特許第6349815号(P6349815)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6349815
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】クラッチ装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 25/10 20060101AFI20180625BHJP
   F16D 25/0638 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   F16D25/10 A
   F16D25/0638
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-54773(P2014-54773)
(22)【出願日】2014年3月18日
(65)【公開番号】特開2015-175504(P2015-175504A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2017年2月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】民部 俊貴
【審査官】 尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−093793(JP,A)
【文献】 実開平01−166832(JP,U)
【文献】 実開昭56−151534(JP,U)
【文献】 米国特許第04186829(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 25/10
F16D 25/0638
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力シャフトと一体回転可能なクラッチハブと、
出力シャフトと一体回転可能なクラッチドラムと、
前記クラッチハブの外周にスプライン嵌合された第1プレートと、
前記クラッチドラムの内周にスプライン嵌合された第2プレートと、
軸方向にストローク移動して前記第1プレート及び前記第2プレートを互いに圧接可能なピストンと、
前記クラッチハブに設けられた有底の第1穴と、
前記ピストンに設けられた有底の第2穴と、
前記第1穴及び前記第2穴に挿入され、前記クラッチハブ及び前記ピストンを一体回転可能に連結する有底円筒状のピン部材と、
前記ピン部材内に収容された付勢手段と、を備え、
前記付勢手段は、一端が前記第1穴および前記第2穴の一方の底部に当接されると共に、他端が前記ピン部材の底部内面に当接され、前記ピン部材の底部外面を、前記第1穴および前記第2穴の他方の底部に当接するよう付勢し、
前記付勢手段により前記ピン部材を前記他方内に保持すると共に、前記ピン部材の前記他方からの突出長さを前記ピストンのストローク長さよりも長くした
ことを特徴とするクラッチ装置。
【請求項2】
前記付勢手段がコイルバネにより形成される
請求項1に記載のクラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ装置に関し、特に、エンジンから変速機への動力伝達を断接する湿式多板クラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンから変速機への動力伝達を断接する湿式多板クラッチ装置が知られている。一般的な湿式多板クラッチ装置は、入力シャフトと一体回転するクラッチハブと、出力シャフトと一体回転するクラッチドラムと、これらクラッチハブ及びクラッチドラムにそれぞれ設けられた複数枚のクラッチプレートと、作動油圧によってストローク移動して各クラッチプレートを圧接(クラッチ接)するピストンと、クラッチプレートからピストンを離隔させて各クラッチプレートの圧接を開放(クラッチ断)するリターンスプリングとを備えている。リターンスプリングは、クラッチハブとピストンとの間に介設されている。
【0003】
このような湿式多板クラッチ装置では、クラッチ断時にクラッチハブに回転方向への加速度が生じると、クラッチハブとピストンとの間の差回転によってリターンスプリングが倒れ込み、クラッチが機能しなくなる可能性がある。そのため、クラッチハブとピストンとを一体回転可能に連結する回り止めピンを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−167933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、回り止めピンの長さがピストンのストローク長より短い場合や、回り止めピンがピストン又はクラッチハブの何れにも固定されていない場合は、回り止めピンの移動を規制することができず、クラッチハブとピストンとが最も離隔するクラッチ断時に回り止めピンが脱落して、リターンスプリングの倒れ込みを引き起こす可能性がある。
【0006】
また、回り止めピンの脱落を防止するために、回り止めピンの軸方向長さを長くした場合は、クラッチ接時に回り止めピンがピストンと干渉して、各クラッチプレートを圧接できない可能性もある。
【0007】
本発明の目的は、クラッチハブとピストンとを一体回転可能に連結する回り止めピンの脱落を確実に防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するため、本発明のクラッチ装置は、入力シャフトと一体回転可能なクラッチハブと、出力シャフトと一体回転可能なクラッチドラムと、前記クラッチハブの外周にスプライン嵌合された第1プレートと、前記クラッチドラムの内周にスプライン嵌合された第2プレートと、軸方向にストローク移動して前記第1及び第2プレートを互いに圧接可能なピストンと、前記クラッチハブに設けられた第1穴及び前記ピストンに設けられた第2穴に挿入されて、前記クラッチハブ及び前記ピストンを一体回転可能に連結するピン部材と、を備え、前記ピン部材の一端側を前記第1穴内又は前記第2穴内の何れか一方に保持させると共に、前記ピン部材の他端側の突出長さを前記ピストンのストローク長さよりも長くしたことを特徴とする。
【0009】
また、前記第1穴又は前記第2穴の何れか一方の穴内に設けられて前記ピン部材を前記第1穴又は前記第2穴の何れか一方の底部に向けて付勢する付勢手段をさらに備えてもよい。
【0010】
また、前記ピン部材の端部を前記第1穴又は前記第2穴の何れか一方の底部に固定する固定手段をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のクラッチ装置によれば、クラッチハブとピストンとを一体回転可能に連結する回り止めピンの脱落を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係るクラッチ装置において第1湿式多板クラッチが接続した状態の上半分を示す模式的な縦断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るクラッチ装置において第1湿式多板クラッチが切断した状態の上半分を示す模式的な縦断面図である。
図3】他の実施形態に係るクラッチ装置の上半分を示す模式的な縦断面図である。
図4】他の実施形態に係るクラッチ装置の上半分を示す模式的な縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に基づいて、本発明の一実施形態に係るクラッチ装置を説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0014】
図1に示すように、本実施形態のクラッチ装置10Aは、第1湿式多板クラッチC1及び第2湿式多板クラッチC2を備えたデュアルクラッチ装置であって、符号11はエンジンEの駆動力が伝達される入力シャフトを示している。また、符号12Aは変速機Tの例えば偶数段を確立する複数の変速ギヤ(不図示)が設けられた第2出力シャフトを示し、符号12Bは変速機Tの例えば奇数段を確立する複数の変速ギヤ(不図示)が設けられた第1出力シャフトを示している。第1出力シャフト12Bは、第2出力シャフト12Aの中空軸内に回転自在に挿入されている。
【0015】
第1湿式多板クラッチC1は、入力シャフト11と一体回転する円筒状の第1クラッチハブ13と、第1クラッチハブ13の外周面にスプライン嵌合する複数枚の内側プレート(第1プレート)14Aと、第1クラッチハブ13よりも大径に形成されて第1出力シャフト12Bと一体回転する円筒状の第1クラッチドラム15と、内側プレート14A間に交互に配置されて第1クラッチドラム15の内周面にスプライン嵌合する複数枚の外側プレート(第2プレート)14Bと、第1クラッチハブ13に回転自在に挿入された円環状の圧接プレート16と、圧接プレート16及び皿バネ16Aを介して各プレート14A,14Bを軸方向に圧接可能な円筒状の第1ピストン17と、第1ピストン17の外周面と接触する内周面を有する有底円筒状のカバー部材18とを備えている。
【0016】
第1ピストン17とカバー部材18との間には、作動油室19が区画形成されている。この作動油室19の油圧が上昇すると、第1ピストン17は第1クラッチハブ13側に向かって軸方向にストローク移動して各プレート14A,14Bを互いに圧接する(第1湿式多板クラッチC1:接)。すなわち、エンジンEの駆動力は、入力シャフト11、第1クラッチハブ13、各プレート14A,14B、第1クラッチドラム15を介して第2出力シャフト12Aに伝達される。
【0017】
また、図示は省略するが、第1ピストン17と第1クラッチハブ13との間には、第1ピストン17を第1クラッチハブ13から離隔する方向に付勢する複数のリターンスプリングが介設されている。すなわち、作動油室19の油圧が降下すると、図2に示すように、第1ピストン17はリターンスプリング(不図示)の付勢力によって第1クラッチハブ13から離隔する方向に移動して各プレート14A,14Bの圧接状態を開放する(第1湿式多板クラッチC1:断)。
【0018】
本実施形態の第1湿式多板クラッチC1は、第1クラッチハブ13及び第1ピストン17を一体回転可能に連結する有底円筒状の第1回り止めピン部材20を備えている。
【0019】
第1回り止めピン部材20は、その底側筒部(一端側)を第1クラッチハブ13に形成されたピン挿入穴(第1穴)に挿入されると共に、その開口側筒部(他端側)を第1ピストン17に形成されたピン挿入穴(第2穴)にスライド移動可能に挿入されている。また、第1回り止めピン部材20の第1クラッチハブ13からの突出長さ(他端側の突出長さ)は、第1ピストン17のストローク長さよりも長く形成されている。さらに、第1回り止めピン部材20の筒内には、第1スプリング部材21(付勢手段)の一部が収容されている。
【0020】
第1スプリング部材21は、その一端を第1ピストン17のピン挿入穴底部に当接させると共に、その他端部を第1回り止めピン部材20の筒底部に当接させている。すなわち、第1スプリング部材21によって、第1回り止めピン部材20が第1クラッチハブ13のピン挿入穴に向けて常時付勢されている。
【0021】
本実施形態のクラッチ装置10Aは、上述の第1回り止めピン部材20及び第1スプリング部材21を備えることにより、第1クラッチハブ13と第1ピストン17とが最も離隔する第1湿式多板クラッチC1の断時(第1ピストン17のストローク量が略ゼロの時)においても、第1回り止めピン部材20の一端側が第1クラッチハブ13のピン挿入穴内に保持され、第1回り止めピン部材20の他端側の一部(第1ピストン17のストローク長さよりも長い部分)が第1ピストン17のピン挿入穴内に保持されるようになっている。これにより、第1回り止めピン部材20の脱落が確実に防止される。
【0022】
第2湿式多板クラッチC2は、第2クラッチハブ33と、第2クラッチドラム35と、内側プレート34Aと、外側プレート34Bと、第2ピストン37と、作動油室39とを備えており、第1湿式多板クラッチC1と略同様に構成されている。また、第2湿式多板クラッチC2は、第1湿式多板クラッチC1と同様に、第2回り止めピン部材40と、第2スプリング部材41とを備えている。第2湿式多板クラッチC2の各構成は、第1湿式多板クラッチC1と同様の機能を有するため、これらの詳細な説明は省略する。なお、第2湿式多板クラッチC2は、第1湿式多板クラッチC1が接の際に断にされ(図1参照)、第1湿式多板クラッチC1が断された際に接にされる(図2参照)。
【0023】
次に、本実施形態のクラッチ装置10Aによる作用効果を説明する。
【0024】
本実施形態のクラッチ装置10Aでは、クラッチハブ13,33とピストン17,37とを一体回転可能に連結する回り止めピン部材20,40をスプリング部材21,41によってクラッチハブ13,33のピン挿入穴底部に常時当接させることで、回り止めピン部材20,40の移動を規制している。また、回り止めピン部材20,40のクラッチハブ13,33からの突出長さは、ピストン17,37のストローク長さよりも長く形成されている。
【0025】
すなわち、ピストン17,37のストローク量が約ゼロ(ピストン17,37とクラッチハブ13,33とが最も離隔)となるクラッチ断状態においても、回り止めピン部材20,40の底部側筒部がピストン17,37のピン挿入穴内に保持されると共に、回り止めピン部材20,40の開口側筒部がクラッチハブ13,33のピン挿入穴内に保持されるように構成されている。
【0026】
したがって、回り止めピン部材20,40の脱落を効果的に防止することが可能となり、クラッチハブ13,33とピストン17,37との間の差回転により引き起こされるリターンスプリングの倒れ込みを確実に防止することができる。
【0027】
また、本実施形態のスプリング部材21,41は、回り止めピン部材20,40の移動を規制する機能のみならず、クラッチを切断する際にピストン17,37を離隔させるリターンスプリングとしても機能する。
【0028】
したがって、回り止めピン部材とリターンスプリングとを別体に設けた従来構造のクラッチ装置に比べて、リターンスプリングの個数を削減する等、装置の簡素化を図ることができる。
【0029】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0030】
例えば、図3に示すように、回り止めピン部材20,40をスプリング部材21,41によってピストン17,37のピン挿入穴内に常時付勢するように構成してもよい。また、回り止めピン部材20,40を付勢するスプリング部材21,41は、コイルバネに限定されず、板バネ等の他の弾性変形部材を適用してもよい。また、図4に示すように、スプリング部材21,41を省略して、回り止めピン部材20,40をクラッチハブ13,33にボルトナット50,51で直接的に固定してもよい。また、スプリング部材21,41やボルトナット50,51を用いることなく、回り止めピン部材20,40の一端側筒部をクラッチハブ13,33又はピストン17,37の何れか一方のピン挿入穴に嵌入してもよい。また、クラッチ装置10A〜Cは、デュアルクラッチに限定されず、シングルクラッチに適用することも可能である。
【符号の説明】
【0031】
10A,B,C クラッチ装置
11 入力シャフト
12A,12B 出力シャフト
13,33 クラッチハブ
14A,34A 内側プレート
14B,34B 外側プレート
15,35 クラッチドラム
16 圧接プレート
17,37 ピストン
18 カバー部材
19,39 作動油室
20,40 回り止めピン部材
21,41 スプリング部材
図1
図2
図3
図4