特許第6349846号(P6349846)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6349846回転電機の制御装置及び回転電機制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6349846
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】回転電機の制御装置及び回転電機制御システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 9/14 20060101AFI20180625BHJP
   H02P 9/04 20060101ALI20180625BHJP
   B60L 11/12 20060101ALI20180625BHJP
   B60L 11/14 20060101ALI20180625BHJP
   B60K 6/26 20071001ALI20180625BHJP
   B60K 6/445 20071001ALI20180625BHJP
【FI】
   H02P9/14 G
   H02P9/04 LZHV
   B60L11/12
   B60L11/14
   B60K6/26
   B60K6/445
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-63943(P2014-63943)
(22)【出願日】2014年3月26日
(65)【公開番号】特開2015-186429(P2015-186429A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 嘉昭
(72)【発明者】
【氏名】平本 健二
(72)【発明者】
【氏名】難波 雅史
(72)【発明者】
【氏名】中井 英雄
(72)【発明者】
【氏名】守屋 一成
【審査官】 マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−069609(JP,A)
【文献】 特開2008−043172(JP,A)
【文献】 特開2005−009449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 9/14
B60K 6/26
B60K 6/445
B60L 11/12
B60L 11/14
H02P 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変界磁型の回転電機を制御する制御装置であって、
前記回転電機はエンジンのクランク軸に連結され、前記エンジンの動力により発電するものであり、
少なくとも前記エンジンの運転状況を入力する入力手段と、
前記運転状況に基づき、前記回転電機の目標界磁磁束を最大界磁磁束あるいは最小界磁磁束のいずれかに切り換える切換手段と、
前記目標界磁磁束に基づき、前記回転電機の界磁磁束を前記目標界磁磁束に制御するための制御指令を出力する制御手段と、
を備えることを特徴とする回転電機の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の回転電機の制御装置において、
前記切換手段は、前記エンジンの停止状態では最小界磁磁束を前記目標界磁磁束とし、前記エンジンの運転状態では最大界磁磁束を前記目標界磁磁束とすることを特徴とする回転電機の制御装置。
【請求項3】
請求項2記載の回転電機の制御装置において、
前記切換手段は、前記エンジンのクランキング状態では最大界磁磁束を前記目標界磁磁束とすることを特徴とする回転電機の制御装置。
【請求項4】
請求項3記載の回転電機の制御装置において、
前記制御手段は、前記エンジンのクランキングの開始に先立って前記回転電機の界磁磁束を最大界磁磁束に制御することを特徴とする回転電機の制御装置。
【請求項5】
可変界磁型の回転電機と、
前記回転電機を制御する制御装置と、
を備え、
前記回転電機はエンジンのクランク軸に連結され、前記エンジンの動力により発電するものであり、
前記制御装置は、
少なくとも前記エンジンの運転状況を入力する入力手段と、
前記運転状況に基づき、前記回転電機の目標界磁磁束を最大界磁磁束あるいは最小界磁磁束のいずれかに切り換える切換手段と、
前記目標界磁磁束に基づき、前記回転電機の界磁磁束を前記目標界磁磁束に制御するための制御指令を出力する制御手段と、
を備えることを特徴とする回転電機制御システム。
【請求項6】
請求項5記載の回転電機制御システムを備えた車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変界磁型の回転電機の制御装置及び回転電機制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、永久磁石を有する内周側回転子と、永久磁石を有し内周側回転子の外側に相対回転可能に配置された外周側回転子とでモータジェネレータの回転子を構成し、両回転子の回転位相を操作して誘起電圧定数を変更し得る構成が記載されている。誘起電圧定数の変更に応じてエンジン駆動目標トルクを変更して発電トルクと出力トルクをバランスさせるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−94182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術では発電機において生じる損失について十分考慮されておらず、発電効率が必ずしも高くない問題がある。例えば、一般的なシリーズハイブリッドの構成のようにエンジンと発電機が直結している場合、エンジン停止時には必ず発電機も停止するためエンジン停止時の引きずり損を考慮する必要がないが、後述する図1に示すような構成のハイブリッド自動車等ではエンジンが停止した状態で走行する場合に発電機が連れ回される。このため、エンジン停止状態では発電機の引きずり損を抑制し、発電機でエンジンをクランキングして始動する時には発電機をモータとして機能させてそのトルクを増大させ、エンジン運転中にはエンジンの運転状況に応じて発電機のトルクを時々刻々制御するために誘起電圧定数を動的に変更する必要があるところ、従来技術ではこれら種々の状況において発電効率向上の観点からの誘起電圧定数変更については考慮されていない。
【0005】
本発明の目的は、回転電機の発電効率を一層向上させることができる回転電機の制御装置及び回転電機制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、可変界磁型の回転電機を制御する制御装置であって、前記回転電機はエンジンのクランク軸に連結され、前記エンジンの動力により発電するものであり、少なくとも前記エンジンの運転状況を入力する入力手段と、前記運転状況に基づき、前記回転電機の目標界磁磁束を最大界磁磁束あるいは最小界磁磁束のいずれかに切り換える切換手段と、前記目標界磁磁束に基づき、前記回転電機の界磁磁束を前記目標界磁磁束に制御するための制御指令を出力する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
本発明の1つの実施形態では、前記切換手段は、前記エンジンの停止状態では最小界磁磁束を前記目標界磁磁束とし、前記エンジンの運転状態では最大界磁磁束を前記目標界磁磁束とすることを特徴とする。
【0008】
本発明の他の実施形態では、前記切換手段は、前記エンジンのクランキング状態では最大界磁磁束を前記目標界磁磁束とすることを特徴とする。
【0009】
本発明のさらに他の実施形態では、前記制御手段は、前記エンジンのクランキングの開始に先立って前記回転電機の界磁磁束を最大値に制御することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の回転電機制御システムは、可変界磁型の回転電機と、前記回転電機を制御する制御装置とを備え、前記回転電機はエンジンのクランク軸に連結され、前記エンジンの動力により発電するものであり、前記制御装置は、少なくとも前記エンジンの運転状況を入力する入力手段と、前記運転状況に基づき、前記回転電機の目標界磁磁束を最大界磁磁束あるいは最小界磁磁束のいずれかに切り換える切換手段と、前記目標界磁磁束に基づき、前記回転電機の界磁磁束を前記目標界磁磁束に制御するための制御指令を出力する制御手段を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の回転電機制御システムは、エンジンと回転電機で走行するハイブリッド自動車等の車両に搭載され得る。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、搭載される車両の運転状況に応じ、回転電機の発電効率を一層向上させることができる。これにより、車両の燃費を向上し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ハイブリッド自動車のシステム構成図である。
図2】実施形態のECUの機能ブロック図である。
図3】他の実施形態のECUの機能ブロック図である。
図4】界磁電流と界磁磁束との関係を示すグラフ図である。
図5】エンジン回転数、エンジントルク、発電機トルク及び界磁電流のタイミングチャートである。
図6】エンジン回転数、エンジントルク、発電機トルク及び界磁電流のタイミングチャートである。
図7】他の実施形態のECUの機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
【0015】
図1は、可変界磁型の回転電機を搭載したハイブリッド自動車の構成を示す。回転電機として、発電機200及びモータ300が搭載される。発電機200は、エンジン100のクランク軸にプラネタリギヤを介して連結される。モータ300もプラネタリギヤに連結される。プラネタリギヤの出力軸は、ディファレンシャルギヤを介してタイヤ(駆動輪)400に連結される。発電機200及びモータ300は、それぞれ図示しないバッテリに電気的に接続され、電力送受が行われる。発電機200は、エンジン100の動力により発電するとともに、発電された電力をモータ300及びバッテリに供給する。モータ300は、バッテリからの電力と発電機からの電力を用いて走行用駆動力を発生してタイヤ400を駆動する。
【0016】
エンジン100、発電機200、モータ300及びタイヤ400は、動力分配機構により接続され、車両の走行状態に応じてアクセル操作量に対する走行用駆動力の出力特性を変更して、モータ300のみで駆動力を発生するモード(EV走行モード)と、モータ300とエンジン100の両方で駆動力を発生するモードを選択的に切り替える。
【0017】
発電機200及びモータ300のうち少なくとも発電機200は、可変界磁型の回転電機であり、界磁磁束(ステータの鎖交磁束)が可変の回転電機である。可変界磁型の回転電機には種々のタイプが存在するが、本実施形態では任意の対応の可変界磁型の回転電機を用い得る。例えば、永久磁石を有する内周側ロータと、永久磁石を有し内周側ロータの外側に相対回転可能な外周側ロータでロータを構成し、両ロータの回転位相を回転操作機構で操作して界磁磁束を可変としてもよい。あるいは、回転軸方向に隣接した状態でステータと径方向に対向配置された主ロータと副ロータを備え、主ロータと副ロータを回転軸方向にギャップを空けて対向配置するとともに副ロータを主ロータに対して相対回転可能となる構成として、副ロータの回転位相を回転操作機構ないしステータ電流で操作して界磁磁束を可変としてもよい。
【0018】
電子制御装置(ECU)500は、CPU及びメモリを備えるマイクロコンピュータで構成され、各種検出信号を入力して発電機200及びモータ300を制御する。特に、ECU500は、ハイブリッド自動車の運転状況、具体的にはエンジン100の停止、クランキング、運転の各状態に応じて発電機200での発電効率が増大するように界磁磁束(ステータの鎖交磁束)を可変する。ECU500は、ハイブリッド自動車全体を制御するハイブリッド用ECUと協働で動作するが、これについては後述する。
【0019】
図2は、ECU500の機能ブロック図を示す。発電機200を制御する機能ブロック図である。
【0020】
ECU500は、機能ブロックとして、発電機の目標界磁特性切換部502、界磁特性制御部504、及び発電機トルク制御部506を備える。
【0021】
発電機の目標界磁特性切換部502は、運転状況としてのエンジン状態(エンジンの動作/停止)に応じ、要求トルクを出力するために必要な発電機200の目標界磁特性(目標界磁磁束)を切り換える。すなわち、発電機の目標界磁特性切換部502は、ハイブリッドECUから供給されたエンジン状態に基づき、界磁特性を最大値と最小値の間で切り換える。発電機200の発電量をW、発電機200の要求トルクをT、発電機200の角速度(回転数)をω、界磁磁束(ステータの鎖交磁束)をφとすると、トルクTは界磁磁束φ及び角速度ωの関数であり、発電機200の損失Qは要求トルクT,界磁磁束φ、角速度ωに依存するから、発電モデルは一般に
W=T(φ,ω)ω−Q(T(φ,ω),φ,ω)
と表すことができる。界磁磁束φを最小値φmin及びφmaxの2値として、発電量Wが増大するようにφmaxとφminのいずれかに切り換える。要求トルクTはバッテリの残容量(SOC)等に応じて設定される。要求トルクT及び角速度ωは入力して与えられるから、上記の発電量モデルを用いてWが増大するような界磁磁束φを逆演算するといえる。上記の式において、例えば、エンジンが停止状態にあり要求トルクがゼロである場合には損失Qを最小とすべく界磁磁束φを最小値φminとする。また、エンジンが運転状態にあり要求トルクが増大した場合には界磁磁束φを最大値φmaxとする。T(φ,ω)及びQ(T(φ,ω),φ,ω)は、実験により、あるいはシミュレーション等により予め決定してメモリに記憶しておく。一例として、エンジン状態と界磁磁束との対応関係をテーブルとしてメモリに記憶しておき、テーブルを参照して界磁磁束を読み出す。発電機の目標界磁特性切換部502は、設定した目標界磁特性(目標界磁磁束)を界磁特性制御部504及び発電機トルク制御部506に出力する。
【0022】
界磁特性制御部504は、演算された目標界磁特性(目標界磁磁束)に基づき、界磁磁束を可変とするための界磁特性調整機構に特性調整指令を出力する。界磁特性調整機構が外周側ロータを内周側ロータに対して相対回転する回転操作機構であれば当該機構を駆動するための制御指令である。
【0023】
発電機トルク制御部506は、要求トルク、角速度(回転数)、ステータ電流及び目標界磁特性に基づき、目標界磁特性を満たしつつ要求トルクを満たす電圧を演算し、発電機200のU相、V相、W相の3相ステータコイルに3相交流電流を供給するインバータに供給する。目標界磁特性が固定的であれば、発電機トルク制御部506は単に要求トルクを満たす電圧を演算してインバータに出力するが、本実施形態では目標界磁特性が最大値φmaxと最小値φminの間で切り換えられるため、これに応じてインバータに出力する電圧値も変化する。すなわち、発電効率を増大するための目標界磁特性に依存して発電機200で発電するための制御パラメータも適応的に変化する。
【0024】
次に、本実施形態についてより具体的に説明する。発電機200の構成として、例えば特開2010−226808号公報に記載された可変界磁型の回転電機を例にとり説明する。
【0025】
この回転電機では、ロータはラジアルロータとアキシャルロータで構成される。アキシャルロータはラジアルロータと機械的・磁気的に結合される。ステータは環状コア部と、直流電流が流れることでラジアルロータとアキシャルロータと環状コア部とを通る界磁磁束を発生させる界磁巻線と、環状コア部にトロイダル巻きされ交流電流が流れることで界磁磁束と相互作用する磁界を発生する電機子巻線を有する。ラジアルロータは界磁巻線に直流電流が流れることで磁化するラジアル磁極部、及びラジアル磁極部に対してずらして配置されたラジアル永久磁石を有する。アキシャルロータは回転軸周りの周方向に関してラジアル磁極部に対してずらして配置され界磁巻線に直流電流が流れることでラジアル磁極部と逆の極性に磁化するアキシャル磁極部、及びアキシャル磁極部とラジアル永久磁石に対してずらして配置されラジアル永久磁石と逆極性のアキシャル永久磁石を有する。
【0026】
ラジアル磁極部がラジアル永久磁石と逆極性に磁化し、アキシャル磁極部がアキシャル永久磁石と逆極性に磁化するように界磁巻線に直流電流を流すことで、界磁磁束(ステータの鎖交磁束)が増大する。また、ラジアル磁極部がラジアル永久磁石と同極性に磁化し、アキシャル磁極部がアキシャル永久磁石と同極性に磁化するように界磁巻線に直流電流を流すことで、界磁磁束(鎖交磁束)が減少する。従って、界磁巻線に流す直流電流の向きや大きさを制御することで、界磁磁束量を可変できる。
【0027】
なお、ラジアルロータをステータの径方向内側に配置するのではなく、ラジアルロータをステータの径方向外側に配置してもよい。また、ラジアルロータをステータの径方向の内側及び径方向外側に配置してもよい。また、アキシャルロータは1つのロータから構成してもよく、あるいは回転軸方向に隣接した2つのアキシャルロータから構成してもよい。
【0028】
図3は、本実施形態におけるECU500の機能ブロック図を示す。図2と異なる点は、界磁特性制御部504に代えて、目標界磁電流生成部508及び界磁電流制御部510を備える点である。
【0029】
目標界磁電流生成部508は、発電機の目標界磁特性切換部502で演算された目標界磁特性となるように目標界磁電流Ifrefを生成して界磁電流制御部510に出力する。目標界磁電流生成部508は、界磁巻線に流す直流電流の向き及び大きさと界磁磁束との所定の関係に基づき、目標界磁特性が得られる界磁電流Ifrefの向きと大きさを演算する。
【0030】
図4は、本実施形態における界磁電流と界磁磁束との関係を示す。図において、ラジアル磁極部がラジアル永久磁石と逆極性に磁化し、アキシャル磁極部がアキシャル永久磁石と逆極性に磁化するような通電方向を正とし、ラジアル磁極部がラジアル永久磁石と同極性に磁化し、アキシャル磁極部がアキシャル永久磁石と同極性に磁化するような通電方向を負と定義している。界磁電流If=0を境界として、正方向に界磁電流が増大するとこれに応じて界磁磁束も増大して最大値φmaxとなる。また、負方向に界磁電流が増大するとこれに応じて界磁磁束も減少して最小値φminとなる。目標界磁電流生成部508は、図4に示す対応関係をマップあるいは関数としてメモリに記憶しておき、演算された目標界磁特性(目標界磁磁束)に対応する界磁電流Ifrefを演算して界磁電流制御部510に出力する。本実施形態では、界磁磁束として最大値φmax及び最小値φminのいずれかを用いるから、これらに対応する界磁電流をマップとしてメモリに記憶しておく。勿論、界磁磁束は最大値φmax及び最小値φminの2者択一であるから、マップを用いることなく簡易に切り換えてもよい。
【0031】
界磁電流制御部510は、演算された目標界磁電流Ifrefを流すように現在の界磁電流をフィードバック制御して界磁電流駆動回路に制御指令を出力する。界磁電流駆動回路は、例えばバッテリの正側端子と負側端子の間に互いに並列接続された2本のスイッチングアームを備えるDC/DCコンバータで構成され、2本のスイッチングアームのそれぞれの中点の間に界磁巻線が接続される。2本のスイッチングアームのスイッチング素子をオンオフ制御することで界磁巻線に正あるいは負の所望の直流電流を流すことができる。
【0032】
図5は、本実施形態のエンジン100の回転数、エンジン100のトルク、発電機200のトルク、発電機200の界磁電流のタイミングチャートである。
【0033】
図5(a)は、エンジン100の回転数であり、時間の経過とともにエンジン停止、エンジンクランキング、エンジン運転、及びエンジン停止の各状態に順次遷移する。エンジンクランキング状態ではエンジン回転数が増大し、エンジン運転状態では運転者のアクセル操作やバッテリの残容量(SOC)に応じてエンジン回転数が増減する。エンジン停止状態ではエンジン回転数が減少しやがてゼロとなる。
【0034】
図5(b)は、エンジン100のトルクであり、エンジン停止及びエンジンクランキングの各状態ではトルクはゼロであり、エンジン運転中は運転者のアクセル操作やバッテリのSOCに応じてエンジントルクが変動する。エンジン停止状態ではトルクは再びゼロとなる。エンジン100に対する要求トルクはハイブリッド自動車全体を制御するハイブリッド用ECUで演算される。ハイブリッドECUは、バッテリのSOC等に基づいて発電が必要と判定すると発電指令をECU500に出力する。
【0035】
図5(c)は、発電機200のトルクであり、図5(d)は発電機200の界磁電流である。図5(c)の縦軸上方向(正方向)は電動トルクを示し、下方向(負方向)は発電トルクを示す。また、図5(d)の縦軸は界磁磁束が最大値φmaxとなる界磁電流を100%としている。エンジン停止状態ではエンジン回転数及びエンジントルクはゼロであり、発電機200のトルクもゼロである。このとき、発電機200の界磁電流Ifrefは負の値となる。これは、ハイブリッド自動車がモータ300のみで走行する際(EV走行モード)に発電機200の界磁磁束を最小として発電機200での引きずり損失(鉄損)を最小化するためであり、図4に示すように界磁電流が負の最大電流であるときに界磁磁束が最小値φminとなることに基づく。
【0036】
エンジン停止状態からエンジンクランキング状態に遷移する場合、エンジン100のクランク軸に連結された発電機200をモータとして機能させてエンジン100をクランキングする。すなわち、ハイブリッドECUからトルク指令がECU500に出力され、ECU500は発電機200をモータとして機能させる。このため発電機200のトルクも電動トルクが増大する。このとき、発電機200の界磁電流Ifrefは界磁磁束の最大値φmaxが得られる100%とする。これは、界磁磁束を増大させて発電機200での駆動電流を抑制し効率的にモータとして駆動させるためである。エンジンクランキングに成功すると、エンジン100が始動してエンジン回転数及びエンジントルクが増大し始める。エンジンクランキングが終了すると、発電機200のトルクは再びゼロとなり、発電に備える。
【0037】
エンジンクランキング状態からエンジン運転状態に遷移する場合、エンジン100の動力により発電すべく、発電機200のトルクを制御する。具体的には、ハイブリッドECUは、バッテリのSOCに基づきバッテリが充電すべきパワーとしてバッテリ要求パワーを算出し、バッテリ要求パワーに基づきエンジン100から出力すべきエンジン要求パワーを設定する。そして、このエンジン要求パワーに基づきエンジン100の目標回転数と目標トルクを設定し、エンジン100の目標回転数に基づき発電機200の目標回転数を設定する。さらに、発電機200の目標回転数と現在の回転数に基づき発電機200の要求トルクを設定する。エンジントルク及び発電機トルクが増大すると、これに応じて界磁電流Ifrefを100%として界磁磁束を最大値φmaxとする。これにより、発電機200での発電効率が増大する。なお、エンジンクランキング状態では界磁電流は既に100%に設定されているから、エンジン始動後のエンジン運転中でもこの界磁電流をそのまま維持するといえる。
【0038】
エンジン運転状態から再びエンジン停止状態に遷移する場合、エンジン回転数及びエンジントルクはゼロとなり、発電機200のトルクもゼロとなる。このとき、発電機200の界磁電流Ifrefは再び負の値となり、界磁磁束を最小値φminとして引きずり損を最小化する。
【0039】
このように、エンジン100の状態に応じ、発電機200の界磁磁束を適応的に制御して発電効率を増大することで発電機200の効率的な運用が可能となり、結果として燃費が向上する。
【0040】
なお、図5のタイミングチャートでは、図5(d)に示すようにエンジンクランキングの開始と同時に発電機200の界磁電流を負の値から増大させて界磁磁束を最小値φminから最大値φmaxに切り換えているため、エンジン100の始動に時間を要することになる。このためエンジン100の始動を早くすべく、発電機200の界磁磁束をより早めに増大させてもよい。
【0041】
図6は、他のタイミングチャートを示す。図5と異なるのは、エンジンクランキング時の界磁電流の時間変化である。すなわち、図5(d)ではエンジンクランキングの開始と同時に界磁電流を100%に増大しているが、図6(d)ではクランキングの開始タイミングより前に界磁電流を増大させ始め、界磁電流が100%に達した後で発電機トルクを出力してクランキングを行う。要するに、エンジンクランキングの開始と同時に界磁磁束を変化させるのではなく、界磁磁束が最大値φmaxに達した後にエンジンクランキングを行う。これにより、エンジン100を迅速に始動できる。
【0042】
また、本実施形態では、ECU500の発電機トルク制御部506は、演算された目標界磁特性に応じて発電機200の制御パラメータ、具体的にはインバータの電圧値を制御しているが、発電機の目標界磁特性切換部502とは別個に目標界磁特性を簡易に推定し、推定した目標界磁特性に応じて発電機200の制御パラメータを制御してもよい。
【0043】
図7は、ECU500の他の機能ブロック図を示す。図3と異なるのは、発電機の目標界磁特性切換部502とは別個に界磁特性推定部512を備え、目標界磁特性が最大値φmaxあるいは最小値φminのいずれであるかを推定して発電機トルク制御部506に出力する構成である。
【0044】
界磁特性推定部512は、発電機200の角速度、ステータ電流、電圧指令値に基づいて目標界磁特性を推定して発電機トルク制御部506に出力する。具体的には、発電機200のロータが回転軸方向に隣接した主ロータと副ロータから構成され、副ロータを主ロータに対して相対回転させる際にステータ電流により副ロータを回転させる場合、ステータ電流にはトルク用の電流成分と相対回転用電流成分が重畳することになるから、ステータ電流を検出することで目標界磁特性を推定することができる。具体的には、エンジン停止状態において界磁磁束を最小値φminとすべく界磁電流を負の値に設定すると、ステータ電流には負の値の界磁電流が重畳されることになり、界磁特性推定部512はステータ電流を検出することで目標界磁特性が最小値φminであると推定し得る。以後は図3の場合と同様である。
【0045】
以上説明したように、発電機200での発電効率が増大するように発電機200の界磁磁束を適応的に最大値φmaxと最小値φminの間で切換制御するので、エンジン100の動力により高効率で発電してバッテリを充電し、あるいはモータ300に電力を供給できる。特に、エンジン停止状態では界磁磁束を最小値φminとして発電機200での損失を最小化できるとともに、エンジン運転状態では界磁磁束を最大値φmaxとして発電機200での発電効率を増大できる。
【0046】
本実施形態では、発電機200の界磁磁束を最大値φmaxとφminのいずれかに制御するため、制御が簡易化される利点がある。
【0047】
また、本実施形態では、図2等に示すように、エンジンの運転状況のみに基づき目標界磁特性を切り換え、エンジン停止状態では目標界磁磁束を最小値φminとし、エンジンクランキング状態及びエンジン運転中は目標界磁磁束を最大値φmaxとしているが、要求トルク、角速度、電圧、運転状況、発電機の温度に基づき目標界磁特性を設定してもよい。この場合、電圧や温度のパラメータはテーブル(あるいはマップ)に反映させてECU500のメモリに記憶しておけばよい。例えば、エンジン運転中であっても、発電機200で発電する必要がなく、要求トルクがゼロであれば界磁磁束を最小値φminに切換制御する等である。なお、電圧や温度に応じ、界磁磁束の最小値φminを別の最小値φmin’に変更し、あるいは最大値φmaxを別の最大値φmax’に変更して、エンジン100の運転状況に応じて発電機200の界磁磁束を最小値φmin’と最大値φmax’の間で切換制御してもよい。
【符号の説明】
【0048】
100 エンジン、200 回転電機(発電機)、300 回転電機(モータ)、400 タイヤ、500 電子制御装置(ECU)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7