特許第6349825号(P6349825)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6349825正極及びそれを用いたリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6349825
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】正極及びそれを用いたリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20180625BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M4/36 C
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-58349(P2014-58349)
(22)【出願日】2014年3月20日
(65)【公開番号】特開2015-185253(P2015-185253A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2017年1月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中野 博文
(72)【発明者】
【氏名】関 秀明
(72)【発明者】
【氏名】宮原 裕之
(72)【発明者】
【氏名】北村 洋貴
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼石 哲男
【審査官】 立木 林
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−216409(JP,A)
【文献】 特開2012−216386(JP,A)
【文献】 特開2012−216377(JP,A)
【文献】 特開2008−277119(JP,A)
【文献】 特開2009−295465(JP,A)
【文献】 特開2002−075364(JP,A)
【文献】 特開2013−232288(JP,A)
【文献】 Nellymar MEMBRENO et al.,In Situ Raman Study of Phase Stability of α-Li3V2(PO4)3 upon Thermal and Laser Heating,The Journal of Physical Chemistry C,米国,2013年 6月13日,Vol.117, No.23,p.11994-12002,doi:10.1021/jp403282a
【文献】 Lu-Lu ZHANG et al.,Novel synthesis of low carbon-coated Li3V2(PO4)3 cathode material for lithium-ion batteries,Journal of Alloys and Compounds,2013年 9月 5日,Vol.570,p.61-64,doi:10.1016/j.jallcom.2013.03.189
【文献】 Wen HE et al.,Bio-assisted synthesis of mesoporous Li3V2(PO4)3 for high performance lithium-ion batteries,Electrochimica Acta,2013年12月 1日,Vol.112,p.295-303,doi:10.1016/j.electacta.2013.08.163
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
H01M 10/05−10/0587
C01B 25/00−25/46
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質とその表面に付着した炭素と、を含み、前記正極活物質はLiVOPOを含むリチウムリン酸バナジウムであり、アルゴンイオンレーザーを用いたラマンスペクトルにおいて、1200〜1450cm−1に位置するピークP(Dバンド)と、1450〜1700cm−1に位置するピークP(Gバンド)と、780〜980cm−1に位置するピークPと、を有し、波数領域200〜1800cm−1において、ピークPの強度を1、最小ピーク強度を0として規格化した際、前記ピークPと前記ピークPの2つのピーク間の最小(Vバンド)のラマン強度が0.28以下であり、前記ピークPのラマン強度が0.6以上1.0以下であることを特徴とする正極。
【請求項2】
前記ピークPと前記ピークPの2つのピーク間の最小(Vバンド)のラマン強度が0.24以上、0.28以下であることを特徴とする請求項1に記載の正極。
【請求項3】
前記正極活物質はLiVOPOであることを特徴する請求項1または2に記載の正極。
【請求項4】
正極と、負極と、電解質と、が容器に収容されたリチウムイオン二次電池であって、前記正極が、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の正極であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極及びそれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池の正極材料(正極活物質)としてLiCoOやLiNi1/3Mn1/3Co1/3等のLi系層状化合物やLiMn等のスピネル化合物が用いられてきた。近年では、LiFePOに代表されるポリアニオン系化合物が注目されている。ポリアニオン系化合物は高温での熱安定性が高く、安全性が高いことが知られている。
【0003】
ポリアニオン系化合物では、その結晶格子が有する四面体骨格に電子が強く引き寄せられ、結晶格子中の金属原子が孤立する。そのため、ポリアニオン系化合物の電子伝導性はLi系層状化合物に比べて低い傾向にある。このような電子伝導性の低いポリアニオン系化合物を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池では、理論容量に対して十分な容量が得られなかったり、レート特性が低くなったりする傾向がある。
【0004】
ポリアニオン系化合物として特許文献1に記載されているリチウムリン酸バナジウム化合物は、活物質粒子の微細化により、反応面積を増やし、リチウムイオン拡散を容易にすることでレート特性が向上することが開示されている。
しかしながら、粒子を微細化したことにより、従来の活物質粒子に比べ電極内に存在する粒子数が増えるため、各粒子に導電性を付与するには導電助剤量を通常よりも多く必要とする。導電助剤量を増やせば、電極内に存在する活物質粒子比率が少なくなり、電極密度が低下し、電池容量やレート特性など様々な特性の劣化が生じてしまう。
【0005】
特許文献2では、正極活物質の表面に導電助剤を付着させながらも粉体密度を向上させ電極密度を高める方法が記載されている。
しかし、このような正極活物質表面に導電助剤を付着させ粉体密度を向上させる方法には、強い圧力及びせん断力を加えて行う為かえってレート放電特性が劣るという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−303527号公報
【特許文献2】特開2003−86174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、高い電極密度と優れたレート放電特性を両立した正極及びそれを用いたリチウムイオン二次電池を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明にかかる正極は、正極活物質とその表面に付着した炭素と、を含み、前記正極活物質はリチウムリン酸バナジウムであり、前記正極は、アルゴンイオンレーザーを用いたラマンスペクトルにおいて、1200〜1450cm−1に位置するピークP(Dバンド)と、1450〜1700cm−1に位置するピークP(Gバンド)と、780〜980cm−1に位置するピークPと、を有し、波数領域200〜1800cm−1において、ピークPの強度を1、最小ピーク強度を0として規格化した際、前記ピークPと前記ピークPの2つのピーク間の最小(Vバンド)のラマン強度が0.28以下であり、前記ピークPのラマン強度が0.6以上1.0以下であることを特徴とする。
【0009】
この様な構成にすることにより、高い電極密度と優れたレート放電特性を両立することができる。
【0010】
本発明にかかる正極は、前記ピークPと前記ピークPの2つのピーク間の最小(Vバンド)のラマン強度が0.24以上、0.28以下であることが好ましい。かかる構成により、高い電極密度と優れたレート放電特性とをより高いレベルで両立することができる。
【0011】
また、前記正極活物質はLiVOPOを含有することが好ましい。
【0012】
また、本発明にかかるリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、電解質と、が容器に収容され、前記正極が上述した構成であることを特徴とする。
【0013】
この様な構成にすることにより、高い電極密度と優れたレート放電特性を両立することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の正極、及びリチウムイオン二次電池によれば、高い電極密度と優れたレート放電特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態のリチウムイオン二次電池の構造を示す模式断面図である。
図2】本実施形態の正極の構造を示す模式断面図である。
図3】本実施形態の正極のラマンスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに以下に記載した構成要素は、適宜組み合わせることができる。
【0017】
本実施形態の正極は、正極活物質とその表面に付着した炭素と、を含み、前記正極活物質はリチウムリン酸バナジウムであり、前記正極は、アルゴンイオンレーザーを用いたラマンスペクトルにおいて、1200〜1450cm−1に位置するピークP(Dバンド)と、1450〜1700cm−1に位置するピークP(Gバンド)と、780〜980cm−1に位置するピークPと、を有し、波数領域200〜1800cm−1において、ピークPの強度を1、最小ピーク強度を0として規格化した際、前記ピークPと前記ピークPの2つのピーク間の最小(Vバンド)のラマン強度が0.28以下であり、前記ピークPのラマン強度が0.6以上1.0以下であることを特徴としている。
【0018】
(正極)
正極10は、図2に示すように、板状(膜状)の正極集電体12と、正極集電体12上に形成された正極活物質層14とを有している。
【0019】
(正極活物質層)
正極活物質層14は、正極活物質、導電助剤としての炭素、バインダーから主に構成されるものである。
【0020】
(正極活物質)
正極活物質は、下記式(1)で表される化合物が好ましい。

LiVOPO・・・(1)
【0021】
LiVOPOの平均一次粒子径としては、30nm〜300nmが好ましい。この様な粒径にすることにより、更に優れたレート特性が得られる。
【0022】
ここで、粒径が300nm以上の粒子であるとき、粒子内のリチウムイオンの拡散距離が比較的長くなるため、導電性が低くなる可能性があり、30nm以下であると容量は良好なもののサイクル特性が低下する可能性がある。
平均一次粒子径は、より好ましくは30〜200nmの範囲にあるとよい。このような構成によれば、粒子内のリチウムイオンの拡散距離が更に短くなるため、導電性が向上する。
【0023】
なお、平均一次粒子径の測定は、既存の方法で測定することができ、走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)等の顕微鏡にて測定可能である。
【0024】
(導電助剤)
導電助剤としての炭素は、カーボンブラック類、黒鉛類、カーボンナノチューブ(CNT)、気相成長炭素繊維(VGCF)などが挙げられる。カーボンブラック類としてはアセチレンブラック、オイルファーネス、ケッチェンブラック(登録商標)、などがある。またカーボンブラック類および黒鉛類、カーボンナノチューブ(CNT)、気相成長炭素繊維(VGCF)など含む1種類以上の炭素を含むことがより好ましい。
【0025】
導電助剤の混合比は正極全体に対して6〜10重量%であることが好ましい。導電助剤の量が少なすぎると電子伝導性が低くなり、レート放電特性が低下する可能性があり、導電助剤の量が多すぎると集電体との結着力が不足する可能性がある。
【0026】
(バインダー)
バインダーとしてはポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、芳香族ポリアミド、セルロース、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム等を用いてもよい。また、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体、その水素添加物、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、その水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子を用いてもよい。更に、シンジオタクチック1、2−ポリブタジエン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α−オレフィン(炭素数2〜12)共重合体等を用いてもよい。電極密度を高くするという観点からバインダーとして用いられる高分子の比重は1.2g/cmより大きいことが好ましい。また電極密度を高くし、且つ接着力を高める点から重量平均分子量が70万以上であることが好ましい。
【0027】
正極活物質層14に含まれるバインダーの含有率は、活物質層の質量を基準として4〜10質量%であることが好ましい。バインダーの含有率が4質量%未満となると、バインダーの量が少なすぎて強固な活物質層を形成できなくなる可能性が大きくなる。また、バインダーの含有率が10質量%を超えると、電気容量に寄与しないバインダーの量が多くなり、十分な体積エネルギー密度を得ることが困難となる可能性が大きくなる。また、この場合、特にバインダーの電子伝導性が低いと活物質層の電気抵抗が上昇し、十分な電気容量が得られなくなる可能性が大きくなる。
【0028】
(正極集電体)
正極集電体12は、導電性の板材であればよく、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル箔の金属薄板を用いることができる。
【0029】
以上、上述した構成材料により正極は構成されるが、さらにVバンドのラマン強度が0.24以上、0.28以下であると、より優れた電極密度とレート特性が得られるためより好ましい。
【0030】
なお、アルゴンイオンレーザーを用いたラマンスペクトルは、公知のアルゴンイオンレーザーを用いたラマン測定装置を用いればよく、例えば、波長514.532nmのアルゴンイオンレーザーを用いて測定すればよい。
【0031】
この正極10を用いると、以下の理由により、高い電極密度と優れたレート放電特性を両立したリチウムイオン二次電池が得られるものと推察される。1200〜1450cm−1に位置するピークP(Dバンド)と、1450〜1700cm−1に位置するピークP(Gバンド)の2つのピーク間の最小(Vバンド)の規格化ラマン強度(以降、規格化したラマン強度を規格化ラマン強度として記載する。)が0.28以下であると、正極活物質と導電助剤の複合化処理時に導電助剤を変質させる事なく正極活物質表面に均等に付着させ、電極としての高密度化を図り、これにより活物質間における電子伝導性に優れた構造が得られ、ひいては電池として優れたレート放電特性が得られると考えられる。特に0.244以上0.256以下であるとき、レート放電特性が良好でかつ良好な電極密度が得られると考えられる。
さらに、波数780〜980cm−1に位置するピークPの規格化ラマン強度は0.6以上1.0以下であると、導電助剤が適度な量で、適当な厚みの膜が、正極活物質表面に均一に付し、活物質間における電子伝導性が向上した構造が得られる。その様な構造により、電池として優れたレート放電特性が得られると考えられる。
【0032】
ここで、上述したVバンドの規格化ラマン強度は0.28を超えると、導電助剤を変質させる可能性が大きくなる。また、ピークPの規格化ラマン強度は、0.6より小さいと正極活物質表面に付着している導電助剤の層がLiイオンの脱着を阻害するためにイオン伝導性が劣化し充放電特性が悪化すると予想され、1.0より大きいと正極活物質表面への導電助剤の付着が不十分となり、電極内に導電助剤の凝集体が存在するために高い電極密度を得る事が出来なくなるおそれがあると考えられる。
【0033】
1200〜1450cm−1に位置するピークP (Dバンド)と、1450〜1700cm−1に位置するピークP(Gバンド)の2つのピーク間の最小(Vバンド)の規格化ラマン強度及び波数780〜980cm−1に位置するピークPの規格化ラマン強度は、正極活物質と導電助剤の複合化処理時のせん断力によって調整される。その力が大きくなると前記Vバンドの規格化ラマン強度は上り、前記ピークPの規格化ラマン強度は下がる。
【0034】
Vバンドを0.28以下に調整するためには、複合化装置の回転数を下げる方法、処理時間を短縮する方法、活物質と導電助剤の投入量を増やす方法、複合化処理装置の傾きを小さくなる様に設置する方法などが挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用する事が出来る。
の規格化ラマン強度は0.6以上1.0以下にするためには、複合化装置の回転数や処理時間、活物質と導電助剤の投入量を適宜調整する。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用する事が出来る。
【0035】
次に、上述した正極を備えるリチウム二次電池の構成を説明する。
【0036】
(リチウムイオン二次電池)
本実施形態におけるリチウムイオン二次電池の構成例を図1に示す。リチウムイオン二次電池は、リチウムを吸蔵放出可能な正極、負極およびセパレータより構成される。正極、負極、およびセパレータは容器に封入されており、電解質が含浸された状態で充電および放電がおこなわれる。リチウムイオン二次電池100は、主として、積層体30、積層体30を密閉した状態で収容する容器50、及び積層体30に接続された一対のリード60,62を備えている。
【0037】
積層体30は、一対の正極10、負極20がセパレータ18を挟んで対向配置されたものである。正極10は、正極集電体12上に正極活物質層14が設けられたものであり、負極20は、負極集電体22上に負極活物質層24が設けられたものである。また、正極活物質層14及び負極活物質層24は、セパレータ18の両側にそれぞれ接触している。さらに正極集電体12及び負極集電体22の端部には、それぞれリード60,62が接続されており、リード60,62の端部は容器50の外部にまで延びている。
【0038】
(負極)
負極20は、板状の負極集電体22と、負極集電体22上に形成された負極活物質層24を備える。負極集電体22、バインダー、導電助剤は、それぞれ、正極と同様のものを使用できる。また、負極活物質は特に限定されず、公知の電池用の負極活物質を使用できる。負極活物質としては、例えば、リチウムイオンを吸蔵・放出(インターカレート・デインターカレート、或いはドーピング・脱ドーピング)可能な黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温度焼成炭素等の炭素材料、Al、Si、Sn等のリチウムと化合することのできる金属、SiO、SiO、SnO等の酸化物を主体とする非晶質の化合物、または、酸化ケイ素とケイ素との複合体、チタン酸リチウム(LiTi12)等を含む粒子が挙げられる。中でも不可逆容量などの点から黒鉛を用いることが好ましい。
【0039】
(電解質)
電解質は、正極活物質層14、負極活物質層24、及び、セパレータ18の内部に含浸させるものである。電解質としては、特に限定されず、例えば、本実施形態では、リチウム塩を含む電解液(電解質水溶液、有機溶媒を使用する電解質溶液)を使用することができる。ただし、電解液は電気化学的に分解電圧が低いことにより、充電時の耐用電圧が低く制限されるので、有機溶媒を使用する電解液(非水電解液)であることが好ましい。電解液としては、リチウム塩を非水溶媒(有機溶媒)に溶解したものが好適に使用される。リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiClO、LiBF、LiAsF、LiCFSO、LiCF、CFSO、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiN(CFCFSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiN(CFCFCO)、LiBOB等の塩が使用できる。なお、これらの塩は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
また、有機溶媒としては、環状カーボネートと鎖状カーボネートの混合物を用いることができる。環状カーボネートとしてプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、鎖状カーボネートとしてジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等が好ましく挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を任意の割合で混合して使用してもよい。
【0041】
なお、本実施形態において、電解質は液状以外にゲル化剤を添加することにより得られるゲル状電解質であってもよい。また、電解液に代えて、固体電解質(固体高分子電解質又はイオン伝導性無機材料からなる電解質)が含有されていてもよい。
【0042】
(セパレータ)
セパレータ18は、電気絶縁性の多孔体であり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリオレフィンからなるフィルムの単層体、積層体や上記樹脂の混合物の延伸膜、或いは、セルロース、ポリエステル及びポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種の構成材料からなる繊維不織布が挙げられる。
【0043】
(容器)
容器50は、その内部に積層体30及び電解液を密封するものである。容器50は、電解液の外部への漏出や、外部からの電気化学デバイス100内部への水分等の侵入等を抑止できるものであれば特に限定されない。例えば、容器50として、図1に示すように、金属箔を高分子膜で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムを利用できる。容器50は外装体とも呼ばれる。また、金属ラミネートフィルムを外装体に用いるとレート放電特性に優れたリチウムイオン二次電池が得られる。その理由は定かでないが、電極にリチウムイオンが挿入される際に電極は膨張または収縮する。金属ラミネートフィルムは電極の膨張および収縮に追従し、リチウムイオンの移動を阻害しないため、レート放電特性に優れるものと推測される。金属箔としては例えばアルミ箔を、高分子膜としてはポリプロピレン等の膜を利用できる。例えば、外側の高分子膜の材料としては融点の高い高分子例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド等が好ましく、内側の高分子膜の材料としてはポリエチレン、ポリプロピレン等が好ましい。
【0044】
(リード)
リード60,62は、アルミニウム等の導電材料から形成されている。
【0045】
次に、本実施形態の正極およびリチウムイオン二次電池における製造方法について説明する。
【0046】
(正極の製造方法)
本実施形態にかかる電極の製造方法は、複合化工程とスラリー作製工程、電極塗布工程、および圧延工程とを備える。
【0047】
(複合化工程)
まず複合化工程では、正極活物質と導電助剤とをせん断力を加えながら混合し、導電助剤が変質しない程度に複合化粒子の密度を高めながら、正極活物質表面に均一に導電助剤を付着させる。
【0048】
(スラリー作製工程)
次に、正極活物質と導電助剤からなる複合化粒子にバインダー及びそれらの種類に応じた溶媒、例えばPVDFの場合はN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド等の溶媒を混合しスラリーを作製する。
【0049】
(電極作製工程)
そのスラリーを、ドクターブレード、スロットダイ、ノズル、グラビアロールなどの公知の方法の中から適宜選択し塗布を行う。塗布の量やライン速度の調整により正極担持量を調整することができる。スラリーの塗布の後は、乾燥を行い、溶媒を揮発させる。
【0050】
(圧延工程)
最後にロールプレスにより圧延を行い正極が完成する。このとき、ロールを加熱しバインダーを柔らかくすることにより、より高い電極密度を得ることができる。ロールの温度は100℃〜200℃の範囲が好ましい。
【0051】
(負極の製造方法)
一方、負極は、上述の複合化工程を除いたスラリー作製工程、電極塗布工程、および圧延工程により作製することができる。なお各工程は、正極と同様の条件にて作製可能である。
【0052】
このようにして得られた正極及び負極の間にセパレータを挟んだ状態で、電解液と共に容器50内に挿入し、容器50の入り口をシールすればリチウムイオン二次電池が完成する。
【0053】
なお、引き出しのための電極として、リード60、62を正極集電体12、負極集電体22にそれぞれ溶接しておくことにより、図1のようなリチウムイオン二次電池が完成する。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
(評価用セルの作製)
正極活物質としてLiVOPOと、導電助剤としてケッチェンブラックを10度に傾斜させたホソカワミクロン製メカノフュージョン(登録商標)を用いて、回転数2500rpm条件下で複合化をおこなった。ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を加え、重量比がLiVOPO:ケッチェンブラック:PVdF=84:8:8となるように混合した。そして、溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を加えてスラリーを調製した後、固練りを1時間行った。その後NMPを追加して粘度を5000mPa・sに調整した。ドクターブレード法により集電体であるアルミニウム箔上に塗布し、100℃で10分間乾燥を行った。その後100℃に加熱したロールプレスにより線圧2tcm−1で圧延をおこない、正極を作製した。正極の活物質担持量は12mg/cmとなるように調整した。
【0056】
次に、負極として天然黒鉛と人造黒鉛の複合体とアセチレンブラックとポリイミド樹脂のNメチルピロリドン(NMP)溶液を天然黒鉛と人造黒鉛の複合体:アセチレンブラック:ポリイミド樹脂=93:3:4の割合になるように混合し、スラリー状の塗料を作製した。塗料を集電体である銅箔に塗布し、乾燥、圧延することによって負極を作製した。
【0057】
正極と、負極とを、それらの間にポリエチレン微多孔膜からなるセパレータを挟んで積層し、積層体(電池素体)を得た。この積層体を、外装体となるアルミラミネートパック(アルミニウム箔の2つの主面にポリプロピレン(PP)とポリエチレンテレフタラート(PET)とをそれぞれ被覆した積層シートの袋体)に入れた。
電解液はエチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)を体積比3:7で混合し、支持塩としてLiPFを1.5mol/Lになるよう溶解した。積層体を入れたアルミラミネートパックに、上記電解液を注入した後、真空シールし、実施例1の評価用セルを作製した。
【0058】
(実施例2)
メカノフュージョンの回転数を2200rpmへ変更したこと以外は実施例1と同様の方法で評価用セルを作製した。
【0059】
(実施例3)
メカノフージョンの回転数を2800rpmへ変更したこと以外は実施例1と同様の方法で評価用セルを作製した。
【0060】
(実施例4)
メカノフュージョンの回転数を3000rpmへ変更したこと以外は実施例1と同様の方法で評価用セルを作製した。
【0061】
(実施例5)
メカノフュージョンの回転数を3200rpmへ変更したこと以外は実施例1と同様の方法で評価用セルを作製した。
【0062】
(実施例6)
メカノフュージョンの回転数を3700rpmへ変更したこと以外は実施例1と同様の方法で評価用セルを作製した。
【0063】
(実施例7)
メカノフュージョンの回転数を2600rpmへ変更したこと以外は実施例1と同様の方法で評価用セルを作製した。
【0064】
(実施例8)
メカノフュージョンの回転数を2400rpmへ変更したこと以外は実施例1と同様の方法で評価用セルを作製した。
【0065】
(実施例9)
メカノフュージョンの回転数を2300rpmへ変更したこと以外は実施例1と同様の方法で評価用セルを作製した。
【0066】
(実施例10)
メカノフュージョンの回転数を4000rpmへ変更したこと以外は実施例1と同様の方法で評価用セルを作製した。
【0067】
(実施例11)
メカノフュージョンの回転数を2000rpmへ変更したこと以外は実施例1と同様の方法で評価用セルを作製した。
【0068】
(実施例12)
メカノフュージョンの回転数を4200rpmへ変更したこと以外は実施例1と同様の方法で評価用セルを作製した。
【0069】
(比較例1)
メカノフュージョンの回転数を4300rpmへ変更したこと以外は実施例1と同様の方法で評価用セルを作製した。
【0070】
(比較例2)
メカノフュージョンの回転数を4500rpmへ変更したこと以外は実施例1と同様の方法で評価用セルを作製した。

(比較例3)
メカノフュージョンの回転数を1700rpmへ変更したこと以外は実施例1と同様の方法で評価用セルを作製した。
【0071】
(比較例4)
メカノフュージョンの回転数を1500rpmへ変更したこと以外は実施例1と同様の方法で評価用セルを作製した。
【0072】
(比較例5)
メカノフュージョンの回転数を1300rpmへ変更したこと以外は実施例1と同様の方法で評価用セルを作製した。
【0073】
(レート放電特性の評価)
実施例1のレート放電特性(単位:%)をそれぞれ求めた。なお、レート放電特性とは、0.1Cでの放電容量を100%とした場合の1Cでの放電容量の比率とし、低レートから高レートに渡り放電特性がどの程度維持されているかを評価した結果を表1に示す。レート放電特性は大きいほど好ましいが、70%以上を良好なものと判断した。
【0074】
(電極密度の評価)
電極密度は電極の重量と塗膜の面積及び厚みから計算した。その結果を表1に示す。電極密度は大きいほど好ましいが、2.10(単位:g/cm)以上を良好なものと判断した。
【0075】
(ラマン散乱強度の評価)
ホリバ・ジョバンイボン社製アルゴンレーザーラマン装置を用いて、波長514.532nmのアルゴンイオンレーザーを用いて正極のラマンスペクトルを測定した。そのラマンスペクトルの一例を図3に示す。図3のように
波数領域200〜1800cm−1において、ピークP (Dバンド)の強度を1、最小ピーク強度を0としてラマンスペクトルを規格化した。
ピークPとピークP間のラマン強度及びピークPのラマン強度は正極の測定箇所を変え、10点測定したものの平均値である。
【0076】
表1に示す結果から明らかなように、正極の波数1200〜1700cm−1間に存在する2つのピーク間の最小の規格化ラマン散乱強度が0.28以下であり、波数780〜980cm−1間の最大の規格化ラマン散乱強度が0.6以上1.0以下である場合に高レート条件でも優れた放電特性を示し、かつ高い電極密度を得られることがわかる。
【0077】
【表1】
【符号の説明】
【0078】
10・・・正極,20・・・負極、12・・・正極集電体、14・・・正極活物質層、18・・・セパレータ、22・・・負極集電体、24・・・負極活物質層、30・・・積層体、50・・・容器、60,62・・・リード、100・・・リチウムイオン二次電池。
図1
図2
図3