(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6349569
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】セルフシールドアーク溶接機
(51)【国際特許分類】
B23K 9/073 20060101AFI20180625BHJP
【FI】
B23K9/073
B23K9/073 515
B23K9/073 535
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-148226(P2015-148226)
(22)【出願日】2015年7月28日
(65)【公開番号】特開2017-24064(P2017-24064A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2017年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】510022543
【氏名又は名称】株式会社広宣
(73)【特許権者】
【識別番号】515059119
【氏名又は名称】基礎建販株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143111
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 秀夫
(74)【代理人】
【識別番号】100189876
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 将晴
(72)【発明者】
【氏名】平原 長年
【審査官】
奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−216939(JP,A)
【文献】
特開2011−156590(JP,A)
【文献】
特開2010−264487(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0327751(US,A1)
【文献】
特開昭57−121877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00−9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチと、ワイヤ送給手段とを含み、電源から離れた溶接作業現場に移動可能なセルフシールドアーク溶接機において、
直流安定化電源と、ワイヤ送給速度決定手段とを備え、
アーク発生電力が第1の電源から供給され、ワイヤ送給電力がアークの発生による影響を受けないように第1の電源経路とは分離された第2の電源から供給され、
前記ワイヤ送給手段には、前記直流安定化電源を介して前記ワイヤ送給電力が供給され、
前記直流安定化電源が、前記ワイヤ送給電力を一定の電圧値の直流に平滑化させる平滑化回路を含み、
前記平滑化回路が、第1の電源から分離された第2の電源のみからの電力を平滑化させて前記ワイヤ送給手段を作動させ、
前記ワイヤ送給速度決定手段が、第1の電源から分離された第2の電源のみを電源とし、溶接ワイヤの送給速度を決定させ、
前記溶接トーチに送給させる溶接ワイヤを、決定された一定の前記送給速度で送給させる、
ことを特徴とするセルフシールドアーク溶接機。
【請求項2】
前記ワイヤ送給速度決定手段には、可変電圧手段が含まれ、
前記可変電圧手段は、前記ワイヤ送給電力の電圧値を昇降させて、前記溶接ワイヤの送給速度を決定させ、
前記ワイヤ送給手段が、前記送給速度により前記溶接ワイヤを送給させる、
ことを特徴とする請求項1に記載のセルフシールドアーク溶接機。
【請求項3】
第2の電源のみからの電力により作動される前記ワイヤ送給手段が、極性切替手段を含み、
前記極性切替手段が、アーク発生電力の電流の向きを反転可能とし、
前記アーク発生電力が、直流電源とされた第1の電源から供給される場合に、
前記溶接ワイヤが反対の極性の溶接ワイヤに交換されても、前記極性切替手段により前記アーク発生電力の電流の向きを反転させて、前記ワイヤ送給手段が駆動される、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のセルフシールドアーク溶接機。
【請求項4】
直流交流電源を供給させるエンジンウェルダの直流大電流電源が第1の電源とされ、
前記エンジンウェルダの交流電源が第2の電源とされ、
前記セルフシールドアーク溶接機が、前記エンジンウェルダに接続されて溶接可能とされている、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のセルフシールドアーク溶接機。
【請求項5】
前記ワイヤ送給手段には、起動スイッチが含まれ、
前記起動スイッチは、前記溶接トーチの手元に設けられ、
前記アーク発生電力の供給にかかわりなく、
前記起動スイッチの起動制御により前記ワイヤ送給手段を起動制御して、前記溶接ワイヤが送給可能とされている、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のセルフシールドアーク溶接機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接電源が交流又は直流のいずれでも溶接可能であると共に、極性や径が異なる溶接ワイヤでも溶接可能であり、母材の板厚、溶接姿勢、溶接工程の状況に応じて使い分けることができるセルフシールドアーク溶接機に関する。また、ワイヤ送給手段が軽量化され、屋外の工事現場であっても移動させやすいセルフシールドアーク溶接機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、セルフシールドアーク溶接機は、アーク発生に交流電源を使用する交流用のセルフシールドアーク溶接機と、アーク発生に直流電源を使用する直流用のセルフシールドアーク溶接機とが作業環境に応じて使い分けられていた。例えば、工場など安定した交流の商用電源が得られる場所では、交流用のセルフシールドアーク溶接機が使用され、屋外で商用電源が確保しにくい場所では、アークが安定している直流用のセルフシールドアーク溶接機が使用されている。
【0003】
具体的には、屋外では、搬送しやすく配線が容易であるエンジンウェルダが、溶接用の直流電源として使用されている。この場合には、アーク発生用の電力とワイヤ送給用の電力とが、ひとつの直流電源から供給されていた。そのため、直流用のセルフシールドアーク溶接機では、使用できる溶接ワイヤが直径2.0mm以下の細径の溶接ワイヤに限定されていた。太径の溶接ワイヤにより溶接を行う場合には、大電流が必要とされるため、大容量の電力が供給できる大型の交流発電機により交流用のセルフシールドアーク溶接機を使用する必要があった。
【0004】
また、セルフシールドアーク溶接に使用される溶接電源の特性は、定電圧特性、垂下特性、定電流特性の3種類に大別されている。定電圧特性電源が使用される場合には、溶接ワイヤを一定の速度で送給させる定速送給方式によって溶接が行われる。定電圧特性電源によれば、電流値の変動に応じてワイヤ溶融速度を変えて、アーク長が一定に保たれるようにされていた。このアーク長が一定に保たれる自己制御作用によって、制御回路を有さない簡単な構成であってもアーク長が一定に保たれていた。
【0005】
しかし、定電圧特性電源によれば、アーク電流が大きく変化する。アーク電流が変化すると、溶接ワイヤの溶融に必要な電流密度を十分に確保することができず、溶融不良を起こし、母材の溶込みが不安定となるという課題があった。そして、高い電流密度が必要な太径の溶接ワイヤが使用できないという課題があった。
【0006】
そこで、太径の溶接ワイヤが使用される場合には、垂下特性電源又は定電流特性の電源が使用されている。垂下特性電源及び定電流特性電源のいずれも自己制御作用を有していないため、アーク長を一定に保つために、アーク電流を一定に制御しながら、アーク電圧値等の検出回路と、その検出値に基づいてワイヤ送給速度を変える制御回路とが必要とされていた。
【0007】
また、溶接に大電流が使用されるため、発熱部の放熱の必要があるため電流センサが大型化し、電流検出回路も大型となっていた。更に、アーク電圧を検出するための検出回路と、電動機の回転速度を増減調節するための制御回路が必要となっていた。これらの検出回路と制御回路とを備えさせると、ワイヤ送給装置が大きくなると共に重くなり、溶接機が移動しにくいものとなるという課題があった。
【0008】
また、直流用と交流用とでは制御回路の構成が異なるため、ひとつのセルフシールドアーク溶接機では、直流用の溶接ワイヤと、交流用の溶接ワイヤとを使い分けることができなかった。また、直流用のセルフシールドアーク溶接機においても、制御回路がいずれか一方の極性においてしか動作しないため、直流正極性用の溶接ワイヤと直流負極性用の溶接ワイヤとを使い分けることはできなかった。
【0009】
ここで、直流負極性用の溶接ワイヤが使用される場合には、溶接ワイヤが電源の負極側と接続され、母材が電源の正極側と接続されて溶接が行われる。一方で、直流正極性用の溶接ワイヤが使用される場合には、溶接ワイヤが電源の正極側と接続され、母材が電源の負極側と接続されて溶接が行われる。
【0010】
この溶接機に接続されるワイヤの極性の違いによって、母材への入熱熱量が異なるため、溶接ワイヤの径が同一の太さであっても、異なった溶接結果となる。具体的には、直流負極性用の溶接ワイヤの場合には、入熱熱量が小さく、母材の溶込みが浅く、ビード幅が狭く、余盛が高くなるといった溶接結果となる。そのため、板厚の薄い母材の溶接や、溶接部のビード外観を整える仕上げ溶接に適し、溶着金属が垂れ落ちやすい立向き溶接姿勢に適している。
【0011】
一方で、直流正極性用の溶接ワイヤの場合には、入熱熱量が大きく、母材の溶込みが深く、ビード幅が広く、余盛が低くなるといった溶接結果となる。そのため、多くの溶着金属が必要とされる板厚の厚い母材が短時間で溶接できる反面、溶接部のビード外観を整えにくく、立向き溶接には適していない。母材の板厚、溶接姿勢、溶接工程の状況に応じて、良好に溶接できる溶接ワイヤの極性が異なるため、ひとつのセルフシールドアーク溶接機であっても、極性の異なる溶接ワイヤを容易に使い分けられるセルフシールドアーク溶接機が求められていた。
【0012】
従来技術の一つとして、特許文献1には、アーク長を略一定に維持するセルフシールドアーク溶接方法の技術が開示されている。特許文献1の技術によれば、溶接ワイヤに一定値の溶接電流を供給するとともに、溶接電圧検出値と溶接電圧設定値との偏差が無くなるように、溶接電圧偏差値に応じてワイヤ送給速度を増減変化させてアーク長を略一定に維持させるアーク長制御を行うとされている。
【0013】
しかし、特許文献1の技術によれば、溶接電流検出器と、溶接電圧検出器とを備えさせ、検出した電圧値をワイヤ送給モータ制御手段に入力し、溶接ワイヤの送給速度を制御するようにしている。そのため、三相交流電源に接続させるセルフシールドアーク溶接機の重量が重くなり、容易に移動させることができないという課題があった。
【0014】
また、使用できる溶接ワイヤが1.2mmから1.4mm程度の細径の溶接ワイヤに限定され、極性も直流負極性用の溶接ワイヤに限定されていた。そのため、母材の板厚、溶接姿勢、溶接工程の状況に応じて、一つのセルフシールドアーク溶接機で多様な溶接ワイヤを使い分けることができないという課題があった。
【0015】
特許文献2には、現場に商用電源がない場合でも、現場に配備する機器を減少、軽量化できるセルフシールドアーク溶接方法の技術が開示されている。特許文献2によれば、エンジンウェルダなどの直流交流電源を使用し、交流電源をトランスにより低電圧として操作用交流電源とし、セルフシールドアーク溶接機を操作してワイヤ送給を行うと共に、直流高圧電源を溶接用電源としてセルフシールドアーク溶接を行うとされている。
【0016】
しかし、特許文献2に記載の溶接方法による場合でも、安定した溶接を行うためには溶接電流及び溶接電圧の検出手段と、その電流値・電圧値に応じて溶接ワイヤの送給速度を制御する制御手段が必要であった。そのため、大型の交流発電機や抵抗器をなくすことができても、ワイヤ送給装置本体は軽量化できなかった。
【0017】
また、特許文献2の技術では、溶接ワイヤに供給されている溶接電流が流れる向きが反転されると、電流検出手段・電圧検出手段に備えられたリレー回路が動作しなくなるため、ワイヤ送給用の電動機に操作信号が入力されず、溶接ワイヤの送給が停止されていた。そのため、特許文献1と同様に、使用できる溶接ワイヤの極性が、いずれか一方の極性に限定されるという課題があった。また、溶接電源が直流電源に限定されているため、商用電源が配備されている現場であっても、商用電源を使うことができないという課題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
特許文献1:特開平10−175067号公報
特許文献2:特開2011−156590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明が解決しようとする課題は、溶接電源が交流又は直流のいずれでも溶接可能であると共に、極性や径が異なる溶接ワイヤでも溶接可能であり、母材の板厚、溶接姿勢、溶接工程の状況に応じて使い分けることができ、ワイヤ送給手段が軽量化され、工事現場で移動させやすいセルフシールドアーク溶接機を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の第1の発明は、溶接トーチと、ワイヤ送給手段とを含み、電源から離れた溶接作業現場に移動可能なセルフシールドアーク溶接機において、直流安定化電源と、ワイヤ送給速度決定手段とを備え、アーク発生電力が第1の電源から供給され、ワイヤ送給電力がアークの発生による影響を受けないように第1の電源経路とは分離された第2の電源から供給され、前記ワイヤ送給手段には、前記直流安定化電源を介して前記ワイヤ送給電力が供給され、前記直流安定化電源が、前記ワイヤ送給電力を一定の電圧値の直流に平滑化させる平滑化回路を含み、前記平滑化回路が、第1の電源から分離された第2の電源のみからの電力を平滑化させて前記ワイヤ送給手段を作動させ、前記ワイヤ送給速度決定手段が、第1の電源から分離された第2の電源のみを電源とし、溶接ワイヤの送給速度を決定させ、前記溶接トーチに送給させる溶接ワイヤを、決定された一定の前記送給速度で送給させることを特徴としている。
【0021】
第1の電源は、溶接に必要な大電流を供給できる電源であればよく、交流電源であってもよく、直流電源であってもよい。電源特性は、垂下特性電源であってもよく、定電流特性電源であってもよい。第2の電源は、ワイヤ送給手段が駆動される電力を供給できればよく、交流電源であってもよく、直流電源であってもよい。また、第2の電源の電圧値等は限定されないが、直流安定化電源に入力される電圧値を交流100Vに合わせると、商用電源を利用できるため汎用性が高く好適である。
【0022】
具体的には、溶接現場に予め商用電源が配備されている場合には、商用電源から抵抗器を介して第1の電源を供給させると共に、第1の電源とは分離された商用電源から第2の電源を供給すればよい。商用電源等が配備されていない場合には、エンジンウェルダ等の直流交流電源を使用して、エンジンウェルダから出力される直流大電流電源を第1の電源とし、交流電源を第2の電源とすればよい。
【0023】
第1の電源から供給されるアーク発生電力と、第2の電源から供給されるワイヤ送給電力とが分離されているため、アーク発生電力が変動されても、ワイヤ送給手段に供給される電力に影響を与えることがない。そのため、アーク長を一定に保つために、ワイヤ送給手段を制御し、ワイヤ送給速度を調整させる必要がなく、アーク部分の電流・電圧を検出させる検出回路が不要となり、検出回路に含まれるリレー回路も不要となる。極性の異なる溶接ワイヤの使用を阻害させていたリレー回路が不要であるため、溶接ワイヤに流れる電流の向きが反転されても、ワイヤ送給手段の駆動が停止されることがない。
【0024】
そのため、第1の電源が交流電源とされて電流の向きが周期的に変化されても、直流電源とされて溶接ワイヤに流れる電流の向きが反転されても、ワイヤ送給手段を変更させることなく、ひとつのセルフシールドアーク溶接機で溶接できる。これにより、第1の電源が交流電源であっても、直流電源であっても、アーク発生電源として使用できると共に、ひとつのセルフシールドアーク溶接機であっても、使用できる溶接ワイヤの極性が限定されず、直流正極性用・直流負極性用・交流用のいずれの溶接ワイヤであっても溶接できるという有利な効果を奏する。
【0025】
第2の電源からの電源供給経路と、第1の電源からの電源供給経路とが分離されているため、溶接ワイヤを送給させるために直流電動機が駆動されても、溶接電源となる第1の電源の電力が消費されることはなく、溶接に使用できる電流を大電流としたまま維持できる。これにより、交流発電機と比べて電源容量の小さいエンジンウェルダを使用して溶接を行う場合であっても、使用できる溶接ワイヤの直径が1.2mm〜2.0mmの細径の溶接ワイヤに限定されず、2.4mm〜3.2mmの太径の溶接ワイヤであっても、良好に溶接できるという有利な効果を奏する。
【0026】
また、重量のある電流検出センサ等を含んだ検出回路、及び直流電動機の回転速度を増減変化させる制御手段等を備えさせる必要がないため、セルフシールドアーク溶接機を軽量化できる。具体的には、特許文献2に記載の技術で使用されている半自動溶接機と比べて、本願のセルフシールドアーク溶接機であれば約2分の1の重量とできる。これにより、溶接作業者が1人であっても、セルフシールドアーク溶接機を容易に移動させることができる。
【0027】
直流安定化電源とは、入力された電源を平滑化回路により整流・平滑化させて、一定の電圧値とされた直流電源として出力させた電源をいう。例えば、第2の電源は、交流電源であればシャントレギュレータ、シリーズレギュレータ、スイッチングレギュレータ等であればよく、直流電源であればDC/DCコンバータであればよく限定されない。中でもスイッチングレギュレータが、小型かつ電力の変換効率が高いため、機材の小型化・軽量化できると共に、消費電力を低減でき好適である。また、一定の電圧値とは、ワイヤ送給手段に含まれる直流電動機を一定の回転速度で駆動させる定電圧値をいい、直流電動機の定格電圧値・回転数等に応じて設定されればよく、限定されない。
【0028】
直流安定化電源により、現場の発電機によって発電された安定度の低い交流電源であっても、安定した直流電源となるように平滑化されるため、溶接ワイヤを安定して送給できる。そのため、アークを発生させながら照明やサンダー等が同時に使用されたとしても、溶接ワイヤの送給速度が突然変動されることがない。これにより、溶接を安定して行うことができ、溶接欠陥が発生しにくくなる。
【0029】
ワイヤ送給速度決定手段は、溶接作業者が所望するワイヤ送給速度となるように、ワイヤ送給速度を調整できればよく、その構成は限定されない。例えば、ワイヤ送給電力を、直流安定化電源と可変電圧出力器とを介してワイヤ送給手段に供給させる構成とし、可変電圧出力器により直流安定化電源から出力される電圧値を所望の定電圧値となるように増減変化させて、ワイヤ送給速度を調整させればよい。また、直流安定化電源をスイッチングレギュレータとし、基準電圧信号を所望の定電圧値となるように増減変化させて、直流安定化電源から出力される電圧値を調整させてもよい。これにより、溶接ワイヤの太さ、溶接ワイヤの極性に応じて、適切な溶接ができるように溶接ワイヤの送給速度を決定できる。
【0030】
本発明の第1の発明によれば、溶接電源が交流又は直流のいずれでも溶接可能であると共に、極性や径が異なる溶接ワイヤでも溶接可能であり、母材の板厚、溶接姿勢、溶接工程の状況に応じて使い分けることができ、ワイヤ送給手段が軽量化され、工事現場で移動させやすいという有利な効果を奏する。
【0031】
本発明の第2の発明は、第1の発明のセルフシールドアーク溶接機であって、前記ワイヤ送給速度決定手段には、可変電圧手段が含まれ、前記可変電圧手段は、前記ワイヤ送給電力の電圧値を昇降させて、前記溶接ワイヤの送給速度を決定させ、前記ワイヤ送給手段が、前記送給速度により前記溶接ワイヤを送給させることを特徴としている。
【0032】
ワイヤ送給手段に備えられる直流電動機は、入力される電圧値と回転数とが比例関係にあるため、入力される電圧値を調整することにより、直流電動機を所望の回転速度で駆動させることができる。そのため、ワイヤ送給電力の電圧値を昇降させることにより、容易に所望の回転数となるように直流電動機を駆動させることができる。
【0033】
可変電圧手段は、直流電動機に入力されるワイヤ送給電力の電圧値を、所望の電圧値となるように調整できればよく、その構成は限定されない。例えば、直流安定化電源の出力側に可変電圧出力器を備えさせ、直流電動機が所望の回転速度となるように、可変電圧出力器の内部抵抗値を変化させて、直流安定化電源から出力される電圧値を増減させればよい。これにより、直流電動機に入力されるワイヤ送給電力の電圧値のみが調整される簡単な構成で、溶接作業者の熟練度、母材の材質・板厚、溶接ワイヤの太さ・極性に応じて、所望のワイヤ送給速度で溶接ワイヤを送給できるため、溶接し易く、溶接欠陥が生じにくい。
【0034】
本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明のセルフシールドアーク溶接機であって、第2の電源のみからの電力により作動される前記ワイヤ送給手段が、極性切替手段を含み、前記極性切替手段が、アーク発生電力の電流の向きを反転可能とし、前記アーク発生電力が、直流電源とされた第1の電源から供給される場合に、前記溶接ワイヤが反対の極性の溶接ワイヤに交換されても、前記極性切替手段により前記アーク発生電力の電流の向きを反転させて、前記ワイヤ送給手段が駆動されることを特徴としている。
【0035】
極性切替手段は、溶接ワイヤに流れる電流が反転できればよく、その構成は限定されない。例えば、極性切替手段に、溶接ワイヤと第1の電源の正極とが接続される配線と、第1の電源の負極とが接続される配線を備えさせ、切替スイッチにより配線を切替させて、溶接ワイヤに流れる電流を反転させればよい。
【0036】
また、極性切替手段は、溶接作業現場の近くに配置されるワイヤ送給装置に備えられるため、溶接ワイヤの極性を切り替える際に、第1の電源が配置されている場所まで移動しなくても、容易に溶接ワイヤの極性を切り替えられる。これにより、厚い金属板材の十分な溶け込みを直流正極性用の溶接ワイヤにより行ったうえで、溶接仕上げに整った溶接形状を直流負極性用の溶接ワイヤで行うような、現場における溶接作業の変更が容易となる。
【0037】
本発明の第4の発明は、第1から第3の発明のセルフシールドアーク溶接機であって、直流交流電源を供給させるエンジンウェルダの直流大電流電源が第1の電源とされ、前記エンジンウェルダの交流電源が第2の電源とされ、前記セルフシールドアーク溶接機が、前記エンジンウェルダに接続されて溶接可能とされていることを特徴としている。
【0038】
エンジンウェルダの電源特性は、定電圧特性であってもよく、垂下特性であってもよく、複数の電源特性を切り替えて使用できるものであってもよく限定されない。これにより、搬送が容易で事前の配線準備が不要なエンジンウェルダにより溶接を行うことができる。エンジンウェルダは小型であるため、広い工事現場においても、離れた場所に搬送が容易であり現場における溶接作業の変更が容易となる。また、ワイヤ送給によってアーク発生電力が消費されることがなく、電源容量の小さいエンジンウェルダであっても、太径の溶接ワイヤを使用できる。
【0039】
本発明の第5の発明は、第1から第4の発明のセルフシールドアーク溶接機であって、前記ワイヤ送給手段には、起動スイッチが含まれ、前記起動スイッチは、前記溶接トーチの手元に設けられ、前記アーク発生電力の供給にかかわりなく、前記起動スイッチの起動制御により前記ワイヤ送給手段を起動制御して、前記溶接ワイヤが送給可能とされていることを特徴としている。これにより、溶接の状況を確認しながら溶接の中止・再溶接の開始が容易とされる。例えば、第1の電源が工場内の動力電源で、第2の電源が一般商用電源とされる場合に、第1の電源からの電力供給が停止された場合に、第2の電源からのワイヤ送給電力の供給を停止させることにより、溶接トーチから溶接ワイヤが余分に送り出されるのを停止できる。
【発明の効果】
【0040】
・本発明の第1の発明によれば、溶接電源が交流又は直流のいずれでも溶接可能であると共に、極性や径が異なる溶接ワイヤでも溶接可能であり、母材の板厚、溶接姿勢、溶接工程の状況に応じて使い分けることができ、ワイヤ送給手段が軽量化され、工事現場で移動させやすいという有利な効果を奏する。
・第2の発明によれば、直流電動機に入力されるワイヤ送給電力の電圧値のみが調整される簡単な構成で、溶接作業者の熟練度、母材の材質・板厚、溶接ワイヤの太さ・極性に応じて、所望のワイヤ送給速度で溶接ワイヤを送給できるため、溶接し易く、溶接欠陥が生じにくい。
【0041】
・第3の発明によれば、厚い金属板材の十分な溶け込みを直流正極性用の溶接ワイヤにより行ったうえで、溶接仕上げに整った溶接形状を直流負極性用の溶接ワイヤで行うような、現場における溶接作業の変更が容易となる。
・第4の発明によれば、搬送が容易で事前の配線準備が不要なエンジンウェルダにより溶接を行うことができる。エンジンウェルダは小型であるため、広い工事現場においても、離れた場所に搬送が容易であり現場における溶接作業の変更が容易となる。また、ワイヤ送給によってアーク発生電力が消費されることがなく、電源容量の小さいエンジンウェルダであっても、太径の溶接ワイヤを使用できる。
・第5の発明によれば、溶接の状況を確認しながら溶接の中止・再溶接の開始が容易とされる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】セルフシールドアーク溶接機の全体構成図(実施例1)。
【
図2】第1の電源が直流電源とされる場合の説明図(実施例1)。
【
図3】直流安定化電源の構成を説明する模式図(実施例1)。
【
図4】第1の電源が交流電源とされる場合の説明図(実施例2)。
【
図5】極性切替装置を備えたセルフシールドアーク溶接機の説明図(実施例3)。
【発明を実施するための形態】
【0043】
軽量で移動させやすく、溶接作業に応じて多様な溶接ワイヤが使い分けられるセルフシールドアーク溶接機を、アーク発生用の電源とワイヤ送給用の電源とを分け、ワイヤ送給用の電源から直流安定化電源を介してワイヤ送給手段に給電させる簡単な構成のセルフシールドアーク溶接機により実現した。ワイヤ送給手段に極性切替手段と、溶接の起動スイッチとを設けると、溶接作業の変更が容易となり好適である。
【実施例1】
【0044】
実施例1では、第1の電源及び第2の電源をエンジンウェルダにより供給するセルフシールドアーク溶接機1を、
図1から
図3を参照して説明する。
図1は、セルフシールドアーク溶接機の全体構成を説明する斜視図を示している。
図2は、第1の電源からの溶接電源が直流電源とされる場合の配線を示している。
図2(A)図は、直流負極性用の溶接ワイヤ53が使用される場合を示し、
図2(B)図は、直流正極性用の溶接ワイヤ54が使用される場合を示している。
図3は、直流安定化電源装置80の構成を示している。
図3(A)図は、直流安定化電源装置80の構成の模式図を示し、
図3(B)図は、直流安定化電源装置80に含まれる平滑化回路90の回路図を示している。
【0045】
エンジンウェルダ10の直流大電流電源がアーク発生電力を供給する第1の電源20とされ、交流電源がワイヤ送給電力を供給する第2の電源30とされている。直流大電流電源は、直径が2.4mmから3.2mmの太径の溶接ワイヤを使用できるように、380A以上の大電流を出力可能とされている。交流電源は、サンダーや照明等の補助機材11(
図2参照)を溶接と同時に使用できるように、複数の交流100Vの電源が備えられている。
【0046】
セルフシールドアーク溶接機1は、溶接トーチ60と、溶接トーチ60に溶接ワイヤ50を送給するワイヤ送給装置40と、直流安定化電源装置80とから構成されている。ワイヤ送給装置40は、直流電動機41と、直流電動機の回転軸42に装着される駆動ギア43と、溶接ワイヤ50を送り出すローラー44と、溶接ワイヤ50を案内するガイド管45と、溶接トーチ60と溶接電源ケーブル21とを接続させる接続部材46と、これらを配設する本体部47とから構成されている。ワイヤ送給装置40の重量は約10kgとされ、大きさは一人の作業者が簡易に移動できる十分に小さなものとされている(
図1参照)。
【0047】
ローラー44は、駆動ギア43に連動するように噛合されるギアと、溶接ワイヤ50を上下から加圧しながら押し出す加圧ローラーとが一体となって構成されている。直流電動機41は、直流安定化電源装置80からワイヤ送給電力が供給されると一定の回転速度で駆動され、駆動ギア43を回転させる。駆動ギア43の回転に連動されて、二組のローラー44,44が回転され、ガイド管45から挿通された溶接ワイヤが溶接トーチ60に向かって送給される。スプール51は、ワイヤ送給装置40に装着され、溶接ワイヤの送給に伴って軸芯52の周りに回動されて、巻き付けた溶接ワイヤ50を送り出している。
【0048】
溶接トーチ60は、コンジットケーブル62を介して、接続部材46に接続されている。コンジットケーブル62は、内部に溶接ワイヤ50と、溶接電源を供給するケーブルとが挿通され、溶接トーチ60の先端に備えられたコンタクトチップ61を介して、アーク発生電力を溶接ワイヤに供給させている。また、溶接トーチ60にはワイヤ送給装置40を起動制御させる起動スイッチ63、及び起動信号を直流安定化電源装置80に入力するスイッチングケーブル64が備えられている。スイッチングケーブル64は、直流電動機41を介して、ワイヤ送給電力ケーブル81(
図2参照)と共に一本の集合ケーブル82に纏められ、直流安定化電源装置80と接続され、配線が簡素化されている。
【0049】
直流安定化電源装置80は、交流電源ケーブル31を介して、エンジンウェルダ10から供給される第2の電源30と接続され、第2の電源30を平滑化させ、所望の定電圧値とした直流電源に変換させている。そして、ワイヤ送給電力ケーブル81(
図2参照)を介して、直流電動機41にワイヤ送給電力が供給される。また、直流安定化電源装置80には、溶接ワイヤ50の送給速度を選択できる速度設定スイッチ105と、現在の溶接ワイヤの送給速度を示す表示パネル106とが備えられている。
【0050】
ワイヤ送給速度は、使用される溶接ワイヤの径と極性に応じて、溶接作業者が決定する。そして、外気温や湿度等により異なってくるアーク発生の状態を確認しながら、速度設定スイッチ105が操作されて、ワイヤ送給速度が調整される。直流安定化電源装置80は、重さが約2kgとされ、大きさは一人の作業者が簡易に移動できる十分に小さなものとされている(
図1参照)。
【0051】
第1の電源20から延出された溶接電源ケーブル21は、ワイヤ送給装置40に備えられた接続部材46と、溶接トーチ60とを介して溶接ワイヤ50にアーク発生電力を供給させている。溶接電源ケーブル22は、アースクリップ72を介して母材70にアーク発生電力を供給させている。第2の電源30から延出された交流電源ケーブル31は、直流安定化電源装置80を介して、直流電動機41にワイヤ送給電力を供給させている。
【0052】
次に、
図2(A)図及び
図2(B)図を参照して、実施例1における、溶接ワイヤの極性を使い分ける場合について説明する。板厚の薄い母材70の場合には、母材への入熱熱量を小さくできるように直流負極性用の溶接ワイヤ53を使用して、溶接ワイヤが第1の電源30の負極側に接続され、母材が第1の電源30の正極側と接続される(
図2(A)図参照)。この場合には、直径が1.2mm〜2.0mmとなる細径の溶接ワイヤが使用されると好適である。
【0053】
一方で、板厚の厚い母材71の場合には、母材への入熱熱量を大きくできるように、直流正極性用の溶接ワイヤ54を使用して、溶接ワイヤが第1の電源30の正極側に接続され、母材が第1電源30の負極側と接続される(
図2(B)図参照)。この場合には、直径が2.4mm〜3.2mmとなる太径の溶接ワイヤが使用されると好適である。
【0054】
次に、送給させる溶接ワイヤの極性に応じて、溶接ワイヤ53,54を切り替える際の作業について説明する。溶接ワイヤ53,54を切り替える場合には、溶接電源ケーブル21,22が接続される第1の電源の正極、負極を入れ替えるように接続し直すだけでよい。第1の電源20と第2の電源30とが分離されており、かつ、リレー回路等も不要であるため、溶接ワイヤと溶接電源との接続が反転されても、ワイヤ送給電力が影響を受けることがない。そのため、溶接ワイヤに流れる電流の向きが反転されても、ワイヤ送給装置40の構成を変更させることなく作動可能とされ、溶接ワイヤの送給が停止されることがない。これにより、ひとつのセルフシールドアーク溶接機であっても、簡単な構成のまま、異なる極性の溶接ワイヤを使い分けられる。
【0055】
図3を参照して、直流安定化電源装置80の回路構成と、その動作を詳細に説明する。
図3(A)図では、直流安定化電源装置80を破線で示し、可変電圧手段100を一点鎖線で示している。
図3(B)図では、平滑化回路90を破線で示している。
【0056】
まず、
図3(A)図を参照して、直流安定化電源装置80の構成を説明する。直流安定化電源装置80は、平滑化回路90と、可変電圧手段100とを備えている。平滑化回路90は、入力側に第2の電源30が接続され、出力側にヒューズ83を介して、可変電圧手段100が接続される。可変電圧手段100は、ワイヤ送給電力の電圧値を調整させる可変電圧出力器101と、前記電圧値を設定させる出力電圧設定器104とから構成される。可変電圧出力器101には、出力電圧設定器104と、直流電動機41と、スイッチングケーブル64とが接続されている。
【0057】
図3(B)図を参照して、平滑化回路90の動作を説明する。平滑化回路90に第2の電源30からの交流電力が入力されると、ダイオードブリッジ91により整流されると共に、電解コンデンサ92により平滑化されて、直流電力に変換される。その直流電力を、トランジスタ96により高速でスイッチングを行って、高周波トランス93により高周波電源に変換させる。更に、ダイオード94と電解コンデンサ95により整流・平滑化させて、安定化させた直流電源Pを出力させる。
【0058】
次に、スイッチング回路97について説明する。まず、直流電源Pの電圧値を検出して比較回路98に入力し、予め設定した基準電圧値、例えば24Vの電圧値と比較し、そのフィードバック信号を出力させる。ここでフィードバック信号とは、出力側からの電圧検出値を入力側に戻して、出力電圧値が基準電圧値となるように調整させる信号をいう。スイッチング回路97は、比較回路98から出力されたフィードバック信号に応じてパルス幅変調を行い、直流電源Pを基準電圧値と一致させるスイッチング信号を出力させる。そして、トランジスタ96がスイッチング信号に応じて作動され、直流電源Pの電圧値を、基準電圧値とするように調整させる。
【0059】
次に、ワイヤ送給速度を決定する可変電圧手段100(
図3(A)図、一点鎖線参照)について説明する。可変電圧手段100は、可変電圧出力器101と、出力電圧設定器104とから構成されている。可変電圧出力器101は、ワイヤ送給電力の電圧値を昇降させる装置である。可変電圧出力器101には、電源分岐回路102と電子ボリューム103が備えられる。電源分岐回路102には、平滑化回路90から、例えば電圧24Vの直流電源が入力され、それが電子ボリューム103と出力電圧設定器104とに分岐される。
【0060】
出力電圧設定器104に入力された電源は、速度設定スイッチ105において作業者により設定されたワイヤ送給速度に応じた出力電圧信号を電子ボリューム103に送る。その出力電圧信号に応じて電子ボリュームの中にある抵抗値が変化し、平滑化回路から給電された電力を、例えば1〜12Vの間のいずれかの定電圧値として、直流電動機41に電力供給させる。
【0061】
すなわち、電子ボリューム103に入力された電力の電圧値が、速度設定スイッチ105により選択されたワイヤ送給速度に対応された定電圧値となるように昇降され、1〜12Vの間のいずれかの電圧値のワイヤ送給電力が出力される。そして、起動スイッチ63の操作により、スイッチングケーブル64を介して起動信号が入力され、ワイヤ送給電力が直流電動機41に供給され、その電圧値に応じて直流電動機41が一定の速度で回転され、溶接ワイヤが送給される。
【実施例2】
【0062】
実施例2では、
図4を参照して、第1の電源23と第2の電源32とがいずれも交流電源とされる場合のセルフシールドアーク溶接機2の例を説明する。実施例1と同様の構成については同じ符号を付して説明を省略している。実施例2では、大型の交流発電機12に備えられた交流電源がそれぞれ、第1の電源23と第2の電源32とされ、交流用の溶接ワイヤ56が使用されている。第1の電源23は、抵抗器13を介して溶接トーチにアーク発生電力を供給させている。抵抗器13は、トランス14の1次側に供給される交流電力を、大電流・低電圧とした交流電力に変換させ、トランス14の2次側に供給させている。
【0063】
ワイヤ送給電力は、第2の電源32から直流安定化電源装置80を介して、直流電動機41に供給されている。第2の電源32は、第1の電源23から分離されており、かつ、リレー回路等も不要であるため、ワイヤ送給装置40及び直流安定化電源装置80がアークの発生による影響を受けることがなく、実施例1の場合と同様に作動される。そのため、アーク発生電力を供給させる第1の電源が、直流電源又は交流電源のいずれであっても、ワイヤ送給装置40及び直流安定化電源装置80の構成を変更させることなく、溶接を行うことができる。
【実施例3】
【0064】
実施例3では、
図5を参照して、極性切替装置110を備えたセルフシールドアーク溶接機3を説明する。実施例3では、極性切替装置110以外は、実施例1の構成と同一とされる。第1の電源20は、極性切替装置110を介して、直流正極性用の溶接ワイヤ54と母材71とにアーク発生電力を供給させている(
図5(A)図)。
【0065】
極性切替装置は、内部配線112を切り替えることにより、溶接ワイヤに流れる電流の向きを反転させる装置であり、接続端子111と、内部配線112と、切替スイッチ117とから構成されている。まず、
図5(A)図を参照して、直流正極性用の溶接ワイヤ54が使用される場合を説明する。溶接電源ケーブル116は、極性切替装置110を介して、溶接トーチ60に接続される溶接電源ケーブル113と接続されている。溶接電源ケーブル115は、極性切替装置110を介して、母材71に接続される溶接電源ケーブル114と接続されている。この状態により、板厚の厚い母材71が十分に溶込むように、入熱熱量の大きな直流正極性用の溶接ワイヤ54が使用されて溶接が行われる。
【0066】
溶接仕上げを行う場合には、直流正極性用の溶接ワイヤ54を直流負極性用の溶接ワイヤ53に交換すると共に、切替スイッチが切替操作されて、アーク発生電流の向きが反転されるように内部配線112の接続が切替られる(
図5(B)図参照)。そうすると、極性切替装置110を介して、溶接電源ケーブル113と溶接電源ケーブル115とが接続され、溶接電源ケーブル113に流れる電流の向きが反転される。この状態により、直流負極性用の溶接ワイヤ53が使用され、ビードを整えるように溶接仕上げが行われる。
【0067】
(その他)
・今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の技術的範囲は、上記した説明に限られず特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0068】
1,2,3…セルフシールドアーク溶接機、
10…エンジンウェルダ、11…補助機材、12…交流発電機、13…抵抗器、14…トランス、
20…第1の電源、21,22…溶接電源ケーブル、23…第1の電源、
30…第2の電源、31…交流電源ケーブル、32…第2の電源、
40…ワイヤ送給装置、41…直流電動機、42…回転軸、43…駆動ギア、44…ローラー、45…ガイド管、46…接続部材、47…本体部、
50…溶接ワイヤ、51…スプール、52…軸芯、53…直流負極性用の溶接ワイヤ、54…直流正極性用の溶接ワイヤ、56…交流用の溶接ワイヤ、
60…溶接トーチ、61…コンタクトチップ、62…コンジットケーブル、63…起動スイッチ、64…スイッチングケーブル、
70,71…母材、72…アースクリップ、
80…直流安定化電源装置、81…ワイヤ送給電力ケーブル、82…集合ケーブル、83…ヒューズ、
90…平滑化回路、91…ダイオードブリッジ、92…電解コンデンサ、93…高周波トランス、94…ダイオード、95…電解コンデンサ、96…トランジスタ、97…スイッチング回路、98…比較回路、
100…可変電圧手段、101…可変電圧出力器、102…電源分岐回路、103…電子ボリューム、104…出力電圧設定器、105…速度設定スイッチ、106…表示パネル、
110…極性切替装置、111…接続端子、112…内部配線、113,114,115,116…溶接電源ケーブル、117…切替スイッチ