(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。図は概略図であり、実際の寸法比率とは必ずしも一致していない。
【0014】
[正極材料(P)]
はじめに、本実施形態の正極材料(P)について説明する。
正極材料(P)は、正極活物質(A)と、導電助剤(B)と、無機固体電解質材料(C)とを混合してなる。
正極材料(P)は、後述する条件で作製した全固体型リチウムイオン電池について、後述する充放電条件で充放電を10回行ったとき、充放電を10回行った後の上記全固体型リチウムイオン電池の交流インピーダンス測定により得られるコール・コールプロットにおいて、第一の半円の後に、第一の半円よりも小さな円弧を有する第二の半円または平坦領域が観察されない。
ここで、平坦領域とは、複素インピーダンスの実部(RealZ)が10Ω変化する際に、複素インピーダンスの虚部(−ImagZ)が0Ω以上2Ω以下変化する領域のことをいう。
【0015】
本発明者らは、高い放電容量密度を有するとともにサイクル特性にも優れる正極材料を提供するために、鋭意検討した。その結果、充放電を10回行った後の上記全固体型リチウムイオン電池の交流インピーダンス測定により得られるコール・コールプロットにおいて、第一の半円の後に、第一の半円よりも小さな円弧を有する第二の半円または平坦領域が観察されない正極材料は、高い放電容量密度を有するとともにサイクル特性にも優れる全固体型リチウムイオン電池を実現できることを見出した。
すなわち、コール・コールプロットにおける第二の半円または平坦領域の有無という尺度が、高い放電容量密度を有するとともにサイクル特性にも優れる全固体型リチウムイオン電池を実現するための設計指針として有効であることを初めて見出した。
なお、本発明者らは、第二の半円または平坦領域が観察される正極材料と観察されない正極材料との間では、X線回折により得られる正極材料の結晶構造や、SEM−EDXにより観察される各成分の分散状態は変わらないことを確認した。すなわち、コール・コールプロットにおける第二の半円の有無という尺度が重要であることを確認した。
【0016】
本発明者らの検討によれば、無機固体電解質材料を含む従来の正極材料は第一の半円の後に上記第一の半円よりも小さな円弧を有する第二の半円または平坦領域が観察されることを明らかにした。このような正極材料は放電容量密度およびサイクル特性に劣っていた。
これに対し、第一の半円の後に上記第一の半円よりも小さな円弧の第二の半円または平坦領域が観察されない正極材料は、放電容量密度およびサイクル特性に優れていることを見出した。この理由は必ずしも明らかではないが、このような正極材料は正極活物質(A)と無機固体電解質材料(C)との界面のインピーダンスが低下しているからだと考えられる。すなわち、第一の半円の後に第二の半円または平坦領域が観察されないことは、正極活物質(A)と無機固体電解質材料(C)との界面のインピーダンスが低いことを意味していると考えられる。そのため、得られるリチウムイオン電池のインピーダンスが低下し、放電容量密度およびサイクル特性が向上すると考えられる。
【0017】
(全固体型リチウムイオン電池の作製条件)
上述した全固体型リチウムイオン電池は、正極としては正極材料(P)により形成したもの、負極としてはインジウム箔、固体電解質層としては硫化物系無機固体電解質材料により形成したものをそれぞれ用いる。
以下、上記全固体型リチウムイオン電池の作製条件の一例について説明する。
まず、正極材料(P)(2mg)を導電性アルミ箔粘着テープ(寺岡製作所社製、φ14mm)の粘着面に付着させ、正極を得る。
つづいて、プレス治具を用いて、Li
11P
3S
12等の硫化物系無機固体電解質材料(100mg)に対し予備プレスを83MPaにて行う。その後、それを上記正極にのせて、さらに250MPa、10分間プレス成型をおこない、正極上に固体電解質層(φ14mm)を形成する。
次いで、上記方法で得られた正極、固体電解質層、負極であるインジウム箔(φ=14mm、t=0.5mm)をこの順で積層させ、25MPa、5分間プレスすることにより、全固体型リチウムイオン電池が得られる。
【0018】
(充放電条件)
上述し全固体型リチウムイオン電池の充放電条件は、例えば、以下のとおりである。なお、正極活物質の種類より、充電終止電位および放電終止電位は適宜調整される。例えば、正極活物質として硫化物を用いる場合、充電終止電位は3.0V、放電終止電位は0.4Vである。また、正極活物質として複合酸化物を用いる場合、充電終止電位は3.6V、放電終止電位は2.4Vである。
測定温度:25℃
充電条件:電流密度65μA/cm
2
放電条件:電流密度65μA/cm
2
【0019】
(交流インピーダンスの測定)
また、充放電を10回行った後の上記全固体型リチウムイオン電池の交流インピーダンスは以下の方法により測定できる。
まず、充放電を10回行った後の上記全固体型リチウムイオン電池について、放電終止電圧に到達した状態で交流インピーダンス測定装置(例えば、BioLogic社製SP-300)を用いて、25℃の温度下で、上記全固体型リチウムイオン電池に7000kHz〜0.1Hzに周波数を変えつつ交流信号を付与し、電圧/電流の応答信号からインピーダンスを測定する。電池に印加する交流の電圧振幅としては10mVである。
このとき、周波数の違いにより、複数のインピーダンスが得られる。かかる複数のインピーダンスに基づいて、平面座標の横軸Xに複素インピーダンスの実部(RealZ)(Ω)を、縦軸Yに複素インピーダンスの虚部(−ImagZ)(Ω)をプロットし、コール・コールプロットを得ることができる。
このコール・コールプロットにおいて、高周波信号を付与したときに得られるプロットは、実部(RealZ)(Ω)の値が低い方にプロットされる。また、低周波信号を付与したときに得られるプロットは、実部(RealZ)(Ω)の値が高い方にプロットされる。
【0020】
また、得られた上記コール・コールプロットを
図2に示す等価回路にフィッティングしたとき、正極活物質(A)と無機固体電解質材料(C)との界面のインピーダンスR2が好ましくは400Ω以下、より好ましくは150Ω以下、さらに好ましくは50Ω以下、特に好ましくは30Ω以下である。
これにより、得られるリチウムイオン電池のインピーダンスがより一層低下し、得られるリチウムイオン電池の放電容量密度およびサイクル特性をより一層向上させることができる。
ここで、各抵抗成分(R2、R3、R4)の帰属にはQ値を用いた。Q値の大きい順に無機固体電解質材料/正極活物質界面の抵抗成分、無機固体電解質材料の粒界の抵抗成分、無機固体電解質材料のバルクの抵抗成分と帰属した。
最も値の大きいQ2を無機固体電解質材料/正極活物質界面の抵抗成分と帰属した。帰属結果を以下に示す。
Q2:無機固体電解質材料/正極活物質界面の抵抗成分
Q3、Q4:無機固体電解質材料の粒界の抵抗成分、または無機固体電解質材料のバルクの抵抗成分
各Q値に対応する抵抗成分R値を以下のように帰属した。
R1:回路抵抗
R2:無機固体電解質材料/正極活物質界面の抵抗
R3、R4:無機固体電解質材料の粒界の抵抗、または無機固体電解質材料のバルクの抵抗
ここで、フィッティングには、BioLogic社製EC−Lab Softwareのフィッティング機能を利用した。
なお、
図2に示す等価回路中におけるCPE2〜CPE4は表面状態および密度分布の影響を考慮した電気二重層容量を示し、a2〜a4は表面状態および密度分布の均一性を示す。
【0021】
また、正極材料(P)は、上記コール・コールプロットにおいて、第一の半円の後に、第一の半円よりも大きな円弧を有する第三の半円が観察されることが好ましい。そして、第一の半円の右端におけるRealZ
1(Ω)と第三の半円の左端におけるRealZ
3(Ω)との差(RealZ
3−RealZ
1)が好ましくは10Ω以下であり、より好ましくは5Ω以下であり、特に好ましくは1Ω以下である。
【0022】
正極材料(P)の各種材料の配合は、電池の使用用途等に応じて、適宜決定されるため特に限定されないが、以下の配合割合が好ましい。
正極材料(P)の全固形分100質量%に対し、正極活物質(A)の含有量をX質量%とし、導電助剤(B)の含有量をY質量%としたとき、正極活物質(A)の含有量に対する導電助剤(B)の含有量の比(Y/X)が好ましくは0.20以上、より好ましくは0.30以上、さらに好ましくは0.40以上、特に好ましく0.50以上、そして、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.0以下である。
【0023】
Y/Xが上記下限値以上であると、正極活物質(A)同士あるいは正極活物質(A)と集電体との接触抵抗が低減し、正極内の電子伝導性を向上させることができる。また、Y/Xが上記上限値以下であると、正極内の正極活物質(A)の量を増やすことができる。
以上から、Y/Xが上記範囲内であると、得られるリチウムイオン電池の正極材料(P)の単位重量当たりの放電容量密度を向上させることができる。
【0024】
従来、リチウムイオン電池の放電容量密度を向上させるためには、正極中の正極活物質の量を高めることが重要と考えられていた。導電助剤はあくまでも正極内の導電パスを維持させるために添加するもので、導電助剤をある一定以上含有させても、その効果は変わらないとされていた。むしろ導電助剤の含有量を増やすと、正極材料中の正極活物質の量が減るためリチウムイオン電池の放電容量密度が低下してしまったり、また、導電助剤は一般的に微粒子のため正極材料のハンドリング性が悪化してしまったりすると考えられていた。したがって、従来は、正極材料中の導電助剤の量は、少ないほど好ましいと考えられていた。
【0025】
実際、特許文献1(特開2012−99315号)の段落0036には、導電助剤粉末は、正極活物質粉末に対して、0〜10質量%が好ましいと記載されており、特許文献2(特開2012−256486号)の段落0031には、導電性粉末が10質量%以下、特に5質量%以下含まれると記載されている。
したがって、従来は、導電助剤は正極活物質に対して0〜10質量%程度添加するのが一般的であった。
しかし、本発明者らが、正極材料に含まれる導電助剤の割合を従来の基準よりも増やしてみたところ、リチウムイオン電池の正極材料の単位重量当たりの放電容量密度が向上するという、予想外の効果が得られることが明らかになった。すなわち、本発明者らは、全固体型リチウムイオン電池において、その充放電容量密度を向上させるためには、電解液を用いた従来のリチウムイオン電池とは異なる観点から配合設計をおこなうことが重要であることを見出した。
【0026】
そこで、本発明者らは、さらに鋭意検討した。その結果、Y/Xを上記範囲内とすることにより、得られるリチウムイオン電池の放電容量密度をより向上させることができることを見出した。
【0027】
また、正極材料(P)の全固形分100質量%に対し、無機固体電解質材料(C)の含有量をZ質量%としたとき、正極活物質(A)の含有量に対する無機固体電解質材料(C)の含有量の比(Z/X)が好ましくは0.50以上、より好ましくは0.75以上、さらに好ましくは1.0以上、特に好ましくは1.2以上、そして、好ましくは5.0以下、より好ましくは2.5以下、さらに好ましくは2.0以下である。
【0028】
Z/Xが上記下限値以上であると、正極活物質(A)と無機固体電解質材料(C)との接触面積が増加し、正極活物質(A)と無機固体電解質材料(C)との界面の抵抗を低下させることができる。さらに無機固体電解質材料(C)同士の接点が確保され、正極材料(P)内の広範囲に渡りリチウムイオンの導電パスが形成できるため放電容量密度を増加させることができる。また、Z/Xが上記上限値以下であると、正極内の正極活物質(A)の量を増やすことができる。
以上から、Z/Xが上記範囲内であると、得られるリチウムイオン電池の正極材料(P)の単位重量当たりの放電容量密度をより一層向上させることができる。
【0029】
このような正極材料(P)は、電子伝導性とリチウムイオン伝導性のバランスが優れた構造になっていると考えられる。したがって、Y/XおよびZ/Xが上記範囲内である正極材料(P)は、より一層高い放電容量密度を実現できると考えられる。
【0030】
また、正極材料(P)において、正極活物質(A)の含有量(X)が、好ましくは20質量%以上50質量%以下、より好ましくは25質量%以上40質量%以下であり、導電助剤の含有量(Y)が、好ましくは11質量%以上45質量%以下、より好ましくは15質量%以上40質量%以下であり、無機固体電解質材料(C)の含有量(Z)が、好ましくは25質量%以上60質量%以下、より好ましくは30質量%以上50質量%以下である。
正極材料(P)の配合が上記範囲内であると、得られるリチウムイオン電池の電池特性が特に優れている。
【0031】
つぎに、本実施形態の正極材料(P)を構成する各成分について説明する。
【0032】
(正極活物質(A))
正極活物質(A)としてはリチウムイオンを可逆に放出・吸蔵でき、電子輸送が容易におこなえるように電子伝導度が高い材料が好ましい。例えば、リチウムコバルト酸化物(LiCoO
2)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO
2)、リチウムマンガン酸化物(LiMn
2O
4)、リチウム−マンガン−ニッケル酸化物(LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2)、オリビン型リチウムリン酸化物(LiFePO
4)等の複合酸化物;ポリアニリン、ポリピロール等の導電性高分子;Li
2S、CuS、Li−Cu−S化合物、TiS
2、FeS、MoS
2、Li−Mo−S化合物、Li−Ti−S化合物、Li−V−S化合物等の硫化物;硫黄を含浸したアセチレンブラック、硫黄を含浸した多孔質炭素、硫黄と炭素の混合粉等の硫黄を活物質とした材料;等を用いることができる。これらの正極活物質(A)は1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
これらの中でも、正極活物質(A)としては、より高い放電容量密度を有し、かつ、サイクル特性により優れる観点から、Li−Mo−S化合物が好ましい。
Li−Mo−S化合物は、構成元素として、Li、Mo、およびSを含んでいるものである。
【0034】
本実施形態のLi−Mo−S化合物を用いると、サイクル特性により一層優れるリチウムイオン電池を得ることができる。この理由については必ずしも明らかではないが、以下の理由が推察される。
本実施形態のLi−Mo−S化合物は、通常は原料であるMoS
2およびLi
2Sを混合することにより得ることができる。ここで、原料であるMoS
2は、リチウムイオンのインターカレーションによる体積収縮が小さい材料である。このMoS
2にLi
2Sを混合し、Sの量を高めると、MoS
2の結晶構造からなるドメインが微細化し、非晶質のLi−Mo−S化合物が生成することでリチウムイオンが出入りするサイトが広がるとともにリチウムイオンが出入りするサイト数が増加すると考えられる。そしてその結果として、Li−Mo−S化合物はインターカレーションによる体積収縮がより一層小さい材料となり、より一層優れたサイクル特性を実現できていると推察される。
【0035】
また、本実施形態のLi−Mo−S化合物は、上記Moの含有量に対する上記Liの含有量のモル比(Li/Mo)が好ましくは2以上20以下であり、より好ましくは4以上19以下であり、さらに好ましくは5以上17以下であり、特に好ましくは6以上14以下である。また、上記Moの含有量に対する上記Sの含有量のモル比(S/Mo)が、好ましくは3以上13以下であり、より好ましくは4以上12以下であり、さらに好ましくは5以上10以下であり、特に好ましくは6以上9以下である。
Li/MoおよびS/Moを上記範囲内とすることにより、充放電容量(mAh/g)をより一層向上させることができる。
ここで、本実施形態のLi−Mo−S化合物中のLi、Mo、およびSの含有量は、例えば、ICP発光分光分析により求めることができる。
【0036】
つづいて、本実施形態のLi−Mo−S化合物の製造方法について説明する。
本実施形態のLi−Mo−S化合物は、例えば、原料であるMoS
2、Li
2S、必要に応じてS(硫黄)を粉砕混合することにより得ることができる。以下、具体的に説明する。
【0037】
はじめに、Li
2Sに対するMoS
2の反応モル比(MoS
2/Li
2S)が好ましくは0.05以上1.2以下、より好ましくは0.10以上0.50以下、特に好ましくは0.12以上0.35以下となるように、MoS
2およびLi
2Sを混合する。得られるLi−Mo−S化合物中のSの量を高めたい場合は、さらにS(硫黄)を添加してもよい。
ここで、Li
2Sに対するMoS
2の混合モル比が、通常はLi
2Sに対するMoS
2の反応モル比となる。本実施形態の混合モル比は、例えば、ICP発光分光分析により求めることができるが、通常は仕込みの重量比から算出できる。
【0038】
MoS
2およびLi
2Sを粉砕混合する方法としてはMoS
2およびLi
2Sを均一に粉砕混合できる混合方法であれば特に限定されないが、例えば、非活性雰囲気下で撹拌またはメカノケミカル処理によりおこなうことができる。非活性雰囲気下でメカノケミカル処理によりおこなうことが好ましい。メカノケミカル処理を用いると、MoS
2とLi
2Sとを微粒子状に粉砕しながら混合することができるため、MoS
2とLi
2Sとの接触面積を大きくすることができる。これにより、MoS
2とLi
2Sとの反応を促進することができるため、より一層効率良く本実施形態のLi−Mo−S化合物を得ることができる。
【0039】
ここで、メカノケミカル処理による混合方法とは、混合対象に、せん断力、衝突力または遠心力のような機械的エネルギーを加えつつ混合する方法である。メカノケミカル処理による混合をおこなう装置としては、ボールミル、ビーズミル、振動ミル等の粉砕・分散機が挙げられる。
【0040】
MoS
2およびLi
2Sを粉砕混合するときの攪拌速度や処理時間、温度、反応圧力、混合物に加えられる重力加速度等の混合条件は、混合物の処理量によって適宜決定することができる。
【0041】
このような製造方法により、本実施形態のLi−Mo−S化合物を得ることができる。
【0042】
また、正極活物質(A)は特に限定されないが、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径d
50が、好ましくは0.5μm以上20μm以下であり、より好ましくは1μm以上10μm以下である。
正極活物質(A)の平均粒子径d
50を上記範囲内とすることにより、良好なハンドリング性を維持すると共に、より一層高密度の正極を作製することができる。
【0043】
(導電助剤(B))
導電助剤(B)としてはリチウムイオン電池に使用可能な通常の導電助剤であれば特に限定されないが、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック;カーボンファイバー;気相法炭素繊維;黒鉛;カーボンナノチューブ;等の炭素材料が挙げられる。これらの導電助剤(B)は1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
これらの中でも、粒子径が小さく、価格が安いカーボンブラックが好ましい。
【0044】
(無機固体電解質材料(C))
無機固体電解質材料(C)としては、イオン伝導性および絶縁性を有するものであれば特に限定されないが、一般的に全固体型リチウムイオン電池に用いられるものを用いることができる。例えば、硫化物系無機固体電解質材料、酸化物系無機固体電解質材料等を挙げることができる。これらの中でも、硫化物系無機固体電解質材料が好ましい。これにより、正極活物質(A)との界面抵抗がより一層低下し、出力特性に優れた全固体型リチウムイオン電池とすることができる。
【0045】
硫化物系無機固体電解質材料としては、例えば、Li
2S−P
2S
5材料、Li
2S−SiS
2材料、Li
2S−GeS
2材料、Li
2S−Al
2S
3材料、Li
2S−SiS
2−Li
3PO
4材料、Li
2S−P
2S
5−GeS
2材料、Li
2S−Li
2O−P
2S
5−SiS
2材料、Li
2S−GeS
2−P
2S
5−SiS
2材料、Li
2S−SnS
2−P
2S
5−SiS
2材料等が挙げられる。これらの中でも、リチウムイオン伝導性が優れており、製造方法が簡便である点から、Li
2S−P
2S
5材料が好ましい。
【0046】
無機固体電解質材料(C)の形状としては、例えば粒子状を挙げることができる。本実施形態の粒子状の無機固体電解質材料(C)は特に限定されないが、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径d
50が、好ましくは1μm以上20μm以下であり、より好ましくは1μm以上10μm以下である。
無機固体電解質材料(C)の平均粒子径d
50を上記範囲内とすることにより、良好なハンドリング性を維持すると共に、リチウムイオン伝導性をより一層向上させることができる。
【0047】
(バインダー(D))
正極材料(P)は、正極活物質(A)同士および正極活物質(A)と集電体とを結着させる役割をもつバインダー(D)を含んでもよい。
本実施形態のバインダー(D)はリチウムイオン電池に使用可能な通常のバインダーであれば特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、スチレン・ブタジエン系ゴム、ポリイミド等が挙げられる。これらのバインダーは一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
(増粘剤(E))
正極材料(P)は、塗布に適した流動性を確保する点から、増粘剤を含んでもよい。本実施形態の増粘剤としてはリチウムイオン電池に使用可能な通常の増粘剤であれば特に限定されないが、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系ポリマーおよびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩、ポリカルボン酸、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマー、膨潤性粘度鉱物のスクメタイト、ポリビニルカルボン酸アミド等が挙げられる。これらの増粘剤は一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
[正極材料(P)の製造方法]
次に、正極材料(P)の製造方法について説明する。
正極材料(P)は、正極活物質(A)、導電助剤(B)、無機固体電解質材料(C)、必要に応じて、バインダー(D)、増粘剤(E)、溶剤等を粉砕混合することにより得ることができる。ここで、上記粉砕混合する工程では、示差走査熱量計により測定して得られる、当該正極材料(P)のDSC曲線において、200℃以上300℃以下、好ましくは100℃以上320℃以下、特に好ましくは30℃以上350℃以下の温度領域に、吸熱ピークおよび発熱ピークの少なくとも一方のピークが観察されなくなるまで、好ましくは吸熱ピークおよび発熱ピークの両方のピークが観察されなくなるまで上記粉砕混合をおこなう。
こうすることにより、正極材料(P)を得ることができる。
本実施形態において、DSC曲線にピークが観察されないとは、熱量が4.0J/g以上、好ましくは1.0J/g以上、より好ましくは0.5J/g以上、特に好ましくは0.1J/g以上のピークが観察されないことを意味する。
【0050】
上記の温度領域に、吸熱ピークおよび発熱ピークの少なくとも一方のピークが観察されないことは、上記の温度領域において、正極活物質(A)および無機固体電解質材料(C)のガラス軟化や結晶化が起こりにくい、あるいは起こらないことを意味すると考えられる。よって、正極活物質(A)と、導電助剤(B)と、無機固体電解質材料(C)との粉砕混合によって正極活物質(A)の少なくとも一部と、無機固体電解質材料(C)の少なくとも一部とが化合し、吸蔵・放出が可能なリチウムイオン量が多く、リチウムイオンの吸蔵・放出による体積変化が小さい新たな物質に変化したと推察される。
【0051】
なお、上記DSC曲線は、例えば、以下の方法で測定できる。
まず、アルゴン雰囲気中で、白金パンに270MPaでプレス成型した測定試料の薄片3〜5mgを秤量し、その後、白金蓋を被せる。リファレンスの白金容器は空の状態とする。開始温度25℃、測定温度範囲30〜350℃、昇温速度10℃/min、アルゴン毎分400mlの雰囲気の条件下で、示差走査熱量計を用いて示差走査熱量測定を行う。また、示差走査熱量計としては、特に限定されないが、例えば、DSC6300、セイコーインスツルメント社製を使用することができる。
また、正極材料(P)が溶媒を含む場合は、正極材料(P)から溶剤を乾燥除去してから測定することが好ましい。
【0052】
各原料を粉砕混合する方法としては各原料を均一に粉砕混合できる混合方法であれば特に限定されないが、例えば、非活性雰囲気下で撹拌またはメカノケミカル処理によりおこなうことができる。非活性雰囲気下でメカノケミカル処理によりおこなうことがより好ましい。メカノケミカル処理を用いると、各原料を微粒子状に粉砕しながら混合することができるため、各原料の接触面積を大きくすることができる。それにより、各原料の反応を促進することができるため、より一層効率良く正極材料(P)を得ることができる。
【0053】
ここで、メカノケミカル処理による混合方法とは、混合対象に、せん断力、衝突力または遠心力のような機械的エネルギーを加えつつ混合する方法である。メカノケミカル処理による混合をおこなう装置としては、ボールミル、ビーズミル、振動ミル等の粉砕・分散機が挙げられる。
【0054】
また、上記非活性雰囲気下とは、1〜10
−5Paの真空雰囲気下または不活性ガス雰囲気下のことである。上記非活性雰囲気下では、水分の接触を避けるために露点が−50℃以下であることが好ましく、−60℃以下であることがより好ましい。上記不活性ガス雰囲気下とは、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気下のことである。これらの不活性ガスは、製品への不純物の混入を防止するために、高純度である程好ましい。混合系への不活性ガスの導入方法としては、混合系内が不活性ガス雰囲気で満たされる方法であれば特に限定されないが、不活性ガスをパージする方法、不活性ガスを一定量導入し続ける方法等が挙げられる。
【0055】
また、各原料を混合する時に、ヘキサン、トルエン、またはキシレン等の非プロトン性有機溶媒を添加して、溶媒に各原料を分散させた状態で混合してもよい。こうすることにより、より効率良く混合することができる。
【0056】
各原料を粉砕混合するときの攪拌速度や処理時間、温度、反応圧力、混合物に加えられる重力加速度等の混合条件は、混合物の処理量によって適宜決定することができる。
一般的には、回転速度が速いほど、上記DSCプロファイルを有する正極材料(P)の生成速度は速くなり、処理時間が長いほど上記吸熱ピークおよび発熱ピークをより低下させることができる。
【0057】
このような製造方法により、正極材料(P)を得ることができる。
【0058】
正極材料(P)を得るためには、上記の工程を適切に調整することが重要である。ただし、正極材料(P)の製造方法は、上記のような方法には限定されず、種々の条件を適切に調整することにより、本実施形態の正極材料(P)を得ることができる。
【0059】
[正極]
つぎに、本実施形態の正極について説明する。
本実施形態の正極は、正極材料(P)からなる正極活物質層を備えている。
【0060】
本実施形態の正極活物質層の厚みや密度は、電池の使用用途等に応じて適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
【0061】
[正極の製造方法]
つぎに、本実施形態の正極の製造方法について説明する。
本実施形態の正極は特に限定されないが、一般的に公知の方法に準じて製造することができる。例えば、本実施形態の正極材料(P)からなる正極活物質層をアルミ等の集電体の表面に形成することにより得ることができる。
【0062】
正極活物質層は、集電体の片面のみ形成しても両面に形成してもよい。正極活物質層の厚さ、長さや幅は、電池の大きさや用途に応じて、適宜決定することができる。
【0063】
本実施形態の正極の製造に用いられる集電体としては特に限定されず、アルミニウム箔等リチウムイオン電池に使用可能な通常の集電体を使用することができる。
【0064】
本実施形態の正極は、必要に応じてプレスをおこない、正極の密度を調整してもよい。プレスの方法としては、一般的に公知の方法を用いることができる。
【0065】
[リチウムイオン電池]
つぎに、本実施形態に係るリチウムイオン電池100について説明する。
図1は、本発明に係る実施形態のリチウムイオン電池100の構造の一例を示す断面図である。
【0066】
リチウムイオン電池100は、例えば、正極110と、電解質層120と、負極130とを備えている。そして、正極110が、前述した本実施形態の正極である。
リチウムイオン電池100は、一般的に公知の方法に準じて製造される。例えば、本実施形態の正極110および負極130をセパレーター中心に重ねたものを、円筒型、コイン型、角型、フィルム型その他任意の形状に形成し非水電解液を封入することにより作製される。
【0067】
(負極)
負極130は特に限定されず、リチウムイオン電池に一般的に用いられているものを使用することができる。負極130は特に限定されないが、一般的に公知の方法に準じて製造することができる。例えば、負極活物質を含む負極活物質層を銅、ステンレス、アルミニウム、ニッケル等の集電体の表面に形成することにより得られる。
【0068】
負極活物質層の厚みや密度は、電池の使用用途等に応じて適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
【0069】
本実施形態の負極活物質としては、リチウムイオン電池の負極に使用可能な通常の負極活物質であれば特に限定されないが、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、樹脂炭、炭素繊維、活性炭、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料;リチウム金属、リチウム合金等のリチウム系金属;シリコン、スズ、アルミニウム等の金属;ポリアセン、ポリアセチレン、ポリピロール等の導電性ポリマー等が挙げられる。
【0070】
負極は特に限定されないが、本実施形態の負極活物質以外の成分として、例えば、バインダー、増粘剤、導電助剤、固体電解質材料等から選択される1種以上の材料を含んでもよい。これらの材料としては、特に限定はされないが、例えば、上述した正極110に用いる材料と同様のものを挙げることができる。
【0071】
(電解質層)
次に、電解質層120について説明する。電解質層120は、正極110および負極130の間に形成される層である。
電解質層120とは、セパレーターに非水電解液を含浸させたものや、固体電解質材料を含む固体電解質層が挙げられる。
【0072】
本実施形態のセパレーターとしては正極110と負極130を電気的に絶縁させ、リチウムイオンを透過する機能を有するものであれば特に限定されないが、例えば、多孔性膜を用いることができる。
【0073】
多孔性膜としては微多孔性高分子フィルムが好適に使用され、材質としてポリオレフィン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル等が挙げられる。特に、多孔性ポリオレフィンフィルムが好ましく、具体的には多孔性ポリエチレンフィルム、多孔性ポリプロピレンフィルム等が挙げられる。
【0074】
本実施形態の非水電解液とは、電解質を溶媒に溶解させたものである。
上記電解質としては、公知のリチウム塩がいずれも使用でき、活物質の種類に応じて選択すればよい。例えば、LiClO
4、LiBF
6、LiPF
6、LiCF
3SO
3、LiCF
3CO
2、LiAsF
6、LiSbF
6、LiB
10Cl
10、LiAlCl
4、LiCl、LiBr、LiB(C
2H
5)
4、CF
3SO
3Li、CH
3SO
3Li、LiCF
3SO
3、LiC
4F
9SO
3、Li(CF
3SO
2)
2N、低級脂肪酸カルボン酸リチウム等が挙げられる。
【0075】
上記電解質を溶解する溶媒としては、電解質を溶解させる液体として通常用いられるものであれば特に限定されず、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ビニレンカーボネート(VC)等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン類;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン等のオキソラン類;アセトニトリル、ニトロメタン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等の含窒素類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の有機酸エステル類;リン酸トリエステルやジグライム類;トリグライム類;スルホラン、メチルスルホラン等のスルホラン類;3−メチル−2−オキサゾリジノン等のオキサゾリジノン類;1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、ナフタスルトン等のスルトン類;等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0076】
本実施形態の固体電解質層は、正極110および負極130の間に形成される層であり、固体電解質材料を含む固体電解質により形成される層である。固体電解質層に含まれる固体電解質材料は、リチウムイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、上述した正極に含ませる無機固体電解質材料(C)と同様のものを用いることができる。
本実施形態の固体電解質層における固体電解質材料の含有量は、所望の絶縁性が得られる割合であれば特に限定されるものではないが、例えば、10体積%以上100体積%以下の範囲内、中でも、50体積%以上100体積%以下の範囲内であることが好ましい。
【0077】
また、本実施形態の固体電解質層は、バインダーを含有していてもよい。バインダーを含有することにより、可撓性を有する固体電解質層を得ることができる。バインダーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素含有結着材を挙げることができる。固体電解質層の厚さは、例えば、0.1μm以上1000μm以下の範囲内、中でも、0.1μm以上300μm以下の範囲内であることが好ましい。
【0078】
(全固体型リチウムイオン電池)
本実施形態のリチウムイオン電池100は電解質層120として、上述した固体電解質層を用いることによって全固体型リチウムイオン電池とすることができる。
本実施形態の全固体型リチウムイオン電池は、例えば、本実施形態の正極110、負極130、および、正極110と負極130との間に固体電解質により形成された固体電解質層を有するものである。
全固体型リチウムイオン電池の正極材料として、本実施形態の正極材料(P)を用いると、放電容量密度、サイクル特性等の電池特性が良好で、かつ、高い安全性を有するリチウムイオン電池とすることができる。
【0079】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例、比較例では、「mAh/g」は正極材料1gあたりの容量密度を示す。
【0081】
[1]測定方法
はじめに、以下の実施例、比較例における測定方法を説明する。
【0082】
(1)粒度分布
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(マルバーン社製、マスターサイザー3000)を用いて、レーザー回折法により、実施例および比較例で用いた正極活物質の粒度分布を測定した。測定結果から、各正極活物質について、重量基準の累積分布における50%累積時の粒径(d
50、平均粒子径)をそれぞれ求めた。
【0083】
(2)ICP発光分光分析
ICP発光分光分析装置(セイコーインスツルメント社製、SPS3000)を用いて、ICP発光分光分析法により測定し、実施例および比較例で用いた正極活物質中の各元素の質量%をそれぞれ求め、それらの値に基づいて、各元素のモル比をそれぞれ計算した。
【0084】
(3)充放電試験
実施例および比較例で得られた正極材料(2mg)を導電性アルミ箔粘着テープ(寺岡製作所社製、φ14mm)の粘着面に付着させ、正極を得た。
つづいて、プレス治具を用いて、無機固体電解質材料(Li
11P
3S
12、100mg)を83MPaにて予備プレスを行った。その後、それを正極にのせて、さらに250MPa、10分間プレス成型をおこない、正極上に固体電解質層を形成した。
また、上記方法で得られた正極、固体電解質層、負極であるインジウム箔(φ=14mm、t=0.5mm)をこの順で積層させて25MPa、5分間プレスすることで全固体型リチウムイオン電池を作製した。次いで、得られた全固体型リチウムイオン電池について、25℃で、電流密度65μA/cm
2の条件で充電終止電位3.0Vまで充電した後、電流密度65μA/cm
2の条件で、放電終止電位0.4Vまで放電させる条件で充放電を10回行った。
ここで、1回目の放電容量を100%としたときの10回目の放電容量を放電容量変化率[%]とした。正極材料に対する放電容量密度と放電容量変化率について得られた結果を表2に示す。
【0085】
(4)交流インピーダンスの測定
また、以下の方法により、充放電を10回行った後の上記全固体型リチウムイオン電池の交流インピーダンスを測定した。
まず、充放電を10回行った後の上記全固体型リチウムイオン電池について、放電終止電圧に到達した状態で交流インピーダンス測定装置(Bio−Logic社製SP−300)を用いて、25℃の温度下で、上記全固体型リチウムイオン電池に7000kHz〜0.1Hzに周波数を変えつつ交流信号を付与し、電圧/電流の応答信号からインピーダンスを測定した。電池に印加する交流の電圧振幅は10mVとした。
得られた複数のインピーダンスに基づいて、平面座標の横軸Xに複素インピーダンスの実部(RealZ)(Ω)を、縦軸Yに複素インピーダンスの虚部(−ImagZ)(Ω)をプロットし、コール・コールプロットを得た。
このコール・コールプロットにより、第二の半円または平坦領域の有無、第一の半円の右端におけるRealZ
1(Ω)と第三の半円の左端におけるRealZ
3(Ω)との差(RealZ
3−RealZ
1)を求めた。
また、EC−Lab社製EC−Lab Softwareのフィッティング機能を利用して、得られた上記コール・コールプロットを
図2に示す等価回路にフィッティングし、正極活物質(A)と無機固体電解質材料(C)との界面のインピーダンスR2を算出した。
【0086】
(5)DSC測定
実施例および比較例で得られた正極材料に対し次のようにしてDSC測定を行った。まず、アルゴン雰囲気中で、270MPaでプレス成型した正極材料の薄片3〜5mgを白金パンへ秤量し試料とした。次いで、当該試料に対し、開始温度25℃、測定温度範囲30〜350℃、昇温速度10℃/min、アルゴン毎分400mlの雰囲気の条件下で、示差走査熱量計(DSC6300、セイコーインスツルメント社製)を用いて示差走査熱量測定を行った。これにより得られたDSC曲線から、30℃以上350℃以下の温度領域における発熱ピークの有無、当該発熱ピークの熱量(J/g)、30℃以上350℃以下の温度領域における吸熱ピークの有無、当該吸熱ピークの熱量(J/g)およびピーク温度(℃)をそれぞれ算出した。
【0087】
[2]材料
つぎに、以下の実施例、比較例において使用した材料について説明する。
【0088】
(1)正極活物質(Li
14MoS
9化合物)の製造
アルゴン雰囲気下で、Al
2O
3製ポットに、MoS
2(和光純薬工業社製、745mg、4.7mmol、平均粒子径:10μm)と、Li
2S(シグマアルドリッチジャパン社製、1497mg、32.5mmol、平均粒子径:5μm)と、を秤量して加え、さらにZrO
2ボールを入れ、Al
2O
3製ポットを密閉した。
次いで、Al
2O
3製ポットを、ボールミル回転台に乗せ97rpmで、4日間処理を行い、混合物を得た。
【0089】
得られたLi−Mo−S化合物は乳鉢により粉砕し、目開き43μmの篩により分級して、平均粒子径d
50が2μmのLi−Mo−S化合物を得た。
Moの含有量に対するLiの含有量のモル比(Li/Mo)は14であり、Moの含有量に対するSの含有量のモル比(S/Mo)は9であった。
【0090】
(2)無機固体電解質材料(Li
11P
3S
12)の製造
実施例および比較例で使用したLi−P−S系無機固体電解質材料であるLi
11P
3S
12を以下の手順で作製した。
原料には、Li
2S(シグマアルドリッチジャパン製、純度99.9%)、P
2S
5(関東化学製試薬)を使用した。Li
3Nは、以下の手順で作製した。
まず、窒素雰囲気のグローブボックス中で、Li箔(本城金属社製純度99.8%、厚さ0.5mm)にステンレス製の剣山を使用しφ1mm以下の穴を多数開けた。Li箔は穴の部分から黒紫色に変化し始め、そのまま、常温で24時間放置することでLi箔すべてが黒紫色のLi
3Nに変化した。Li
3Nは、メノウ乳鉢で粉砕後、ステンレス製篩で篩い分けし、75μm以下の粉末を回収し無機固体電解質材料の原料とした。
つづいて、アルゴングローブボックス中で各原料をLi
2S:P
2S
5:Li
3N=67.5:22.5:10.0(モル%)になるように精秤し、これら粉末を20分間メノウ乳鉢で混合した。次いで、混合粉末2gを秤量し、φ10mmのジルコニア製ボール500gとともに、遊星ボールミル(フリッチュ社製、P−7)にて100rpmで1時間混合粉砕した。次いで、400rpmで15時間混合粉砕した。混合粉砕後の粉末はカーボンボートに入れアルゴン気流中で300℃、2時間加熱処理し、Li
11P
3S
12組成のLi−P−S系無機固体電解質材料を得た。
【0091】
<実施例1>
正極活物質であるLi−Mo−S化合物(Li
14MoS
9)を0.370gと、導電助剤であるケッチェンブラックを0.185gとを乳鉢を用いて15分間混合した。次いで、その混合物に無機固体電解質材料であるLi
11P
3S
12を0.445g加え、乳鉢を用いて5分間混合した。
得られた混合物を400mLのAl
2O
3製ポットに加え、さらにφ10mmのZrO
2ボール500gを入れ、Al
2O
3製ポットを密閉した。Al
2O
3製ポット内はアルゴン雰囲気とした。
次いで、Al
2O
3製ポットを、ボールミル回転台に乗せ100rpmで、24時間粉砕混合を行い、正極材料を得た。
得られた正極材料について各評価をおこなった。得られた結果を表2に示す。
【0092】
<実施例2〜12、比較例1〜2>
正極活物質、導電助剤、無機固体電解質材料の種類と配合割合およびボールミルによる粉砕混合時間を表1のように変更した以外は実施例1と同様にして正極材料をそれぞれ調製し、得られた正極材料について各評価をおこなった。得られた結果を表2に示す。
ただし、正極活物質としてLiCoO
2を使用した場合は、硫化物より電位窓が高電圧側にシフトするため充電終止電圧を3.6V、放電終止電圧を2.4Vとした。
また、正極活物質である各Li−Mo−S化合物およびLi
2S−P
2S
5無機固体電解質材料は前述したLi
14MoS
9の製造およびLi
11P
3S
12の製造に準じてそれぞれ作製した。また、Li
2S−GeS
2−P
2S
5−SiS
2無機固体電解質材料は、特許文献4(特開2013−177288号公報)の段落0092に記載の実施例2に準じて作製した。導電助剤であるケッチェンブラック、アセチレンブラック、正極活物質であるLiCoO
2は、市販品を用いた。
得られた結果を表2に示す。
【0093】
図3は、実施例1で得られた正極材料のコール・コールプロットを示す図である。
図4は、比較例1で得られた正極材料のコール・コールプロットを示す図である。
図5は、比較例2で得られた正極材料のコール・コールプロットを示す図である。
【0094】
図3に示すように、実施例1で得られた正極材料は、第一の半円の後に、上記第一の半円よりも小さな円弧を有する第二の半円または平坦領域が観察されなかった。同様に、実施例2〜12で得られた正極材料も、第一の半円の後に、上記第一の半円よりも小さな円弧を有する第二の半円または平坦領域が観察されなかった。
これに対し、
図4に示すように、比較例1で得られた正極材料は、第一の半円の後に、平坦領域が観察された。また、
図5に示すように、比較例2で得られた正極材料も、平坦領域が観察された。
【0095】
実施例1〜5、および実施例7〜11で得られた正極材料は、比較例1〜2で得られた正極材料に比べて、放電容量密度が高く、さらに充放電サイクル特性に優れていた。実施例6および12の正極材料の放電容量密度が低いのは、硫化物と比較してインタカレーション・デインタカレーション可能なLi量が小さいLiCoO
2を使用したことに起因している。
以上から、本実施形態の正極材料(P)によれば、高い放電容量密度を有するとともにサイクル特性にも優れる全固体型リチウムイオン電池を実現できることが確認できた。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】