特許第6348973号(P6348973)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6348973-電圧安定化内層を有する被覆導体 図000017
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6348973
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】電圧安定化内層を有する被覆導体
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/02 20060101AFI20180618BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20180618BHJP
   C08L 23/06 20060101ALI20180618BHJP
   C08K 5/3492 20060101ALI20180618BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20180618BHJP
   H01B 9/02 20060101ALI20180618BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20180618BHJP
【FI】
   H01B7/02 Z
   C08L23/00
   C08L23/06
   C08K5/3492
   H01B7/18 H
   H01B9/02 Z
   H01B7/18 D
   H01B3/44 F
   H01B3/44 P
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-508953(P2016-508953)
(86)(22)【出願日】2014年4月3日
(65)【公表番号】特表2016-520960(P2016-520960A)
(43)【公表日】2016年7月14日
(86)【国際出願番号】US2014032778
(87)【国際公開番号】WO2014172107
(87)【国際公開日】20141023
【審査請求日】2017年3月21日
(31)【優先権主張番号】61/813,320
(32)【優先日】2013年4月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100187964
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ヤスミン・エヌ・スリバスタバ
(72)【発明者】
【氏名】シューミン・チェン
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー・ジェイ・パーソン
【審査官】 和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/050792(WO,A1)
【文献】 特開2005−139433(JP,A)
【文献】 特表2012−530801(JP,A)
【文献】 特表2006−504831(JP,A)
【文献】 特表2011−521289(JP,A)
【文献】 特開2012−208940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/02
C08K 5/3492
C08L 23/00
C08L 23/06
H01B 3/44
H01B 7/18
H01B 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆導体であって、
導体と、
最外不透明層と、
前記導体と前記最外層との間に位置する内層と
を備え、前記内層がポリマー組成物を含み、この組成物が、
ポリオレフィンと、
構造(I)、(II)、または(III)のうちの1つを有する化合物、およびこれらのうちの2つ以上の組合せからなる群から選択されるトリアジンと
を含む、前記被覆導体。
【化1】

【化2】

【化3】
【請求項2】
該ポリオレフィンがポリエチレンである、請求項1に記載の前記被覆導体。
【請求項3】
該ポリマー組成物が該導体と直接接触している、請求項1に記載の前記被覆導体。
【請求項4】
該トリアジンが構造(I)を有する前記化合物からなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の前記被覆導体。
【請求項5】
該トリアジンが構造(II)を有する前記化合物からなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の前記被覆導体。
【請求項6】
該トリアジンが構造(III)を有する前記化合物からなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の前記被覆導体。
【請求項7】
トリアジン、該ポリマー組成物の0.1重量%〜5重量%を構成する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の前記被覆導体。
【請求項8】
該被覆導体が、中電圧パワーケーブル、高電圧パワーケーブル、及び超高電圧パワーケーブルからなる群から選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の前記被覆導体。
【請求項9】
該内層が絶縁層である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の前記被覆導体。
【請求項10】
該内層が遮蔽層である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の前記被覆導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2013年4月18日に出願された米国仮特許出願第61/813,320号の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
典型的なパワーケーブルは、1つ以上のポリマー材料層に取り囲まれたケーブル芯に1つ以上の導体を含む。中電圧(6〜36kV)、高電圧(36kV超)、及び超高電圧(220kV超)ケーブルは通常、内部半導電層、続いて絶縁層、次に外部半導電層、そして最外層(すなわちシース)に取り囲まれた芯を含む。
【0003】
ケーブルシステムの負荷容量は導体からの熱伝導により、部分的に制限される。ポリエチレンなどのポリオレフィンは、絶縁層及び/または半導電層に頻繁に利用される。ポリエチレンは、低誘電率及び比較的高い電気絶縁破壊強度を有する。
【0004】
パワーケーブルの絶縁層の電気絶縁破壊強度を増加させるポリオレフィン組成物のための電圧安定剤が知られている。しかし、従来の電圧安定剤(例えば、多環式芳香族化合物群、例えばアセン)は、ポリオレフィンとの相溶性が低い。当該技術者は、(i)ケーブル絶縁材料の電気絶縁破壊強度を向上させるための、(ii)既存ケーブル設計を用いて信頼性を向上させるための、及び/または(iii)増加したエネルギー量を輸送できる高応力設計を提供するための、ポリオレフィンと相溶性のある電圧安定剤に対する継続的なニーズを認識している。
【発明の概要】
【0005】
一実施形態は、被覆導体であり、
導体と、
最外不透明層と、
導体と最外層との間に位置する内層と、を備え、前記内層はポリマー組成物を含み、この組成物は、
ポリオレフィンと、
構造(I)、(II)、または(III)のうちの1つを有する化合物と、これらのうちの2つ以上の組合せとからなる群から選択されるトリアジンと、を含む。
【化1】
【化2】
【化3】
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】は、本開示の実施形態によるパワーケーブルの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示は、ポリマー組成物を提供する。ポリマー組成物は、(i)ポリマー成分と、(ii)電圧安定剤と、(iii)任意に他の添加剤と、を含む。本開示はさらに、かかるポリマー組成物を含む被覆導体を提供する。
【0008】
ポリマー成分
ポリマー成分は、熱可塑性プラスチック及び/または熱硬化性材料(例えば、シリコーンゴム)を含んでよい。ポリマー成分は、架橋型であってよく、または非架橋型であってよい。好適な熱可塑性プラスチックの非限定例としては、ポリウレタン、ポリオレフィン、ポリアセタール、ポリカーボネート、ビニルポリマー、ポリアミド、ポリイミド、アクリル、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、セルロース誘導体、ポリエステル、ポリエーテル、フルオロポリマー、ならびにオレフィン−ビニルコポリマー、オレフィン−アリルコポリマー、及びポリエーテルとポリアミドのコポリマーなどの、これらのコポリマーが挙げられる。ビニルポリマーの例としては、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル/酢酸ビニルコポリマー、ポリビニルアルコール、及びポリビニルアセタールが挙げられる。
【0009】
架橋型ポリマー成分を使用することが望まれる場合、架橋は、次の非限定的手法、フリーラジカル架橋(例えば、ペルオキシド架橋)、放射線架橋(例えば、電子加速器、ガンマ線、高エネルギー放射線(例えば、X線、マイクロ波など))、熱架橋、及び/または湿気硬化架橋(例えば、シラン−グラフト)、のうちの1つ以上により達成することができる。
【0010】
一実施形態において、ポリマー成分は、ポリオレフィンである。好適なポリオレフィンの非限定例は、1つ以上のC〜C20α−オレフィンを含有するホモポリマー及びコポリマーである。本開示では、エチレンは、α−オレフィンと考えられる。好適なα−オレフィンの非限定例としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン及び1−オクテンが挙げられる。好適なポリオレフィンの非限定例としては、エチレン系ポリマー、プロピレン系ポリマー、及びこれらの組み合わせが挙げられる。「エチレン系ポリマー」または「ポリエチレン」などの用語は、少なくとも50モルパーセント(mol%)のエチレンから誘導される単位を含有するポリマーである。「プロピレン系ポリマー」または「ポリプロピレン」などの用語は、少なくとも50モルパーセントのプロピレンから誘導される単位を含有するポリマーである。
【0011】
一実施形態において、ポリマー成分は、エチレン系ポリマーである。エチレン系ポリマーは、エチレンホモポリマーまたはエチレン/α−オレフィンインターポリマーであってよい。α−オレフィン含有量は、インターポリマーの重量を基準として、約5、または約10、または約15、または約20、または約25重量%から、50未満、または約45未満、または約40未満、または約35重量%未満までである。α−オレフィン含有量は、Randall(Rev.Macromol.Chem.Phys.,C29(2&3))に記載されている手順を使用して、13C核磁気共鳴(NMR)分光法により測定される。一般に、インターポリマーのα−オレフィン含有量が多くなれば、密度が小さくなり、かつインターポリマーはより非晶質になる。そして、これにより、保護絶縁層にとって望ましい物理的及び化学的特性になる場合がある。
【0012】
α−オレフィンは、C3−20直鎖状、分枝状または環状α−オレフィンである。好適なC3−20α−オレフィンの非限定例としては、プロペン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、及び1−オクタデセンが挙げられる。さらに、α−オレフィンは、シクロヘキサンまたはシクロペンタンなどの環状構造を含有し、結果として3−シクロヘキシル−1−プロペン(アリルシクロヘキサン)及びビニルシクロヘキサンなどのα−オレフィンになる場合がある。用語の典型的な意味でのα−オレフィンではないが、本開示では、ノルボルネン及び関連オレフィン、特に5−エチリデン−2−ノルボルネンなどの特定の環状オレフィンは、α−オレフィンであり、上述したα−オレフィンの一部または全部の代わりに使用することができる。同様に、スチレン及びその関連オレフィン(例えば、α−メチルスチレンなど)は、本開示では、α−オレフィンである。好適なエチレン系ポリマーの非限定例としては、次のコポリマーが挙げられる。エチレン/プロピレン、エチレン/ブテン、エチレン/1−ヘキセン、エチレン/1−オクテン、エチレン/スチレン、エチレン−酢酸ビニル、エチレン−プロピオン酸ビニル、エチレン−イソ酪酸ビニル、エチレン−ビニルアルコール、エチレンアクリル酸メチル、エチレン−アクリル酸エチル、エチレン−メタクリル酸エチル、エチレン/アクリル酸ブチルコポリマー(EBA)、エチレン−アリルベンゼン、エチレン−アリルエーテル、及びエチレン−アクロレイン、エチレン−プロピレン(EPR)またはエチレン−プロピレン−ジエン(EPDM)ゴム、天然ゴム、ブチルゴムなど。
【0013】
好適なターポリマーの非限定例としては、エチレン/プロピレン/1−オクテン、エチレン/プロピレン/ブテン、エチレン/ブテン/1−オクテン、エチレン/プロピレン/ジエンモノマー(EPDM)及びエチレン/ブテン/スチレンが挙げられる。コポリマー/インターポリマーは、ランダムであるか、またはブロックである場合がある。
【0014】
エチレン系ポリマーは、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン、(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、及び/または超低密度ポリエチレン(VLDPE)である場合がある。本開示の実施に際して使用されるエチレン系ポリマーは、単独で、または1つ以上の他のエチレン系ポリマー、例えば、2つ以上の「互いに異なる」エチレン系ポリマーの混練物、と組み合わせて使用することができる。このことは、エチレン系ポリマーが、モノマー/コモノマー組成物及び含有量、メルトインデックス、溶解温度、分枝の程度、触媒式調製方法などの少なくとも1つの特性の点で、異常であることを意味する。次に、エチレン系ポリマーが、2つ以上のエチレン系ポリマーの混練物である場合、エチレン系ポリマーは、反応器内または反応器後プロセスのいずれによっても、混練することができる。反応器は、異なる条件、例えば、異なる反応物質濃度、温度、圧力など、で作用することを除いて同じ触媒を入れ、または異なる触媒を入れることを除いて同じ条件で作用することができる。
【0015】
高圧法で製造されるエチレン系ポリマーの例としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、エチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)、エチレンアクリル酸エチルコポリマー(EEA)、及びエチレンシランアクリレートターポリマーが挙げられる(が、これらに限定されない)。
【0016】
エチレン系ポリマーの非限定例としては、超低密度ポリエチレン(VLDPE)(例えば、FLEXOMER(登録商標)The Dow Chemical Company製のエチレン/1−ヘキセンポリエチレン)、均一分枝状直鎖エチレン/α−オレフィンコポリマー(例えば、Mitsui Petrochemicals Company Limited製のTAFMER(登録商標)、及びExxon Chemical Company製のEXACT(登録商標))、均一分枝状実質的直鎖エチレン/α−オレフィンポリマー(例えば、AFFINITY(登録商標)及びENGAGE(登録商標)The Dow Chemical Company製ポリエチレン)ならびにエチレンブロックコポリマー(例えば、INFUSE(登録商標)The Dow Chemical Company製のポリエチレン)が挙げられる。実質的に直鎖エチレンコポリマーは、米国特許第5,272,236号、同第5,278,272号、及び同第5,986,028号に記載されている。
【0017】
電圧安定剤
ポリマー成分に加えて、ポリマー組成物はさらに、電圧安定剤(すなわち、VSA)を含む。「電圧安定剤」は、本発明で使用する場合、電界に暴露された時、ポリマー材料への損傷を低減させる化合物である。VSAは、絶縁材料における電子トリーイングを抑制するために、または高い局在化した電界(欠陥または異物の近くで)を効果的に遮蔽するために、電子をトラップし、もしくは非活性化し、それによりポリオレフィンに損傷を与える可能性のある注入された電子のエネルギー及び/または周波数を低減させ得ると考えられている。VSAをポリマー成分に混練することにより、トリーイングを抑制するか、またはトリーイングの速度を遅延させる。特定の理論に束縛されるものではないが、VSAは、トリーイングの開始点である、ポリマー成分における欠陥をふさぎ、かつ/または取り囲むと考えられ、この欠陥は。欠陥としては、ポリマー成分中に存在するボイド及び/または不純物が挙げられる。
【0018】
VSAは、次の構造を有する1つ以上の化合物から選択されるトリアジンである。
【化4】
【化5】
【化6】
a) 一実施形態において、ポリマー組成物は、約0.1重量%、または約0.2重量%から、約5重量%、または約3重量%、または約1重量%までのVSAを含有する。
b) 一実施形態において、VSAは、2つまたは3つの異なる、構造(I)〜(III)を有するトリアジンの混合物である場合がある。
c) 前述のVSAは予想外に、本ポリマー組成物を含有する絶縁層の直流(「DC」)絶縁破壊強度を改善する。DC絶縁破壊強度の改善は、以後記載される実施例1〜3に示される、DC絶縁破壊強度の向上に見られる。
【0019】
さらに、本VSAは、ポリオレフィンマトリックス中の良好な溶解度、及び低いマイグレーション傾向を示す。本VSAは、ポリマー組成物の他の成分、特に架橋剤と効果的に利用することができる。
【0020】
各種実施形態において、1つ以上の上記VSAを含有するポリマー組成物は、DC絶縁破壊強度が少なくとも400kV/mm、少なくとも425kV/mm、または少なくとも450kV/mm、かつ700kV/mm、650kV/mm、600kV/mm、または550kV/mmまでである場合がある。DC絶縁破壊強度は、以下の試験方法セクションに提示される手順に従い測定される。一実施形態において、ポリマー組成物は、DC絶縁破壊強度が467〜543kV/mmの範囲にある場合がある。
【0021】
一実施形態において、1つ以上の上記VSAを含有するポリマー組成物は、VSAがないことを除いて同じ組成を有する比較ポリマー組成物より大きい、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、または少なくとも20%のDC絶縁破壊強度を有する場合がある。一実施形態において、1つ以上の上記VSAを含有するポリマー組成物は、VSAがないことを除いて同じ組成を有する比較ポリマー組成物より大きい、10%〜40%、または13%〜32%の範囲にあるDC絶縁破壊強度を有する場合がある。
【0022】
添加剤
前述のポリマー組成物のいずれかは任意に、1つ以上の添加剤を含有してもよい。好適な添加剤の非限定例としては、酸化防止剤、安定剤、加工助剤、スコーチ遅延剤及び/または架橋促進剤が挙げられる。酸化防止剤としては、立体的ヒンダードまたはセミヒンダードフェノール、芳香族アミン、脂肪族立体的ヒンダードアミン、有機ホスファイト、チオ化合物、及びこれらの混合物について言及することができる。典型的な架橋促進剤は、ビニルまたはアリル基を有する化合物、例えば、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、及びジ−、トリ−、またはテトラ−アクリレートを含んでよい。さらなる添加剤としては、難燃性添加剤、酸捕捉剤、無機充填剤、水トリー遅延剤、及び他の電圧安定剤について言及することができる。
【0023】
「スコーチ遅延剤」は、本発明で使用する場合、該化合物なしに押出成形される同じポリマー組成物と比較した時、使用する典型的な押出温度で、ポリマー組成物の押出成形中のスコーチの形成を低減させる化合物である。スコーチ遅延特性の他に、スコーチ遅延剤は同時に、促進させるようなさらなる効果、すなわち、架橋工程中の架橋性能を向上させることをもたらす場合がある。
【0024】
ポリマー組成物は、本明細書にて開示される2つ以上の実施形態を含んでよい。
【0025】
被覆導体
本開示は、本ポリマー組成物を含有する物品を提供する。一実施形態において、物品は、導体及び導体上の被覆を備える。これにより被覆導体を形成する。導体は、単一のケーブルまたは1つに束ねた複数のケーブル(すなわち、ケーブル芯、または芯)であってよい。被覆導体は、軟質、半硬質、または硬質であってよい。好適な被覆導体の非限定例としては、消費者向け電子部品用柔軟配線などの柔軟配線、パワーケーブル、携帯電話及び/またはコンピュータ用電源充電線、コンピュータデータコード、パワーコード、電気機器の配線材、ならびに消費者向け電子アクセサリーコードが挙げられる。
【0026】
被覆が導体上に位置する。被覆は、絶縁層及び/または遮蔽層、ならびに/または半導電層などの1つ以上の内層であってよい。被覆は、1つ以上の外層(複数可)(「外皮」または「シース」とも呼ばれる)を含んでもよい。被覆は、本明細書にて開示するように、本ポリマー組成物のいずれをも含む。本発明で使用する場合、「上に」は、被覆(または層)と導体との間の、直接的接触または間接的接触を含む。「直接的接触」は、被覆がじかに導体と接触しており、被覆と導体との間に位置する介在層(複数可)、及び/または介在材料(複数可)がない構成である。「間接的接触」は、介在層(複数可)、及び/または介在構造体(複数可)または材料(複数可)が、導体と被覆との間に位置する構成である。被覆は、全面的に、または部分的に導体を覆うか、または取り囲むか、もしくは包んでもよい。被覆は、導体を取り囲む唯一の構成要素であってよい。あるいは、被覆は、金属導体を包む多層構造体の1つの層、外皮、またはシースであってよい。
【0027】
一実施形態において、被覆導体が提供され、導体、内層及び最外不透明層(すなわちシース)を含む。最外不透明層は、露出層または周囲環境と接触する層である。内層が、導体と最外層との間に位置する。換言すれば、内層は周囲環境に暴露されない、かつ/または太陽光に暴露されない。内層は、上記で開示されるように、ポリオレフィン及びVSAを含有するポリマー組成物を含む。VSAは本明細書に開示されるような構造(I)、(II)、(III)を有するトリアジン、または2つの異なるトリアジンの混練物のうちのいずれかである場合がある。
【0028】
一実施形態において、内層(ポリオレフィン及びVSAを含有する)は、太陽光に暴露される層(複数可)を除外する。
【0029】
一実施形態において、内層のポリマー組成物は、ポリエチレンを含有する。
【0030】
一実施形態において、内層のポリマー組成物は、架橋ポリエチレンを含有する。
【0031】
一実施形態において、被覆導体は、1kVより大きい、または6kVより大きく36kVまでの(中電圧)、または36kVより大きい(高電圧)、または220kVより大きい(超高電圧)電圧で動作するパワーケーブルである。図1は、金属性導体12、内部遮蔽層14、絶縁層16、外部遮蔽層18、巻きワイヤーまたは導電性バンドの金属性遮蔽20、及び最外層22(シースとしても知られている)を含む絶縁パワーケーブル10(すわなち、被覆導体)を示す。最外層22は、不透明である。
【0032】
一実施形態において、内部遮蔽層14、及び/または絶縁層16、及び/または外部遮蔽層18は、ポリエチレン及び構造(I)、(II)及び/または(III)を有するトリアジンを含有するポリマー組成物からなる。換言すれば、内層は、絶縁層及び/または遮蔽層である場合があり、これらの一方または両方は本ポリマー組成物を含有する。
【0033】
本被覆導体は、本明細書で開示される2つ以上の実施形態を含んでよい。
【0034】
定義
本明細書の元素の周期表への言及は全て、2003年にCRC Press,Inc.により発行され、著作権で保護されている元素の周期表を参照しなければならない。さらに、族(複数可)へのあらゆる言及は、基に番号をつけるIUPAC方式を使用して、この元素の周期表で表される族(複数可)へのものでなければならない。そうでないと明示、文脈から暗示、または当該技術分野において慣習的でない限り、全ての部及びパーセントは、重量を基準とする。米国特許実務の必要上、本明細書で参照されるあらゆる特許、特許出願、または公開の内容は、特に合成技術と、定義(本明細書で与えられるいかなる定義とも矛盾しない限度において)と、当該技術分野における一般的知見の開示に関し、その全体が本明細書に参照として組み込まれる(すなわち、これらの同等の米国版が参照によりそのように組み込まれる)。
【0035】
本明細書で引用されるあらゆる数値の範囲は、1単位ずつ増える、下の値から上の値までの全ての値を含む。但し、いかなる低い値といかなる高い値との間にも少なくとも2単位の間隔はある。一例として、成分の量、または、例えば混練成分の量、軟化温度、メルトインデックスなどの、組成上のもしくは物理的な特性の値が、1〜100の間にあると記載されている場合、1、2、3などの全ての個々の値と、1〜20、55〜70、197〜100などの全ての部分範囲を本明細書では明示的に列挙することを意味する。1未満の値の場合、必要に応じて、1単位が0.0001、0.001、0.01、または0.1であると考えられる。これらは、具体的に意味するものの唯一の例であり、列挙される最低値と最高値との間の数値の全ての可能な組合せは、本出願で明示的に記載されると考えられるべきである。換言すれば、本明細書で引用されるあらゆる数値の範囲は、記載される範囲内のあらゆる値または部分範囲を含む。本明細書で説明するように、メルトインデックス、メルトフローレート、及び他の特性に言及する数の範囲は詳述されている。
【0036】
用語「混練物」または「ポリマー混練物」は、本発明で使用する場合、2つ以上のポリマーの混練物である。かかる混練物は、相溶性(分子レベルで相分離しない)があっても、またはなくてもよい。かかる混練物は、相分離しても、またはしなくてもよい。かかる混練物は、透過電子分光法、光散乱、X線散乱、及び当該技術分野で知られている他の方法で測定されるように、1つ以上のドメイン構造を含有しても、またはしなくてもよい。
【0037】
絶縁体の「DC絶縁破壊強度」は、絶縁体の一部が導電性になる最低電圧であり、以下の試験方法セクションで提示される手順に従い測定される。
【0038】
「ケーブル」などの用語は、保護絶縁外皮またはシース内部の少なくとも1つのワイヤーまたは光ファイバーである。典型的には、ケーブルは通常、一般的な保護絶縁外皮またはシースの中にある、1つに束ねた2つ以上のワイヤーまたは光ファイバーである。外皮の内部の個々のワイヤーまたはファイバーは、むき出しでも、覆われていても、または絶縁されていてもよい。コンビネーションケーブルは、電子ワイヤー及び光ファイバーの両方を備えてよい。ケーブルなどは、低、中、及び高電圧用途に対して設計することができる。典型的なケーブル設計は、米国特許第5,246,783号、同第6,496,629号、及び第6,714,707号で説明される。
【0039】
「組成物」などの用語は、2つ以上の成分の混合物または混練物を意味する。用語「組成物」は、本発明で使用する場合、組成物を含む材料の混合物、ならびに組成物の材料から形成される反応生成物及び分解生成物を含む。
【0040】
用語「を含む」及びその派生語は、同じものが本明細書で開示されているか否かに関わらず、あらゆる追加成分、工程、または手順の存在を除外することを意味するものではない。あらゆる疑義を避けるために、そうでないと記載されない限り、用語「を含む」の使用を通じて、本明細書で請求の範囲に記載されている全ての組成物は、ポリマー組成物であれ、それ以外であれ、あらゆる追加の添加剤、補助剤、または化合物を含有してよい。対照的に用語「から本質的になる」は、あらゆる続く詳細説明の範囲から、実施可能性に必須でないものを除き、あらゆる他の成分、工程、または手順を除外する。用語「からなる」は、具体的に叙述または列挙しない、あらゆる成分、工程、または手順を除外する。用語「または」は、特記しない限り、個別に、及び任意の組合せで列挙した構成要素を指す。
【0041】
「導体」は、あらゆる電圧(DC、AC、または過渡)で、エネルギーを伝達するための細長い形状の部材(ワイヤー、ケーブル、ファイバー)である。導体は通常、少なくとも1つの金属ワイヤーまたは少なくとも1つの金属ケーブル(例えば、アルミニウムまたは銅)であるが、光ファイバーを含んでよい。
【0042】
「架橋された」、「硬化された」及び類似の用語は、ポリマーが物品に成形される前後に、架橋を引き起こす処理を受け、または処理にかけられることを意味し、キシレンまたはデカレン(decalene)抽出物が90重量パーセント以下である(すなわち、ゲル含有量が10重量パーセント以上である)。
【0043】
「絶縁層」は、体積抵抗率が1010オームセンチメートルより大きい、または1012オームセンチメートルより大きい層である。
【0044】
「層」は、本発明で使用する場合、導体を取り囲むポリマーベースの層、例えば、電気絶縁層、半導性層、シース、保護層、防水層、または組み合わせた機能を発揮する層、例えば、導電性フィラーを担う保護層である。
【0045】
用語「中電圧」は一般に、6kVと約36kVとの間の電圧を意味するのに対して、「高電圧」は36kVより高い電圧を意味し、「超高電圧」は一般に、220kVより大きい電圧を意味する。当事者は、これらの一般の電圧範囲は、米国国外で異なる場合があることを理解する。
【0046】
用語「不透明」は、本発明で使用する場合、少なくとも自然光(すなわち、太陽光)を遮断する材料である。換言すれば、不透明材料は、波長が約250nm〜約800nmである光エネルギーを通さない。
【0047】
用語「ポリマー」は、同一のまたは異なるタイプのモノマーを重合させることにより調製される高分子化合物である。「ポリマー」としては、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマー、インターポリマーなどが挙げられる。用語「インターポリマー」は、少なくとも2つのタイプのモノマーまたはコモノマーを重合させることにより調製されるポリマーである。インターポリマーとしては、コポリマー(通常は2つの異なるタイプのモノマーまたはコモノマーから調製されるポリマーを指す、ターポリマー(通常は3つの異なるタイプのモノマーまたはコモノマーから調製されるポリマーを指す)、テトラポリマー(通常は4つの異なるタイプのモノマーまたはコモノマーから調製されるポリマーを指す)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
「遮蔽層」は、半導性または抵抗性があってよい。半導性を有する遮蔽層は、体積抵抗率値が90℃で測定した時、1000Ω−m未満、または500Ω−m未満である。抵抗性を有する遮蔽層は、体積抵抗率が半導性層より大きい。抵抗性を有する遮蔽層は通常、誘電率が約10より大きい。
【0049】
試験方法
DC絶縁破壊強度測定
DC絶縁破壊強度測定は、丸い0.25インチプローブ及び大きい平坦な銅プレートを利用する装置を使用して実施する。各試験に対して、電圧は、絶縁破壊が検出されるまで、300V/秒の速度で上昇させる。「絶縁破壊」は、電源によって示される電圧が、設定値の10%下回るまで急激に低下する点と定義される。本方法は、静電放電から偽陽性を排除する電流スパイク測定と対立するものとして、選択される。このDC絶縁破壊試験手順は、ASTM D3755(DC試験用)から考えると、ASTM D149(AC試験用)と非常に類似している。DC絶縁破壊強度は、厚みに応じて、サンプルが正常に戻れなかった電圧である。ASTM法は、十分な標準偏差のために、サンプル当たり5回の測定を提案するが、ここで初期試験により、標準偏差は約10回の試験まで安定しないが、標準誤差はさらに低下し続けることが明らかとなった。標準誤差と時間との間の妥協案として、各サンプルに対し、10回の測定を行い、平均値が材料のDC絶縁破壊強度として与えられる。
【実施例】
【0050】
サンプル調製
特定量の添加剤を含有するPE樹脂を、最初に乾式混練し、次に混合物を、約200RPMの速度で、マイクロ18mm二軸スクリュー押出成形機上で溶融混練する。スループットは、約180〜200℃の溶解温度で、7lb/時間である。押出加工されたストランドは、空気冷却し、ペレットに切断する。
【0051】
特定量の添加剤を含むPEフィルムを、一軸スクリュー押出成形機を使用して製造する。フィルムを、170〜210℃の範囲の温度で押出成形機に沿ってキャストする。ダイギャップを、4mmに設定し、冷却ロール温度は40℃である。フィルム厚は、約1〜2ミルである。
【0052】
実施例1〜3及び比較サンプルA〜C
実施例1は、85重量%の1−メトキシ−2−プロパノール溶液である、1重量%の以下のトリアジン電圧安定剤を含有するLDPEであり、
【化7】
これは、BASF製の商標名TINUVIN(商標)400である。本実施例で用いるLDPEは、The Dow Chemical Company(Midland,MI,USA)製のLDPE DXM446である。
【0053】
実施例2は、1重量%の以下のトリアジン電圧安定剤を含有するLDPEであり、
【化8】
これは、BASF製の商標名TINUVIN(商標)405である。本実施例で用いたLDPEは、実施例1で記載されたのと同じものである。
【0054】
実施例3は、0.85重量%の実施例2で用いたのと同じ電圧安定剤を含有するLDPEである。本実施例で用いたLDPEは、実施例1で記載されたのと同じものである。
【0055】
実施例4は、1重量%の以下のトリアジン電圧安定剤を含有するLDPEであり、
【化9】
これは、BASF製の商標名TINUVIN(商標)479である。本実施例で用いたLDPEは、実施例1で記載されたのと同じものである。
【0056】
比較サンプルAは、電圧安定剤がないLDPEである。比較サンプルAで用いるLDPEは、実施例1で記載されたのと同じものである。
【0057】
比較サンプルBは、1重量%のCYASORB(商標)UV1164を含有するLDPEであり、以下の構造を有する。
【化10】
比較サンプルBで用いるLDPEは、実施例1で記載されたのと同じものである。
【0058】
比較サンプルCは、1重量%のCHIMASSORB(商標)944を含有するLDPEであり、ヒンダードアミン安定剤は、以下の構造を有する。
【化11】
比較サンプルCで用いるLDPEは、実施例1で記載されたものと同じものである。
【0059】
実施例1〜3及び比較サンプルA〜Cは、上記手順に従い、DC絶縁破壊強度に関して分析される。結果を、以下の表1に示す。
【表1】
絶縁破壊強度結果は、特殊/固有トリアジンタイプの構造体であるTINUVIN(商標)400、405、及び479により、DC電圧安定化性能が、CYASORB(商標)UV1164及びCHIMASSORB(商標)944などの他のトリアジン構造体と比較して大きくなることを示す。
【0060】
本開示は、本明細書に含まれる実施形態及び図面に限定されないが、以下の請求項の範囲内になるように、実施形態の一部、及び異なる実施形態の要素の組合せを含む、これらの実施形態の改変形態を含むことを具体的に意味する

図1