(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6348885
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】圧力容器およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
F17C 1/04 20060101AFI20180618BHJP
F16J 12/00 20060101ALI20180618BHJP
【FI】
F17C1/04
F16J12/00 F
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-137875(P2015-137875)
(22)【出願日】2015年7月9日
(65)【公開番号】特開2017-20558(P2017-20558A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2017年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】390023917
【氏名又は名称】八千代工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷 龍志
【審査官】
宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−004398(JP,A)
【文献】
特開平10−272634(JP,A)
【文献】
特開2008−164131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/00−13/12
F16J 12/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に気体または液体を収容可能な中空の樹脂ライナーと、
前記樹脂ライナーの外側に設けられる接着層と、
前記接着層の外側に設けられ、熱硬化性樹脂および強化繊維を含む補強層と、
を備える圧力容器の製造方法であって、
前記熱硬化性樹脂に硬化剤が添加され、
前記熱硬化性樹脂の硬化工程において、
前記樹脂ライナーの軟化に関する許容温度以下であり、かつ前記接着層の融点と略同じ雰囲気温度にて前記熱硬化性樹脂を硬化させつつ、前記熱硬化性樹脂および前記硬化剤に起因する自己発熱により、前記接着層の温度を、前記雰囲気温度よりも高い温度であり、かつ前記接着層の融点よりも高い温度まで昇温させて、前記接着層を再溶融させることを特徴とする圧力容器の製造方法。
【請求項2】
前記接着層の温度が65℃から85℃までに昇温する時間を6.5分以下にすることを特徴とする請求項1に記載の圧力容器の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の製造方法により製造された圧力容器。
【請求項4】
前記樹脂ライナーは、母層と、バリア層と、前記接着層の融点よりも高い融点を有する第2接着層と、を含む多層構造であることを特徴とする請求項3に記載の圧力容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力容器およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧力容器として、樹脂ライナーの外表面に接着層を介して補強層を形成したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、樹脂ライナーおよび接着層をブロー成形により形成するとともに、補強層を、熱硬化性樹脂(含浸樹脂)に浸したロービングを接着層に巻き付けるいわゆるフィラメントワインディング法により形成し、ロービングの巻き付け後、乾燥炉で補強層の熱硬化性樹脂を硬化させる技術が記載されている。そして、特許文献1には、硬化温度が接着層の融点以上である熱硬化性樹脂を用い、熱硬化性樹脂の硬化工程において接着層を再溶融させる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−4398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記熱硬化性樹脂の硬化工程で接着層が再溶融することは、樹脂ライナーと補強層との接着性に関して、化学的結合接着性に加えて物理的結合接着性も高まることとなるので、好ましい。ここで、乾燥炉の雰囲気温度は、樹脂ライナーの軟化に関する許容温度(例えば樹脂ライナーの材料メーカーの加熱時における使用推奨温度)に合わせて設定する必要があるところ、もし乾燥炉の雰囲気温度が熱硬化性樹脂の硬化温度や接着層の融点と同じかそれよりも低い場合には、熱硬化性樹脂の硬化が不十分となったり、接着層が再溶融しないという問題が生じる。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するために創作されたものであり、加熱時の雰囲気温度が補強層の熱硬化性樹脂の硬化温度や接着層の融点よりも低い場合であっても、補強層の熱硬化性樹脂の十分な硬化と接着層の再溶融を可能とする圧力容器の製造方法およびこれにより製造される圧力容器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、内部に気体または液体を収容可能な中空の樹脂ライナーと、前記樹脂ライナーの外側に設けられる接着層と、前記接着層の外側に設けられ、熱硬化性樹脂および強化繊維を含む補強層と、を備える圧力容器の製造方法であって、前記熱硬化性樹脂に硬化剤が添加され、前記熱硬化性樹脂の硬化工程において、前記樹脂ライナーの軟化に関する許容温度以下
であり、かつ前記接着層の融点と略同じ雰囲気温度にて前記熱硬化性樹脂を硬化させつつ、前記熱硬化性樹脂および前記硬化剤に起因する
自己発熱により、前記接着層の温度を
、前記雰囲気温度よりも高い温度
であり、かつ前記接着層の融点よりも高い温度まで昇温させ
て、前記接着層を再溶融させることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、加熱時の雰囲気温度が補強層の熱硬化性樹脂の硬化温度や接着層の融点と同じかそれよりも低い場合であっても、樹脂ライナーについては樹脂ライナーの許容温度以下に保ちつつ、補強層および接着層については、雰囲気温度よりも高い温度となって、熱硬化性樹脂の十分な硬化と接着層の再溶融を見込める。
【0009】
本発明によれば、接着層を確実に再溶融させることができる。
【0010】
また、本発明は、前記接着層の温度が65℃から85℃までに昇温する時間を6.5分以下にすることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、接着層の接着性を一層高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、樹脂ライナーについては樹脂ライナーの許容温度以下に保ちつつ、補強層および接着層については、加熱時の雰囲気温度よりも高い温度となって、熱硬化性樹脂の十分な硬化と接着層の再溶融を見込める。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】硬化剤の添加量を多くした場合の接着層の温度グラフである。
【
図3】硬化剤の添加量を少なくした場合の接着層の温度グラフである。
【
図4】接着層が65℃から85℃までに昇温する時間を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の圧力容器は、LPG等の低圧ガスや水素ガス等の高圧ガス等を貯留する容器である。
図1に示すように、圧力容器1は、容器筐体のコアをなす中空の樹脂ライナー2と、樹脂ライナー2の外側に形成される接着層3と、接着層3の外側に形成される補強層4とを有する。
【0015】
「樹脂ライナー2」
樹脂ライナー2は、たとえば略定断面の円筒状の胴部5と、胴部5の両端に形成されるドーム部6とを有する。各ドーム部6の頂上にはそれぞれ突起体が形成されている。すなわち、圧力容器1の軸心Oと同軸となるように、一方のドーム部6には前記突起体としての口金座7が突設され、他方のドーム部6には前記突起体としての支持部8が突設されている。口金座7の内周には金属製の口金9が、樹脂ライナー2と接着層3のブロー成形時に一体成形として取り付けられる。口金座7は、円筒状に形成され、その内部は容器の内外を連通させる開口部として構成される。支持部8は中実の円柱状に形成されている。
【0016】
樹脂ライナー2は、その断面構造としては単層、多層のどちらでも構わない。単層構造の場合、一般にはポリエチレン樹脂、具体的には高密度ポリエチレン樹脂が用いられる。多層構造の例としては、例えば一面側から順に、母層、第2接着層、バリア層、第2接着層、母層を有する3種5層構造である。この場合、母層は、例えば、ポリエチレン樹脂、具体的には高密度ポリエチレン樹脂である。第2接着層は、例えば、変性ポリエチレン樹脂から構成される。第2接着層は、その融点が前記接着層3の融点よりも高い接着材から構成される。バリア層は、容器内のガス等の不透過性に優れた樹脂、例えばエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)から構成される。
【0017】
「接着層3」
接着層3は、例えば変性ポリエチレン樹脂から構成される。樹脂ライナー2と接着層3とはブロー成形により一体に形成される。
【0018】
「補強層4」
補強層4は、図示しない回転装置に樹脂ライナー2の口金座7および支持部8を支持させ、樹脂ライナー2を軸心O回りに回転させてストランドの束からなるロービング(強化繊維)を樹脂ライナー2の表面に巻き付けるフィラメントワインディング法により形成される。
【0019】
ロービングの含浸樹脂は熱硬化性樹脂であり、例えばビニルエステルである。熱硬化性樹脂には硬化材が添加されている。硬化材は、例えばパーオキシエステルおよびパーオキシジカーボネートである。
【0020】
ロービングの巻き付け後、圧力容器1を乾燥炉で加熱することで補強層4の熱硬化性樹脂を硬化させる。ここで、乾燥炉の雰囲気温度を、樹脂ライナー2の軟化に関する許容温度(材料メーカーの加熱時における使用推奨温度)以下に設定する場合において、もし乾燥炉の雰囲気温度が補強層4の熱硬化性樹脂の硬化温度や接着層3の融点と同じかそれよりも低いときには、補強層4の熱硬化性樹脂の硬化が不十分となったり、接着層3が再溶融しないという問題が生じる。
【0021】
この問題に対し、本発明は、補強層4の熱硬化性樹脂の硬化工程において、樹脂ライナー2の軟化に関する許容温度以下の雰囲気温度にて熱硬化性樹脂を硬化させつつ、熱硬化性樹脂および硬化剤に起因する発熱により、接着層3の温度を前記雰囲気温度よりも高い温度まで昇温させる。これにより、乾燥炉の雰囲気温度が補強層4の熱硬化性樹脂の硬化温度や接着層3の融点と同じかそれよりも低い場合であっても、樹脂ライナー2については樹脂ライナー2の許容温度以下に保ちつつ、補強層4および接着層3については、雰囲気温度よりも高い温度となって、熱硬化性樹脂の十分な硬化と接着層3の再溶融を見込める。特に、接着層3の温度をその融点よりも高い温度まで昇温させれば、接着層3を確実に再溶融させることができる。
【0022】
「実施例」
圧力容器1として、樹脂ライナー2と接着層3とをブロー成形により形成し、
図1に示すように接着層3の外表面に温度センサ10を貼着したうえで、補強層4をフィラメントワインディング法により形成した。温度センサ10は、胴部5の略中央部の位置(body位置)と、口金座7寄りのドーム部6の位置(head位置)と、支持部8寄りのドーム部6の位置(tail位置)との3カ所に貼着した。
【0023】
樹脂ライナー2の母層を構成するポリエチレン樹脂として、「日本ポリエチレン株式会社製 HB112R」を用いた。当該ポリエチレン樹脂の軟化に関する許容温度(材料メーカーの加熱時における使用推奨温度)は80℃である。
樹脂ライナー2の第2接着層を構成する接着材として、「日本ポリエチレン株式会社製 FT71A」を用いた。当該接着材の融点は約120℃である。
接着層3の接着材として、「日本ポリエチレン株式会社製 MX001」を用いた。当該接着材の融点は約80℃である。
補強層4の熱硬化性樹脂として、「昭和電工株式会社製 R802U」を用いた。当該熱硬化性樹脂の硬化温度は約80℃である。硬化剤として、「日油株式会社製 パーオクタO70SおよびパーロイルTCP」を用いた。
【0024】
補強層4におけるロービングの巻き付け後、圧力容器1を乾燥炉で加熱した。乾燥炉の雰囲気温度は、樹脂ライナー2の母層を構成するポリエチレン樹脂の許容温度と同じ80℃に設定し、加熱時間は40分とした。
【0025】
乾燥炉の加熱によって補強層4が硬化する際には、補強層4の熱硬化性樹脂のモノマー同士が重合反応して自己発熱する。重合反応は硬化剤で促進され、発熱は一層高まる。これにより、補強層4は、乾燥炉の雰囲気温度の80℃よりも高い温度まで昇温し、補強層4に隣接する接着層3も、熱伝導によって80℃よりも高い温度まで昇温する。
【0026】
ここで、本発明者は、接着層3の所定の温度域での昇温時間と接着強度との関係について着目した。
図2および
図3は、温度センサ10(
図1)による接着層3の温度グラフであり、縦軸が温度、横軸が時間である。
図2は、硬化剤の添加量を多くした場合、
図3は硬化剤の添加量を少なくした場合である。それぞれ、実線グラフはbody位置、点線グラフはhead位置、一点鎖線グラフはtail位置の測定グラフを示す。
【0027】
図2および
図3において、65℃近辺から85℃近辺までに昇温する時間は、body位置、head位置、tail位置のいずれにおいても、
図2の方が短い。具体的には、
図2の例(実験例1という)では、65℃から85℃までの昇温時間は、body位置で6.1分、head位置で5.4分、tail位置で5.8分であった。
図3の例(実験例2という)では、65℃から85℃までの昇温時間は、body位置で11.3分、head位置で8.6分、tail位置で9.0分であった。
図4は、実験例1および実験例2における65℃から85℃までの昇温時間を示すグラフである。また、
図4において、実験例3(温度グラフは図示せず)の65℃から85℃までの昇温時間は、body位置で6.5分、head位置で5.9分、tail位置で6.5分であった。
【0028】
圧力容器1を乾燥炉から取り出して、接着層3の接着強度、つまり樹脂ライナー2と補強層4との接着状態について、剥離試験(アドヒージョン試験)を行った結果、body位置、head位置、tail位置の全てにおいて、実験例1および実験例3の方が実験例2よりも接着性が一層良好となることが判った。本発明者は、実験例1〜3の他にも硬化剤の添加量を変えて圧力容器1を多数試作して剥離試験を行った結果、接着層3の温度が65℃から85℃までに昇温する時間が6.5分(6分30秒)以下となった場合に、より良好な接着性が得られることが判明した。65℃から85℃までに昇温する時間は、硬化剤の添加量を多くするほど短くすることができる。樹脂ライナー2の第2接着層を接着層3よりも高い融点の材料とすれば、第2接着層が再溶融することを防ぐことができる。
【0029】
以上のように、樹脂ライナー2の軟化に関する許容温度以下の雰囲気温度にて補強層4の熱硬化性樹脂を硬化させつつ、熱硬化性樹脂および硬化剤に起因する発熱により、接着層3の温度を前記雰囲気温度よりも高い温度まで昇温させる圧力容器の製造方法によれば、樹脂ライナー2については樹脂ライナー2の許容温度以下に保ちつつ、補強層4における熱硬化性樹脂の十分な硬化と接着層3の再溶融を見込める。特に、接着層3の温度をその融点よりも高い温度まで昇温させれば、接着層3を確実に再溶融させることができるので、樹脂ライナー2と補強層4との接着性に関して、化学的結合接着に加えて物理的結合接着性を高めることができる。さらに、接着層3が65℃から85℃までに昇温する時間を、6.5分以下とすれば、接着性をより高めることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 圧力容器
2 樹脂ライナー
3 接着層
4 補強層