(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転軸に設けられて零位置から最大目盛位置までのいずれかを指し示す指針を回転させるステッピングモータを駆動して、前記回転軸に設けた前記指針を前記零位置から前記最大目盛位置まで振らせた後に、前記零位置に再び戻すスイープ動作を実行可能な計器の駆動制御装置であって、
前記駆動制御装置は、前記スイープ動作において、第1期間にCW回転の定格トルク信号を前記ステッピングモータに出力してCW回転の所定速度まで加速させたのち、第2期間に前記CW回転の定格トルク信号より小さいCW回転の減トルク信号を前記ステッピングモータに出力して前記CW回転の所定速度で回転駆動させ、第3期間にCCW回転の定格トルク信号を前記ステッピングモータに出力して減速させて停止させたのち、CCW回転の所定速度まで加速させ、第4期間に前記CCW回転の定格トルク信号より小さいCCW回転の減トルク信号を前記ステッピングモータに出力して前記CCW回転の所定速度で回転駆動させ、第5期間に定格トルク信号を前記ステッピングモータに出力して指針を減速させて停止させる、
ことを特徴とする計器の駆動制御装置。
前記パルス変調信号の立ち上がりのゼロクロスは、前記定格トルク信号と当該定格トルク信号の所定比率の信号のうち一方から他方への切り替えタイミングと一致し、前記パルス変調信号の立ち下がりのゼロクロスは、前記定格トルク信号と当該定格トルク信号の所定比率の信号のうち他方から一方への切り替えタイミングと一致する、
ことを特徴とする請求項3に記載の計器の駆動制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以降、本発明を実施するための形態を、各図を参照して詳細に説明する。
図1は、車両用計器10の一例を示す外観図である。
車両用計器10は略円形のタコメータの例を示しており、計器盤15の中央部に設けられた回転軸14と、この回転軸14に設けられた指針13とを含んで構成される。指針13は、後記するモータ120により、零位置11から最大目盛位置12までのいずれかの位置を指し示すことができる。なお、
図1の矢印は、指針13のスイ―プ動作の方向を示している。
車両のイグニションスイッチがOFFされているとき、車両用計器10の指針13は、零位置11を指し示している。車両のイグニションスイッチがONされると共に、指針13は、最大目盛位置12を指し示すように回転し、そののち零位置11に戻る。これをスイープ動作という。スイープ動作については、後記する
図3で詳細に説明する。このスイープ動作は、あくまで模擬的な動作であり、指針が示す位置とエンジン実回転速度との関係は無い。
【0010】
図2は、この車両用計器10の指針を回転駆動させる駆動制御装置100を示す概略の構成図である。
駆動制御装置100は、上位制御部130により制御されて、このモータ120を駆動し、よって車両用計器10の指針13を回転させ、常に適切なエンジン回転速度を示す位置を差し示すことによって、運転者はエンジンの実回転速度を認識することができる。
【0011】
上位制御部130は、エンジン回転速度信号により現在のエンジン(不図示)の回転速度を検知して、この回転速度を車両用計器10の指針13が指し示すように、モータ120の回転位置を制御する。更に上位制御部130は、イグニションON/OFF信号により、車両のイグニションスイッチがONされたことを検知したならば、駆動制御装置100に対して、モータ120をスイ―プ動作させる指示信号を出力する。
【0012】
駆動制御装置100は、Hブリッジ回路20X,20Yを備えており、上位制御部130の指示信号に基づいて、Hブリッジ回路20Xから駆動電圧Vbを出力すると共に、Hブリッジ回路20Yから駆動電圧Vaを出力して、モータ120の動作目的に応じたモータ駆動方式を、適宜選択して駆動する。なお、計器として指針指示分解能が必要な場合には、該分解能を保証できるまで電気的に細分割したマイクロステップ駆動で駆動する必要がある。
駆動制御装置100は、上位制御部130からモータ120を通常動作させる位置指令信号が入力されると、モータ120を指定位置まで回転させる駆動電圧Va,Vbを出力する。また駆動制御装置100は、モータ120をスイープ動作させる指示信号が入力されると、モータ120をスイープ動作させる駆動電圧Va,Vbを出力する。
【0013】
モータ120は、バイポーラ型2相ステッピングモータであり、永久磁石を有し回動自在に設けられた回転子のロータ126と、このロータ126と径方向に微小エアーギャップを介して、該ロータ126の周囲の周回方向4等分位置に設けられた固定子とを有している。これらの固定子は、B相の固定子122XP,122XNと、A相の固定子122YP,122YNとからなる。これらの固定子には各々巻線が巻回されている。固定子122YP,122YNに巻回された巻線は直列に接続されており、両巻線を合わせて「コイル124Y」(A相コイル)という。同様に、固定子122XP,122XNに巻回された巻線は直列に接続されており、両巻線を合わせて「コイル124X」(B相コイル)という。
図2では明確に示されていないが、固定子122YPと固定子122YNは磁気回路で結合されており、この磁気回路は、A相コイル124YにA相電流が流れると、このA相方向の磁界が加算される様に構成されている。また固定子122XPと固定子122XNも、同様に磁気回路で結合されており、この磁気回路は、B相コイル124XにB相電流が流れると、このB相方向の磁界が加算される様に構成されている。このモータ120の回転により、指針13(
図1参照)は所定の位置を指し示すように回転し、必要によりこの位置に停止させることができる。
【0014】
<マイクロステップ駆動によるモータ120の駆動方法>
図6(a),(b)は、車両用計器10の駆動制御において脈動が発生する原因の説明図である。
図6(a)は、モータ120の回転の説明図である。
図6(a)では、モータ120の電気角を、便宜上ロータ126の位置で表わし、その回転方向を示している。なお、
図2記載のモータ120ではロータ磁極数が2極なので、その機械角と電気角は等しい。
位置B0は固定子122XNが設けられた方向に対応する位置を、位置/B0は固定子122XPが設けられた方向に対応する位置を示している。位置A0は固定子122YNが設けられた理想の方向を、位置/A0は固定子122YPが設けられた理想の方向を示している。実際に、固定子122YNは、位置A0とはリニアリティエラーδ(静止角度誤差)だけずれた位置A1に設けられている。固定子122YPは、位置/A0とはリニアリティエラーδだけずれた位置/A1に設けられている。固定子122YNの取付位置A1並びに、固定子122YPの取付位置/A1は意図してずらすことを意味しているのではなくして、製造の中で許された量のずれであることを意味している。なお、ストッパ127は、固定子側にあるピンであり、静的には、ロータ126が/B0で励磁されたとき、このストッパ127と回転子側の壁(図示せず)が丁度接する様に規制する部材である。
電源オフ時にモータ120は位置/B0であり、指針13(
図1参照)は零位置11を指し示す。モータ120の機械的動作範囲は、位置/B0から位置A0→位置B0→位置/A0→位置/B0直前でストッパ127に到達する直前までの間をCW方向(ClockWise:時計回り方向)に回転可能である。一方、スイープ動作にて指針13は、零位置11から最大目盛位置12まで移動し、その後モータ120は、再び位置/B0に戻るようにCCW方向(Counter ClockWise:反時計回り方向)に回転し、指針13も再び零位置11に戻る。なお、最大目盛位置12は車両計器の設計事項であり、一定では無い。
【0015】
図5(b)は、Hブリッジ回路20X,20Yが出力する各駆動電圧Vb,Vaの波形を示し、縦軸は電圧値であり、横軸は位相である。
駆動電圧Va,Vbは、位相が90度ずれた正弦波になる。理想的には、90度ずれた角度において、駆動電圧Vaは最大となり、固定子122YN,122YPで作る磁力も最大となり、ロータ126のトルクは所定値を保つ。しかし、実際には固定子122YNの位置A1と、固定子122YPの位置/A1とがリニアリティエラーδだけずれているので、ロータ126に加わるトルクは、この回転周波数の2倍で脈動(
図7(b)参照)する。また、指針13を逆転動作させる為には、モータ120に加えるA相、B相の相順を変えればよい。すなわち、
図6(b)はA相が、B相より90度進んだ状態であり、この状態で仮にCW回転するとするならば、CCW回転をさせるためには、A相をB相に対して90度遅らせればよいことになる。
【0016】
<モータ120の駆動において、脈動が発生する原因>
脈動が発生する一番大きな原因は、
図6(a)に示したモータ120のリニアリティエラーδ(静止角度精度)である。リニアリティエラーδは、駆動電圧に対して、ステッピングモータの実際の回転角が理想の回転角から何度ずれが生じるかを数値化したものである。すなわち、理論角度指示値と実際の角度指示値の差表すものと考えてよい。
ステッピングモータは、車両用計器として駆動させる場合には、通常、十分に正弦波形と見なせるマイクロステップ駆動電圧によって励磁される(
図6(b)参照)ことによりスティフネストルク特性(θ‐T特性)が歪みのない正弦波になるのが普通である。2相のステッピングモータは、位相差が電気角90°であり、かつ同一振幅の駆動電圧を与えると、エアーギャップ中に一定速度の回転磁界が形成される。ステッピングモータの定速運転時にて、磁石でできた回転子であるロータ126は、或る意味で、該回転磁界に同期して回転する、一種の同期モータと考えることが出来る。
【0017】
例えば、
図6(b)に示すように駆動電圧Va,Vbが電気角0°から電気角90°に至るまで入力されると、ロータ126は、前記回転磁界には磁気的に吸引された状態で、位置/B0から位置A0まで一定の速度で回動(連れ回り)する。すなわち、リニアリティエラーδが0の場合には前記回転磁界は脈動しない。結果して、トルクは一定となり(脈動を持たずに)、モータ120は脈動しない。
しかしながら、ステッピングモータ120が持っている構造的要因によって、リニアリティエラーδがある場合、出力トルクは脈動を持つ。
このとき、駆動電圧が電気角0°〜90°に至るまで入力されると、モータ120は位置/B0から位置A0まで変速しながら回動し、モータ120は脈動する。
【0018】
更に、電流波形がインダクタンスや逆起電圧の影響で正弦波に対して歪んだような形状になると、スティフネストルク特性(θ‐T特性)も正弦波から歪み、これもモータ120が脈動する要因となる。
モータ120の構造的要因によるリニアリティエラーδの原因は、以下のようなものがある。
図7(a)〜(c)と、
図8(a),(b)とは、ステッピングモータにおいて脈動が発生する原因を説明するグラフである。各グラフの縦軸はステッピングモータの発生トルクを示し、横軸は回転角度を示している。なお、これらグラフはこれら物理的情報を入れて計算して出したグラフである。
凡例の「トルクA相」は、モータ120のコイル124X(A相)から発生するトルクであり、スティフネストルク特性とA相コイルに流れる瞬時電流の積を示している。凡例の「トルクB相」は、モータ120のコイル124Y(B相)から発生するトルクであり、スティフネストルク特性とB相コイルに流れる瞬時電流の積をを示している。凡例の「出力トルク」は、モータ120の出力トルク特性を示している。
図7(a)〜(c)と、
図8(a)において、不図示のコギングトルクは考慮しておらず、計算上ゼロとしている。なお、ここでの議論は、A相、B相コイルに流れる電流波形は、実質的には駆動電圧波形に等しく、電流波形に歪は無いものとして計算している。
【0019】
図7(a)は、出力トルクが脈動しない理想例を示している。
この波形図で示すように、トルクA相とトルクB相は共に平均値が該正弦波の最大値だけプラス側にシフトした形で、その振幅値は等しい。かつ駆動電圧の2倍の周波数をもち、各々のトルクの位相差は電気角180°である。このとき、モータ120の出力トルク(トルクA相+トルクB相)は所定の一定値を維持する。いうならば、これは以下の式(1)で示される状態である。ここでsinθは
図6(b)のA相の駆動電圧Vaに相当し、cosθはB相の駆動電圧Vbに相当する。
【数1】
【0020】
図7(b)は、トルクA相とトルクB相との電気角ずれによる場合を示す図である。
この波形図で示すように、トルクA相とトルクB相の振幅は等しいが、これらの位相差は電気角180°からずれている。このとき出力トルクは脈動する。
【0021】
図7(c)は、トルクA相とトルクB相との振幅の不一致による場合を示す図である。
この波形図で示すように、トルクA相とトルクB相の位相差は電気角180°であるが、これらの振幅は相違している。このとき出力トルクは脈動する。
【0022】
図8(a)は、例えば、ヨーク(磁気回路)の磁気的飽和により、スティフネストルク特性(θ‐T特性)が歪んでいる場合を示す図である。
ヨーク(磁気回路)の磁気的な飽和により、トルクA相・トルクB相の位相や波形の歪みが発生する。ここでは磁気飽和によってスティフネストルクの上半端が下半端より大きくなる。
【0023】
図8(b)は、例えば、コギングトルクによってスティフネストルク特性(θ‐T特性)自体が正弦波から歪んでいる場合を示す図である。
コギングトルクは、ロータ126表面の磁束密度分布やロータ126とステータの極歯形状および、その他の部品の加工精度が原因により発生する無励磁状態でのステータとロータ126(磁石)の間に作用する磁気的なトルクである。これが問題となるのは、ロータ126が回転すると変動することである。このロータ126の位置により変わる成分を外乱としてみることができる。この外乱はモータ発生トルクに重畳され、トルク変動を引き起こす要因となる。
【0024】
<解決方法>
図3は、本実施形態におけるスイープ動作を示す図である。
スイープ動作は、時刻t0〜t6までの一連の動作を含んでいる。なお、回転速度は、CW回転のときに正、CCW回転のときに負として定義している。なお、ここでは詳述しないが、このスイープ動作の前に、指針13を確実に零位置11に持ってこさせる為の指針リセット動作を実行させる必要がある。ステッピングモータでは、通電前の指針位置は確定することはできない。しかし、このリセット動作によりスイープ動作直前の指針13が何処に停止していたとしてもスイープ直前の位置を確実に零位置11に停止させることができる。
(第1回目の加速期間)
時刻t0において、指針13が零位置11を示している。このときモータ120は、CW回転を開始して所定速度まで加速する。この加速期間のモータ印加電圧は、定格電圧(定格トルク信号)である。
【0025】
(第1回目の定速期間)
時刻t1において、モータ120を所定速度まで加速すると、その後はモータ120を定速で回転させ、指針13を定速で回転させる。この定速期間のモータ印加電圧は、定格電圧よりも低い減電圧(減トルク信号)である。ここでモータ120に印加する減電圧は、モータ120のスルー領域(slew range)であることが好ましい。
【0026】
(第1回目の減速期間)
時刻t2において、モータ120は、指針13が最大目盛位置12で停止するように減速する。ここで指針13の最大目盛位置12からの行き過ぎ量(オーバーシュート量)をできるだけ少なくすることが望ましい。この減速期間のモータ印加電圧は、定格電圧である。
【0027】
(第2回目の加速期間)
時刻t3において、指針13が最大目盛位置12を示し、かつ停止している。このときモータ120は、CCW回転を開始して所定速度まで加速する。この加速期間のモータ印加電圧は、定格電圧(定格トルク信号)である。
【0028】
(第2回目の定速期間)
時刻t4において、モータ120を所定速度(CCW回転)まで加速すると、その後はモータ120を定速で回転させ、指針13を定速で回転させる。この定速期間のモータ印加電圧は、定格電圧よりも低い減電圧(減トルク信号)である。ここでモータ120に印加する減電圧は、モータ120のスルー領域(slew range)であることが好ましい。
【0029】
(第2回目の減速期間)
時刻t5において、モータ120は、指針13が零位置11で停止するように減速する。このときのモータ印加電圧は、定格電圧である。そして時刻t6において、モータ120が停止し、指針13は、零位置11に停止する。これにより、一連のスイープ動作が終了する。
【0030】
駆動制御装置100は、モータ120の駆動電圧Va,Vbを定格電圧より電圧値が小さい減電圧にすることで、各相に発生するスティフネストルク特性のトルクを小さくして、出力トルクのトルク変動の絶対値を小さくする。これにより、モータ120の脈動を低減する。
【0031】
ここで、定格電圧よりも小さい減電圧の生成方法には、以下の2つの方法が考えられる。
第1の方法は、駆動電圧Va,Vbの振幅をアナログ的に定格電圧よりも小さくする方法である。第2の方法は、駆動電圧Va,Vbをパルス変調する方法である。ここでは、第2の方法について
図4と
図5を参照しつつ説明する。
【0032】
図4は、本実施形態における減電圧の波形図である。グラフの縦軸は駆動電圧を示し、横軸は時間を示している。
駆動電圧Vaは、振幅V1の第1の正弦波と、第1の正弦波と同位相の振幅V2の第2の正弦波とを、電気角1.0度ごとに交互に切り替えたV1とV2のDuty50%のパルス変調信号であり、そのON期間(振幅V1の正弦波の期間)は定格電圧と同じ瞬時値であり、OFF期間(振幅V2の正弦波の期間)は定格電圧の所定割合となる波形である。駆動電圧Vbも、振幅V1の第3の正弦波と、第3の正弦波と同位相の振幅V2の第4正弦波とを、電気角1.0度ごとに交互に切り替えたV1とV2のDuty50%のパルス変調信号であり、そのON期間(振幅V1の正弦波の期間)は定格電圧と同じ瞬時値であり、OFF期間(振幅V2の正弦波の期間)は定格電圧の所定割合となる波形である。第1の正弦波と第3の正弦波とは、位相が90°ずれている。第2の正弦波と第4の正弦波とは、位相が90°ずれている。
ここで振幅V1の正弦波はモータ120の定格電圧に相当し、振幅V2は、この振幅V1の50%である。なお、振幅V1と振幅V2とを等しくしたときには、定格電圧による駆動となる。
【0033】
駆動電圧Va,Vbともに電圧の立ち上がりのゼロクロスは、振幅V2の正弦波から振幅V1の正弦波への切り替えタイミングと一致している。更に、駆動電圧Va,Vbともに電圧の立ち下がりのゼロクロスは、振幅V2の正弦波から振幅V1の正弦波への切り替えタイミングと一致している。このようなパルス変調信号を、「同期化信号」という。このように制御することで、駆動電圧Va,Vbのゼロクロス付近の立ち上がり波形と立ち下がり波形とが電圧0Vを中心線とした対称形となるので、トルクの外乱を最小化することができる。
【0034】
駆動制御装置100がスイープ動作において、ステッピングモータ120を定速で回転駆動する際に印加する減電圧は、ステッピングモータ120の電気角の所定範囲において定格電圧を所定比率だけ減じた信号である。振幅V1の正弦波;100に対する振幅V2の正弦波の比率;ηは、−100を超えて+100以下の範囲で設定され、指針13の仕様と指針13の動作速度により最適値を設定することが好ましい。なお、ηが負とは、例えば第1と第2の正弦波の位相差が電気角で90度であるが、これが−90度になることであり、第1と第2の正弦波によるトルクが逆向きである場合を想定している。つまり、ηが負の場合には、振幅V2の正弦波の時に逆転(ブレーキ)トルクを発生する事を意味する。
【0035】
ηが正の場合には、駆動電圧Vaを振幅V1の正弦波に切り替えているとき、駆動電圧Vbも振幅V1の正弦波に切り替えている。駆動電圧Vaを振幅V2の正弦波に切り替えているとき、駆動電圧Vbも振幅V2の正弦波に切り替えている。このように、A相とB相の駆動電圧の振幅が同一の電気角で切り替わるので、回転磁界の大きさは小さくなるが、該磁界の位置は変わらない。よって、この切り替わりポイントで意図的に回転子の加減速が期待できる。
【0036】
この駆動電圧をパルス変調する周波数f(Hz)、つまりON/OFFを1サイクルとした時の周波数は、指針13の慣性を含めたこのモータ120の共振周波数よりも高くかつ50Hzよりも高く、かつ200Hzよりも低く設定されている。ここで、駆動電圧Va,Vbの振幅をアナログ的に小さくしたときには、モータ120の共振周波数に起因する速度外乱が発生する。この共振周波数が50Hz以下のときには、この外乱は、人間に視認されるおそれがある。しかし、この駆動電圧を共振周波数よりも高く、かつ50Hzよりも高い周波数でパルス変調することにより、指針13およびモータ120の速度外乱の周波数を、例えば、50Hzよりも高い範囲にシフトすることが出来れば、人間が指針13の速度外乱を視認できないようにすることができる。人間は、一般的に、50Hzよりも高い周波数の視覚情報は認識できないためである。
【0037】
なお、ON/OFFの周波数fが200Hzを超える場合には、指針13の速度外乱を人間が視認しないが、今度は人間の耳にON/OFFによる耳障りな電磁音が聞こえるおそれがある。よって、このON/OFFの周波数fは、50Hzよりも高く、かつ200Hzよりも低く設定するとよい。こうした条件を満たす様に設定すると、人間が指針13の振動を視認できず、かつモータ120の電磁音が耳障りとならず好適である。つまり、この方法によれば、指針の物理的な脈動そのものは存在するが、人間の視覚特性と合せると、該脈動は低減された様に視認される効果が期待できる。
【0038】
具体的には、
図4(ON;電気角9.0deg、OFF;電気角9.0deg)に示した例で、かつ回転子磁極対数が9ペアの場合、ON/OFFの周波数fを50Hzよりも高くするには、指針13の速度範囲を、200deg/sよりも高くするとよい。ON/OFFの周波数fを200Hzよりも低くするには、指針13の速度範囲を、800deg/sよりも低くするとよい。ON/OFFの周波数範囲を50から200Hzを広く維持する為の手法として、指針13の速度に応じて、例えば、指針13の速度が速い場合にはON/OFFの電気角を広く規定し、逆に、指針13の速度が遅い場合にはON/OFFの電気角を狭く規定することで、柔軟に対応することができる。
【0039】
図5は、回転むらと減電圧の電圧比率との関係を示すグラフの一つで、計算値で求めたものである。
このグラフは、リニアリティエラーのあるモータ120(δ=0.555°)を基準にして、振幅V1と振幅V2との電圧比率xを変化させた場合の回転むらを物理計算式化して計算したものである。グラフの縦軸は回転むらを百分率で示し、横軸は振幅V1と振幅V2との電圧比率xを百分率で示している。なお、パルス変調周期は、モータ120の駆動電圧の周波数を10倍した周波数に設定した。つまり、ONの電気角が4.5degであり、OFFの電気角が4.5degである。
【0040】
振幅V1と振幅V2との電圧比率xが100%における回転むらの値を100%とする。
振幅V1と振幅V2との電圧比率xを50%に下げた減電圧のとき、回転むらは約60%に減少する。更に電圧比率xを0%に下げた減電圧のとき、回転むらは約50%に減少する。このときの駆動電圧の実効値は、定格電圧の70.7%である。アナログ的に電圧を下げる場合には、駆動電圧の振幅を定格電圧に対して、70.7%の大きさに設定すれば同様の効果が期待できることが想定できる。
【0041】
本実施形態の駆動制御装置100は、スイ―プ動作時において、加速期間と減速期間の間はモータ120に定格電圧を入力して駆動し、定速期間の間はモータ120に定格電圧よりも小さい減電圧をモータ120に入力して駆動する。この方式により、スイ―プ動作時の指針13の動作の脈動の発生を抑制でき、運転者に違和感を与えないようにすることができる。
【0042】
本実施形態の駆動制御装置100は、定速期間において過度なトルク発生を回避できることから、モータ120がもつリニアリティエラーなどに基づくモータ120のトルクリップルを抑制することができる。これにより、指針13の動作に脈動が発生するのを抑制することができる。
【0043】
本実施形態の駆動制御装置100は、定速期間において過度なトルク発生を回避できる。これにより、指針13の動作に脈動が発生するのを抑制することができる。指針13の脈動を抑制できることから、モータ120がもつリニアリティエラーの許容値を大きくすることができる。すなわち、モータ120の製造工程において、リニアリティエラーの許容範囲を大きくすることができることから、モータ120の生産の歩留まりを改善することができる。
【0044】
(変形例)
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更実施が可能であり、例えば、次の(a)〜(e)のようなものがある。
(a) 上記実施形態は、積層型2相ステッピングモータのマイクロステップ駆動をベースに記述しているが、クローポール型のステッピングモータにも同様に適用できる。また、そのロータ磁極数は2極に固定されるものではなく、その相数は2相に限定されない。
【0045】
(b) 上記実施形態は、電圧制御によるマイクロステップ駆動をベースに記述しているが、電流制御であっても構わない。その場合は、定速期間において、モータを通常動作時より小さい減電流で駆動させればよい。また、その電流波形を正弦波とすることで、トルク波形を電圧駆動時よりも更に均一化することができる。
(c) 上記実施形態において、パルス変調方式やパルス周期やDutyは、一例であって限定されない。
(d) 上記実施形態では車両用の回転計で説明しているが、本発明の駆動制御装置は、車両用速度計その他の計器等に適用可能である。
【0046】
(e) 上記実施形態は、減電圧を、ステッピングモータの電気角の全範囲の定格電圧の瞬時値を所定比率だけ均等にアナログ的に定格電圧より小さくする方法、またはパルス変調する方法によって定格電圧より小さくしている。しかし、これに限られず、駆動制御装置は、ステッピングモータの電気角の所定の範囲だけを、アナログ的方法やパルス変調を用いて駆動電圧の繰り返し毎に規則性を持って電圧の瞬時値を小さくすることによって減電圧を生成してもよい。例えば、電気角が45〜135度の区間と225〜315度の区間の瞬時値を小さくする方法である。すなわち、駆動制御装置は、ステッピングモータの電気角の所定範囲において定格電圧を所定比率だけ小さくする方法で減電圧を生成してもよい。これにより、磁気飽和等の様に、規則的に正弦波状から歪む事により生じるトルク等のトルクの脈動や、規則的に発生する外乱等の影響を受けやすい部分のみを回避して、好適にモータを回転駆動できる。