(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記タイヤの半径と、前記タイヤのトレッドゴムの単位摩擦エネルギー当たりの摩耗量と、求めた前記摩擦エネルギーとに基づいて、単位走行距離当たりの前記トレッドゴムの摩耗量を求める手順と、
前記トレッドゴムの摩耗量に基づいて、前記タイヤの摩耗を予測する手順と、
を含む請求項1から請求項11のいずれか一項に記載のタイヤの摩耗予測方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されない。以下で説明する実施形態の構成要素は、適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。また、以下で説明する実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
【0025】
以下の説明においては、XYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部の位置関係について説明する。水平面内の一方向をX軸方向、水平面内においてX軸方向と直交する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向のそれぞれと直交する方向をZ軸方向とする。また、X軸、Y軸、及びZ軸まわりの回転(傾斜)方向をそれぞれ、θX、θY、及びθZ方向とする。本実施形態において、タイヤ1の回転軸とY軸とが平行である。Y軸方向は、車幅方向又はタイヤ1の幅方向である。タイヤ1(タイヤ1の回転軸)の回転方向(θY方向に相当)を、周方向と称してもよい。X軸方向及びZ軸方向は、回転軸に対する放射方向である。回転軸に対する放射方向を、径方向と称してもよい。タイヤ1が転動(走行)する路面は、XY平面とほぼ平行である。
【0026】
<第1実施形態>
第1実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係るタイヤ1の一例を示す断面図である。
図1は、タイヤ1の回転軸を通る子午断面を示す。タイヤ1は、カーカス2と、ベルト層3と、ベルトカバー4と、ビードコア5と、トレッドゴム6と、サイドウォールゴム7とを備えている。カーカス2、ベルト層3、及びベルトカバー4のそれぞれは、コードを含む。コードは、補強材である。コードを、ワイヤと称してもよい。カーカス2、ベルト層3、及びベルトカバー4などのコード(補強材)を含む層(部分)をそれぞれ、コード層と称してもよいし、補強材層と称してもよい。
【0027】
カーカス2は、タイヤ1の骨格を形成する部材(強度部材)である。カーカス2は、コード(補強材)を含む。カーカス2のコードを、カーカスコードと称してもよい。カーカス2は、コードを含むコード層(補強材層)である。カーカス2は、タイヤ1に空気が充填されたときの圧力容器として機能する。カーカス2は、ビードコア5に支持される。ビードコア5は、Y軸方向に関してカーカス2の一側及び他側のそれぞれに配置される。カーカス2は、ビードコア5において折り返される。カーカス2は、有機繊維のコード(カーカスコード)と、そのコードを覆うゴムとを含む。コードを覆うゴムを、コートゴムと称してもよいし、トッピングゴムと称してもよい。なお、カーカス2は、ポリエステルのコードを含んでもよいし、ナイロンのコードを含んでもよいし、アラミドのコードを含んでもよいし、レーヨンのコードを含んでもよい。
【0028】
ベルト層3は、タイヤ1の形状を保持する部材(強度部材)である。ベルト層3は、コード(補強材)を含む。ベルト層3のコードを、ベルトコードと称してもよい。ベルト層3は、コードを含むコード層(補強材層)である。ベルト層3は、カーカス2とトレッドゴム6との間に配置される。ベルト層3は、例えばスチールなどの金属繊維のコード(ベルトコード)と、そのコードを覆うゴム(コートゴム、トッピングゴム)とを含む。なお、ベルト層3は、有機繊維のコードを含んでもよい。本実施形態において、ベルト層3は、第1ベルトプライ3Aと、第2ベルトプライ3Bとを含む。第1ベルトプライ3Aと第2ベルトプライ3Bとは、第1ベルトプライ3Aのコードと第2ベルトプライ3Bのコードとが交差するように積層される。
【0029】
ベルトカバー4は、ベルト層3を保護し、補強する部材(強度部材)である。ベルトカバー4は、コード(補強材)を含む。ベルトカバー4のコードを、カバーコードと称してもよい。ベルトカバー4は、コードを含むコード層(補強材層)である。ベルトカバー4は、タイヤ1の回転軸に対してベルト層3の外側(接地面側)に配置される。ベルトカバー4は、例えばスチールなどの金属繊維のコード(カバーコード)と、そのコードを覆うゴム(コートゴム、トッピングゴム)とを含む。なお、ベルトカバー4は、有機繊維のコードを含んでもよい。
【0030】
ビードコア5は、カーカス2の両端を固定する部材(強度部材)である。ビードコア5は、タイヤ1をリムに固定させる。ビードコア5は、スチールワイヤの束である。なお、ビードコア5が、炭素鋼の束でもよい。
【0031】
トレッドゴム6は、カーカス2を保護する。トレッドゴム6は、路面(地面)と接触する接地面(トレッド部)10と、第1溝21及び第2溝22とを有する。接地面10は、第1溝21及び第2溝22の周囲の少なくとも一部に配置される。第1溝21の内面及び第2溝22の内面は、路面(地面)と接触しない。第1溝21及び第2溝22のそれぞれは、非接地部である。雨天時など、タイヤ1が濡れた路面を転がる際、第1溝21及び第2溝22は、タイヤ1と路面との間から水を排除可能である。
【0032】
サイドウォールゴム7は、カーカス2を保護する。サイドウォールゴム7は、Y軸方向に関してトレッドゴム6の一側及び他側のそれぞれに配置される。サイドウォールゴム7は、サイドウォール部71を有する。
【0033】
図2は、本実施形態に係るタイヤ1の特性(性能、挙動)のシミュレーション(コンピュータ解析)、及び評価を行う処理装置50の一例を示す図である。処理装置50は、コンピュータ(コンピュータシステム)を含む。本実施形態においては、コンピュータを含む処理装置50を用いて、タイヤ1の特性(性能、挙動)のシミュレーション、及び評価が行われる。本実施形態において、コンピュータを含む処理装置50は、入力された情報(パラメータなど)を使って、タイヤ1の摩耗(摩耗特性)を予測し、評価する。
【0034】
処理装置50は、評価対象であるタイヤ1の解析モデル(タイヤモデル)を作成可能である。すなわち、処理装置50は、コンピュータが解析可能な解析モデルを作成可能である。本実施形態においては、処理装置50は、解析モデルとして、路面に対するタイヤ1の接地面10の近似モデルを作成可能である。
【0035】
処理装置50は、作成された解析モデルからタイヤ1の特性をシミュレーション(解析)可能である。処理装置50は、作成された解析モデルからタイヤ1の摩耗(摩耗特性)を予測可能であり、その予測結果からタイヤ1の摩耗特性を評価可能である。本実施形態において、処理装置50を、モデル作成装置50と称してもよいし、シミュレーション装置50と称してもよいし、解析装置50と称してもよいし、評価装置50と称してもよいし、摩耗予測装置50と称してもよい。
【0036】
本実施形態において、処理装置50は、処理部50pと、記憶部50mと、入出力部59とを含む。処理部50pと記憶部50mとは、入出力部59を介して接続される。
【0037】
処理部50pは、CPU(Central Processing Unit:中央演算装置)と、RAM(Random Access Memory)等のメモリとを含む。処理部50pは、タイヤ1の解析モデル(接地面10の近似モデル)を作成可能なモデル作成部51と、タイヤ1の特性のシミュレーション(解析)、及びシミュレーション結果(解析結果)の評価を実行可能な解析部52とを含む。モデル作成部51及び解析部52はそれぞれ、入出力部59と接続される。モデル作成部51及び解析部52は、入出力部59を介して、相互にデータを通信可能である。
【0038】
モデル作成部51は、タイヤ1の解析モデルを作成可能である。モデル作成部51は、タイヤ1の接地面10の近似モデルを作成可能である。モデル作成部51は、路面に対するタイヤ1の接地面10について、予め指定された所定形状を使って近似モデルを作成可能である。解析部52は、本実施形態に係る手順に従って、モデル作成部51で作成された近似モデル(解析モデル)からタイヤ1の摩耗をシミュレーション(予測)する。解析部52による解析結果から、タイヤ1の性能が評価される。
【0039】
記憶部50mは、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、不揮発性のメモリ、ハードディスク装置等の固定ディスク装置、フレキシブルディスク、光ディスク等のストレージ装置の少なくとも一つを含む。
【0040】
記憶部50mには、解析モデル(近似モデル)の作成のための第1情報、及びシミュレーション(解析、予測)のための第2情報の少なくとも一部が記憶されている。
【0041】
解析モデルの作成のための第1情報は、接地面10の近似モデルを作成するために予め指定された所定形状に関する情報を含む。所定形状は、多角形、円形、長円形、及び楕円形の少なくとも一つでもよい。所定形状は、矩形、台形、六角形、及び八角形の少なくとも一つでもよい。所定形状は、上述の多角形の一部を切り取った形状でもよいし、円形の一部を切り取った形状でもよいし、長円形の一部を切り取った形状でもよいし、楕円形の一部を切り取った形状でもよい。所定形状は、上述の各形状を組み合わせたものでもよい。所定形状の領域は、閉じた領域である。また、第1情報は、タイヤ1の接地面10に関する情報を含む。タイヤ1の接地面10に関する情報は、接地面10の形状、接地面10の面積、接地長、及び接地幅の少なくとも一つを含む。なお、所定形状に関する情報及びタイヤ1の接地面10に関する情報が、第2情報に含まれてもよい。
【0042】
シミュレーションのための第2情報は、例えば境界条件に関する情報を含む。境界条件は、解析モデルのシミュレーション(解析)において必要な条件であり、解析モデルに付与される各種の条件を含む。境界条件は、例えば、タイヤ1の走行条件を含む。本実施形態において、第2情報は、タイヤ1の走行条件、タイヤ1の走行(転動)時においてタイヤ1に発生する力、及びタイヤ1のスティフネス(剛性)に関する情報を含む。タイヤ1の走行条件は、駆動、制動、及び旋回(右旋回及び左旋回の一方又は両方)の少なくとも一つを含む。走行(転動)時においてタイヤ1に発生する力は、駆動力、制動力、及び旋回力(右旋回力及び左旋回力の一方又は両方)の少なくとも一つを含む。また、タイヤ1に発生する力は、前後力及び横力の一方又は両方を含む。タイヤ1のスティフネスは、駆動スティフネス、制動スティフネス、及び旋回スティフネスの少なくとも一つを含む。また、第2情報は、タイヤ1の加速度、タイヤ1に対する荷重、及びタイヤ1と地面との間の摩擦力などの各種の条件を含む。
【0043】
記憶部50mには、解析モデル(近似モデル)を作成するための第1プログラム(第1コンピュータプログラム)が記憶されている。記憶部50mには、タイヤ1の特性をシミュレーション(解析)するための第2プログラム(第2コンピュータプログラム)が記憶されている。第2プログラムは、タイヤ1の摩耗を予測するプログラムを含む。記憶部50mには、タイヤ1の特性を評価するための第3プログラム(第3コンピュータプログラム)が記憶されている。第1プログラムは、本実施形態に係る近似モデル作成方法を処理装置(コンピュータ)50に実行させることができる。第2プログラムは、本実施形態に係るシミュレーション方法(タイヤ1の摩耗予測方法)を処理装置(コンピュータ)50に実行させることができる。第3プログラムは、本実施形態に係る評価方法を処理装置(コンピュータ)50に実行させることができる。なお、第1プログラムを、解析モデル作成用プログラムと称してもよい。第2プログラムを、シミュレーション用プログラムと称してもよいし、解析用プログラムと称してもよいし、タイヤ1の摩耗予測用プログラムと称してもよい。第3プログラムを、評価用プログラムと称してもよい。なお、1つのプログラムが、解析モデルの作成、シミュレーション(摩耗予測)、及び評価を処理装置(コンピュータ)50に実行させてもよい。
【0044】
モデル作成部51は、解析モデルを作成するための第1情報、及び第1プログラムに基づいて、タイヤ1の解析モデル(接地面10の近似モデル)を作成可能である。解析部52は、シミュレーション(解析)のための第2情報、及び第2プログラムに基づいて、タイヤ1の特性(摩耗)のシミュレーション(解析、予測)を実行可能である。解析部52は、第3プログラムに基づいて、タイヤ1の評価を実行可能である。例えば、解析部52がタイヤ1のシミュレーションを実行する際、解析部52が有するメモリに、第2プログラム及び第2情報(タイヤ1の諸条件、境界条件等)が読み込まれる。解析部52は、その第2プログラム及び第2情報に基づいて、演算処理を行う。解析部52による演算途中の数値は適宜、解析部52が有するメモリ及び記憶部50mの少なくとも一方に格納される。格納された数値は適宜、解析部52が有するメモリ及び記憶部50mの少なくとも一方から取り出され、解析部52は、その取り出された数値を用いて演算処理を行う。
【0045】
入出力部59は、端末装置60と接続される。端末装置60は、入力装置61及び出力装置62と接続される。入力装置61は、キーボード、マウス、及びマイクの少なくとも一つを含む。出力装置62は、ディスプレイなどの表示装置、及びプリンタの少なくとも一つを含む。
【0046】
解析モデルの作成のための第1情報、及びシミュレーション(解析、予測)のための第2情報の少なくとも一方が、入力装置61から入力されてもよい。本実施形態に係る解析モデル作成方法を実行可能な第1プログラム、シミュレーション方法(摩耗予測方法)を実行可能な第2プログラム、及び評価方法を実行可能な第3プログラムの少なくとも一つが、入力装置61から入力されてもよい。なお、解析モデルの作成、シミュレーション(摩耗予測)、及び評価を処理装置(コンピュータ)50に実行させることができる1つのプログラムが、入力装置61から入力されてもよい。
【0047】
入力装置61から入力された情報(プログラム)が、端末装置60及び入出力部59を介して、処理部50p及び記憶部50mの少なくとも一方に送られてもよい。処理部50pは、入力装置61からの情報に基づいて、解析モデルの作成、シミュレーション、解析、及び評価の少なくとも一つを実行可能である。記憶部50mは、入力装置61からの情報を記憶可能である。
【0048】
なお、本実施形態において、プログラムは、単一に構成されるものに限られない。本実施形態において、プログラムの機能は、コンピュータシステムに既に記憶されているプログラムとともに達成されてもよい。コンピュータシステムに既に記憶されているプログラムとは、例えばOS(Operating System)に代表される別個のプログラムを含む。
【0049】
なお、処理部50pの機能(解析モデル作成機能、シミュレーション機能、及び評価機能の少なくとも一つ)を実現するためのプログラム(第1、第2、第3プログラムの少なくとも一つ)が、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録され、この記録媒体に記録されたプログラムがコンピュータシステムに読み込まれることによって、コンピュータシステムが、解析モデルの作成、シミュレーション(解析、予測)、及び評価の少なくとも一つを実行してもよい。なお、コンピュータシステムは、処理装置50を含み、上述のOSや周辺機器などのハードウェアを含む。
【0050】
なお、処理部50pは、記憶部50mからの情報(プログラム)と、入力装置61からの情報(プログラム)との両方を用いて、解析モデル(近似モデル)の作成、シミュレーション(解析、予測)、及び評価の少なくとも一つを実行してもよい。なお、処理部50pは、記憶部50mからの情報(プログラム)と、入力装置61からの情報(プログラム)と、記録媒体からの情報(プログラム)との少なくとも2つを用いて、解析モデルの作成、シミュレーション(解析、予測)、及び評価の少なくとも一つを実行してもよい。
【0051】
モデル作成部51で作成された解析モデル(近似モデル)、及び解析部52の解析結果(予測結果)の少なくとも一方を含む処理部50pからのデータは、入出力部59及び端末装置60を介して、出力装置62に送られる。出力装置62は、そのデータを出力可能である。出力装置62が表示装置を含む場合、その表示装置は、処理部50pからのデータを表示可能である。
【0052】
なお、本実施形態において、記憶部50mは、処理部50pに内蔵されていてもよい。なお、記憶部50mが、処理装置50とは別の装置(例えばデータベースサーバ)に含まれていてもよい。なお、端末装置60が、有線及び無線の少なくとも一方の方法で処理装置50にアクセスしてもよい。
【0053】
次に、本実施形態に係るタイヤ1の摩耗予測方法の一例について説明する。
図3は、本実施形態に係るタイヤ1の摩耗予測方法の処理手順を示すフローチャートである。
図3に示すように、本実施形態に係るタイヤ1の摩耗予測方法は、コンピュータで解析可能なタイヤ1の接地面10の近似モデルを作成する手順(ステップSA1)と、タイヤ1のせん断応力に関する近似関数を設定する手順(ステップSA2)と、タイヤ1のすべり量に関する近似関数を設定する手順(ステップSA3)と、タイヤ1に作用する前後力及び横力を設定する手順(ステップSA4)と、タイヤ1に作用する前後力と横力との合力を求める手順(ステップSA5)と、タイヤ1に前後力及び横力が作用したときのスリップ率を求める手順(ステップSA6)と、タイヤ1に前後力及び横力が作用したときのスリップ角を求める手順(ステップSA7)と、タイヤ1の平均せん断応力を算出する手順(ステップSA8)と、タイヤ1のすべり量を算出する手順(ステップSA9)と、タイヤ1の摩擦エネルギーを算出する手順(ステップSA10)と、タイヤ1の摩耗を予測する手順(ステップSA12)と、を含む。
【0054】
図4は、路面に対するタイヤ1の接地面10の一例を示す図である。
図4に示すように、タイヤ1は、路面と接触する接地面(トレッド部)10と、第1溝21及び第2溝22とを有する。本実施形態において、接地面10は、センター領域11と、Y軸方向(タイヤ1の幅方向、タイヤ1の回転軸と平行な方向)に関してセンター領域11の一側(+Y側)及び他側(−Y側)のそれぞれに配置されるショルダー領域12とを含む。
【0055】
第1溝21は、タイヤ1の周方向に形成される。第2溝22の少なくとも一部は、タイヤ1の幅方向に形成される。第1溝21を、主溝21と称してもよい。第2溝22を、ラグ溝22と称してもよい。
図4に示す例においては、タイヤ1は、4つ(4本)の第1溝21を有する。接地面10は、Y軸方向に配置される5つの領域101、領域102、領域103、領域104、及び領域105を含む。領域101と領域102との間、領域102と領域103との間、領域103と領域104との間、及び領域104と領域105との間のそれぞれに、第1溝21が配置される。すなわち、4つの第1溝21により、接地面10は、Y軸方向に関して5つの領域101、領域102、領域103、領域104、及び領域105に分割される。Y軸方向に配置される5つの領域101、領域102、領域103、領域104、領域105のうち、領域101は、最も−Y側に配置され、領域102は、領域101に次いで−Y側に配置され、領域103は、領域102に次いで−Y側に配置され、領域104は、領域103に次いで−Y側に配置され、領域105は、最も+Y側に配置される。センター領域11は、領域102、領域103、及び領域104を含む。ショルダー領域12は、領域101及び領域105を含む。第2溝22は、領域101、領域102、領域103、領域104、及び領域105のそれぞれに配置される。
【0056】
モデル作成部51は、
図4に示す接地面10の近似モデル30を作成する(ステップSA1)。近似モデル30の作成のための第1情報が、モデル作成部51に入力される。第1情報は、接地面10の近似モデル30を作成するための所定形状に関する情報を含む。所定形状は、近似モデル30を作成するために予め指定された形状である。所定形状に関する情報が、モデル作成部51に入力される。
【0057】
所定形状は、多角形、円形、長円形、及び楕円形の少なくとも一つでもよい。所定形状は、矩形、台形、六角形、及び八角形の少なくとも一つでもよい。所定形状は、上述の多角形の一部を切り取った形状でもよいし、円形の一部を切り取った形状でもよいし、長円形の一部を切り取った形状でもよいし、楕円形の一部を切り取った形状でもよい。所定形状は、上述の各形状を組み合わせたものでもよい。所定形状の領域は、閉じた領域である。本実施形態においては、所定形状として、矩形(長方形)を用いる。
【0058】
図5は、矩形(長方形)を使って作成された接地面10の近似モデル30の一例を示す図である。本実施形態において、モデル作成部51は、接地面10のセンター領域11及びショルダー領域12のそれぞれについて近似モデル30を作成する。近似モデル30は、センター領域11をモデル化したセンターモデル領域31と、ショルダー領域12をモデル化したショルダーモデル領域32とを含む。
【0059】
本実施形態において、センターモデル領域31は、1つの矩形により規定される。換言すれば、センターモデル領域31は、第1溝21を考慮せずにモデル化されている。センターモデル領域31は、第1溝21を接地領域として作成される。すなわち、近似モデル30において、第1溝21は、路面に接触する接地部として扱われる。換言すれば、センターモデル領域31は、タイヤ1の領域102、領域103、領域104、及びそれらに隣り合う第1溝21のそれぞれを接地領域としてモデル化したものである。
図5に示す例においては、演算の労力が抑制され、タイヤ1の摩耗を簡単に求めることができる。
【0060】
図5に示すように、Y軸方向に関するセンターモデル領域31の寸法は、W
cである。X軸方向に関するセンターモデル領域31の寸法は、L
cである。Y軸方向に関するショルダーモデル領域32の寸法は、W
sである。X軸方向に関するショルダーモデル領域32の寸法は、L
sである。寸法L
c及び寸法L
sは、タイヤ1の接地長(進行方向に関する接地面10の寸法)に相当する。
【0061】
次に、解析部52は、せん断応力に関する近似関数を設定する(ステップSA2)。解析部52は、接地面10の粘着域及びすべり域におけるせん断応力分布の近似関数を設定する。解析部52は、センターモデル領域31及びショルダーモデル領域32のそれぞれに関して、せん断応力分布の近似関数を設定する。
【0062】
図6は、接地面10に形成される粘着域及びすべり域の概念図である。
図6において、横軸は、車両の進行方向(X軸方向)を示す。縦軸は、せん断応力τを示す。
図6中、ラインL1は、タイヤ1(トレッドゴム6)が有する最大摩擦曲線であり、タイヤ1(トレッドゴム6)の摩擦係数と接地圧分布との積である。
【0063】
踏み込み端(接地始め)x0点において、タイヤ1のトレッドゴム6は、路面と接触し始める。トレッドゴム6は、x0点の直前まで路面と接触しない。そのため、x0点において、トレッドゴム6は、路面と密接に接触する。x0点以降、トレッドゴム6(接地面10)は、路面に引きずられて撓む。すなわち、トレッドゴム6は、踏み込み端x0点から蹴りだし端(接地終わり)x2点までの移動において、徐々に路面からせん断を受ける。これにより、トレッドゴム6にせん断力が発生する。トレッドゴム6が撓むことで、トレッドゴム6と路面との密着が保たれる。このように、撓むことによって路面と密着するトレッドゴム6の接地面10の一部の領域を、粘着域という。
【0064】
せん断応力τが徐々に大きくなり、最大摩擦曲線L1に到達したx1点において、路面に密着していたトレッドゴム6の接地面10は、路面に対してすべり出す。すなわち、せん断力が最大摩擦曲線L1に到達すると、接地面10は路面についていくことができず、撓んでいたトレッドゴム6の接地面10は、x1点の近傍において、その撓みが戻るように変形(復元)し始め、接地面10が路面に対してすべる。このように、路面に対してすべるトレッドゴム6の接地面10の一部の領域を、すべり域という。
【0065】
図7は、1次関数(1次式)で近似したせん断応力(せん断応力分布)の概念図である。
図6及び
図7に示すように、進行方向(X軸方向)についてのせん断応力τは、1次関数で近似することができる。すなわち、粘着域のせん断応力(せん断応力分布)に関する近似関数τ(x)は、
図6のラインL2で示すように、1次関数で表すことができる。すべり域のせん断応力(せん断応力分布)に関する近似関数τ(x)は、
図6のラインL3で示すように、1次関数で表すことができる。換言すれば、x0点からx1点までにおいて、x0点からの距離xとせん断応力τとは比例し、x1点からx2点までにおいて、x1点からの距離xとせん断応力τとは比例する。
【0066】
本実施形態において、解析部52は、センターモデル領域31及びショルダーモデル領域32のそれぞれについて、せん断応力分布の近似関数を設定する。本実施形態において、解析部52は、センターモデル領域31及びショルダーモデル領域32のそれぞれにおけるせん断応力分布を1次関数で近似する。
【0067】
(1)式は、旋回時のセンター領域11におけるすべり域の平均せん断応力を求めるための近似式である。(2)式は、制駆動時(駆動時及び制動時)のセンター領域11におけるすべり域の平均せん断応力を求めるための近似式である。(3)式は、旋回時のショルダー領域12におけるすべり域の平均せん断応力を求めるための近似式である。(4)式は、制駆動時のショルダー領域12におけるすべり域の平均せん断応力を求めるための近似式である。
【0072】
本実施形態においては、前後力F
xと横力F
yとの合力Fを使って、すべり域の平均せん断応力が求められる。すなわち、(1)式及び(2)式を一般化した(5)式が、センター領域11におけるすべり域の平均せん断応力を求めるための近似式(近似関数)である。(3)式及び(4)式を一般化した(6)式が、ショルダー領域12におけるすべり域の平均せん断応力を求めるための近似式(近似関数)である。
【0075】
次に、解析部52は、すべり量に関する近似関数を設定する(ステップSA3)。解析部52は、路面に対する接地面10のすべり量の近似関数を設定する。解析部52は、路面に対するすべり域におけるすべり量の近似関数を設定する。解析部52は、センターモデル領域31及びショルダーモデル領域32のそれぞれに関して、すべり量の近似関数を設定する。
【0076】
すべり量の近似関数は、パラメータにタイヤ1のスティフネス(剛性)を含む。本実施形態において、すべり量の近似関数は、タイヤ1の駆動時におけるすべり量の近似関数、制動時におけるすべり量の近似関数、及び旋回時におけるすべり量の近似関数を含む。タイヤ1のスティフネスは、旋回スティフネス(横剛性)、及び制駆動スティフネス(前後剛性)を含む。
【0077】
図8は、スリップ角αを有するタイヤ1の接地面10を上から見た図である。X軸がタイヤ1の進行方向である。タイヤ1(ホイール)の中心線は、X軸に対してαだけ傾斜する。タイヤ1は、進行方向(X軸)に対してαの向きに傾斜して、全体としてはX軸の向きに転動する。スリップ角αを有するタイヤ1(接地面10)において、粘着域とすべり域とが形成される。
【0078】
図9は、路面の移動速度V
Rとタイヤ1の転動速度(トレッドベース速度)V
Bとの差によって、タイヤ1(接地面10)の制駆動方向(前後方向)に粘着域とすべり域とが形成される例を示す。
【0079】
(7)式は、旋回時のセンター領域11におけるすべり域のすべり量を求めるための近似式である。(8)式は、制駆動時のセンター領域11におけるすべり域のすべり量を求めるための近似式である。(9)式は、旋回時のショルダー領域12におけるすべり域のすべり量を求めるための近似式である。(10)式は、制駆動時のショルダー領域12におけるすべり域のすべり量を求めるための近似式である。
【0084】
(7)式及び(9)式を一般化した、横方向(旋回時)のすべり量の近似式(近似関数)は、(11)式となる。(8)式及び(10)式を一般化した、前後方向(制駆動時)のすべり量の近似式(近似関数)は、(12)式となる。
【0087】
なお、サイドウォール部71(サイドウォールゴム7)のスティフネス、あるいは旋回時におけるサイドウォール部71の変形が、旋回時におけるすべり量に影響を与える可能性がある。そのため、サイドウォール部71のスティフネスを考慮した補正係数R
sを設定して、その補正係数R
sを用いて、以下の(13)式のようにすべり量を補正してもよい。なお、補正係数R
sは、例えば実験により事前に求められてもよいし、シミュレーションにより事前に求められてもよい。
【0089】
本実施形態においては、スリップ率SR及びスリップ角αを使って、すべり量が求められる。本実施形態においては、(14)式に示す近似式(近似関数)を使って、前後方向のすべり量が求められる。(15)式に示す近似式(近似関数)を使って、横方向のすべり量が求められる。
【0092】
次に、解析部52は、タイヤ1に作用する前後力F
xと横力F
yとの合力Fを求める(ステップSA4)。合力Fは、以下の(16)式で求められる。
【0094】
次に、解析部52は、タイヤ1に前後力F
x及び横力F
yが作用したときのスリップ率SR及びスリップ角αを求める(ステップSA6、ステップSA7)。
【0095】
スリップ率SRは、以下の(17)式で求められる。
【0097】
次に、解析部52は、(5)式及び(6)式で示した近似関数と(16)式で示した合力Fとに基づいて、すべり域の平均せん断応力を求める(ステップSA8)。
【0098】
センター領域11におけるすべり域の平均せん断応力は、(5)式に(16)式の合力Fを代入することによって求めることができる。ショルダー領域12におけるすべり域の平均せん断応力は、(6)式に(16)式の合力Fを代入することによって求めることができる。
【0099】
次に、解析部52は、(14)式及び(15)式で示した近似関数と、スリップ率SR及びスリップ角αとに基づいて、すべり域のすべり量を求める(ステップSA9)。
【0100】
前後方向のすべり量は、(14)式にスリップ率SRを代入することによって求めることができる。横方向のすべり量は、(15)式にスリップ角αを代入することによって求めることができる。
【0101】
なお、(11)式に基づいて、横方向のすべり量が求められてもよい。(12)式に基づいて、前後方向のすべり量が求められてもよい。
【0102】
次に、解析部52は、ステップSA8で求めた平均せん断応力と、ステップSA9で求めたすべり量とに基づいて、接地面10における摩擦エネルギーを求める(ステップSA10)。
【0103】
前後方向の摩擦エネルギーE
xは、以下の(18)式から求められる。横方向の摩擦エネルギーE
yは、以下の(19)式から求められる。なお、τ
xは、(5)式で示したセンター領域11の平均せん断応力τ
c、又は(6)式で示したショルダー領域12の平均せん断応力τ
sの前後成分である。τ
yは、(5)式で示したセンター領域11の平均せん断応力τ
c、又は(6)式で示したショルダー領域12の平均せん断応力τ
sの合力の横成分である。
【0106】
解析部52は、前後方向の摩擦エネルギーE
xと横方向の摩擦エネルギーE
yを合計し、前後力F
x及び横力F
yが作用したときの摩擦エネルギーEを求める。摩擦エネルギーEは、以下の(20)式から求められる。
【0108】
次に、近似モデル30のセンターモデル領域31、及びショルダーモデル領域32の全ての領域についての摩擦エネルギーの算出が終了したかどうかが判断される(ステップSA11)。ステップSA11において、全ての領域についての摩擦エネルギーの算出が終了していないと判断された場合(Noの場合)、ステップSA8に戻り、全ての領域についての摩擦エネルギーの算出が終了したと判断されるまで、同様の処理が実施される。
【0109】
ステップSA11において、センターモデル領域31、及びショルダーモデル領域32それぞれについての摩擦エネルギーの算出が終了したと判断された場合(Yesの場合)、解析部52は、タイヤ1(トレッドゴム6)の摩耗を予測する(ステップSA12)。摩擦エネルギーとタイヤ1の摩耗(摩耗量)との間には相関関係(例えば比例関係)がある。そのため、解析部52は、ステップSA10で求めた摩擦エネルギーに基づいて、タイヤ1の摩耗(摩耗量)を予測することができる。
【0110】
本実施形態において、解析部52は、トレッドゴム6の材料特性(耐摩耗物性)を考慮して、タイヤ1の摩耗(摩耗量)を予測してもよい。換言すれば、解析部52は、ステップSA10で求めた摩擦エネルギーとトレッドゴム6の材料特性とに基づいて、タイヤ1の摩耗(摩耗量)を予測してもよい。例えば、タイヤ1のトレッドゴム6の単位摩擦エネルギー当たりの摩耗量と、ステップSA10で求めた摩擦エネルギーとに基づいて、トレッドゴム6の摩耗量を求め、その求めたトレッドゴム6の摩耗量に基づいて、タイヤ1(トレッドゴム6)の摩耗を予測してもよい。これにより、トレッドゴム6の耐摩耗物性を考慮した摩耗予測が可能となる。以下で説明する実施形態においても同様である。
【0111】
以上説明したように、本実施形態によれば、タイヤ1の接地面10について近似モデル30を作成するとともに、接地面10のすべり域におけるせん断応力分布に関する近似関数、及びすべり域におけるすべり量に関する近似関数を設定し、せん断応力分布に関する近似関数に基づいてすべり域の平均せん断応力を求めるとともに、すべり量に関する近似関数に基づいてすべり量を求めることにより、タイヤ1(トレッドゴム6)の摩耗(摩耗量)を簡単に予測することができる。上述のように、タイヤ1の摩耗量と摩擦エネルギーとの間には相関関係がある。すなわち、摩擦エネルギーが大きいとタイヤ1の摩耗が大きくなり、摩擦エネルギーが小さいとタイヤ1の摩耗が小さくなる。また、摩擦エネルギーとタイヤ1の摩耗量との間にはほぼ比例関係が成立する。そのため、摩擦エネルギーを求めることによって、タイヤ1の摩耗を予測することができる。摩擦エネルギーは、タイヤ1に作用するせん断力(せん断応力)とすべり量との積で定義される(摩擦エネルギー=せん断力×すべり量)。そのため、せん断応力及びすべり量を簡単に求めることができれば、摩擦エネルギーを簡単に求めることができる。本実施形態によれば、タイヤ1の接地面10について、指定された所定形状を使ってモデル化された近似モデル30が作成される。近似モデル30における摩擦エネルギーは、せん断応力に関する近似関数とすべり量に関する近似関数とを使って簡単に求めることができる。すなわち、せん断応力に関する近似関数及びすべり量に関する近似関数に対して、タイヤ1の特性に関するパラメータを入力するだけで、平均せん断応力及びすべり量を簡単に求めることができる。その結果、摩擦エネルギーを簡単に求めることができる。
【0112】
また、本実施形態によれば、タイヤ1に作用する前後力と横力の合力に基づいて平均せん断応力を求め、前後力及び横力が作用したときのスリップ率及びスリップ角に基づいてすべり量を求めることにより、タイヤ1に前後力及び横力が作用する複合条件のタイヤ摩擦エネルギー特性を適切に考慮できるため、予測精度を向上することができる。
【0113】
なお、タイヤ1に前後力のみが作用する場合、横力=0として前後力と横力との合力を求め、前後力のみ(横力=0)の合力が作用したときのスリップ率及びスリップ角を求めればよい。また、タイヤ1に横力のみが作用する場合、前後力=0として前後力と横力との合力を求め、横力のみ(前後力=0)の合力が作用したときのスリップ率及びスリップ角を求めればよい。
【0114】
また、本実施形態においては、タイヤ1の接地面10が第1溝21を境界としてセンター領域11とショルダー領域12とに分割され、近似モデル30は、センターモデル領域31とショルダーモデル領域32とに分割される。本実施形態においては、それら複数の領域(センターモデル領域31及びショルダーモデル領域32)ごとに、平均せん断応力、すべり量、及び摩擦エネルギーのそれぞれを簡単に求めることができ、領域ごとの摩耗(摩耗量)を簡単に予測することができる。
【0115】
また、本実施形態においては、近似モデル30に使われる所定形状は、矩形(矩形領域)である。そのため、近似関数を簡単に得ることができ、演算の負担が低減され、簡単に摩擦エネルギーを求めることができる。
【0116】
また、本実施形態においては、せん断応力分布の近似関数を1次関数とした。せん断応力分布の近似関数を1次関数とすることで、実用的な予測精度を確保しつつ、より簡単にタイヤ1の摩耗を予測することができる。
【0117】
なお、本実施形態において、せん断応力分布の近似関数は、1次関数でもよいし、2次関数でもよいし、3次関数でもよいし、4次関数でもよいし、5次関数でもよいし、6次関数でもよいし、7次関数でもよいし、8次関数でもよい。また、せん断応力分布の近似関数が指数関数を含んでもよいし、任意の関数を含んでもよい。例えば、すべり域のせん断応力分布を、
図6に示した直線L3に相当する1次関数で近似してもよいし、最大摩擦曲線L1に相当する関数で近似してもよい。また、せん断応力分布の近似関数は、1次〜8次関数、及び指数関数に限られず、任意の関数としてよい。以下の実施形態においても同様である。
【0118】
なお、平均せん断応力の近似関数が、(21)式及び(22)式に示すような、n次の冪関数でもよい。
【0121】
<第2実施形態>
第2実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成部分については同一の符号を付し、その説明を簡略又は省略する。
【0122】
図10は、
図4に示した接地面10の近似モデル30Bの一例を示す図である。
図10に示すように、近似モデル30Bは、センター領域11をモデル化したセンターモデル領域31Bと、ショルダー領域12をモデル化したショルダーモデル領域32Bとを含む。本実施形態において、センターモデル領域31B及びショルダーモデル領域32Bは、複数の領域301、領域302、領域303、領域304、及び領域305を含む。領域301、領域302、領域303、領域304、及び領域305は、Y軸方向に配置される。領域301は、接地面10の領域101をモデル化した領域(接地領域)である。領域302は、接地面10の領域102をモデル化した領域(接地領域)である。領域303は、接地面10の領域103をモデル化した領域(接地領域)である。領域304は、接地面10の領域104をモデル化した領域(接地領域)である。領域305は、接地面10の領域105をモデル化した領域(接地領域)である。領域301、領域302、領域303、領域304、及び領域305のそれぞれは、矩形(所定形状)により規定される。すなわち、本実施形態において、モデル作成部51は、接地面10の領域101を矩形の領域(接地領域)301で近似し、領域102を矩形の領域(接地領域)302で近似し、領域103を矩形の領域(接地領域)303で近似し、領域104を矩形の領域(接地領域)304で近似し、領域105を矩形の領域(接地領域)305で近似する。
【0123】
本実施形態において、モデル作成部51は、路面に接触しない非接地部である第1溝21を考慮して近似モデル30Bを作成する。モデル作成部51は、第1溝21を領域211で近似する。領域211は、第1溝21をモデル化した領域である。領域211は、路面に接触しない非接地領域である。近似モデル30Bは、第1溝21を領域(非接地領域)211として作成される。近似モデル30Bにおいて、領域211は、非接地領域(非接地部)として扱われる。
【0124】
領域301と領域302との間、領域302と領域303との間、領域303と領域304との間、及び領域304と領域305との間のそれぞれに、領域211が配置される。すなわち、4つの領域211により、近似モデル30Bは、Y軸方向に関して5つの領域301、領域302、領域303、領域304、及び領域305に分割される。Y軸方向に配置される5つの領域301、領域302、領域303、領域304、領域305のうち、領域301は、最も−Y側に配置され、領域302は、領域301に次いで−Y側に配置され、領域303は、領域302に次いで−Y側に配置され、領域304は、領域303に次いで−Y側に配置され、領域305は、最も+Y側に配置される。センターモデル領域31Bは、領域302、領域303、及び領域304を含む。ショルダーモデル領域32Bは、領域301及び領域305を含む。
【0125】
領域301の面積(大きさ)は、領域101の面積(大きさ)に対応するように定められる。領域302の面積(大きさ)は、領域102の面積(大きさ)に対応するように定められる。領域303の面積(大きさ)は、領域103の面積(大きさ)に対応するように定められる。領域304の面積(大きさ)は、領域104の面積(大きさ)に対応するように定められる。領域305の面積(大きさ)は、領域105の面積(大きさ)に対応するように定められる。本実施形態においては、領域101の面積及び領域105の面積は、領域102の面積、領域103の面積、及び領域104の面積よりも小さい。領域101の面積と領域105の面積とは、ほぼ等しい。領域102の面積と領域103の面積と領域104の面積とは、ほぼ等しい。領域301の面積及び領域305の面積は、領域302の面積、領域303の面積、及び領域304の面積よりも小さい。領域301の面積と領域305の面積とは、ほぼ等しい。領域302の面積と領域303の面積と領域304の面積とは、ほぼ等しい。
【0126】
図10に示すように、Y軸方向に関する領域302の寸法、領域303の寸法、及び領域304の寸法は、W
cである。X軸方向に関する領域302の寸法、領域303の寸法、及び領域304の寸法は、L
cである。Y軸方向に関する領域301の寸法、及び領域305の寸法は、W
sである。X軸方向に関する領域301の寸法、及び領域305の寸法は、L
sである。寸法L
c及び寸法L
sは、タイヤ1の接地長(進行方向に関する接地面10の寸法)に相当する。
【0127】
図10に示す例では、領域301、領域302、領域303、領域304、及び領域305ごとに、平均せん断応力、すべり量、及び摩擦エネルギーのそれぞれが算出される。
【0128】
図11は、
図4に示した接地面10の近似モデル30Cの一例を示す図である。
図11に示すように、近似モデル30Cは、センター領域11をモデル化したセンターモデル領域31Cと、ショルダー領域12をモデル化したショルダーモデル領域32Cとを含む。本実施形態において、ショルダーモデル領域32Cは、複数の領域(接地領域)に分割されている。
図11に示す例では、センターモデル領域31Cに対して−Y側のショルダーモデル領域32Cは、領域301
iと領域301
oとに分割されている。センターモデル領域31Cに対して+Y側のショルダーモデル領域32Cは、領域305
iと領域305
oとに分割されている。Y軸方向(タイヤ1の幅方向)に関して、領域301
iは、領域301
oよりもタイヤ1の中心側に配置され、領域305
iは、領域305
oよりもタイヤ1の中心側に配置される。領域301o及び領域305oの接地長(平均接地長)L
Soは、領域301
i及び領域305
iの接地長(平均接地長)L
Siよりも短い。領域301
oの幅W
soは、領域301
iの幅W
siよりも長くてもよいし、短くてもよいし、等しくてもよい。領域305
oの幅は、領域305
iの幅よりも長くてもよいし、短くてもよいし、等しくてもよい。
図11に示す例によれば、ショルダーモデル領域32Cは、接地面10のショルダー領域12の形状により近い。そのため、ショルダー領域12における摩擦エネルギー(摩耗量)をより精確に予測することができる。
【0129】
図12は、
図4に示した接地面10の近似モデル30Dの一例を示す図である。
図12に示すように、近似モデル30Dは、1つの矩形(矩形の接地領域)により規定されている。すなわち、近似モデル30Dにおいて、接地面10の領域101、領域102、領域103、領域104、領域105、及び第1溝21の両方が、1つの矩形により規定された接地領域としてモデル化されている。
図12に示す例によれば、1つの矩形で接地面10がモデル化されるため、演算の労力がより低減され、タイヤ1の摩耗を簡単に求めることができる。
【0130】
図13は、
図4に示した接地面10の近似モデル30Eの一例を示す図である。
図13に示すように、近似モデル30Eは、1つの八角形(八角形の接地領域)により規定されている。すなわち、近似モデル30Eにおいて、接地面10の領域101、領域102、領域103、領域104、領域105、及び第1溝21の両方が、1つの八角形により規定された接地領域としてモデル化されている。
図13に示すように、近似モデル30Eに使用される所定形状は、八角形でもよい。近似モデル30Eに使用される所定形状は、接地面10の形状(外形)に合わせて適宜選択可能である。
図13に示す例においても、1つの八角形(八角形の接地領域)で接地面10がモデル化されるため、演算の労力がより低減され、タイヤ1の摩耗を簡単に求めることができる。また、八角形の接地領域は、実際の接地面10の外形により近い形状であるため、摩擦エネルギー(摩耗量)をより精確に予測することができる。
【0131】
図14は、
図4に示した接地面10の近似モデル30Fの一例を示す図である。
図14に示すように、近似モデル30Fは、センター領域11をモデル化したセンターモデル領域31Fと、ショルダー領域12をモデル化したショルダーモデル領域32Fとを含む。本実施形態において、センターモデル領域31Fは、1つの矩形(矩形の接地領域)により規定される。ショルダーモデル領域32Fのそれぞれは、台形(台形の接地領域)により規定される。ショルダーモデル領域32Fは、センターモデル領域31Fに隣接する辺H1と、タイヤ1の中心に対して辺H1よりも外側に配置される辺H2とを含む。辺H1及び辺H2は、X軸方向に長い。X軸方向に関して、辺H2は辺H1よりも短い。
図14に示す例によれば、近似モデル30Fのショルダーモデル領域(台形の接地領域)32Fは、接地面10のショルダー領域12の形状により近いモデルである。そのため、ショルダー領域12における摩擦エネルギー(摩耗量)をより精確に予測することができる。
【0132】
<第3実施形態>
第3実施形態について説明する。
図15は、本実施形態に係る近似モデル30Gの一例を示す図である。近似モデル30Gは、
図4に示した接地面10の近似モデルである。本実施形態は、
図10などを参照して説明した上述の実施形態の変形例である。
【0133】
近似モデル30Gにおいては、第2溝22が考慮される。第1溝21と同様、第2溝22は、路面に接触しない非接地部である。上述の各実施形態においては、近似モデル(30など)において、第2溝22は考慮されず、接地領域(接地部)として扱われていた。本実施形態においては、近似モデル30Gにおいて第2溝22が考慮され、第2溝22が路面に接触しない非接地領域(非接地部)として扱われる。すなわち、近似モデル30Gは、第2溝22を非接地領域として作成される。本実施形態においては、近似モデル30Gの作成において、第2溝22に基づいて、近似モデル30Gの接地領域の面積が補正される。
【0134】
図15において、近似モデル30Gは、センター領域11がモデル化されたセンターモデル領域31Gと、ショルダー領域12がモデル化されたショルダーモデル領域32Gとを含む。センターモデル領域31Gとショルダーモデル領域32Gとは、領域(非接地領域)211を境界として分割される。センターモデル領域31Gは、領域302G、領域303G、及び領域304Gに分割される。領域302Gと領域303Gと領域304Gとは、領域(非接地領域)211を境界として分割される。すなわち、近似モデル30Gにおいては、第1溝21が考慮されており、第1溝21が非接地部として扱われる。
【0135】
接地面10の領域101、領域102、領域103、領域104、及び領域105のそれぞれは、第2溝(非接地部)22を含む。本実施形態においては、近似モデル30Gにおいて、第2溝22が接地部として扱われずに非接地部として扱われるように、領域301G、領域302G、領域303G、領域304G、及び領域305Gそれぞれの面積が補正される。例えば、近似モデル30Gにおいては、
図10を参照して説明した近似モデル30Bの幅W
cよりも小さい幅W
c’に補正される。また、近似モデル30Gにおいては、
図10を参照して説明した近似モデル30Bの幅W
sよりも小さい幅W
s’に補正される。なお、
図10を参照して説明した近似モデル30Bの幅W
s及び幅W
cの総和は、接地面10全体の幅から第1溝21の幅を除した寸法である。
図15に示す領域301G、領域302G、領域303G、領域304G、及び領域305Gの幅の総和は、接地面10全体の幅から第1溝21の幅を減じた寸法よりも小さい。
【0136】
以上説明したように、本実施形態によれば、第1溝21のみならず、第2溝22も非接地部として扱うことによって、実際の接地面10の面積と、近似モデル30Gにおける接地領域の面積(領域301G、領域302G、領域303G、領域304G、及び領域305Gの面積の総和)とがより一致される。したがって、タイヤ1の摩耗の予測をより精度良く行うことができる。
【0137】
図16は、
図4に示した接地面10の近似モデル30Hの一例を示す図である。
図16に示すように、近似モデル30Hは、センター領域11がモデル化されたセンターモデル領域31Hと、ショルダー領域12がモデル化されたショルダーモデル領域32Hとを含む。近似モデル30Hは、第1溝21及び第2溝22のそれぞれを非接地領域として作成される。センターモデル領域31Hとショルダーモデル領域32Hとは、領域(非接地領域)211を境界として分割される。センターモデル領域31Hは、領域302H、領域303H、及び領域304Hに分割される。領域302Hと領域303Hと領域304Hとは、領域(非接地領域)211を境界として分割される。
【0138】
近似モデル30Hにおいて、第2溝22が接地部として扱われずに非接地部として扱われるように、領域301H、領域302H、領域303H、領域304H、及び領域305Hそれぞれの面積が補正される。
図16に示す例においては、領域302H及び領域304Hの接地長L
2ndが、
図10を参照して説明した近似モデル30Bの接地長Lcよりも短くなるように補正される。なお、領域302H及び領域304Hの幅W
2ndは、
図10を参照して説明した近似モデル30Bの幅W
cと等しくてもよいし、幅W
cよりも小さくてもよいし、幅W
cよりも大きくてもよい。このように、Y軸方向に関する接地領域の寸法(幅)のみならず、X軸方向に関する接地領域の寸法(接地長)を調整することによって、近似モデル30Hの面積が補正されてもよい。なお、
図16に示す例において、領域302H及び領域304Hのみならず、領域301H、領域303H、及び領域305Hの少なくとも一つの接地長が補正されてもよい。もちろん、接地領域の幅及び接地長の両方が補正されることにより、接地領域の面積が補正されてもよい。
【0139】
<第4実施形態>
第4実施形態について説明する。
図17は、本実施形態に係る近似モデル30Iの一例を示す図である。近似モデル30Iは、
図4に示した接地面10の近似モデルである。本実施形態は、
図10などを参照して説明した上述の実施形態の変形例である。
【0140】
図17において、近似モデル30Iは、センター領域11がモデル化されたセンターモデル領域31Iと、ショルダー領域12がモデル化されたショルダーモデル領域32Iとを含む。センターモデル領域31Iは、
図10を参照して説明した領域302と領域303と領域304とが結合された結合接地領域である。領域302の接地長(Y軸方向に関する寸法)と、領域303の接地長と、領域304の接地長とは等しい。センターモデル領域31Iは、これら接地長が等しい領域302と領域303と領域304とが結合されることによって形成される。センターモデル領域31Iは、矩形により規定された接地領域である。
【0141】
図10を参照して説明した近似モデル30Bは、それぞれ矩形により規定された5つの領域301、領域302、領域303、領域304、及び領域305を含む。本実施形態に係る近似モデル30Iは、3つの領域32I、領域32I、及び領域31Iを含む。本実施形態においては、3つの領域302と領域303と領域304が結合されたセンターモデル領域31Iと、2つのショルダーモデル領域32Iとのそれぞれに関して、平均せん断応力、すべり量、及び摩擦エネルギーが求められる。接地長が等しい領域302と領域303と領域304とが結合されることによって、等価な摩擦エネルギーをより簡単に求めることができる。
【0142】
図18は、本実施形態に係る近似モデル30Jの一例を示す図である。
図18に示す近似モデル30Jは、
図17に示した近似モデル30Iの変形例である。
図18において、近似モデル30Jは、センターモデル領域31Jとショルダーモデル領域32Jとを含む。センターモデル領域31Jは、接地長が等しい領域302と領域303と領域304とが結合されることによって形成される結合接地領域である。センターモデル領域31Jは、矩形により規定された接地領域である。
【0143】
図18に示す例において、ショルダーモデル領域32Jは、接地長が等しい領域301と領域305とが結合されることによって形成される結合接地領域である。ショルダーモデル領域32Jは、矩形により規定された接地領域である。本実施形態に係る近似モデル30Jは、矩形により規定された2つの領域(センターモデル領域31J及びショルダーモデル領域32J)を含む。本実施形態においては、3つの領域(領域302、領域303、及び領域304)が結合されたセンターモデル領域31Jと、2つの領域(領域301及び領域305)が結合されたショルダーモデル領域32Jのそれぞれに関して、平均せん断応力、すべり量、及び摩擦エネルギーが求められる。
図18に示す例においても、等価な摩擦エネルギーを簡単に求めることができる。
【0144】
<第5実施形態>
第5実施形態について説明する。
図19は、本実施形態に係るタイヤ1Kの接地面10Kの一例を示す図である。
図19に示す例において、接地面10Kは、センター領域11Kとショルダー領域12Kとを含む。第1溝21は2つ(2本)設けられる。センター領域11Kとショルダー領域12Kとは、第1溝21を境界として分割される。センター領域11K及びショルダー領域12Kのそれぞれに第2溝22が設けられる。
【0145】
図20は、
図19に示した接地面10Kの近似モデル30Kの一例を示す図である。
図20に示すように、接地面10Kの近似モデル30Kが、六角形により規定される接地領域を含んでもよい。本実施形態において、近似モデル30Kは、1つの六角形により規定される。このように、近似モデル30Kに使用される所定形状は、接地面10Kの形状(外形)に合わせて適宜選択可能である。
図20に示す例においても、六角形により規定される1つの接地領域で接地面10Kがモデル化されるため、演算の労力が低減され、タイヤ1Kの摩耗を簡単に求めることができる。
【0146】
図21は、
図19に示した接地面10Kの近似モデル30Lの一例を示す図である。
図21に示すように、接地面10Kの近似モデル30Lが、それぞれが矩形で規定される複数の接地領域を含んでもよい。近似モデル30Lは、センター領域11Kがモデル化されたセンターモデル領域31Lと、ショルダー領域12Kがモデル化されたショルダーモデル領域32Lとを含む。近似モデル30Lにおいて、第1溝21は路面と接触しない非接地部として扱われる。近似モデル30Lは、第1溝21を非接地領域として作成される。センターモデル領域31Lとショルダーモデル領域32Lとは、領域(非接地領域)211を境界として分割される。センターモデル領域31Lは、それぞれが矩形により規定された3つの領域302L、領域303L、及び領域304Lを含む。
図21に示すように、接地面10Kについて、それぞれが矩形により規定された5つの領域301L、領域302L、領域303L、領域304L、及び領域305Lで近似モデル30Lを作成することもできる。
【0147】
図22は、本実施形態に係るタイヤ1Mの接地面10Mの一例を示す図である。
図22に示す例において、接地面10Mは、センター領域11Mとショルダー領域12Mとを含む。第1溝21は6つ(6本)設けられる。センター領域11Mとショルダー領域12Mとは、第1溝21を境界として分割される。センター領域11M及びショルダー領域12Mのそれぞれに第2溝22が設けられる。
【0148】
図23は、
図22に示した接地面10Mの近似モデル30Mの一例を示す図である。
図23に示すように、接地面10Mの近似モデル30Mの外形が、曲線を含んでもよい。
図23に示す例において、近似モデル30Mは、楕円の一部を直線で切り取った形状である。本実施形態において、近似モデル30Mは、1つの所定形状により規定された接地領域である。このように、近似モデル30Mに使用される所定形状は、接地面10Mの形状(外形)に合わせて適宜選択可能である。
図23に示す例においても、所定形状により規定された1つの接地領域で接地面10Mがモデル化されるため、演算の労力が低減され、タイヤ1Mの摩耗を簡単に求めることができる。
【0149】
図24は、
図22に示した接地面10Mの近似モデル30Nの一例を示す図である。
図24に示すように、接地面10Mの近似モデル30Nが、矩形により規定される複数の接地領域を含んでもよい。近似モデル30Nは、センター領域11Mがモデル化されたセンターモデル領域31Nと、ショルダー領域12Mがモデル化されたショルダーモデル領域32Nとを含む。近似モデル30Nにおいて、6本の第1溝21のうち、センター領域11Mとショルダー領域12Mとを隔てる2本の第1溝21が、路面と接触しない非接地部として扱われる。センター領域11Mに設けられる2本の第1溝21は、路面と接触する接地部として扱われる。ショルダー領域12Mに設けられる第1溝21も、路面と接触する接地部として扱われる。本実施形態においては、センターモデル領域31Nとショルダーモデル領域32Nとが、領域211を境界として分割される。センターモデル領域31Nは、矩形により規定された1つの接地領域で形成される。2つのショルダーモデル領域32Nはそれぞれ、矩形により規定された2つの接地領域を含む。センターモデル領域31Nに対して−Y側のショルダーモデル領域32Nは、面積(大きさ)が異なる領域301iと領域301oとを含む。センターモデル領域31Nに対して+Y側のショルダーモデル領域32Nは、面積(大きさ)が異なる領域305iと領域305oとを含む。
図24に示す例のように、接地面10Mについて、矩形で規定された複数の接地領域で近似モデル30Nを作成することもできる。
【0150】
なお、上述の各実施形態において、接地面10の近似モデル30を所定形状により規定される複数の接地領域で作成する場合、第1溝21(領域211)を境界として分割することとした。複数の接地領域は、第1溝21(領域211)によって隔てられてもよいし、隔てられなくてもよい。例えば、接地面10の領域101を所定形状により規定された1つの領域で近似してもよいし、複数の領域を使って近似モデルを作成してもよい。
【0151】
<第6実施形態>
第6実施形態について説明する。
図25は、本実施形態に係るタイヤ1の摩耗予測方法の手順の一例を示すフローチャートである。
【0152】
本実施形態においては、すべり域の平均せん断応力は、前後方向の平均せん断応力と、横方向の平均せん断応力と、を含む。すべり域のすべり量は、前後方向のすべり量と、横方向のすべり量と、を含む。摩擦エネルギーを求める手順は、前後方向の平均せん断応力と前後方向のすべり量とに基づいて、前後方向の摩擦エネルギーを求めることと、横方向の平均せん断応力と横方向のすべり量に基づいて、横方向の摩擦エネルギーを求めることと、を含む。
【0153】
上述の実施形態に従って、接地面10の近似モデル30が作成される(ステップSB1)。せん断応力に関する近似関数が設定される(ステップSB2)。すべり量に関する近似関数が設定される(ステップSB3)。タイヤ1に作用する前後力及び横力が設定される(ステップSB4)。前後力と横力との合力が算出される(ステップSB5)。スリップ率SRが算出される(ステップSB6)。スリップ角αが算出される(ステップSB7)。
【0154】
平均せん断応力が算出される(ステップSB8)。すなわち、(5)式に示したように、前後力と横力との合力に基づいて、センター領域11における平均せん断応力が算出されるとともに、(6)式に示したように、前後力と横力との合力に基づいて、ショルダー領域12における平均せん断応力が算出される。
【0155】
本実施形態においては、前後方向の平均せん断応力及び横方向の平均せん断応力が算出される(ステップSB9、ステップSB10)。
【0156】
センター領域11の前後方向の平均せん断応力は、以下の(23)式で表される。センター領域11の横方向の平均せん断応力は、以下の(24)式で表される。ショルダー領域12の前後方向の平均せん断応力は、以下の(25)式で表される。ショルダー領域12の横方向の平均せん断応力は、以下の(26)式で表される。
【0161】
なお、センター領域11の平均せん断応力は、(5)式のみならず、以下の(27)式で表すことができる。A
cは、センター領域11の接地面積である。A
sは、ショルダー領域12の接地面積である。また、センター領域11の前後方向の平均せん断応力は、以下の(28)式で表される。センター領域11の横方向の平均せん断応力は、以下の(29)式で表される。
【0165】
なお、ショルダー領域12の平均せん断応力は、(6)式のみならず、以下の(30)式で表すことができる。A
cは、センター領域11の接地面積である。A
sは、ショルダー領域12の接地面積である。また、ショルダー領域12の前後方向の平均せん断応力は、以下の(31)式で表される。ショルダー領域12の横方向の平均せん断応力は、以下の(32)式で表される。
【0169】
次に、前後方向のすべり量が算出される(ステップSB11)。また、横方向のすべり量が算出される(ステップSB12)。
【0170】
センター領域11の前後方向のすべり量は、以下の(33)式で表すことができる。センター領域11の横方向のすべり量は、以下の(34)式で表すことができる。ショルダー領域12の前後方向のすべり量は、以下の(35)式で表すことができる。ショルダー領域12の横方向のすべり量は、以下の(36)式で表すことができる。
【0175】
次に、前後方向の摩擦エネルギーが算出される(ステップSB13)。また、横方向の摩擦エネルギーが算出される(ステップSB14)。また、前後方向の摩擦エネルギーと横方向の摩擦エネルギーとの和であるトータルの摩擦エネルギーが算出される(ステップSB15)。
【0176】
前後方向の摩擦エネルギーは、前後方向の平均せん断応力と前後方向のすべり量とに基づいて求められる。横方向の摩擦エネルギーは、横方向の平均せん断応力と横方向のすべり量とに基づいて求められる。
【0177】
すなわち、センター領域11における前後方向の摩擦エネルギーは、以下の(37)式で表される。センター領域11における横方向の摩擦エネルギーは、以下の(38)式で表される。センター領域11におけるトータルの摩擦エネルギーは、以下の(39)式で表される。
【0181】
ショルダー領域12における前後方向の摩擦エネルギーは、以下の(40)式で表される。ショルダー領域12における横方向の摩擦エネルギーは、以下の(41)式で表される。ショルダー領域12におけるトータルの摩擦エネルギーは、以下の(42)式で表される。
【0185】
次に、近似モデル30のセンターモデル領域31、及びショルダーモデル領域32の全ての領域についての摩擦エネルギーの算出が終了したかどうかが判断される(ステップSB16)。ステップSB16において、全ての領域についての摩擦エネルギーの算出が終了していないと判断された場合(Noの場合)、ステップSB8に戻り、全ての領域についての摩擦エネルギーの算出が終了したと判断されるまで、同様の処理が実施される。
【0186】
ステップSB16において、センターモデル領域31、及びショルダーモデル領域32それぞれについての摩擦エネルギーの算出が終了したと判断された場合(Yesの場合)、解析部52は、ステップSB15で求めた摩擦エネルギーに基づいて、タイヤ1(トレッドゴム6)の摩耗を予測する(ステップSB17)。
【0187】
以上説明したように、本実施形態によれば、前後力と横力との合力を求め、得られた平均せん断応力を前後方向の成分と横方向の成分に分解して、前後方向の摩擦エネルギーと横方向の摩擦エネルギーとを求めて、その合計によって摩擦エネルギーを求める。平均せん断応力、すべり量、及び摩擦エネルギーをそれぞれ前後方向の成分と横方向の成分に分けて扱うため、タイヤ設計パラメータ及びタイヤ特性値との対応がつけやすい。そのため、例えば、摩耗性能の改良のための方針を示しやすいメリットがある。
【0188】
<第7実施形態>
第7実施形態について説明する。
図26は、本実施形態に係るタイヤ1の摩耗予測方法の手順の一例を示すフローチャートである。
【0189】
本実施形態においては、タイヤ1に横力が作用したときの制駆動スティフネスの近似関数が設定される。また、タイヤ1に前後力が作用したときの旋回スティフネスの近似関数が設定される。スリップ率SRは、制駆動スティフネスの近似関数と、タイヤ1に作用する横力及び前後力とに基づいて求められる。スリップ角αは、旋回スティフネスの近似関数と、タイヤ1に作用する前後力及び横力とに基づいて求められる。
【0190】
上述の実施形態に従って、接地面10の近似モデル30が作成される(ステップSC1)。せん断応力に関する近似関数が設定される(ステップSC2)。すべり量に関する近似関数が設定される(ステップSC3)。
【0191】
次に、タイヤ1に横力が作用したときの制駆動スティフネスの近似関数が設定される(ステップSC4)。また、タイヤ1に前後力が作用したときの旋回スティフネスの近似関数が設定される(ステップSC5)。
【0192】
制駆動スティフネスの近似関数は、以下の(43)式で表される。旋回スティフネスの近似関数は、以下の(44)式で表される。
【0195】
(43)式に示す制駆動スティフネスの近似関数は、横力F
yの関数である。(44)式に示す旋回スティフネスの近似関数は、前後力F
xの関数である。以下の(45)式に示すように、制駆動スティフネスの近似関数が、タイヤ1に作用する横力F
y及び前後力F
xの関数でもよい。以下の(46)式に示すように、旋回スティフネスの近似関数が、タイヤ1に作用する前後力F
x及び横力F
yの関数でもよい。
【0198】
次に、上述の実施形態に従って、タイヤ1に作用する前後力及び横力が設定される(ステップSC6)。前後力と横力との合力が算出される(ステップSC7)。
【0199】
次に、スリップ率SRが算出される(ステップSC8)。スリップ率SRは、(43)式又は(45)式に示した制駆動スティフネスの近似関数K
xと、タイヤ1に作用する横力F
y及び前後力F
xの少なくとも一方とに基づいて求められる。すなわち、スリップ率SRは、以下の(47)式で表される。
【0201】
次に、スリップ角αが算出される(ステップSC9)。スリップ角αは、(44)式又は(46)式に示した旋回スティフネスの近似関数K
yと、タイヤ1に作用する前後力F
x及び横力F
yの少なくとも一方とに基づいて求められる。すなわち、スリップ角αは、以下の(48)式で表される。
【0203】
次に、上述の実施形態に従って、平均せん断応力が算出される(ステップSC10)。
【0204】
次に、すべり量が算出される(ステップSC11)。すべり量は、ステップSC8で算出したスリップ率SR及びステップSC9で算出したスリップ角αに基づいて算出される。すべり量は、例えば(33)式から(36)式を使って算出される。
【0205】
次に、摩擦エネルギーが算出される(ステップSC12)。摩擦エネルギーは、例えば(37)式から(42)式を使って算出される。
【0206】
全ての領域について摩擦エネルギーが算出されたか否かが判断される(ステップSC13)。全ての領域について摩擦エネルギーが算出されたと判断された場合(Yesの場合)、解析部52は、ステップSC12で求めた摩擦エネルギーに基づいて、タイヤ1の摩耗を予測する(ステップSC14)。
【0207】
以上説明したように、本実施形態によれば、横力が作用したときの制駆動スティフネスの近似関数と、前後力が作用したときの旋回スティフネスの近似関数を設定することにより、任意の前後力及び横力が作用したときのスリップ率と、任意の前後力及び横力が作用したときのスリップ角とを容易に求めることができる。
【0208】
なお、本実施形態において、横力が作用したときの制駆動スティフネスの近似関数、及び前後力が作用したときの旋回スティフネスの近似関数は、実測データ、又はFEMシミュレーション等によるシミュレーションデータから求めてもよいし、データベースからの統計的予測データから求めてもよい。
【0209】
<第8実施形態>
第8実施形態について説明する。
図27は、本実施形態に係るタイヤ1の摩耗予測方法の手順の一例を示すフローチャートである。
【0210】
本実施形態においては、タイヤ1に前後力及び横力が作用したときのスリップ率の近似関数が設定される。また、タイヤ1に前後力及び横力が作用したときのスリップ角の近似関数が設定される。スリップ率SRは、スリップ率の近似関数と、タイヤ1に作用する前後力及び横力とに基づいて求められる。スリップ角αは、スリップ角の近似関数と、タイヤ1に作用する前後力及び横力とに基づいて求められる。
【0211】
上述の実施形態に従って、接地面10の近似モデル30が作成される(ステップSD1)。せん断応力に関する近似関数が設定される(ステップSD2)。すべり量に関する近似関数が設定される(ステップSD3)。
【0212】
次に、タイヤ1に前後力及び横力が作用したときのスリップ率の近似関数が設定される(ステップSD4)。また、タイヤ1に前後力及び横力が作用したときのスリップ角の近似関数が設定される(ステップSD5)。
【0213】
次に、上述の実施形態に従って、タイヤ1に作用する前後力及び横力が設定される(ステップSD6)。前後力と横力との合力が算出される(ステップSD7)。
【0214】
次に、スリップ率SRが算出される(ステップSD8)。また、スリップ角αが算出される(ステップSD9)。スリップ率SRは、スリップ率の近似関数と、タイヤ1に作用する前後力F
x及び横力F
yの少なくとも一方とに基づいて求められる。スリップ角αは、スリップ角の近似関数と、タイヤ1に作用する前後力F
x及び横力F
yの少なくとも一方とに基づいて求められる。
【0215】
すなわち、(49)式に示すように、スリップ率SRは、前後力F
x及び横力F
yの関数として表される。(50)式に示すように、スリップ角αは、前後力F
x及び横力F
yの関数として表される。
【0218】
次に、上述の実施形態に従って、平均せん断応力が算出される(ステップSD10)。
【0219】
次に、すべり量が算出される(ステップSD11)。すべり量は、ステップSD8で算出したスリップ率SR及びステップSD9で算出したスリップ角αに基づいて算出される。すべり量は、例えば(33)式から(36)式を使って算出される。
【0220】
次に、摩擦エネルギーが算出される(ステップSD12)。摩擦エネルギーは、例えば(37)式から(42)式を使って算出される。
【0221】
全ての領域について摩擦エネルギーが算出されたか否かが判断される(ステップSD13)。全ての領域について摩擦エネルギーが算出されたと判断された場合(Yesの場合)、解析部52は、ステップSD12で求めた摩擦エネルギーに基づいて、タイヤ1の摩耗を予測する(ステップSD14)。
【0222】
以上説明したように、本実施形態によれば、前後力及び横力が作用したときのスリップ率の近似関数と、前後力及び横力が作用したときのスリップ角の近似関数を設定することにより、任意の前後力及び横力が作用したときのスリップ率と、任意の前後力及び横力が作用したときのスリップ角とを容易に求めることができる。
【0223】
なお、本実施形態において、前後力及び横力が作用したときのスリップ率の近似関数と、前後力及び横力が作用したときのスリップ角の近似関数とは、実測データ、又はFEMシミュレーション等によるシミュレーションデータから求めてもよいし、データベースからの統計的予測データから求めてもよい。
【0224】
<第9実施形態>
第9実施形態について説明する。
図28は、本実施形態に係るタイヤ1の摩耗予測方法の手順の一例を示すフローチャートである。
【0225】
本実施形態において、駆動、制動、及び旋回を含むタイヤ1の走行条件に基づいて、タイヤ1に作用する前後力及び横力の2次元頻度分布が設定される。2次元頻度分布の各水準において、その水準に対応付けた前後力及び横力とせん断応力に関する近似関数とに基づいて、すべり域の平均せん断応力が求められる。また、その水準に対応付けた前後力及び横力とすべり量に関する近似関数とに基づいて、すべり域のすべり量が求められる。求めた平均せん断応力とすべり量とに基づいて、摩擦エネルギーが求められる。摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、頻度平均摩擦エネルギーが求められる。頻度平均摩擦エネルギーに基づいて、タイヤ1の摩耗が予測される。
【0226】
上述の実施形態に従って、接地面10の近似モデル30が作成される(ステップSE1)。せん断応力に関する近似関数が設定される(ステップSE2)。すべり量に関する近似関数が設定される(ステップSE3)。
【0227】
次に、前後力と横力との2次元頻度分布が設定される(ステップSE4)。
【0228】
タイヤ1に作用する前後力及び横力の2次元頻度分布とは、タイヤ1に「ある水準の前後力F
xi」と「ある水準の横力F
yj」とが作用しているときの頻度f
ijの分布をいう。例えば、前後力F
xiの水準数をm、横力F
yjの水準数をnとしたとき、2次元頻度分布は、m×n個の数値で表される。すなわち、タイヤ1に作用する前後力及び横力の2次元頻度分布とは、以下の表1で示すような、m×nのマトリクスで表すことができる。
【0230】
また、2次元頻度分布は、横力頻度分布と前後力頻度分布とを含む。横力頻度分布とは、旋回時においてタイヤ1に作用する横力と、その横力が作用する頻度との関係を示すデータである。前後力頻度分布とは、制駆動時においてタイヤ1に作用する前後力と、その前後力が作用する頻度との関係を示すデータである。タイヤ1に作用する前後力及び横力の2次元頻度分布において、前後力頻度分布を構成する数値は、横力の水準数nだけ存在し、横力頻度分布を構成する数値は、前後力の水準数mだけ存在する。
【0231】
一般に、旋回時においてタイヤ1に作用する横力は、−0.5kN以上+0.5kN以下の範囲内である可能性が高い。一般に、制駆動時においてタイヤ1に作用する前後力は、−0.5kN以上+0.5kN以下の範囲内である可能性が高い。なお、横力頻度分布及び前後力頻度分布は、タイヤ1(車両)の走行条件によって変化する。
【0232】
本実施形態においては、駆動、制動、及び旋回を含むタイヤ1の走行条件に基づいて、タイヤ1に作用する前後力及び横力とその前後力及び横力が作用する頻度との関係を示す2次元頻度分布が求められる。また、上述のように、前後力頻度分布を構成する数値は、横力の水準数nだけ存在し、横力頻度分布を構成する数値は、前後力の水準数mだけ存在する。したがって、本実施形態においては、駆動、制動、及び旋回を含むタイヤ1の走行条件に基づいて、タイヤ1に作用する前後力とその前後力が作用する頻度との関係を示す前後力頻度分布が横力の水準数nだけ求められる。また、駆動、制動、及び旋回を含むタイヤ1の走行条件に基づいて、タイヤ1に作用する横力とその横力が作用する頻度との関係を示す横力頻度分布が前後力の水準数mだけ求められる。
【0233】
次に、ステップSE4で設定した2次元頻度分布の各水準において、前後力と横力との合力が算出される(ステップSE5)。次に、ステップSE4で設定した2次元頻度分布の各水準において、スリップ率SRが算出される(ステップSE6)。また、ステップSE4で設定した2次元頻度分布の各水準において、スリップ角αが算出される(ステップSE7)。
【0234】
次に、平均せん断応力が算出される(ステップSE8)。本実施形態において、解析部52は、ステップSE4で設定した2次元頻度分布の各水準において、その各水準に対応付けた前後力と横力との合力と、ステップSE2で設定したせん断応力に関する近似関数とに基づいて、すべり域の平均せん断応力を求める。
【0235】
本実施形態においては、横力及び前後力とせん断応力との関係が対応付けられる。本実施形態においては、2次元頻度分布に基づいて、横力及び前後力の2次元頻度分布の各水準に対応するせん断応力が設定される。
【0236】
次に、すべり量が算出される(ステップSE9)。本実施形態において、解析部52は、ステップSE4で設定した2次元頻度分布の各水準において、その各水準に対応付けた前後力及び横力と、ステップSE3で設定したすべり量に関する近似関数とに基づいて、すべり域のすべり量を求める。
【0237】
本実施形態においては、横力及び前後力とすべり量との関係が対応付けられる。本実施形態においては、2次元頻度分布に基づいて、横力及び前後力の2次元頻度分布の各水準に対応するすべり量が設定される。
【0238】
次に、解析部52は、ステップSE8で算出した平均せん断応力と、ステップSE9で算出したすべり量とに基づいて、摩擦エネルギーを求める(ステップSE10)。
【0239】
近似モデル30が複数の接地領域(例えば、領域301、領域302、領域303、領域304、及び領域305など)を含む場合、その全ての接地領域についての摩擦エネルギーが算出されるまで、上述の処理が繰り返される(ステップSE11)。また、2次元頻度分布の全ての水準についての摩擦エネルギーが算出されるまで、上述の処理が繰り返される(ステップSE12)。
【0240】
ステップSE11において、全ての接地領域についての摩擦エネルギーが算出され、ステップSE12において、全ての頻度についての摩擦エネルギーが算出されたと判断された後、解析部52は、摩擦エネルギーと頻度との積算値に基づいて、頻度平均摩擦エネルギーを求める(ステップSE13)。
【0241】
本実施形態においては、横力及び前後力と摩擦エネルギーと頻度との積算値から頻度平均摩擦エネルギーが求められ、その頻度平均摩擦エネルギーに基づいてタイヤ1の摩耗が予測される。頻度平均摩擦エネルギーとは、値が異なるm数の前後力及びn数の横力のそれぞれに関して摩擦エネルギーと頻度との積を求めた場合、それらm×n数の摩擦エネルギーと頻度との積の総和(積算値)を、頻度の総和(積算値)で除した(割った)値をいう。すなわち、各水準の前後力をF
xi(i=1〜m)、各水準の横力をF
yj(j=1〜n)、各水準の頻度をf
ijとし、各水準の摩擦エネルギーをE
ijとしたとき、頻度平均摩擦エネルギーE
aveは、以下の(51)式で求められる。すなわち、頻度平均摩擦エネルギーE
aveとは、摩擦エネルギーE
ijと頻度f
ijとの積の総和を、頻度f
ijの総和で除した値である。
【0243】
すなわち、本実施形態においては、値が異なる複数の前後力(前後力レベル)及び横力(横力レベル)のそれぞれに対応した、摩擦エネルギーと頻度との積が求められる。解析部52は、前後力又は横力と、摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、頻度平均摩擦エネルギーを求める(ステップSE13)。値が異なるm数の前後力及びn数の横力のそれぞれに関して摩擦エネルギーと頻度との積を求めた場合、それらm×n数の摩擦エネルギーと頻度との積の総和(積算値)が頻度の総和(積算値)で除される(割られる)ことにより、頻度平均摩擦エネルギーが求められる。
【0244】
頻度平均摩擦エネルギーの算出が終了した後、その頻度平均摩擦エネルギーに基づいて、タイヤ1の摩耗が予測される(ステップSE14)。
【0245】
以上説明したように、本実施形態によれば、横力頻度分布及び前後力頻度分布を含む2次元頻度分布を考慮することで、タイヤ1の摩耗予測の精度をより向上することができる。
【0246】
すなわち、タイヤ1に作用する前後力及び横力の2次元頻度分布に基づいて摩擦エネルギーを求めるため、純粋な前後力及び横力が作用する場合のタイヤ摩擦エネルギー特性に加えて、前後力と横力とが同時に作用する複合条件についてもタイヤ摩擦エネルギー特性を詳細に扱うことができる。これにより、タイヤ1の摩耗予測精度をより向上することができる。
【0247】
なお、本実施形態において、タイヤに作用する前後力と横力の2次元頻度分布は、所定の車両及び走行条件において実測して求めてもよいし、動的な車両運動シミュレーションから求めてもよい。
【0248】
<第10実施形態>
第10実施形態について説明する。
図29は、本実施形態に係るタイヤ1の摩耗予測方法の手順の一例を示すフローチャートである。
【0249】
上述の実施形態に従って、接地面10の近似モデル30が作成される(ステップSF1)。せん断応力に関する近似関数が設定される(ステップSF2)。すべり量に関する近似関数が設定される(ステップSF3)。
【0250】
次に、タイヤ1が装着される車両の走行条件に基づいて、車両に作用する前後加速度及び横加速度の2次元頻度分布が設定される(ステップSF4)。
【0251】
2次元頻度分布とは、横加速度頻度分布と、前後加速度頻度分布とを含む。横加速度頻度分布とは、旋回時において車両(タイヤ1)に作用する横加速度と、その横加速度が作用する頻度との関係を示すデータである。前後加速度頻度分布とは、制駆動時において車両(タイヤ1)に作用する前後加速度と、その前後加速度が作用する頻度との関係を示すデータである。
【0252】
一般に、旋回時における車両の旋回加速度は、−0.1G以上+0.1G以下の範囲内である可能性が高い。一般に、制駆動時における車両の制駆動加速度は、−0.1G以上+0.1G以下の範囲内である可能性が高い。なお、加速度頻度分布(旋回加速度頻度分布及び制駆動加速度頻度分布)は、タイヤ1(車両)の走行条件によって変化する。
【0253】
本実施形態においては、駆動、制動、及び旋回を含む車両の走行条件に基づいて、タイヤ1に作用する前後加速度とその前後加速度が作用する頻度との関係を示す前後加速度頻度分布を求めてもよい。また、駆動、制動、及び旋回を含む車両の走行条件に基づいて、タイヤ1に作用する横加速度とその横加速度が作用する頻度との関係を示す横加速度頻度分布を求めてもよい。
【0254】
次に、解析部52は、横加速度及び前後加速度と、タイヤ1に作用する前後力及び横力との関係を設定する。すなわち、加速度頻度分布(横加速度頻度分布及び前後加速度頻度分布を含む2次元加速度頻度分布)に、タイヤ1に作用する横力及び前後力を対応付ける。タイヤ1に作用する横力及び前後力は、車両に作用する旋回加速度及び制駆動加速度の関数として表すことができる。解析部52は、2次元頻度分布の各水準に、タイヤ1に作用する横力及び前後力を対応付ける(ステップSF5)。
【0255】
次に、ステップSF4で設定した2次元頻度分布の各水準において、前後力と横力との合力が算出される(ステップSF6)。次に、ステップSF4で設定した2次元頻度分布の各水準において、スリップ率SRが算出される(ステップSF7)。また、ステップSF4で設定した2次元頻度分布の各水準において、スリップ角αが算出される(ステップSF8)。
【0256】
次に、平均せん断応力が算出される(ステップSF9)。本実施形態において、解析部52は、ステップSF4で設定した2次元頻度分布の各水準において、その水準に対応付けた前後力と横力との合力と、ステップSF2で設定したせん断応力に関する近似関数とに基づいて、すべり域の平均せん断応力を求める。
【0257】
本実施形態においては、横加速度及び前後加速度とせん断応力との関係が対応付けられる。本実施形態においては、2次元加速度頻度分布に基づいて、横加速度及び前後加速度の2次元頻度分布の各水準に対応するせん断応力が設定される。
【0258】
次に、すべり量が算出される(ステップSF10)。本実施形態において、解析部52は、ステップSF4で設定した2次元頻度分布の各水準において、その各水準に対応付けた前後力及び横力と、ステップSF3で設定したすべり量に関する近似関数とに基づいて、すべり域のすべり量を求める。
【0259】
本実施形態においては、横加速度及び前後加速度とすべり量との関係が対応付けられる。本実施形態においては、2次元加速度頻度分布に基づいて、2次元頻度分布の横加速度及び前後加速度の各水準に対応するすべり量が設定される。
【0260】
次に、解析部52は、ステップSF9で算出した平均せん断応力と、ステップSF10で算出したすべり量とに基づいて、摩擦エネルギーを求める(ステップSF11)。
【0261】
近似モデル30が複数の接地領域(例えば、領域301、領域302、領域303、領域304、及び領域305など)を含む場合、その全ての接地領域についての摩擦エネルギーが算出されるまで、上述の処理が繰り返される(ステップSF12)。また、2次元頻度分布の全ての水準についての摩擦エネルギーが算出されるまで、上述の処理が繰り返される(ステップSF13)。
【0262】
ステップSF12において、全ての接地領域についての摩擦エネルギーが算出され、ステップSF13において、全ての頻度についての摩擦エネルギーが算出されたと判断された後、解析部52は、摩擦エネルギーと頻度との積算値に基づいて、頻度平均摩擦エネルギーを求める(ステップSF14)。
【0263】
本実施形態においては、横加速度及び前後加速度と摩擦エネルギーと頻度との積算値から頻度平均摩擦エネルギーが求められ、その頻度平均摩擦エネルギーに基づいてタイヤ1の摩耗が予測される。頻度平均摩擦エネルギーとは、値が異なるm数の前後加速度及びn数の横加速度のそれぞれに関して摩擦エネルギーと頻度との積を求めた場合、それらm×n数の摩擦エネルギーと頻度との積の総和(積算値)を、頻度の総和(積算値)で除した(割った)値をいう。
【0264】
すなわち、本実施形態においては、値が異なる複数の前後加速度(前後加速度レベル)及び横加速度(横加速度レベル)のそれぞれに対応した、摩擦エネルギーと頻度との積が求められる。解析部52は、前後加速度又は横加速度と、摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、頻度平均摩擦エネルギーを求める(ステップSF14)。値が異なるm数の前後加速度及びn数の横加速度のそれぞれに関して摩擦エネルギーと頻度との積を求めた場合、それらm×n数の摩擦エネルギーと頻度との積の総和(積算値)が頻度の総和(積算値)で除される(割られる)ことにより、頻度平均摩擦エネルギーが求められる。
【0265】
頻度平均摩擦エネルギーの算出が終了した後、その頻度平均摩擦エネルギーに基づいて、タイヤ1の摩耗が予測される(ステップSF15)。
【0266】
以上説明したように、本実施形態によれば、横加速度頻度分布及び前後加速度頻度分布を含む2次元頻度分布を考慮することで、タイヤ1の摩耗予測の精度をより向上することができる。
【0267】
すなわち、車両に作用する前後加速度及び横加速度の2次元頻度分布に、タイヤ1に作用する前後力及び横力を対応付けて、前後力及び横力に基づいて摩擦エネルギーを求めるため、純粋な前後力及び横力が作用する場合のタイヤ摩擦エネルギー特性に加えて、前後力及び横力が同時に作用する複合条件についてもタイヤ摩擦エネルギー特性を詳細に扱うことができる。これにより、タイヤ1の摩耗予測精度をより向上することができる。
【0268】
なお、車両に作用する前後加速度及び横加速度の2次元頻度分布は、所定の車両及び走行条件において実測して求めてもよいし、動的な車両運動シミュレーションから求めてもよい。
【0269】
なお、車両に作用する加速度とタイヤ1に作用する前後力及び横力との関係は、所定の条件にて実測して求められてもよいし、実測値から回帰した近似式より求められてもよいし、動的な車両運動シミュレーションから求められてもよいし、車両諸元から解析的に求めた推定式から推定されてもよい。
【0270】
<第11実施形態>
第11実施形態について説明する。第11実施形態は、上述の第9実施形態又は第10実施形態の変形例である。
【0271】
上述の第9実施形態又は第10実施形態において、タイヤ1に作用する初期荷重が設定される。初期荷重は、タイヤ1が走行していない状態でタイヤ1に作用する荷重を含む。
【0272】
車両の静止時にタイヤ1に作用する荷重が設定される。車両の静止時にタイヤ1に作用する荷重は、実測データから取得されてもよいし、車両諸元データに基づいて設定してもよい。
【0273】
次に、車両の走行時にタイヤ1に作用する荷重が設定される。車両の走行時にタイヤ1に作用する荷重は、制駆動及び旋回のそれぞれの条件における実測データから取得されてもよいし、実測値から回帰した近似式より求めても良い。あるいは、動的な車両運動シミュレーションから求めてもよいし、車両諸元から解析的に求めた推定式から推定してもよい。
【0274】
次に、摩擦エネルギーに関する第1の荷重補正関数及び第2の荷重補正関数が設定される。
【0275】
第1の荷重補正関数とは、摩擦エネルギーの荷重依存性を考慮し、車両が静止時の荷重において補正した摩擦エネルギー(第1の荷重補正摩擦エネルギー)を求めるための関数である。第2の荷重補正関数とは、摩擦エネルギーの荷重依存性を考慮し、車両が走行時の荷重において補正した摩擦エネルギー(第2の荷重補正摩擦エネルギー)を求めるための関数である。摩擦エネルギーは、タイヤ1に作用する荷重の関数であり、タイヤ1に作用する荷重に応じて変化する数値である。タイヤ1に作用する荷重は、タイヤ1が装着される車両の走行条件に応じて変化する。
【0276】
車両が静止時の荷重、車両が走行時の荷重のそれぞれを適切に考慮することによって、少ない初期荷重条件にて摩擦エネルギーを取得しながら、精度良くタイヤ摩耗性能を予測することができる。車両が走行時の荷重は、制駆動及び旋回によって変化する。その荷重の影響を適切に考慮することによって、精度良くタイヤ摩耗性能を予測することができる。
【0277】
第1の荷重補正関数は、荷重の変化に比例してタイヤ1に作用する横力及び前後力が変化する条件に関する関数である。第2の荷重補正関数は、荷重の変化にかかわらず前後力及び横力が一定である条件に関する関数である。
【0278】
タイヤ1に作用する荷重の変化に比例してタイヤ1に作用する横力及び前後力が変化する条件(第1条件)とは、例えば、タイヤ1が装着される車両の重量(車重)の変化により、横力及び前後力が変化する条件を含む。荷重の変化にかかわらずタイヤ1に作用する横力及び前後力が一定である条件(第2条件)とは、例えば、車両の旋回及び加減速により、タイヤ1に作用する荷重が変化する条件を含む。すなわち、車重が変化すると、車両が所定の旋回及び加減速をする際にタイヤ1に作用する横力及び前後力は変化する。車重が変化せずに、車両が所定の旋回及び加減速をする際には、タイヤ1に作用する荷重は変化するが、横力及び前後力は変化しない可能性が高い。第1条件と第2条件とでは、タイヤ1に作用する荷重と摩擦エネルギーとの関係の傾向が異なる。
【0279】
本発明者の知見によれば、第1条件においては、荷重が大きくなると、摩擦エネルギーも大きくなり、荷重が小さくなると、摩擦エネルギーも小さくなる傾向であることが判明している。一方、第2条件においては、荷重が大きくなると、摩擦エネルギーが小さくなり、荷重が小さくなると、摩擦エネルギーが大きくなることが判明している。そのため、想定される条件(第1条件及び第2条件のどちらか)に合わせて荷重補正関数が設定されることが好ましい。
【0280】
また、荷重補正関数は、旋回条件における荷重補正関数と、制駆動条件(制動条件及び駆動条件)における荷重補正関数との少なくとも一方を含む。
【0281】
本発明者の知見によれば、旋回条件と制駆動条件とでは、摩擦エネルギーの荷重依存性が異なることが判明している。これは、旋回スティフネスの荷重依存性と制駆動スティフネスの荷重依存性とが異なるためであると考えられる。そのため、摩擦エネルギーの荷重依存性は、旋回条件と制駆動条件とで異なる。したがって、旋回条件における荷重補正関数と制駆動条件における荷重補正関数を別々に設定して、それぞれ荷重補正を行うことで、より精度良く摩耗性能を予測することができる。なお、荷重補正関数として、旋回条件と制駆動条件の平均的傾向を再現する補正式を採用してもよい。
【0282】
本実施形態において、摩擦エネルギーを補正するための関数(荷重補正関数)が設定され、その荷重補正関数に基づいて荷重補正摩擦エネルギーが決定される。荷重補正関数は、1次関数でもよいし2次以上6次以下の関数でもよいし、冪関数でもよいし、指数関数でもよいし、これらの関数を組み合わせた関数でもよい。これらの例に限られず、任意の関数を用いることができる。第1の荷重補正関数についての1次関数の一例を(52A)式に、4次関数の例を(52B)式に、冪関数の一例を(52C)式に示す。第2の荷重補正関数についての1次関数の一例を(53A)式に、4次関数の例を(53B)式に、冪関数の一例を(53C)式に示す。
【0285】
(52A)式から(52C)式、及び(53A)式から(53C)式において、定数a、定数b、定数c、定数d、定数nは、例えば、実験(予備実験)により事前に求められてもよいし、シミュレーションにより事前に求められてもよい。実験で求める場合、実際にタイヤ1に荷重が作用された状態でそのタイヤ1を走行(転動)させ、そのときの摩擦エネルギーを所定の計測装置で計測することにより、荷重補正関数を設定してもよい。シミュレーションで求める場合、所定の荷重条件及び走行条件に基づいて摩擦エネルギーを求めて、荷重補正関数を設定してもよい。その荷重と摩擦エネルギーとの複数の関係を求めることによって、定数a、定数b、定数c、定数d、定数nを求めることができる。
【0286】
なお、車両の違い、グレードの違い、及び積載量の違いなどによって車重が変化する場合、荷重に比例して前後力及び横力が変化する条件に関する荷重補正関数を用いることが好ましい。
【0287】
車両が走行時の旋回及び加減速によってタイヤ荷重が変化する場合、前後力及び横力が一定の条件に関する荷重補正関数を用いることが好ましい。
【0288】
第1の荷重補正関数に冪関数を使用する場合、冪係数nは、0.5以上2.0以下が好ましく、0.7以上1.4以下がより好ましい。
【0289】
第2の荷重補正関数に冪関数を使用する場合、冪係数nは、−1.5以上−0.2以下が好ましく、−1.3以上−0.6以下がより好ましい。
【0290】
タイヤ1に作用する荷重の影響をそれぞれ適切に考慮することによって、精度良くタイヤ摩耗性能を予測することができる。
【0291】
なお、初期荷重と、車両の静止時にタイヤ1に作用する荷重とが実質的にほぼ同じ場合、第1の荷重補正摩擦エネルギーを求める手順は省略してもよい。
【0292】
上述の第9実施形態又は第10実施形態に従って、タイヤ1に作用する前後力及び横力の2次元頻度分布、又は、車両に作用する前後加速度及び横加速度の2次元頻度分布が設定される。
【0293】
本実施形態においては、その2次元頻度分布の各水準に、タイヤ1に作用する荷重が対応付けられる。
【0294】
次に、2次元頻度分布の各水準において、初期荷重に基づいて、第1の近似関数及び第2の近似関数のタイヤ特性パラメータが設定される。タイヤ特性パラメータは、接地長、接地幅、接地面積、旋回スティフネス、及び制駆動スティフネスの少なくとも一つを含む。
【0295】
そのタイヤ特性パラメータに基づいて、せん断応力に関する近似関数及びすべり量に関する近似関数が設定される。
【0296】
次に、上述の第9実施形態又は第10実施形態に従って、2次元頻度分布の各水準に対応付けた前後力及び横力とせん断応力に関する近似関数とに基づいて、すべり域の平均せん断応力が求められる(ステップSE8、ステップSF9参照)。
【0297】
また、上述の第9実施形態又は第10実施形態に従って、2次元頻度分布の各水準に対応付けた前後力及び横力とすべり量に関する近似関数とに基づいて、すべり域のすべり量が求められる(ステップSE9、ステップSF10参照)。
【0298】
次に、平均せん断応力とすべり量とに基づいて、摩擦エネルギーが求められる(ステップSE10、ステップSF11参照)。
【0299】
摩擦エネルギーが求められた後、解析部52は、車両の静止時においてタイヤ1に作用する荷重と第1の荷重補正関数とに基づいて摩擦エネルギーを補正して、接地面10における第1の荷重補正摩擦エネルギーを求める。摩擦エネルギーは、タイヤ1に作用する荷重の関数であり、タイヤ1に作用する荷重に応じて変化する数値である。タイヤ1に作用する荷重は、タイヤ1が装着される車両の重量(車重)に応じて変化する。解析部52は、静止時においてタイヤ1に作用する荷重が想定され、その想定された荷重と第1の荷重補正関数とに基づいて摩擦エネルギーを補正して、第1の荷重補正摩擦エネルギーを求める。
【0300】
本実施形態においては、2次元頻度分布の前後力及び横力に対応付けて、第1の荷重補正摩擦エネルギーが算出される。
【0301】
次に、解析部52は、車両の走行時においてタイヤ1に作用する荷重と第2の荷重補正関数とに基づいて第1の荷重補正摩擦エネルギーを補正して、接地面10における第2の荷重補正摩擦エネルギーを求める。摩擦エネルギーは、タイヤ1に作用する荷重の関数であり、タイヤ1に作用する荷重に応じて変化する数値である。タイヤ1に作用する荷重は、タイヤ1が装着される車両の走行条件に応じて変化する。解析部52は、走行時においてタイヤ1に作用する荷重が想定され、その想定された荷重と第2の荷重補正関数とに基づいて第1の荷重補正摩擦エネルギーを補正して、第2の荷重補正摩擦エネルギーを求める。
【0302】
本実施形態においては、2次元頻度分布の前後力及び横力に対応付けて、第2の荷重補正摩擦エネルギーが算出される。
【0303】
初期荷重における摩擦エネルギーをEとした場合、第1の荷重補正摩擦エネルギーE’及び第2の荷重補正摩擦エネルギーE”は、以下の(54)式及び(55)式で表される。
【0306】
第2の荷重補正摩擦エネルギーが求められた後、解析部52は、第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積算値に基づいて、頻度平均摩擦エネルギーを求める(ステップSE13、ステップSF14参照)。
【0307】
解析部52は、第2の荷重補正摩擦エネルギーを使って求めた頻度平均摩擦エネルギーに基づいて、タイヤ1の摩耗を予測する(ステップSE14、ステップSF15参照)。
【0308】
以上説明したように、本実施形態によれば、車両静止時の荷重と、車両走行時の旋回及び制駆動によって変化する荷重とに基づく影響をそれぞれ考慮することによって、より精度良くタイヤ摩耗性能を予測することができる。
【0309】
<第12実施形態>
第12実施形態について説明する。第12実施形態は、上述の第9実施形態又は第10実施形態の変形例である。
【0310】
本実施形態においては、せん断応力に関する近似関数及びすべり量に関する近似関数のタイヤ特性パラメータを、荷重を変数とする関数として設定する。タイヤ特性パラメータは、接地長、接地幅、接地面積、旋回スティフネス、及び制駆動スティフネスの少なくとも一つを含む。荷重が変数である第1の近似関数及び第2の近似関数の例を(56A)式から(56E)式に示す。
【0311】
(56A)式は、第1の近似関数及び第2の近似関数が、1次関数の例を示す。(56B)式は、第1の近似関数及び第2の近似関数が、4次関数の例を示す。(56C)式は、第1の近似関数及び第2の近似関数が、冪関数の例を示す。(56D)式は、第1の近似関数及び第2の近似関数が、指数関数の例を示す。(56E)式は、第1の近似関数及び第2の近似関数が、三角関数と冪関数とを組み合わせた関数の例を示す。
【0313】
上述の第9実施形態又は第10実施形態に従って、タイヤ1に作用する前後力及び横力の2次元頻度分布、又は、車両に作用する前後加速度及び横加速度の2次元頻度分布が設定される。
【0314】
本実施形態においては、その2次元頻度分布の各水準に、タイヤ1に作用する荷重が対応付けられる。
【0315】
解析部52は、2次元頻度分布の各水準において、水準に対応付けた荷重に基づいて、第1の近似関数及び第2の近似関数のタイヤ特性パラメータを決定し、タイヤ特性パラメータに基づいて、第1の近似関数及び第2の近似関数を設定する。
【0316】
第1の近似関数及び第2の近似関数が設定された後、解析部52は、上述の第9実施形態又は第10実施形態に従って、前後力及び横力と第1の近似関数とに基づいて、すべり域の平均せん断応力を求める(ステップSE8、ステップSF9参照)。
【0317】
また、解析部52は、上述の第9実施形態又は第10実施形態に従って、前後力及び横力と第2の近似関数とに基づいて、すべり域のすべり量を求める(ステップSE9、ステップSF10参照)。
【0318】
次に、解析部52は、平均せん断応力とすべり量とに基づいて、摩擦エネルギーを求める(ステップSE10、ステップSF11参照)。
【0319】
次に、解析部52は、摩擦エネルギーと頻度との積算値に基づいて、頻度平均摩擦エネルギーを求める(ステップSE13、ステップSF14参照)。
【0320】
次に、解析部52は、頻度平均摩擦エネルギーに基づいて、タイヤ1の摩耗を予測する(ステップSE14、ステップSF15参照)。
【0321】
以上説明したように、本実施形態によれば、タイヤ特性パラメータの荷重依存性を考慮し、走行時の荷重におけるタイヤ特性パラメータ値に基づいて摩擦エネルギーの荷重依存性を直接的に考慮するため、摩耗予測精度がより向上する。
【0322】
<第13実施形態>
第13実施形態について説明する。本実施形態においては、タイヤ1の半径(動的負荷半径)と、トレッドゴム6の単位摩擦エネルギー当たりの摩耗量と、求めた摩擦エネルギーとに基づいて、単位走行距離当たりのトレッドゴム6の摩耗量を求める手順と、求めたトレッドゴム6の摩耗量に基づいて、タイヤ1(トレッドゴム6)の摩耗を予測する手順と、が実行される。タイヤ1の半径は、タイヤ1が1回転した際に転動した距離を2πで除した転がり半径である。
【0323】
図30は、半径が大きいタイヤ1Pと半径が小さいタイヤ1Qとが転動している状態を示す模式図である。タイヤ1(トレッドゴム6)は、路面と接触することによって摩耗する。タイヤ1Pとタイヤ1Qとが等しい距離を走行する場合、半径が小さいタイヤ1Qは、半径が大きいタイヤ1Pよりも、より多く転がり、路面と接触する機会が多い。そのため、半径が大きいタイヤ1Pよりも、半径が小さいタイヤ1Qのほうが摩耗しやすい。そこで、タイヤ1の半径と、トレッドゴム6の単位摩擦エネルギー当たりの摩耗量と、求めた摩擦エネルギーとに基づいて、単位走行距離当たりのトレッドゴム6の摩耗量を求めることができる。トレッドゴム6の単位摩擦エネルギー当たりの摩耗量は、トレッドゴム6の材料特性(耐摩耗物性)に依存する。求めた単位走行距離当たりのトレッドゴム6の摩耗量に基づいて、タイヤ1(トレッドゴム6)の摩耗が予測される。
【0324】
本実施形態によれば、トレッドゴム6の耐摩耗物性に加えて、タイヤ1の半径(動的負荷半径)の影響を考慮することで、単位走行距離当たりのタイヤ1の回転数の違いを考慮して、タイヤ1の摩耗をより精度良く予測することができる。
【0325】
なお、上述の各実施形態において、単位走行距離当たりのトレッドゴム6の摩耗量と有効溝深さとに基づいて、タイヤ1の摩耗寿命を予測してもよい。
【0326】
<第14実施形態>
第14実施形態について説明する。上述の実施形態において、タイヤ1が装着される車両の右輪及びの左輪それぞれについてタイヤ1の摩耗を予測する手順と、右輪のタイヤ1の摩耗と左輪のタイヤ1の摩耗との平均摩耗を予測する手順と、を含むようにしてもよい。
【0327】
本実施形態によれば、走行条件による右輪と左輪の違いと、路面のカントや車両のアライメントによる右輪と左輪の違いに加えて、これらの違いによる右輪と左輪の荷重の違いを考慮し、平均することで、右輪と左輪の違いを考慮した平均的なタイヤ1の摩耗予測が可能になる。
【0328】
<第15実施形態>
第15実施形態について説明する。上述の各実施形態において、タイヤ1が装着される車両の前輪及び後輪のそれぞれについてタイヤ1の摩耗を予測する手順と、前輪のタイヤ1の摩耗と後輪のタイヤ1の摩耗との平均摩耗、及び前輪のタイヤ1の摩耗と後輪のタイヤ1の摩耗との摩耗比の一方又は両方を予測する手順と、を含むようにしてもよい。
【0329】
本実施形態によれば、車両や走行条件による前輪と後輪の違いと、これらの違いによる前輪と後輪の荷重の違いを考慮することにより、ローテーション時のタイヤ摩耗、及び前輪と後輪の摩耗比を精度良く予測することができる。
【0330】
なお、上述の各実施形態において、タイヤ1の摩耗予測は、コンピュータが行うこととした。本実施形態に係るタイヤ1の摩耗予測方法の全部がコンピュータによって行われてもよいし、一部がコンピュータによって行われ、一部が手動で行われてもよいし、全部が手動によって行われてもよい。
【0331】
<実施例>
次に、本発明に係る実施例について説明する。本発明者は、実際のタイヤについて走行試験を行うとともに、上述の実施形態に従ってタイヤ1の摩耗予測を行い、実際のタイヤ1の摩耗状態と摩耗予測とを比較した。
【0332】
走行試験は、排気量1.3LのFF車を試験車両とし、その試験車両に試験タイヤを装着して、走行モードが異なる3種類のテストコースをそれぞれ8000km走行した。
【0333】
テストコース1は、制駆動主体のコースである。テストコース2は、旋回主体のコースである。テストコース3は、制駆動と旋回との混合コースである。
【0334】
試験は、駆動輪(前輪)の主溝の摩耗量と有効溝深さから左右輪の平均摩耗寿命を求めて、それぞれ基準タイヤを100とした指数を比較した。指数が大きいほど、摩耗寿命が長いことを示す。
【0335】
図31及び
図32に比較結果を示す。
図31は、比較例(従来例)を示す。
図31において、横軸は、実際のタイヤを使った走行試験から得られた摩耗量を示す。縦軸は、従来例における摩耗量の予測値である。従来例においては、車両走行時の前後加速度頻度分布と横加速度頻度分布それぞれの各水準について、タイヤに作用する前後力と横力を対応付けて、頻度分布の各水準にて摩擦エネルギーを算出して、前後方向の頻度平均摩擦エネルギーと横方向の頻度平均摩擦エネルギーから平均摩擦エネルギーを求めて、摩耗量を予測した。
【0336】
図32は、本発明に係る実施例を示す。
図32において、横軸は、実際のタイヤを使った走行試験から得られた摩耗量を示す。縦軸は、本発明の実施例における摩耗量の予測値である。車両走行時の前後加速度と横加速度の2次元頻度分布の各水準について、タイヤに作用する前後力と横力を対応付けて、2次元頻度分布の各水準にて摩擦エネルギーを算出して、頻度平均摩擦エネルギーより摩耗量を予測した。
【0337】
図31及び
図32において、「○」は、テストコース1についての結果を示し、「◇」は、テストコース2についての結果を示し、「△」は、テストコース3についての結果を示す。
【0338】
走行試験から得られた摩耗寿命(摩耗量)と、摩耗予測方法に基づいて予測した摩耗寿命(摩耗量)との差が小さいほど、実際の摩耗試験結果と摩耗予測結果とが一致していることになる。図を分かり易くするために、
図31及び
図32のグラフにおいてy=xを示すラインを併記した。「○」、「◇」、「△」のそれぞれがy=xを示すラインの近くに配置されるほど、実際の摩耗試験結果と摩耗予測結果とが一致していることになる。
【0339】
図31に示すように、従来例は、テストコース3における摩耗寿命が実車よりも長めなのに対して、
図32に示すように、実施例ではテストコース3についても、実車との相関が向上した。