(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記準備工程は、窒化物ガスと、ホウ素化合物ガスと、前記異種元素を含むガスとを用いた化学気相成長法により前記六方晶窒化ホウ素を形成する工程を含む、請求項4に記載の多結晶立方晶窒化ホウ素の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、窒素と、ホウ素と、窒素およびホウ素により構成される結晶構造内にドープされた異種元素とを含み、異種元素は、1族元素および2族元素からなる群より選択される1種以上の元素、または14族元素および酸素以外の16族元素からなる群より選択される1種以上の元素であり、異種元素の含有率は、1質量ppm以上6×10
4質量ppm以下である、多結晶立方晶窒化ホウ素(以下、立方晶窒化ホウ素を「cBN」ともいう)である。本発明の多結晶cBNは、高い硬度を維持し、かつ放電加工が可能である。
【0014】
また、本発明は、上記多結晶cBNを製造する方法であり、六方晶窒化ホウ素(以下、「hBN」ともいう)を準備する準備工程と、hBNを焼結させて多結晶cBNに直接変換させる変換工程と、を備え、hBNは、窒素と、ホウ素と、窒素と、ホウ素により構成される結晶構造内にドープされた異種元素とを含み、異種元素は、1族元素および2族元素からなる群より選択される1種類以上の元素、または14族元素および酸素以外の16族元素からなる群より選択される1種以上の元素であり、六方晶窒化ホウ素における異種元素の含有率は、1質量ppm以上6×10
4質量ppm以下である、多結晶cBNの製造方法である。本発明の多結晶cBNの製造方法によれば、高い硬度を維持し、かつ放電加工が可能な多結晶cBNを製造することができる。
【0015】
以下、本発明に係る多結晶cBN、および多結晶cBNの製造方法について、さらに詳細に説明する。
【0016】
<多結晶立方晶窒化ホウ素(多結晶cBN)>
本実施形態の多結晶cBNは、窒素(N)と、ホウ素(B)と、窒素およびホウ素により構成される結晶構造内にドープされた異種元素とを含む。
【0017】
本明細書において、「結晶構造内にドープされた異種元素」とは、異種元素が、窒素およびホウ素が共有結合することによって構成されるcBNの結晶構造において、一部の窒素またはホウ素と置換された状態で、換言すれば、結晶構造を構成する窒素およびホウ素と共有結合した状態で存在しており、原子レベルで結晶構造内に分散されている状態をいう。本実施形態の多結晶cBNは、好ましくはクラスター化した異種元素を含まない。クラスターは、複数の原子が凝集した状態で結晶構造内に存在する状態であり、結晶構造内に原子レベルで分散して存在する状態とは異なる。クラスター化した異種元素を含む場合、異種元素は結晶構造内に不均一に存在することになり、多結晶cBNの均質性を低下させるとともに、結晶構造に大きな歪みをもたらし、結果的に多結晶cBNの硬度を低下させることになるので好ましくない。
【0018】
原料のhBN、多結晶cBNにおいて、異種元素が含まれるかどうかおよびその含有率は誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)分析、2次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectroscopy)によって測定することができる。多結晶cBNに異種元素が含まれる場合に、異種元素が原子レベルで結晶構造内に分散されているかどうかは、たとえば、(1)多結晶cBN中に異種元素の結晶相が存在するかどうかを観察することによって、(2)多結晶cBNにおける異種元素の原子濃度分布を測定することによって、(3)多結晶cBNの導電性の有無を測定することによって、また、上記(1)〜(3)および他の方法を適宜組み合わせることによって確認することができる。
【0019】
上記(1)に関し、原子レベルで結晶構造内に分散されている異種元素は、cBNとは異なる結晶相を構成しないため、異種元素の結晶相が観察されない。これに対して、クラスター化して存在する異種元素は、cBNとは異なる結晶相を構成するため、異種元素の結晶相が観察される。このような結晶相の有無は、たとえば、X線回折スペクトルによって観察することができ、また、結晶相の大きさによっては、目視によっても観察することができる。
【0020】
上記(2)に関し、異種元素が原子レベルで結晶構造内に分散されている場合、クラスター化した状態で存在している場合と比して、異種元素の原子濃度分布は均一となる。このような原子濃度分布は、たとえば、二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectroscopy)によって測定することができる。結晶構造中の任意の2点において測定される異種元素の原子濃度差が所定の値以下である場合に、異種元素の原子濃度分布が均一であるとみなすことができ、異種元素は、原子レベルで結晶構造内に分散されている状態であり、クラスター化している状態ではないとみなすことができる。
【0021】
上記(3)に関し、たとえば、cBNに対し、X線回折スペクトルによって異種元素の結晶相が存在しないことを確認し、さらに、cBNの体積抵抗率(Ωcm)を測定して導電性を確認する。異種元素の結晶相が確認されず、かつ体積抵抗率が所定値以下である場合に、異種元素が原子レベルで結晶構造内に分散されているとみなすことができる。
【0022】
本実施形態の多結晶cBNにドープされた異種元素は、1族元素および2族元素からなる群より選択される1種類以上の元素、または14族元素および酸素以外の16族元素からなる群より選択される1種以上の元素である。1族元素および2族元素は、最外殻のp軌道に電子がないので、アクセプターとなって多結晶cBNに導電性を付与することができる。1族元素としては、リチウム(Li)が例示され、2族元素としてベリリウム(Be),マグネシウム(Mg)が例示される。14族元素および16族元素は、最外殻のp軌道の電子を供与することによりドナーとなって多結晶cBNに導電性を付与することができる。14族元素としては、炭素(C),ケイ素(Si)が例示され、16族元素としては、硫黄(S)が例示される。
【0023】
本実施形態の多結晶cBNは、異種元素として、1族元素および2族元素からなる群より選択される1種以上のアクセプターとなる元素、または14族元素および酸素以外の16族元素からなる群より選択される1種以上のドナーとなる元素を含むものであり、アクセプターとなる元素を複数種類含んでいてもよく、またドナーとなる元素を複数種類含んでいてもよい。
【0024】
本実施形態の多結晶cBNにおいて、異種元素の含有率は、1質量ppm以上6×10
4質量ppm以下である。異種元素の含有率が1質量ppm未満であると導電性を付与することが難しく、6×10
4質量ppmを超えると硬質材料に有用な十分な硬度を得ることが難しくなる。また、5×10
3質量ppm以上であることにより、容易に放電加工ができる程度の導電性を付与することができる。本明細書において、異種元素の含有率は、ICP分析により測定される値とする。なお、本実施形態の多結晶cBNにおいては、異種元素は含有率によらず均一に分散されているので、多結晶cBNにおいて局所的な特性のばらつきが生じることを抑制することができる。
【0025】
本実施形態の多結晶cBNは体積抵抗率が、好ましくは100mΩcm以下であり、さらに好ましくは10mΩcm以下である。体積抵抗率が100mΩcm以下であることにより、放電加工しやすく、放電加工により効率的な加工および精密な加工が可能となる。本明細書において、体積抵抗率とはJIS C2141に準じて測定される値とする。
【0026】
本実施形態の多結晶cBNを構成する単結晶の粒径(結晶粒の最大長さ)は、好ましくは1μm以下であり、さらに好ましくは10〜500nmである。単結晶の粒径が500nm以下であることにより、等方性が向上し、欠けにくく、耐摩耗性に優れた多結晶cBNが得られる。多結晶cBNを構成する単結晶の粒径はばらつきが小さい方が好ましく、全結晶を構成する粒子群の平均粒径の2倍を超える粒径を有する粒子数が20%未満であることが好ましい。粒径のばらつきが上記範囲内であることにより、さらに等方性が向上し、耐摩耗性に優れた多結晶cBNが得られる。
【0027】
本実施形態の多結晶cBNは、後述する多結晶cBNの製造方法により製造することができ、この製造方法によれば、単結晶の粒子間に結合剤を介在させることなく、粒子同士を強固に結合させることができる。これにより、本実施形態の多結晶cBNは、結合剤により粒子同士を結合させた場合と比して、高い硬度を有することができる。したがって、本実施形態の多結晶cBNは、結合剤を含有しないことが好ましい。
【0028】
また、後述する製造方法によれば、不可避不純物の混入量が十分に低い多結晶cBNを製造することができる。具体的には、本実施形態の多結晶cBNにおいて、不可避不純物である各元素の各々の含有率を1×10
3質量ppm以下、さらには1×10
2質量ppm以下とすることができる。不可避不純物である各元素の各々の含有率が1×10
3質量ppm以下であることにより、単結晶粒界でのすべりを抑制することができ、単結晶粒同士の結合をより強固にすることができるため、多結晶cBNの硬度をさらに高めることができる。したがって、本実施形態のcBNにおいて、不可避不純物である各元素の各々の含有率は、好ましくは1×10
3質量ppm以下であり、さらに好ましくは1×10
2質量ppm以下である。なお、不可避不純物とは、窒素、ホウ素、および意図した異種元素以外の元素を意味し、水素(H)、酸素(O)、シリコン(Si)、遷移金属などを挙げることができる。
【0029】
不可避不純物の各元素の各々の含有率は、ICP分析やSIMS分析で測定することができる。これらの分析方法による検出限界は1×10
2質量ppm程度であるので、不可避不純物は、これらの分析方法により検出されない程度であることが好ましい。
【0030】
また、本実施形態の多結晶cBNは、高い硬度を維持し、かつ放電加工が可能であることから、効率的な加工および精密な加工が可能である。多結晶cBNは、鉄系材料に対する耐摩耗性が高いので、本実施形態のcBNは、たとえば、鉄系材料を加工するための工具に用いることができる。なお、鉄系材料とは、鉄を含む材料を意味し、純鉄の他、さらにニッケル、コバルト、マンガン、クロム、チタンなどを含む原料を挙げることができる。
【0031】
工具としては、切削工具、研削工具、耐摩工具などを挙げることができる。切削工具としては、たとえば、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ、ドレッサーなどを挙げることができる。より具体的には、研削工具としては、砥石、ディスクラインダーなどを挙げることができる。耐摩の必要な用途としては、ダイス、摺動部品などを挙げることができる。
【0032】
<多結晶立方晶窒化ホウ素(多結晶cBN)の製造方法>
本実施形態の多結晶cBNの製造方法は、六方晶窒化ホウ素(hBN)を準備する準備工程と、hBNを焼結させて多結晶cBNに直接変換させる変換工程と、を備える。準備されるhBNは、窒素と、ホウ素と、窒素およびホウ素により構成される結晶構造内にドープされた異種元素とを含み、異種元素は、1族元素および2族元素からなる群より選択される1種類以上の元素、または14族元素および酸素以外の16族元素からなる群より選択される1種以上の元素であり、hBNにおける異種元素の含有率は、1質量ppm以上6×10
4質量ppm以下である。以下、
図1および
図2を用いながら、各工程について説明する。
【0033】
(準備工程)
本工程は、hBNを準備する工程であり、これにより、
図1に示すように、窒素と、ホウ素と、窒素およびホウ素により構成される結晶構造内にドープされた異種元素とを含み、異種元素は、1族元素および2族元素からなる群より選択される1種類以上の元素、または14族元素および酸素以外の16族元素からなる群より選択される1種以上の元素であり、hBNにおける異種元素の含有量は、1質量ppm以上6×10
4質量ppm以下であるhBN1を、基材2上に準備する。このようなhBNは、たとえば、以下の化学気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)法を用いることにより基材上に形成することができる。
【0034】
(CVD法)
まず、真空チャンバ内に、その主面上にcBNを気相成長させるための基材2を配置する。基材2の材料としては、1400℃〜2300℃程度の温度に耐え得る材料であれば、いかなる金属、無機セラミック材料、炭素材料、窒化ホウ素材料を用いてもよい。多結晶cBNの原材料となるhBNに混入する不純物を低減するという観点から、少なくとも基材の主面は窒化ホウ素材料であることが好ましい。
【0035】
次に、真空チャンバ内に配置された基材2を1400℃以上2300℃以下程度の温度で加熱する。加熱方法としては公知の方法を採用することができ、たとえば、基材2を直接あるいは間接的に加熱可能なヒータを真空チャンバに設置する方法が挙げられる。
【0036】
次に、真空チャンバ内に、窒化物ガスと、ホウ素化合物ガスと、異種元素を含むガスとを導入する。このとき、真空チャンバ内の真空度(圧力)を大気圧以下にする。これにより、窒化物ガスと、ホウ素化合物ガスと、異種元素を含むガスとを、真空チャンバ内で均一に混合させることができる。
【0037】
窒化物ガスとしては、アンモニア、4,4’−ジアミノジフェニルスルホンなどを用いることができ、酸素による汚染を防止するという観点から、アンモニアを用いることが好ましい。ホウ素化合物ガスとしては、たとえば、三塩化ホウ素(BCl
3)のようなハロゲン化ホウ素、有機ホウ素化合物、またはこれらを組み合わせて使用することができる。また、異種元素を含むガスとしては、異種元素の水素化物からなるガス、異種元素を含む炭化水素ガスを用いることが好ましい。異種元素の水素化物からなるガスを用いた場合、当該ガスを高温中で容易に分解することができるため、効率的に異種元素を基材上に供給することができる。
【0038】
たとえば、異種元素としてSをドープさせる場合には、硫化水素(H
2S)、硫化ジメチル(C
2H
6S)などを用いることが好ましく、Cをドープさせる場合には、ジメチルアミン、トリエチルアミン、炭化水素などを用いることが好ましく、Siをドープさせる場合には、シランなどを用いることが好ましく、Liをドープさせる場合には、アルキルリチウムなどを用いることが好ましく、Beをドープさせる場合には、高温で直接気化させる方法を用いることが好ましく、Mgをドープさせる場合には、有機マグネシウム化合物などを用いることが好ましい。
【0039】
そして、混合されたガスを1400℃以上の温度で熱分解することにより、基材の主面上に、窒素と、ホウ素と、窒素およびホウ素により構成される結晶構造内にドープされた異種元素とを含むhBN、換言すれば、異種元素が原子レベルで結晶構造内に分散して存在するhBN1が形成される。
【0040】
上記CVD法において、hBN1に含まれる単結晶の粒径を10μm以下とするためには、真空度を200Torr以下にする。単結晶の粒径を10μm以下にすることにより、直接変換により製造される多結晶cBNにおける単結晶の粒径を1μm未満に抑えることができる。また、hBN1に含まれる単結晶の粒径を10nm以上500nm以下に調製することにより、多結晶cBNを構成する単結晶の粒径を10nm以上500nm以下にすることができる。なお、hBN1の構成は、単結晶を一部に含み、他の部分がアモルファス、不定状態である構成でもよく、単結晶から構成される多結晶であってもよい。より粒径が均一な多結晶cBNを得るためには、X線回折における(111)半値線幅0.21°以上のhBN1を形成することが好ましい。
【0041】
また、上記CVD法において、hBN1における異種元素の含有率を1質量ppm以上6×10
4質量ppm以下にするために、窒化物ガスと、ホウ素化合物ガスと、異種元素を含むガスとの混合割合を調整する。窒化物ガスとホウ素化合物ガスとの混合割合については、窒素とホウ素の原子濃度の違いが6%以下となるようにすることが好ましい。異種元素を含むガスについては、混合割合を大きくすることにより、hBN1における異種元素の含有量を大きくすることができる。また、異種元素を含むガスの種類を変えることによっても、異種元素の含有率を調整することができる。hBN1における異種元素の含有率を1質量ppm以上6×10
4質量ppm以下にすることにより、多結晶cBNにおける異種元素の含有率を1質量ppm以上6×10
4質量ppm以下にすることができる。
【0042】
本工程において、上記CVD法を用いることにより、基材上に、窒素と、ホウ素と、窒素およびホウ素により構成される結晶構造内にドープされた異種元素とを含む六方晶窒化ホウ素であって、異種元素の含有率が1質量ppm以上6×10
4質量ppm以下であるhBNが形成される。
【0043】
また、本工程で準備されるhBNに関し、厚み方向および面内方向のいずれにおいても、異種元素が均一にドープされていること、すなわち、hBN中における異種元素の原子濃度分布が均一であることが好ましい。hBN中に均一に異種元素がドープされていることにより、後述する変換工程によって製造される多結晶cBNにおける異種元素の分布を均一にすることができる。
【0044】
異種元素の原子濃度分布を均一にするためには、窒化物ガスと、ホウ素化合物ガスと、異種元素を含むガスとを同時に真空チャンバ内に導入することが好ましい。これにより、各ガスを容易に均一に混合することができ、異種元素が均一にドープされたhBNを効率的に基材上に生成することができる。また、各ガスは、基材の主面の真上方向から基材の主面に向けて供給してもよく、基材の主面に対して斜め方向あるいは水平方向から基材に向けて供給してもよい。より効率的に、かつより均一に異種元素をドープするという観点からは、基材の主面の真上方向から基材の主面に向けて供給することが好ましい。また、さらに効率的に、かつさらに均一に異種元素をドープすべく、真空チャンバ内に、窒化物ガスと、ホウ素化合物ガスと、前記異種元素を含むガスとを基材の主面上に導く案内部材を設けてもよい。
【0045】
また、本工程で準備されるhBNに関し、その密度は、1.4g/cm
3以上2.1g/cm
3以下であることが好ましい。hBNの密度が1.4g/cm
3以上の場合、後述する変換工程において、hBNが多結晶cBNに直接変換されるときの体積の変化を十分に小さくすることができるため、製造される多結晶cBNに割れが発生する確率を抑制することができ、また、装置内の環境の変化を抑制することができ、結果的に、製造歩留まりを向上させることができる。
【0046】
hBNの密度は、たとえば、hBNを基材の主面上に成長させる際の温度(℃)、各ガスの導入速度(ml/min)によって調整することができる。具体的には、温度を高くすることにより、また、各ガスの導入速度を速めることにより、hBNの密度を大きくすることができる。
【0047】
また、本工程で準備されるhBNに関し、不可避不純物の含有率が低いことが好ましく、具体的には、不可避不純物である各元素の各々の含有率が1×10
3質量ppm以下であることが好ましい。これは、hBNにおける不可避不純物の含有率が、製造される多結晶cBNに引き継がれるためである。また、不可避不純物の含有率を低く抑えることにより、不可避不純物の存在に起因する粒成長を抑制することができるため、hBN中により均一な大きさの単結晶を含有させることができる。なお、ICP分析、SIMS分析など、hBN中の不可避不純物の含有率を測定可能な分析に用いられる分析装置は、一般的に、検出限界が1×10
2質量ppm以下であるため、含有率が1×10
2質量ppm以下の元素は、上記分析装置において検出されないことになる。
【0048】
hBNへの不可避不純物の混入は、ガスを熱分解する際の真空チャンバ内の真空度を比較的高く設定することによって抑制することができる。通常、CVD法によりhBNを形成する場合、真空チャンバ内の真空度は100Torr〜150Torr程度に維持されるが、本発明者らは、この真空度を10Torr〜90Torr程度に維持することにより、不可避不純物である各元素の各々の含有率を1×10
3質量ppm以下に制御できることを知見している。
【0049】
なお、上記CVD法では、基材を加熱した後に、真空チャンバ内に混合ガスを導入する方法について説明したが、混合ガスを導入した後に、基材を加熱する方法を用いてもよく、同時に行ってもよい。
【0050】
(変換工程)
本工程は、hBNを焼結させて多結晶cBNに直接変換させる工程であり、これにより、
図2に示すように、多結晶cBN3を、基材2上に作製する。
【0051】
具体的には、まず、
図1に示す基材2上のhBN1を、高温高圧装置に配置する。高温高圧装置とは、装置内部にhBNを配置することができ、かつ、該内部を上記のような条件下に制御可能な装置であればよく、たとえば、CVD法に用いる真空チャンバを用いることができる。
【0052】
そして、このhBN1を、1800℃〜2500℃、および7GPa〜20GPaという高温高圧条件下に曝す。これにより、hBN1は瞬間的に焼結され、
図2に示すように、多結晶cBN3へと変換される。この場合、多結晶cBN3の形状は、わずかな体積変化を除き、hBN1の形状を引き継ぐことになる。なお、hBN1から基材2を取り除いた後に、hBN1のみを高温高圧条件下に曝してもよく、この場合にも、製造される多結晶cBNは、基本的にhBN1の形状を引き継ぐことになる。
【0053】
本工程において、焼結助剤、触媒、結合剤などの添加剤を用いないことが好ましい。本工程によれば、添加剤を用いなくても、単結晶が強固に結合した多結晶cBNを製造することができ、添加剤を用いないことにより、添加剤を用いた場合と比してより高い硬度の多結晶cBNを製造することができる。
【0054】
以上詳述した本実施形態の多結晶cBNの製造方法によれば、上述の特徴を有する多結晶cBN、すなわち、窒素と、ホウ素と、窒素およびホウ素により構成される結晶構造内にドープされた異種元素とを含み、異種元素は、1族元素および2族元素からなる群より選択される1種以上の元素、または14族元素および酸素以外の16族元素からなる群より選択される1種以上の元素であり、異種元素の含有率は、1質量ppm以上6×10
4質量ppm以下である多結晶cBNを製造することができる。このような多結晶cBNは、従来の技術では製造できないものである。
【0055】
また、本実施形態の製造方法によれば、異種元素はhBN中に均一に分散するため、hBNから多結晶cBNに直接変換する際に、多結晶cBNの結晶粒が局所的に異常成長するのを効果的に抑制することができる。これにより、多結晶cBNを構成する単結晶の粒径をより均一にすることができ、結果的に、上記特徴を均一に有する、均質な多結晶cBNを製造することができる。
【実施例】
【0056】
実施例1〜3、比較例1において、以下に詳述するように、CVD法でhBNを作製し、得られたhBNに関して、以下の方法により単結晶の粒径の測定、および異種元素の含有率の測定を行なった。その後、当該hBNを直接変換して多結晶cBNを作製し、得られた多結晶cBNに関して、以下の方法により単結晶の粒径の測定、X線回折スペクトルの測定、ヌープ硬度の測定、体積抵抗率の測定を行なった。
【0057】
<単結晶の粒径の測定>
電子顕微鏡を用いて得たSEM(Scanning Electron Microscopy)像における各単結晶の粒径を実測した。
【0058】
<異種元素の含有率の測定>
ICP−MS分析装置を用いて、各元素の含有率を測定した。
【0059】
<X線回折測定>
X線回折装置により、X回折スペクトルを得た。
【0060】
<ヌープ硬度の測定>
マイクロヌープ硬度計により、測定荷重を4.9Nとしてヌープ硬度を測定した。
【0061】
<体積抵抗率の測定>
抵抗率測定器により、温度20℃での体積抵抗率を測定した。
【0062】
<実施例1>
(準備工程)
まず、真空チャンバ内に、熱分解窒化ホウ素からなる基材を配置した。次に、真空チャンバ内の基材を1500℃で加熱し、そして、真空チャンバ内の真空度を10Torrとして、真空チャンバ内に三塩化ホウ素を100sccm、アンモニアを100sccm、硫化水素を2sccmで供給を1時間継続した。これにより、基材の主面上に、約100μmの厚さの、硫黄がドープされたhBNが形成された。
【0063】
形成されたhBNは、単結晶の粒径が各々0.1〜1μmであり、硫黄の含有率が1×10
4質量ppmであった。
【0064】
(変換工程)
次に、形成された基材上のhBNを、2300℃、15GPaの高温高圧環境下に曝すことにより、hBNをcBNに直接変換し、硫黄がドープされた多結晶cBNを製造した。
【0065】
形成された多結晶cBNは、単結晶の粒径が各々10〜500nmであり、硫黄の含有率が1×10
4質量ppmであり、X線回折スペクトルにおいてcBNの単結晶以外の結晶相は観察されず、ヌープ硬度が40GPaであり、20℃での体積抵抗率が1mΩcmであった。さらに、この多結晶cBNを金属を加工する条件で放電加工してエンドミルを作製したところ、金属製のエンドミルの作製と同等の加工時間で、同等の精度の加工ができた。
【0066】
<実施例2>
準備工程における真空チャンバ内の真空度を100Torrとした点以外は、実施例1と同様の方法により準備工程を行なったところ、基板の主面上に、約200μmの厚さの、硫黄がドープされたhBNが形成された。形成されたhBNは、単結晶の粒径が各々0.1〜1μmであり、硫黄の含有率が1×10
4質量ppmであった。
【0067】
次に、実施例1と同様の方法により、形成された基板上のhBNを直接変換し、硫黄がドープされた多結晶cBNを形成した。形成された多結晶cBNは、単結晶の粒径が各々10〜500nmであり、硫黄の含有率が1×10
4質量ppmであり、X線回折スペクトルにおいてcBNの単結晶以外の結晶相は観察されず、ヌープ硬度が40GPaであり、20℃での体積抵抗率が1mΩcmであった。さらに、この多結晶cBNを金属を加工する条件で放電加工してエンドミルを作製したところ、金属製のエンドミルの作製と同等の加工時間で、同等の精度の加工ができた。
【0068】
<実施例3>
準備工程における硫化水素の供給量を1sccmとした点以外は、実施例1と同様の方法により準備工程を行なったところ、基板の主面上に、約100μmの厚さの、硫黄がドープされたhBNが形成された。形成されたhBNは、単結晶の粒径が各々0.1〜1μmであり、硫黄の含有率が5×10
3質量ppmであった。
【0069】
次に、実施例1と同様の方法により、形成された基板上のhBNを直接変換し、硫黄がドープされた多結晶cBNを形成した。形成された多結晶cBNは、単結晶の粒径が各々10〜500nmであり、硫黄の含有率が5×10
3質量ppmであり、X線回折スペクトルにおいてcBNの単結晶以外の結晶相は観察されず、ヌープ硬度が44GPaであり、20℃での体積抵抗率が10mΩcmであった。さらに、この多結晶cBNを金属を加工する条件で放電加工してエンドミルを作製したところ、金属製のエンドミルの作製と同等の加工時間で、同等の精度の加工ができた。
【0070】
<比較例1>
準備工程において硫化水素を供給しなかった点以外は、実施例1と同様に方法により準備工程を行なったところ、基板の主面上に、約100μmの厚さの、硫黄がドープされていないhBNが形成された。
【0071】
次に、実施例1と同様の方法により、形成された基板上のhBNを直接変換し、硫黄がドープされていない多結晶cBNを形成された。形成された多結晶cBNは、ヌープ硬度が45GPaであり、20℃での体積抵抗率が10MΩcmを超えている絶縁体であった。さらに、この多結晶cBNを金属を加工する条件で放電加工したところ、加工することができなかった。
【0072】
以上の結果から、実施例1,2の硫黄がドープされた多結晶cBNは、硫黄がドープされていない比較例1の多結晶cBNと比較するとヌープ硬度が1割程度低いものの、放電加工による効率的な工具の加工が可能であった。また、実施例3の硫黄がドープされた多結晶cBNは、硫黄がドープされていない比較例1の多結晶cBNと比較するとヌープ硬度が同等であり、かつ放電加工による効率的な工具の加工が可能であった。
【0073】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。