特許第6349249号(P6349249)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6349249
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】車両用動力伝達制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 48/02 20060101AFI20180618BHJP
   F16H 59/14 20060101ALI20180618BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20180618BHJP
   F16H 61/04 20060101ALI20180618BHJP
   F16H 61/682 20060101ALI20180618BHJP
   F16H 63/46 20060101ALI20180618BHJP
   F16H 59/42 20060101ALI20180618BHJP
   F16H 59/68 20060101ALI20180618BHJP
【FI】
   F16D48/02 640K
   F16H59/14
   F16H61/02
   F16H61/04
   F16H61/682
   F16H63/46
   F16H59/42
   F16H59/68
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-259805(P2014-259805)
(22)【出願日】2014年12月24日
(65)【公開番号】特開2016-118290(P2016-118290A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2017年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】592058315
【氏名又は名称】アイシン・エーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】特許業務法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川野 友裕
(72)【発明者】
【氏名】枡井 勇樹
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−351276(JP,A)
【文献】 特開2001−304002(JP,A)
【文献】 特開2005−299707(JP,A)
【文献】 特開2008−267408(JP,A)
【文献】 特開2009−257127(JP,A)
【文献】 特開2010−149556(JP,A)
【文献】 特開2013−36474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 25/00−39/00,48/00−48/12
F16H 59/00−61/12,61/16−61/24,
61/66−61/70,63/40−63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジンの駆動出力軸から動力が入力される入力軸と、前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備え、前記出力軸の回転速度に対する前記入力軸の回転速度の割合である減速比が異なる予め定められた複数の変速段を有する有段変速機と、
前記エンジンの前記駆動出力軸と前記有段変速機の前記入力軸との間に介装され、摩擦板の軸方向の位置であるクラッチストロークを調整することによって、前記摩擦板が伝達し得るトルクの最大値であるクラッチトルクを制御可能なクラッチと、
前記クラッチのクラッチストロークを調整するためのクラッチアクチュエータと、
前記有段変速機の変速段を選択するための変速機アクチュエータと、
前記車両の走行状態に基づいて前記クラッチアクチュエータ及び前記変速機アクチュエータの双方を制御する制御手段と、
を備えた車両用動力伝達制御装置であって、
前記制御手段は、前記有段変速機が低速段から高速段へとシフトアップする際、前記クラッチアクチュエータの制御によって前記クラッチが滑りを伴う半接合状態となるように前記クラッチストロークを調整するとともに、前記有段変速機の前記出力軸の出力トルクについて前記高速段へのシフトアップ後に生じるトルク振動曲線を推定し、推定した前記トルク振動曲線の位相とは逆位相で前記クラッチトルクが振動するように前記クラッチストロークを調整する、車両用動力伝達制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用動力伝達制御装置であって、
前記制御手段は、前記有段変速機の前記入力軸の回転数に基づいて前記低速段から前記高速段へのシフトアップにおける回転エネルギー変化量を導出するとともに、導出した前記回転エネルギー変化量に基づいて前記有段変速機の前記出力軸の出力トルクについて前記高速段へのシフトアップ後に生じるトルク振動の初期振幅を導出し、導出した前記初期振幅と前記高速段での前記出力軸のトルク振動について予め準備されたトルク振動テストデータとを組み合わせることによって前記トルク振動曲線を推定する、車両用動力伝達制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用動力伝達制御装置であって、
前記制御手段は、推定した前記トルク振動曲線と振幅及び周波数が同一であり且つ当該トルク振動曲線の位相とは逆位相の逆位相振動曲線を導出し、導出した前記逆位相振動曲線にしたがって前記クラッチトルクが振動するように前記クラッチストロークを調整する、車両用動力伝達制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される車両用動力伝達制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数の変速段を有し且つトルクコンバータを備えていない有段変速機と、エンジンの出力軸と有段変速機の入力軸(以下、「インプットシャフト」ともいう)との間に介装されてクラッチトルク(クラッチが伝達し得るトルクの最大値)を調整可能なクラッチと、車両の走行状態に応じてクラッチアクチュエータ及び変速アクチュエータを用いてクラッチトルク及び有段変速機の変速段を制御する制御手段と、を備えた動力伝達制御装置が開発されてきている(例えば、特許文献1を参照)。この種の動力伝達制御装置は、オートメイティッド・マニュアル・トランスミッション(AMT)とも呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−97740号公報
【特許文献2】特許第5312340号公報
【発明の概要】
【0004】
上記のようなAMTを搭載した車両の動力伝達制御装置は、変速段のシフトアップ時のトルク変動を緩和するために、クラッチのクラッチストローク(クラッチが備える摩擦板の軸方向の位置)を調整することによって、クラッチが完全に接合した状態と当該接合が分断された状態との間の半接合状態、即ちクラッチの滑りを伴う半クラッチ状態に制御される。これに対して、動力伝達制御装置は、変速段のシフトダウン時においては、クラッチを分断状態に制御した瞬間にエンジンの回転数を上げてブリッピングを行うように制御される。
【0005】
ところで、有段変速機の変速段のシフトアップ時においては、インプットシャフトの急激な回転数変化に起因する駆動系(アウトプットシャフト)の捩じれ振動(トルク振動)によって変速ショックが発生する。この場合、たとえクラッチを半接合状態に制御したとしても、シフトアップ時の変速ショックを緩和するのには限界がある。その結果、車体が前後に揺れるような異常振動によってドライバーに違和感や不安感を与えるという問題が生じ得る。このような問題に対して、例えば上記特許文献2に記載の変速機では、変速ショックを吸収するためのダンパーを設けるという対策が講じられているが、このような対策は、部品点数の増加によって製品のコストアップの要因に成り得る。
【0006】
そこで、本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、クラッチトルク及び変速機の変速段を制御する車両用動力伝達制御装置において、部品点数を増やすことなく変速段のシフトアップ時の変速ショックを緩和するのに有効な技術を提供することである。
【0007】
この目的を達成するために、本発明に係る車両用動力伝達制御装置は、車両に搭載されるものであり、有段変速機、クラッチ、クラッチアクチュエータ、変速機アクチュエータ及び制御手段を備える。有段変速機は、車両のエンジンの駆動出力軸から動力が入力される入力軸と、車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備え、出力軸の回転速度に対する入力軸の回転速度の割合である減速比が異なる予め定められた複数の変速段を有する。クラッチは、エンジンの駆動出力軸と有段変速機の入力軸との間に介装され、摩擦板の軸方向の位置であるクラッチストロークを調整することによって、摩擦板が伝達し得るトルクの最大値であるクラッチトルクを制御可能に構成される。クラッチアクチュエータは、クラッチのクラッチストロークを調整する機能を果たす。変速機アクチュエータは、有段変速機の変速段を選択する機能を果たす。制御手段は、車両の走行状態に基づいてクラッチアクチュエータ及び変速機アクチュエータの双方を制御する。この制御手段は、有段変速機が低速段から高速段へとシフトアップする際、クラッチアクチュエータの制御によってクラッチが滑りを伴う半接合状態となるようにクラッチストロークを調整するとともに、有段変速機の出力軸の出力トルクについて高速段へのシフトアップ後に生じるトルク振動曲線を推定し、推定したトルク振動曲線の位相とは逆位相でクラッチトルクが振動するようにクラッチストロークを調整する。これにより、変速機のシフトアップ時における出力軸の捩じれ振動をクラッチトルクによって打ち消すことができ、シフトアップ時の変速ショックを緩和することができる。その結果、車体が前後に揺れるような異常振動によってドライバーに違和感や不安感を与えるのを防止できる。この場合、変速ショックを吸収するためのダンパー等の別部材を追加する必要がないため、製品のコストアップが防止される。
【0008】
上記構成の車両用動力伝達制御装置では、制御手段は、有段変速機の入力軸の回転数に基づいて低速段から高速段へのシフトアップにおける回転エネルギー変化量を導出するとともに、導出した回転エネルギー変化量に基づいて有段変速機の出力軸の出力トルクについて高速段へのシフトアップ後に生じるトルク振動の初期振幅を導出し、導出した初期振幅と高速段での出力軸のトルク振動について予め準備されたトルク振動テストデータとを組み合わせることによってトルク振動曲線を推定するのが好ましい。これにより、有段変速機の出力軸の出力トルクのシフトアップ後のトルク振動曲線を、回転エネルギー変化量及び初期振幅を用いて容易に推定することが可能になる。
【0009】
上記構成の車両用動力伝達制御装置では、制御手段は、推定したトルク振動曲線と振幅及び周波数が同一であり且つ当該トルク振動曲線の位相とは逆位相の逆位相振動曲線を導出し、導出した逆位相振動曲線にしたがってクラッチトルクが振動するようにクラッチストロークを調整するのが好ましい。この場合、トルク振動曲線に対する逆位相振動曲線にしたがってクラッチトルクを振動させることによって、シフトアップ時における出力軸の捩じれ振動をこのクラッチトルクによって確実に打ち消すことが可能になる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、クラッチトルク及び変速機の変速段を制御する車両用動力伝達制御装置において、部品点数を増やすことなく変速段のシフトアップ時の変速ショックを緩和することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は本発明の実施形態に係る車両用動力伝達制御装置を搭載した車両の概略構成を示す図である。
図2図2図1中のクラッチC/Tについての「ストローク−トルク特性」を規定するマップを示したグラフである。
図3図3図1中の変速機T/Mについての「車速及びアクセル開度」と「選択されるべき変速段」との関係を規定するマップを示すグラフである。
図4図4は各変速段での車速Vと入力軸A2の回転角速度ωとの相関を示す図である。
図5図5は比較例に係るクラッチトルク制御の一例を示すタイムチャートである。
図6図6は本発明の実施形態に係るクラッチトルク制御の一例を比較例とともに示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」ともいう)を図面を参照しつつ説明する。図1に示される車両10は、動力源としてのエンジンを備え、且つ、トルクコンバータを備えない有段変速機とクラッチとを使用した所謂オートメイティッド・マニュアル・トランスミッション(AMT)を搭載した車両である。
【0013】
この車両10は、エンジンE/Gと、変速機T/Mと、クラッチC/Tと、を備えている。エンジンE/Gは、周知の内燃機関、例えば、ガソリンを燃料として使用するガソリンエンジンや、軽油を燃料として使用するディーゼルエンジンとして構成されている。エンジンE/Gの駆動出力軸A1は、クラッチC/Tを介して変速機T/Mの入力軸A2と接続されている。
【0014】
変速機T/Mは、前進用の複数(例えば、6つ)の変速段、後進用の1つの変速段、及びニュートラル段を有するトルクコンバータを備えない周知の有段変速機の1つである。この変速機T/Mが本発明の「有段変速機」に相当する。変速機T/Mは、エンジンE/Gの駆動出力軸A1から動力が入力される入力軸A2と、駆動輪D/Wへ動力を出力する出力軸A3とを備え、出力軸A3は、図示しないプロペラシャフト、図示しないディファレンシャル等を介して駆動輪D/Wと接続されている。この変速機T/Mの変速段の切り替えは、変速機アクチュエータACT2を制御することで実行される。変速機アクチュエータACT2によって変速段を選択して切り替えることで、減速比(出力軸A3の回転数Noに対する入力軸A2の回転数Niの割合)が変更される。ここでいう、変速機アクチュエータACT2が本発明の「変速機アクチュエータ」に相当する。
【0015】
クラッチC/Tは、エンジンE/Gの駆動出力軸A1と変速機T/Mの入力軸A2との間に介装され、伝達し得るトルクの最大値(クラッチトルク)を制御可能に構成されている。このクラッチC/Tが本発明の「クラッチ」に相当する。具体的には、クラッチC/Tは、変速機T/Mの入力軸A2に一体回転するように設けられた周知の構成の1つを有する摩擦板(摩擦クラッチディスク)を用いて構成されている。この摩擦板は、エンジンE/Gの駆動出力軸A1に一体回転するように設けられたフライホイールに対して互いに向き合うように同軸的に配置されている。フライホイールに対する摩擦板の軸方向位置(駆動出力軸A1の軸方向についての位置)であるクラッチストロークが調整可能となっている。クラッチC/T(具体的には、摩擦板)の軸方向位置(クラッチストローク)は、クラッチアクチュエータACT1により調整される。即ち、この車両には、クラッチペダルが設けられていない。ここでいうクラッチアクチュエータACT1が本発明の「クラッチアクチュエータ」に相当する。
【0016】
車両10に搭載される車両用動力伝達制御装置(以下、単に「制御装置」ともいう)100は、前述の変速機T/M、クラッチアクチュエータACT1及び変速機アクチュエータACT2に加えて、アクセル開度センサS1、シフト位置センサS2、ブレーキセンサS3、回転数センサS4、回転数センサS5、クラッチストロークセンサS6、車輪速センサS7、電子制御ユニットECUを備えている。この制御装置100が本発明の「車両用動力伝達制御装置」に相当する。アクセル開度センサS1は、アクセルペダルAPの操作量(アクセル開度)を検出するためのセンサである。シフト位置センサS2は、シフトレバーSFの位置を検出するためのセンサである。ブレーキセンサS3は、ブレーキペダルBPの操作の有無を検出するためのセンサである。回転数センサS4は、駆動出力軸A1の回転数(エンジン回転数)Neを検出するためのセンサである。回転数センサS5は、入力軸A2の回転数Niを検出するためのセンサである。クラッチストロークセンサS6は、クラッチC/T(摩擦板)のクラッチストロークを検出するためのセンサである。車輪速センサS7は、車輪の回転速度を検出するためのセンサである。
【0017】
電子制御ユニットECUは、入出力デバイス、CPU(演算処理装置)、ROM(メモリ)等、公知の構成要素によって構成されており、上述のセンサS1〜S7、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて、前記のクラッチアクチュエータACT1及び変速機アクチュエータACT2の双方を制御することで、クラッチC/Tのクラッチストローク(従って、クラッチトルク)、及び、変速機T/Mの変速段を制御する。また、この電子制御ユニットECUは、エンジンE/Gの燃料噴射量(スロットル弁の開度)を制御することで、エンジンE/Gの駆動出力軸A1の駆動トルク(エンジントルク)Teを制御する。具体的には、アクセル開度が大きくなるに従って駆動トルクTeが大きくなるように燃料噴射量(スロットル弁の開度)が制御される。この電子制御ユニットECUが本発明の「制御手段」に相当する。
【0018】
クラッチC/T(摩擦板)の軸方向の位置がクラッチストロークとなる。このクラッチストロークの「原位置」は、例えば、摩擦板の軸方向の可動範囲内における基準となる位置や、前記可動範囲におけるフライホイールから遠い側(クラッチの分断側)の端位置(断側ストッパに当接する位置(図2を参照))である。
【0019】
図2に示すように、クラッチストロークStを調整することにより、クラッチトルクTcが調整される。例えば、摩擦板がフライホイールに近づくように軸方向に移動する場合、クラッチトルクTcはクラッチストロークStがSt1になると上昇し始め、クラッチストロークStがSt2になるまで比例上昇し、クラッチストロークStがSt2なると最大になる。「Tc=0」の状態では、エンジンE/Gの駆動出力軸A1と変速機T/Mの入力軸A2との間で動力が伝達されない。この状態をクラッチC/Tの「分断状態」と呼ぶ。また、「Tc>0」の状態では、駆動出力軸A1と入力軸A2との間で動力が伝達される。この状態をクラッチC/Tの「接合状態」と呼ぶ。
【0020】
また、接合状態において、クラッチC/Tに滑りが発生していない状態(駆動出力軸A1の回転数Neと入力軸A2の回転数Niとが一致している状態)を特に「完全接合状態」と呼び、クラッチC/Tに滑りが発生している状態(NeとNiとが一致していない状態)を特に、クラッチC/Tの「半接合状態(半クラッチ状態)」と呼ぶ。
【0021】
電子制御ユニットECUのROMは、図3に示されるような変速マップ(L1〜L5)を記憶している。図3は、前進用の変速段として1速〜6速を備えられた場合の一例を示す。本実施の形態の制御装置100では、この変速マップに基づいて変速機T/Mの変速段が決定される。より具体的には、シフトレバーSFの位置が「自動モード」に対応する位置にある場合、車輪速センサS7から得られる車輪速に基づいて算出される車速Vと、アクセル開度センサS1から得られる、アクセルペダルAPのアクセル開度OPとの組み合わせが、変速マップ上におけるどの変速段の領域に対応するかによって、達成すべき1つの変速段(以下、「選択変速段」と呼ぶ。)が選択される。例えば、現在の車速Vがαで現在のアクセル開度OPがβである場合(図3に示す黒点を参照)、選択変速段として「3速」が選択される。
【0022】
このような変速マップは、車速とアクセル開度との組み合わせに対して最適な変速段を適合する実験を、前記組み合わせを種々変更しながら繰り返し行うことにより作製され得る。一方、シフトレバーSFの位置が「手動モード」に対応する位置にある場合、運転者によるシフトレバーSFの操作に基づいて選択変速段が選択される。
【0023】
変速機T/Mでは、複数の変速段のうち現在の選択変速段が実現(確立)される。変速段が選択変速段に確立している(固定された)状態で車両が走行する場合、通常、クラッチC/Tは、完全接合状態に維持される。一方、車両走行中において、選択変速段が変化したとき、変速機T/Mの変速作動(変速段が変更される際の作動)が行われる。変速作動の際、クラッチC/Tが接合状態(完全接合状態、Tc>0)から分断状態(Tc=0)へと変更される。本実施の形態では特に、制御装置100は、変速段のシフトアップ時に実行するクラッチトルク制御においては、トルク変動の緩和のために、クラッチC/TをクラッチストロークStの調整によって半接合状態に制御する。これに対して、制御装置100は、変速段のシフトダウン時に実行するシフトダウン制御においては、クラッチC/Tを分断状態に制御した瞬間にエンジンE/Gの回転数を上げてブリッピングを行うように制御する。
【0024】
以下、変速機T/Mの変速段のシフトアップ時に電子制御ユニットECU(制御手段)がクラッチトルクTcを制御するクラッチトルク制御について具体的に説明する。このクラッチトルク制御では、概して、変速機T/Mの低速段から高速段へのシフトアップの際に駆動系にて発生する出力軸A3のトルク振動特性を推定する第1ステップと、第1ステップで推定した、出力軸A3のトルク振動特性に基づいてトルク振動を打ち消すようなクラッチトルクの目標値を演算する第2ステップと、第2ステップで演算した目標値に基づいてクラッチストロークStを制御する第3ステップと、を順次実行することを特徴としている。
【0025】
第1ステップでは、図4に示されるデータを予め記憶しておくことによって、入力軸A2の回転エネルギー変化量ΔEを導出することができる。このデータによれば、アクセルペダルAPのアクセル開度OPが一定の場合において、各変速段での車速Vと入力軸A2の回転角速度ωとの相関が判る。回転エネルギー変化量ΔEの導出について具体的に説明すると、車速Vaで走行中に変速段を相対的に低速のn速から相対的に高速の(n+1)速にシフトアップする際、回転数センサS5によって検出された、入力軸A2の回転数Niから、入力軸A2の現在の回転角速度ωを導出する。ここで図4を用いて、n速での回転角速度ωを(n+1)速に適用すれば、シフトアップ後の入力軸A2の回転角速度がωとなると推定される。その結果、I×(ω−ω)/2(I:入力軸A2の慣性モーメント)なる公知の式に2つの回転角速度ω,ωをの値をそれぞれ導入することによって、回転エネルギー変化量ΔEを演算にて導出することができる。この回転エネルギー変化量ΔEは、出力軸A3の出力トルクについてn速から(n+1)速へのシフトアップ後に生じるトルク振動曲線の初期振幅A、即ちトルク振動曲線の第1回目の振幅に比例することが知られている。従って、上述のようにして導出した回転エネルギー変化量ΔEを用いた演算(典型的には、予め記憶された比例係数を掛ける処理)によって、トルク振動曲線の初期振幅Aを推定することができる。一方で、この初期振幅Aを出力軸A3のトルク振動特性(周波数、周期、減衰率)に組み合わせることによって、シフトアップ時に実際に発生するであろう出力軸A3のトルク振動特性(即ち、トルク振動曲線)を推定することができる。
【0026】
第2ステップでは、第1ステップで推定されたトルク振動特性(トルク振動曲線)に対して、当該トルク振動曲線と振幅及び周波数が同一であり且つ当該トルク振動曲線の位相とは逆位相となる振動特性を実現するようなクラッチトルク、即ち出力軸A3のトルク振動を打ち消すようなクラッチトルクをクラッチトルクの目標値として演算する。第3ステップでは、第2ステップで演算した目標値をクラッチストロークStに変換してクラッチC/Tを制御する。これにより、出力軸A3の捩じれ振動をクラッチトルクによって打ち消すことができ、シフトアップ時の変速ショックを緩和することができる。
【0027】
ここで、図5及び図6を参照しつつ、変速機T/Mの変速段のシフトアップ時に実行する上記クラッチトルク制御についてより具体的に説明する。
【0028】
図5に示される比較例のクラッチトルク制御は、本実施形態のクラッチトルク制御のベースの制御となるものである。この比較例では、時刻t1において変速機T/Mの変速段をn速から(n+1)速へと変更するシフトアップ要求があった場合、変速機アクチュエータACT2の制御によって変速機T/Mの変速段がn速から(n+1)速へと変更される。また、エンジンE/Gの駆動出力軸A1の回転数Neと変速機T/Mの入力軸A2の回転数Niとの回転速度差ΔN(=Ne−Ni)に基づいて、クラッチトルクTcの目標値が逐次決定され、このクラッチトルクTcの目標値と、図2に記載の、予め作製されたマップ(クラッチC/Tについての「ストローク−トルク特性」を規定するマップ)と、に基づいて、クラッチストロークStの目標値(目標位置)が逐次決定されていく。換言すれば、回転速度差ΔNに基づいてクラッチストロークStの目標値が逐次決定されていく。そして、クラッチアクチュエータACT1の制御によって、クラッチストロークセンサS6から得られるクラッチストロークStの実際値(実際位置)が前記目標値に一致するように逐次調整される。これによって、クラッチC/Tが半接合状態に調整される。なお、回転速度差ΔNは、2つの回転数センサS4,S5の双方の検出結果に基づいて常時に或いは一定時間毎に算出され得る。
【0029】
この場合、回転速度差ΔNが予め設定された閾値ΔN1に達するまで、クラッチC/Tが半接合状態であり、且つクラッチストロークStの位置が反接合側に向けて徐々に移動するように調整される。これにより、図5中のトルク制御線C1にしたがってクラッチトルクTcが制御される。この場合、クラッチトルクTcは、時刻t1での最大トルクTmaxから徐々に低下し、時刻t2にて駆動トルクTe(トルク値a2)と一致し、時刻t2以降は駆動トルクTeを下回る。その後、時刻t3にて回転速度差ΔNが閾値ΔN1に達したことが検出されると、クラッチトルクTcは、時刻t5まで一定値(トルク値a1)に維持された後、最大トルクTmaxに復帰するまで段階的にトルク上昇するように調整される。
【0030】
このようなトルク制御線C1によるクラッチトルク制御では、クラッチC/Tを半接合状態に調整したとしても、変速機T/Mの変速段をn速から(n+1)速へとシフトアップ際に生じる変速ショックを緩和するのには限界がある。即ち、クラッチC/Tを半接合状態に調整することによって出力軸A3の出力トルクToが上下に変動して、例えば図5中のトルク振動曲線(実線で示される曲線)D1が形成され得る。このトルク振動曲線D1によれば、出力軸A3の出力トルクToが、例えば、時刻t4で時刻t3以前のトルク値b4を上回るトルク値(極大値)b5まで上昇した後、時刻t6でトルク値b5を下回るトルク値(極小値)b1まで下降し、更に時刻t7でトルク値b1を下回るトルク値(極大値)b3(b1<b3<b5)まで上昇した後、時刻t8でトルク値b3を下回るトルク値(極小値)b2(b1<b2<b3)まで下降する。このトルク振動曲線D1は、出力軸A3の理想的なトルク変動を示すトルク理想線D2に対して上下に大きく振動したものとなる。
【0031】
そこで、本実施形態のクラッチトルク制御では、前述の第1ステップにおいて、出力軸A3の出力トルクToのトルク振動曲線D1を予め推定することを特徴の1つとしている。具体的に説明すると、電子制御ユニットECUは、変速機T/Mがn速から(n+1)速へとシフトアップする際、クラッチアクチュエータACT1の制御によってクラッチC/Tが滑りを伴う半接合状態となるようにクラッチストロークStを調整するとともに、変速機T/Mの出力軸A3の出力トルクについて(n+1)速へのシフトアップ後に生じるトルク振動曲線D1を推定する。この推定に際して、電子制御ユニットECUは、前述のように、変速機T/Mの入力軸A2の回転数に基づいてn速から(n+1)速へのシフトアップにおける回転エネルギー変化量ΔE及び初期振幅Aを推定する。また、電子制御ユニットECUは、導出した初期振幅Aとトルク振動テストデータ(周波数、周期、減衰率)Bとを組み合わせる。この場合、変速段毎の出力軸A3のトルク振動テストデータBを、予め実施のテストによって準備する。n速から(n+1)速にシフトアップする場合、(n+1)速に対応するトルク振動テストデータBに対して、推定した初期振幅Aを組み合わせる。その結果、n速から(n+1)速へのシフトアップ時に生じると予測される、図5に示されるようなトルク振動曲線D1を推定できる。この場合、変速機T/Mの出力軸A3の出力トルクのシフトアップ後のトルク振動曲線D1を、回転エネルギー変化量ΔE及び初期振幅Aを用いて容易に推定することができる。
【0032】
次に、前述の第2ステップ及び第3ステップにおいて、電子制御ユニットECUは、推定したトルク振動曲線D1をトルク理想線D2に近づけるようにクラッチストロークStを制御してクラッチC/TのクラッチトルクTcを調整する。即ち、図6が参照されるように、二点鎖線で示されるトルク制御線C1に代えて、実線で示されるトルク制御線C2を採用し、このトルク制御線C2にしたがってクラッチトルクTcが振動するようにクラッチストロークStを調整するようなクラッチトルク制御を行う。トルク制御線C2は、トルク制御線C1を挟んで上下に振動する振動曲線である。この場合、電子制御ユニットECUは、推定したトルク振動曲線D1と振幅及び周波数が同一であり且つ当該トルク振動曲線D1の位相とは逆位相の逆位相振動曲線をトルク制御線C2として導出する。このトルク制御線C2によれば、推定したトルク振動曲線D1の位相とは逆位相でクラッチトルクTcが振動し、トルク振動曲線D1が極大値を示すタイミングでクラッチトルクTcが極小値を示し、且つトルク振動曲線D1が極小値を示すタイミングでクラッチトルクTcが極大値を示す。具体的に説明すると、クラッチトルクTcは、トルク振動曲線D1が極大値(トルク値b5)を示す時刻t4においてトルク値(極小値)a0を示し、トルク振動曲線D1が極小値(トルク値b1)を示す時刻t6においてトルク値(極大値)a4を示し、トルク振動曲線D1が極大値(トルク値b3)を示す時刻t7においてトルク値(極小値)a3(a0<a3<a4)を示し、トルク振動曲線D1が極小値(トルク値b2)を示す時刻t8においてトルク値(極大値)a5を示す。尚、時刻t8以降は、クラッチトルクTcが最大トルクTmaxに収束するように制御される。
【0033】
上記のトルク制御線C2を用いることによって、出力軸A3の実際の出力トルクToは、例えばトルク振動曲線D3で示されるように制御される。このトルク振動曲線D3は、トルク理想線D2に近い形状のトルクカーブを示すものである。この場合、トルク振動曲線D1に対する逆位相振動曲線であるトルク制御線C2にしたがってクラッチトルクTcを振動させるようにクラッチストロークStを調整することによって、変速機T/Mのn速から(n+1)速へのシフトアップ時における出力軸A3の捩じれ振動をこのクラッチトルクTcによって確実に打ち消すことができ、シフトアップ時の変速ショックを緩和することができる。また、このトルク制御線C2を用いることによって、入力軸A2の回転数Niは、波状に変動しつつ上昇する変動状態(二点鎖線で示される状態)から直線的に上昇する変動抑制状態(実線で示される状態)へと切り替わる。その結果、車体が前後に揺れるような異常振動によってドライバーに違和感や不安感を与えるのを防止できる。この場合、変速ショックを吸収するためのダンパー等の別部材を追加する必要がないため、製品のコストアップが防止される。
【0034】
本発明は、上記の典型的な実施形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。例えば、上記実施の形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0035】
上記の実施形態では、トルク制御線C2がトルク振動曲線D1と振幅及び周波数が同一であり且つ当該トルク振動曲線D1の位相とは逆位相である場合について記載したが、本発明では、シフトアップ後の出力軸A3の捩じれ振動を抑える効果があれば、トルク制御線C2の振幅や周波数はトルク振動曲線D1の振幅や周波数と必ずしも同一でなくてもよい。
【0036】
上記の実施形態では、変速機T/Mの出力軸A3の出力トルクのシフトアップ後のトルク振動曲線D1を回転エネルギー変化量ΔE及び初期振幅Aを用いて推定する場合について記載したが、本発明では必要に応じて、回転エネルギー変化量ΔE及び初期振幅Aとは別のパラメータを用いてトルク振動曲線D1を推定してもよい。
【0037】
上記の実施形態では、1本の入力軸を備えた変速機と、その1本の入力軸に接続された1つのクラッチと、を含む動力伝達制御装置について記載したが、本発明では、2本の入力軸を備えた変速機と、それら2本の入力軸のそれぞれと接続された2つのクラッチと、を含む動力伝達制御装置を採用することもできる。この装置は、ダブル・クラッチ・トランスミッション(DCT)とも呼ばれる。
【符号の説明】
【0038】
T/M…変速機、C/T…クラッチ、D/W…駆動輪、E/G…エンジン、A1…駆動出力軸、A2…入力軸、A3…出力軸、ACT1…クラッチアクチュエータ、ACT2…変速機アクチュエータ、AP…アクセルペダル、BP…ブレーキペダル、SF…シフトレバー、ECU…電子制御ユニット、S1…アクセル開度センサ、S2…シフト位置センサ、S3…ブレーキセンサ、S4…回転数センサ、S5…回転数センサ、S6…クラッチストロークセンサ、S7…車輪速センサ、10…車両、100…(車両用)動力伝達制御装置、A…初期振幅、B…トルク振動テストデータ、C1,C2…トルク制御線、D1,D3…トルク振動曲線、D2…トルク理想線
図1
図2
図3
図4
図5
図6