(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般式(1)で表される化合物(以下式(1)化合物)またはその塩、及び酸性物質を含有する錠剤において錠剤表面に斑点が生じるのを抑制可能な技術を提供する。
【0010】
【化2】
【0011】
式中、R
1はハロゲン原子、アミノ基、またはシアノ基で1または2以上置換されていてもよい炭素数1から3のアルキル基を示し、R
2は炭素数1から3のアルキル基、水素原子、ハロゲン原子、水酸基またはアミノ基を示し、R
3は水素原子またはハロゲン原子を示し、R
4は水素原子またはフッ素原子を示し、Xはハロゲン原子を示す。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、式(1)化合物またはその塩を含む錠剤などの固形医薬組成物について研究を行ったところ、例えば圧縮成形などの加圧工程を経ることによって式(1)化合物が分解され、シクロプロピル基が脱離した、以下の式(2)で表される化合物が生じることが判明した。研究の結果、本発明者らはpHが4.0以下である酸性物質を固形医薬組成物中に含有させることにより、式(1)化合物またはその塩の分解を抑制できることを見出した。
【0013】
【化3】
【0014】
式(2)中、R
1、R
2、R
3及びXは、上記定義と同じである。
【0015】
一方で、固形医薬組成物の剤形がフィルムコーティング錠剤等である場合に、上述のpHが4.0以下の酸性物質のような酸性物質が錠剤の素錠中に含有されると、コーティング溶液由来の水分により素錠表面付近に存在する酸性物質が溶解することがある。そして、このように素錠表面付近の酸性物質が溶解すると、錠剤表面において斑点(凹凸)が生じてしまう場合がある。当該斑点は見た目が悪く、患者の服用コンプライアンスを低下させる恐れがあるため好ましくない。
本発明者らは、式(1)化合物またはその塩、及び酸性物質を含有する素錠に対するコーティングにおいて所定の粘度の高分子化合物を含有するコーティング剤を用いることにより錠剤表面に斑点が生じるのを抑制可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
本発明の要旨は以下の通りである。
〔1〕一般式(1):
【化4】
(式中、R
1はハロゲン原子、アミノ基、またはシアノ基で1または2以上置換されていてもよい炭素数1から3のアルキル基を示し、R
2は炭素数1から3のアルキル基、水素原子、ハロゲン原子、水酸基またはアミノ基を示し、R
3は水素原子またはハロゲン原子を示し、R
4は水素原子またはフッ素原子を示し、Xはハロゲン原子を示す)で表される化合物またはその塩、及び酸性物質を含有する素錠と、前記素錠を被覆する、20%w/w溶液の23℃における粘度が1000mPa・s以下の高分子化合物を含有するコーティング剤とを備える錠剤。
〔2〕前記高分子化合物の20%w/w溶液の23℃における粘度が500mPa・s以下である、〔1〕に記載の錠剤。
〔3〕前記高分子化合物の20%w/w溶液の23℃における粘度が300mPa・s以下である、〔1〕に記載の錠剤。
〔4〕前記高分子化合物として、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマーを前記コーティング剤中に含有する〔1〕に記載の錠剤。
〔5〕前記高分子化合物として、コリコートIR(商品名)を前記コーティング剤中に含有する〔1〕に記載の錠剤。
〔6〕前記素錠中にセルロース系賦形剤をさらに含有する〔1〕乃至〔5〕に記載の錠剤。
〔10〕前記セルロース系賦形剤として、結晶セルロースを含有する〔6〕に記載の錠剤。
〔11〕前記一般式(1)で表される化合物またはその塩として、前記一般式(1)で表される化合物の塩酸塩を含有する〔1〕乃至〔10〕のいずれか1項に記載の錠剤。
〔12〕前記素錠が、前記一般式(1)で表される化合物またはその塩及び酸性物質を含有する混合物を乾式造粒法により造粒し、得られた造粒物を打錠することを含む方法により作成されている、〔1〕乃至〔11〕のいずれか1項に記載の錠剤。
〔13〕前記高分子化合物の20%w/w溶液の23℃における粘度が50mPa・s以上である、〔1〕に記載の錠剤。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、式(1)化合物またはその塩、及び酸性物質を含有する錠剤において錠剤表面に斑点が生じるのを抑制可能な技術を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態の1つについて詳細に説明する。
本実施形態は、式(1)化合物またはその塩及び酸性物質を含有する素錠と、当該素錠を被覆する、20%w/w溶液の23℃における粘度が1000mPa・s以下の高分子化合物を含むコーティング剤とを備える錠剤に関する。
【0021】
式(1)中、R
1は炭素数1から3のアルキル基を示し、R
2は炭素数1から3のアルキル基、水素原子、ハロゲン原子、水酸基またはアミノ基を示し、R
3は水素原子またはハロゲン原子を示し、R
4は水素原子またはフッ素原子を示し、Xはハロゲン原子を示す。R
1として表される炭素数1から3のアルキル基は、ハロゲン原子、アミノ基またはシアノ基により1または2以上置換されていてもよい。
本明細書中に記載されている「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を示す。一般式(1)において、ハロゲン原子は、フッ素原子が好ましい。本明細書中に記載されている「炭素数1から3のアルキル基」とは、メチル基、エチル基、プロピル基または2−プロピル基を示す。
【0022】
まず、式(1)化合物またはその塩を含有する素錠について説明する。
本実施形態に係る素錠に含有される式(1)化合物またはその塩は、例えば国際公開第2005/026147号パンフレットに記載の方法により製造することができる。本実施形態に係る素錠に含有され得る式(1)化合物として、7−[3−{(シクロプロピルアミノ)メチル}−4−フルオロピロリジン−1−イル]−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸が好ましく、さらに好ましくは7−[(3S,4S)−3−{(シクロプロピルアミノ)メチル}−4−フルオロピロリジン−1−イル]−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸である。
【0023】
本実施形態の錠剤においては、水への溶解度の向上という点で、式(1)化合物の塩が含有されることが好ましい。
本実施形態の錠剤において含有され得る式(1)化合物の塩としては薬理学的に許容される塩である限り、特に限定されない。式(1)化合物の塩として、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸等の無機酸との塩、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、リンゴ酸、マロン酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、乳酸、シュウ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、酒石酸等の有機酸との塩、またはナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、セシウム、クロム、コバルト、銅、鉄、亜鉛、白金、銀等の金属との塩が挙げられる。このうち、安定性の観点から特に好ましくは塩酸塩が挙げられる。式(1)化合物の塩酸塩は、遊離型の式(1)化合物や他の式(1)化合物の塩と比較して光照射による当該化合物の分解が進みにくく、加速試験条件下保存した場合にも化学的な分解が少ない点で、優れている。本実施形態の錠剤において含有され得る式(1)化合物の塩として、より好ましくは7−[3−{(シクロプロピルアミノ)メチル}−4−フルオロピロリジン−1−イル]−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩であり、さらにより好ましくは7−[(3S,4S)−3−{(シクロプロピルアミノ)メチル}−4−フルオロピロリジン−1−イル]−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩である。
【0024】
式(1)化合物またはその塩の好ましい含有量としては、素錠の全体質量中10質量%以上70質量%以下が挙げられる。さらに好ましくは20質量%以上60質量%以下、特に好ましくは30質量%以上50質量%以下、より一層好ましくは35質量%以上45質量%以下、例えば43質量%が挙げられる。
本明細書中に記載されている「素錠」とは、原料を打錠したものであり、コーティングを施す前の錠剤を意味する。
【0025】
本実施形態に係る素錠においては、式(1)化合物またはその塩とともに酸性物質が含有される。
本明細書中に記載されている「酸性物質」とは、水に溶解した際に、水素イオンを発生させる物質であり、例えば多価カルボン酸などが挙げられる。
本実施形態において素錠に含有される酸性物質としては、例えば式(1)化合物の分解を抑制可能であるpH4.0以下である酸性物質が挙げられる。例えば、素錠中に含有される酸性物質として、グルタミン酸塩酸塩等のアミノ多価カルボン酸の無機酸塩、酒石酸、クエン酸若しくはリンゴ酸等のヒドロキシ多価カルボン酸、アジピン酸若しくはコハク酸等の飽和多価カルボン酸、フマル酸等の不飽和多価カルボン酸、グルタミン酸若しくはアスパラギン酸等のアミノ多価カルボン酸、アルギン酸等の酸性多糖類、クエン酸二水素ナトリウム等の、ヒドロキシ多価カルボン酸のアルカリ金属塩またはメタクリル酸コポリマーL等の高分子多価カルボン酸が挙げられる。本実施形態に係る素錠においては、例えばこれら酸性物質のうち1種または2種以上が素錠中に含有される。
【0026】
特にpH2.2未満の酸性物質が素錠中に含有される場合には、錠剤表面の斑点が顕著に出現することが多いため、本実施形態に係る技術を用いることが好適である。pH2.2未満の酸の例として、グルタミン酸塩酸塩、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸が挙げられる。そのうち特に酒石酸が素錠中に含有される際に本実施形態に係る技術が好適に用いられる。
【0027】
本明細書中に記載されている「pH」とは、対象物質を50mg秤量し、水1950μLに溶解又は懸濁させた液(2.5%濃度)のpHをpHメーターで測定した値である。
【0028】
また別に、20℃における水への溶解度が30%より大きい酸性物質が含有される場合にも、錠剤表面の斑点が顕著に出現しやすくなる。そのため、この場合にも本実施形態に係る技術を用いることが好適である。20℃における水への溶解度が30%より大きい酸性物質、例えば、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸のうち1種または2種以上が素錠中に含有される場合、本実施形態に係る技術を用いることが好適である。
【0029】
本明細書において、「水への溶解度」とは、水100gに対し溶質が溶解する質量(g)に基づき、以下の式(A)を用いた計算によって得られる値をいう。
【0030】
MW={w/(100+w)}×100 (A)
【0031】
式(A)中、MWは水への溶解度(%)を、wは水100gに対し溶質が溶解する質量(g)を示す。
【0032】
本実施形態の錠剤においては、例えば、pH4.0以下の酸性物質が、式(1)化合物またはその塩の分解抑制のためなどに含有される。その一方で、pH4.0以下の酸性物質の配合量が多すぎると錠剤表面の斑点が増加する傾向にあるので、適当な量が素錠中に含有されることが好ましい。pH4.0以下の酸性物質が配合される場合、pH4.0以下の酸性物質(2種類以上の酸性物質を使用している場合はその総量)は、式(1)化合物またはその塩に対し、0.02質量部以上0.50質量部以下の範囲で含有されることが好ましい。より好ましくは、pH4.0以下の酸性物質は、式(1)化合物またはその塩に対し、0.04質量部以上0.40質量部以下、さらに好ましくは0.05質量部以上0.30質量部以下の割合で素錠中に含有される。
【0033】
また、pH4.0以下の酸性物質の中でも、20℃における水への溶解度が30%より大きい酸性物質が素錠中に含有される場合、錠剤表面の斑点が顕著に出現しやすい。このことから、pH4.0以下であり、20℃における水への溶解度が30%より大きい酸性物質は、式(1)化合物またはその塩に対し、0.05質量部以上0.10質量部以下の割合で素錠中に含有されることが好ましい。この場合、20℃における水への溶解度が30%より大きい酸性物質の他に、20℃における水への溶解度が30%以下である酸性物質を使用してもよい。
【0034】
さらに、錠剤の表面に斑点が観察される現象を抑えるという点で、pH4.0以下の酸性物質の含有量(2種類以上の酸性物質を使用している場合はその総含有量)は、素錠の全体質量中5質量%以上20質量%以下、さらに好ましくは7質量%以上15質量%以下、特に好ましくは9質量%以上12質量%以下が挙げられる。
【0035】
本実施形態に係る素錠においては、式(1)化合物またはその塩及び酸性物質に加えて、素錠全体質量を100%とする量の他の成分が含有される。当該他の成分としては例えば賦形剤が挙げられ、本実施形態においては素錠中にセルロース系賦形剤が含有されることが好ましい。
本明細書中に記載されている「セルロース系賦形剤」とは、セルロースまたはその誘導体を構成成分とする賦形剤である。セルロース系賦形剤として、例えば結晶セルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどであり、錠剤に成形した際に高い硬度が出せるという点で、結晶セルロースが好ましい。セルロース系賦形剤の含有量としては、素錠の全体質量中10質量%以上70質量%以下が挙げられる。さらに好ましくは20質量%以上60質量%以下、特に好ましくは25質量%以上50質量%以下、より一層好ましくは30質量%以上40質量%以下、例えば37%が挙げられる。
本実施形態の素錠においては、このほか、上述の他の成分として、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動化剤、湿潤剤などが含有されるようにしてもよい。
【0036】
本実施形態の錠剤は、式(1)化合物またはその塩、及び酸性物質を含有する素錠を被覆する、コーティング剤を備える。ここで本実施形態において、当該コーティング剤は、コーティング基剤として、20%w/w溶液の23℃における粘度が1000mPa・s以下である高分子化合物(以下、単に低粘度高分子ともいう)を含有する。なお、本明細書において、高分子化合物とは、1種または2種以上の単量体による繰り返し構造を有する重合体をいう。また、本明細書において、粘度とは、EN ISO 2555に従って20%w/w溶液の粘性を23℃における剪断力100rpmで測定したときの値をいう。
本実施形態に係るコーティング剤に含有され得る低粘度高分子として、例えば、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー(PVA−PEGコポリマー)、ヒドロキシプロピルセルロース(グレード:SSL)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(グレード:E)、ポリビニルピロリドンK25(BASF社の商品名、コリドン25)、ポリビニルピロリドンK30(BASF社の商品名、コリドン30)、ポリビニルピロリドンK17(BASF社の商品名、コリドン17PF)、ポリビニルピロリドンK12(BASF社の商品名、コリドン12PF)、ポリビニルアルコール(KURARAY社の商品名、クラレポバール PVA−203、PVA−205)が挙げられる。本実施形態の錠剤においては例えばこれら高分子化合物のうち1種または2種以上がコーティング剤中に含有されるようにしてもよい。錠剤表面の斑点をより抑制するという観点で、本実施形態の錠剤に含有される低粘度高分子の20%w/w溶液の23℃における粘度は500mPa・s以下が好ましく、特に好ましくは300mPa・s以下、より一層好ましくは150mPa・s以下である。
なお、本実施形態において、低粘度高分子の粘度の下限値は特に限定されないが、2mPa・s以上であることが好ましい。より好ましくは6mPa・s以上、さらに好ましくは50mPa・s以上が挙げられる。よって、当該下限値も考慮すると、本実施形態に係るコーティング剤に含有され得る低粘度分子の20%w/w溶液の23℃における粘度は2mPa・s以上1000mPa・s以下が好ましく、より好ましくは6mPa・s以上500mPa・s以下、さらにより好ましくは50mPa・s以上300mPa・s以下、最も好ましくは50mPa・s以上150mPa・s以下である。
【0037】
本実施形態に係るコーティング剤中に含有され得る低粘度高分子として、PVA−PEGコポリマーが好ましい。この本実施形態に係るコーティング剤中に含有され得るPVA−PEGコポリマーとしては、その分子量が10,000乃至100,000程度のもの、特に30,000乃至70,000程度のものが好ましい。本実施形態に係るコーティング剤中に含有され得るPVA−PEGコポリマーとしてさらに好ましくは分子量40,000乃至50,000程度のものが挙げられる。
【0038】
また、本実施形態に係るコーティング剤中に含有され得るPVA−PEGコポリマーは、ポリエチレングリコール部分とポリビニルアルコール部分の質量比が、1:0.1乃至10のものが好ましい。本実施形態に係るコーティング剤中に含有され得るPVA−PEGコポリマーとして、さらに好ましくは、ポリエチレングリコール部分とポリビニルアルコール部分の質量比が1:1乃至5のもの、特に好ましくは1:2乃至4のものが挙げられる。
【0039】
このPVA−PEGコポリマーとしては、例えば、BASF社製からコリコートIR(商品名)が市販されている。本実施形態の錠剤においては当該コリコートIRがコーティング剤中に含有されるように構成することができるが、その他の製品がコーティング剤中に含有されるようにしてもよい。
【0040】
本実施形態の錠剤に係る低粘度高分子は、素錠に被覆されるにあたり、水等の分散液に溶解して用いられてもよいし、懸濁して用いられてもよいが、均一にコーティング剤を素錠に被覆するという点で、溶解して用いられることが好ましい。ここで、PVA−PEGコポリマー、ヒドロキシプロピルセルロース(グレード:SSL)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(グレード:E)、ポリビニルピロリドンK25(BASF社の商品名、コリドン25)、ポリビニルピロリドンK30(BASF社の商品名、コリドン30)、ポリビニルピロリドンK17(BASF社の商品名、コリドン17PF)、ポリビニルピロリドンK12(BASF社の商品名、コリドン12PF)及びポリビニルアルコール(KURARAY社の商品名、クラレポバール PVA−203、PVA−205)のうち1種または2種以上が本実施形態に係る低粘度高分子として用いられる場合を想定する。このとき、これら高分子化合物のうち1種または2種以上を水等の溶媒に溶解した溶液(コーティング溶液)は所定の質量パーセント濃度を有するように調製されて素錠の被覆に用いられることが好ましい。これによりコーティング工程時間を短縮することができる。具体的には、PVA−PEGコポリマー、ヒドロキシプロピルセルロース(グレード:SSL)ヒドロキシプロピルメチルセルロース(グレード:E)、ポリビニルピロリドンK25(BASF社の商品名、コリドン25)、ポリビニルピロリドンK30(BASF社の商品名、コリドン30)、ポリビニルピロリドンK17(BASF社の商品名、コリドン17PF)、ポリビニルピロリドンK12(BASF社の商品名、コリドン12PF)及びポリビニルアルコール(KURARAY社の商品名、クラレポバール PVA−203、PVA−205)からなる群から選ばれる1種または2種類以上の高分子化合物は、質量パーセント濃度が7%w/w以上、より好ましくは7%w/w以上20%w/w以下、特に好ましくは7%w/w以上15%w/w以下の濃度になるように、水等の溶媒に溶解して、使用することが好ましい。
質量パーセント濃度とは、以下の式(B)を用いた計算によって得られる値をいう。
【0041】
C={X/(Y+X)}×100 (B)
【0042】
式(B)中、Cは質量パーセント濃度(%w/w)を、Xはコーティング剤の質量(g)を、Yは水の質量(g)を示す。
【0043】
本実施形態においては、低粘度高分子のみによって素錠が被覆されるようにしてもよい。また、本実施形態においては、コーティング剤が、低粘度高分子に加えて他の化合物を含有する混合物(コーティング混合物)として構成され、当該コーティング混合物によって素錠が被覆されるようにすることもできる。コーティング混合物に含有され得る他の化合物としては、酸化チタン、コポリビドン、カオリン、ラウリル硫酸ナトリウム、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、ポリオキシエチレンモノオレートなどが挙げられ、例えばこれらのうち1種または2種以上が低粘度高分子とともにコーティング混合物に含まれるようにすることができる。
低粘度高分子および他の化合物を含むコーティング混合物により素錠が被覆される場合、低粘度高分子の割合は、例えば、コーティング混合物全体質量中30質量%以上、より好ましくは40質量%以上とすることができる。
【0044】
本実施形態の錠剤は、通常の方法に従って製造することができ、製造方法は当業者が適宜選択することができる。
ここで、本実施形態の錠剤が造粒される工程を経て製造される場合、当該造粒は乾式造粒法により行われることが好ましい。本明細書中に記載されている「乾式造粒法」とは、原料粉体を圧縮成形した後に適当な大きさの粒子に破砕分級する方法である。乾式造粒法によれば、水を使用せずに造粒が可能なため、水の影響による式(1)化合物またはその塩のゲル化を抑制することができる。
以下に本実施形態の固形医薬組成物を錠剤として製造する場合の製造方法の一例を示して、本実施形態の固形医薬組成物の内容を更に詳細に説明するが、これらにより本発明の範囲を限定するものではない。
【0045】
(一般的製造方法)
1. 以下に示すA及びB成分を混合する。なお、A、B成分に加えてC成分が混合されるようにしてもよい。混合により得られた粉末には、さらにステアリン酸、ステアリン酸塩(アルミニウム、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム等の金属塩)、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑沢剤を加えてもよい。
A成分:式(1)で表される化合物またはその塩
B成分:グルタミン酸塩酸塩等のアミノ多価カルボン酸の無機酸塩、酒石酸、クエン酸若しくはリンゴ酸等のヒドロキシ多価カルボン酸、アジピン酸若しくはコハク酸等の飽和多価カルボン酸、フマル酸等の不飽和多価カルボン酸、グルタミン酸若しくはアスパラギン酸等のアミノ多価カルボン酸、アルギン酸等の酸性多糖類、クエン酸二水素ナトリウム等のヒドロキシ多価カルボン酸のアルカリ金属塩及びメタクリル酸コポリマーL等の高分子多価カルボン酸からなる群から選ばれる1種または2種以上の酸性物質
C成分:結晶セルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選ばれる1種または2種以上のセルロース系賦形剤
【0046】
2. 例えば乾式造粒法に基づき造粒を行う。具体的には、得られた混合物を、ローラーコンパクターまたは打錠機(スラッグマシン)等の圧縮成形機で圧縮成形した後、ロールグラニュレーターまたは篩等の整粒装置を用いて粉砕、整粒し、造粒物を得る。得られた造粒物には、さらに、結晶セルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系賦形剤を添加することもできるし、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、バレイショデンプン、トウモロコシデンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポピドン、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム等の崩壊剤を添加することもできる。さらに、ステアリン酸、ステアリン酸塩(アルミニウム、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム等の金属塩)、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑沢剤を得られた造粒物に添加することもできる。
【0047】
3. 得られた造粒物または造粒物と添加剤の混合物を、打錠機を用いて打錠することにより、錠剤(素錠)を得る。打錠後、得られた素錠を、低粘度高分子、または低粘度高分子及び他の化合物を含むコーティング混合物で被覆する。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって本発明の範囲を限定するものではない。
【0049】
以下の実施例において、NMRスペクトルは、日本電子JNM−EX400型核磁気共鳴装置を使用し、内部標準としてテトラメチルシラン(TMS)を使用して測定した。MSスペクトルは日本電子JMS−T100LP型及びJMS−SX102A型質量分析計で測定した。元素分析はヤナコ分析CHN CORDER MT−6元素分析装置で行った。
【0050】
(参考例1)
ビス(アセタト−O)−〔6,7−ジフルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボキシラト−O3,O4〕ボロン
窒素雰囲気下、無水酢酸21.4L(225mol)に、ホウ酸(触媒作成用)103g(1.67mol)を加え、70.0〜76.9°Cで30分間加熱撹拌した(撹拌速度69.5rpm)。内温24.6°Cまで冷却した後、1回目のホウ酸1.01kg(16.3mol)を加え、24.6〜27.4°Cで30分撹拌した。2回目のホウ酸1.01kg(16.3mol)を加え、24.7〜27.5°Cで30分撹拌した。3回目のホウ酸1.01kg(16.3mol)を加え、24.7〜27.7°Cで30分撹拌した。4回目のホウ酸1.01kg(16.3mol)を加え、25.4〜29.4°Cで30分撹拌した。さらに、50.0〜56.9°Cで30分撹拌し、ホウ酸トリアセテート調整液とした。当該調整液に、6,7−ジフルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸エチルエステル5.50kg(16.7mol)を加え、得られた混液を54.7〜56.9°Cで3時間撹拌した。当該混液を30.0°Cまで冷却し、室温で一夜放置した。混液を58.6°Cまで加熱し析出した化合物を溶解させ、アセトン16.5 Lを混液に加え、反応液(a)とした。
窒素雰囲下、常水193L及びアンモニア水(28%)33.7 L(555mol)の混合液を、−0.6°Cまで冷却した。当該混合液に、前述の反応液(a)を添加し、アセトン11.0Lで洗い込んだ。15.0°Cまで冷却後、4.3〜15.0°Cで1時間撹拌した。析出した結晶をろ取し、常水55.0Lで洗浄し、湿潤粗結晶を14.1kg得た。設定温度65.0°Cで約22時間減圧乾燥し、粗結晶を6.93kg得た(収率96.7%)。
得られた粗結晶に、窒素雰囲下、アセトン34.7Lを加え、加熱溶解した(温水設定温度57.0°C)。加熱時、ジイソプロピルエーテル69.3Lを晶析するまで滴下した(滴下量12.0 L)。晶析確認後、48.3〜51.7°Cで15分撹拌し、残りのジイソプロピルエーテルを滴下し、45.8〜49.7°Cで15分撹拌した。15°Cまで冷却後、6.5〜15.0°Cで30分撹拌した。析出した結晶をろ取し、アセトン6.93L及びジイソプロピルエーテル13.9Lで洗浄し、湿潤結晶を7.41kg得た。得られた湿潤結晶を設定温度65.0°Cで約20時間減圧乾燥し、ビス(アセタト−O)−〔6,7−ジフルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボキシラト−O
3,O
4〕ボロンを 6.47kg得た(収率90.3%)。
元素分析(%):C
17H
15BF
3NO
8として
計算値:C,47.58;H,3.52;N,3.26.
実測値:C,47.41;H,3.41;N,3.20.
1H−NMR(CDCl
3,400 MHz)δ:2.04(6H,s),4.21(3H, d,J=2.9Hz),4.88(2H,dt,J=47.0,4.4Hz),5.21(2H,dt,J=24.9,3.9Hz),8.17(1H,t,J=8.8Hz),9.10(1H,s).
ESI MS(positive) m/z:430(M+H)
+.
【0051】
(参考例2)
7−[(3S,4S)−3−{(シクロプロピルアミノ)メチル}−4−フルオロピロリジン−1−イル]−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の製造
窒素雰囲気下、(3R,4S)−3−シクロプロピルアミノメチル−4−フルオロピロリジン3.56kg(15.4mol)、トリエチルアミン11.7 L(84.2mol)及びジメチルスルホキシド30.0Lの混液を、23.0〜26.3°Cで15分撹拌した。混液に23.0〜26.3°Cでビス(アセタト−O)[6,7−ジフルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボキシラト−O
3,O
4]ボロン6.00kg(14.0mol)を加え、反応液とした。反応液を23.7〜26.3°Cで2時間撹拌した。反応液に酢酸エチル120Lを加え、さらに常水120Lを加えた後、水酸化ナトリウム960g(2mol/Lとする量)及び常水12.0Lの溶液を加え、5分間撹拌後、水層を分取した。水層に、酢酸エチル120Lを加え、5分間撹拌後、酢酸エチル層を分取した。酢酸エチル層を合わせて、常水120Lを加え、5分間撹拌後、静置し、水層を廃棄した。酢酸エチル層を減圧留去した。得られた残留物を、2−プロパノール60.0Lに溶解させ、室温で一夜放置した。溶液に塩酸5.24L(62.9mol)及び常水26.2L(2mol/Lとする量)の溶液を加え、28.2〜30.0°Cで30分撹拌した。外温55.0°Cで加熱し、溶解後(47.1°Cで溶解確認)、冷却し晶析させた。39.9〜41.0°Cで30分撹拌し、冷却後(目安:20.0°Cまでは設定温度7.0°C、それ以下は−10.0°C)、2.2〜10.0°Cで1時間撹拌した。析出した結晶をろ取、2−プロパノール60Lで洗浄し、7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の湿潤粗結晶を9.57kg得た。
【0052】
(参考例3)
7−[(3S,4S)−3−{(シクロプロピルアミノ)メチル}−4−フルオロピロリジン−1−イル]−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩A形結晶(化合物1)の製造方法
7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の湿潤粗結晶9.57kgをエタノール60L、精製水10.8Lの混液に添加し、加熱溶解した。この溶解液を、フィルターを通すことによりろ過し、エタノール24.0L及び精製水1.20Lの混液で洗い込んだ。溶解を確認し、加熱したエタノール(99.5)96.0Lを71.2〜72.6°Cで添加した。その溶解液を冷却し(温水設定温度60.0°C)晶析確認後(晶析温度61.5°C)、59.4〜61.5°Cで30分撹拌した。段階的に冷却させ(50.0°Cまで温水設定温度40.0°C、40.0°Cまで温水設定温度30.0°C、30.0°Cまで温水設定温度20.0°C、20.0°Cまで設定温度7.0°C、15.0°Cまで設定温度−10.0°C、これ以降溜置き)、4.8〜10.0°Cで1時間撹拌した。析出した結晶をろ取し、エタノール30.0Lで洗浄し、7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の湿潤結晶を5.25kg得た。得られた湿潤結晶を設定温度50.0°Cで約13時間減圧乾燥し、化合物1を4.83kg得た(収率72.6%)。
国際公開第2013/069297号に基づく化合物1の粉末X線回折の結果を
図1に示す。
図1から理解できるように4.9度、10.8度、12.9度、18.2度、21.7度、24.7度および26.4度にピークが見られ、10.8度、12.9度、および24.7度に特徴的なピークが確認できる。
元素分析値(%):C
21H
24F
3N
3O
4HClとして
計算値:C,53.00;H,5.30;N,8.83.
実測値:C,53.04;H,5.18;N,8.83.
1H NMR(DMSO−d
6,400MHz)δ(ppm):0.77−0.81(2H,m),0.95−1.06(2H,m),2.80−2.90(2H,m),3.21−3.24(1H,m),3.35−3.39(1H,m),3.57(3H,s),3.65−3.78(3H,m),4.13(1H,dd,J=41.8,13.1Hz),4.64−4.97(3H,m),5.14(1H,dd,J=32.7,15.6Hz), 5.50(1H,d,J=53.7Hz),7.80(1H,d,J=13.7Hz), 8.86(1H,s),9.44(2H,brs),15.11(1H,brs).
ESI MS(positive) m/z:440(M+H)
+.
【0053】
(実施例1)
表1記載の処方に従い、化合物1、目開き212μm篩を用いて篩過したクエン酸二水素ナトリウム、及び結晶セルロースをポリエチレン袋中で3分間混合した。さらに、当該混合品にステアリン酸マグネシウムを加え、ポリエチレン袋中で1分間混合した。当該混合品をローラーコンパクター(TF−MINI、フロイント産業社製、ロール圧力:70kgf、ロール回転数:3min
−1)を用いて圧縮成形した後、ロールグラニュレーター(GRN−T−54−S、日本グラニュレーター社製)を用いて整粒し造粒物を得た(ピッチ幅6mm、2mm、1.2mm、0.6mmの4種類のロールを使用した。)。得られた造粒物を目開き850μm篩を用いて篩過し、得られた篩過品を主薬顆粒とした。次に主薬顆粒、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースと目開き212μm篩を用いて篩過した酒石酸をポリエチレン袋中で3分間混合した。さらに、当該混合品にステアリン酸マグネシウムを加え、ポリエチレン袋中で1分間混合した。当該混合品を打錠機(HT―AP―18SS−II、畑鉄工所、直径8.5mmの臼、曲率半径10mmのR面杵)を用いて質量250mg、錠厚4.2mmとなるように打錠し、素錠を得た。
ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー(PVA-PEGコポリマー、コリコートIR(商品名))、コポリビドン、酸化チタン、カオリン及びラウリル硫酸ナトリウムを水に溶解し、PVA-PEGコポリマーの質量パーセント濃度が9.3%w/wのコーティング溶液を調製した。素錠に対し、得られたコーティング溶液を吹きつけ、コーティングを行った。コーティングは、ハイコーター(HCT−MINI、フロイント産業社製)を用いて行った。コーティング時間は50分を要した。
【0054】
(比較例1)
実施例1と同様にして素錠を得た。ヒプロメロース(HPMC2910 Type6mPas)、酸化チタン及びポリエチレングリコールを水に溶解し、ヒプロメロース(HPMC2910 Type6mPas)の質量パーセント濃度が5.2%w/wのコーティング溶液を調製した。素錠に対し、得られたコーティング溶液を吹きつけ、コーティングを行った。コーティングは、ハイコーター(HCT−MINI、フロイント産業社製)を用いて行った。コーティング時間は90分を要した。
【0055】
【表1】
【0056】
(試験例1)
実施例1、比較例1の各錠剤をデジタルカメラで撮影した。
コーティング剤に含まれる高分子化合物の粘度と錠剤外観結果を表2に示す。素錠の段階では表面が滑らかな錠剤であったが、素錠をHPMC2910 Type6mPasを含むコーティング剤で被覆して最終的に得られた錠剤(比較例1)の表面には、クレーター様の凹凸(斑点)を認めた。これは、素錠を被覆する際に、素錠表面を覆うコーティング混合物中に残存する水が、素錠表面の酸性物質を溶解することが原因と考えられる。一方、PVA-PEGコポリマーを含有するコーティング剤で素錠を被覆した実施例1においては錠剤表面のクレーター様の凹凸(斑点)が生じるのを抑制できた。
実施例1の錠剤と比較例1の錠剤との結果の違いは、実施例1の錠剤と比較例1の錠剤との間で素錠表面と接触する高分子化合物の粘度が異なることが原因であると考えられる。より粘度の低い実施例1に係るPVA-PEGコポリマーは、比較例1に係るHPMC2910 Type6mPasよりも素錠表面を覆うコーティング混合物中に水を取り込まず、水の蒸散作用が高いことが凹凸の生成抑制に寄与したと考えられる。さらに、より粘度の低い実施例1に係るPVA-PEGコポリマーは、比較例1に係るHPMC2910 Type6mPasよりも展延性がよいため、素錠表面に満遍なく広がることができ凹凸を生じにくいことも凹凸の生成抑制に寄与したと考えられる。実施例1で得られた錠剤の写真を
図2に、比較例1で得られた錠剤の写真を
図3に示す。
また、実施例1のコーティング溶液におけるPVA-PEGコポリマーの質量パーセント濃度(以下、コーティング剤の濃度と記載する)は、比較例1のHPMC2910 Type6mPasの濃度の約2倍に調整した(実施例1:9.3%w/w、比較例1:5.2%w/w)。含有される高分子化合物の濃度を上げると、その分コーティング溶液の粘度が上がり、斑点が生じるリスクが高まる。しかしその一方で、素錠上に効率的にコーティング成分を被覆することができるため、コーティング時間の短縮が可能となる。表2から分かる通り、PVA-PEGコポリマーの濃度の高い実施例1では、コーティング時間が顕著に短縮されている(実施例1:50分、比較例1:90分)。
以上の通り、低粘度高分子を含むコーティング剤を用いることにより、錠剤表面のクレーター様の凹凸(斑点)の改善と共に、コーティング時間の短縮が可能になり、産業上非常に有用である。
【0057】
【表2】