特許第6349107号(P6349107)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6349107
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】仕上げ構造
(51)【国際特許分類】
   E04F 15/12 20060101AFI20180618BHJP
   C04B 28/16 20060101ALI20180618BHJP
   C04B 7/02 20060101ALI20180618BHJP
   C04B 7/32 20060101ALI20180618BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20180618BHJP
   C04B 111/62 20060101ALN20180618BHJP
【FI】
   E04F15/12 E
   C04B28/16
   C04B7/02
   C04B7/32
   C04B24/26 C
   C04B111:62
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-41308(P2014-41308)
(22)【出願日】2014年3月4日
(65)【公開番号】特開2015-166295(P2015-166295A)
(43)【公開日】2015年9月24日
【審査請求日】2017年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】勘坂 弘子
(72)【発明者】
【氏名】森田 敦
(72)【発明者】
【氏名】小川 晴果
(72)【発明者】
【氏名】高橋 晃一郎
(72)【発明者】
【氏名】片岡 弘安
(72)【発明者】
【氏名】戸田 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】平野 義信
(72)【発明者】
【氏名】蒔田 浩司
【審査官】 永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−203790(JP,A)
【文献】 特開2006−37274(JP,A)
【文献】 特開2008−127247(JP,A)
【文献】 特開2008−230900(JP,A)
【文献】 特開2003−147948(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F15/12
C04B2/00−32/02
C04B40/00−40/06
C04B103/00−111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の上の水硬性組成物層と、前記水硬性組成物層の上の接着剤層と、前記接着剤層の上の可塑剤を含有する仕上げ材と、を備え、前記水硬性組成物層と前記接着剤層との間に水硬性組成物用プライマー層が設けられていない仕上げ構造であって、
前記水硬性組成物層は、ポルトランドセメントと、アルミナセメントと、無水石膏と、無機粉末と、骨材と、水と、アクリル酸ブチルを含まない樹脂粉末と、を有する水硬性組成物の層であり、
前記樹脂粉末は、エチレン・酢酸ビニル共重合体の樹脂粉末であることを特徴とする仕上げ構造。
【請求項2】
基材と、前記基材の上の水硬性組成物層と、前記水硬性組成物層の上の接着剤層と、前記接着剤層の上の可塑剤を含有する仕上げ材と、を備え、前記水硬性組成物層と前記接着剤層との間に水硬性組成物用プライマー層が設けられていない仕上げ構造であって、
前記水硬性組成物層は、ポルトランドセメントと、アルミナセメントと、無水石膏と、無機粉末と、骨材と、水と、アクリル酸ブチルを含まない樹脂粉末と、を有する水硬性組成物の層であり、
前記樹脂粉末は、酢酸ビニル・ベオバ共重合体の樹脂粉末であることを特徴とする仕上げ構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の仕上げ構造であって、
前記ポルトランドセメント、前記アルミナセメント、前記無水石膏、及び、前記無機粉末の総重量に対する、
前記樹脂粉末の重量割合は、2パーセント以上であることを特徴とする仕上げ構造。
【請求項4】
基材と、前記基材の上の水硬性組成物層と、前記水硬性組成物層の上の接着剤層と、前記接着剤層の上の可塑剤を含有する仕上げ材と、を備え、前記水硬性組成物層と前記接着剤層との間に水硬性組成物用プライマー層が設けられていない仕上げ構造であって、
前記水硬性組成物層は、ポルトランドセメントと、アルミナセメントと、無水石膏と、無機粉末と、骨材と、水と、アクリル酸ブチルを含まない樹脂粉末と、を有する水硬性組成物の層であり、
前記ポルトランドセメント、前記アルミナセメント、前記無水石膏、及び、前記無機粉末の総重量に対する、
前記樹脂粉末の重量割合は、5パーセント以上であることを特徴とする仕上げ構造。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の仕上げ構造であって、
前記水の、該水以外の前記水硬性組成物の総重量に対する重量比率は、16パーセント以上25パーセント以下であることを特徴とする仕上げ構造。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の仕上げ構造であって、
前記可塑剤は、DOPを含むことを特徴とする仕上げ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物、及び、仕上げ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ポルトランドセメントと、アルミナセメントと、無水石膏と、無機粉末と、骨材と、を有する水硬性組成物は、既によく知られている。
【0003】
かかる水硬性組成物としては、セルフレベリング材を例に挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−146542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような水硬性組成物においては、臭気が発生する可能性がある。
【0006】
本発明は、かかる問題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、臭気の発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
主たる本発明は、基材と、前記基材の上の水硬性組成物層と、前記水硬性組成物層の上の接着剤層と、前記接着剤層の上の可塑剤を含有する仕上げ材と、を備え、前記水硬性組成物層と前記接着剤層との間に水硬性組成物用プライマー層が設けられていない仕上げ構造であって、
前記水硬性組成物層は、ポルトランドセメントと、アルミナセメントと、無水石膏と、無機粉末と、骨材と、水と、アクリル酸ブチルを含まない樹脂粉末と、を有する水硬性組成物の層であり、
前記樹脂粉末は、エチレン・酢酸ビニル共重合体の樹脂粉末であることを特徴とする仕上げ構造である。
また、主たる本発明は、基材と、前記基材の上の水硬性組成物層と、前記水硬性組成物層の上の接着剤層と、前記接着剤層の上の可塑剤を含有する仕上げ材と、を備え、前記水硬性組成物層と前記接着剤層との間に水硬性組成物用プライマー層が設けられていない仕上げ構造であって、
前記水硬性組成物層は、ポルトランドセメントと、アルミナセメントと、無水石膏と、無機粉末と、骨材と、水と、アクリル酸ブチルを含まない樹脂粉末と、を有する水硬性組成物の層であり、
前記樹脂粉末は、酢酸ビニル・ベオバ共重合体の樹脂粉末であることを特徴とする仕上げ構造である。
また、主たる本発明は、基材と、前記基材の上の水硬性組成物層と、前記水硬性組成物層の上の接着剤層と、前記接着剤層の上の可塑剤を含有する仕上げ材と、を備え、前記水硬性組成物層と前記接着剤層との間に水硬性組成物用プライマー層が設けられていない仕上げ構造であって、
前記水硬性組成物層は、ポルトランドセメントと、アルミナセメントと、無水石膏と、無機粉末と、骨材と、水と、アクリル酸ブチルを含まない樹脂粉末と、を有する水硬性組成物の層であり、
前記ポルトランドセメント、前記アルミナセメント、前記無水石膏、及び、前記無機粉末の総重量に対する、
前記樹脂粉末の重量割合は、5パーセント以上であることを特徴とする仕上げ構造である。
【0008】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、臭気の発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施の形態に係る床仕上げ構造10の概略縦断面図である。
図2】実験Aの試験体の模式図である。
図3】実験Aの試験結果を示した図である。
図4】実験B乃至実験Dの試験体の模式図である。
図5】実験Bの試験結果を示した図である。
図6】実験Cの試験結果を示した図である。
図7】実験Dの試験結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも次のことが明らかにされる。
【0012】
ポルトランドセメントと、アルミナセメントと、無水石膏と、無機粉末と、骨材と、水と、アクリル酸ブチルを含まない樹脂粉末と、を有することを特徴とする水硬性組成物。
【0013】
かかる場合には、臭気の発生を抑制することが可能となる。
【0014】
また、前記樹脂粉末は、エチレン・酢酸ビニル共重合体の樹脂粉末であることとしてもよい。
【0015】
かかる場合には、臭気の発生を抑制することが可能となる。
【0016】
また、前記樹脂粉末は、酢酸ビニル・ベオバ共重合体の樹脂粉末であることとしてもよい。
【0017】
かかる場合には、臭気の発生を抑制することが可能となる。
【0018】
次に、基材と、前記基材の上の水硬性組成物層と、前記水硬性組成物層の上の接着剤層と、前記接着剤層の上の可塑剤を含有する仕上げ材と、を備え、
前記水硬性組成物層は、ポルトランドセメントと、アルミナセメントと、無水石膏と、無機粉末と、骨材と、水と、アクリル酸ブチルを含まない樹脂粉末と、を有する水硬性組成物の層であることを特徴とする仕上げ構造。
【0019】
かかる場合には、臭気の発生を抑制することが可能となる。
【0020】
また、前記樹脂粉末は、エチレン・酢酸ビニル共重合体の樹脂粉末であることとしてもよい。
【0021】
かかる場合には、臭気の発生を抑制することが可能となる。
【0022】
また、前記樹脂粉末は、酢酸ビニル・ベオバ共重合体の樹脂粉末であることとしてもよい。
【0023】
かかる場合には、臭気の発生を抑制することが可能となる。
【0024】
また、前記ポルトランドセメント、前記アルミナセメント、前記無水石膏、及び、前記無機粉末の総重量に対する、
前記樹脂粉末の重量割合は、2パーセント以上であることとしてもよい。
【0025】
かかる場合には、臭気の発生をより効果的に抑制することが可能となる。
【0026】
また、前記ポルトランドセメント、前記アルミナセメント、前記無水石膏、及び、前記無機粉末の総重量に対する、
前記樹脂粉末の重量割合は、5パーセント以上であることとしてもよい。
【0027】
かかる場合には、臭気の発生をより一層効果的に抑制することが可能となる。
【0028】
また、前記水の、該水以外の前記水硬性組成物の総重量に対する重量比率は、16パーセント以上25パーセント以下であることとしてもよい。
【0029】
かかる場合には、水硬性組成物の強度や水硬性組成物に係る作業性がより適切なものとなる。
【0030】
また、前記可塑剤は、DOPを含むこととしてもよい。
【0031】
かかる場合には、2−エチル−1−ヘキサノールの臭気の発生を抑制することが可能となる。
【0032】
===本実施の形態に係るセルフレベリング材16及び床仕上げ構造10について===
図1は、本実施の形態に係る床仕上げ構造10の概略縦断面図である。
【0033】
この床仕上げ構造10(仕上げ構造に相当)は、基材の一例としてのコンクリート下地12と、コンクリート下地12の上のプライマー14と、コンクリート下地12(プライマー14)の上の水硬性組成物層の一例としてのセルフレベリング材層(セルフレベリング材16)と、セルフレベリング材層の上の接着剤層の一例としてのピールアップ接着剤層(ピールアップ接着剤18)と、ピールアップ接着剤層の上の仕上げ材の一例としてのタイルカーペット20と、を有している。
【0034】
そして、この床仕上げ構造10は、以下のように施工される。すなわち、作業者は、コンクリート下地12の上にプライマー14を用いてセルフレベリング材16を流すことによりセルフレベリング材層を形成する。そして、所定時間(例えば、数日〜1、2週間)が経ったら、セルフレベリング材層にピールアップ接着剤18を塗布して、セルフレベリング材層にタイルカーペット20を貼る。
【0035】
ここで、本実施の形態に係るセルフレベリング材16(水硬性組成物に相当)は、ポルトランドセメントと、アルミナセメントと、無水石膏と、無機粉末と、骨材と、水(すなわち、混練水)と、アクリル酸ブチルを含まない樹脂粉末(例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体や酢酸ビニル・ベオバ共重合体の樹脂粉末)と、を有している。そして、このことにより、以下で説明するように、臭気の発生を抑制することが可能となる。
【0036】
従来は、前記セルフレベリング材16として、ポルトランドセメントと無機粉末と骨材と水を備えるものの、アルミナセメントと無水石膏と樹脂粉末を備えないセルフレベリング材16が用いられていた。
【0037】
ここで、アルミナセメントと無水石膏は、セルフレベリング材16の速硬性(早く固まる性質)に寄与するため、これらが含まれているセルフレベリング材16については、速硬タイプのセルフレベリング材16と呼ぶことができる。したがって、従来は、非速硬タイプ(以下、一般タイプと呼ぶ)で樹脂粉末を備えないセルフレベリング材16が用いられていたと言える。
【0038】
そして、このようなセルフレベリング材16を床仕上げ構造10に用いた際には、臭気が発生するという問題が生じていた。
【0039】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、タイルカーペット20に含まれている可塑剤(本実施の形態においては、DOP(フタル酸ジ−2−エチルヘキシル)を含む可塑剤)とセルフレベリング材16に含まれているアルカリ水の化学反応が、当該臭気の原因となっていることを見出した。
【0040】
すなわち、本実施の形態に係るタイルカーペット20は、塩化ビニルを下地にしたタイルカーペットであり、当該タイルカーペット20(当該塩化ビニル)には、DOPを含む可塑剤が含有されている。そして、セルフレベリング材16に含まれているアルカリ水が上方のタイルカーペット20まで浸透し、当該アルカリ水によってDOPが加水分解されて、高級アルコール(本実施の形態においては、2−エチル−1−ヘキサノール。以下、2−EHとも呼ぶ)が生じることとなる。そして、この2−エチル−1−ヘキサノールの臭いが臭気の原因となっていることを見出した。
【0041】
本発明者は、かかる問題の対策について鋭意検討を行った。その結果、セルフレベリング材16を一般タイプではなく速硬タイプのものとし、さらに、樹脂粉末をセルフレベリング材16に追加することにより、当該臭気を抑制できることを見出した。この理由は、以下の通りである。
【0042】
すなわち、速硬タイプのセルフレベリング材16は、アルミナセメントと無水石膏の作用によりセルフレベリング材16が速く固まるため、タイルカーペット20に浸透する前記アルカリ水(つまり、遊離水)の量がより少なくなる(つまり、アルカリ水がタイルカーペット20に浸透する前にセルフレベリング材16が固まってしまう)。そのため、前記加水分解が生じにくくなり、2−エチル−1−ヘキサノールの発生が抑えられる。
【0043】
また、樹脂粉末は、アルカリ水の移動を遮蔽する遮蔽膜の役割を果たす。すなわち、樹脂粉末は、セルフレベリング材16において、アルカリ水をタイルカーペット20へ向かわせない働き(アルカリ水の移動をブロックする働き)を実行する。したがって、前記加水分解が生じにくくなり、2−エチル−1−ヘキサノールの発生が抑えられる。
【0044】
なお、本発明者は、上述した速硬タイプの臭気抑制効果と樹脂粉末の臭気抑制効果について、実験でも確認している。速硬タイプの臭気抑制効果については、後述する実験Aの項で、樹脂粉末の臭気抑制効果については、後述する実験Bの項で説明する。
【0045】
また、本発明者は、樹脂粉末の量と臭気抑制効果に相関関係があることを見出した。すなわち、ポルトランドセメント、アルミナセメント、無水石膏、及び、無機粉末の総重量に対する、樹脂粉末の重量割合は、2パーセント以上であることが好ましく、また5パーセント以上がさらに好ましいことが、実験により分かった。これについても、後述する実験Bの項で説明する。
【0046】
なお、本発明者は、合わせて、水(混練水)の、該水(混練水)以外のセルフレベリング材16の総重量に対する重量比率(以下、水重量比率とも呼ぶ)の違い(変化)が、臭気抑制効果に影響を与えるかについても調べたが、当該水重量比率は、臭気抑制効果に影響を与えないということが分かった。したがって、水(混練水)の水重量比率については、臭気抑制効果を気にすることなく、セルフレベリング材16の強度やセルフレベリング材16に係る作業性を考慮して最適な値を設定することができる。すなわち、当該水重量比率が25パーセントを超えると、水が多すぎてセルフレベリング材16の強度が弱くなり、当該水重量比率が16パーセントを下回ると、水が少なすぎて作業性が悪くなる。そのため、当該水重量比率は、16パーセント以上25パーセント以下が好ましい。なお、当該水重量比率が臭気抑制効果に影響を与えない点については、実験Dの項で説明する。
【0047】
ところで、本発明者は、上記のように樹脂粉末に2−エチル−1−ヘキサノールの臭気抑制効果があることを見出したが、かかる検討過程において、2−エチル−1−ヘキサノールの臭気と比べれば、それほど悪臭とは言えないものの(軽微であるものの)、見逃せない別の臭気が発生していることに気付いた。
【0048】
そして、本発明者は、鋭意検討を行った結果、セルフレベリング材16に追加した樹脂粉末に含まれていたアクリル酸ブチルとセルフレベリング材16に含まれているアルカリ水の化学反応が、当該臭気の原因となっていることを見出した。すなわち、当該アルカリ水によってアクリル酸ブチルが加水分解されて、ブタノール(アルコールの一種である)が生じ、このブタノールの臭いが臭気の原因となっていることを見出した。
【0049】
そこで、本発明者は、ブタノールの臭気を抑制するために、セルフレベリング材16に入れる樹脂粉末を、アクリル酸ブチルを含まない樹脂粉末とすることとした。例えば、当該樹脂粉末を、エチレン・酢酸ビニル共重合体や酢酸ビニル・ベオバ共重合体の樹脂粉末とすることとした。そして、このことにより、ブタノールの臭気を抑制することが可能となった。
【0050】
なお、本発明者は、上述したブタノールの臭気抑制効果について、実験でも確認している。当該臭気抑制効果については、後述する実験Cの項で説明する。
【0051】
以上のとおり、本実施の形態に係るセルフレベリング材16は、ポルトランドセメントと、アルミナセメントと、無水石膏と、無機粉末と、骨材と、水(すなわち、混練水)と、アクリル酸ブチルを含まない樹脂粉末(例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体や酢酸ビニル・ベオバ共重合体の樹脂粉末)と、を有している。そして、このことにより、2−エチル−1−ヘキサノール及びブタノールの臭気の発生を抑制することが可能となる。
【0052】
===実験について===
<<<実験A>>>
1.目的について
前述したとおり、セルフレベリング材16を、速硬タイプにすることで、2−エチル−1−ヘキサノールの発生が抑制されることを確認するための試験である。
【0053】
2.試験対象物について
一般タイプのセルフレベリング材16と速硬タイプのセルフレベリング材16を用意する。また、エチレン・酢酸ビニル共重合体の樹脂粉末が入ったものと、酢酸ビニル・ベオバ共重合体の樹脂粉末の入ったものを、一般タイプ及び速硬タイプの各々について用意する。
【0054】
すなわち、以下の通りとなる。
【0055】
試験体A1(比較例):一般タイプでエチレン・酢酸ビニル共重合体の樹脂粉末が含有されているセルフレベリング材
試験体A2(本件例):速硬タイプでエチレン・酢酸ビニル共重合体の樹脂粉末が含有されているセルフレベリング材
試験体B1(比較例):一般タイプで酢酸ビニル・ベオバ共重合体の樹脂粉末が含有されているセルフレベリング材
試験体B2(本件例):速硬タイプで酢酸ビニル・ベオバ共重合体の樹脂粉末が含有されているセルフレベリング材
なお、ポルトランドセメント、アルミナセメント、無水石膏、及び、無機粉末の総重量(アルミナセメント、無水石膏については含有されていない場合もある)に対する、樹脂粉末の重量割合は、いずれも5パーセントとする。試験体A1と試験体A2の違い(試験体B1と試験体B2の違い)は、アルミナセメント及び無水石膏の有無だけである。
【0056】
3.試験方法について(図2参照)
ステップ1 シャーレ21(φ90×20mm)にセルフレベリング材16を充填する。
【0057】
ステップ2 1日静置後、セルフレベリング材16の上に標準使用量のタイルカーペット20用のピールアップ接着剤18を使用して、仕様通りに塩化ビニル樹脂製裏打ち材のタイルカーペット20を接着する。
【0058】
ステップ3 接着後、周囲にアルミテープ22を貼り、タイルカーペット20の表面以外からの化学物質の拡散を防止する。
【0059】
ステップ4 試験体を室温、湿度100パーセントで静置する。
【0060】
ステップ5 1.5ヶ月後、28度(摂氏)での試験体からの2−EH放散速度を測定する。なお、放散速度はトルエン換算値で示す。
【0061】
4.結果について
結果を、図3に示す。この結果から、速硬タイプの臭気抑制効果が確認できる。
【0062】
<<<実験B>>>
1.目的について
前述したとおり、樹脂粉末が2−エチル−1−ヘキサノールの発生を抑制することを確認するための試験である。また、樹脂粉末の好ましい重量割合を確認するための試験でもある。
【0063】
2.試験対象物について
樹脂粉末を含んだセルフレベリング材16と樹脂粉末を含まないセルフレベリング材16を用意する。樹脂粉末を含んだセルフレベリング材16として、前記重量割合が2パーセント、3パーセント、5パーセント、10パーセントのものを用意する。また、エチレン・酢酸ビニル共重合体の樹脂粉末が入ったものと、酢酸ビニル・ベオバ共重合体の樹脂粉末の入ったものを、これらの各々について用意する。
【0064】
すなわち、以下の通りとなる。
【0065】
試験体0(比較例):樹脂粉末が含有されていないセルフレベリング材
試験体A1(本件例):エチレン・酢酸ビニル共重合体の樹脂粉末が2パーセント含有されているセルフレベリング材
試験体A2(本件例):エチレン・酢酸ビニル共重合体の樹脂粉末が3パーセント含有されているセルフレベリング材
試験体A3(本件例):エチレン・酢酸ビニル共重合体の樹脂粉末が5パーセント含有されているセルフレベリング材
試験体A4(本件例):エチレン・酢酸ビニル共重合体の樹脂粉末が10パーセント含有されているセルフレベリング材
試験体B1(本件例):酢酸ビニル・ベオバ共重合体の樹脂粉末が2パーセント含有されているセルフレベリング材
試験体B2(本件例):酢酸ビニル・ベオバ共重合体の樹脂粉末が3パーセント含有されているセルフレベリング材
試験体B3(本件例):酢酸ビニル・ベオバ共重合体の樹脂粉末が5パーセント含有されているセルフレベリング材
試験体B4(本件例):酢酸ビニル・ベオバ共重合体の樹脂粉末が10パーセント含有されているセルフレベリング材
なお、これらは、いずれも速硬タイプのセルフレベリング材16である。
【0066】
3.試験方法について(図4参照)
ステップ1 スチレン容器24(8.5×17.5×1.0cm)にセルフレベリング材16を充填する。
【0067】
ステップ2 1日静置後、セルフレベリング材16の上に10パーセントになるようにDOPを添加したタイルカーペット20用のピールアップ接着剤18を標準使用量になるように塗布し、表面をポリエチレン製のラップ25で覆う。試験体の側面とスチレン容器24との隙間は図4に示すようにアルミテープ22を貼り、表面以外からの化学物質の放散を防止する。
【0068】
ステップ3 試験体作製後直ちに、10Lの窒素ガスを充填したポリエステル製バッグ(不図示)に封入し、40度(摂氏)で静置する。
【0069】
ステップ4 2週間静置後のガスバッグ内の2−EH濃度を測定する。なお、濃度はトルエン換算値で示す。
【0070】
4.結果について
結果を、図5に示す。この結果から、樹脂粉末の臭気抑制効果が確認できる。また、前記重量割合は、2パーセント以上であることが好ましく、また、5パーセント以上がさらに好ましいことも確認できる。
【0071】
なお、本実験の実験過程において、当該重量割合が10パーセントを超えると、作業性が悪くなる事象(混練しにくくなる事象)が発生することが分かった。そのため、当該重量割合は、かかる観点を考慮すると、10パーセント以下が望ましい。
【0072】
<<<実験C>>>
1.目的について
前述したとおり、エチレン・酢酸ビニル共重合体や酢酸ビニル・ベオバ共重合体の樹脂粉末を使用することによって、ブタノールの臭気抑制効果が発揮されることを確認するための試験である。
【0073】
2.試験対象物について
樹脂粉末としてエチレン・酢酸ビニル共重合体を含んだセルフレベリング材16と、酢酸ビニル・ベオバ共重合体を含んだセルフレベリング材16と、アクリル酸ブチルを含んだセルフレベリング材16を用意する。
【0074】
すなわち、以下の通りとなる。
【0075】
試験体0(参考例):樹脂粉末が含有されていないセルフレベリング材
試験体A(本件例):エチレン・酢酸ビニル共重合体が含有されているセルフレベリング材
試験体B(本件例):酢酸ビニル・ベオバ共重合体が含有されているセルフレベリング材
試験体C(比較例):アクリル酸ブチルが含有されているセルフレベリング材
なお、これらは、いずれも速硬タイプのセルフレベリング材16である。また、前記重量割合は、いずれも5パーセントとする。
【0076】
3.試験方法について(図4参照)
ステップ4で2−EH濃度の代わりにブタノール濃度を測定することを除いて、実験Bと同様である。
【0077】
4.結果について
結果を、図6に示す。ブタノールの発生量は、試験体Cにおいて非常に多かったが、試験体A、Bにおいては、樹脂粉末が含有されていないセルフレベリング材(試験体0)並みに少なかった。この結果から、エチレン・酢酸ビニル共重合体や酢酸ビニル・ベオバ共重合体の樹脂粉末を使用したときの、ブタノールの臭気抑制効果が確認できる。
【0078】
<<<実験D>>>
1.目的について
前述したとおり、水(混練水)の、該水(混練水)以外のセルフレベリング材16の総重量に対する水重量比率が、2−EHの臭気抑制効果に影響を与えないことを確認するための試験である。
【0079】
2.試験対象物について
樹脂粉末としてエチレン・酢酸ビニル共重合体を含んだ速硬タイプのセルフレベリング材16として、水重量比率が16パーセント、20パーセント、22パーセント、25パーセントのものを用意する。
【0080】
すなわち、以下の通りとなる。
【0081】
試験体A1:水重量比率が16パーセントのセルフレベリング材
試験体A2:水重量比率が20パーセントのセルフレベリング材
試験体A3:水重量比率が22パーセントのセルフレベリング材
試験体A4:水重量比率が25パーセントのセルフレベリング材
3.試験方法について(図4参照)
実験Bと同様である。
【0082】
4.結果について
結果を、図7に示す。各々の試験体間で、2−EH濃度の有意な差は見られなかった。この結果から、水重量比率が2−EHの臭気抑制効果に影響を与えないことが確認できる。
【0083】
===その他の実施の形態===
上記の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0084】
上記実施の形態においては、仕上げ構造として床仕上げ構造10を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、階段の仕上げ構造であってもよい。
【0085】
また、上記実施の形態においては、基材としてコンクリート下地12を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、モルタル下地であってもよい。
【0086】
また、上記実施の形態においては、接着剤としてピールアップ接着剤を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、どのような接着剤を用いても構わない。
【0087】
また、上記実施の形態においては、仕上げ材としてタイルカーペット20を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、長尺塩化ビニルシートであってもよい。
【0088】
また、上記においては、ポルトランドセメントと、アルミナセメントと、無水石膏と、無機粉末と、骨材と、水(すなわち、混練水)と、アクリル酸ブチルを含まない樹脂粉末(例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体や酢酸ビニル・ベオバ共重合体の樹脂粉末)を有する水硬性組成物を、基材と基材の上の水硬性組成物層と水硬性組成物層の上の接着剤層と接着剤層の上の可塑剤を含有する仕上げ材とを備える仕上げ構造に適用する例を挙げたが、これに限定されるものではなく、必ずしもこのような仕上げ構造に適用しなくてもよい。そして、このようにした(当該仕上げ構造に適用しなかった)としても、ブタノールの発生が抑えられる効果は生じるため、臭気の発生を抑制することが可能となる。
【0089】
また、上記においては、ポルトランドセメントと、アルミナセメントと、無水石膏と、無機粉末と、骨材と、水(すなわち、混練水)と、アクリル酸ブチルを含まない樹脂粉末(例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体や酢酸ビニル・ベオバ共重合体の樹脂粉末)を有する水硬性組成物を、可塑剤を含有する仕上げ材を備える仕上げ構造に適用して、高級アルコールの臭気の発生を抑制する例として、DOPを含む可塑剤を含有する仕上げ材を備える仕上げ構造に当該水硬性組成物を適用して、2−エチル−1−ヘキサノールの臭気の発生を抑える実施形態を挙げたが、これに限定されるものではなく、他の可塑剤を含有する仕上げ材を備える仕上げ構造に当該水硬性組成物を適用することとしてもよい。
【符号の説明】
【0090】
10 床仕上げ構造
12 コンクリート下地
14 プライマー
16 セルフレベリング材
18 ピールアップ接着剤
20 タイルカーペット
21 シャーレ
22 アルミテープ
24 スチレン容器
25 ラップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7