(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6349819
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】吐水制御装置
(51)【国際特許分類】
E03C 1/05 20060101AFI20180625BHJP
G01S 13/56 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
E03C1/05
G01S13/56
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-57397(P2014-57397)
(22)【出願日】2014年3月20日
(65)【公開番号】特開2015-178753(P2015-178753A)
(43)【公開日】2015年10月8日
【審査請求日】2017年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 基紀
(72)【発明者】
【氏名】轟木 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】松本 健志
(72)【発明者】
【氏名】田之頭 優太
【審査官】
油原 博
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−080150(JP,A)
【文献】
特開2010−210500(JP,A)
【文献】
特開2011−102783(JP,A)
【文献】
米国特許第04981158(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03C 1/05
G01S 13/56
E03D 1/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐水部から自動吐水する吐水制御装置であって、
人体又は液流を検知しようとする検知領域に、送信波を送信する送信部と、
前記検知領域の検知対象によって反射された反射波を受信する受信部と、
前記送信部によって送信された送信波と、前記受信部によって受信された反射波と、に基づいて差分信号を生成する差分信号生成部と、
前記差分信号生成部で生成された前記差分信号から周波数および信号強度を抽出する信号処理部と、
前記信号処理部で抽出された前記信号強度および前記周波数に基づき前記吐水部からの吐水を制御する制御部と、を備えており、
前記制御部は、前記人体又は前記液流に対応する周波数帯域において、所定の信号強度に対応する第1の閾値より低い信号強度における周波数部分を合計した周波数帯域が、所定の周波数帯域に対応する第2の閾値より大きい場合、前記差分信号をノイズと判定することを特徴とする吐水制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記人体又は液流に対応する周波数帯域において、前記信号強度が第1の閾値より低い周波数帯域が、所定の周波数帯域に対応する第2の閾値より大きい状態を所定時間以上継続した場合、前記差分信号はノイズと判定することを特徴とする請求項1に記載の吐水制御装置。
【請求項3】
前記第1の閾値は、前記受信部の設置環境に応じて検知される前記差分信号の前記信号強度より大きく設定されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の吐水制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば公衆トイレの手洗い場や、家庭の洗面化粧台や、キッチンに設けられる吐水制御装置に関し、特に利用者の手又は利用者が保持する被洗浄物を検知して、水栓装置からの吐止水を自動で制御する吐水制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドップラセンサを使用し、人体および尿流の検知を行う便器洗浄システムが知られている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1に記載された便器洗浄システムによれば、ドップラ信号に含まれる人体の動き、尿流の周波数帯域に対応する周波数フィルタを通過させ、フィルタ通過後の信号強度によって検知処理を行い、その検知結果に応じて吐水バルブを動作させ小便器に洗浄水を供給している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−330672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ドップラセンサを使用し、検知対象とする人体または液流を検知し吐水させる場合、例えば、ドップラセンサの検知信号を人体または液流に対応した周波数帯域のフィルタに通過させ、周波数の異なる検知非対象物の動きによって誤吐水させないようにしている。
【0005】
しかしながら、例えば家電製品が発するようなノイズを拾ってしまった場合、ノイズの周波数が人体または液流の周波数帯域内にあると、フィルタでカットすることができず、フィルタ通過後の信号の大きさでのみしかノイズを判別することができない。ノイズにより発生する信号の大きさが人体または液流により発生する信号の大きさと同等の場合、ノイズを人体または液流と誤判定してしまい、度々誤吐水を起こしてしまっていた。
【0006】
そこで、本発明は、ドップラセンサを用いた吐水制御装置において、人体または液流に対応した周波数帯域内で発生する特定のノイズによって引き起こされる誤判定および吐水バルブの誤作動を少なくすることができるようにした吐水制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明に係る吐水制御装置は、吐水部から自動吐水する吐水制御装置であって、人体又は液流を検知しようとする検知領域に、送信波を送信する送信部と、前記検知領域の検知対象によって反射された反射波を受信する受信部と、前記送信部によって送信された送信波と、前記受信部によって受信された反射波と、に基づいて差分信号を生成する差分信号生成部と、前記差分信号生成部で生成された前記差分信号から周波数および信号強度を抽出する信号処理部と、前記信号処理部で抽出された前記信号強度および前記周波数に基づき前記吐水部からの吐水を制御する制御
部と、を備えており、前記制御部は、前記人体又は前記液流に対応する周波数帯域において、
所定の信号強度
に対応する第1の閾値より低い
信号強度における周波数部分を合計した周波数帯域が、所定の周波数帯域に対応する第2の閾値より大きい場合、前記差分信号をノイズと判定することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る吐水制御装置は、検知対象である人体の動きや液流があることをドップラセンサにて検知し、それをトリガとして、例えば吐水バルブを開くなどの所定の動作を実行する。ドップラセンサは、電波を送信波として送信し、検知対象で反射した反射波を受信することで動体を検知し、検知した動体の移動速度に比例した周波数と、動体の面積や距離などに比例した信号強度を含む差分信号を出力する。
【0009】
検知対象である人体や液流により発生する差分信号は、人体や液流の動きが複雑であることより、周波数や信号強度が時間変化し、幅を持った周波数帯域での差分信号となる。これに対して、ドップラセンサが拾ってしまうノイズは、例えば電源ノイズや電波ノイズなどの種類があり、ドップラセンサの検知動作にて差分信号として出力される場合や、回路中に直接印加される場合などがあるが、人体や液流により発生する差分信号の周波数帯域内で信号強度を発生させる場合がある。
【0010】
そこで本発明ではこの点に着目し、検知した信号が持つ周波数と信号強度から抽出した周波数帯域の広さを用いて、検知対象である人体や液流に対応した周波数帯域内において発生したノイズなどであっても、ノイズであることを判別することで、誤吐水の可能性を効果的に低減できる。
【0011】
また、本発明に係る吐水制御装置は、前記制御部は、前記人体又は液流に対応する周波数帯域において、前記信号強度が第1の閾値より低い周波数帯域が、所定の周波数帯域に対応する第2の閾値より大きい状態を所定時間以上継続した場合、前記差分信号はノイズと判定することを特徴とする。
【0012】
この好ましい態様では、ノイズと判定する条件が継続して発生しているかを検知することにより、人体または液流による信号が瞬間的にノイズと誤判定され、吐水できなくなることを防ぐことができ、誤吐水の可能性を効果的に低減できる。
【0013】
また、本発明に係る吐水制御装置は、前記第1の閾値は、前記受信部の設置環境に応じて検知される前記差分信号の前記信号強度より大きく設定されることを特徴とする
【0014】
この好ましい態様では、ドップラセンサが動体を検知していない場合に常時出力される信号、つまり暗ノイズによる信号の信号強度よりも第1の閾値を大きく設定することで、例えば温度や湿度などの環境変化により暗ノイズが増加した場合でも、ノイズであることを判別でき、誤吐水の可能性を効果的に低減できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ドップラセンサを用いた吐水制御装置において、特定のノイズによる誤判別および吐水バルブの誤作動を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態である吐水制御装置の機能的な構成を示すブロック図である。
【
図2】人体または液流により発生する差分信号を示すグラフ図である。
【
図3】
図2に示す差分信号の周波数と信号強度の関係を示すグラフ図である。
【
図4】電源ノイズや電波ノイズなどにより発生する信号を示すグラフ図である。
【
図5】
図4に示す信号の周波数と信号強度の関係を示すグラフ図である。
【
図6】
図1に示す吐水制御装置において、人体または液流を検知する判定動作を説明するためのフローチャートである。
【
図7】
図1に示す吐水制御装置において、人体または液流を検知する判定動作を説明するためのフローチャートである。
【
図8】暗ノイズにより発生する信号の周波数と信号強度の関係を示すグラフ図である。
【
図9】暗ノイズにより発生する信号の周波数と信号強度の関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【0018】
本発明の実施形態に係る吐水制御装置のブロック図を
図1に示す。
ドップラセンサ部10は、送信部101と、受信部102と、差分信号生成部103と、を有する。送信部101は、電波を送信するために例えば10.5GHzの電気信号である送信信号を生成する発振回路と、発振回路から出力される送信信号を10.5GHzの電波として送信するアンテナと、を有する。受信部102は、送信部101から送信された電波が検知対象物によって反射された反射波を受信し、これを電気信号に変換した受信信号を出力する。差分信号生成部103は、送信信号と受信信号との差分の情報を含んだ差分信号を生成する。ドップラセンサ部10は、生成した差分信号を出力する。
【0019】
ドップラセンサ部10を用いると、ドップラ効果を利用して以下の式(1)に基づいて検知対象物の動きを検知することができる。
【0020】
【数1】
送信部101から送信された周波数FSの電波は、速度νで移動している動体により反射される。この反射波は、相対運動によるドップラ周波数シフトを受けているため、その周波数はFbとなり、受信部102に受信される。そして、差分信号生成部103によって、送信波と反射波の周波数の差分となるドップラ周波数ΔFを含む差分信号が取り出される。この差分信号に基づいて、人体検知や液流検知が行われる。
【0021】
ドップラセンサ部10から出力される差分信号は、制御部20に出力される。
制御部20の信号処理手段である信号処理部201は、入力された信号に含まれる周波数を抽出する周波数抽出部201aと、周波数抽出部によって抽出した周波数の帯域毎の信号強度を抽出する信号強度抽出部201bと、を有する。
差分信号は、信号処理部201によって、周波数と周波数帯域毎の信号強度を抽出され、抽出された周波数と信号強度は、判定部202に出力される。
判定部202は、入力された周波数と信号強度に基づいて、検知対象の人体または液流により発生した差分信号であるかを判定する。
制御部20は、判定部202の判定結果に基づき、吐水バルブ30を制御し、吐止水を行う。
【0022】
次に、
図2、
図3、
図4、
図5を参照しつつ、人体または液流、電源ノイズや電波ノイズなどにより発生する差分信号と、信号処理部201にて抽出した周波数と信号強度の関係について説明する。
人体または液流により発生する差分信号を
図2に、
図2の差分信号から抽出した周波数と信号強度の関係を
図3に例示する。
図2に示したように、人体または液流により発生する差分信号は一定信号ではなく、周波数と信号強度に変化を含んだ信号であり、
図3に示したように、広い周波数範囲に渡って比較的大きな信号強度が発生する。
電源ノイズや電波ノイズなどにより発生する差分信号を
図4に、
図4の差分信号から抽出した周波数と信号強度の関係を
図5に例示する。
図4に示したように、電源ノイズや電波ノイズなどにより発生する差分信号は一般に一定の周波数であることが多く、
図5に示したように、狭い周波数範囲でしか大きな信号強度が発生しない。ただし、電源ノイズや電波ノイズなどは、一般に周期性を持っていることが多く、特定の周波数帯のみに強い信号強度を発生させることが多い。
【0023】
また、判定部202において、
図3、
図5に示した周波数と信号強度の違いを用いて、人体または液流と、電源ノイズや電波ノイズなどとを判別する方法を、
図6のフローチャートを用いながら説明する。
図6は、信号処理部201にて抽出した周波数と信号強度を用いて、人体または液流を検知するためのステップを例示するフローチャートである。
【0024】
ステップS01では、人体または液流である可能性があるかを仮判定する。人体または液流により発生する周波数帯域fをfa<f<fbとし、周波数帯域fにおいて信号強度が閾値V0を上回ると、人体または液流であると仮判定し、仮判定が成立するとステップS02に進む。これにより、人体または液流により発生する周波数帯域f以外で信号強度を持つノイズによって引き起こされる誤検知を回避する。
【0025】
ステップS02は、人体または液流であるかを最終判定するステップであり、人体または液流により発生する周波数帯域fにおいて信号強度を持つ信号がノイズであるかを判定する。
まず、周波数帯域f´を求めるため、信号強度に対して第1の閾値V1を設ける。周波数帯域f´は、周波数帯域fの中で、信号強度が第1の閾値V1を下回る周波数部分を合計した周波数帯域である。
図3において、人体または液流により発生する周波数帯域f´をf´A、
図5において、電源ノイズや電波ノイズなどにより発生する周波数帯域f´をf´Bとすると、f´Aとf´Bとの関係は以下の式(2)となる。
【0026】
【数2】
式(2)の関係より、周波数帯域f´に対して所定の周波数帯域に対応する第2の閾値f1を設け、f´が第2の閾値f1を上回る場合には、ノイズであると判定する。ステップS02にて、ノイズと判定されない信号については、人体または液流であると判定する。
【0027】
判定部202にて、検知対象である人体または液流であると判定すると、制御部20は、吐水バルブを駆動させ、吐水を開始する。
【0028】
また、判定部202による判定動作は、
図7に示すフローチャートで動作してもよい。
図7は、信号処理部201にて抽出した周波数と信号強度を用いて、人体または液流を検知するためのステップを例示するフローチャートである。
図7のフローチャートにおいて、ステップS01は
図6に示すフローチャートと同一の判定動作を実施するが、ステップS03が加わる。
まず、条件1として、周波数帯域f´が第2の閾値f1を上回るかを判定する条件を設ける。ステップS03では、条件1を満たす状態を継続する時間tが所定時間t1以上となると、ノイズであると判定する。
これにより、人体または液流による信号が瞬間的に条件1を満たした場合でも、人体または液流がノイズであると誤判定されてしまうことを防ぐことができ、更に判定動作の精度を向上できる。
【0029】
次に、第1の閾値V1の設定方法について説明する。
ドップラセンサ10が動体を検知していない場合に出力される信号、つまり暗ノイズは、吐水制御装置自身が持つノイズであり、例えば、ドップラセンサ10を構成するために使われる電子部品の熱雑音などによるものがある。この暗ノイズの信号強度は、例えば温度や湿度などの環境変化により増加してしまう場合がある。
図8に、通常時の暗ノイズによる周波数と信号強度の関係を、
図9に、湿度や温度などの環境変化により信号強度が増加した場合の暗ノイズによる周波数と信号強度の関係を例示する。
図8において、暗ノイズの信号強度は、全周波数帯域で第1の閾値V1を下回っている。このときの周波数帯域f´をf´Cとすると、周波数帯域f´Cは、人体または液流により発生する周波数帯域fと等しくなる。
図9において、暗ノイズの周波数帯域f´をf´Dとすると、環境変化により暗ノイズの信号強度が増加したため、第1の閾値V1を下回る周波数帯域f´Dは、周波数帯域f´Cより狭くなっている。
このように、環境変化などにより暗ノイズの信号強度が増加すると周波数帯域f´は変動するため、暗ノイズにより発生する信号強度より、第1の閾値V1を大きくすることで、暗ノイズによる誤判定を防ぐことができ、更に判定動作の精度を向上できる。
【0030】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。
例えば、前述した具体例が備える各要素およびその配置、動作、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0031】
10:ドップラセンサ部
101:送信部
102:受信部
103:差分信号生成部
20:制御部
201:信号処理部
201a:周波数抽出部
201b:信号強度抽出部
202:判定部
30:吐水バルブ