特許第6349836号(P6349836)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友ベークライト株式会社の特許一覧

特許6349836バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料およびバリスタ
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6349836
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料およびバリスタ
(51)【国際特許分類】
   H01C 7/10 20060101AFI20180625BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20180625BHJP
   C09D 5/03 20060101ALI20180625BHJP
   C09D 5/18 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   H01C7/10
   C09D163/00
   C09D5/03
   C09D5/18
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-61988(P2014-61988)
(22)【出願日】2014年3月25日
(65)【公開番号】特開2015-183121(P2015-183121A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山村 浩史
【審査官】 五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−292765(JP,A)
【文献】 特開2012−255139(JP,A)
【文献】 特開2001−44338(JP,A)
【文献】 特開2004−63599(JP,A)
【文献】 特開2010−192539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/10
C09D 5/03
C09D 5/18
C09D 163/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バリスタの外装用に用いられるバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料であって、
前記バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料が、エポキシ樹脂、硬化剤、リン酸エステル系難燃剤および銅化合物を含み、
前記バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料で膜厚300μmに外装されたバリスタに対して、2気圧、121℃ 、100%RH、24時間条件のプレッシャークッカー処理前および前記処理後において、バリスタ電圧試験を行った際に1mAの電流がリークする電圧をそれぞれV01およびV1としたとき、プレッシャークッカー処理前後の電圧変化率Δ1(%)=(1−V1/V01)×100が5%以下であることを特徴とするバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項2】
前記銅化合物が、炭酸銅、シュウ酸銅からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の銅化合物である請求項1に記載のバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項3】
前記銅化合物が、前記バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料100質量部に対して、0.1質量部以上20質量部以下である請求項1又は2に記載のバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項4】
前記リン酸エステル系難燃剤が、前記エポキシ樹脂100質量部に対して、5質量部以上100質量部以下である請求項1から3のいずれか1項に記載のバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項5】
前記バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料が、さらに充填剤を含有する請求項1から4のいずれか1項に記載のバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項6】
前記充填剤が、前記バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料100質量部に対して、40質量部以上80質量部以下である請求項5に記載のバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項7】
バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料で外装されたバリスタであって、
前記バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料が、請求項1から6のいずれか1項に記載のバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料である、バリスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料およびバリスタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂粉体塗料は、従来から、電気・電子部品を絶縁外装する目的で使用されている。このようなエポキシ樹脂粉体塗料は、電気・電子部品の火災に対する安全性を確保するため、絶縁外装塗膜に高度の難燃性を有することも要求されている。このため粉体塗料の成分中には難燃性を付与する様々な化合物が配合されている。
【0003】
難燃性を付与する方法としては、例えば、可燃性の樹脂成分を少なくし不燃性の無機充填材、特に結晶水を含有していて燃焼時にはこれを放出することで難燃効果を発現するような、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの無機充填材を多く配合する方法、エポキシ樹脂を燃焼性の低いシリコーン樹脂やシアヌレート環含有樹脂で変性する方法など、さまざまな方法が提案、実施されているが、最も広く実施されているのは各種のハロゲン系難燃剤を配合する方法である(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−057101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ハロゲン材を使用しなくても優れた難燃性を有するとともに、優れた耐湿性を有するバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料を提供するものである。また、バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料をバリスタの外装に使用した場合、優れた耐燃焼性、信頼性を有するバリスタを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、以下[1]〜[7]項に記載の本発明により達成される。
[1]バリスタの外装用に用いられるバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料であって、上記バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料が、エポキシ樹脂、硬化剤、リン酸エステル系難燃剤および銅化合物を含み、上記バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料で外装されたバリスタに対して、2気圧、121℃、100%RH、24時間条件のプレッシャークッカー処理前および前記処理後において、バリスタ電圧試験を行った際に1mAの電流がリークする電圧をそれぞれV1およびV1としたとき、プレッシャークッカー処理前後の電圧変化率Δ1(%)=(1−V1/V1)×100が5%以下であることを特徴とするバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料。
[2]上記銅化合物が、炭酸銅、シュウ酸銅からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の銅化合物である上記[1]項に記載のバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料。
[3]上記銅化合物が、上記バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料100質量部に対して、0.1質量部以上20質量部以下である上記[1]又は[2]項に記載のバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料。
[4]上記リン酸エステル系難燃剤が、上記エポキシ樹脂100質量部に対して、5質量部以上100質量部以下である上記[1]から[3]項のいずれか1項に記載のバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料。
[5]上記バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料が、さらに充填剤を含有する上記[1]から[4]項のいずれか1項に記載のバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料。
[6]上記充填剤が、上記バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料100質量部に対して、40質量部以上80質量部以下である上記[5]項に記載のバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料。
[7]上記[1]から[6]項のいずれか1項に記載のバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料で外装されたことを特徴とするバリスタ。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、優れた難燃性を有するとともに、耐湿性が向上された、バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料が提供される。また、本発明のバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料をバリスタとして使用した場合、耐燃焼性、信頼性に優れるバリスタが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料は、バリスタの外装用に用いられるバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料であって、前記バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料が、エポキシ樹脂、硬化剤、リン酸エステル系難燃剤および銅化合物を含み、上記バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料で外装されたバリスタに対して、2気圧、121℃、100%RH、24時間条件のプレッシャークッカー処理前および前記処理後において、バリスタ電圧試験を行った際に1mAの電流がリークする電圧をそれぞれV1およびV1としたとき、プレッシャークッカー処理前後の電圧変化率Δ1(%)=(1−V1/V1)×100が5%以下であることを特徴とする。これにより、優れた難燃性を有するとともに、耐湿性が向上された、バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料を得ることができる。
また、本発明のバリスタは、本発明のバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料で外装されたことを特徴とする。これより、加湿処理後でもバリスタ電圧が低下し難く、耐燃焼性に優れるバリスタを得ることができる。
以下に、本発明のバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料及びバリスタについて説明する。
【0009】
まず、本発明のバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料について説明する。
本発明のバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料は、バリスタの外装用に用いられるバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料であって、前記バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料が、エポキシ樹脂、硬化剤、リン酸エステル系難燃剤および銅化合物を含み、上記バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料で外装されたバリスタに対して、2気圧、121℃、100%RH、24時間条件のプレッシャークッカー処理前および前記処理後において、バリスタ電圧試験を行った際に1mAの電流がリークする電圧をそれぞれV1およびV1としたとき、プレッシャークッカー処理前後の電圧変化率Δ1(%)=(1−V1/V1)×100が5%以下であることを特徴とする。これにより、優れた難燃性を有するとともに、耐湿性が向上された、バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料を得ることができる。
【0010】
本発明で用いられるエポキシ樹脂は、分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有し、かつ、非ハロゲン化エポキシ樹脂であり、一般のエポキシ樹脂粉体塗料に適用される室温下で固形のものであれば使用することができる。このようなエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、ビフェニル型、ナフタレン型、芳香族アミン型などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、これらは単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。特に低コスト、溶融時の粘度、耐熱性という観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型が好適に用いられる。
【0011】
本発明で用いられる硬化剤は、バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料が適用される目的に応じて種々のものを単独または複数を組み合わせ使用することができる。例えば、ジアミノジフェニルメタンやアニリン樹脂などの芳香族アミン、脂肪族アミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合物、ジシアンジアミド及びその誘導体、各種イミダゾールやイミダゾリン化合物、アジピン酸、セバチン酸、フタル酸、マレイン酸、トリメリット酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、ピロメリット酸などのポリジカルボン酸またはその酸無水物、アジピン酸やフタル酸などのジヒドラジッド、フェノール、クレゾール、キシレノール、ビスフェノールAなどとアルデヒドとの縮合物であるノボラック類、カルボン酸アミド、メチロール化メラミン類、ブロック型イソシアヌレート類等が挙げられる。これらの中でも、酸無水物系の硬化剤が、得られる粉体塗料の硬化特性を向上させることから好ましい。
【0012】
エポキシ樹脂に対する硬化剤の割合は、使用するエポキシ樹脂及び硬化剤の種類により調整することができる。好ましくは、硬化剤の官能基(数)が、エポキシ樹脂のエポキシ基(数)に対して、0.6モル当量以上1.2モル当量以下、さらに好ましくは0.9モル当量以上1.1モル当量以下の範囲で使用される。上記範囲であると、良好な硬化特性が得ることができる。なお、これらの硬化剤に対して必要により3級アミン類、イミダゾール類などの硬化促進剤を使用してもよく、なかでも有機リン化合物の使用はさらに難燃性を高めるために望ましい。
【0013】
エポキシ樹脂と硬化剤との合計量は、バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料100質量部に対して、好ましくは、10質量部以上80質量部以下であり、さらに好ましくは20質量部以上50質量部以下である。配合量が上記下限値以上の場合、塗膜の平滑性が低下し難く、一方、上記上限値以下の場合、塗装後の硬化工程である焼成時にタレやトガリといった外観不良を起こし難い。
【0014】
リン酸エステル系難燃剤は、難燃性を向上するのに添加されるものであり、難燃剤として一般的に用いられる有機リン酸エステルであればいずれも用いることができる。リン酸エステル化合物の具体例としては、トリフェニルホスフェート、トリスノニルフェニルホスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス[ジ(2,6−ジメチルフェニル)ホスフェート]、2,2−ビス{4−[ビス(フェノキシ)ホスホリルオキシ]フェニル}プロパン、2,2−ビス{4−[ビス(メチルフェノキシ)ホスホリルオキシ]フェニル}プロパン等が挙げられるがこれらに制限されることはない。さらに上記以外にリン酸エステル化合物としては、特に限定されないが、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジイソプロピルフェニルホスフェートなどのリン酸エステル化合物、ジフェニル−4−ヒドロキシ−2,3,5,6−テトラブロモベンジルホスフォネート、ジメチル−4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモベンジルホスフォネート、ジフェニル−4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモベンジルホスフォネート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、ビス(2、3−ジブロモプロピル)−2、3−ジクロロプロピルホスフェート、トリス(2,3−ジブロモプロピル)ホスフェート、ビス(クロロプロピル)モノオクチルホスフェートハイドロキノニルジフェニルホスフェート、フェニルノニルフェニルハイドロキノニルホスフェート、及びフェニルジノニルフェニルホスフェートなどのモノリン酸エステル化合物、芳香族縮合型リン酸エステルなどが挙げられる。リン酸エステル系難燃剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0015】
これらのなかでも、本発明で用いられるリン酸エステル系難燃剤は、十分な難燃性を付与するためにはリン含有量が高く室温において固形のものが望ましく、例えば、トリフェニルホスフェートや芳香族縮合型リン酸エステルが好適に用いられる。
【0016】
リン酸エステル系難燃剤の配合量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、5質量部以上100質量部以下であり、好ましくは20質量部以上70質量部以下、さらに好ましくは40質量部以上60質量部以下である。これにより、バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料の難燃性を向上させることができる。特に、20質量部以上70質量部以下とすることにより、バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料をバリスタの外装に使用した場合、バリスタの耐燃焼性を優れたものとすることができる。さらに、40質量部以上60質量部以下とすることにより、難燃性と硬化物特性のバランスに優れたバリスタを得ることができる。
【0017】
本発明において用いられる銅化合物は、耐湿性を向上するのに添加されるものである。銅化合物は、ハロゲン化合物を除くものであればよく、シュウ酸銅、ステアリン酸銅、ギ酸銅、酒石酸銅、オレイン酸銅、酢酸銅、グルコン酸銅、サリチル酸銅などの有機銅化合物や、炭酸銅、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅、リン酸銅、ハイドロタルサイト、スチヒタイト、パイロライト等の天然鉱物などの無機銅化合物を用いることができる。特に、エポキシ樹脂との相溶性やバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料の成形性、さらに耐湿性の向上という観点から、炭酸銅、シュウ酸銅が好適に用いられる。
【0018】
銅化合物の配合量は、上記バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料100質量部に対して、0.1質量部以上20質量部以下であり、さらに好ましくは3質量部以上10質量部以下である。0.1質量部よりも多いと銅化合物による耐湿改善効果に優れ、20質量部よりも少ないと硬化性が良好となり、優れた特性を持った硬化物が得ることができる。さらに、3質量部以上10質量部以下とすることにより、バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料をバリスタとして使用した時にプレッシャークッカー(PCT)処理後のバリスタの電圧変化率が低下し難く、耐湿性に優れたものとなり、かつバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料の硬化度がばらつき難く、バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料の硬化性が優れたものとなる。
【0019】
本発明のバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料は、さらに充填剤を含むことができる。充填剤を含むことにより、硬化物の強度が向上や溶融時の粘度を最適な範囲に調整することができる。充填材としては、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、結晶又は溶融シリカ、表面処理シリカ、タルク、カオリン、クレー、マイカ、ドロマイト、ウォラストナイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、ジルコン、チタン化合物、モリブデン化合物等が挙げられる。これらは単独で用いても、複数組み合わせて用いてもよい。特に、低コスト、入手のしやすさという観点から、水酸化アルミニウム、結晶または溶融シリカが好適に用いられる。
【0020】
充填材の配合量は、バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料100質量部に対して、好ましくは、40質量部以上80質量部以下であり、さらに好ましくは、50質量部以上70質量部以下である。配合量が上記下限値よりも大きいと焼成時にタレやトガリといった外観上の不具合を起こし難く、塗膜の機械的強度も十分となる場合がある。一方、上記上限値よりも小さいと塗膜の平滑性が低下し難い。
【0021】
また、充填材の粒径としては特に限定されないが、通常、平均粒径として2μm以上50μm以下、さらに好ましくは5μm以上30μm以下のものが用いられる。これにより、粉体塗料に良好な流動性が付与され塗装性がより向上し、さらには塗膜の機械的強度についても最適なものとすることができる。
【0022】
本発明のバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料は、バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料で外装されたバリスタに対して、2気圧、121℃、100%RH、24時間条件のプレッシャークッカー処理前および前記処理後において、バリスタ電圧試験を行った際に1mAの電流がリークする電圧をそれぞれV1およびV1としたとき、プレッシャークッカー処理前後の電圧変化率Δ1(%)=(1−V1/V1)×100が5%以下であることを特徴とする。PCT処理前後の電圧変化率Δ1が5%以下であり、さらに好ましくは2%以下とすることにより、バリスタの信頼性がより優れたものとなる。また、PCT処理において、2気圧、121℃、100%RH、2時間条件で行うことができるが、上記条件(2気圧、121℃、100%RH、24時間)の方が、環境負荷が大きく、他の電子部品(セラミックコンデンサ等)と比較して基準電圧以下では高い絶縁性が必要なので、より信頼性が求められるバリスタの性能を指標する処理条件としてはより好適に使用することができる。
【0023】
さらにバリスタ電圧試験について1mAの電流がリークする電圧を測定する代わりに、10μAおよび1μAの電流がリークする電圧を測定することもできる。10μAおよび1μAの電流がリークする電圧を測定する場合は、1mAの電流がリークする電圧と比べて、PCT処理前後で電圧変化率が増大しやすく、より厳しい評価となる。10μAの電流がリークする電圧を測定する場合は、PCT処理前後の電圧変化率Δ2が30%以下であり、さらに20%以下とすることが好ましい。1μAの電流がリークする電圧を測定する場合は、PCT処理前後の電圧変化率Δ3が70%以下であり、さらに50%以下とすることが好ましい。この数値条件を満たす場合、バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料の耐湿性に優れ、バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料をバリスタと使用した場合、バリスタの信頼性が優れるものとなる。
【0024】
ここで試験に使用するバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料を用いたバリスタとは、外装されていない半導体セラミック(例えば、直径9.5mm×厚み3.5mm)にバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料を膜厚300〜3000μmとなるように外装したバリスタである。PCT処理に用いる装置は、上述の条件となる環境を作れるものであればよく、例えば、飽和型プレッシャークッカー処理装置(平山製作所社製、PC-362M)などが挙げられる。電圧変化率を測定する装置は、例えば、定電流電源装置(岩田高電圧研究所社製、AS508B)などが挙げられる。電圧を測定する際、常温、50%RH雰囲気下で行い、電圧引加による発熱の影響を避けるため、できるだけ速やかに処理する。
【0025】
本発明のバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料は、以上に説明した成分のほか、必要に応じて、顔料、レベリング剤、カップリング剤、消泡剤などの添加剤を配合することができる。また、難燃性を高めるためにシリコーン樹脂、メラミン樹脂などのシアヌレート環骨格を有する樹脂、あるいはホウ酸亜鉛、膨張性黒鉛などの非ハロゲンの難燃性助剤を使用することもできる。
【0026】
本発明において粉体塗料を製造する方法は特に限定されるものではなく、一般的な方法を用いることができる。一例としては、所定の組成比に配合した原料成分をミキサーによって十分に均一混合した後、エクストルーダーや二軸混練機などで溶融混合し、ついで粉砕機により適当な粒度に粉砕、分級して得ることができる。
【0027】
次に、本発明のバリスタについて説明する。
本発明のバリスタは、本発明のバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料で外装されたことを特徴とする。これより、加湿処理後でもバリスタ電圧が低下し難く、耐燃焼性に優れるバリスタを得ることができる。外装する前のバリスタは、非直線性抵抗特性を持つ半導体セラミックスを2枚の電極ではさんだ構造をしているタイプのものを使用することができる。半導体セラミックスは、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、炭化珪素などを使用することができる。バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料で外装する箇所は、非直線性抵抗特性を持つ半導体セラミックスと接するように外周全体を覆うものであればよく、例えば、非直線性抵抗特性を持つ半導体セラミックスをはさんだ2枚の電極の一部を覆ってもよい。外装の厚みは、特に限定されないが、300μm以上3000μm以下が好ましく、500μm以上2000μm以下がさらに好ましい。この範囲の場合、優れた耐湿性を有したバリスタが得られ、また、塗装装置の小型化することができ、バリスタのコストを下げることができる。
【0028】
エポキシ樹脂粉体塗料によるバリスタの外装方法は、特に限定はないが、外装のないバリスタを準備し、塗装装置を用いて、バリスタの封止箇所にバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料を塗装し、加熱することによりバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料を硬化させ、バリスタを作製する方法が挙げられる。塗装装置は、バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料の付着性が良く、操作が簡易という観点から、流動浸漬タイプの装置が好適に使用される。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
実施例及び比較例において用いた原材料は以下の通りである。
1.エポキシ樹脂
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂:ジャパンエポキシレジン三菱化学社製・「エピコート1003」(エポキシ当量720)
2.硬化剤
・TMA:トリメリット酸無水物
3.硬化促進剤
・TPP:トリフェニルホスフィン
4.充填材
・水酸化アルミニウム:日本軽金属製・BF083(平均粒径10μm)
5.顔料
・カーボンブラック
6.リン酸エステル系難燃剤
・リン酸エステル系難燃剤:大八化学製・PX−200
7.銅化合物
・炭酸銅
・シュウ酸銅
8.その他 金属化合物
・シュウ酸マグネシウム
【0031】
(実施例1)
(1)バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料の作製
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン三菱化学社製・「エピコート1003」)28質量部、トリメリット酸無水物4.4質量部、トリフェニルホスフィン0.1質量部、水酸化アルミニウム(日本軽金属製・「BF083」(平均粒径10μm))57質量部、リン酸エステル系難燃剤13質量部、炭酸銅0.1質量部をミキサーにより混合し、80℃条件下で溶融混練した後、粉砕機により粉砕して、平均粒度が40〜60μmのバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料1を得た。
(2)バリスタの作製
流動浸漬塗装装置(OPPC社製、0S型)を用いて、上述により作製したバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料1(1000g)を用いて外装されていない半導体セラミック(直径9.5mm×高さ3.5mm)に膜厚300μmとなるように塗装し、150℃の条件下でバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料を30分硬化させ、バリスタ1を作製した。
【0032】
(実施例2〜7、および比較例1〜4)
表1に記載の配合種類および配合量(質量部)に従い、バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料を作製した以外は、実施例1と同様にバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料及びバリスタを作製した。
また、各実施例及び比較例により得られたバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料およびバリスタについて、次の各評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
(評価方法)
上述の各評価について、評価方法を以下に示す。
【0035】
(1)ゲル化時間
得られたバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料に対して、JIS C 2161に準拠して、165℃の熱盤を用いてゲル化するまでの時間(秒)を測定した。ゲル化時間が80秒より長く、且つ80秒に近いゲル化時間である方が、優れた成形性を有していると判断される。
【0036】
(2)難燃性
加熱可能なハンドプレス装置を用いて得られたバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料を120℃で溶融させ、150℃で乾燥機にて硬化し、長さ125mm×幅13mm×厚み0.8mmの試験板を作製し、UL94垂直法に準拠して測定した。試験の結果が接炎後の燃焼時間の最大値が3秒以下である場合は◎、10秒以下である場合は○、10秒より長い場合は×と記載した。難燃性試験の結果が◎である場合は、特に優れた難燃性を有するバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料であると判断される。
【0037】
(3)プレッシャークッカー(PCT)処理前後におけるバリスタ電圧変化率(%)
得られたバリスタに対して、バリスタ電圧試験を行い、1mA、10μAおよび1μAの電流がリークする電圧V1、V2およびV3をそれぞれ測定した。電圧測定後、2気圧、121℃、100%RHの条件で24時間プレッシャークッカー(PCT)処理を実施し、PCT処理後バリスタを取り出し、再度バリスタ電圧試験を行い、PCT処理後における1mA、10μAおよび1μAの電流がリークする電圧V1、V2およびV3をそれぞれ測定した。以下の式により、PCT処理前後のバリスタ電圧変化率を算出した。
1mAリーク電圧変化率Δ1(%)= (1−V1/V1)×100
10μAリーク電圧変化率Δ2(%)= (1−V2/V2)×100
1μAリーク電圧変化率Δ3(%)= (1−V3/V3)×100
1mA、10μAおよび1μAリーク電圧PCT前後のバリスタ電圧変化率の値が低いほど、優れた耐湿性を有するバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料であると判断される。
PCT処理を行う装置は、飽和型プレッシャークッカー処理装置(平山製作所社製、PC-362M)を用い、電圧変化率を測定する装置は、定電流電源装置(岩田高電圧研究所社製、AS508B)を用いた。
【0038】
(4)信頼性
バリスタの外装樹脂の信頼性評価のため、加熱可能なハンドプレス装置を用いて得られたバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料を120℃で溶融させ、150℃で乾燥機にて硬化し、長さ100mm×幅100mm×厚み1mmの試験板を作製し、試験片を85℃85%の条件で1000時間加湿処理した後、JIS C2161に準拠した方法で体積抵抗率を測定した。1013Ω・cm以上のものを○、1013Ω・cm未満のものを×と判定した。○であれば、バリスタの信頼性が優れると判断される。
【0039】
(5)バリスタの耐燃焼性
得られたバリスタに対して、電圧電源装置を用いて電圧を引加し、バリスタを過電圧破壊させ、発熱・発火してから、消火するまでの時間を測定した。過電圧破壊時の発火から消火までの時間が短いほど、耐燃焼性に優れたバリスタであると判断される。
【0040】
表1に記載されている評価結果より、以下のことが分かる。
【0041】
難燃性評価において、実施例1〜7で得られた本発明のエポキシ樹脂粉体塗料は、リン酸エステル系難燃剤を含有しない比較例3、4のエポキシ樹脂粉体塗料と比較して、優れた難燃性を持つことがわかった。
【0042】
プレッシャークッカー(PCT)前後のバリスタ電圧変化率において、実施例1〜7で得られた本発明のエポキシ樹脂粉体塗装を用いたバリスタは、プレッシャークッカー(PCT)前後のバリスタ電圧変化率Δ1の値が低く、優れた耐湿性を有していることがわかった。
一方、銅化合物を含まない比較例1、銅化合物ではなくマグネシウム化合物を含有する比較例2により得られたエポキシ樹脂粉体塗装を用いたバリスタは、プレッシャークッカー(PCT)前後のバリスタ電圧変化率Δ1の値が高く、またプレッシャークッカー後に初期値から大きく増加し、実施例1〜7で得られた本発明のバリスタと比較して、耐湿性に優れないことがわかった。
【0043】
特に、実施例3〜6で得られた本発明のエポキシ樹脂粉体塗装を用いたバリスタは、プレッシャークッカー(PCT)前後のバリスタ電圧変化率Δ2の値およびΔ3の値が低く、さらに優れた耐湿性を有していることがわかった。
【0044】
信頼性評価において、実施例1〜7で得られた本発明のエポキシ樹脂粉体塗料を用いたバリスタは、プレッシャークッカー処理前後の電圧変化率Δ1の値が5%以下でない比較例1,2のエポキシ樹脂粉体塗料を用いたバリスタと比較して、信頼性に優れたバリスタであることがわかった。
【0045】
バリスタの耐燃焼性評価において、実施例1〜7で得られた本発明のエポキシ樹脂粉体塗料を用いたバリスタは、リン酸エステル系難燃剤を含有しない比較例3、4のエポキシ樹脂粉体塗料を用いたバリスタと比較して、耐燃焼性に優れたバリスタであることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、ハロゲン材を使用しなくても優れた難燃性を有するとともに、優れた耐湿性を有するバリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料を提供するものであり、また、バリスタ用エポキシ樹脂粉体塗料をバリスタの外装に使用した場合、優れた耐燃焼性を有するバリスタを提供するものであるため、工業的なバリスタの製造に好適に用いることができる。