(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6348881
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】造血幹細胞及び前駆細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0789 20100101AFI20180618BHJP
A61K 35/51 20150101ALN20180618BHJP
A61P 7/00 20060101ALN20180618BHJP
【FI】
C12N5/0789
!A61K35/51
!A61P7/00
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-115770(P2015-115770)
(22)【出願日】2015年6月8日
(65)【公開番号】特開2016-202164(P2016-202164A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2016年1月7日
(31)【優先権主張番号】104112178
(32)【優先日】2015年4月16日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】512043636
【氏名又は名称】台灣尖端先進生技醫藥股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】TAIWAN ADVANCE BIO−PHARM INC
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】▲黄▼ 濟鴻
(72)【発明者】
【氏名】劉 亭▲均▼
(72)【発明者】
【氏名】陳 ▲玉▼霖
【審査官】
鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−061106(JP,A)
【文献】
特開2003−189843(JP,A)
【文献】
特表2003−530826(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/158806(WO,A1)
【文献】
特開2005−204539(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0032122(US,A1)
【文献】
単球・マクロファージ,stnv基礎医学研究室, URL<http://www.stnv.net/med/macrophage.htm>,2012年10月,検索日:2012年12月15日
【文献】
Oncogene,2004年,Vol. 23,pp. 7223-7232
【文献】
Br. J. Haematol.,2001年,Vol. 114,pp. 920-930
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00−5/095
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体外で培養を行い、精製されており、かつ直ちに使用可能な造血幹細胞及び前駆細胞の製造方法であって、
造血幹細胞及び前駆細胞を含む血液を解凍し、ficollで処理してから密度勾配遠心分離を行い、ficollの上層から高純度の造血幹細胞及び前駆細胞が混在した単核球を得るステップと、
得られた高純度の前記単核球をIMDM/5%HABS培養液を用いて、5×105−6×106cells/mLの細胞密度範囲内で、16〜18時間培養し、造血幹細胞標的物CD34と結合するフェライトビーズを吸着可能な磁気カラムで精製し、造血幹細胞及び前駆細胞を分離するステップと、
分離された造血幹細胞及び前駆細胞を、インターロイキン−3、インターロイキン−6、幹細胞因子、FLT−3ゲニン、及び、トロンボポエチンを含むサイトカインおよび15nMのTAT−HOXB4を含むIMDM/5%HABS培養液で4から7日培養するステップと、
造血幹細胞及び前駆細胞の培養物を収穫するステップと、を含むことを特徴とする造血幹細胞及び前駆細胞の製造方法。
【請求項2】
6−20%の人アルブミンを含む組成物を含む保存材で、収穫した造血幹細胞及び前駆細胞を冷凍保存するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の造血幹細胞及び前駆細胞の製造方法。
【請求項3】
前記サイトカインは、5〜10ng/mLのインターロイキン−3、10〜20ng/mLのインターロイキン−6、50〜100ng/mLの幹細胞因子、20〜40ng/mLのFLT−3ゲニン、および25〜50ng/mLのトロンボポエチンを含むことを特徴とする請求項1に記載の造血幹細胞及び前駆細胞の製造方法。
【請求項4】
分離された造血幹細胞及び前駆細胞を、前記サイトカインおよび15nMのTAT−HOXB4を含むIMDM/5%HABS培養液を用いて、1×104−5×105cells/mLの細胞密度範囲内で培養することを特徴とする請求項1に記載の造血幹細胞及び前駆細胞の製造方法。
【請求項5】
前記保存材は、20%の人アルブミンを含む組成物からなることを特徴とする請求項2に記載の造血幹細胞及び前駆細胞の製造方法。
【請求項6】
造血幹細胞及び前駆細胞を含む前記血液は、臍帯血であることを特徴とする請求項1に記載の造血幹細胞及び前駆細胞の製造方法。
【請求項7】
造血幹細胞及び前駆細胞を含む前記血液は、末梢血であることを特徴とする請求項1に記載の造血幹細胞及び前駆細胞の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高純度に精製され直ちに使用できる造血幹細胞及び前駆細胞の生体外における
増幅培養の製造方法及びその組成物に関する。特に、本発明は密度勾配遠心分離により精
製した
単核球を予め一晩培養してから造血幹細胞及び前駆細胞の精製および生体外における増幅培養を行う造血幹細胞及び前駆細胞の製造方法に関する。なお、以下、「造血幹細胞/前駆細胞」という記載は「造血幹細胞及び前駆細胞」と読み替えるものとする。
【背景技術】
【0002】
造血幹細胞(Hematopoietic stem cells;HSCs)はすべての成熟血球の母細胞となり、自己複製し各造血細胞系に分化する能力をもつ(非特許文献1の記載を参照)。従来、造血幹細胞移植(Hematopoietic stem cells transplantation;HSCT)は血液疾患や先天性遺伝性疾患などの治療に幅広く利用されている。一般的に言えば、臨床的に適切な造血幹細胞には、骨髄(Bone marrow)、末梢血(Peripheral blood)及び臍帯血(Umbilical cord blood)が含まれる。最初の骨髄幹細胞採取方法では極度の痛みや不快感に伴うステップを経る場合が多いため、末梢血を造血幹細胞移植に使用してきた。しかし、移植ペアリングが困難であることから、近年、臍帯血を造血幹細胞移植に使用している。
【0003】
CD34はヒト造血幹細胞における表面抗原であり、通常は造血幹細胞の指標とする。臨床研究により、移植CD34
+細胞数の多少が移植後の生存率および成功率に正比例することは証明されている(非特許文献2の記載を参照)。さらなる研究により、細胞表面にCD34抗原をもつがCD38抗原をもたない細胞(CD34
+CD38
-細胞)が実際に主に機能する造血幹細胞であることを見出した。
【0004】
臍帯血を用いた造血幹細胞移植は臨床応用において良好な効果が得られたが、臨床で移植する造血幹細胞数として、総有核細胞(Total nuclear cells;TNC)が少なくとも2×10
7個細胞/kgに、または、CD34
+細胞が2×10
5個細胞/kgに達する必要がある。しかし、臍帯血から採取した造血幹細胞数が極めて少ないという問題がある。従って、造血幹細胞の生体外における増幅に関する研究が鋭意検討されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、各種細胞ホルモンを有効量で加えて造血幹細胞を培養する造血幹細胞の生体外における増幅及びその解析方法、並びに、造血幹細胞の分離同定用キットが開示されている。特許文献2には、培養液に増幅試薬を加えて造血幹細胞数を増幅させる造血幹細胞の製造方法が開示されている。また、特許文献3には、血管内皮細胞へタゲットするNotchリガンドの可溶性融合タンパク質であるヒトD111−RGD(hD111−RGD)により生体外において造血幹細胞を増幅させる方法が開示されている。なお、培養段階において造血幹細胞の増殖を促進しその数を増やす方法に加えて、特許文献4には、造血幹細胞を迅速に分離し生体外増幅を行うことで造血幹細胞の収穫効率を向上する、分離、生体外増幅および造血幹細胞の収穫に用いられる方法および装置が開示されている。
【0006】
従来、生体外において造血幹細胞を増幅させる方法として、主に培養液に例えば細胞ホルモンや化合物、組換えタンパク質など種々の物質を添加することで造血幹細胞を増殖させることが知られている。しかし、造血幹細胞の培養時間が7日乃至2週間以上かかることは多く、短時間で臨床的に有効な造血幹細胞(CD34
+CD38
-細胞)の個体群を得ることができない。造血幹細胞は極めて貴重で脆弱であることから、造血幹細胞の回収率および収率を効率良く向上させることや取得困難な造血幹細胞を効率良く保存することは、造血幹細胞の生体外における増幅に対して極めて重要なことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願US11/255,191号明細書
【特許文献2】日本特許出願JP2012050537号明細書
【特許文献3】中国特許出願CN2012100087227号明細書
【特許文献4】台湾特許出願098115726号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Blood,Vol.89,No.12,1997:pp4337−4347
【非特許文献2】Moore KA,et al.B1ood.1997;89:4337−434
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、生体外で培養を行い、高度に精製されており、かつ直ちに使用可能な造血幹細胞/前駆細胞の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様による製造方法は、造血幹細胞及び前駆細胞を含む血液を解凍し、ficoll溶液で処理してから密度勾配遠心分離を行い、ficollの上層から得られた高純度の造血幹細胞及び前駆細胞が混在した
単核球を一夜培養する。一夜培養を行った
単核球を造血幹細胞標的物CD34と結合するフェライトビーズ
を吸着可能な磁気カラムで精製し、高純度の造血幹細胞及び前駆細胞を分離する。分離された高純度の造血幹細胞及び前駆細胞を、インターロイキン−3、インターロイキン−6、幹細胞因子、FLT−3ゲニン、及び、トロンボポエチンを含むサイトカインおよび
15nMのTAT−HOXB4を含むIMDM/5%HABS培養液で4から7日培養する。培養後の造血幹細胞/前駆細胞を収穫する。本発明の別の実施例による製造方法では、一夜培養は、IMDM/5%HABS培養液を用いて、5×10
5−6×10
6cells/mLの細胞密度範囲内で、
単核球を16〜18時間培養することである。また、本発明の別の実施例による製造方法では、造血幹細胞/前駆細胞を含む血液は、臍帯血(Umbilical cord blood)または末梢血(Peripheral blood)である。
【0011】
本発明の製造方法は、従来の密度勾配遠心分離により
単核球を精製した後、一夜培養を行い
単核球の活性を回復させ、翌日に造血幹細胞/前駆細胞を精製し、造血幹細胞/前駆細胞の回収率を大幅に高めることができる。
本発明の製造方法によって製造された高純度の造血幹細胞/前駆細胞は、高い比率で臨床的に有効な造血幹細胞/前駆細胞(CD34+CD38-細胞)を含むことのみならず、その精製及び製造過程において動物由来の成分を含有する試薬を使用しないため、得られた造血幹細胞/前駆細胞の培養物は臨床へ直接に応用することができる。
【0012】
本発明の別の態様による製造方法では、サイトカインおよび
15nMのTAT−HOXB4を含むIMDM/5%HABS培養液を用いて、高純度の造血幹細胞/前駆細胞を、1×10
4−5×10
5cells/mLの細胞密度範囲内で、4から7日培養してから、造血幹細胞/前駆細胞の培養物を収穫する。本発明の別の実施例による製造方法では、サイトカインは、インターロイキン−3(IL−3)、インターロイキン−6(IL−6)、幹細胞因子(SCF)、FLT−3ゲニン(FLT−3L)、および、トロンボポエチン(TPO)を含む。
【0013】
本発明の製造方法は、
20%の人アルブミンを含む組成物を含む保存材で、収穫した造血幹細胞/前駆細胞を冷凍保存するステップをさらに含む。
【0014】
本発明の製造方法により製造された組成物であって、臨床で有効な造血幹細胞/前駆細胞(CD34
+CD38
-細胞)を15〜40%含む。本発明の好ましい実施例では、臨床で有効な造血幹細胞/前駆細胞(CD34
+CD38
-細胞)を25〜30%含む。造血幹細胞/前駆細胞(CD34
+CD38
-細胞)の含有量は、生体外の培養を行っていない造血幹細胞/前駆細胞個体群に比べ3から5倍高まる。本発明の別の好ましい実施例では、組成物は、造血幹細胞/前駆細胞(CD34
+CD38
-細胞)を27%含み、生体外の培養を行っていない造血幹細胞/前駆細胞個体群に比べ、造血幹細胞/前駆細胞(CD34
+CD38
-細胞)の含有量が3.8倍高まる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】フローサイトメトリーを用いて、異なる精製ステップでの造血幹細胞/前駆細胞の回収率の分析結果を示す図である。
【
図2】三種類の異なる細胞培養液を用いて、高純度の造血幹細胞/前駆細胞を四日培養した後の増殖倍率を比較した図であり、
図2Aは、全部の有核細胞(Total nuclear cell,TNC)の増幅倍率を示し、
図2Bは、CD34
+細胞の増幅倍率を示す。
【
図3】フローサイトメトリーを用いて、異なる成分を含む細胞培養液および異なる細胞密度を有する培養条件で増殖した造血幹細胞/前駆細胞個体群の比率を分析する結果を示す図である。
【
図4】異なる培養密度が造血幹細胞/前駆細胞の増幅へ与える影響を比較した図であり、
図4Aは、全部の有核細胞(Total nuclear cell,TNC)の増幅倍率を示し、
図4Bは、CD34
+細胞の増幅倍率を示す。
【
図5】異なる保存材が造血幹細胞/前駆細胞個体群の安定性に与える影響を比較した図であり、
図5Aは、細胞生存率の分析であり、
図5Bは、フローサイトメトリーを用いて造血幹細胞/前駆細胞個体群の比率を分析した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施例を用いて本発明の特徴及び長所について説明する。実施例は発明を説明するためであり発明の範囲を制限しない。
【0017】
実施例一、造血幹細胞/前駆細胞の精製および回収。
【0018】
本発明の特徴は、
単核球を精製および一夜培養することにより、造血幹細胞/前駆細胞の回収率を高める。本実施例で行う実験は二つの組に分けて処理する。第一組は、造血幹細胞/前駆細胞を含む血液を解凍する。血液は臍帯血または末梢血である。遠心分離によりDMSOを除去し、Ficoll−Paqueを加え、密度勾配遠心分離により、
単核球を精製する。当日、造血幹細胞/前駆細胞を精製分離する。造血幹細胞/前駆細胞を精製分離する方法は、以下の通りである。精製された
単核球を、300μlの1XPBSまたは0.5%の人アルブミンを含む生理食塩水の中に入れる。100μlのFcR blocking buffer及び100μlのCD34フェライトビーズを混合し、4℃で30分間状態反転を行う。4℃の5mLの1XPBSまたは0.5%の人アルブミンを含む生理食塩水で希釈し、4−12℃で、300gで10分間遠心分離を行い沈殿させる。3mLの1XPBSまたは0.5%の人アルブミンを含む生理食塩水で細胞を再浮遊させ、得られた細胞液を、
磁力を発生可能な台座に設けられている
磁気カラム
に入れる。5mLの1XPBSまたは0.5%の人アルブミンを含む生理食塩水で
磁気カラムを三回洗う。
磁力を発生可能な台座から
磁気カラムを離し、5mLの1XPBSまたは0.5%の人アルブミンを含む生理食塩水を加える。ピストンを用いて、CD34フェライトビーズにより免疫沈殿された細胞を
磁気カラム中から押し出し、造血幹細胞/前駆細胞を精製分離する。
【0019】
第二組は、密度勾配遠心分離により精製された
単核球に、赤血球溶解バッファーを入れるまたは入れないことで、赤血球溶解を行い、
単核球を獲得する。5×10
5−6×10
6cells/mLの細胞密度で、IMDM/5%HABS培養液に再浮遊させ、シャーレにいれ、5%の二酸化炭素を有する37℃の培養器で16〜18時間培養する。培養の翌日に造血幹細胞/前駆細胞を精製分離する。
【0020】
フローサイトメトリーを用いて第一組および第二組を分析し、
単核球群集および分離かつ精製された造血幹細胞/前駆細胞群集の分析結果が得られる。分析結果は
図1に示す通りである。
図1に示すように、第一組と第二組の間の
単核球の精製率に差がない。血液を解凍した当日に造血幹細胞/前駆細胞を分離且つ精製した組では、造血幹細胞/前駆細胞の純度が13.5%である。
単核球を一夜培養した組では、造血幹細胞/前駆細胞の純度が76.2%である。また、本発明の好ましい実施例では、造血幹細胞/前駆細胞の純度が92%である。上述の実験が説明した通り、本発明の
単核球を一夜培養する方法は、解凍により損傷された
単核球の活性を回復することができる。よって、造血幹細胞/前駆細胞の収穫純度を高めることができる。
【0021】
実施例二、造血幹細胞/前駆細胞の生体外の増幅培養。
【0022】
精製方法を改良することで細胞を精製する回収率をたかめることができる。特殊の細胞培養液成分および/または細胞培養の密度は、造血幹細胞/前駆細胞の生体外の増幅培養に影響を与える重要な要素である。本発明では上述の要素についても実験を行う。上述の実施例で精製された造血幹細胞/前駆細胞を、異なるサイトカイン成分を含むIMDM/5%HABS培養液で4日培養し、細胞の増殖倍率を分析かつ比較する。実験では、細胞培養液の成分に基づいて、以下の三つの組に分ける。
(1)第一組:5ng/mLのIL−3、10ng/mLのIL−6、50ng/mLのSCF、20ng/mLのFLT−3L、15nMのTAT−HOXB4を含む;
(2)第二組:5ng/mLのIL−3、10ng/mLのIL−6、100ng/mLのSCF、20ng/mLのFLT−3L、15nMのTAT−HOXB4を含む;
(3)第三組:5ng/mLのIL−3、10ng/mLのIL−6、100ng/mLのSCF、20ng/mLのFLT−3L、25ng/mLのTPO、15nMのTAT−HOXB4を含む。
【0023】
細胞培養の分析結果を
図2に示す。
図2Aに示す全部の有核細胞(Total nuclear cell,TNC)の増幅倍率に関する結果、および、
図2Bに示すCD34+細胞の増幅倍率に関する結果が示すように、細胞サンプル1および細胞サンプル2は、各組の培養液による培養で細胞数が倍になる。第三組のIMDM/5%HABS培養液による培養の増幅倍率が最も著しい。上述の結果から、サイトカインの組成および含有量は、造血幹細胞/前駆細胞の増幅に与える影響がきわめて大きいことが分かる。
【0024】
細胞培養液成分が造血幹細胞/前駆細胞の増幅に影響を与える他、細胞培養密度も細胞増幅に影響を与える。5ng/mLのIL−3、10ng/mLのIL−6、100ng/mLのSCF、20ng/mLのFLT−3L、25ng/mLのTPO、0.1%のBSAを含む培養液、または、上述の三組のIMDM/5%HABS細胞培養液を用いて、前述の実施例での高純度の造血幹細胞/前駆細胞を、それぞれ5x10
4、1x10
5、および5x10
5cells/mLの細胞密度で4日培養する。そして、フローサイトメトリーを用いて細胞群集を分析する。結果を下記の表1および
図3に示す。
【0026】
表1および
図3に示すように、成分および細胞密度が異なる培養条件において、いずれも細胞を増殖させることができるが、細胞個体群の増殖比率が異なる。まず、細胞培養液が異なる組を比較すると、前述の実施例の実験結果と一致する結果が得られる。いずれの細胞密度で培養しても、BSA培養液に比べ、前述の三組の細胞培養液成分を有するIMDM/5%HABS培養液で4日培養することで得られた造血幹細胞/前駆細胞(CD34
+細胞及びCD34
+CD38
-細胞を含む)の比率が高い。
【0027】
また、細胞密度が異なる組を比較する。5x10
4cells/mLの細胞密度で4日培養することで得られた有効な造血幹細胞/前駆細胞の個体群の比率は72.5−77.2%まで達する。上記の比較のように、元の有効な造血幹細胞/前駆細胞の個体群(CD34
+CD38
-細胞)がわずか7%であるが、第三組のIMDM/5%HABS培養液を用いて、5x10
4cells/mLの細胞密度で培養後、27.2%まで増幅される。また、全部の有核細胞(Total nuclear cell,TNC)の増幅倍率は13.52倍である。
【0028】
5x10
4cells/mLの細胞密度を基準とし、造血幹細胞/前駆細胞の最適な培養条件を調整する。以下の四組の異なる細胞密度で培養を行い、細胞数分析を行う。
(1)第一組:1x10
4cells/mLの細胞密度で7日培養する。
(2)第二組:5x10
4cells/mLの細胞密度で3日培養し、第4日目から、細胞密度を1.5x10
4cells/mLに変更し、第7日まで培養する。
(3)第三組:5x10
4cells/mLの細胞密度で3日培養し、第4日目から、細胞密度を3x10
4cells/mLに変更し、第7日まで培養する。
(4)第四組:5x10
4cells/mLの細胞密度で7日培養する。
【0029】
分析結果を
図4に示す。他の組に比べ、第一組の培養条件において、
図4Aに示す全部の有核細胞(Total nuclear cell,TNC)の増幅倍率は141.5倍であり、
図4BにしめすCD34
+細胞の増幅倍率は18.5倍であり、いずれも著しく増幅されている。本実施例から、細胞密度は造血幹細胞/前駆細胞の生体外の増幅培養に影響を与える重要な要素であることが分かる。
【0030】
実施例三、生体外で増幅培養された造血幹細胞/前駆細胞の冷凍保存。
【0031】
上述の実施例に基づいて、生体外で造血幹細胞/前駆細胞を有効に増幅培養することができる。また、得られた細胞をどのように冷凍保存すれば、解凍する時、有効な造血幹細胞/前駆細胞の個体群の生存率を維持することができるかも重要である。本実施例では、三種類の保存剤調合法で実験を行う。
(1)調合法1:80%のAlbuminar・−25,20%のCryoSure−DEX40(20%の人アルブミンを含む);
(2)調合法2:48%のAlbuminar・−25,20%のCryoSure−DEX40,生理食塩水(12%の人アルブミンを含む);
(3)調合法3:24%のAlbuminar・−25,20%のCryoSure−DEX40,生理食塩水(6%の人アルブミンを含む)。
【0032】
前述の4日培養で得られた造血幹細胞/前駆細胞を、上述の三種類の保存剤調合法で作られた冷凍保存材で保存する。そして、BioArchiveシステムを用いて一ヶ月間冷凍保存する。解凍テストを行い、異なる保存材が細胞個体群に与える影響を比較する。結果を
図5に示す。
図5Aに示す細胞生存率の分析が示すように、三種類の異なる保存剤調合法で作られた冷凍保存材で保存した造血幹細胞/前駆細胞は、解凍後の細胞生存率の差が著しくない。さらに、フローサイトメトリーを用いて有効な造血幹細胞/前駆細胞の個体群(CD34
+細胞およびCD34
+CD38
-細胞)を分析した結果、
図5Bに示すように、調合法3で作られた冷凍保存材を使用する場合、解凍後の有効な造血幹細胞/前駆細胞の個体群の比率が他の調合法で作られた冷凍保存材を使用する場合に比べ良好であることを観察することができる。これにより、生体外の増幅培養で得られた有効な血幹細胞/前駆細胞を適切な冷凍保存材で冷凍保存し、解凍後、比較的に高い比率の細胞個体群純度および良好な細胞生存率を維持することができることを証明することができる。
【0033】
上述の実施例の結果は、本発明の製造方法が、高純度の造血幹細胞/前駆細胞を有効に獲得することができ、特殊成分を有する細胞培養液で特定の密度で培養し短期間(4から7日)内で比率が高くかつ臨床上で有効な造血幹細胞/前駆細胞の数を得ることができ、特殊の調合法で作られた保存材で細胞を冷凍保存し有効な血幹細胞/前駆細胞の個体群の比率および細胞生存率を維持することができることを実証する。
【0034】
また、本発明の製造方法は、各過程において、細胞の精製、生体外の増幅、または冷凍保存のいずれも、他の動物有来の成分を有する試薬を使用していない。本発明の製造方法により得られた組成物は、他の加工又は処理を加えず、直接に臨床へ応用することができる。