特許第6349405号(P6349405)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6349405-抗炎症剤 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6349405
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】抗炎症剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/20 20060101AFI20180618BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20180618BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180618BHJP
【FI】
   A61K35/20
   A61P29/00
   A61P43/00 111
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-547462(P2016-547462)
(86)(22)【出願日】2015年9月9日
(86)【国際出願番号】JP2015075529
(87)【国際公開番号】WO2016039356
(87)【国際公開日】20160317
【審査請求日】2017年1月26日
(31)【優先権主張番号】特願2014-183061(P2014-183061)
(32)【優先日】2014年9月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(72)【発明者】
【氏名】和泉 裕久
(72)【発明者】
【氏名】津田 宗哉
【審査官】 茅根 文子
(56)【参考文献】
【文献】 J. Immunology,2007年,179,1969-78
【文献】 AACR Annual Meeting 2014 Presentation Abstract,2014年 4月,5407
【文献】 実験医学,2011年,29(3),399-403
【文献】 日本農芸化学会大会講演要,2005年,96,29E015α
【文献】 Plos One,2011年,6(11),1-12,e27685
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/20
A61P 29/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜小胞の形態が一部又は完全に破壊された、乳由来のエクソソームの破壊物を有効成分として含有する抗炎症剤。
【請求項2】
前記エクソソームの破壊物が、超音波処理又は有機溶媒処理により膜小胞の形態が一部又は完全に破壊されたものである、請求項1に記載の抗炎症剤。
【請求項3】
前記乳が牛乳である、請求項1または2に記載の抗炎症剤。
【請求項4】
腫瘍壊死因子α産生抑制作用を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の抗炎症剤。
【請求項5】
抗炎症剤の製造方法であって、
乳から脂質画分、細胞画分及びカゼイン画分を除去してホエイ画分を調製する工程、
前記ホエイ画分からエクソソーム画分を回収する工程、
前記エクソソーム画分に含まれるエクソソームの膜小胞の形態を一部又は完全に破壊してエクソソームの破壊物を調製する工程、及び、
前記エクソソームの破壊物を有効成分として製剤化する工程、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳由来の成分を有効成分とする抗炎症剤に関する。
【背景技術】
【0002】
抗炎症剤には、ステロイド系抗炎症薬と非ステロイド系抗炎症薬がある。ステロイド系抗炎症薬は優れた抗炎症作用を持つが、一方で免疫抑制作用をはじめ、多くの副作用も持つ。また、非ステロイド系抗炎症薬にも、消化管潰瘍、各種アレルギー反応、腎障害等の副作用が知られている。
【0003】
安全性が高いと期待される食材由来の抗炎症剤としては、アカショウガ抽出物を有効成分とする抗炎症剤が知られている(特許文献1)。この抽出物は、アントシアニジン及びジンゲロールを含んでいる。
【0004】
ところで、生体細胞や培養細胞から分泌される膜小胞であるエクソソームは、血液(血清、血漿)、母乳、肺胞洗浄液、悪性胸膜滲出液、滑液、尿、羊水、精液、唾液等の体液中に存在することが知られている。エクソソームには、メッセンジャーRNA(mRNA)、マイクロRNA(miRNA)、二本鎖DNA、タンパク質、脂質等が含まれている(非特許文献1、2)。これらのRNAやタンパク質の組成は、エクソソームを分泌する細胞の種類等によって異なることが知られており(非特許文献3、4)、エクソソームが持つ活性や機能は由来によって異なると考えられる。
【0005】
骨髄、脾臓、リンパ節、胸腺等の組織や末梢血から回収される樹状細胞及びマクロファージ等の抗原提示細胞の培養物から調製したエクソソームは、免疫応答を阻害することが報告されている(特許文献2)。
【0006】
植物にもエクソソームあるいはエクソソーム様の小胞が存在し、ブドウのエクソソーム様のナノ粒子は、腸幹細胞を誘導し、マウスのデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導性大腸炎を予防することが報告されている(非特許文献5)。
【0007】
また、コルチコステロイドとエクソソームを併せて含有する薬剤学的組成物が、関節炎等の関節疾患の処置に使用されることが報告されている(特許文献3)。
【0008】
乳については、牛乳(初乳又は成熟乳)から膜小胞を調製し、げっ歯類マクロファージ系であるRaw 264.7細胞に添加し、上清中サイトカインを評価したところ、腫瘍壊死因子αに差はないものの、腫瘍壊死因子αと同じく炎症性サイトカインであるIL-1β、IL-6などが増加し、抗炎症性サイトカインであるIL-10が減少することが報告されており(非特許文献6)、乳中の膜小胞が炎症を促進することが示唆されている。
【0009】
一方、アレルギー反応や自己免疫疾患、及び慢性炎症等に対して抑制的に機能する免疫抑制作用は、miRNAの制御を受けることが明らかになってきている。miRNAは乳中にも存在することが見出され、それらのmiRNAの存在量が高められた乳は、高い免疫増強作用を有することが知られている(特許文献4)。そして、このmiRNAはエクソソームに存在していることが報告されている(非特許文献7)。
【0010】
また。乳中に含まれる特定のmRNAの存在量を高めることによって、乳の免疫増強作用を高めることができることが知られている(特許文献5)。
【0011】
さらに、乳のエクソソームに含まれるmiRNAやmRNAについて解析がなされ、エクソソームがマクロファージによって取り込まれることが報告されている(非特許文献8)。また、乳中のエクソソームの表面抗原は、アレルギー感作の有無や生活様式によって異なることが報告されている(非特許文献9)
【0012】
しかしながら、乳中に含まれるエクソソームが腫瘍壊死因子α産生抑制作用又は抗炎症作用を有し、その作用がエクソソーム中のRNAによるものではないことは、知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第5303697号公報
【特許文献2】国際公開第2006/007529号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2011/082950号パンフレット
【特許文献4】米国特許公開第20120093874号公報
【特許文献5】米国特許公開第20130280368号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Saadeldin I.M. et al., Stem Cells and Cloning: Advances and Applications, 8:103-107, 2015
【非特許文献2】Ramachandran S. et al., Wiley Interdiscip. Rev. RNA, 3:286-293, 2012
【非特許文献3】Douglas D.Taylor and Cicek Gercel-Taylor, Frontiers in Genetics, 4(142):1-12, 2013
【非特許文献4】Simpson, R.J. et al., Expert Rev. Proteomics, 6, 267-283, 2009
【非特許文献5】Songwen, Ju, et. al., Molecular Therapy, 21(7): 1345-1357, 2013
【非特許文献6】Sun, Q., et al., Protein Cell, 4(3):197-210, 2013
【非特許文献7】Kosaka, N., et al., Silence 1:7, 2010
【非特許文献8】Izumi H. et al., J. Dairy Sci., 98:2920-2933, 2015
【非特許文献9】Paredes et al., Allergy, 69:463-471, 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、安全性の高い抗炎症剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、乳由来のエクソソームが腫瘍壊死因子α産生抑制作用を有し、抗炎症剤の成分として好適であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、乳由来のエクソソームを有効成分として含有する抗炎症剤を提供する。
また、本発明の抗炎症剤は、腫瘍壊死因子α産生抑制作用を有することを好ましい形態としている。
【0018】
また本発明は、抗炎症剤の製造方法であって、
乳から脂質画分、細胞画分及びカゼイン画分を除去してホエイ画分を調製する工程、
前記ホエイ画分からエクソソーム画分を回収する工程、及び、
前記エクソソーム画分を有効成分として製剤化する工程、を含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】乳由来のエクソソームの、マクロファージ様細胞に対する腫瘍壊死因子α産生抑制作用を示す図。BSA:牛血清アルブミン、exo10:エクソソーム画分、LF:ウシ・ラクトフェリン。「*」はPBS群を対照としたDunnett検定において、p<0.05で有意であることを示す。
図2】乳由来のエクソソームの、マクロファージ様細胞に対する腫瘍壊死因子α産生抑制作用を示す図。BSA:牛血清アルブミン、exo10:エクソソーム画分、sonicated:超音波処理したエクソソーム画分、CHCl3 treated:クロロホルム処理したエクソソーム画分、RNA:エクソソーム画分から精製したRNA。「*」、「**」は、PBS群を対照としたDunnett検定において、各々p<0.05、P<0.01で有意であることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。
【0021】
本発明の抗炎症剤は、乳由来のエクソソームを有効成分として含有する。すなわち、本発明に用いるエクソソームは、乳から得られるエクソソームである。乳は、哺乳動物から得られるものであれば特に制限されないが、ヒト、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、サル、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ハムスター、モルモット等から得られる乳が挙げられる。好ましくはヒト、ウシから得られる乳である。乳は、初乳であっても成熟乳であってもよいが、成熟乳が好ましい。
【0022】
乳由来のエクソソームとは、乳に含まれるエクソソームであって、乳から得られるエクソソームと同義である。膜小胞の一種であるエクソソームは、脂質二重膜で覆われた微粒子であって、脂質、タンパク質、RNA(mRNA、miRNA)、及びDNAを含むものである。その直径は、20〜120 nm、あるいは30〜100 nm(Saadeldin I.M. et al., Stem Cells and Cloning: Advances and Applications, 8:103-107, 2015)といわれている。尚、後述するように、発明の抗炎症剤の有効成分である乳由来のエクソソームは、インタクトなものであってもよく、膜小胞構造が破壊されていてもよい。したがって、抗炎症剤に含有されている状態の「乳由来のエクソソーム」は、脂質二重膜で覆われた微粒子であってもよく、そのような構造が破壊されたものであってもよい。
【0023】
乳からエクソソームを調製する方法は特に制限されないが、具体的な方法として、以下に一例を記載する。
乳から脂質画分、細胞画分及びカゼイン画分を除去してホエイ(乳清)画分を調製する。得られたホエイ画分からエクソソーム画分を回収する。エクソソーム画分の回収は、超遠心法、フィルター法、密度勾配遠心法、スクロースクッション法、限外ろ過、連続フロー電気泳動法、クロマトグラフィー法等の公知の方法(国際公開第2014/030590)を用いることができる。具体的には例えば、ホエイ画分を30,000〜1,000,000×g、例えば100,000×gで、60〜120分遠心分離し、上清を除去すると、エクソソーム画分が得られる。
ホエイからのエクソソームの調製は、公知文献、例えば、Izumi H. et al., J. Dairy Sci. 98:2920-2933, 2015に記載されている。
【0024】
また、エクソソームを血清、血漿、尿、脳脊髄液などの生体液から単離するためのキットが市販されており(例えばタカラバイオ社 Exosome Isolation Kit、ライフテクノロジー社 Exosome Isolation Reagent)、それらを使用してもよい。
【0025】
エクソソーム画分とは、原料乳を分画したときに、他の画分よりもエクソソームの含量が高い画分をいう。本発明においてエクソソーム画分は、エクソソームの含量が原料乳よりも3倍以上、好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上、さらに好ましくは25倍以上に濃縮されていることが好ましい。エクソソームの含量は、例えば、総固形量に対する含量(質量%)として表すことができる。また、エクソソームの含量は、試料中のエクソソームの数をナノ粒子解析装置(例えばNanoSight、日本カンタム・デザイン社)等を用いて計数することによっても測定することができる。あるいは、エクソソーム画分は、総タンパク質に対するエクソソームに特異的に含まれるタンパク質の割合が、乳に比べて3倍以上、好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上、さらに好ましくは25倍以上であることが好ましい。エクソソームに含まれるタンパク質としては、例えばCD63が挙げられる。エクソソーム画分は、実質的にエクソソーム又はその溶液もしくは懸濁物のみからなるものであってもよい。タンパク質の量又は濃度は、例えば、Lowry法、Bradford法、又はこれらの方法を改良した方法等により測定することができる。また、特定のタンパク質の量又は濃度は、エンザイムイムノアッセイやウェスタンブロッティング等によって測定することができる。
【0026】
得られたエクソソーム画分を有効成分として製剤化することによって、抗炎症剤が得られる。乳由来のエクソソームは炎症性サイトカインの一種である腫瘍壊死因子α(以下、「TNF-α」と記載する)の産生を抑制する作用を有しており、乳由来のエクソソームを含有する組成物は、TNF-α産生抑制剤でもあり得る。
【0027】
本発明に用いるエクソソームは、インタクトなものであってもよく、膜小胞構造が一部又は完全に破壊された破砕物であってもよい。実施例に示されるように、乳由来のエクソソーム(以下、単に「エクソソーム」と記載することがある。)が持つ抗炎症作用又はTNF-α産生抑制作用は、少なくともエクソソームに含まれるRNA単独によるものではなく、RNA以外の成分が寄与している可能性が極めて高い。したがって、本発明に用いるエクソソームは、RNAを含むものであってもよいし、RNAを含まないものであってもよい。エクソソームからRNAを除く方法としては、例えば、有機溶媒処理や超音波破砕等を用いて適宜分画処理すること等が挙げられる。
【0028】
本発明の抗炎症剤の製剤化にあたっては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤、注射剤用溶剤等の添加剤を使用できる。具体的製剤として、錠剤(糖衣錠、腸溶性コーティング錠、バッカル錠を含む。)、散剤、カプセル剤(腸溶性カプセル、ソフトカプセルを含む。)、顆粒剤(コーティングしたものを含む。)、丸剤、トローチ剤、封入リポソーム剤、液剤、又はこれらの製剤学的に許容され得る徐放製剤等を例示することができる。尚、本発明の抗炎症剤には、乳、ホエイ、及びそれらを含む組成物であって、エクソソーム含量を高める加工をされていないものは含まれない。
【0029】
これらの製剤に用いる担体及び賦形剤としては、乳糖、ブドウ糖、白糖、マンニトール、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、結晶セルロース、カンゾウ末、ゲンチアナ末等を、結合剤としては澱粉、ゼラチン、シロップ、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等を例示することができる。
【0030】
また、崩壊剤としては、澱粉、寒天、ゼラチン末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、及びアルギン酸ナトリウム等を例示することができる。
【0031】
更に、滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、水素添加植物油、及びマクロゴール等を、着色剤としては医薬品に添加することが許容されている赤色2号、黄色4号、及び青色1号等を、それぞれ例示することができる。
【0032】
錠剤及び顆粒剤は、必要に応じ白糖、ヒドロキシプロピルセルロース、精製セラック、ゼラチン、ソルビトール、グリセリン、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、フタル酸セルロースアセテート、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルメタクリレート、及びメタアクリル酸重合体等により被膜することもできる。
【0033】
本発明の抗炎症剤の適用対象は、炎症、特にTNF-αが関与する炎症、又は炎症を伴う疾患であれば特に制限されないが、例えば、肥満等のメタボリックシンドローム、腸炎、アレルギー症等が挙げられる。本発明の抗炎症剤を投与することによって、これらの炎症又は疾患を治療、又は予防することができる。尚、本発明の抗炎症剤は、エクソソームとともにコルチコステロイドを含有する薬剤学的組成物であって、関節疾患の処置に用いられるものは含まれない。
【0034】
本発明の一態様は、抗炎症剤の製造方法であって、乳から脂質画分、細胞画分及びカゼイン画分を除去してホエイ画分を調製する工程、前記ホエイ画分からエクソソーム画分を回収する工程、及び、前記エクソソーム画分を有効成分として製剤化する工程、を含む方法である。本発明の他の態様は、抗炎症用の医薬の製造における、乳由来のエクソソームの使用である。また、本発明の他の態様は、炎症又は炎症を伴う疾患の治療又は予防に用いられる乳由来のエクソソームである。また、本発明の他の態様は、乳由来のエクソソーム又はそれを含む抗炎症剤を動物に投与する、炎症又は炎症を伴う疾患の治療又は予防法である。炎症としては、TNF-αが関与する炎症が挙げられ、動物としては、そのような疾患、又は炎症を伴う疾患を持つ動物が挙げられる。
【0035】
本発明の抗炎症剤は、経口投与、非経口投与のいずれによって投与されてもよいが、経口投与が好ましい。非経口投与としては、静注、直腸投与、吸入等が挙げられる。経口投与の剤型としては、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、シロップ剤、顆粒剤、散剤、軟膏等が挙げられる。また、公知の、もしくは将来的に見出される抗炎症作用を有する薬剤、医薬組成物を併用することもできる。併用する医薬組成物は、本発明の薬剤中に有効成分の一つとして含有させてもよいし、本発明の薬剤中には含有させずに別個の薬剤として組み合わせて商品化してもよい。
【0036】
また、乳由来のエクソソームを有効成分として食品中に含有させ、抗炎症剤の一態様として、抗炎症作用を有する食品として加工することも可能である。
このような食品としては、液状、ペースト状、固体、粉末等の形態を問わず、錠菓、流動食、飼料(ペット用を含む)等のほか、例えば、パン、マカロニ、スパゲッティ、めん類、ケーキミックス、から揚げ粉、パン粉等の小麦粉製品;即席めん、カップめん、レトルト・調理食品、調理缶詰め、電子レンジ食品、即席スープ・シチュー、即席みそ汁・吸い物、スープ缶詰め、フリーズ・ドライ食品、その他の即席食品等の即席食品類; 農産缶詰め、果実缶詰め、ジャム・マーマレード類、漬物、煮豆類、農産乾物類、シリアル(穀物加工品)等の農産加工品; 水産缶詰め、魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品、水産珍味類、つくだ煮類等の水産加工品;畜産缶詰め・ペースト類、畜肉ハム・ソーセージ等の畜産加工品;加工乳、乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料類、チーズ、アイスクリーム類、調製粉乳類、クリーム、その他の乳製品等の乳・乳製品;バター、マーガリン類、植物油等の油脂類;しょうゆ、みそ、ソース類、トマト加工調味料、みりん類、食酢類等の基礎調味料;調理ミックス、カレーの素類、たれ類、ドレッシング類、めんつゆ類、スパイス類、その他の複合調味料等の複合調味料・食品類;素材冷凍食品、半調理冷凍食品、調理済冷凍食品等の冷凍食品;キャラメル、キャンディー、チューインガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、米菓子、豆菓子、デザート菓子、その他の菓子などの菓子類;炭酸飲料、天然果汁、果汁飲料、果汁入り清涼飲料、果肉飲料、果粒入り果実飲料、野菜系飲料、豆乳、豆乳飲料、コーヒー飲料、お茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、スポーツ飲料、栄養飲料、アルコール飲料、その他の嗜好飲料等の嗜好飲料類;ベビーフード、ふりかけ、お茶潰けのり等のその他の市販食品等;育児用調製粉乳;経腸栄養食;機能性食品(特定保健用食品、栄養機能食品)等が挙げられる。
【0037】
さらに、乳由来のエクソソームを有効成分として飼料中に含有させ、抗炎症剤の一態様として、抗炎症作用を有する飼料として加工することも可能である。
【0038】
飼料の形態としては特に制限されず、例えば、乳由来のエクソソームを、トウモロコシ、小麦、大麦、ライ麦、マイロ等の穀類;大豆油粕、ナタネ油粕、ヤシ油粕、アマニ油粕等の植物性油粕類;フスマ、麦糠、米糠、脱脂米糠等の糠類;コーングルテンミール、コーンジャムミール等の製造粕類;魚粉、脱脂粉乳、ホエイ、イエローグリース、タロー等の動物性飼料類;トルラ酵母、ビール酵母等の酵母類;第三リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の鉱物質飼料;油脂類;単体アミノ酸;糖類等に配合することにより製造できる。飼料の形態としては、例えば、ペットフード、家畜飼料、養魚飼料等が挙げられる。
【0039】
本発明の抗炎症剤(医薬品、飲食品、飼料、医薬部外品等の各態様)において、エクソソームの配合量は、抗炎症剤の最終組成物に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることが特に好ましい。
【0040】
本発明の抗炎症剤の投与量は、年齢、症状等により異なるが、エクソソーム量をタンパク質量に換算して、通常、1mg〜10g/日、好ましくは100mg〜1g/日であり、1日1回から複数回に分けて投与してもよい。また、本発明の抗炎症剤を摂取又は服用する場合は、食前、食間、食後のいずれのタイミングであっても、本発明の効果は十分に発揮されるものである。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0042】
(1)牛乳由来エクソソームの調製
乳製品製造に使用される原料乳を1,200×g、4℃で10分間遠心分離し、原料乳に含まれる脂肪、細胞を除去する操作を2回行い、脱脂乳を得た。得られた脱脂乳に10 %酢酸を滴下し、pHを4.6まで低下させてカゼインを沈殿させた。pH4.6の脱脂乳を4,500×g、4℃で30分間遠心分離し、カゼインを除いた。続いて20,000×g、4℃で30分間遠心分離を行ない、上清を採取する操作を2回行い、カゼインを完全に除去した。得られた試料を0.45μm及び0.22μmのフィルター(Millipore社製)で濾過し、乳清(ホエイ)を得た。得られた乳清を100,000×g, 4℃で90分間超遠心を行ない、エクソソームを含むペレット状の塊をPBSに懸濁し、上記と同様の超遠心を行なうことで、エクソソームを洗浄した。同洗浄を再度行ない、エクソソーム画分を得た。原料乳1 mlから、10 μg(タンパク質換算)のエクソソーム画分が得られた。
【0043】
(2)抗炎症作用の確認(I)
ヒト単球性白血病細胞株であるTHP-1(ATCC TIB-202)を、10 %非働化ウシ胎仔血清(HyClone社製)(超遠心により血清中エクソソームは除去したもの)、1 %ペニシリン-ストレプトマイシン-グルタミン溶液(Gibco社製)、1 %非必須アミノ酸混合液(Gibco社製)、0.1 %β-メルカプトエタノールを含む培地(完全培地)で培養後、50 nM PMA(Phorbol 12-myristate 13-acetate)(Sigma社製)を添加し、72時間培養することでTHP-1株をマクロファージ様に分化させた。この細胞5×104個に対して80μlの完全培地を加えた細胞懸濁液と、以下の(ii)〜(iv)の被検物質を20μlのPBSに溶解した被検物質溶液((i)は20μlのPBSのみ)とを混合し、それぞれ試験溶液(100μl)とした。尚、(ii)〜(iv)の被検物質の量は、それぞれ20μl、1ml、100μlの乳、又は10μl、500μl、50μlのホエイに含まれる各被検物質の量に相当する。
【0044】
(i)PBS
(ii)10 μgのウシ血清アルブミン(BSA)
(iii)タンパク質換算で10 μgのエクソソーム画分(exo10)
(iv)10 μgのウシ・ラクトフェリン(LF)
【0045】
調製した試験溶液を、37℃、5% CO2環境下で6時間培養した後に、培養上清を除去し、細胞をPBSで2回洗浄した。洗浄後、細胞に完全培地100μlを加え、LPS(リポ多糖)(Sigma社製)を100 ng/mLとなるように添加して16時間培養した。16時間経過後に培養上清を回収し、炎症性サイトカインであるTNF-αの上清中の量をイムノアッセイキット(Milliplex、Millipore社製)を用いて測定し、評価した。
【0046】
結果を図1に示す。その結果、コントロール(PBS)におけるTNF-α産生量は11834pg/mlであり、牛血清アルブミンやラクトフェリンにおけるTNF-α産生量はいずれも約10000pg/mlであった。これに対して、エクソソームにおけるTNF-α産生量は5738pg/mlであり、コントロールに対してTNF-α産生量を約1/2にまで抑制することが確認された。乳由来のエクソソームは、マクロファージ様細胞のTNF-αの産生を抑制し、抗炎症作用を有することが明らかとなった。
【0047】
(3)抗炎症作用の確認(II)
超音波処理、有機溶媒処理によりエクソソームの膜を破壊し、エクソソームの抗炎症作用に膜小胞の形態が必要なのかを調べた。また、エクソソームに含まれているタンパク質であるアルブミン、ラクトフェリンには、エクソソームと等量で細胞に添加しても抗炎症作用がないことが「抗炎症作用の確認(I)」により確認できたため、次にエクソソームから酸性グアニジン-フェノール-クロロホルム法によりRNAを抽出し、miRNeasy Serum/Plasma kit(Qiagen社製)を用いて精製したRNAを細胞に添加することで、エクソソームに含まれるRNAの作用を調べることとした。前記と同様にマクロファージ様に分化させたTHP-1細胞5×104個に対して80μlの完全培地を加えた細胞懸濁液と、以下の(ii)〜(vi)の被検物質を20μlのPBSに溶解した被検物質溶液((i)は20μlのPBSのみ)とを混合し、それぞれ試験溶液(100μl)とした。
【0048】
(i)PBS
(ii)10 μgのウシ血清アルブミン
(iii)タンパク質換算で10 μgのエクソソーム画分
(iv)タンパク質換算で10 μgのエクソソーム画分を超音波処理したもの *1
(v)タンパク質換算で10 μgのエクソソーム画分をクロロホルム処理したもの *2
(vi)タンパク質換算で10 μgのエクソソーム画分から精製したRNA。
*1:Nissei社製超音波破砕機US-300Eを用い20秒間5回超音波処理した。
*2:エクソソーム溶液、クロロホルム、及びメタノールの比が1:1.25:2.5になるように、エクソソーム溶液にクロロホルムとメタノールを加え、撹拌後遠心濃縮により有機溶媒を除き、超純水で再懸濁した。
【0049】
調製した試験溶液を、37℃、5% CO2環境下で6時間培養した後に、培養上清を除去し、細胞をPBSで2回洗浄した。洗浄後、細胞に完全培地100μlを加え、LPS(リポ多糖)(Sigma社製)を100 ng/mLとなるように添加した。16時間後に培養上清を回収し、炎症性サイトカインであるTNF-α(Tumor Necrosis Factor-α, 腫瘍壊死因子)の上清中の量をイムノアッセイキット(Milliplex、Millipore社製)を用いて測定し、評価した。
【0050】
結果を図2に示す。乳由来のエクソソームは、超音波処理又はクロロホルム処理により膜小胞の形態を破壊したものであっても、インタクトなエクソソーム(exo10:TNF-α産生量:4081pg/ml)に比して、超音波処理ではTNF-α産生量が3736pg/mlであり、クロロホルム処理ではTNF-α産生量が3567pg/mlであり、同等又はそれ以上のTNF-αの産生抑制を示した。また、エクソソームから抽出されたRNAは、有意なTNF-αの産生抑制を示さなかった(TNF-α産生量:4597pg/ml)。これらのことから、乳由来のエクソソームの持つ抗炎症作用は、膜構造を必要せず、また、RNA単独によるものではないことが確認され、RNA以外の成分が寄与していることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の抗炎症剤は、腫瘍壊死因子α(TNF−α)産生抑制作用を有しており、抗炎症剤として有用である。本発明の抗炎症剤は、飲食品として汎用されている乳を原料としており、飲食品又は医薬品等として安全性が高いと考えられる。
図1
図2