(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。以下の実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
【0016】
[1.全体構成]
本実施形態に係る車両の制御装置について、
図1〜
図4を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係る制御装置を備えた車両の模式的なブロック構成図である。
図1に示すように、車両1は、前輪2fを駆動するフロントモータ3f(電動機,駆動源)と、後輪2rを駆動するリヤモータ3r(電動機,駆動源)とを備え、前輪2f及び後輪2rを独立して駆動可能な電気自動車(電動車両)である。
【0017】
前後のモータ3f,3rは、例えば三相同期電動機や三相誘導電動機などの力行運転と回生運転とが可能な電動発電機である。フロントモータ3fは、駆動用バッテリ9に蓄えられた電力が前側のインバータ5fにて直流から交流に変換された後、供給されることで駆動する。リヤモータ3rも同様に、駆動用バッテリ9に蓄えられた電力が後側のインバータ5rにて直流から交流に変換された後、供給されることで駆動する。また、前後のモータ3f,3rは、前輪2f及び後輪2rの回転によって回生駆動し(回生制動力を発生させ)、発電した電力を駆動用バッテリ9に蓄電する。
【0018】
フロントモータ3fと前輪2f用の駆動軸6fとの間には、フロントモータ3fの駆動トルクを左右の前輪2fに分配するトランスアクスル4fが介装される。同様に、リヤモータ3rと後輪2r用の駆動軸6rとの間にも、リヤモータ3rの駆動トルクを左右の後輪2rに分配するトランスアクスル4rが介装される。また、左右の前輪2f及び後輪2rには、それぞれブレーキ装置7f,7rが設けられる。また、車両1には、これらブレーキ装置7f,7rを制御するブレーキコントローラと、このブレーキコントローラからの指令に基づいてブレーキ装置7f,7rのそれぞれに対して独立して油圧を供給する制動系の油圧ユニット(何れも図示略)とが設けられる。
【0019】
前輪2f及び後輪2rは、それぞれ前側のサスペンション8f及び後側のサスペンション8rにより独立して車両1に支持される。サスペンション8f,8rは、車体重量を支持すると共に、走行時の前輪2f及び後輪2rの上下振動を吸収して緩和させ、振動が直接車体に伝達されることを防ぐ懸架装置である。サスペンション8f,8rは、前輪2f及び後輪2rの上下振動に対して適当な軟らかさを有する弾性要素としてのばね8fs,8rs(
図4参照)と、適度の振動減衰要素としてのショックアブソーバ(図示略)と、リンク類とを備えて構成される。
【0020】
図4に示すように、車両1を側面から見たときに、前側のサスペンション8fの瞬間回転中心Cf及び後側のサスペンション8rの瞬間回転中心Crは、前後方向では前輪2fのホイールセンタ2fcと後輪2rのホイールセンタ2rcとの間に位置する。ここでいう瞬間回転中心Cf,Crとは、車両1の側面視において、前輪2f及び後輪2rのその瞬間における動きの中心点(仮想点)を意味する。なお、瞬間回転中心Cf,Crとホイールセンタ2fc,2frとをそれぞれ結んだ線Lf,Lrは、懸架装置8f,8rの仮想リンクを示す。
【0021】
車両1の加減速時には、前輪2f及び後輪2rに駆動力(駆動トルク)又は回生制動力(回生トルク)が発生し、これにより車体重心Gを通り左右方向に延びる軸(いわゆるY軸)回りにピッチングモーメントが発生する。サスペンション8f,8rは、このモーメントを打ち消す方向のモーメントが発生するように、前輪2f及び後輪2rに上下力を発生させるジオメトリーに設定されている。前輪2f及び後輪2rにはそれぞれ下向きの力(荷重,重力)が作用しているため、駆動力又は回生制動力によって発生する上下力は、もともと前輪2f及び後輪2rに作用している荷重に対して加算又は減算される。
【0022】
図4は車両1の左側面視を模式的に示したもので、
図4中に太実線で示す矢印は加速時に発生する力を示し、太破線で示す矢印は減速時に発生する力を示す。加速の場合、前輪2fに駆動力Fxf,後輪2rに駆動力Fxrがそれぞれ発生する。これにより、車両1にはY軸回りにピッチングモーメントが発生するが、サスペンション8f,8rによって、前輪2fには下向きの力Fzf,後輪2rには上向きの力Fzrがそれぞれ発生し、ピッチングモーメントが抑制される。
【0023】
これに対して、減速の場合、前輪2fに回生制動力Rxf,後輪2rに回生制動力Rxrがそれぞれ発生する。これにより車両1には加速時と反対方向にY軸回りのピッチングモーメントが発生するが、サスペンション8f,8rによって、前輪2fには上向きの力Rzf,後輪2rには下向きの力Rzrがそれぞれ発生し、ピッチングモーメントが抑制される。
【0024】
図1に示すように、車両1には、車両1の車速Vを検出する車速センサ13と、車両1の横加速度Ay
Dを検出する横加速度センサ14と、ドライバによるステアリングホイール10の操作量(以下、操舵角θsという)を検出する舵角センサ15とが設けられる。また、ドライバによるアクセルペダル11の踏み込み量(運転操作,以下、アクセル開度APという)を検出するアクセル開度センサ16と、ドライバによるブレーキペダル12の操作(運転操作,以下、ブレーキ操作という)の有無を検出するブレーキスイッチ(センサ)17とが設けられる。これら各センサ13〜17での検出結果(センサ値)は、後述のECU20に伝達される。
【0025】
横加速度センサ14で検出される横加速度Ay
D(以下、実横加速度Ay
Dという)は、車両1の進行方向の変化に対応し、車両1の旋回時では実横加速度Ay
Dは大きくなり、略直進している時では実横加速度Ay
Dは小さくなる。操舵角θsは、ステアリング操作方向に対応する。アクセル開度APはドライバの要求する出力の大きさに対応し、ブレーキ操作はドライバの要求する制動力の大きさに対応する。つまり、ドライバの要求出力が大きい場合(加速要求がある場合)にアクセル開度APは大きくなり、ドライバの要求出力が小さい場合(定常走行や減速要求がある場合)にアクセル開度APは小さくなる。また、ドライバの減速要求がある場合にブレーキ操作される。
【0026】
車両1には、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成されたECU20(制御装置,Electronic Control Unit)が設けられる。ECU20は、車両1に搭載される各種装置を統合制御する電子制御装置であり、車両1に設けられた車載ネットワークの通信ラインに接続される。本実施形態では、車両1の加減速時におけるピッチング挙動を抑制するための駆動トルク制御について説明する。
【0027】
[2.制御構成]
駆動トルク制御とは、車両1の加減速時に、ピッチング挙動の出始めに合わせて前輪2fに与える駆動トルクと後輪2rに与える駆動トルクとの配分を変更し、ピッチングを抑制する制御である。なお、ここでいう駆動トルクには、負の駆動トルク、すなわち回生トルクが含まれる。以下、単に駆動トルクという場合は、正の駆動トルクと負の駆動トルク(回生トルク)との両方を意味する。
【0028】
ECU20には、上記のような駆動トルク制御を実施するための機能要素として、
図1〜
図3に示すように、演算部21及び駆動トルク制御部22が設けられる。さらに駆動トルク制御部22には、駆動トルク配分部23,旋回判定部24,駆動回生判定部25及びトルク指令部26が設けられる。これらの各要素は電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、ソフトウェアとしてプログラミングされたものとしてもよいし、あるいはこれらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。
【0029】
演算部21は、ドライバの運転操作に基づいて車両1に要求されている駆動力の目標値である目標駆動力P
Tを演算し、この目標駆動力P
Tから前後のモータ3f,3rに発生させるべき駆動トルク(すなわち、フロントモータ3fの要求トルクTf
R及びリヤモータ3rの要求トルクTr
R)をそれぞれ演算するものである。なお、ここで演算される目標駆動力P
Tにも、車両1を駆動するための正の目標駆動力P
Tに加えて、車両1を制動する(車両1にブレーキをかける)ための負の目標駆動力P
Tが含まれる。負の目標駆動力P
Tは、回生制動力の目標値に相当する。以下、単に目標駆動力P
Tという場合は、正負両方の目標駆動力P
Tを意味する。
【0030】
図3に示すように、演算部21は、アクセル開度AP(アクセルペダル操作),ブレーキペダル操作,車速V,外部負荷等に基づいて目標駆動力P
Tを演算し、目標駆動力P
Tから全体の要求トルクT
R(目標駆動トルク、以下、総要求トルクT
Rという)を演算し、総要求トルクT
Rを満たすように前後のモータ3f,3rの要求トルクTf
R,Tr
Rをそれぞれ演算する(すなわち、T
R=Tf
R+Tr
R)。ここで、目標駆動力P
Tが負の値の場合は、各要求トルクT
R,Tf
R,Tr
Rは負の駆動トルク(すなわち回生トルク)となる。
【0031】
演算部21で演算されたフロントモータ3fの要求トルクTf
Rは前輪2fに与える駆動トルクに対応し、リヤモータ3rの要求トルクTr
Rは後輪2rに与える駆動トルクに対応する。つまり、演算部21は、前輪2fに与える駆動トルクと後輪2rに与える駆動トルクとの配分(以下、駆動トルク配分という)を、ドライバの運転操作に応じて決定するものであるともいえる。演算部21は、前後のモータ3f,3rの要求トルクTf
R,Tr
R及び総要求トルクT
Rを駆動トルク制御部22へ伝達する。
【0032】
駆動トルク制御部22は、所定条件が成立した場合に、演算部21で演算された総要求トルクT
Rの微分値に応じて、演算部21で決定された駆動トルク配分を変更してピッチングを抑制するものである。上記したように、サスペンション8f,8rのジオメトリーは、ピッチングの発生を抑制するように設定されているが、他の制約(配置やばね定数など)によって完全にピッチングが発生しないように設定することは難しい。そのため、駆動トルク制御部22は、駆動トルクによって前輪2f及び後輪2rに発生する上下力を利用してピッチングを抑制すべく、ピッチングを抑制する方向に上下力が発生するように駆動トルク配分を変更する。
【0033】
例えば、駆動トルク制御部22は、加速時に前輪2fが上昇する方向のピッチングを抑制するためには、前輪2fにより大きな下方向の力が発生するように前輪2fの正の駆動トルクを大きくし、その分後輪2rの正の駆動トルクを小さくするように駆動トルク配分を変更する。なお、上記の所定条件とは、車両1が略直進走行している(大きく旋回していない)ことである。すなわち、車両1がカーブを旋回するコーナリング時や右左折時など、車両1の進行方向が変化する状況において駆動トルク配分を変更することは、車両1のヨー方向の運動に影響を及ぼしかねないため、この状況では駆動トルク配分の変更を禁止し、車両1が略直進走行している場合に限って駆動トルク配分を変更する。
【0034】
駆動トルク配分部23は、
図3及び以下の式(1)に示すように、演算部21で演算された総要求トルクT
Rを時間で一回微分し、所定のゲインK(所定係数)を乗算した値をトルクの仮配分変更量DT(配分変更量)として算出するものである。なお、ゲインKは予め設定された正の値である。駆動トルク配分部23は、算出した仮配分変更量DTをトルク指令部26へ伝達する。トルク指令部26へ伝達された仮配分変更量DTは、旋回判定部24及び駆動回生判定部25の判定結果に応じて、前後のモータ3f,3rの要求トルクTf
R,Tr
Rに加減算される。
【0036】
トルクの仮配分変更量DTを算出するために総要求トルクT
Rの微分値を用いるのは、総要求トルクT
R(または目標駆動力P
T)の変化を捉えるためである。つまり、総要求トルクT
Rが変化したタイミングに合わせて前後のモータ3f,3rの要求トルクTf
R,Tr
Rを変更する(すなわち駆動トルク配分を変更する)ことで、ピッチング挙動の出始めに合わせて前輪2f及び後輪2rに上下力を発生させ、ピッチングのフィーリングを向上させる。
【0037】
旋回判定部24は、上記の所定条件の成否を判定するものであり、所定条件の成否に応じて0から1までの範囲の値をゲインGaとして出力するものである。ここで出力されるゲインGaは後述のトルク指令部26において仮配分変更量DTに乗算されるものであり、ゲインGa=0の場合は駆動トルク配分の変更が無効になる(変更が禁止される)。
【0038】
図3に示すように、旋回判定部24は、車速センサ13で検出された車速Vと舵角センサ15で検出された操舵角θsとを車両特性マップ24aに適用し、横加速度Ay
Eを推定する。次いで、処理部24bにおいて、推定した横加速度Ay
E(以下、推定横加速度Ay
Eという)の絶対値と横加速度センサ14で検出された実横加速度Ay
Dの絶対値とのうち大きい方の値を選択横加速度Ayとして選択し、この選択横加速度Ayをゲインマップ24cに入力する入力値とする。そして、ゲインマップ24cに選択横加速度Ayを入力し、選択横加速度Ayに応じたゲインGaを設定する。
【0039】
車両特性マップ24aは、車速Vと操舵角θsと推定横加速度Ay
Eとの関係が予め設定されたマップである。なお、車両特性マップ24aを用いる代わりに、検出した車速V及び操舵角θsと車両諸元とによって推定横加速度Ay
Eを演算してもよい。ゲインマップ24cは、横軸に選択横加速度Ay,縦軸にゲインGaが設定されたマップである。ゲインマップ24cは、選択横加速度Ayが0以上かつ第一所定値Ay
1未満の範囲ではゲインGaが1に設定され、選択横加速度Ayが第一所定値Ay
1よりも大きい第二所定値Ay
2以上の範囲ではゲインGaが0に設定されている。また、選択横加速度Ayが第一所定値Ay
1以上かつ第二所定値Ay
2未満の範囲では、選択横加速度Ayが大きくなるに連れてゲインGaが1から0に近づくように設定されている。
【0040】
旋回判定部24は、このように設定されたゲインマップ24cを用いることで、選択横加速度Ayが第一所定値Ay
1よりも小さい場合は、車両1が大きく旋回していない(所定条件を満たす)ものと判定し、ゲインGaを1に設定する。すなわち、選択横加速度Ayが第一所定値Ay
1よりも小さい場合は、ゲインGaを1に維持する不感帯を設定する。また、旋回判定部24は、選択横加速度Ayが第二所定値Ay
2(所定値,所定横加速度)以上の場合は、車両1が旋回中である(所定条件を満たさない)と判断し、ゲインGaを0に設定する。
【0041】
なお、選択横加速度Ayが第一所定値Ay
1以上で第二所定値Ay
2未満の場合は、選択横加速度Ayが大きくなるほどゲインGaを0に近い値に設定する(すなわち、選択横加速度Ayの増加に応じて仮配分変更量DTの影響力を徐々に減少させるようにゲインGaを設定する)ことで、駆動トルク配分の変更を徐々に無効化する。このように設定することで、ステアリング操作に応じて駆動トルクの仮配分変更量DTの影響力が徐々に減少するので、例えば操舵角θsの変化に対する前後輪の急激なトルク変化を抑制することができる。旋回判定部24は、設定したゲインGaをトルク指令部26へ伝達する。
【0042】
駆動回生判定部25は、アクセル開度APと総要求トルクT
Rの符号とに基づいて、前後のモータ3f,3rが駆動状態か回生状態かを判定するものである。駆動回生判定部25は、モータ3f,3rの作動状態に応じて0か1か-1の何れかの値をゲインGbとして出力するものである。ここで出力されるゲインGbは後述のトルク指令部26において、仮配分変更量DTとゲインGaとの乗算値に乗算されるものである、ゲインGb=0の場合は駆動トルク配分の変更が無効になる(変更が禁止される)。
【0043】
駆動回生判定部25による判定は、駆動トルク配分部23で算出された仮配分変更量DTを前輪2f側に加算するのか、後輪2r側に加算するのかを決定するためのものである。駆動トルク配分は、総要求トルクT
Rの微分値に応じて変更されるが、駆動時と回生時とではピッチングの方向が逆転するため、モータ3f,3rの作動状態に応じたゲインGbを出力することで、トルクの配分変更方向を変更する。なお、ここではリヤからフロントへのトルク配分変更を正方向とする。
【0044】
図3に示すように、駆動回生判定部25は、二つのスイッチ25a,25bを有する。スイッチ25aは、入力されるアクセル開度APが0よりも大きい場合(アクセルオンの場合)は1を出力し、アクセル開度APが0の場合(アクセルオフの場合)は-1を出力する。また、スイッチ25bは、入力される総要求トルクT
Rの符号が正の場合は1を出力し、総要求トルクT
Rの符号が負の場合は-1を出力する。そして、駆動回生判定部25は、二つのスイッチ25a,25bからの出力値を加算した値に0.5を乗算した値をゲインGbとして設定する。
【0045】
したがって、駆動回生判定部25は、アクセルオン且つ総要求トルクT
Rの符号が正の場合は、モータ3f,3rが駆動状態であると判定してゲインGbを1に設定する。また、アクセルオフ且つ総要求トルクT
Rの符号が負の場合は、モータ3f,3rが回生状態であると判定してゲインGbを-1に設定する。そして、これら以外の場合、すなわちアクセルオン且つ総要求トルクT
Rの符号が負の場合、及び、アクセルオフ且つ総要求トルクT
Rの符号が正の場合は、ゲインGbを0に設定する。駆動回生判定部25は、設定したゲインGbをトルク指令部26へ伝達する。
【0046】
トルク指令部26は、駆動トルク配分部23,旋回判定部24及び駆動回生判定部25から伝達された各情報に基づいて、前後のモータ3f,3rに指示する指示トルクTf,Tr(トルク指令値)を設定して出力するものである。
図3に示すように、トルク指令部26は、まず仮配分変更量DTとゲインGaとを乗算し、この乗算値にさらにゲインGbを乗算してトルク配分変更量ΔTを算出する。このトルク配分変更量ΔTは、選択横加速度Ayに応じた配分変更量である。
【0047】
そして、フロントモータ3fについては、トルク配分変更量ΔTと要求トルクTf
Rとを加算した値を指示トルクTfとして設定する。一方、リヤモータ3rについては、トルク配分変更量ΔTに-1を乗算して、これに要求トルクTr
Rを加算した値を指示トルクTrとして設定する。トルク指令部26は、設定した前後の指示トルクTf,Trを前後のモータ3f,3rへ指示し、モータ3f,3rを制御する。
【0048】
したがって、トルク配分変更量ΔTが正の場合(すなわち、微分値>0且つゲインGb>0、及び、微分値<0且つゲインGb<0の場合)は、リヤからフロントへΔTだけ駆動トルクが配分変更されるため、フロントモータ3fの駆動トルクが増大する。そのため、モータ3f,3rが駆動状態の場合(総要求トルクT
R>0の場合)は、前輪2fの正の駆動トルクが増大し、後輪2rの正の駆動トルクが減少する。一方、モータ3f,3rが回生状態の場合(総要求トルクT
R<0の場合)は、前輪2fの負の駆動トルク(回生トルク)が減少し、後輪2rの負の駆動トルク(回生トルク)が増大する。つまりこの場合は、トルク(駆動トルク)の配分変更方向はリヤからフロントであるが、トルク(回生トルク)の絶対値としてはリヤが増大することとなる。
【0049】
また、トルク配分変更量ΔTが負の場合(すなわち、微分値>0且つゲインGb<0、及び、微分値<0且つゲインGb>0の場合)は、フロントからリヤへΔTだけ駆動トルクが配分変更されるため、リヤモータ3rの駆動トルクが増大する。そのため、モータ3f,3rが駆動状態の場合(総要求トルクT
R>0の場合)は、前輪2fの正の駆動トルクが減少し、後輪2rの正の駆動トルクが増大する。一方、モータ3f,3rが回生状態の場合(総要求トルクT
R<0の場合)は、前輪2fの負の駆動トルク(回生トルク)が増大し、後輪2rの負の駆動トルク(回生トルク)が減少する。つまりこの場合は、トルク(駆動トルク)の配分変更方向はフロントからリヤであるが、トルク(回生トルク)の絶対値としてはフロントが増大することとなる。
【0050】
トルク配分変更量ΔTが正の場合も負の場合も、トルク配分変更を行った場合の総要求トルクT
Rは、トルク配分変更を行わなかった場合の総要求トルクT
Rと同等である。したがって、トルク配分変更を行った際の車速は、トルク配分変更を行わなかった際の車速と同等になる。
【0051】
以上の内容をまとめたものが以下の表1である。表1は、総要求トルクT
Rの符号及びアクセル操作に基づくゲインGbと総要求トルクT
Rの微分値とに応じた四つの走行状態A〜Dの場合に、駆動トルク制御部22によって実施される制御内容を示す。なお、表1では、ゲインGaは0ではない(トルク配分変更量ΔTは0にはならない)場合を示している。また、表1中の「F」はフロント,「R」はリヤを表し、トルク配分変更量ΔTがプラスの欄は、リヤからフロントへ駆動トルクが配分変更され、マイナスの欄はフロントからリヤへ駆動トルクが配分変更されることを意味する。また、「回生トルク」は負の駆動トルクに対応する。
【0052】
走行状態Aは、総要求トルクT
Rの符号が正であってアクセル操作があり(すなわちゲインGb>0)、且つ、微分値が正の値である状態を示し、トルク配分変更量ΔTは正の値となるため、リヤからフロントへ駆動トルクが配分変更される。走行状態Bは、総要求トルクT
Rの符号が正であってアクセル操作があり(すなわちゲインGb>0)、且つ、微分値が負の値である状態を示し、トルク配分変更量ΔTは負の値となるため、フロントからリヤへ駆動トルクが配分変更される。
【0053】
走行状態Cは、総要求トルクT
Rの符号が負であってアクセル操作がなく(すなわちゲインGb<0)、且つ、微分値が負の値である状態を示し、トルク配分変更量ΔTは正の値となるため、リヤからフロントへ駆動トルクが配分変更される。走行状態Dは、総要求トルクT
Rの符号が負であってアクセル操作がなく(すなわちゲインGb>0)、且つ、微分値が正の値である状態を示し、トルク配分変更量ΔTは負の値となるため、フロントからリヤへ駆動トルクが配分変更される。
【表1】
【0054】
[3.フローチャート]
図5は、駆動トルク制御の手順の一例を説明するためのフローチャートである。このフローチャートは、ECU20の電源がオンのときに所定の演算周期で繰り返し実施される。
図5に示すように、ステップS10では、各種センサ13〜17で検出された各種情報がECU20に入力される。ステップS20では、演算部21において目標駆動力P
Tが演算され、この目標駆動力P
Tに基づいて総要求トルクT
Rと前後のモータ3f,3rの要求トルクTf
R,Tr
Rとが演算される。
【0055】
ステップS30では、駆動トルク配分部23において、トルクの仮配分変更量DTが、前ステップで演算された総要求トルクT
Rを一回時間微分したものにゲインKを乗算した値として算出される。続くステップS40では、旋回判定部24において所定条件が成立しているか否かが判定される(車両1の旋回判定が行われる)。ここでは、実横加速度Ay
Dの絶対値と推定横加速度Ay
Eの絶対値のうち大きい方の値が選択横加速度Ayとして選択され、この選択横加速度Ayが第一所定値Ay
1,第二所定値Ay
2と比較されて、選択横加速度Ayに応じたゲインGaが出力される。ゲインGaが0でない場合は旋回中でない(略直進している)ため、ステップS50に進み、ゲインGaが0の場合は旋回中であるため、このフローチャートをリターンする。
【0056】
ステップS50では、駆動回生判定部25において、モータ3f,3rが駆動状態又は回生状態であるか否かが判定される。ここでは、アクセルオン且つ総要求トルクT
Rの符号が正の場合は駆動状態であると判定され、アクセルオフ且つ総要求トルクT
Rの符号が負の場合は回生状態であると判定される。何れかの状態である場合はステップS60へ進み、何れの状態でもない場合はこのフローチャートをリターンする。
【0057】
ステップS60では、トルク指令部26において、駆動トルク配分部23で算出された仮配分変更量DTに、旋回判定部24で出力されたゲインGa及び駆動回生判定部25で出力されたゲインGbが乗算された値が、トルク配分変更量ΔTとして算出される。ステップS70では、トルク指令部26において、前ステップで演算されたトルク配分変更量ΔTに応じてトルク配分変更が行われ、前後のモータ3f,3rの指示トルクTf,Trが設定されて出力される。
【0058】
[4.作用]
図6(a)〜(f)は、本制御装置による駆動トルク制御を説明するためのタイムチャートであり、上記の表1の四つの走行状態A〜Dと、ゲインGbが0に設定される走行状態とを示す。ここでは、車両1は直進走行しているものとし(ゲインGaは常に1が出力されるものとし)、演算部21は前後のモータ3f,3rの要求トルクTf
R,Tr
Rを同じ値として演算する(すなわち、総要求トルクT
Rの微分値が0であるときを基準時として、基準時での駆動トルク配分の比率を1対1とする)ものとする。例えば、トルク配分変更量ΔTが0であれば、フロントモータ3fの指示トルクTfとリヤモータ3rの指示トルクTrとは、何れも総要求トルクT
Rの半分の値となる。
【0059】
図6(a),(c)及び(d)に示すように、時刻t
0でドライバのアクセル操作が入力されると、これに伴って総要求トルクT
Rが増大するため、総要求トルクT
Rの微分値は0から増大する。アクセル操作が一定の場合、微分値は時刻t
1において総要求トルクT
Rが一定になるまで正の値となり、時刻t
1で0となる。時刻t
0からt
1までは、上記の表1の走行状態Aに対応する。つまり、アクセルオン且つ総要求トルクT
Rの符号が正のため、ゲインGbは1が出力され、これにより
図6(e)に示すように、微分値に所定のゲインK,Ga及びGbを乗算した値であるトルク配分変更量ΔTは正の値となる。
【0060】
すなわち、基準時のトルク配分からトルク配分変更量ΔTだけリヤからフロントへ駆動トルクが配分変更される(移動される)ため、
図6(f)に示すように、時刻t
0の直後から時刻t
1になるまでの間、フロントモータ3fの指示トルクTfがリヤモータ3rの指示トルクTrよりも大きく設定される。これにより、前輪2fに与える正の駆動トルクが後輪2rに与える正の駆動トルクよりも増大され、駆動状態における加速時のピッチング挙動が抑制される。
【0061】
図6(a),(c)及び(d)に示すように、時刻t
2において、アクセルオンの状態ではあるがそれまでのアクセル開度APよりも小さくなると、これに伴って総要求トルクT
Rが減少するため、総要求トルクT
Rの微分値は0から減少する。アクセル操作が一定の場合、微分値は時刻t
3において総要求トルクT
Rが一定になるまで負の値となり、時刻t
3で0となる。時刻t
2からt
3までは、上記の表1の走行状態Bに対応する。つまり、アクセルオン且つ総要求トルクT
Rの符号が正のため、ゲインGbは1が出力され、これにより
図6(e)に示すように、微分値に所定のゲインK,Ga及びGbを乗算した値であるトルク配分変更量ΔTは負の値となる。
【0062】
すなわち、基準時のトルク配分からトルク配分変更量ΔTだけリヤからフロントへ駆動トルクが配分変更される(言い換えると、トルク配分変更量ΔTの絶対値だけフロントからリヤへ駆動トルクが配分変更される)。このため、
図6(f)に示すように、時刻t
2の直後から時刻t
3になるまでの間、フロントモータ3fの指示トルクTfがリヤモータ3rの指示トルクTrよりも小さく設定される。これにより、後輪2rに与える正の駆動トルクが前輪2fに与える正の駆動トルクよりも増大され、駆動中に正の総要求トルクT
Rが減少した場合のピッチング挙動が抑制される。
【0063】
図6(a),(c)及び(d)に示すように、時刻t
4でアクセル操作が0(アクセルオフ)になると、これに伴って総要求トルクT
Rが減少するため、総要求トルクT
Rの微分値は0から減少する。アクセルオフのままの場合、微分値は時刻t
6において総要求トルクT
Rが一定になるまで負の値となり、時刻t
6で0となる。ここで、時刻t
4から総要求トルクT
Rが0になる時刻t
5までの間は、アクセルオフ且つ総要求トルクT
Rの符号が正のため、ゲインGbは0が出力される。すなわち、
図6(e)に示すように、時刻t
4からt
5までの間はトルク配分変更量ΔTが0となり、駆動トルク配分の変更が禁止される。言い換えると、駆動から回生への過渡状態では、駆動トルク配分の変更が無効化される。
【0064】
また、時刻t
5からt
6までの間は、上記の表1の走行状態Cに対応する。つまり、アクセルオフ且つ総要求トルクT
Rの符号が負のため、ゲインGbは-1が出力され、これにより
図6(e)に示すように、微分値に所定のゲインK,Ga及びGbを乗算した値であるトルク配分変更量ΔTは正の値となる。すなわち、基準時のトルク配分からトルク配分変更量ΔTだけリヤからフロントへ駆動トルクが配分変更されるため、
図6(f)に示すように、時刻t
5の直後から時刻t
6になるまでの間、フロントモータ3fの指示トルクTfがリヤモータ3rの指示トルクTrよりも大きく設定される。言い換えると、リヤモータ3rの回生トルクの方がフロントモータ3fの回生トルクよりも大きく設定される。これにより、後輪2rに与える負の駆動トルク(回生トルク)が前輪2fに与える負の駆動トルク(回生トルク)よりも増大され、回生状態における減速時のピッチング挙動が抑制される。
【0065】
図6(b),(c)及び(d)に示すように、時刻t
7でドライバのブレーキ操作が入力されると、これに伴って総要求トルクT
Rがさらに減少する(目標回生トルクが増大する)ため、総要求トルクT
Rの微分値は0から減少する。ブレーキ操作が一定の場合、微分値は時刻t
8において総要求トルクT
Rが一定になるまで負の値となり、時刻t
8で0となる。時刻t
7からt
8までも、上記の表1の走行状態Cに対応し、ゲインGbは-1が出力される。これにより、
図6(e)に示すように、トルク配分変更量ΔTは正の値となり、基準時のトルク配分からトルク配分変更量ΔTだけリヤからフロントへ駆動トルクが配分変更される。
【0066】
したがって、
図6(f)に示すように、時刻t
7の直後から時刻t
8になるまでの間、フロントモータ3fの指示トルクTfがリヤモータ3rの指示トルクTrよりも大きく設定される。言い換えると、リヤモータ3rの回生トルクの方がフロントモータ3fの回生トルクよりも大きく設定され、これにより、後輪2rに与える負の駆動トルク(回生トルク)が前輪2fに与える負の駆動トルク(回生トルク)よりも増大され、回生状態における減速時のピッチング挙動が抑制される。
【0067】
図6(b),(c)及び(d)に示すように、時刻t
9においてブレーキ操作がやや弱められると、これに伴って総要求トルクT
Rの符号は負のままで絶対値が小さくなる(目標回生トルクが減少する)ため、総要求トルクT
Rの微分値は0から増大する。ブレーキ操作が一定の場合、微分値は時刻t
10において総要求トルクT
Rが一定になるまで正の値となり、時刻t
10で0となる。時刻t
9からt
10までは、上記の表1の走行状態Dに対応する。つまり、アクセルオフ且つ総要求トルクT
Rの符号が負のため、ゲインGbは-1が出力され、これにより
図6(e)に示すように、微分値に所定のゲインK,Ga及びGbを乗算した値であるトルク配分変更量ΔTは負の値となる。
【0068】
すなわち、基準時のトルク配分からトルク配分変更量ΔTだけリヤからフロントへ駆動トルクが配分変更される(言い換えると、トルク配分変更量ΔTの絶対値だけフロントからリヤへ駆動トルクが配分変更される)。このため、
図6(f)に示すように、時刻t
9の直後から時刻t
10になるまでの間、フロントモータ3fの指示トルクTfがリヤモータ3rの指示トルクTrよりも小さく設定される。言い換えると、フロントモータ3fの回生トルクの方がリヤモータ3rの回生トルクよりも大きく設定される。これにより、前輪2fに与える負の駆動トルク(回生トルク)が後輪2rに与える負の駆動トルク(回生トルク)よりも増大され、回生中に負の総要求トルクT
Rが減少した場合のピッチング挙動が抑制される。
【0069】
[5.効果]
上述の車両の制御装置では、目標駆動力P
Tに基づいて演算される目標駆動トルクとしての総要求トルクT
Rの微分値に応じて、前輪2fに与える駆動トルクと後輪2rに与える駆動トルクとの配分を変更することで、ピッチング挙動の出始めに合わせて、駆動トルクによる上下力を利用してピッチングを抑制することができる。すなわち、ピッチングが発生していると判定してからピッチングを抑制するのではなく、挙動の出始めるタイミングに合わせてピッチングを抑制することができるため、総要求トルクT
Rを変更することなく乗員の乗り心地を向上させることができる。
【0070】
また、上述の制御装置であれば、変位計や荷重計などのセンサを使ってピッチング状態を検出する必要がないため、装置構成を簡素化することができる。さらに、車両運動やサスペンションジオメトリーに関する厳密な数式を解く必要もないため、制御構成も簡素化することができる。
【0071】
なお、これまでに、車体前後加速度と車速とを用いてピッチング挙動を推定し、前後の駆動トルク配分を変更することでピッチングを抑制するという手法が考えられてきた。具体的には、前後加速度センサの検出値から車速の微分値である車体加速度を減算した値に、前後加速度センサの高さと車体重心高との差分であるモーメント長を乗算することで、ピッチ角加速度を推定する。そして、この推定したピッチ角加速度に応じて駆動トルク配分を変更するという手法である。
【0072】
しかしながら、当該手法の場合、坂道や悪路などの外乱の影響により前後加速度センサや車速センサの検出値に誤差が含まれることがあり、また、積載状態や車種によってはモーメント長を十分に確保することが困難なこともあり、採用するには課題が多くあった。これに対して、上述の制御装置は、目標駆動力P
Tに基づいて演算される総要求トルクT
Rの微分値に応じて駆動トルク配分を変更するため、外乱に強く、計算も簡単に行うことができる。
【0073】
上述の車両の制御装置では、ドライバの運転操作としてアクセルペダル操作及びブレーキペダル操作を検出し、これらに基づいて総要求トルクT
Rを演算するため、ドライブフィーリングをさらに改善することができる。
【0074】
また、上述の車両の制御装置では、アクセルオフ且つ総要求トルクT
Rの符号が正の場合、及び、アクセルオン且つ総要求トルクT
Rの符号が負の場合は、ゲインGbは0が出力されて配分の変更が禁止される。すなわち、目標駆動力P
Tが正の値であってもアクセルオフの場合、及び、目標駆動力P
Tが負の値であってもアクセルオンの場合は、駆動状態と回生状態とが変化する過渡状態であるとして駆動トルク配分の変更が無効化される。これにより、モータ3f,3rが確実に駆動又は回生しているときのみ駆動トルク配分の変更が行われることとなり、駆動トルク配分の過剰な変更を抑制することができる。
【0075】
上述の車両の制御装置では、配分を変更する際の駆動トルクの仮配分変更量DTを、目標駆動力P
Tに基づく総要求トルクT
Rの微分値に所定のゲインKを乗算した値として算出するので、簡単に駆動トルク配分を変更する際の仮配分変更量DTを算出することができる。また、駆動力の仮配分変更量DTは総要求トルクT
Rの微分値に比例した値として算出されるため、目標駆動力P
Tの変化が大きくピッチング挙動が大きくなりやすいほど仮配分変更量DTが大きくことで、ピッチング挙動を効果的に抑制することができる。
【0076】
上述の車両の制御装置では、モータ3f,3rが駆動状態か回生状態かに応じて、駆動トルクの仮配分変更量DTを前輪2f,後輪2rの一方から他方へと配分変更させるため、車両1の走行状態に応じた適切な駆動トルク制御を実施することができる。
【0077】
上述の車両の制御装置では、車両1の旋回性が判定され、車両1の進行方向が変化している場合には駆動トルク配分の変更が禁止されるため、走行安定性を確保することができる。すなわち、車両1の旋回中に前後の駆動トルク配分が変化すると、車両1のヨー方向及び横方向の運動に影響を与え、車両1が安定して旋回することができなくなる虞があるため、大きく旋回していない場合のみ駆動トルク配分を変更することで、走行安定性を確保しながらピッチング挙動を抑制することができる。
【0078】
本実施形態では、車両1の旋回性を判定するために、車速Vと操舵角θsとから推定された推定横加速度Ay
Eの絶対値と横加速度センサ14で直接検出された実横加速度Ay
Dの絶対値のうち大きい方の値を選択横加速度Ayとして選択し、この選択横加速度Ayを、第一所定値Ay
1,第二所定値Ay
2と比較する。これにより、車両旋回の判定を精度よく行うことができる。
【0079】
また、ここでは、選択横加速度Ayが第二所定値Ay
2以上の場合に配分の変更を禁止するため、例えば車両1がドリフト走行しているような場合であっても適切に車両1の旋回性を判定することができる。一方、選択横加速度Ayが第二所定値Ay
2未満の場合は、選択横加速度Ayの増加に応じて仮配分変更量DTが徐々に減少するように設定される。すなわち、ステアリング操作に応じて駆動トルクの仮配分変更量DTが徐々に減少するので、前後輪の急激なトルク変化を抑制することができる。
【0080】
さらに、上記実施形態では、第二所定値Ay
2よりも小さい第一所定値Ay
1を設ける(すなわち、旋回判定のための閾値を二段階で設ける)。そして、選択横加速度Ayが第一所定値Ay
1未満の場合は、ゲインGaが1に設定されて、仮配分変更量DTで配分が変更される不感帯が設定される(トルク配分変更量ΔTの絶対値が仮配分変更量DTと等しくされる)。また、選択横加速度Ayが第二所定値Ay
2以上の場合は、ゲインGaが0に設定されて、配分の変更が禁止される。さらに、選択横加速度Ayが第一所定値Ay
1以上かつ第二所定値Ay
2未満の場合は、ゲインGaが選択横加速度Ayに応じて設定されて、選択横加速度Ayに応じた配分変更量ΔTで配分が変更される。このように、選択横加速度Ayに応じたゲインGaが設定されるようなゲインマップ24cを備えることで、駆動トルク配分の変更を徐々に無効化するように設定されているため、車両1の走行状態に応じた柔軟な制御が可能となる。
【0081】
[6.その他]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
上記実施形態では、演算部21が目標駆動力P
Tから総要求トルクT
Rを演算して、総要求トルクT
Rの微分値に応じて駆動トルク配分を変更しているが、総要求トルクT
Rを演算せずに目標駆動力P
Tの微分値に応じて駆動トルク配分を変更してもよい。
【0082】
また、上述の駆動トルク制御部22の制御手法は一例であって、上述したものに限られない。例えば、上述の駆動トルク配分部23は、演算部21で演算された総要求トルクT
RにゲインKを乗じた値を仮配分変更量DTとして算出しているが、駆動トルク配分部23は仮配分変更量DTとしてトルクを算出する代わりにピッチ角加々速度を算出してもよい。ピッチ角加々速度とは、
図4に示す車体重心Gを中心としたピッチ角θpを三回時間微分した値であってジャークに対応する。そのため、ピッチ角加々速度を抑制するように駆動トルクの配分を変更すれば、ピッチングを抑制することができる。
【0083】
また、旋回判定部24による判定手法も上述したものに限られない。例えば、車速Vと操舵角θsとから推定された推定横加速度Ay
Eのみから旋回性を判定してもよいし、横加速度センサ14で検出された実横加速度Ay
Dのみから旋回性を判定してもよい。前者の場合は横加速度センサ14を省略することができ(装置構成を簡素化でき)、後者の場合は少ない演算で配分の変更を禁止するか否かを判定できる(制御構成を簡素化できる)。
【0084】
あるいは、推定横加速度Ay
Eをメインの判定要素とし、実横加速度Ay
Dを補助的に用いるようにしてもよい。例えば、推定横加速度Ay
Eからは車両1は直進していると判定される場合であっても、実横加速度Ay
Dが外乱影響による誤差とは考えられないような大きな値であるような場合には、ドリフト走行している可能性が高いとして、車両1は旋回していると判定してもよい。また、二つの横加速度Ay
E,Ay
Dの平均値から旋回性を判定してもよいし、絶対値をとらずに二つの横加速度Ay
E,Ay
Dがある範囲内にある場合にのみ直進していると判定し、範囲外であれば旋回していると判定してもよい。また、旋回判定部24による最も簡易的な判定手法として、操舵角θsから直接車両1の旋回を判定してもよい。また、上記実施形態のように、ゲインGaを設定するために所定値を二段階で設定しなくてもよく、例えば、上記の第二所定値Ay
2のみが設定されたマップを用いて、ゲインGaを0か1に設定してもよい。
【0085】
また、駆動回生判定部25による判定手法も上述したものに限られず、アクセル操作の有無及び総要求トルクT
Rの符号の何れか一方によって駆動状態か回生状態かを判定してもよい。あるいは、アクセルオンの状態からアクセル開度APが減少し、その減少率(アクセル開度加速度)が所定値以下の場合に駆動から回生へ変化したと判定してもよいし、総要求トルクT
Rの減少率が所定値以下に回生に変化したと判定してもよい。なお、上記実施形態では、アクセルオフ且つ総要求トルクT
Rの符号が正の場合と、アクセルオン且つ総要求トルクT
Rの符号が負の場合は、ゲインGbが0となり配分の変更が禁止されたが、例えばアクセル操作のみから駆動か回生かを判定するような場合にはゲインGbは1か-1を出力するように構成すればよい。
【0086】
また、上記実施形態では、駆動トルク配分部23において仮配分変更量DTを演算し、トルク指令部26において仮配分変更量DTにゲインGa,Gbを乗算した値を最終的なトルク配分変更量ΔTとして演算しているが、仮配分変更量DTをそのまま、配分を変更する際の駆動トルクの配分変更量としてもよい。すなわちゲインGa,Gbを省略してもよい。駆動トルク制御部22は、少なくとも目標駆動トルクとしての総要求トルクT
Rの微分値に応じて、トルク配分の変更を行うものであればよい。
【0087】
上記実施形態では、表1に示す四つの走行状態A〜Dの全ての場合において駆動トルク配分を変更しているが、四つの走行状態A〜Dの全ての場合において駆動トルク配分を変更しなくてもよい。例えば、微分値が大きくなりやすい走行状態A及びCの場合に駆動トルク配分を変更してもよいし、モータ3f,3rの駆動時のみ駆動トルク配分の変更を行う(モータ3f,3rの回生時には駆動トルクの配分の変更を禁止する)ようにしてもよい。
【0088】
また、車両1のスリップ状態を検出するスリップ検出部を備え、スリップ状態を検出した場合には駆動トルク配分の変更を禁止するようにしてもよい。
なお、車両1は上記のものに限られず、前輪2f及び後輪2rを独立して駆動可能な少なくとも二つの駆動源を備えた車両であればよい。例えば四輪全てにモータが内蔵されたインホイールモータ式の電気自動車であってもよいし、二つのフロントモータ3fと一つのリヤモータ3rとを備えた電気自動車であってもよい。また、前輪2f及び後輪2rの一方をエンジンで駆動し他方をモータで駆動するハイブリッド車であってもよい。