(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、機器に発生する振動の解析結果に基づいて当該機器の異常を診断する異常診断装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の異常診断装置(評価装置)は、機械設備から発生した音又は振動のアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換手段と、このAD変換手段の出力に対して解析処理を行って実測周波数スペクトルデータを生成すると共に、機械設備の異常に起因して発生する周波数成分の1次値、2次値、4次値に対する実測周波数スペクトルデータ上のピークの有無により、機械設備に対する異常の有無の診断を行う演算処理手段とを備えている。
【0004】
また、特許文献1に記載の異常診断装置は、特に機械設備の転がり軸受の異常を診断することを目的としたものであり、転がり軸受を構成している内外輪、転動体、及び保持器等の摩耗や損傷を、転がり軸受の駆動時の振動から診断する。異常の判断基準となる実測周波数スペクトルデータ上のピークの有無は、内外輪のピッチ円直径や転動体の数等の転がり軸受の諸元に基づいて算出された周波数成分の1次値、2次値、4次値に対して判断される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
工作機械等の機器には、転がり軸受の他にも例えばドリル等の刃具やモータあるいはボールねじ等の様々な構成部材が含まれるため、これら転がり軸受以外の構成部材において異常が発生する場合がある。また、機器を構成する全ての構成部材について、その異常が発生したときの周波数を算出し、その周波数成分の1次値や2次値等に対して異常の有無を判断するとすれば、過大な演算負荷が発生してしまう。
【0007】
そこで、本発明は、演算負荷の増大を抑制しながら、機器に発生する多様な異常の発生を検出することが可能な異常診断システム及び異常診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を達成するため、診断対象の機器に発生する振動を測定して当該機器の異常を診断する異常診断システムであって、前記機器に取り付けられる振動センサと、前記振動センサから取得された検出信号をスペクトル解析するスペクトル解析手段と、所定の期間にわたり前記スペクトル解析手段によって得られた周波数ごとの振動強度の最大値であるスペクトルのピーク値を抽出するピーク値抽出手段と、前記ピーク値抽出手段によって抽出された周波数ごとのピーク値に
所定値を加算した値を異常と判定する閾値
として設定する閾値設定手段と、前記閾値設定手段により前記閾値が設定された後
に前記スペクトル解析手段によって得られたスペクトル解析結果が何れかの周波数において前記閾値を超えたとき、前記機器に異常が発生したと判定する異常判定手段と、前記異常判定手段により前記機器に異常が発生したと判定されたとき、当該異常の発生を示す異常信号を出力する異常信号出力手段と、を有する異常診断システムを提供する。
【0009】
また本発明は、上記の目的を達成するため、診断対象の機器に発生する振動を測定して当該機器の異常を診断する異常診断方法であって、前記機器に取り付けられた振動センサから取得された検出信号をスペクトル解析するスペクトル解析ステップと、所定の期間にわたり前記スペクトル解析ステップにおいて得られた周波数ごとの振動強度の最大値であるピーク値を抽出するピーク値抽出ステップと、前記ピーク値抽出ステップにおいて抽出された周波数ごとのピーク値に
所定値を加算した値を異常と判定する閾値
として設定する閾値設定ステップと、前記閾値設定ステップにおいて前記閾値が設定された後
に前記振動センサから取得された検出信号のスペクトル解析結果が何れかの周波数において前記閾値を超えたとき、前記機器に異常が発生したと判定する異常判定ステップと、前記異常判定ステップにおいて前記機器に異常が発生したと判定されたとき、当該異常の発生を示す信号を出力する異常信号出力ステップと、を有する異常診断方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る異常診断システム及び異常診断方法によれば、演算負荷の増大を抑制しながら、機器に発生する多様な異常の発生を検出することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、
図1乃至
図5を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係る異常診断システム1を、診断対象の機器6、及び機器6を制御するプログラマブルコントローラ7と共に示す概略構成図である。この異常診断システム1は、機器6に発生する振動を測定して、機器6の異常を診断する。
【0014】
異常診断システム1は、機器6に取り付けられる振動センサ2と、振動センサ2の検出信号を取得して記憶するデータロガー3と、データロガー3に接続されたコンピュータ4とを有して構成されている。機器6は、例えば所定のサイクルタイムで工作物に対して所定の加工や組み付けを行う工作機械であり、電動モータ61や、電動モータ61によって駆動される可動部62、及び可動部62の動作を円滑にするための転がり軸受63等が含まれる。
【0015】
振動センサ2は、互いに垂直な3方向(X方向、Y方向、Z方向)の振動の強度(加速度)を検出可能であり、検出した振動の強度に応じた検出信号を出力する。また、振動センサ2は、例えば複数のボルトによって電動モータ61や可動部62もしくはその近傍に固定される。
【0016】
データロガー3は、振動センサ2と通信線により接続され、通信線を介したシリアル通信によって振動センサ2の検出信号を受信する。また、データロガー3は、CPU(演算処理装置)及びROMやRAM等の記憶部を有し、CPUが記憶部に記憶されたプログラムを実行することにより、振動データ記憶手段31、スペクトル解析手段32、異常判定手段33、異常信号出力手段34として機能する。
【0017】
振動データ記憶手段31は、振動センサ2から受信した検出信号を記憶部に記憶する手段である。スペクトル解析手段32は、振動センサ2から取得された検出信号をスペクトル解析する手段である。より具体的には、スペクトル解析手段32は、振動データ記憶手段31によって記憶部に記憶された振動センサ2の検出信号をFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)し、周波数ごとの振動の強度を演算する。
【0018】
異常判定手段33は、スペクトル解析手段32によって得られたスペクトル解析結果が、何れかの周波数において後述するコンピュータ4により設定された閾値を超えたとき、機器6に異常が発生したと判定する手段である。異常信号出力手段34は、異常判定手段33により機器6に異常が発生したと判定されたとき、当該異常の発生を示す異常信号を出力する手段である。
【0019】
コンピュータ4は、例えば無線LANや通信線によってデータロガー3に接続され、データロガー3との双方向の通信が可能である。また、コンピュータ4は、予めハードディスク等に記憶されたプログラムをCPUが実行することにより、ピーク値抽出手段41、及び閾値設定手段42として機能する。
【0020】
ピーク値抽出手段41は、スペクトル解析手段32によって得られた周波数ごとのスペクトルのピーク値を抽出する。ここで、「ピーク値」とは、所定の期間にわたるスペクトル解析結果における当該周波数の振動強度の最大値である。閾値設定手段42は、ピーク値抽出手段41によって抽出された周波数ごとのピーク値に基づいて、異常と判定する閾値を設定する。設定された閾値は、データロガー3に送信され、データロガー3はこの閾値を記憶する。
【0021】
本実施の形態では、閾値設定手段42が、ピーク値抽出手段41によって抽出された周波数ごとのピーク値に所定値を加算した値を閾値として設定する。この所定値は、小さければ異常の誤検出が頻発し、大きすぎると異常が発生していてもその異常を検出することができない。したがって、この所定値は、機器6の正常時には振動強度が閾値を超えることがなく、かつ異常発生時には異常の発生を確実に検出することができる値に設定される。
【0022】
また、コンピュータ4には、表示装置51が接続されており、スペクトル解析手段32による解析結果や、振動データ記憶手段31によって記憶された振動センサ2の検出信号の情報、及び閾値設定手段42によって設定された閾値の情報を表示画面に表示してユーザに提示することが可能である。ユーザは、コンピュータ4の入力装置52(キーボードやマウス等のポインティングデバイス)を操作して、閾値を編集することが可能である。閾値設定手段42によって設定された閾値がユーザによって編集された場合、その編集された閾値の情報は、データロガー3に送信されて記憶される。
【0023】
次に、この異常診断システム1における異常診断方法について、
図2を参照して説明する。
図2は、異常診断システム1における異常診断方法の具体例を示すフローチャートである。
【0024】
この異常診断方法は、診断の準備段階である準備ステップと、準備ステップの完了後に機器6の診断を行う診断ステップとを有している。準備ステップは、振動センサ2から取得された検出信号をスペクトル解析するスペクトル解析ステップS1と、スペクトル解析ステップS1において得られた周波数ごとのスペクトルのピーク値を抽出するピーク値抽出ステップS2と、ピーク値抽出ステップS2において抽出された周波数ごとのピーク値に基づいて異常と判定する閾値を設定する閾値設定ステップS3とを有している。
【0025】
診断ステップは、振動センサ2から取得された検出信号をスペクトル解析するスペクトル解析ステップS4と、スペクトル解析ステップS4において解析されたスペクトル解析結果と閾値設定ステップS3で設定された閾値との比較によって機器6に異常が発生したか否かを判定する異常判定ステップS5と、異常判定ステップS5において機器6に異常が発生したと判定されたとき、当該異常の発生を示す信号を出力する異常信号出力ステップS6とを有している。異常判定ステップS5では、スペクトル解析ステップS4のスペクトル解析結果が何れかの周波数において閾値を超えたとき、機器6に異常が発生したと判定する。
【0026】
本実施の形態では、スペクトル解析ステップS1,S4、異常判定ステップS5、及び異常信号出力ステップS6の処理が、データロガー3のスペクトル解析手段32、異常判定手段33、及び異常信号出力手段34によってそれぞれ実行される。また、ピーク値抽出ステップS2、及び閾値設定ステップS3の処理が、コンピュータ4のピーク値抽出手段41、及び閾値設定手段42によってそれぞれ実行される。ただし、各ステップの処理をどの装置で実行するかについては、特に制限はなく、例えば1つの装置によってこれらのステップS1〜S6の処理を実行してもよい。
【0027】
次に、ピーク値抽出手段41によるピーク値抽出ステップS2の処理、及び閾値設定手段42による閾値設定ステップS3の処理の具体例について、
図3及び
図4を参照して説明する。
【0028】
図3(a)〜(d)は、それぞれ機器6の1回のサイクルタイムにおける振動センサ2の検出信号をスペクトル解析したスペクトル波形である。これらの波形は、例えば3Hzの周波数帯毎に、1回のサイクルタイム中における振動強度のピーク値を示している。各スペクトル波形の横軸は周波数を示し、その範囲は例えば0〜1.5KHzである。
図3(a)〜(d)に示すように、各サイクルタイムにおけるスペクトル波形は略同様の形状となるが、例えば工作物の硬さや刃具の摩耗の程度により、少しずつ各周波数帯の振動強度がばらつくこととなる。
【0029】
図4(a)は、
図3(a)〜(d)に示す波形を重ね合わせたものである。
図4(b)は、
図4(a)において重ね合わされた波形の各周波数帯における最大値であるピーク値を示すグラフである。このグラフは、
図3に示す手順のピーク値抽出ステップS2において抽出された周波数ごとのスペクトルのピーク値を示している。
【0030】
図4(c)は、
図4(b)に示すグラフにおける各ピーク値に所定値を加算して設定された閾値を示すグラフである。
図4(c)では、所定値を加算する前のグラフ(
図4(b)に示すグラフ)を二点鎖線で示し、所定値を加算した閾値を実線で示している。この閾値を演算する処理は、
図3に示す手順の閾値設定ステップS3において行われる。設定された閾値は、コンピュータ4からデータロガー3に送信され、データロガー3内に記憶される。
【0031】
準備ステップの各処理(スペクトル解析ステップS1、ピーク値抽出ステップS2、及び閾値設定ステップS3の処理)は、機器6に異常が発生しない状態において行われるものであり、準備ステップの処理中に機器6に何らかの異常が発生した場合には、その異常を解消する処置を行うと共にデータロガー3の記憶部に記憶された振動センサ2の検出信号に関する情報を消去した後、再度、準備ステップの各処理を実行する。
【0032】
なお、上記では、説明の容易化のため、4回のサイクルタイムにおける振動センサ2の検出信号をスペクトル解析した結果に基づいて閾値を設定する場合について説明したが、機器6の異常の誤検出を防ぐために、例えば1000回あるいは10000回以上のサイクルタイムにわたって振動を測定した結果に基づいて閾値を設定することが望ましい。また、振動センサ2として、互いに垂直な3方向の振動強度を検出することが可能なものを用いた場合には、これら3方向のそれぞれについて同様の診断を行う。またさらに、機器6に複数の振動センサ2を取り付けた場合には、複数の振動センサ2のそれぞれについて、上記と同様の診断を行う。
【0033】
次に、異常判定手段33による異常判定ステップS5の処理の具体例について、
図5(a)〜(c)を参照して説明する。
図5(a)〜(c)では、閾値を破線で示し、スペクトル解析ステップS4において解析されたスペクトル強度を実線で示している。
【0034】
図5(a)は、スペクトル解析ステップS4において解析されたスペクトル強度が周波数の全域において閾値設定ステップS3で設定された閾値を下回り、機器6に異常が発生していないと判定される場合のスペクトル波形を示すグラフである。
図5(b)及び(c)は、図示A部及びB部においてスペクトル解析ステップS4において解析されたスペクトル強度が閾値を上回り、機器6に異常が発生していると判定される場合のスペクトル波形を示すグラフである。
【0035】
このように、異常判定手段33は、スペクトル解析ステップS4のスペクトル解析結果が何れかの周波数において閾値設定ステップS3で設定された閾値を超えたとき、機器6に異常が発生したと判定する。このような異常は、例えば転がり軸受63の摩耗や、可動部62における歯車の損傷、あるいは刃具の過度な摩耗や折損等により発生し得る。そして、機器6に異常が発生したと判定されたとき、異常信号出力手段34は、異常の発生を示す異常信号を出力する。具体的には、異常信号出力手段34の処理によってデータロガー3からプログラマブルコントローラ7に異常信号が出力される。
【0036】
プログラマブルコントローラ7には、警報装置8が接続されている。警報装置8は、異常の発生を作業者等に報知するものであり、例えばランプやブザーである。プログラマブルコントローラ7には、データロガー3から異常信号を受け付けたときに警報装置8を作動させるように構築されたシーケンスプログラムが予め記憶されている。また、プログラマブルコントローラ7は、データロガー3から異常信号を受け付けたとき、必要に応じて機器6の制御を停止する。
【0037】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明した実施の形態によれば、スペクトル解析手段によって得られた周波数ごとのスペクトルのピーク値を抽出し、抽出されたピーク値に基づいて異常と判定する閾値が自動的に設定される。そして、診断ステップにおいて、スペクトル解析結果が何れかの周波数において閾値を超えたとき、機器6に異常が発生したと判定される。このため、手作業によってスペクトルのピーク値を抽出して閾値を設定する場合に比較して、作業負担を大幅に軽減できる。また、例えば機器6を構成する構成部材のそれぞれについて異常が発生したときの周波数を算出して異常の有無を判断する場合に比較して、演算負荷の増大が抑制される。またさらに、機器6において予期しない異常が発生した場合にも、その異常を検出することができる。すなわち、機器6に発生する多様な異常の発生を検出することが可能となる。
【0038】
また、上記実施の形態によれば、抽出された周波数ごとのピーク値に所定値を加算した値を閾値として設定するので、異常の誤検出を抑制できると共に、閾値を演算する際の演算負荷を抑制することが可能となる。
【0039】
(付記)
以上、本発明の異常診断システム及び異常診断方法を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、機器6が工作機械である場合について説明したが、これに限らず、様々な機器を診断対象とすることが可能である。