(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
(燃料電池スタック10)
図1は、燃料電池スタック10の斜視図である。
図2は、燃料電池スタック10の断面図である。
図3は、
図2の部分拡大図である。
【0012】
燃料電池スタック10は、複数の燃料電池セル(以下、「セル」と略称する。)100と複数のセパレータ200とが交互に積層された、いわゆる「平板スタック構造」を有する。
【0013】
1.セル100
図3に示すように、セル100は、燃料極110、固体電解質層120、及び空気極130を備える。セル100の平面形状は特に制限されないが、例えば、1辺の長さが10〜300mmの正方形とすることができる。セル100の厚さは特に制限されないが、例えば、110〜2100μmとすることができる。
【0014】
燃料極110は、電子伝導性を有する物質と酸素イオン伝導性を有する物質とによって構成される。燃料極110は、例えば、NiO−8YSZ(イットリア安定化ジルコニア)やNiO−GDC(ガドリニウムドープセリア)などによって構成することができる。燃料極110の厚みは特に制限されないが、例えば50〜2000μmとすることができる。燃料極110の気孔率は特に制限されないが、例えば15〜55%とすることができる。
【0015】
固体電解質層120は、燃料極110と空気極130との間に配置される。固体電解質層120は、燃料ガス(例えば、水素ガス)と酸素含有ガス(例えば、空気)との混合を防止するシール膜として機能する。固体電解質層120は、ジルコニア系材料を主成分として含有する。主成分として含有するとは、固体電解質層120は、ジルコニア系材料を70wt%以上含有することを意味する。ジルコニア系材料としては、例えば、3YSZ、8YSZ、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)などを用いることができる。固体電解質層120の詳細構成については後述する。
【0016】
固体電解質層120の厚みは特に制限されないが、例えば3〜50μmとすることができる。固体電解質層120の気孔率は特に制限されないが、例えば0〜10%とすることができる。
【0017】
空気極130は、例えば、(La,Sr)(Co,Fe)O
3(LSCF、ランタンストロンチウムコバルトフェライト)、(La,Sr)FeO
3(LSF、ランタンストロンチウムフェライト)、La(Ni,Fe)O
3(LNF、ランタンニッケルフェライト)、(La,Sr)CoO
3(LSC、ランタンストロンチウムコバルタイト)などによって構成される。空気極130の厚みは特に制限されないが、例えば50〜2000μmとすることができる。空気極130の気孔率は特に制限されないが、例えば15〜55%とすることができる。
【0018】
2.セパレータ200
セパレータ200は、Ni系耐熱合金(例えば、フェライト系SUS、インコネル600及びハステロイ等)によって構成することができる。セパレータ200の平面形状は、セル100の平面形状と同形である。
【0019】
図2及び
図3に示すように、セパレータ200は、平板部210及び枠体部220を備える。平板部210の周縁部は、全周に亘って枠体部220によって取り囲まれている。枠体部220の厚さは、平板部210の厚さより大きい。枠体部220は、平板部210に対して、上方及び下方の両方に突出している。
【0020】
図3に示すように、セル100は、第1セパレータ200aと第2セパレータ200bとの間に配置される。セル100は、第1セパレータ200aと第2セパレータ200bとによって挟持される。セル100は、第1セパレータ200a及び第2セパレータ200bそれぞれの枠体部220に接続される。セル100の周縁部は、接合材(ガラス材料等)を介して各枠体部220に接続することができる。
【0021】
セル100の燃料極110と第1セパレータ200aとの間の空間は、燃料ガスが流通する燃料流路110Sである。セル100の空気極130と第2セパレータ200bとの間の空間は、酸素含有ガスが流通する空気流路130Sである。
【0022】
燃料流路110Sに燃料ガスを流すとともに、空気流路130Sに空気を流し、セル100を外部の負荷と電気的に接続することによって、下記の化学反応式(1)及び(2)に基づく発電が行われる。
【0023】
(1/2)・O
2+2e
−→O
2− (於:空気極130) …(1)
H
2+O
2−→H
2O+2e
− (於:燃料極110) …(2)
【0024】
(固体電解質層120の構成)
次に、各セル100の固体電解質層120の構成について説明する。
【0025】
固体電解質層120は、上流部位120a及び下流部位120bを有する。
【0026】
上流部位120aは、下流部位120bと一体的に形成される。上流部位120aは、燃料ガスの流通方向FGを基準として、下流部位120bの上流側に位置する。すなわち、上流部位120aは、固体電解質層120のうち燃料ガスの流入口(不図示)に近い領域である。具体的には、上流部位120aは、流通方向FGにおける固体電解質層120の全長Lの1/4の領域(L/4)に設定することができる。
【0027】
下流部位120bは、燃料ガスの流通方向FGを基準として、上流部位120aの下流側に位置する。すなわち、下流部位120bは、固体電解質層120のうち燃料ガスの流出口(不図示)に近い領域である。具体的には、下流部位120bは、流通方向FGにおける固体電解質層120の全長Lの3/4の領域(3L/4)に設定することができる。
【0028】
ここで、
図4に示すように、上流部位120aは、第1領域a1と第2領域a2を含む。
【0029】
第1領域a1は、上流部位120aのうち燃料極側表面120Sから3μm以内の領域である。燃料極側表面120Sは、燃料極110と固体電解質層120との界面である。燃料極側表面120Sは、セル100の断面において成分濃度をマッピングした場合に、固体電解質層120に含まれる元素濃度が急激に変化するラインを最小二乗法で近似した直線である。
【0030】
第1領域a1は、ジルコニア系材料を主成分として含有する。第1領域a1は、ジルコニア系材料として、立方晶系ジルコニアと正方晶系ジルコニアとを含有する。
【0031】
立方晶系ジルコニアとは、結晶相が主として立方晶の相からなるジルコニアである。立方晶系ジルコニアとしては、例えば、8YSZ(8mol%のイットリアで安定化されたジルコニア)や10YSZ(10mol%のイットリアで安定化されたジルコニア)が挙げられる。
【0032】
正方晶系ジルコニアとは、結晶相が主として正方晶の相からなるジルコニアである。正方晶系ジルコニアとしては、例えば、2.5YSZ(2.5mol%のイットリアで安定化されたジルコニア)や3YSZ(3mol%のイットリアで安定化されたジルコニア)のように3mol%以下のイットリアで安定化されたジルコニアが挙げられる。
【0033】
第2領域a2は、第1領域a1と空気極130との間に配置される領域である。第2領域a2は、固体電解質層120のうち第1領域a1以外の領域である。第2領域a2の厚みは特に制限されないが、1μm以上30μm以下とすることができる。第2領域a2の厚みは、固体電解質層120の損傷を抑制することを考慮すると、固体電解質層120の全厚みの80%以下であることが好ましい。第2領域a2の厚みは、固体電解質層120の酸化物イオン伝導性の低下を抑制することを考慮すると、固体電解質層120の全厚みの20%以上であることが好ましい。
【0034】
第2領域a2は、ジルコニア系材料を主成分として含有する。第2領域a2は、ジルコニア系材料として立方晶系ジルコニアを含有する。第2領域a2は、正方晶系ジルコニアを含有していてもよい。
【0035】
ここで、第1領域a1のラマンスペクトルにおける立方晶系ジルコニアのピーク強度に対する正方晶系ジルコニアのピーク強度の割合R1(以下、「第1領域a1の強度割合R1」と適宜略称する。)は、第2領域a2のラマンスペクトルにおける立方晶系ジルコニアのピーク強度に対する正方晶系ジルコニアのピーク強度の割合R2(以下、「第2領域a2の強度割合R2」と適宜略称する。)よりも大きい。
【0036】
そのため、立方晶系ジルコニア粒子よりも粒径が比較的小さい正方晶系ジルコニア粒子で立方晶系ジルコニア粒子同士を強固に連結することによって、多孔質な第1領域a1の骨格構造を強化することができる。従って、燃料流路110Sの上流側において燃料ガスの予熱が十分ではないことに起因して、固体電解質層120の上流部位120aの温度が低下したとしても、上流部位120aが熱応力によって損傷を受けることを抑制できる。
【0037】
なお、第1領域a1の強度割合R1は、以下のようにして取得される。
【0038】
まず、第1領域a1の厚み方向に平行な断面において、厚み方向に垂直な面方向に第1領域a1を等分する5箇所でラマンスペクトルを取得する。ラマンスペクトルを取得する5箇所の厚み方向における位置は、おおよそ同じ位置であることが好ましい。
【0039】
次に、立方晶系ジルコニア及び正方晶系ジルコニアそれぞれに固有のラマンスペクトル(既知のスペクトルデータ)を用いて5箇所のラマンスペクトルそれぞれを解析することによって、立方晶系ジルコニアのスペクトル強度に対する正方晶系ジルコニアのスペクトル強度の比を算出する。ラマンスペクトルを既知のスペクトルデータを用いて解析する手法としては、ラマンスペクトルから化学種を推定するための周知の手法であるCLS法を用いるものとする。
【0040】
次に、5箇所のラマンスペクトルそれぞれから算出された強度割合を算術平均することによって、第1領域a1の強度割合R1が算出される。強度割合R1は、第1領域a1における立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの濃度比率(存在比率)を示す指標である。第1領域a1の強度割合R1の単位は、“%”である。
【0041】
第1領域a1の強度割合R1は特に制限されないが、0.5%以上10%以下とすることができる。第1領域a1の強度割合R1は、1%以上が好ましく、8%以下がより好ましい。
【0042】
第2領域a2の強度割合R2は、第1領域a1の強度割合R1と同様、以下のようにして取得される。
【0043】
まず、第2領域a2の厚み方向に平行な断面において、面方向に第2領域a2を等分する5箇所でラマンスペクトルを取得する。ラマンスペクトルを取得する5箇所の厚み方向における位置は、おおよそ同じ位置であることが好ましい。
【0044】
次に、立方晶系ジルコニア及び正方晶系ジルコニアそれぞれに固有のラマンスペクトル(既知のスペクトルデータ)を用いて5箇所のラマンスペクトルそれぞれを解析することによって、立方晶系ジルコニアのスペクトル強度に対する正方晶系ジルコニアのスペクトル強度の比を算出する。
【0045】
次に、5箇所のラマンスペクトルそれぞれから算出された強度割合を算術平均することによって、第2領域a2の強度割合R2が算出される。強度割合R2は、第2領域a2における立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの濃度比率(存在比率)を示す指標である。第2領域a2の強度割合R2の単位は、“%”である。
【0046】
第2領域a2の強度割合R2は、第1領域a1の強度割合R1以下であればよく特に制限されないが、0.1%以下とすることができる。第2領域a2の強度割合R2は、0.05%以下がより好ましい。
【0047】
(燃料電池スタック10の製造方法)
燃料電池スタック10の製造方法について説明する。
【0048】
まず、燃料極110を形成するための混合粉末(例えば、NiO粉末とYSZ粉末との混合粉末)に有機バインダー及び溶媒を混合することによってスラリーを調製する。そして、このスラリーを用いて燃料極用シート(燃料極110の成形体)を作製する。
【0049】
次に、燃料極110の成形体のうち燃料ガスの流通方向FGの上流端側から流通方向FGに1/4の領域に、第1領域a1用のジルコニア系材料をディップ成形した後、その上に領域に第2領域a2用のジルコニア系材料をディップ成形することによって、固体電解質層120のうち上流部位120aの成形体を形成する。
【0050】
この際、第1領域a1用のジルコニア系材料に含まれる正方晶系ジルコニアの混合割合を、第2領域a2用のジルコニア系材料に含まれる正方晶系ジルコニアの混合割合よりも多くする。第1領域a1の強度割合R1は、第1領域a1用のジルコニア系材料に含まれる立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの混合割合によって調整することができる。同様に、第2領域a2の強度割合R2は、第2領域a2用のジルコニア系材料に含まれる立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの混合割合によって調整することができる。ただし、第2領域a2用のジルコニア系材料には立方晶系ジルコニアのみが含まれていてもよい。
【0051】
次に、燃料極110の成形体のうち燃料ガスの流通方向FGの上流端側から流通方向FGに1/4を超える領域に、ジルコニア系材料をディップ成形することによって、固体電解質層120のうち下流部位120bの成形体を形成する。下流部位120bに用いるジルコニア系材料は、正方晶系ジルコニアを含有していなくてもよい。例えば、下流部位120bには、上流部位120aの第2領域a2と同じジルコニア系材料を用いることができる。
【0052】
次に、燃料極110の成形体と固体電解質層120の成形体との積層体に脱バインダー処理のための熱処理を施した後、酸素含有雰囲気中、1300〜1600℃で共焼成することによって、燃料極110及び固体電解質層120の共焼成体が得られる。
【0053】
次に、空気極130を形成するための粉末(例えば、LaFeO
3系酸化物粉末)を溶媒に分散させた塗布液を固体電解質層120の表面にディップ成形することによって、空気極130の成形体を形成する。
【0054】
次に、空気極130の成形体を1000〜1300℃で焼成することによって、空気極130を形成する。
【0055】
(他の実施形態)
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形又は変更が可能である。
【0056】
上記実施形態では、燃料電池スタック10が備える全てのセル100に対して、本発明にかかる固体電解質層120を適用することとしたが、本発明にかかる固体電解質層120は、少なくとも1つのセル100に対して適用されていればよい。
【0057】
上記実施形態では、燃料電池スタック10が複数のセル100と複数のセパレータ200とを備えることとしたが、少なくとも1つのセル100と、当該セル100を挟持する2つのセパレータ(第1セパレータ200a及び第2セパレータ200b)とを備えていればよい。
【0058】
上記実施形態では、セル100が正方形板状に形成されることとしたが、これに限られるものではない。例えば、セル100は、円形板状、矩形板状、三角板状、或いは五角以上の多角形板状に形成されていてもよい。このような場合であっても、固体電解質層120の上流部位120aは、固体電解質層120のうち、燃料ガスの流通方向FGにおける上流端部から流通方向FGに1/4の領域である。
【0059】
上記実施形態では、
図4に示したように、燃料ガスの流通方向FGは、セル100の外縁二辺と平行な方向であることとしたが、これに限られるものではない。燃料ガスの流通方向FGは、セル100の形状によって制限されるものではなく、セル100の外縁に対して傾斜していてもよい。このような場合であっても、固体電解質層120の上流部位120aは、固体電解質層120のうち、燃料ガスの流通方向FGにおける上流端部から流通方向FGに1/4の領域である。
【0060】
上記実施形態では、セル100が燃料極110と固体電解質層120と空気極130とによって構成されることとしたが、燃料極110と固体電解質層120とは直接的に接触していなくてもよいし、固体電解質層120と空気極130とは直接的に接触していなくてもよい。例えば、固体電解質層120と空気極130との間には、高抵抗層が形成されることを抑制するためのバリア層が介挿されていてもよい。バリア層は、例えば、セリア及びセリアに固溶した希土類金属酸化物を含むセリア系材料を用いることができる。このようなセリア系材料としては、GDC(ガドリニウムドープセリア)、SDC(サマリウムドープセリア)などが挙げられる。
【0061】
上記実施形態では、本発明にかかる固体電解質層を固体酸化物型燃料電池に適用した場合について説明したが、本発明にかかる固体電解質層は、固体酸化物型燃料電池のほか、固体酸化物型電解セルを含む固体酸化物型電気化学セルに適用可能である。
【解決手段】燃料電池スタック10のセル100において、固体電解質層120は、燃料極110と第1セパレータ200aとの間の燃料流路110Sを流れる燃料ガスの流通方向FGにおける上流側に位置する上流部位120aと、流通方向FGにおける下流側に位置する下流部位120bとを有する。上流部位120aは、燃料極側表面120Sから3μm以内の第1領域a1と、第1領域a1上に設けられる第2領域a2とを含む。第1領域a1のラマンスペクトルにおける立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの強度割合R1は、第2領域a2のラマンスペクトルにおける立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの強度割合R2よりも大きい。