(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のIII族窒化物半導体層およびIII族窒化物半導体層の製造方法の実施形態について図面を用いて説明する。なお、図はあくまで発明の構成を説明するための概略図であり、各部材の大きさ、形状、数、異なる部材の大きさの比率などは図示するものに限定されない。
【0010】
図1は、本実施形態のIII族窒化物半導体層の製造方法の処理の流れの一例を示すフローチャートである。図示するように、本実施形態のIII族窒化物半導体層の製造方法は、ピット形成工程S10と、成長工程S20とを有する。
【0011】
ピット形成工程S10では、
図2に示すように、下地基板10に複数の縦長ピット20を形成する。
図2は、下地基板10の一部の断面模式図である。なお、ピット形成工程S10により、縦長ピット20以外のピットが下地基板10に形成されてもよい。しかし、ピット形成工程S10で下地基板10に形成されたピットのうち、70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくはほぼ100%(=99%以上)が、縦長ピット20となる。
【0012】
下地基板10は、例えば、GaN基板、AlN基板、GaNonサファイア基板、GaNonSiC基板、GaNonSi基板などの、窒化物半導体基板等とすることができる。下地基板10の厚さは、例えば100μm以上1000μm以下である。下地基板10には、転位30が形成されている。
【0013】
縦長ピット20は、下地基板10の第1の面11から下地基板10の厚さ方向(
図2における上下方向)に伸びている。そして、縦長ピット20は、下地基板10に形成された転位30と繋がっている。「縦長ピット20と転位30が繋がる」とは、転位30の終端(第1の面11よりの終端)が縦長ピット20と接した状態を意味する。第1の面11は、後の成長工程S20でIII族窒化物半導体(Al
xGa
1−x−yIn
yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1))を成長させる面(成長面)である。
【0014】
縦長ピット20は、深さDeが1000nm≦De≦10000nmを満たす。深さDeは、縦長ピット20の開口(下地基板10の第1の面11と面一となる開口。以下同様。)から縦長ピット20の底部までの長さである。
【0015】
また、縦長ピット20は、開口の直径Diが100nm≦Di≦500nmを満たす。開口の直径Diは、縦長ピット20の開口の径の中の最も長い径である。
【0016】
また、縦長ピット20は、アスペクト比(=深さDe/開口の直径Di)が、3≦De/Di≦100を満たす。
【0017】
なお、複数の縦長ピット20の中には、互いに深さDeが異なる縦長ピット20が混在していてもよい。また、複数の縦長ピット20の中には、互いに開口の直径Diが異なる縦長ピット20が混在していてもよい。さらに、複数の縦長ピット20の中には、互いにアスペクト比(=深さDe/開口の直径Di)が異なる縦長ピット20が混在していてもよい。
【0018】
ここで、縦長ピット20と繋がらず、下地基板10の第1の面11まで貫通している転位30の数をM、縦長ピット20と繋がった転位30の数をNとすると、N/(M+N)は、0.7以上、好ましくは0.8以上、さらに好ましくは0.9以上、さらに好ましくは0.95以上、さらに好ましくはほぼ1.0(=0.99以上)とすることができる。すなわち、縦長ピット20を形成する前に下地基板10の第1の面11まで貫通していた転位30の70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくはほぼ100%(=99%以上)を、縦長ピット20と繋げることができる。
【0019】
縦長ピット20の断面形状(開口の平面形状)は特段制限されないが、以下の実施例で示すように六角形となり易い。また、縦長ピット20の形状は六角柱状になり易い。
【0020】
ここで、このような特徴的な縦長ピット20を形成する方法について説明する。
図3は、ピット形成工程S10の処理の流れの一例を示すフローチャートである。図示するように、ピット形成工程S10は、保護膜形成工程S11と、熱処理工程S12とを有する。
【0021】
保護膜形成工程S11では、
図4に示すように、縦長ピット20を形成する前の下地基板10の第1の面11上に、保護膜50を形成する。保護膜50は、SiO
2膜又はSiN膜である。保護膜50は、例えばプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて生成することができる。保護膜50の膜厚は、10nm以上300nm以下、好ましくは15nm以上100nm以下である。下地基板10には、第1の面11まで到達する転位30が存在する。
【0022】
図3に戻り、熱処理工程S12では、TMGa又はTEGaと、NH
3とを供給しながら下地基板10及び保護膜50を加熱することで、下地基板10に複数の縦長ピット20を形成する。熱処理条件は、例えば以下のようにできる。
【0023】
「熱処理温度」:1000℃以上1250℃以下、好ましくは1150℃以上1190℃以下
「熱処理時間」:10分以上600分以下、好ましくは180分以上360分以下
「TMGa(トリメチルガリウム)又はTEGa(トリエチルガリウム)流量」:1ccm/min以上50ccm/min以下、好ましくは5ccm/min以上15ccm/min以下
「NH
3流量」:1slm/min以上30slm/min以下、好ましくは4slm/min以上12slm/min以下
「H
2流量」:0slm/min以上15slm/min以下、好ましくは10slm/min以上15slm/min以下
「N
2流量」:0slm/min以上15slm/min以下、好ましくは0slm/min以上5slm/min以下
【0024】
なお、熱処理の間、NH
3を同じ流量で連続的に供給するのでなく、第1の流量と第1の流量よりも少ない第2の流量との間で流量を交互に切り替えながらNH
3を供給する。第1の流量は上記条件として示す流量であり、第2の流量は第1の流量よりも少ない量、たとえば0である。第1の流量での供給を継続する時間は10sec〜60sec、好ましくは5sec〜15secであり、第2の流量で供給(流量が0の場合は停止)を継続する時間は1sec〜15sec、好ましくは2sec〜5secである。熱処理の間、このような時間間隔で、第1の流量及び第2の流量での供給のサイクルを繰り返す。以下、このようにNH
3を供給する理由について説明する。
【0025】
上記条件で熱処理を行うと、TMGa又はTEGa由来のGaと、保護膜50のSiとが反応してピットが形成される。特に、保護膜50の表面のうち、下地基板10の転位30の終端部に接する部分が選択的に破壊され(当該部分のSiとGaが反応)、当該部分にピットが形成される。保護膜50にピットが形成された後、ピットの底に露出した下地基板10が分解することで縦長ピット20が形成される。このようなメカニズムで縦長ピット20が形成されるので、転位30を十分な確率で縦長ピット20と繋げることができる。
【0026】
熱処理の間、NH
3を供給することで、TMGa又はTEGaの供給に起因した金属Gaの析出により炉内が汚染される不都合を軽減することができる。また、NH
3の供給により、SiとGaの反応を調整(抑制)することができる。NH
3を供給せずに上記条件で熱処理を行うと、TMGa又はTEGa由来のGaと保護膜50のSiとの反応が過剰となり、保護膜50の表面のうち、下地基板10の転位30の終端部に接していない部分も破壊され、当該部分にもピットが形成されてしまう。結果、そのピットの底に露出した下地基板10の成長面の良質な領域(転位30が存在しない領域)にもピットが形成されてしまう。また、NH
3を供給せずに上記条件で熱処理を行うと、形成されるピットの径が大きくなることを本発明者は確認している。NH
3を適切に供給することで、SiとGaの反応を適切に調整(抑制)し、保護膜50の表面のうち、下地基板10の転位30の終端部に接する部分のみに選択的にピットを形成することが可能となる。また、NH
3を適切に供給することで、形成されるピットの径が大きくなりすぎる不都合を軽減することができる。
【0027】
上述のように、保護膜50の所望の位置に所望の大きさのピットを形成するためには、NH
3を適切に供給する必要がある。NH
3の流量が少なすぎると、TMGa又はTEGa由来のGaと保護膜50のSiとの反応が過剰となり、保護膜50の意図せぬ位置にもピットが形成されてしまったり、ピットの径が大きくなり過ぎたりという不都合が生じる。一方、NH
3の流量が多すぎると、ピットの形成が抑制されすぎ、下地基板10の転位30の終端部に接する部分にもピットが形成されないという事態が生じ得る。
【0028】
本発明者は、以下の実施例で示すように、第1及び第2の流量の間で流量を切り替えながらNH
3を供給することで、保護膜50の所望の位置に、所望の大きさのピットを形成できること、また、金属Gaの析出を抑制できることを見出した。なお、本発明者は、第1の流量でNH
3を連続的に供給し続けながら熱処理を行った場合、ピットの形成が抑制されすぎ、下地基板10の転位30の終端部に接する部分にもピットが形成されないという事態が生じることを確認している。すなわち、「NH
3の供給が過剰」となることを確認している。また、本発明者は、第2の流量(例えば、流量0、または、0に近い値)でNH
3を連続的に供給し続けながら熱処理を行った場合、TMGa又はTEGa由来のGaと保護膜50のSiとの反応が過剰となり、保護膜50の表面のうち、下地基板10の転位30の終端部に接していない部分も破壊され、当該部分にもピットが形成されてしまうこと、形成されるピットの径が大きくなり過ぎること、また、金属Gaが析出することを確認している。すなわち、「NH
3の供給が不足」となることを確認している。
【0029】
上述のように、本実施形態では、「NH
3の供給が過剰」となる状態、及び、「NH
3の供給が不足」となる状態を所定の時間間隔で繰り返しながら、熱処理を行う。以下の実施例で示すように、このような条件でNH
3を供給しながら熱処理を行うことで、
図5に示すように、所望の位置(転位30に対応する位置)に、下地基板10及び保護膜50の積層方向に伸び、保護膜50及び下地基板10に跨るとともに、保護膜50の表面に開口を有し、径が所望の値となる縦長のピットが形成される。また、金属Gaの析出を抑制できる。この縦長のピットのうち、下地基板10部分が縦長ピット20となる。その後、任意の手段で保護膜50を除去することで、
図2に示すような状態となる。
【0030】
図1に戻り、成長工程S20は、ピット形成工程S10の後に行われる。成長工程S20では、
図6に示すように、下地基板10の第1の面11の上に、複数の縦長ピット20各々の少なくとも一部分を空洞として残してIII族窒化物半導体を成長させ、III族窒化物半導体層40を形成する。
図6は、第1の面11の上にIII族窒化物半導体層40を形成された下地基板10の一部の断面模式図である。
【0031】
III族窒化物半導体を成長(横方向成長)させる手段は特段制限されず、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置またはHVPE(Hydride Vapor. Phase Epitaxy)装置を用いたエピタキシャル成長を利用することができる。成長条件は従来の技術に沿ったものとすることができ、その詳細は設計的事項である。縦長ピット20は上述のような特徴的な構成(例:アスペクト比、深さ、直径)であるので、上述のような通常の方法で下地基板10の第1の面11上にIII族窒化物半導体を成長させた場合、縦長ピット20の少なくとも一部分を空洞として残すことができる。成長させるIII族窒化物半導体は、下地基板10と同種であってもよいし、異種であってもよい。当該工程で形成されたIII族窒化物半導体層40の厚さは、例えば15μmである。
【0032】
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
【0033】
本実施形態では、
図2に示すように下地基板10に転位30と繋がる縦長ピット20を形成し、その後、
図6に示すように縦長ピット20の少なくとも一部を空洞として残してIII族窒化物半導体を成長させることで、III族窒化物半導体層40を形成する。すなわち、転位30が接する縦長ピット20の内壁からはIII族窒化物半導体を成長させない。このような特徴的な構成により、本実施形態では、下地基板10の転位30がIII族窒化物半導体層40に伝搬する不都合を軽減することができる。結果、III族窒化物半導体層40における転位の数を抑制することができる。
【0034】
また、本実施形態の縦長ピット20は特徴的な構成(例:アスペクト比、深さ、直径)を有するので、成長工程S20におけるIII族窒化物半導体の成長において特別な工夫をすることなく、一般的な成長方法(例:機器、成長手段、成長条件等)を利用して下地基板10の第1の面11にIII族窒化物半導体を成長させるだけで、縦長ピット20の少なくとも一部を空洞として残して、下地基板10の上にIII族窒化物半導体層40を形成することができる。すなわち、本実施形態によれば、III族窒化物半導体の成長方法を特に調整・変更などする必要がないというメリットが得られる。
【0035】
また、本実施形態では、縦長ピット20の開口の直径Diを100nm≦Di≦500nmと小さい値にすることができる。縦長ピット20の開口は、その周囲の下地基板10の第1の面11上から横方向に成長したIII族窒化物半導体により覆われる。縦長ピット20の開口の直径Diが大きいと、縦長ピット20の開口を覆うために必要なIII族窒化物半導体の横方向の移動量も大きくなり、結果、結晶の軸がぶれる(傾く)などの不都合が発生し得る。本実施形態では、縦長ピット20の開口の直径Diを小さい値にすることができるので、軸のぶれなどが少なく、良好な品質の結晶を得ることができる。
【0036】
また、本実施形態では、TMGa又はTEGaと、NH
3とを供給しながら下地基板10及び保護膜50を加熱することで、縦長ピット20を形成するが、このとき、NH
3の流量を第1の流量と第1の流量よりも少ない第2の流量との間で交互に切り替えることで、所望の位置に所望の大きさの縦長ピット20を形成することができる。
【0037】
<<実施例>>
以下、実施例により本実施形態の作用効果を示す。
【0038】
(1)転位軽減効果の確認
<実施例1>
<縦長ピット20の形成>
下地基板10として、厚さ400μmのGaN自立基板(下地基板10)を用意した。このGaN自立基板の成長面(第1の面11)には、1.0×10
6cm
−2程度の転位30が存在した。このGaN自立基板の成長面に、プラズマCVD法を用いて、膜厚15nmのSiO
2膜(保護膜50)を成膜した(
図4の状態)。
【0039】
次に、成長面にSiO
2膜を成膜したGaN自立基板に対して、以下の条件で熱処理を行った。そして、熱処理後、SiO
2膜を除去した。
【0040】
「熱処理温度」:1160℃
「熱処理時間」:300分
「TMGa流量」:5ccm/min
「NH
3流量」:8slm/min
「H
2流量」:10.5slm/min
「N
2流量」:4.5slm/min
「NH
3の供給・停止サイクル」:供給(8slm/min)を10秒、停止(0slm/min)を5秒の繰り返し
【0041】
図7に、熱処理後にGaN自立基板の成長面を観察したSEM像を示す。当該図では、縦長ピット20が黒点として示されている。
図7の(2)は、
図7の(1)の一部を拡大したものである。
図7の(2)に示すように、開口の平面形状が六角形である縦長ピット20が観察できた。SEM像内で縦2.9μm×横4.3μmの大きさの任意の観察エリアを決定し、観察エリア内の縦長ピット20を観察したところ、観察エリア内の複数のピットの中のほぼ100%(=99%以上)は、開口の直径Diが100nm≦Di≦500nmを満たす縦長ピット20であった。
【0042】
また、ここではSEM像を示さないが、熱処理後にGaN自立基板の断面をSEM像で観察すると、
図5に示すように、GaN自立基板及びSiO
2膜に跨り、SiO
2膜の表面に開口を有する縦長のピットが複数確認された。
【0043】
当該断面SEM像内で幅25μmの大きさで任意に決定した観察エリア内の複数のピットの中のほぼ100%(=99%以上)は、深さDeが1000nm≦De≦10000nmを満たす縦長ピット20であった。また、当該観察エリア内の複数のピットの中のほぼ100%(=99%以上)は、アスペクト比(=深さDe/開口の直径Di)が3≦De/Di≦100を満たす縦長ピット20であった。なお、直径Diは断面SEM像に現れた縦長ピット20の開口部の幅とした。
【0044】
次に、
図9に熱処理後にGaN自立基板の成長面を観察した他のSEM像を、
図10に熱処理後にGaN自立基板の成長面を観察したCL像を示す。これらの図では、転位30が黒点として示され、縦長ピット20が白点として示されている。当該SEM像及びCL像内で縦42μm×横42μmの大きさで任意に観察エリアを決定し、当該観察エリア内で、縦長ピット20と繋がらず、下地基板10の第1の面11まで貫通している転位30の数M、すなわち白点で周囲を囲まれていない黒点の数をカウントした。また、当該観察エリア内で、縦長ピット20と繋がった転位30の数N、すなわち白点で周囲を囲まれた黒点の数をカウントした。結果、N/(M+N)はほ1.0(=0.99以上)であった。また、当該観察エリア内で、転位30と繋がっていない縦長ピット20の数P、すなわち黒点を内包しない白点の数をカウントしたところ、0(ゼロ)であった。
【0045】
<III族窒化物半導体層40の成長>
次に、MOCVD装置を用いて、上記処理で得られたGaN自立基板の成長面上にGaNを横方向成長させ、厚さ15μmのGaN層を得た。成長条件は以下の通りである。
【0046】
「成長温度」:1230℃
「TMGa流量」:500ccm/min
「NH
3流量」:16slm/min
「V/III比」:514
「成長速度」:6μm/h
「キャリアガス種」:H
2、N
2
「キャリアガス流量」:H
2=13.5slm/min、N
2=1.5slm/min
【0047】
図8に、GaN層を成長させた後にGaN自立基板の断面を観察したSEM像を示す。図示するSEM像より、縦長ピット20が空洞(図示するボイド)として残存していることが確認できる。なお、GaN層の成長面における転位は、5.0×10
5cm
−2程度であり、下地基板10の成長面に存在する転位よりも少なかった。また、GaN層の成長面に、縦長ピット20に起因したピットは存在しなかった。
【0048】
(2)NH
3の流量切り替え効果の確認
<実施例2>
<縦長ピット20の形成>
下地基板10として、厚さ400μmのGaN自立基板(下地基板10)を用意した。このGaN自立基板の成長面(第1の面11)には、1.0×10
6cm
−2程度の転位30が存在した。このGaN自立基板の成長面に、プラズマCVD法を用いて、膜厚15nmのSiO
2膜(保護膜50)を成膜した(
図4の状態)。
【0049】
次に、成長面にSiO
2膜を成膜したGaN自立基板に対して、以下の条件で熱処理を行った。そして、熱処理後、SiO
2膜を除去した。
【0050】
「熱処理温度」:1160℃
「熱処理時間」:180分
「TMGa流量」:5ccm/min
「NH
3流量」:8slm/min
「H
2流量」:13.5slm/min
「N
2流量」:1.5slm/min
「NH
3の供給・停止サイクル」:供給(8slm/min)を10秒、停止(0slm/min)を5秒の繰り返し
【0051】
熱処理後にGaN自立基板の成長面を観察し、所定の観察エリア内で、縦長ピット20と繋がらず、下地基板10の第1の面11まで貫通している転位30の数M、及び、縦長ピット20と繋がった転位30の数Nをカウントした。結果、N/(M+N)は0.84であった。
【0052】
<比較例1>
<縦長ピットの形成>
「NH
3の供給方法」を、「8slm/minで連続的に供給」とした点を除き、実施例2と同様にして縦長ピットを形成した。
【0053】
熱処理後にGaN自立基板の成長面を観察し、所定の観察エリア(実施例2の観察エリアと同様の手法で決定)内で、縦長ピット20と繋がらず、下地基板10の第1の面11まで貫通している転位30の数M、及び、縦長ピット20と繋がった転位30の数Nをカウントした。結果、N/(M+N)は0.18であった。
【0054】
(3)加熱温度を高くすることでN/(M+N)を1に近づけた時の影響
<実施例3>
実施例2の熱処理条件から「熱処理温度」及び「熱処理時間」を変化させ、N/(M+N)がほぼ1になる条件を探した。結果、「熱処理温度」:1190℃、「熱処理時間」:300分の条件時に、N/(M+N)がほぼ1になった。この時、形成されたピットのほぼ100%は縦長ピット20であった。GaN自立基板の成長面の転位密度は1.0×10
7cm
−2程度であった。すなわち、熱処理温度を高くし、かつ、熱処理時間をながくすることで、新たな転位がわずかに発生していた。
【0055】
<比較例2>
比較例1の熱処理条件から「熱処理温度」及び「熱処理時間」を変化させ、N/(M+N)がほぼ1になる条件を探した。結果、「熱処理温度」:1230℃、「熱処理時間」:360分の条件時に、N/(M+N)がほぼ1になった。この時、形成されたピットの中には、縦長ピット20のほか、逆六角推形状のピットや、これらのピットが一体化したピットなどが混在していた。GaN自立基板の成長面の転位密度は1.0×10
8cm
−2程度であった。すなわち、熱処理温度を高くし、かつ、熱処理時間をながくすることで、新たな転位が大量に発生していた。
【0056】
ところで、従来から、本実施形態と同様に転位に由来した(対応した)ピットを形成する技術は存在する。例えば、特許文献3に記載されているように、リン酸と硫酸を含む混合液を用いたエッチングにより、転位に由来した(対応した)ピット(エッチピット)を形成する手段が知られている。なお、特許文献3に記載されているように、当該手段の場合、通常、形成されるピットの径は数μm程度となり、その形状は逆六角推形状となる。そして、特許文献3に開示されている発明の場合は、形成されるピットの径が10μmから数十μmとなり、その形状は逆六角推形状となる。このように、本実施形態の縦長ピット20の構成(例:形状、径、深さ、アスペクト比)は、従来の一般的な手段で形成される転位に由来した(対応した)ピットの構成と明らかに異なる。本発明者は、ピットの径が数μm程度以上となった場合、当該ピットを有する基板の表面に通常の手法(上記手法)でIII族窒化物半導体を成長させると、ピットの内壁からIII族窒化物半導体が成長し、ピットが埋められることを確認している。
【0057】
なお、本発明者らは、TMGaをTEGaに置き換えた場合も同様の結果が得られることを確認している。
【0058】
以下、参考形態の例を付記する。
1. 下地基板に、前記下地基板の第1の面から前記下地基板の厚さ方向に伸び、かつ、前記下地基板に形成された転位と繋がる縦長ピットを複数形成するピット形成工程と、
前記ピット形成工程の後、前記下地基板の前記第1の面の上に、前記縦長ピットの少なくとも一部分を空洞として残して、III族窒化物半導体を成長させる成長工程と、
を有し、
前記ピット形成工程は、
前記下地基板の前記第1の面上に、SiO
2膜又はSiN膜である保護膜を形成する保護膜形成工程と、
前記保護膜形成工程の後、TMGa又はTEGaと、NH
3とを供給しながら前記下地基板及び前記保護膜を加熱することで、前記縦長ピットを形成する熱処理工程と、
を有し、
前記熱処理工程では、前記加熱の間、前記NH
3の流量を、第1の流量と前記第1の流量よりも少ない第2の流量との間で交互に切り替えるIII族窒化半導体層の製造方法。
2. 1に記載のIII族窒化半導体層の製造方法において、
前記第2の流量は0であるIII族窒化半導体層の製造方法。
3. 1または2に記載のIII族窒化半導体層の製造方法において、
前記第1の流量が継続する時間は10sec以上60sec以下であり、前記第2の流量が継続する時間は1sec以上15sec以下であるIII族窒化半導体層の製造方法。
4. 1から3のいずれかに記載のIII族窒化半導体層の製造方法において、
前記縦長ピットは、深さをDe、開口の直径をDiとすると、3≦De/Diを満たすIII族窒化半導体層の製造方法。
5. 1から4のいずれかに記載のIII族窒化半導体層の製造方法において、
前記縦長ピットは、3≦De/Di≦100を満たすIII族窒化半導体層の製造方法。
6. 1から5のいずれかに記載のIII族窒化半導体層の製造方法において、
前記縦長ピットは、深さDeが、1000nm≦De≦10000nmを満たすIII族窒化半導体層の製造方法。
7. 1から6のいずれかに記載のIII族窒化半導体層の製造方法において、
前記縦長ピットは、前記縦長ピットの開口の直径Diが、100nm≦Di≦1000nmを満たすIII族窒化半導体層の製造方法。