(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1から請求項7のうちいずれか1項に記載した表示体が、光透過性を有する基材を含む物品、または、光透過性を有しない基材を含む物品に、光透過性を有する接着層を介して取付けて形成されていることを特徴とするラベル付き物品。
前記第一光反射層または前記第二光反射層は、予め設定したカラー画像に対応した色が知覚される分光反射率を有する金属で形成されていることを特徴とする請求項10または請求項11に記載した表示体の製造方法。
前記第一光反射層及び前記第二光反射層は、それぞれ、異なる金属材料で形成されていることを特徴とする請求項10から請求項12のうちいずれか1項に記載した表示体の製造方法。
前記第一光反射層及び前記第二光反射層のうち少なくとも一方は、アルミニウムで形成されていることを特徴とする請求項10から請求項13のうちいずれか1項に記載した表示体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているような回折格子は、一般の印刷物に比べて構造が複雑であり、高い微細加工技術がないと作製が困難であった。
しかしながら、最近では、表面レリーフタイプの回折格子に似た、銀色で虹色に輝く類似品が流通してきており、偽造防止効果が薄れてきているため、回折格子に代わる新しい光学特性を有する、偽造防止性の優れたセキュリティデバイスの提供が望まれている。
本発明は、このような問題点を解決しようとするものであり、表面レリーフタイプの回折格子の回折効果を保ちつつ、正反射光のスペクトルを制御し、偽造品との判別が可能な、表示体、表示体の製造方法、ラベル付き物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、光透過層の一方の面の少なくとも一部に複数の凹部及び複数の凸部からなる凹凸構造が設けられた凹凸構造領域を備え、
前記凹凸構造領域に光反射層を設け、
前記光反射層は、前記凹部または前記凸部に積層されていることを特徴とする表示体である。
また、本発明の一態様は、光透過層の一方の面の少なくとも一部に複数の凹部及び複数の凸部からなる凹凸構造が設けられた凹凸構造領域を備え、
前記凹凸構造領域に光反射層を設け、
前記光反射層は、複数の層で構成され、
前記複数の層は、それぞれ、前記凹部と前記凸部とで異なる形状で積層されていることを特徴とする表示体である。
【0007】
また、本発明の一態様は、前記複数の層は、それぞれ、分光反射率特性が異なることを特徴とする表示体である。
また、本発明の一態様は、前記複数の層の一方の分光反射率特性が、予め設定したカラー画像に対応した分光反射率特性であることを特徴とする表示体である。
また、本発明の一態様は、前記複数の層は、それぞれ、異なる金属材料で形成されていることを特徴とする表示体である。
また、本発明の一態様は、前記凹凸構造領域が回折格子であることを特徴とする表示体である。
また、本発明の一態様は、前記光反射層は、アルミニウムで形成されていることを特徴とする表示体である。
【0008】
また、本発明の一態様は、上述した表示体が、光透過性を有する基材を含む物品、または、光透過性を有しない基材を含む物品に、光透過性を有する接着層を介して取付けて形成されていることを特徴とするラベル付き物品である。
また、本発明の一態様は、光透過層の一方の面の少なくとも一部に複数の凹部及び複数の凸部からなる凹凸構造が設けられた凹凸構造領域を形成する凹凸構造領域形成工程と、
前記凹凸構造領域形成工程で形成した凹凸構造領域に設けた前記凹部または前記凸部に、第一光反射層を積層する第一光反射層積層工程と、
前記第一光反射層積層工程の後工程として、前記凹凸構造領域形成工程で形成した凹凸構造領域を部分的に除去する凹凸構造除去工程と、を含むことを特徴とする表示体の製造方法である。
【0009】
また、本発明の一態様は、光透過層の一方の面の少なくとも一部に複数の凹部及び複数の凸部からなる凹凸構造が設けられた凹凸構造領域を形成する凹凸構造領域形成工程と、
前記凹凸構造領域形成工程で形成した凹凸構造領域に設けた前記凹部または前記凸部に、第一光反射層を積層する第一光反射層積層工程と、
前記第一光反射層積層工程の後工程として、前記凹凸構造領域形成工程で形成した凹凸構造領域を部分的に除去する凹凸構造除去工程と、
前記凹凸構造除去工程で部分的に除去した凹凸構造領域に設けた前記凹部及び前記凸部に、第二光反射層を選択的に積層する第二光反射層積層工程と、を含むことを特徴とする表示体の製造方法である。
【0010】
また、本発明の一態様は、前記第一光反射層及び前記第二光反射層は、それぞれ、分光反射率特性が異なることを特徴とする表示体の製造方法である。
また、本発明の一態様は、前記第一光反射層または前記第二光反射層の分光反射率特性が、予め設定したカラー画像に対応した分光反射率特性であることを特徴とする表示体の製造方法である。
また、本発明の一態様は、前記第一光反射層及び前記第二光反射層は、それぞれ、異なる金属材料で形成されていることを特徴とする表示体の製造方法である。
また、本発明の一態様は、前記第一光反射層及び前記第二光反射層のうち少なくとも一方は、アルミニウムで形成されていることを特徴とする表示体の製造方法である。
また、本発明の一態様は、前記凹凸構造領域が回折格子であることを特徴とする表示体の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様であれば、表面レリーフタイプの回折格子の回折効果を保ちつつ、正反射光のスペクトルを制御し、偽造品との判別が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態(以下、本実施形態と記載する)について、図面を参照しつつ説明する。
(表示体10の構成)
図1及び
図2中に示すように、表示体10は、光透過層11と、光反射層13と、接着層15を備える。なお、
図2中には、一例として、光透過層11側を前面側(観察者側)に配置し、接着層15側を背面側に配置した場合を示す。
【0014】
光透過層11は、表面の汚れや傷等から凹凸構造14を保護し、これにより、表示体10の視覚効果を長期にわたって保つ効果を果たす。さらに、光透過層11は、凹凸構造14を露出させないことにより、複製を困難にしている。
光透過層11を構成する材料としては、例えば、光透過性を有する樹脂を使用することが可能である。光透過性を有する樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネイト、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、ニトロセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリルスチレン共重合体、塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル等の熱可塑性樹脂や、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステルウレタン、アクリルウレタン、エポキシウレタン、シリコーン、エポキシ、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂や、紫外線または電子線硬化性の、各種アクリルモノマー、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート等のオリゴマー、アクリル基やメタクリル基等を有するアクリルやエポキシ及びセルロース系樹脂等の反応性ポリマーを使用することが可能である。
【0015】
なお、光透過層11の構成としては、表面強度や凹凸構造14の形成し易さ等を考慮して、二層以上の構成を採用しても良い。
光反射層13は、凹凸構造14が設けられた界面の反射率を高める役割を果たす。
光反射層13を構成する材料としては、例えば、アルミニウム、銀、錫、クロム、ニッケル、銅、金及びそれらの合金等の金属材料を使用することが可能である。
また、光反射層13を構成する材料としては、例えば、誘電体材料等、光透過層11を構成する材料とは屈折率が異なる材料からなるものを使用しても良い。
【0016】
また、光反射層13は、真空製膜法を利用して形成することが可能である。真空製膜法としては、真空蒸着法、スパッタリング法等が適用可能である。
接着層15は、光反射層13上、または、光透過層11上に形成されている。なお、本実施形態では、一例として、
図2中に示すように、接着層15を光反射層13上に形成した場合について説明する。
また、接着層15は、偽造防止対策を施す物品に表示体10を取り付けるために設けられている。
また、接着層15の構成は、偽造対策を施したい物品と表示体10との間の接着強度や、偽造対策を施したい物品の接着面の平滑性等を考慮して、二層以上の構成としてもよい。なお、
図2中には、光透過層11側から表示体10を観察する構成を示しているが、光反射層13側から表示体10を観察する構成を採用してもよい。
【0017】
次に、光透過層11と光反射層13との界面部に設けられている凹凸構造14について説明する。
光透過層11と光反射層13との界面(境界面、主面)には、第1凹凸構造領域12aと、第2凹凸構造領域12bと、第3凹凸構造領域12cと、平坦領域12eが形成されている。
第1凹凸構造領域12a、第2凹凸構造領域12b及び第3凹凸構造領域12cには、複数の凹部及び複数の凸部のうち、少なくとも一方が設けられている。すなわち、第1凹凸構造領域12a、第2凹凸構造領域12b及び第3凹凸構造領域12cは、それぞれ、凹凸構造14を有している。より具体的には、第1凹凸構造領域12a、第2凹凸構造領域12b及び第3凹凸構造領域12cは、回折構造となっている。
第1凹凸構造領域12aと、第2凹凸構造領域12bと、第3凹凸構造領域12cが有する凹凸構造14を、光透過層11と光反射層13との界面部に形成する際には、例えば、電子線描画装置やレーザ描画機等で原版を作製した後、電鋳法等で金属版を作製する。そして、作製した金属版を所定のフィルム上に熱圧着させることによって、フィルム上に凹凸構造14を形成する方法を用いることが可能である。
【0018】
図3中に示すように、第1凹凸構造領域12aには、複数の凹凸構造14aを配置してなる回折格子が設けられている。
なお、用語「回折格子」は、自然光等の照明光を照射することにより回折波を生じる構造を意味している。また、以降の説明では、回折格子の凸部に挟まれた部分を「凹部」と記載する場合がある。
隣り合う凹凸構造14a間の中心間距離は、例えば、200nm以上2000nm以下の範囲内にある。なお、本実施形態では、一例として、隣り合う凹凸構造14a間の中心間距離を2000nmとした場合について説明する。
【0019】
また、凹凸構造14aの高さは、100nm以上500nm以下の範囲内にある。なお、本実施形態では、一例として、凹凸構造14aの高さを200nmとした場合について説明する。
また、第1凹凸構造領域12aの凹凸構造14aは、
図4中に示すように、第一光反射層13aと、第二光反射層13bが積層されて形成されている。なお、
図4中に示す例では、第一光反射層13aと、第二光反射層13bが積層されているが、凹凸構造14aはこれに限定するものではなく、第一光反射層13a、または、第二光反射層13bのうち、どちらか一方のみが積層されていてもよい。
【0020】
なお、本実施形態では、一例として、第1凹凸構造領域12aの凹凸構造14aを、2次元凹凸構造とした場合について説明するが、凹凸構造14aの構成は、これに限定するものではなく、ピラーが配列されている3次元凹凸構造を採用しても良い。
第2凹凸構造領域12bが有する凹凸構造14bは、
図5中に示すように、第1凹凸構造領域12aを除去した構造である。具体的には、第2凹凸構造領域12bが有する凹凸構造14bは、第1凹凸構造領域12aを、100nm除去した構造となっている。また、特に図示しないが、第3凹凸構造領域12cが有する凹凸構造14も同様に、第1凹凸構造領域12aを除去した構造である。
【0021】
なお、第2凹凸構造領域12bが有する凹凸構造14bは、X軸とY軸が45度の角度で交差する直線と平行に配列されていても良い。
また、隣り合う凹凸構造14bの中心間距離Dは、例えば、200nm以上2000nm以下の範囲内とする。また、凹凸構造14bの高さは、例えば、100nm以上500nm以下の範囲内とする。また、特に図示しないが、第3凹凸構造領域12cが有する凹凸構造14も同様に、隣り合う凹凸構造14の中心間距離を、例えば、200nm以上2000nm以下の範囲内とし、凹凸構造14の高さを、例えば、100nm以上500nm以下の範囲内とする。
【0022】
隣り合う凹凸構造14の中心間距離を上記の値に設定する理由は、隣り合う凹凸構造14の中心間距離が短くなると、凹凸構造14を成形することが困難になるためである。したがって、隣り合う凹凸構造14の中心間距離を200nm以上とする。
また、凹凸構造14の高さを上記の値に設定する理由は、凹凸構造14の高さが大きくなると、凹凸構造14を成形することが困難になるためである。したがって、凹凸構造14の高さを500nm以下とする。
また、隣り合う凹凸構造14の中心間距離及び凹凸構造14の高さを上記の値に設定する理由は、凹凸構造14の深さが大きくなると、凹凸構造14を成形することが困難になるためである。したがって、凹凸構造14のアスペクト比(高さ/中心間距離)を、2以下とする。
【0023】
第2凹凸構造領域12bの凹凸構造14bは、
図6中に示すように、第一光反射層13aが凸部16aのみに積層されて形成されている。すなわち、第2凹凸構造領域12bの凹凸構造14bは、
図6中に示すように、第一光反射層13aが、凸部16a以外の凹部16bには積層されていない。
第3凹凸構造領域12cの凹凸構造14cは、
図7中に示すように、第一光反射層13aが凸部16aのみに積層され、さらに、第二光反射層13bが光透過層11と接着層15の界面の全てに積層されて形成されている。このように、第一光反射層13aと第二光反射層13bが積層された凹凸構造14を、観察者側から拡大観察すると、第一光反射層13aと第二光反射層13bが交互に配置されているように見える。
【0024】
また、
図8(a)中に示すように、第1凹凸構造領域12aを観察者側から拡大観察した画像には、第一光反射層13aを確認することが可能である。しかし、凹凸構造領域12aを観察者側から拡大観察した画像には、第二光反射層13bは、第一光反射層13aの裏側になるため観察することはできない。
また、
図8(b)中に示すように、第2凹凸構造領域12bを観察者側から拡大観察した画像には、第一光反射層13a及び接着層15を、交互に配列された状態で確認することが可能である。
【0025】
また、
図8(c)中に示すように、第3凹凸構造領域12cを観察者側から拡大観察した画像には、第一光反射層13a及び第二光反射層13bを、交互に配列された状態で確認することが可能である。
平坦領域12eは、平坦面である。なお、平坦領域12eの発現する光学性能は、第1凹凸構造領域12a、第2凹凸構造領域12b及び第3凹凸構造領域12cの発現する光学性能とは異なるため、平面領域12eを組み込むことによって、デザイン性を向上させることが可能である。しかしながら、平坦領域12eを有しない構成としてもよい。
【0026】
以上説明したように、本実施形態の表示体10は、第二凹凸構造領域12b及び第三凹凸構造領域12cのうち、少なくとも一方が設けられた界面を含んでいる。また、第二凹凸構造領域12bは、凸部16aのみに第一光反射層13aが積層されている。また、第三凹凸構造領域12cは、凹部16bと凸部16aで異なる光反射層13が積層されている。
したがって、本実施形態の表示体10は、凹凸構造14を正確に解析することは困難である。また、本実施形態の表示体10は、凹凸構造14が解析されたとしても、凹凸構造14に積層された光反射層13を再現することが難しいため、複製は困難である。
【0027】
また、本実施形態の表示体10は、特殊な視覚効果を有している。すなわち、第1凹凸構造領域12aは、波長分散を伴う回折光を生じるため、視点位置により七色にカラーシフトして見え、回折格子が形成された界面として認識される。さらに、第2凹凸構造領域12bにおいても、波長分散を伴う回折光を生じ、視点位置により七色にカラーシフトして見え、回折格子が形成された界面として認識される。
したがって、第1凹凸構造領域12a及び第2凹凸構造領域12bは、偽造、または、模造を試みる者が、一見して同じ凹凸構造であるように認識する。しかしながら、透過観察を行うと、第1凹凸構造領域12aと第2凹凸構造領域12bは、光学特性が全く異なる。ここで、透過観察とは、一般に、光反射層13側に配置した光源から、表示体10に光を照射し、表示体10の表面からの透過光によって、表示体10の表面の様子を観察することである。
【0028】
透過観察による透過光の観察は、第2凹凸構造領域12bのみで可能である。よって、反射観察によるデザイン表現だけではなく、透過観察によるデザイン表現が可能になる。ここで、反射観察とは、一般に、上方に配置した光源から表示体10の表面に光を照射し、表示体10の表面からの反射光によって、表示体10の表面の様子を観察することである。
また、本実施形態の表示体10は、第3凹凸構造領域12cが、第1凹凸構造領域12a及び第2凹凸構造領域12bと同じように、波長分散を伴う回折光を生じ、視点位置により七色にカラーシフトして見え、回折格子が形成された界面として認識される。しかしナガラ、正反射光を観察すると、第一光反射層13aと第二光反射層13bで知覚される色を足し合せた色が観察される。このように色が足し合わせされる理由は、第一光反射層13aと第二光反射層13bが、2000nm毎と非常に細かく交互に積層されているため、人間の目で各々の反射光を知覚することはできない。つまり、並置混色状態であり、第一光反射層13aと第二光反射層13bの中間色が知覚されることとなる。
【0029】
なお、第一光反射層13aと第二光反射層13bの膜厚は、共に、光学特性から、30nm以上90nm以下の範囲内が好ましい。
これは、第一光反射層13aと第二光反射層13bの膜厚が30nmよりも薄い場合には、例えば、
図9中に示すように、透過光が50%を超えるため、透過観察時の、第1凹凸構造領域12a及び第2凹凸構造領域12bのコントラストが低下するためである。
また、第一光反射層13aと第二光反射層13bの膜厚が90nmを超える場合には、例えば、
図9中に示すように、第一光反射層13aと第二光反射層13bの膜厚に対する透過率の変動値が小さくなるためである。したがって、90nmを超える膜厚で第一光反射層13aと第二光反射層13bを積層しても、光学的効果の変化が少ないため、凹凸構造14の斜面の、第一光反射層13aと第二光反射層13bの膜厚は、光学特性から、30nm以上90nm以下の範囲内に設定する。なお、本実施形態では、一例として、第一光反射層13aと第二光反射層13bの膜厚を90nmとした場合について説明する。
【0030】
また、第2凹凸構造領域12bの透過観察時の透過率は、第2凹凸構造領域12bの凸部16aと凹部16bの表示体に対して垂直方向から観察した場合の面積率によって、制御することが可能である。
さらに、第2凹凸構造領域12bは、凹凸構造14の凸部16aのみに第一光反射層13aを積層することで、透過観察時の透過率を制御する。したがって、反射観察した場合の回折光射出領域(第2凹凸構造領域12b)と、透過観察時の透過領域がほぼ一致する。また、反射観察時は、凹凸構造14bに第一光反射層13aが積層されている部分から回折光が観察されるが、透過観察の場合には、凹凸構造14bのうち第一光反射層13aが積層されてない部分が、光を透過して観察される。すなわち、反射観察と透過観察では、観察される画像はネガとポジの関係にある。
したがって、本実施形態の表示体10を偽造防止媒体として使用すると、高い偽造防止効果を得ることが可能である。
【0031】
以下、本実施形態の表示体10の視覚効果について、さらに詳細に説明する。
まず、第1凹凸構造領域12aの凹凸構造14aに起因した視覚効果について説明する。
回折格子に照明光を照射すると、回折格子は、入射光である照明光の進行方向に対して、
図10中に示すように、特定の方向に強い回折光を射出する。なお、
図10中には、回折格子を符号「12d」で示し、入射光を符号「31a」で示し、回折光のうち0次回折光を符号「32a」で示し、回折光のうち1次回折光を符号「33a」で示す。
最も代表的な回折光は、1次回折光33aである。
【0032】
1次回折光33aの射出角βは、回折格子の格子線に垂直な面内で光が進行する場合、以下の数式(1)から算出することが可能である。
d=λ/(sinα−sinβ) … (1)
数式(1)において、dは回折格子の格子定数を表し、λは入射光及び回折光の波長を表している。また、αは、0次回折光、すなわち、透過光または正反射光の射出角を表している。したがって、αの絶対値は、照明光の入射角と等しく、入射角とはZ軸に対して対称な関係である(反射型回折格子の場合)。なお、α及びβは、Z軸から時計回りの方向を正方向とする。
また、数式(1)から明らかなように、1次回折光33aの射出角βは、波長λに応じて変化する。すなわち、回折格子は、分光器としての機能を有している。したがって、照明光が白色光である場合、回折格子の格子線に垂直な面内で観察角度を変化させると、観察者が知覚する色が変化する。
【0033】
また、ある観察条件のもとで観察者が知覚する色は、格子定数dに応じて変化する。例えば、回折格子は、その法線方向に1次回折光を射出するとする。すなわち、1次回折光33aの射出角βは、0°であるとする。そして、観察者は、この1次回折光33aを知覚するとし、このときの0次回折光32aの射出角をαNとすると、数式(1)は、以下の数式(2)へと簡略化することが可能である。
d=λ/sinαN … (2)
数式(2)から明らかなように、観察者に特定の色を知覚させるには、その色に対応した波長λと、照明光の入射角|αN|と、格子定数dを、それらが数式(2)に示す関係を満足するように設定すればよい。例えば、波長が400nm以上700nm以下の範囲内にある全ての光成分を含んだ白色光を照明光として使用し、照明光の入射角|αN|を45°とし、さらに、空間周波数(格子定数の逆数)が1000本/mm以上1800本/mm以下の範囲内で分布している回折格子を使用するとする。この場合、回折格子を、その法線方向から観察すると、空間周波数が約1600本/mmの部分は青く見え、空間周波数が約1100本/mmの部分は赤く見える。
【0034】
なお、回折格子は、空間周波数が小さいほうが形成し易い。そのため、通常の表示体では、回折格子の大多数は、空間周波数が500本/mm以上1600本/mm以下の範囲内の回折格子である。
このように、或る観察条件のもとで観察者が知覚する色は、回折格子の格子定数d(または空間周波数)で制御することが可能である。そして、先の観察条件から観察角度を変化させると、観察者が知覚する色は変化する。
上記の説明では、光が格子線に垂直な面内で進行することを仮定している。この状態から、回折格子をその法線の周りで回転させると、一定の観察方向に対して、この回転角度に応じて格子定数dの実効値が変化する。その結果、観察者が知覚する色が変化する。すなわち、格子線の方位のみが異なる複数の回折格子を配置した場合、それらの回折格子に異なる色を表示させることが可能である。また、回転角度が十分に大きくなると、一定の観察方向からは回折光が認識できなくなり、回折格子が無い場合と同様に認識される。
【0035】
また、回折格子を構成している凹凸構造14aの高さを大きくすると、回折効率が変化する(照明光の波長等にも依存)。そして、後述する画素に対する回折格子の面積比を大きくすると、回折光の強度はより大きくなる。
したがって、第1凹凸構造領域12aにおいて、凹凸構造14aが所定の配列パターンで配列されてなる複数個の画素が配置されている場合、それらの画素の一部と他の一部とで、凹凸構造14aの空間周波数及び方位のうち少なくとも一方を異ならせると、それらの画素に異なる色を表示させることが可能となるとともに、観察可能な条件を設定することが可能となる。
【0036】
そして、第1凹凸構造領域12aを構成している画素の一部と他の一部とで、凹凸構造14aの高さ及び画素のうち少なくとも一方に対する回折格子の面積比の少なくとも1つを異ならせると、それらの画素の輝度を異ならせることが可能となる。したがって、これらを利用することにより、第1凹凸構造領域12aに、フルカラー像及び立体像等の像を表示させることが可能となる。
なお、上記の「像」は、色及び輝度のうち少なくとも一方の空間的分布として観察が可能であるものを意味する。また、上記の「像」は、写真、図形、絵、文字、記号等を包含する。
【0037】
なお、第1凹凸構造領域12aの回折光305は、
図11中に示すようなイメージとして観察される。なお、
図11中には、光源を符号「302」で示し、観察者を符号「303」で示し、入射光を符号「304」で示す。
また、表示体10を透過観察した場合のイメージは、
図12中に示すものとなる。なお、
図12中には、光源を符号「302」で示し、観察者を符号「303」で示し、入射光を符号「304」で示す。
【0038】
図12中に示すように、第1凹凸構造領域12aと、第3凹凸構造領域12cは、透過観察時に透過光307を観察できない。これは、上述したように、凹凸構造14に、第二光反射層13bが一様に積層されているため、第二光反射層13bによって光が遮光されるためである。
また、第2凹凸構造領域12bを透過観察した場合の光の挙動は、
図13中に示すものとなる。上述したように、凸部16aには第一光反射層13aが積層されている。よって、光は第一光反射層13aに遮光されるが、凹部分16bには第一光反射層13aが積層されていないため、光は透過する。したがって、第2凹凸構造領域12bは、すかし効果を有することとなる。
【0039】
また、表示体10の凹凸構造14は、波形状をしている。すなわちZ軸方向に移動しながら構造を輪切りにしていくことで、光反射層13がある領域と無い部分の領域の面積比(開口率)が変化する。つまり、凹凸構造14を除去する深さによって、透過光量を制御することが可能となる。
透過光量を多くするためには、凹凸構造14を除去する深さを多くする。また、透過光量を少なくするためには、凹凸構造14を除去する深さを少なくする。このように、凹凸構造14を除去する深さを制御することで、開口率を変更させることが可能である。
このように、凹凸構造14の除去により開口率を変化させれば良いため、凹凸構造14を円錐状、三角錐状等にすることや、ピッチ等を変化させることでも、透過光量を制御することが可能となる。すなわち、凹凸構造14を除去する深さを一定にして、凹凸構造14の形状によって透過光量を制御することが可能である。このように、凹凸構造14の除去の深さ制御、または、凹凸構造14の形状を変化させることで、透過光量を制御することが可能となる。
【0040】
また、凹凸構造14の形状で透過光量を制御することが可能であるため、解像度を凹凸構造14単位で制御することが可能になり、高解像度化が可能となる。したがって、グラデーションやマイクロ文字等を表現することが可能となり、デザイン性を向上させることが可能となる。
また、第一光反射層13aと第二光反射層13bを金属材料からなるものとする場合、以下に示すように、部分的に金属除去する方法を採用することで、さらなる偽造防止効果の向上を図ることが可能となる。
【0041】
以下、部分金属除去方法について説明する。
第1の方法は、水洗インキを基材上にネガパターンで印刷しておき、その上から蒸着やスパッタリングを用いて、全面に金属反射層(第一光反射層13a、第二光反射層13b)を形成した後、印刷されている部分を水で洗い流すことにより、その上の金属反射層(第一光反射層13a、第二光反射層13b)を取り除いて、パターンを形成する水洗シーライト加工を用いる方法である。
第2の方法は、金属反射層(第一光反射層13a、第二光反射層13b)上にマスク剤をポジパターンで印刷し、マスク剤で印刷されていない部分を腐食剤で腐食させることにより、パターンを形成するエッチング加工を用いる方法である。
【0042】
第3の方法は、金属反射層(第一光反射層13a、第二光反射層13b)のうち、除去したい部分に強いレーザを当てて金属反射層(第一光反射層13a、第二光反射層13b)を選択的に破壊することにより、パターンを形成するレーザ加工を用いる方法である。
本実施形態の表示体10は、例えば、偽造防止効果を有するシールラベル、スレッド、ストライプ転写箔、スポット転写箔等として使用することが可能である。
また、本実施形態の表示体10は、偽造や模造が困難であるため、本実施形態の表示体10を物品に支持させた場合、偽造や模造も困難となる。また、本実施形態の表示体10は、上述した視覚効果を有しているため、真正品であるかが不明の物品を、真正品と非真正品との間で判別することも容易である。
【0043】
(ラベル付き物品の構成)
以下、本実施形態の表示体10を支持させた物品(ラベル付き物品)の構成について説明する。
なお、本実施形態では、一例として、ラベル付き物品を、偽造防止用ストライプ転写箔(表示体10)を物品に支持させて形成した、
図14中に示すカード40とした場合について説明する。
カード40は、透明なプラスチック基材44を含んでおり、プラスチック基材44上には、印刷層41が形成されている。
さらに、カード40には、偽造防止用ストライプ転写箔として表示体10が貼りつけられている。
【0044】
なお、表示体10には、レリーフ型の回折格子が形成されている。
また、表示体10は、第一凹凸構造領域12aを蒸着後に凹凸構造を除去し、さらに、蒸着を行った第二凹凸構造領域12bと、第一凹凸構造領域12aを蒸着後に凹凸構造14を除去した第三凹凸構造領域12cと、平坦領域12eで構成されている。
第一凹凸構造領域12aは、均一にアルミニウムの反射層(光反射層13)が積層されており、第二凹凸構造領域12bは凸部にアルミニウムの反射層(光反射層13)、凹部に銅の反射層(光反射層13)が積層されている。また、第三凹凸構造領域12cには、選択的にアルミニウムの反射層(光反射層13)が積層されている。
【0045】
また、第一凹凸構造領域12aの中心間距離は1000nmであり、凹凸構造14aの深さは200nmである。
また、表示体10は、
図15中に示すように、表面保護層兼剥離層42と、光透過層11と、第一光反射層13a(アルミニウムの反射層、または、銅の反射層)と、第二光反射層13b(アルミニウムの反射層、または、銅の反射層)と、接着層15と、プラスチック基材44が積層されて形成された積層体である。なお、
図15中に示す例では、表面保護層兼剥離層42側を前面側とし、プラスチック基材44側を背面側としている。
【0046】
光透過層11と第一光反射層13aまたは第二光反射層13bとの界面は、第一凹凸構造領域12aと、第二凹凸構造領域12bと、第三凹凸構造領域12cと、平坦領域12eを含んでいる。
カード40は、表示体10を含んでいるため、カード40の、第一凹凸構造領域12aと、第二凹凸構造領域12bと、第三凹凸構造領域12cの正反射光を観察した場合、第一凹凸構造領域12a及び第二凹凸構造領域12bは、アルミニウムの分光反射率で表現される色が知覚される。一方、第三凹凸構造領域12cは、アルミニウムと銅で、第一光反射層13aと第二光反射層13bが形成されているため、それぞれの分光反射率を足し合せた色が知覚される。
【0047】
したがって、第一凹凸構造領域12a及び第二凹凸構造領域12bと第三凹凸構造領域12cの正反射光を観察した場合には、まったく異なる光学特性を有する。しかし、回折光を観察した時には、第一凹凸構造領域12aと、第二凹凸構造領域12bと、第三凹凸構造領域12cによる分光により、第一凹凸構造領域12aと、第二凹凸構造領域12bと、第三凹凸構造領域12cは、全て、虹色に輝いて見える。これにより、正反射光を観察したときにのみ月のマークが出現する潜像模様を作成することが可能である。
すなわち、回折光を観察時と正反射光を観察する際で画像が変化することで真偽判定することが可能である。また、正反射光で知覚される色は、アルミニウムと銅の分光反射率を足し合わせている。したがって、二つの光反射層13(第一光反射層13a及び第二光反射層13b)により、特有の光学特性を発揮することが可能であるため、偽造防止効果が高くなる。さらに、カード40を透過観察すると、第三凹凸構造領域12cのみ、透過光を観察することが可能となる。このため、反射観察と透過観察で、観察が可能な画像を変更することが可能であり、偽造防止効果を向上させることが可能となる。
【0048】
(表示体10の製造方法)
次に、表示体10の製造方法を説明する。
表示体10の製造方法は、
図16中に示すように、凹凸構造領域形成工程と、第一光反射層積層工程と、凹凸構造除去工程と、第二光反射層積層工程を含む。
凹凸構造領域形成工程は、
図16(a)中に示すように、光透過層11の一方の面に凹凸構造14を形成する工程である。
第一光反射層積層工程は、凹凸構造領域形成工程の後工程であり、
図16(b)中に示すように、凹凸構造14に第一光反射層13aを積層する工程である。
また、第一光反射層積層工程では、真空蒸着法により、第一光反射層13aを凹凸構造14に積層する。
凹凸構造除去工程は、第一光反射層積層工程の後工程であり、
図16(c)中に示すように、凹凸構造14を部分的に除去する工程である。
【0049】
また、凹凸構造除去工程は、例えば、
図17中に示すように、ラップ盤35と呼ばれる平面の台上に凹凸構造14(工作物)を置き、ラップ盤35と工作物の除去面との間に、砥粒としてラップ剤30を挟み、工作物に上から圧力を加えた(加圧した)状態で、スライディングさせて除去を行う。
第二光反射層積層工程は、凹凸構造除去工程の後工程であり、
図16(d)中に示すように、凹凸構造除去工程で部分的に除去した凹凸構造14に第二光反射層13bを積層する工程である。
また、第二光反射層積層工程では、真空蒸着法により、第二光反射層13bを、凹凸構造除去工程で部分的に除去した凹凸構造14に積層する。
以上により、本実施形態の表示体10の製造方法では、複数の光反射層13(第一光反射層13a、第二光反射層13b)を、凹部16bと凸部16aに、選択的に積層する。
【0050】
(第一実施形態の効果)
以下、本実施形態の効果を列挙する。
(1)光透過層の一方の面の凹凸構造の凹部または凸部に光反射層が積層されているため、反射観察した際と透過観察した場合とで、ネガとポジの画像が得られる。また、凹凸構造の凹部と凸部の比率を変えることにより、反射率や透過率を制御することが可能である。
(2)光透過層の一方の面の凹凸構造の凹部と凸部に異なる光反射層が積層されているため、正反射光が、凹部と凸部に積層されている反射材料の各色の組み合わせで人間に視認される。したがって、反射材料を変更することにより、光反射層の正反射光の色を制御することが可能である。
【0051】
(3)凹凸構造領域形成工程と第一光反射層積層工程に、凹凸構造領域を部分的に除去する凹凸構造除去工程を追加することにより、光反射層を凹部または凸部の一方のみに積層することが可能である。
(4)凹凸構造領域形成工程と第一光反射層積層工程に、凹凸構造領域を部分的に除去する凹凸構造除去工程と第二光反射層積層工程を追加することにより、複数の光反射層を凹部と凸部に選択的に積層することが可能になる。
(5)凹凸構造が回折格子であるため、入射光を回折することが可能であり、印刷では表現できない意匠性を付与することが可能になる。
(6)光反射層の分光反射率特性が異なる材料を凹部と凸部に積層することで、それぞれの光反射層の色の中間色を表現することが可能となる。
【0052】
(7)凹部または凸部に積層された光反射層の一方の分光反射率特性が、予め設定(用意)したカラー画像に対応しているため、意匠性や偽造防止効果を高めることが可能である。
(8)光反射層が二種類の材料で形成されているため、光反射層を複数種類用いる表示体と比較して、工程数を簡略化することが可能である。
(9)光反射層の凹部または凸部がアルミニウムで構成されているため、回折光の回折率を上昇させることや、表示体のコストを軽減することが可能である。
(10)表示体を、光透過性を有する基材からなる物品や、光透過性が無い基材からなる物品に添付することによって、物品に高い偽造防止効果を付与することが可能である。