発生器1は、速度制御部(ASR)および電流制御部(ACR)を備える制御器である。この電圧指令は、パルス幅変調(PWM)制御に用いられる変調波となる。
【0018】
制御器2は、指令発生器1が発生する電圧指令に応じて、インバータ装置3を駆動するために、パルス幅変調(PWM)された駆動制御信号を生成して出力する回路である。本実施例において、制御器2は、以下に説明するPWM発生器5,通電モード決定器6,ゲート信号切替器7,モード切替トリガ発生器8を備える。
【0019】
PWM発生器5は、指令発生器1が出力する電圧指令に基づき、パルス幅変調されたPWM波を生成する回路である。具体的なPWM変調方式としては、例えば、電圧指令すなわち変調波と、搬送波である三角波とを比較してPWM波を発生する、公知のPWM変調方式が適用できる。
【0020】
通電モード決定器6は、インバータ装置3の通電モード(各相の通電,非通電)を決定するモード指令信号を出力する。通電モード決定器6は、モード切替トリガ発生器8が発生するモード切替トリガ信号をトリガとして、出力するモード指令信号を順次切り替える。
【0021】
ゲート信号切替器7は、インバータ主回路部32のパワースイッチング素子Sup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnがどのような動作でスイッチングするかを、通電モード決定器6の出力であるモード指令信号に基づいて決定する。この決定に従い、ゲート信号切換器7は、各パワースイッチング素子をオン・オフ動作させるための駆動制御信号をインバータ装置3に出力する。例えば、U相が非通電相かつV,W相が通電相である通電モード(
図2の通電モード6)の場合、ゲート信号切替器7は、パワースイッチング素子Sup,Sunをオフすると共に、パワースイッチング素子Svn,Swpをオンするような駆動制御信号を出力する。本通電モードから、U,V相が通電相かつW相が非通電相である通電モード(
図2の通電モード1)に切り替わった場合、ゲート信号切替器7は、出力する駆動制御信号を、パワースイッチング素子Sup,Svnをオンすると共に、パワースイッチング素子Swp,Swnをオフするような駆動制御信号に切り替える。
【0022】
なお、本実施例において、ゲート信号切替器7が出力する駆動制御信号は、出力プリドライバ回路33によって、6個のゲート電圧信号に変換されて、パワースイッチング素子Sup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnのゲート端子に与えられる。出力プリドライバ回路33においては、その出力に、図示しないゲート制御電源を、スイッチ素子を介して接続し、このスイッチ素子をゲート信号切替器7が出力する駆動制御信号によってオン・オフすることにより、ゲート電圧信号が作成される。
【0023】
モード切替トリガ発生器8は、通電モード決定器6に対して、モード切替トリガ信号によって、通電モードの変更を通知し、駆動制御信号の切り替えを指示する回路である。モード切替トリガ発生器8は、次に説明するような基準レベル切替器9,非通電相端子電圧値出力器10,比較器11を備える。
【0024】
基準レベル切替器9は、永久磁石同期モータ4の非通電相に発生する誘起電圧(変圧器起電圧)と比較する基準電圧値を出力する回路である。基準レベル切替器9は、基準電圧値の正負や大きさを切り替えるが、この切り替えのタイミングは、通電モード決定器6の出力であるモード指令信号によって設定される。
【0025】
非通電相端子電圧値出力器10は、3相の交流端子電圧の中から非通電相の交流端子電圧を、通電モード決定器6が出力するモード指令信号に従って選択し、選択した非通電相の交流端子電圧値を、PWM発生器5が発生するPWM波と非通電相ゼロクロス検出器23が発生するゼロクロスタイミング信号に応じてサンプリングして出力する回路である(後述する
図7参照)。
【0026】
比較器11は、基準レベル切替器9が出力する基準電圧値と、非通電相端子電圧値出力器10が出力する非通電相の交流端子電圧値を比較し、比較結果に応じて通電モード決定器6にモード切替トリガ信号を出力する回路である。
【0027】
インバータ装置3は、直流電源31の直流電源電圧を、パワースイッチング素子のオン・オフ動作によって三相交流電圧に変換して永久磁石同期モータに印加する回路である。インバータ装置3は、6個のパワースイッチング素子Sup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnからなる三相ブリッジ回路を備えるインバータ主回路部32と、インバータ主回路部32を直接駆動制御する出力プリドライバ回路33とを備える。インバータ主回路部32においては、出力プリドライバ33が出力するゲート電圧信号に応じて、通電モード決定器6によって決定される通電モードの動作が実行されるように、各パワースイッチング素子のオン・オフ動作が切り替えられる。また、出力プリドライバ回路33は、通電モード決定器6によって決定される通電モードに応じてゲート信号切替器7が出力する駆動制御信号を、各パワースイッチング素子のゲートに供給するゲート電圧信号を出力する。
【0028】
なお、
図1には、パワースイッチング素子として、ダイオードが逆並列に接続される絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)を示しているが、これに限らず、パワーMOSFETなどの他のパワースイッチング素子を適用することができる。
【0029】
電源電圧検出器21は、直流電源31の直流電源電圧値を検出して、非通電相ゼロクロス検出器23と、制御器2におけるPWM発生器5とに出力する。また、相電圧検出器22は、三相交流の各相の交流端子電圧値を検出して、制御器2における非通電相端子電圧値出力器10と、非通電相ゼロクロス検出器23に出力する。なお、電源電圧検出器21によって検出される直流電源電圧値に基づいて、PWM発生器5は、PWMの振幅を設定したり、変調率を演算してPWM制御に用いたりする。
【0030】
非通電相ゼロクロス検出器23は、ゲート信号切替器7が出力する駆動制御信号と、電源電圧検出器21が出力する直流電源31の直流電源電圧値と、相電圧検出器22が出力する三相分の交流端子電圧値に基づき、非通電相の交流端子電圧のゼロクロスを検出し、ゼロクロスするタイミングを示すゼロクロスタイミング信号を出力する。後述するように、検出される非通電相の交流端子電圧は誘起電圧(変圧器起電圧)である。変圧器起電圧は、背景技術に関して上述したように、永久磁石同期モータ4の回転子の回転速度によらず、通電相巻線が発生する磁束が変化することによって非通電相巻線に誘起される。また、変圧器起電圧は、回転子の磁極位置によって変化するため、回転子磁極の位置情報を含んでいる。このため、非通電相に発生する変圧器起電圧を用いることにより、零速度領域や低速度域において、センサレス制御が可能になる。また、非通電相に発生する変圧器起電圧のゼロクロスタイミングを検出して、変圧器起電圧の電圧値をサンプリングすることにより、変圧器起電圧に重畳するノイズの影響を低減できる。このため、変圧器起電圧の検出精度が向上するので、高精度なセンサレス制御あるいは安定したセンサレス制御が可能になる。
【0031】
次に、本実施例の基本動作について説明する。
【0032】
図2は、本実施例で制御の対象となる永久磁石同期モータ4の通電モードの定義と、各相の交流端子電圧波形の一例を示す。本図では、電気角60度毎に切り替わる通電モード1〜6と、各相のインバータ出力を示している。たとえば、通電モード3においては、U相は非通電相となっており、
図1のインバータ主回路部32のパワースイッチング素子Sup,Sunはいずれもオフ、V相はSvpがオンし続け、W相はSwnがPWM(パルス幅変調)動作を行う。なお、本実施例においては、120度通電方式が用いられるが、120度通電期間の前半60度では、連続して電圧が印加され、後半60度では、PWMパルス電圧が印加される。
【0033】
このような通電モード1〜6が、電気角60度ごとに順次切り替わることで、回転磁界が発生し、永久磁石同期モータ4は回転力を得て駆動される。このとき、永久磁石が取り付けられている回転子に対して、トルクが発生するように、回転子の磁極位置に応じて、通電モードを切り替えるタイミングが設定される。
【0034】
一般的な120度通電における位置センサレス制御では、非通電相に発生する誘起電圧(速度起電圧)の信号をトリガに通電モードの切り替えを行う。例えば、U相が非通電相である通電モード3および通電モード6では、永久磁石同期モータ4の速度起電圧Emu(
図2中の破線)は、各通電モードの中間時に「0」ボルトレベルをクロスする。よって、このゼロクロスを基準にして、次の通電モードへの移行を行うことができる。しかしながら、速度起電圧は、回転速度が零速度領域や低速度領域では小さくなるため、ノイズの影響が大きくなり、検出が難しくなる。
【0035】
そこで、本実施例においては、まず、特許文献1について上述したような、非通電相に生じる変圧器起電圧を用いて回転子位置情報を得るセンサレス制御技術が用いられる。本センサレス制御技術では、インバータ装置3によって通電相の巻線にパルス電圧を印加する際に非通電相の巻線に生じる誘起電圧(変圧器起電圧)値が、回転子の位置により変化することを利用して、非通電相の変圧器起電圧を検出して回転子位置情報を得る。変圧器起電圧は、回転子の回転速度によらず、通電相によって生じる磁束の変化によって非通電相に生じるので、零速度領域や低速度領域において、回転子の位置に応じて、センサレス制御に用いるために十分な大きさの誘起電圧が検出できる。
【0036】
図2においては、非通電相に生じる誘起電圧(速度起電圧と変圧器起電圧の合成)を太い矢印で示す。なお、
図2中に一点鎖線で記す曲線は、各相が非通電相とした場合における、回転子位置(電気角で示す)と変圧器起電圧の関係を示す。
【0037】
図2中の矢印が示すように、非通電相に発生する誘起電圧(速度起電圧と変圧器起電圧の合成)は、通電モード3ではマイナス方向に減少し、通電モード6ではプラス方向に増加する。さらに、矢印が示すように、変圧器起電圧が生じることにより、速度起電圧Emuよりも大きな値の誘起電圧が生じるので、誘起電圧(速度起電圧と変圧器起電圧の合成)の値は概ね変圧器起電圧によって決まる。このような誘起電圧を用いて通電モードを切り替えるためのトリガ信号を発生することにより、センサレス制御を安定に実行することができる。
【0038】
さらに、以下に説明するように、非通電相の交流端子電圧のゼロクロス点を検出したタイミングで非通電相の誘起電圧(変圧器起電圧)の値を検出することにより、回転子の位置情報を含む非通電相の誘起電圧(変圧器起電圧)を精度よく検出することができる。なお、以下において、「誘起電圧(変圧器起電圧)」は単に「変圧器起電圧」と記す。
【0039】
図3は、三相交流の各相(U相,V相,W相)について、
図2の通電モード3における交流端子電圧の波形例を示す。なお、回路図中に示す「on」および「off」は、それぞれ、パワースイッチング素子(図ではIGBT)のオン状態およびオフ状態を示す。また、永久磁石同期電動機の三相巻線はスター結線されているものとする。さらに、直流電源電圧は「DC」と示す。また、直流電源は、中性点を有する±DC/2の電源とし、中性点の電位を各交流端子電圧の基準電位(
図3では「0」)とする。この場合、交流端子電圧は、実質、スター結線される三相巻線の中性点電位を基準電位とする相電圧となる。
【0040】
図3の期間(i)においては、通電相であるV相の上アームのパワースイッチング素子と通電相であるW相の上アームのダイオードがオン状態であり、非通電相であるU相の交流端子電圧はDC/2となる。期間(ii)では、通電相であるW相の下アームのパワースイッチング素子がターンオンしてオン状態となり、非通電相であるU相の交流端子電圧は過渡状態を経て回転子の位置情報を含む変圧器起電圧値を示す。期間(iii)では、通電相であるW相の下アームのパワースイッチング素子がターンオフして、再度、通電相であるV相の上アームのパワースイッチング素子と通電相であるW相の上アームのダイオードがオン状態になり、非通電相であるU相の交流端子電圧は過渡状態を経てDC/2となる。
【0041】
上記のように、
図3の期間(ii)において、すなわちパルス電圧(
図3ではW相)出力期間には、過渡現象が伴うため、非通電相であるU相の交流端子電圧はゆるやかに変化する。このため、
図3の期間(ii)すなわちW相のパルス電圧出力期間の後半にてU相の交流端子電圧値を検出することにより、回転子情報を含む変圧器起電圧を確実に検出することができる。そこで、本実施例においては、非通電相の交流端子電圧のゼロクロスを検出したタイミングで、非通電相の交流端子電圧の値を検出することにより、非通電相の変圧器起電圧を検出する。
【0042】
図4は、非通電相の交流端子電圧の波形例を示す。なお、
図4中には、二相の通電相の内の一方(
図3におけるW相に対応)のPWM制御信号(PWM発生器(
図1の符号5)が発生するPWM波、あるいはゲート信号切替器(
図1の符号7)が出力する駆動制御信号)を示す。このPWM制御信号がオンである期間が、
図3の期間(ii)に相当する。
【0043】
図4に示すように、非通電相の交流端子電圧がゼロクロス以降では回転子位置情報を含む誘起電圧(変圧器起電圧)に近い値となる。従って、
図3の期間(ii)においてゼロクロスを検出することにより、回転子位置情報を含む変圧器起電圧を検出可能な期間が明確となり、変圧器起電圧の検出精度が向上する。このため、安定した位置センサレス制御が実現できる。
【0044】
図5は、ゼロクロスを検出したタイミングで実行される変圧器起電圧値の検出手段例を示す。
【0045】
図5の(a)においては、ゼロクロス検出時から所定時間(ts)後の非通電相の交流端子電圧値がサンプリングされる。これによりパワースイッチング素子動作によるノイズの少ないタイミングで変圧器起電圧値を検出することができる。
図5の(b)においては、
図4に示したように二相の通電相の一方のPWM制御信号がオンである期間で、かつゼロクロス検出時以降において、変圧器起電圧値を、所定の時間間隔あるいは電気角間隔で所定回数だけ数点サンプリングし、サンプリングされた値の算術平均値を演算する。これにより、変圧器起電圧の検出値に対するノイズの影響を低減することができる。
図5の(c)では、(b)と同様にゼロクロス検出時以降における変圧器起電圧値を所定の時間間隔あるいは電気角間隔で多数点サンプリングして、算術平均あるいは積分を用いて平均値を演算する。これにより、ノイズの影響を大幅に低減できる。
【0046】
なお、
図5の(c)におけるサンプリング点数は、例えば、サンプリング期間における変圧器起電圧の波形を近似的に示すことができる程度の個数とする。
【0047】
図6は、
図1のブロック図における非通電相ゼロクロス検出器23の具体的な回路構成例を示す。
図6においては、U相の回路構成例を一点鎖線内に示しているが、V相,W相についても同じ回路構成となる。従って、以下、U相の回路動作について説明するが、V相およびW相についても同様である。
【0048】
図6において、U相が非通電相である場合、U相のパワースイッチング素子Sup,Sun(
図1参照)の駆動信号Up,Unは共に「Low(以下Lと記す)」となり、Up,Unが入力される否定論理和(NOR)回路の出力は「High(以下Hと記す)」となる。また、U相が通電相である場合、Up,Unのどちらか一方は「H」となり、Up,Unが入力されるNOR回路の出力は「L」となる。従って、NOR回路の出力が「H」になることにより、U相が非通電相であると判定される。
【0049】
U相が非通電相の場合、
図2で示したように、通電モード3および通電モード6という二つの通電モードがある。通電モード3においては、ゼロクロス時に、U相の交流端子電圧は正から負に変わるのでコンパレータ出力が「H」から「L」となり、またV相上アームのPWM制御信号、すなわちパワースイッチング素子Svpの駆動制御信号Vpは「H」に固定される。このため、Vpとコンパレータ出力が入力される排他的論理和(XOR)回路の出力は、ゼロクロスを境に「L」から「H」に変わる。なお、ここでは、コンパレータにより、交流端子電圧のゼロクロスを検出しているが、基準電圧を直流電源電圧(
図3の「DC」)の1/2としている。これにより、等価的に、
図3に示したように、交流端子電圧が電圧値+DC/2と−DC/2の間で変化してゼロクロスすることが検出できる。
【0050】
通電モード6では、ゼロクロス時に、U相電圧は負から正に変わるので、コンパレータ出力は「L」から「H」となり、またVpは「L」に固定される。従って、XOR回路の出力は、ゼロクロスを境に「L」から「H」に変わる。
【0051】
上記のような、XOR回路の出力と、U相が非通電相である場合に「H」となるNOR回路出力とが入力される、論理積(AND)回路の出力は、U相が非通電時におけるU相の交流端子電圧のゼロクロス時に「L」から「H」に変化する。これにより、非通電時におけるU相の交流端子電圧のゼロクロスを検出することができる。
【0052】
U相と同様に、V相およびW相についても、非通電時のゼロクロスを検出することができる。さらに、
図6の非通電相ゼロクロス検出器23において、一点鎖線で囲まれる非通電相ゼロクロス検出回路の後段における論理回路は、U相の非通電相ゼロクロス検出回路の出力と他の二相の非通電相ゼロクロス検出回路の各出力の論理否定(NOT)を入力する三入力AND回路を備えると共に、V相およびW相についても同様の三入力AND回路を備える。これら三入力AND回路の各出力を入力するOR回路の出力を、非通電相ゼロクロス検出器23の出力とする。これにより、U,V,W相の非通電相ゼロクロス検出回路の出力の内、いずれか一相のみが「H」となった場合に、非通電相ゼロクロス検出器23の出力として「H」すなわちゼロクロスタイミング検出信号が出力される。
【0053】
図7は、
図1におけるモード切替トリガ発生器(
図1中の符号8)の構成例を示すブロック図である。本構成例においては、
図5の(a)に示した変圧器起電圧検出手段が適用される。
【0054】
図7のモード切替トリガ発生器8aにおいて、非通電相端子電圧値出力器10aは、通電モード決定器6(
図1)の出力するモード指令信号を受けて、相電圧検出器22によって検出される三相分の交流端子電圧の中から、非通電相の交流端子電圧を非通電相選択器100にて選択し、選択された交流端子電圧をサンプルホールド回路101へ伝達する。サンプルホールド回路101としては、サンプラーのスイッチと、サンプルした電位を保持するコンデンサから構成される公知の回路が適用できる(例えば、特許文献1参照)。なお、図示していないが、モード切替トリガ発生器8aにおいて、交流端子電圧の基準電位が設定される。この基準電位としては、例えば、非通電相ゼロクロス検出器23(
図6)と同様に、直流電源電圧を抵抗分割することにより、直流電源電圧の1/2の値を有する基準電位を作成できる(後述する、
図8〜10においても同様)。
【0055】
図7に示すサンプルホールド回路101においては、選択された非通電相の交流端子電圧が、PWM発生器5から入力するPWM波の内、二相の通電相の内の一方(
図3におけるW相に対応)のPWM波がオンである期間において、すなわち
図3に示した期間(ii)に相当する期間において、非通電相のゼロクロスタイミング信号を受信した時点から所定時間ts経過すると、サンプラーのスイッチがオンされ、サンプルした交流端子電圧値が、コンデンサに充電されることによりサンプリングされる。サンプリングされた非通電相の交流端子電圧の値が変圧器起電圧の検出値として、比較器11に入力される(入力B)。比較器11は、基準レベル切換器9から出力される変圧器起電圧の検出基準値を入力し(入力A)、入力した非通電相の交流端子電圧値と検出基準値を比較する。そして、非通電相の交流端子電圧値の大きさが検出値基準値を越えていると判定したら、モード切替トリガを出力する。
【0056】
なお、
図2に示したように、非通電相の変圧器起電圧は通電モードによって正負の値を取る。このため、
図7における基準レベル切換器9は、検出基準値として正負の値を記憶し、通電モード決定器7(
図1)の出力するモード指令信号に応じて、これら正負の値を切り替える。
【0057】
図8は、モード切替トリガ発生器の他の構成例を示すブロック図である。本構成例においては、
図5の(b),(c)に示した変圧器起電圧検出手段が適用される。以下、
図8の構成例について、主に
図7の構成例とは異なる点について説明する。なお、
図8における非通電相選択器100,基準レベル切替器9および比較器11の各機能は、
図7の構成例と同様である。
【0058】
図8のモード切替トリガ発生器8bにおいて、非通電相端子電圧値出力器10bは、通電モード決定器6(
図1)の出力するモード指令信号を受けて、相電圧検出器22によって検出される三相分の交流端子電圧の中から、非通電相の交流端子電圧を非通電相選択器100にて選択し、選択された交流端子電圧を平均値演算回路102へ伝達する。
【0059】
さらに、
図8における非通電相端子電圧値出力器10bは、
図7の構成例と異なり、
図8では図示されない上述したようなサンプルホールド回路によって非通電相の交流端子電圧値を複数回サンプリングし、サンプリングされた交流端子電圧値の平均値を演算する平均値演算器102を備える。
【0060】
平均値演算器102は、
図5の(b)の検出手段を用いる場合、二相の通電相の内の一方(
図3におけるW相に対応)のPWM波がオンである期間、すなわち
図3に示した期間(ii)に相当する期間おいて、非通電相のゼロクロスタイミング信号を受信すると、非通電相の交流端子電圧値のサンプリング動作を開始して、所定の時間間隔あるいは電気角間隔で所定回数だけ数点サンプリングする。さらに、平均値演算器102は、サンプリングして記憶した数点の交流端子電圧値の算術平均値を演算して、演算値を非通電相の変圧器起電圧の検出値として比較器11へ出力する。
【0061】
また、平均値演算器102は、
図5の(c)の検出手段を用いる場合、前述した
図5の(b)の検出手段を用いる場合と同様に、ゼロクロスタイミング信号を受信するとサンプリング動作を開始して、二相の通電相の内の一方(
図3におけるW相に対応)のPWM波がオンである期間内において、すなわち
図3に示した期間(ii)に相当する期間内において、所定の時間間隔あるいは電気角間隔で、選択された非通電相の交流端子電圧値をサンプリングする。さらに、平均値演算器102は、サンプリングして記憶した多数点の交流端子電圧値の平均値を算術平均あるいは積分などを用いて演算し、演算値を非通電相の変圧器起電圧の検出値として比較器11へ出力する。
【0062】
図9は、モード切替トリガ発生器の変形例を示すブロック図である。本変形例において、非通電相端子電圧値出力器10としては、
図7示した非通電相端子電圧値出力器10aあるいは
図8に示した非通電相端子電圧値出力器10bが用いられる。
【0063】
図9のモード切替トリガ発生器8cにおいては、
図7および
図8の構成例とは異なり、絶対値演算器12によって、非通電相端子電圧値出力器10が出力する変圧器起電圧の検出値の絶対値が演算され、演算された絶対値が比較器11に入力される。ここで、比較器11がこの絶対値と比較する検出基準値は、基準レベル発生器9cが出力する正の値のみである。このように、正負の値を取る変圧器起電圧の絶対値を演算して、正の検出基準値のみと比較することにより、制御器2の構成を簡略化することができる。
【0064】
図10は、モード切替トリガ発生器の他の変形例を示すブロック図である。本構成例において、非通電相端子電圧値出力器10としては、
図7示した非通電相端子電圧値出力器10aあるいは
図8に示した非通電相端子電圧値出力器10bが用いられる。
【0065】
図10のモード切替トリガ発生器8dにおいては、
図7〜9の構成例と異なり、永久磁石同期モータ4の回転数に応じて、変圧器起電圧の検出基準値の大きさが変更される。永久磁石同期モータ4の回転数は、比較器11が出力するモード切替トリガ信号の発生時間間隔に基づいて、回転数演算器13によって演算される。基準レベル切替器9dは、回転数演算器13によって演算された回転数に応じて、検出基準値の大きさを増減させる。なお、
図7および
図8の構成例と同様に、基準レベル切替器9dは、通電モード指令信号に応じて、検出基準値の正負を切り替える。
【0066】
図10の変形例の基本的な動作を以下に説明する。
【0067】
上述したように、零速度領域および低速度領域において検出される、非通電相の誘起電圧の値は、実質的に変圧器起電圧の値であるが、永久磁石同期モータ4の回転数が増加するに従い、回転子の回転に伴って発生する速度起電圧が変圧器起電圧に加算されるため、変圧器起電圧の検出値が検出基準値に早めに到達するようになる。その結果、通電モードの切替タイミングが早くなるため、発生トルクの低下や加速時間の増加が懸念される。
【0068】
そこで、
図10の変形例においては、永久磁石同期モータ4の回転速度に応じて、検出基準値を可変とする。すなわち、回転数演算器13によって演算される回転数に応じて誘起電圧の検出基準値の大きさを変更できる基準レベル切替器9dを備えることにより、回転数の増加に伴い、検出基準値(正負の値を取る)の大きさを大きくする。これにより、零速度領域および低速度領域において、回転数が増加しても、的確なタイミングで通電モードを切り替えることができる。従って、永久磁石同期モータをスムーズに加速することができる。
【0069】
なお、
図9の変形例において、
図10と同様に回転数演算器を設け、基準レベル発生器9cが出力する正の値のみの検出基準値の大きさを可変にしても良い。