(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6349812
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】セラミック層蒸着フィルムの製造方法、及びセラミック層蒸着フィルム
(51)【国際特許分類】
C23C 14/22 20060101AFI20180625BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20180625BHJP
B32B 18/00 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
C23C14/22 F
C23C14/06 K
B32B18/00 C
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-53716(P2014-53716)
(22)【出願日】2014年3月17日
(65)【公開番号】特開2015-175046(P2015-175046A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2017年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】植田 恭輔
【審査官】
安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2006/043464(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/143149(WO,A1)
【文献】
特開2006−272589(JP,A)
【文献】
米国特許第6130002(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C23C 16/00−16/56
B32B 1/00−43/00
CA/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上の少なくとも一方の表面に、真空蒸着によりセラミック層を形成するセラミック層蒸着フィルムの製造方法であって、
上記真空蒸着による蒸着粒子に対し、ICPプラズマ、ヘリコン波プラズマ、マイクロ波プラズマ、ホロカソード放電の何れか1つを用いて発生させたプラズマによって運動エネルギーを付与すると共に、酸化ガスならびにヘキサメチルジシロキサンを反応ガスとして導入してセラミック層を形成し、
上記処理によって形成されたセラミック層が、アルミニウム、珪素、酸素、炭素からなる組成で構成されて、AlSiXOYCZで表され、0.02≦X≦0.2、1.0≦Y≦1.75、0.05≦Z≦0.15を満たすことを特徴とするセラミック層蒸着フィルムの製造方法。
【請求項2】
上記真空蒸着の蒸着法として、電子ビーム蒸着法、抵抗加熱法または高周波誘導加熱法の少なくとも一つの蒸着法を採用することを特徴とする請求項1に記載のセラミック層蒸着フィルムの製造方法。
【請求項3】
基材上の少なくとも一方の表面にセラミック層が蒸着してなるセラミック層蒸着フィルムであって、
上記セラミック層が、アルミニウム膜又はアルミナ膜に、珪素、酸素、及び炭素が混入して構成されて、AlSiXOYCZで表され、0.02≦X≦0.2、1.0≦Y≦1.75、0.05≦Z≦0.15を満たすことを特徴とするセラミック層蒸着フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の包装材や医療医薬品およびインクジェットタンク部材の外装材、樹脂等の輸出用包材、太陽電池バックシートといった産業資材向け外装材に用いられるガスバリアフィルムとしてのセラミック層蒸着フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品や医薬品類の包装、ハードディスクや半導体モジュールの包装には、内容物を保護することが必要である。特に、食品の包装においては、蛋白質や油脂などの酸化や変質を抑制し、味や鮮度を保持することが必要である。また無菌状態での取り扱いが必要とされる医薬品類の包装には、有効成分の変質を抑制し、効能を維持することが求められる。このように、これらの内容物の品質を保護するために、酸素や水蒸気、その他内容物を変質させる気体を遮断するガスバリア性を備える包装体が求められている。
【0003】
医療医薬品やインクジェットタンク部材の外装材や、樹脂等の輸出用包材には、それぞれ、高温多湿化における加速試験や、高温化での溶剤蒸散防止、船便による輸送(特に赤道直下)において安定して優れた高い酸素バリア性、水蒸気バリア性を発揮する包装体が求められている。
太陽電池保護シートは、パターニングされたシリコン薄膜(太陽電池モジュールの起電部分)の湿度による劣化を防止するために、太陽電池の裏側に配置される。このため、太陽電池保護シートには、酸素や水蒸気といったガスを遮断し、同時に屋外などの過酷な状況下で使用されてもガスバリア性能が劣化しない耐久性能が求められる。
【0004】
プラスチックフィルムからなる包装体としては、従来、高分子の中では比較的ガスバリア性能に優れるポリビニルアルコール(PVA)、エチレン‐ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアクリロニトリル(PAN)などの樹脂フィルムや或いはこれらの樹脂をラミネートまたはコーティングしたプラスチックフィルムなどが好んで用いられてきた。しかしながら、これらのフィルムは、温度依存性が高く、高温または高湿度下においてガスバリア性能に劣化が見られ、また、食品包装用途においてはボイル処理や高温高圧力条件下でのレトルト処理を行うとガスバリア性能が著しく劣化する場合が多い。また、PVDC系の高分子樹脂組成物を用いたガスバリア性積層体は、湿度依存性は低いものの温度依存性がある上に、高いガスバリア性能(例えば、1cc/m
2・day・atm以下)を得ることができない。
【0005】
また、PVDCやPANなどは廃棄・焼却の際に有害物質が発生する危険性が高い。このため、高防湿性を有し、かつ高度のガスバリア性能を要求される包装体については、アルミニウムなどの金属箔などにてガスバリア性能を担保せざるを得なかった。しなしながら、金属箔は不透明であるため、包装材料を透過して内容物を識別することが難しく、金属探知機による内容物検査や、電子レンジでの加熱処理が出来ない。
【0006】
これらの問題を解決するべく、プラスチックフィルム上に、酸化アルミニウム等からなる金属酸化膜を形成したガスバリア性フィルムが、一般的に数多く実用化されている。
これらの金属酸化膜を形成する場合、ドライコーティング法、中でも真空蒸着法を用いることで、生産性に優れた金属酸化膜を形成することができる。真空蒸着法以外のドライコーティング方式として、スパッタリング法や化学気相蒸着法(ChemicalVaporDeposition:CVD)が挙げられるが、スパッタリング法では、ガスバリア性能には優れるものの、生産速度が大幅に遅くなってしまう。化学気相蒸着法(ChemicalVaporDeposition:CVD)の場合においても、ガスバリア層形成として選択した場合、真空蒸着法と比較して生産速度に遅くなってしまうというデメリットが生じてしまう。
【0007】
真空蒸着法を用いての金属酸化膜の形成には、成膜材料に金属材料を用い、空間中に酸素等の反応ガスを導入し反応させることで、金属酸化膜を得る手段が挙げられる。この手段で金属酸化膜を得る場合、金属酸化膜の透明性は、金属材料が蒸発することでできる蒸着粒子が、空間中に導入された反応ガスと衝突し、金属酸化物粒子となることで付与され、より多くの反応性ガスと衝突することで、透明性は高くなっていく。
【0008】
しかしながら、更なる透明性の向上を目標に、反応性ガスの導入量を増やしていく場合、反応ガス導入により発生する成膜圧力の上昇に伴い、平均自由行程が短くなり衝突回数が多くなることで、蒸着粒子の持つ運動エネルギーが多く失われてしまうため、従来得られていたガスバリア性能が大幅に劣化してしまうことがあり、更なる透明性の向上を達成するには、鋭意工夫が求められる。
【0009】
透明性を向上させる方法として、生産速度を早くすることで膜厚を減少させる方法が挙げられる。しかしその場合には、膜厚の減少により、従来得られていたガスバリア性能が大幅に劣化してしまうことがあり、透明性を向上させつつ、更なるガスバリア性能向上を達成するには、鋭意工夫が求められる。
【0010】
透明性の上昇に伴う、ガスバリア性能の低下を防ぎ、かつ従来よりもガスバリア性能を向上させる方法の1つとしては、蒸発粒子に新たに運動エネルギーを付与することで、失われる運動エネルギーを補い補足することで、膜の緻密性を向上させる方法が挙げられ、その1つとして、圧力勾配型のプラズマガンを材料蒸発方法として用いた蒸着法が考案されている(特許文献1)。この手法は、プラズマガンより発せられるプラズマを、磁場を用いて収束するなどして、材料へ誘導し、材料を加熱し、蒸発させるとともに、蒸発中の原子、分子がプラズマガンより発せられるプラズマを通過することにより、活性化し、蒸発時より高い運動エネルギーを持って基材に入射することにより、通常の蒸着法より緻密な膜を得ることが可能な方法である。しかしながら、この手法では材料の蒸発とプラズマによる活性化が同時に行えるため煩雑さは少なく、装置コスト的に有利である反面、材料の蒸発速度とプラズマ密度とが一義的に決定してしまうため、生産性の向上を達成することは困難であるという問題点があった。
また、生産性およびガスバリア性に優れたセラミック膜のひとつとして、蒸着法により成膜されたアルミ膜が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−34831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしアルミ膜を用いた場合、透明性に乏しく、また食品包装材料用途に用いる場合、金属探知機による検査を行うことができないという問題が存在している。
ここで、これらのアルミ膜が持つ問題を解決するべく、成膜材料にアルミ材料を用い、空間中に酸素等の反応性ガスを導入し反応させることで、アルミナからなるセラミック膜を得る方法が考えられる。この方法を用いれば、アルミ膜が持つ、透明性に乏しい、金属探知機による検査を行うことができないといった問題を解決することが可能となる。
【0013】
しかし、アルミナ膜を用いた場合、引っ張り試験等による延伸に対しての耐性が低く、また、スチーム処理やレトルト処理等の熱水処理により、アルミナ膜がベーマイト化してしまうことに起因よるガスバリア性能の劣化が生じてしまう問題点があり、それらの解決には更なる鋭意解決が求められている。
本発明の目的は、上記のような点に着目したもので、アルミニウムならびにアルミナ膜であることに起因する延伸後や熱水処理後に生じるガスバリア性能の劣化をより小さくしつつ、更に透明性、ガスバリア性能に優れたセラミック層蒸着フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の一態様であるセラミック層蒸着フィルムの製造方法は、基材上の少なくとも一方の表面に、真空蒸着によりセラミック層を形成するセラミック層蒸着フィルムの製造方法であって、上記真空蒸着による蒸着粒子に高密度のプラズマによって運動エネルギーを付与すると共に、酸化ガスならびに有機シラン系モノマーを反応ガスとして導入してセラミック層を形成し、上記処理によって形成されたセラミック層が、アルミニウム、珪素、酸素、炭素からなる組成であることを特徴とする。
【0015】
また本発明の一態様であるセラミック層蒸着フィルムは、基材上の少なくとも一方の表面にセラミック層が蒸着してなるセラミック層蒸着フィルムであって、上記セラミック層が、アルミニウム膜又はアルミナ膜に、珪素、酸素、及び炭素が混入して構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
上記発明のセラミック層蒸着フィルムの製造方法によれば、アルミニウムならびにアルミナ膜であることに起因する、延伸後や熱水処理後に生じるガスバリア性能の劣化をより小さくしつつ、従来よりも耐延伸性、耐熱水性、透明性、ガスバリア性能に優れたセラミック層蒸着フィルムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に基づく実施形態に係るセラミック層蒸着フィルムを説明する模式的な断面図である。
【
図2】本発明に基づく実施形態に係るセラミック層蒸着フィルムの製造装置を説明する図である。
【
図3】本発明に基づく実施形態に係るセラミック層蒸着フィルムのガスバリア性(耐水性試験)を比較した図である。
【
図4】本発明に基づく実施形態に係るセラミック層蒸着フィルムのガスバリア性(耐延伸性試験)を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
本発明に基づく本実施形態のセラミック層蒸着フィルムは、
図1に示すように、プラスチックフィルム10上に、セラミック層11が成膜された構成となっている。
上記セラミック層11は、アルミニウム膜又はアルミナ膜に、珪素、酸素、及び炭素が混入して構成される。具体的には、セラミック層11は、AlSi
XO
YC
Zで表され、0.02≦X≦0.2、1.0≦Y≦1.75、0.05≦Z≦0.15を満たすことが好ましい。
【0019】
本実施形態に基づくセラミック層蒸着フィルムの構成としては、上記の構成に制限されるものではなく、更なるガスバリア性能や密着性の向上を目的に、樹脂材料をベースにしたアンカーコート層の挿入や、プラズマを用いた表面処理を行ってもよい。
また、セラミック層11の上に、保護層等を設けても問題はない。保護層としては、金属アルコキシドを用いる塗布膜を設けることが望ましい。具体的には一般式R
1(M−OR
2)(ただしR
1、R
2は炭素数1〜8の有機基、Mは金属原子)で表されるものであり、金属原子としてはSi、Ti、Al、Zr等を挙げることができる。また、その上にナイロンフィルムやポリプロピレンフィルム等をラミネートしても問題ない。
【0020】
金属原子MがSiであるR
1(Si−OR
2)としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等を挙げることができる。
金属原子MがZrであるR
1(Zr−OR
2)としては、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトライソプロポキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニウム等を挙げることができる。
【0021】
金属原子MがTiであるR
1(Ti−OR
2)としては、テトラメトキシチタニウム、テトラエトキシチタニウム、テトライソプロポキシチタニウム、テトラブトキシチタニウム等を挙げることができる。
金属原子MがAlであるR
1(Al−OR
2)としては、テトラメトキシアルミニウム、テトラエトキシアルミニウム、テトライソプロポキシアルミニウム、テトラブトキシアルミニウム等を挙げることができる。
【0022】
上記金属アルコキシドは1種類のみ用いても2種以上混合して用いても差し支えない。また、アクリル酸やポリビニルアルコール、ウレタン化合物、ポリエステル化合物を混合してもよいが、膨潤性の材料を混合することが望ましい。
ラミネーションを行う場合、接着剤としては、ウレタン系の接着剤を用いることが好ましく、またラミネートする方法としては、ドライラミネーション法、ノンソルベントラミネーション法、押出しラミネーション法、ニーラムラミネーション法などによりラミネーションすることが好ましい。
【0023】
プラスチックフィルム10は、特に制限を受けるものではなく公知のものを使用することが出来る。例えば、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル系(ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート等)、ポリアミド系(ナイロン―6、ナイロン―66等)、ポリスチレン、エチレンビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリカーボネイト、ポリエーテルスルホン、アクリル、セルロース系(トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース等)などが挙げられるが特に限定されない。外観の観点や、中身が確認できると言った利点から、透明フィルムを用いることが好ましい。また、厚さに関しても特に制限を受けるものではなく、セラミック層蒸着フィルムを形成する場合の加工性を考慮すると、実用的には12〜100μmの範囲が好ましい。
【0024】
セラミック層11としては、アルミニウム膜、酸化アルミニウム膜、窒化アルミニウム膜、酸窒化アルミニウム膜といった、いわゆるアルミニウム膜やアルミナ膜に、珪素、酸素、炭素が混入しているものが挙げられる。さらに窒素が加わっていても構わない。アルミニウム膜やアルミナ膜を蒸着する際に用いる蒸着材料としては、特に限定されるものではなく公知のものを使用することができる。
【0025】
アルミニウムやアルミナが主体となるセラミック膜に、珪素、酸素、炭素を混入させる手段としては、蒸着粒子がプラスチックフィルム10に成膜される前の蒸着空間において、その組成に、珪素、酸素、炭素を含んだ有機シラン系モノマーと蒸着粒子とを反応させる手段が有効であるが、この限りではなく。酸化反応を促進されるためにさらに、反応ガスとして酸素を導入しても構わないし、珪素と炭素からなる有機シラン系モノマーと酸素を用いても構わない。
【0026】
有機シラン系モノマーの種類は特に限定されるものではないが、有機シラン系モノマーの中でも、ヘキサメチルジシロキサンを用いることで、安全かつ効率的に成膜を実施することができる。
有機シラン系モノマーを気化して導入することにより、マスフローコントローラーを用いて、その導入量を制御することができる。それにより、セラミック層11を形成するセラミック膜に導入される珪素、酸素、炭素の量を制御することが可能となる。
【0027】
アルミニウム膜やアルミナ膜に、珪素、酸素を混入させる手法として、二元蒸着が考案されている。この手法は、例えば、蒸着材料にアルミニウムと酸化ケイ素を用いて、それぞれ別々に加熱することで、アルミニウムの蒸気と酸化ケイ素の蒸気とを、蒸着空間中で反応させることで、アルミナと酸化ケイ素とが混ざり合った蒸着膜を得る手法である。しかしながら、この手法では、膜中に炭素をその導入量を制御しながら導入することが困難であると共に、どちらかの生産速度が遅い(蒸発量が少ない)場合、組成の制御を行うためには、生産速度を遅くする必要が生じてしまう。
【0028】
セラミック層11の組成としては、特に制限されるものではないが、AlSi
XO
YC
Zで記されるセラミック膜の場合、その組成を0.02≦X≦0.2、1.0≦Y≦1.75、0.05≦Z≦0.15とすることで、透明性、ガスバリア性、耐延伸性、耐熱水性に優れたセラミック層11を形成することができる。
透明性を確保するために、より好ましくは1.25≦Y≦1.50とすることである。Yの値を制御する手法としては、有機シラン系モノマーや酸素のような酸化剤を導入する手法が挙げられる。これらの導入量を大きくすることで、Yの値は大きくなっていく。1.25>Yの場合、透明性が不十分となってしまう可能性があり、1.75<Yの場合、透明性は十分確保できても、膜中に含まれるCやSiの量が少なくなり、延伸性や耐熱水性が発揮されない可能性がある。ガスバリア性、耐延伸性、耐熱水性を確保するために、より好ましくは、0.03≦X≦0.15かつ0.1<Z≦0.15とすることである。
【0029】
XやZの値を制御する手法としては、有機シラン系モノマーを導入する手法が挙げられる。導入量を大きくすることで、XとZの値は大きくなっていく。0.03>Xの場合、耐熱水性が発揮されない可能性がある。しかし、0.2<XといったようにXの値を大きくするために、有機シラン系モノマーの導入量を多くしていくと、同時にZの値も大きくなってしまい、0.15<Zとなってしまうと、ガスバリア性能が発揮されない可能性がある。Xの値を大きくしつつZの値を抑える手法としては、酸素のような酸化剤を導入する方法が挙げられるが、Zの値が0.1≧となってしまう場合、耐延伸性が発揮されない可能性がある。
【0030】
セラミック層11の膜厚は、生産性とガスバリア性を考慮すると、5から30nmが好ましい。5nm以下の場合、安定したガスバリア性能を得ることが困難であり、また30nm以上の場合生産速度が遅くなり、コストが高くなってしまう恐れがある。
セラミック層11の透過率は、包装材料に用いた際の視認性や、外観向上を考慮すると、80%以上が好ましく、特に95%以上であることが望ましい。80%未満の場合透明性を確保できず、外観を損ねてしまう。
【0031】
ここで、セラミック層11を成膜する際、従来の真空蒸着による成膜方式では、透過率を向上させるために、酸素等の反応ガスを、従来よりも多く導入することが考えられる。このように酸素等の反応ガスを多く導入した場合、反応ガス導入により発生する成膜圧力の上昇に伴い平均自由行程が短くなり衝突回数が多くなることで、蒸着粒子の持つ運動エネルギーが多く失われてしまうため、従来得られていたガスバリア性能が大幅に劣化してしまうことがあった。
【0032】
この対策としては、蒸発粒子に新たに運動エネルギーを付与することで、失われる運動エネルギーを補い補足することが有効であり、中でもプラズマを用いた手法が考えられる。高い成膜速度により成膜する場合は、蒸着粒子の数が非常に多いため、高いプラズマ密度を発現できる方式で無い場合、蒸着粒子に比してプラズマ化している粒子数が少なく、膜質を向上させる変化を発現させることが困難である。このため、高いプラズマ密度を発現させる手段として、ICPプラズマ法、ヘリコン波プラズマ法、マイクロ波プラズマ法、ホロカソード放電法の何れかを用いることが最適である。また、上記手段を用いた場合、膜質を向上させることも可能なため、従来よりも優れたガスバリア性能を得ることができる。さらに、膜厚変動に対するガスバリア性能の変動を小さく抑えるため、生産速度向上に伴う膜厚減少に起因するガスバリア性能の劣化に関しても、その影響を小さくすることができる。有機シラン系モノマーと蒸着粒子との反応を高めるためにもプラズマの利用は最適であり、この際においてもプラズマ密度が高い程、その効果は大きい。
高密度のプラズマとは、例えば、10
9cm
−3以上の電子密度を有するプラズマのことを指す。
【0033】
(セラミック層蒸着フィルムの製造装置)
次に、本実施形態で使用するセラミック層蒸着フィルムの製造装置を、
図2を参照して説明する。
真空チャンバー20において、プラスチックフィルム21を、巻き出しローラー22にセットし、巻き出しローラー22より成膜ロール23を通過し、巻取りローラー24に巻き取られる。この際成膜ロール23において、ガスバリア層であるセラミック層11をプラスチックフィルム21上に形成する。坩堝25に、セラミック層11を成膜するための材料40をセットする。
【0034】
材料40は、例えばアルミニウムやアルミナである。
また、蒸着手段として、直進電子ビーム銃26が設置されている。また、有機シラン系モノマーを導入する手段として、有機シラン系モノマー導入パイプ27が成膜室に、有機シラン系モノマーを貯蔵しておく有機シラン系モノマーボンベ28が真空チャンバー20の外に設置されている。さらに、反応性ガスを導入する手段として、反応性ガス導入パイプ29が成膜室に、反応ガスを貯蔵しておく反応ガスボンベ30が真空チャンバー20の外に設置されている。電子ビームにより加熱された材料40は蒸気となりプラスチックフィルムに蒸着されるがこの際の蒸気を蒸着粒子31で示し、蒸着粒子を活性化する高密度プラズマをプラズマ32として示してある。
【0035】
図2において、蒸着材料40を過熱する手段として、直進電子ビーム銃26を設置し、電子ビーム蒸着法を示したが、蒸着手段としては、材料40を詰めてある坩堝25に対し、抵抗加熱法または高周波誘導加熱法などを用いて加熱し、材料を蒸発させてもよい。電子ビーム蒸着法は、直進電子ビーム銃であっても、偏向電子ビーム銃であってもよいが、高い成膜速度を発現させるためには大電力の投入が可能なピアース式平面陰極形電子銃などが挙げられるが、これに限られるものではない。また抵抗加熱法は、材料を詰めた坩堝を直接抵抗加熱する方式であってもよいし、抵抗加熱部に金属のワイヤーをフィードするタイプの抵抗加熱方式であっても問題ない。いずれの方式も高い成膜速度を発現できる装置の構成になっていることが必要である。
【0036】
セラミック層蒸着フィルムの製造装置は、この形に制限されるわけではなく、必要に応じて、プラズマ処理装置を設置しても問題はない。ロールの配置、有機シラン系モノマー並びに反応ガスの導入方法等に関しても、特に制限されるものではない。
【実施例1】
【0037】
(実施例1)
図2の製造装置を用いて、厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ製P60)の片面にAlSi
XO
YC
Zからなるセラミック層を形成した。その際、蒸着用の材料としてアルミニウムを用い、有機シラン系モノマーとしてHMDSO(HexaMethylDiSilocane:ヘキサメチルジシロキサン)を、反応ガスとして酸素をそれぞれ導入し、100Aに電流制御されたホロカソード放電による高密度プラズマを併用した。
【0038】
(比較例1)
図2の製造装置を用いて、厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ製P60)の片面にAlO
Yからなるセラミック層を形成した。蒸着用の材料としてアルミニウムを用い、反応ガスとして酸素を導入し、100Aに電流制御されたホロカソード放電による高密度プラズマを併用した。有機シラン系モノマーは導入しなかった。
【0039】
(比較例2)
図2の製造装置を用いて、厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ製P60)の片面にAlSi
XO
YC
Zからなるセラミック層を形成した。その際、蒸着用の材料としてアルミニウムを用い、有機シラン系モノマーとしてHMDSO(HexaMethylDiSilocane:ヘキサメチルジシロキサン)を、反応ガスとして酸素をそれぞれ導入した。高密度プラズマは併用しなかった。
【0040】
〈評価1〉
水蒸気透過率(WVTR)を水蒸気透過度測定装置(モダンコントロール社製 MOCON PERMATRAN 3/21)を用い、40℃90%RH雰囲気にて測定した。その結果を
図3及び
図4に示す。なお、
図3に示すのは、70度に熱した水から発する蒸気に、形成したセラミック膜を直接曝したことによる耐水性試験の結果であり、横軸は蒸気に曝した時間である。また、
図4に示すのは、形成したセラミック層蒸着フィルムを20cm長に切り出し、両端を保持し、1.2Kgの張力をかけ、100μ/secの速度で延伸させた後のWVTR測定結果であり、耐延伸性試験の結果である。
【0041】
図3から分かるように、実施例1では6分以上WVTRを低く抑えられたが、比較例では約4分以下しかWVTRを低く抑えることが出来なかった。また
図4から分かるように、比較例に比べ実施例1の方が耐延伸性が向上している。
〈評価2〉
膜組成を、X線光電子分光法(日本電子製 JPS−9010MX)を用いて測定した。その結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明おけるセラミック層蒸着フィルムの産業上の利用可能性としては、食品や飲料品の包装材、医療医薬品およびインクジェットタンク部材の外装材、樹脂等の輸出用包材、太陽電池バックシートといった産業資材向け外装材が挙げられる。
【符号の説明】
【0044】
10…プラスチックフィルム
11…セラミック層
20…真空チャンバー
21…プラスチックフィルム
22…巻き出しローラー
23…成膜ロール
24…巻取りローラー
25…坩堝
26…直進電子ビーム銃
27…有機シラン系モノマー導入パイプ
28…有機シラン系モノマーボンベ
29…反応ガス導入パイプ
30…反応ガスボンベ
31…蒸着粒子
32…高密度プラズマ
40 材料