(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記カッタディスクの前面には、上記カッタディスクと上記偏心軸の中心との間に位置する複数の第2のカッタビットが配置されていることを特徴とする請求項1に記載の掘削機。
上記筒外殻の内部には、複数組の上記回転体、上記偏心軸および上記複数のカッタビットが配列された上記カッタディスクが配設されていることを特徴とする請求項1または2に記載の掘削機。
【背景技術】
【0002】
一般に、地中に横孔を掘削する掘削機としては、円筒状の外殻の先端部に円盤状のカッタディスクを回転自在に設け、このカッタディスクの前面に取り付けた複数のカッタビットによって地中を断面円形状に掘削するものが広く用いられている。
【0003】
ところが、近年においては、新たな横孔を構築しようとするに際して、上記横孔の周囲に錯綜する既設の地下構造部の存在や、当該横孔自体の用途によって、方形断面の横孔を掘削する必要が生じている。このような場合に、断面円形状の横孔を掘削する従来の掘削機によって方形断面の横孔を掘削するには、未掘削となる四隅の掘削を他の掘削機構を用いて補う必要があった。
【0004】
そこで、例えば下記特許文献1においては、断面略正方形状のスキンプレートの中心に円形の回転隔壁を回転自在に設け、この回転隔壁の中心に対して偏心した位置に回転軸を回転自在に支持するとともに、この回転軸の先端に略正三角形を構成するカッタヘッドを固定し、上記回転軸の他端に固定した外歯ギヤをスキンプレートの内周にその中心と一致するように固定した内歯ギヤに螺合させて駆動装置によって上記回転軸をスキンプレートの中心に対して公転させる駆動装置を備え、外歯ギヤと内歯ギヤとの歯数を3対4にした矩形シールド掘削機が提案されている。
【0005】
上記掘削機は、一般にルーロの三角形と呼ばれる定理を応用したもので、カッタヘッドの略正三角形を構成する掘削部が遊星運動し、この略正三角形の掘削部の軌道が略正方形になるために、スキンプレートが略正方形断面を有することと相俟って、断面略正方形の横孔を掘削することができるという効果を奏する。
【0006】
また、下記特許文献2においても、外歯ギヤと内歯ギヤとの歯数を1対4にすることにより、略正方形の断面の横孔を掘削し得る地中掘削機が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの掘削機は、何れも断面略正方形の横孔を掘削するものであるために、断面が矩形(長方形)の横孔を掘削する場合には、上述した円形断面に掘削する掘削機の場合と同様に、正方形に掘削した残りの未掘削部分を他の掘削機構で補う必要があるという問題点があった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、様々な縦横比の矩形断面の孔を掘削することが可能になる掘削機を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、地中に矩形断面の孔を掘削する掘削機であって、上記矩形断面内に納まる略長方形の断面を有する筒外殻と、この筒外殻の内周面に固定されるとともに円形の開口部が穿設された隔壁と、この隔壁の上記開口部内に回転自在に配置された回転体と、この回転体を回転させる駆動装置と、上記回転体の軸線に対して偏心した位置に上記軸線と平行な軸線廻りに回転自在に支持された偏心軸と、この偏心軸の上記筒外殻から突出する先端部に固定されたカッタディスクと、このカッタディスクの前面の外周に配列された複数のカッタビットと、上記筒外殻の内周面に固定された内歯ギヤと、上記偏心軸の外周面に固定されて上記内歯ギヤと螺合する外歯ギヤとを備えてなり、外歯ギヤと内歯ギヤの歯数が1対2に設定されるとともに、上記複数のカッタビットは
、上記偏心軸が自転しつつ上記回転体の上記軸線廻りに1回転した際に形成される
各々の楕円軌道が上記矩形
断面の外形線と
内接する位置に配置されて
おり、上記複数のカッタビットは、一のカッタビットと、この一のカッタビットとは異なる位置に配置された他のカッタビットとを備えており、上記一のカッタビットにより形成される第1の前記楕円軌道は、上記外形線における第1の隅部と、この第1の隅部と対角の位置にある第2の隅部との両方において、上記外形線を構成しかつ隣接する二辺に接しており、上記他のカッタビットにより形成される第2の前記楕円軌道は、上記外形線における第3の隅部と、この第3の隅部と対角の位置にある第4の隅部との両方において、上記外形線を構成しかつ隣接する二辺に接していることを特徴とするものである。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記カッタディスクの前面には、上記カッタディスクと上記偏心軸の中心との間に位置する複数の第2のカッタビットが配置されていることを特徴とするものである。
【0012】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、上記筒外殻の内部には、複数組の上記回転体、上記偏心軸および上記複数のカッタビットが配列された上記カッタディスクが配設されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜3のいずれかに記載の発明によれば、偏心軸の外周面に固定された外歯ギヤと、筒外殻の内周面に固定されて上記外歯ギヤが螺合する内歯ギヤの歯数を1対2に設定しているために、回転体を回転させて偏心軸を自転させつつ回転体の軸線廻りに公転させた際に、カッタディスクの外周の任意の1点に楕円軌道を描かせることができる。
【0014】
この結果、上記カッタディスクに複数のカッタビットを、各々の楕円軌道が掘削すべき孔における矩形断面の外形線と接する位置に配置することにより、上記矩形断面の孔を掘削することができる。
【0015】
しかも、回転体の軸線に対する偏心軸の軸線の偏心量や、当該偏心軸の軸線と複数のカッタビットとの距離を適宜設定することにより、様々な縦横比の矩形断面の孔を掘削することが可能になる。
【0016】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、1つの筒外殻内に複数の回転体およびカッタディスクが固定された偏心軸を組み込むことにより、複数の矩形断面を組み合わせて、より広い形状の矩形断面の掘削を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1および
図2は、本発明に係る掘削機の一実施形態を示すもので、図中符号1が筒外殻である。
この筒外殻1は、掘削する横孔の矩形断面よりも僅かに小さい略長方形の断面に形成されたもので、内部には長手方向に間隔をおいて前方側から後方側に順次第1〜第3の隔壁2a、2b、2cが設けられている。
【0019】
これら第1〜第3の隔壁2a、2b、2cの中心には、それぞれ内径が異なる開口部3a、3b、3cが同軸的に穿設されており、開口部3a、3b内に回転体4が配置されている。
そして、この回転体4は、後端部が第3の隔壁2cに固定されたベアリング5によって回転自在に支承されるとともに、拡径された先端部の外周が第1の隔壁2aの開口部3aの内周に取り付けられたシールケース6に回転自在に収納されている。また、先端部の外周と第2の隔壁2bとの間には、スラストベアリング7が介装されている。
【0020】
さらに、第3の隔壁2cの後面には、回転体4を回転駆動するためのモータ8aおよび減速機構8bからなる駆動装置8が固定され、その出力軸と回転体4とが伝達軸8cを介して連結されている。
【0021】
さらに、回転体4には、その軸線に対して偏心した位置に、偏心軸10がその軸線を回転体4の軸線と平行にしてベアリング9を介して回転自在に設けられている。そして、この偏心軸10の筒外殻1の先端開口から突出する先端部10aに、カッタディスク11が固定されている。
【0022】
このカッタディスク11は、環状の外周部11aと、この外周部11aと上記先端部10aとを連結する5本のアーム部11bとからなる板状の部材で、その外周部11aの前面側に、複数(図では18個)のカッタビット12が周方向に間隔をおいて配列されている。また、アーム部11bの前面側にも、複数(図では合計7個)の第2のカッタビット13が配列されている。さらに、先端部10aの前面には、カッタヘッド16が設けられている。
【0023】
他方、筒外殻1の内周面であって偏心軸10の後端部に臨む位置には、内歯ギヤ14が固定されている。そして、偏心軸10の外周面には、上記内歯ギヤ14と螺合する外歯ギヤ15が固定されている。ここで、外歯ギヤ15と内歯ギヤ14の歯数は、1対2に設定されている。
【0024】
これにより、モータ8によって回転体4を回転駆動すると、偏心軸10も回転体4と一体的に回転体4の軸線廻りに公転するとともに、これに伴って筒外殻1の内歯ギヤ14と螺合する外歯ギヤ15により当該偏心軸10の軸線廻りに自転するようになっている。この際に、この掘削機においては、外歯ギヤ15と内歯ギヤ14の歯数が1対2に設定されている結果、
図3に示すように、カッタディスク11の外周の任意の点が、上記回転に伴って楕円軌道を描くようになっている。
【0025】
以下、上記任意の点が楕円軌道を描く原理について詳述する。
先ず、
図4(a)、(b)に示すように、回転体4の中心(軸線)C
1に対する偏心軸10の中心(軸線)C
2の偏心量をe、回転体4の角速度をω、偏心軸10の角速度をω´、偏心軸10の中心を通って筒外殻1の長辺と直交する直線をx軸、これと直交する直線をy軸とする。
【0026】
そして、偏心軸10の中心C
2とカッタディスク11の外端の任意の点Pを結ぶ直線とx軸のなす角を初期位相φ、カッタディスク11の位相φに於ける偏心軸10の中心C
2から上記点Pまでの距離をr、偏心軸10の回転開始時点からの経過時間をtとする。
【0027】
ここで、外歯ギヤ15と内歯ギヤ14の歯数が1対2であることから、ω=−ω´となる。
【0028】
P点における軌道を求めるために、x軸およびy軸をφ/2回転させたx´軸とy´軸とすると、座標変換後のP点の座標(x´、y´)は、元の座標(x、y)を用いて下式(1)、(2)で表すことができる。
x´ =x・cosφ/2+y・sinφ/2 ・・・・・・・・・・(1)
y´ =y・cosφ/2−x・sinφ/2 ・・・・・・・・・・(2)
【0029】
一方、P点を元の座標(x、y)で表すと下式(3)、(4)になる。
x =e・cosωt+r・cos(−ωt+φ) ・・・・・・・・(3)
y =e・sinωt+r・sin(−ωt+φ) ・・・・・・・・(4)
そこで、(1)、(2)式に(3)、(4)式を代入してx、yを消去すると、
x´ =e・cosωt・cosφ/2+r・cos(−ωt+φ)・cosφ/2
+e・sinωt・sinφ/2+r・sin(−ωt+φ)・sinφ/2
=e・(cosωt・cosφ/2+sinωt・sinφ/2)
+r・(cos(ωt−φ)・cosφ/2−sin(ωt−φ)・sinφ/2)
=e・cos(ωt−φ/2)+r・cos(ωt−φ/2)
=(e+r)・cos(ωt−φ/2) ・・・・・・・・・・・・・(5)
【0030】
y´ =e・sinωt・cosφ/2+r・sin(−ωt+φ)・cosφ/2
−e・cosωt・sinφ/2−r・cos(−ωt+φ)・sinφ/2
=e・(sinωt・cosφ/2−cosωt・sinφ/2)
−r・(sin(ωt−φ)・cosφ/2+cos(ωt−φ)・sinφ/2)
=e・sin(ωt−φ/2)−r・sin(ωt−φ/2)
=(e−r)・sin(ωt−φ/2) ・・・・・・・・・・・・・(6)
【0031】
上記(5)、(6)式より、次式が成り立ち、よってP点の軌道は楕円になる。
x´
2/(e+r)
2+y´
2/(e−r)
2=1 ・・・・・・・・・(7)
【0032】
そして、カッタディスク11上のカッタビット12は、それぞれ偏心軸10の中心C
2までの距離rが、偏心軸10廻りに自転しつつ回転体4の軸線廻りに1回転した際に形成される各々の上記楕円軌道が、掘削する横孔の矩形断面の外形線に内接する位置に配置されている。
【0033】
より具体的には、各々のカッタビット12における距離rは、当該カッタビット12を一回転させてできる楕円曲線の極値、すなわちdy/dx=0、またはdx/dy=0となる点が上記矩形断面の外形線に重なるように決定されている。
【0034】
これらを計算結果で示せば、矩形掘削断面の短辺の長さ寸法を2a、長辺の長さ寸法を2bとし、
(a
2−e
2・sin
2φ)
1/2−(b
2−e
2・sin
2φ)
1/2=2e・cosφ
を満足するφをφ
m としたときに、上記距離rは、
0≦φ<φ
m、2π−φ
m≦φ<2πのとき、
r=(a
2−e
2・sin
2φ)
1/2−e・cosφ
φ
m≦φ<2π−φ
mのとき、
r=(b
2−e
2・sin
2φ)
1/2+e・cosφ
になるように決定されている。
【0035】
以上の構成からなる掘削機によれば、偏心軸10の外周面に固定された外歯ギヤ15と、筒外殻1の内周面に固定されて外歯ギヤ15が螺合する内歯ギヤ14の歯数を1対2に設定しているために、駆動装置8によって回転体4を回転させて偏心軸10を自転させつつ回転体4の軸線廻りに公転させた際に、カッタディスク11の外周に設けた複数のカッタビット12に楕円軌道を描かせることができる。
【0036】
そして、カッタディスク11に設けた複数(本実施形態においては18個)のカッタビット12を、各々の楕円軌道が掘削すべき孔における矩形断面の外形線と接する位置に配置しているために、
図5に示すように、これらカッタビット12が描く軌道の合成によって上記矩形断面の孔を掘削することができる。加えて、アーム部11bの前面側に配列したカッタビット13によって、未掘削箇所を減じて円滑な掘削を実現することができる。
【0037】
また、上記掘削機によれば、上記(7)式に見られるように、回転体4の軸線C
1に対する偏心軸10の軸線C
2の偏心量eや、偏心軸10の軸線C
2と各々のカッタビット12との距離rを適宜設定することにより、様々な縦横比の矩形断面の孔を掘削することが可能になる。
【0038】
なお、上記実施形態においては、筒外殻1の内部に、1組の回転体4および先端にカッタビット12、13が配列されたカッタディスク11が固定された偏心軸10を設けた場合についてのみ説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0039】
すなわち、
図6および
図7は、本発明の掘削機の他の実施形態を示すものである。なお、以下、
図1および
図2に示したものと同一構成部分については同一符号を付してその説明を簡略化する。
【0040】
この掘削機においては、筒外殻1内の第1〜第3の隔壁2a、2b、2cに、それぞれ筒外殻1の長手方向に間隔をおいて2つの開口部3a、3b、3cが穿設されており、各々の開口部3a、3b内に回転体4が配置されて、ベアリング5、シールケース6およびスラストベアリング7により回転自在に支持されている。
【0041】
他方、第3の隔壁2cの後面には、各々の回転体4を回転駆動するために2組のモータ8aおよび減速機構8bからなる駆動装置8が固定され、各出力軸と回転体4とが伝達軸8aを介して連結されている。
【0042】
そして、各々の回転体4に、その軸線に対して偏心した位置に、偏心軸10がその軸線を回転体4の軸線と平行にしてベアリング9を介して回転自在に設けられ、各偏心軸10の筒外殻から突出する先端部10aに、カッタディスク11が固定されるとともに、当該カッタディスク11の外周部11aの前面側に、複数(図では18個)のカッタビット12が周方向に間隔をおいて配列され、アーム部11bの前面側に、複数(図では合計7個)の第2のカッタビット13が配列されている。
【0043】
また、筒外殻1の内周面であって各々の偏心軸10の後端部に臨む位置には、内歯ギヤ14が固定され、各偏心軸10の外周面には、上記内歯ギヤ14と螺合する外歯ギヤ15が固定されており、本実施形態においても、外歯ギヤ15と内歯ギヤ14の歯数は、1対2に設定されている。
【0044】
そして、2組のカッタディスク11上のカッタビット12は、それぞれ偏心軸10の中心C
2までの距離rが、偏心軸10廻りに自転しつつ回転体4の軸線廻りに1回転した際に形成される各々の上記楕円軌道が掘削する横孔の矩形断面の外形線に内接する位置に配置されている。
【0045】
上記構成からなる掘削機によれば、各々のカッタディスク11のカッタビット12によって矩形断面の孔を掘削することができるために、これら2組のカッタビット12が掘削する矩形断面を組み合わせることにより、より広い形状の矩形断面の掘削を行うことが可能になる。